ハッピーメーカー (ハッピーメーカーとは、直訳でしあわせづくり、つまり幸せを作ることである。) ー暗い部屋の中に、2つの影。片方の影が口を開く。 「なあ、俺は思うんだが」 ーもう片方の影も口を開く。 「なんだい?君にしては珍しいな。いかにも『亭主関白』タイプな君がそんな不安げにものを言うなんてさ」 「・・・うっせえ、誰が亭主関白だ。まあ、それはおいといて、」 「なんなんだい?」 「誰かが幸せになるとさ、必ず不幸せになる奴も出てくるんじゃないかな」 「・・・・・・・・」 「ほら、こういう業界に生きてっとわかんだろ、お前も。毎回さ、誰かを幸せにするために誰かを不幸せにしてんじゃん」 「・・・・・・・」 「さて、俺はそろそろ出勤の時間だ。留守番たのんだぜ」 「・・・・・なあ、」 「・・・・あん?」 「・・・・・・この仕事やってる僕たちがいちばん不幸せなのかもしれない、って言いたかったんじゃないのかい?」 「・・・・・ふん、長い間一緒にいたからって俺の気持ちを読み取ろうなんざ100年早いぜ。それじゃ行ってくる」 「がんばってね・・・・今日はポケトレを作っている会社の副社長さんからの依頼だっけ?」 「ああ、『社長が交通事故にあう』ような」 「『のろい』をかけてくれ、ってな。」 「がんばってね、ゲンガーさん」 「それじゃ、行ってくるか。ジュペッタ、留守番な」 ーバタン。 ードアが閉まり、残った方の影が口を開く。 ー後に聞き取れない声がした。 ー翌日、各テレビ局ではこんなニュースが流れた。 「ポケトレを作っている大手産業の社長が交通事故で意識不明の重体、なお自動的に現副社長が社長に就任すると会社側から連絡が・・・」 ーそして、暗い部屋。 ー今はもう影が1つしかない。その影が口を開く。 「ごめんね、ゲンガーさん。僕はいつもゲンガーさんの言いなりになるのが嫌だったんだ」 ー誰かが幸せになるためには誰かが不幸せになるしかない。 ーそれは仕方がないことなのかもしれない。 ーそう、仕方がないんだ。 ー生きるためには、そうしなければいけない。 ー上に立つためには、誰かを不幸せにしなければいけない。 「のろい、のろい、ゲンガーさんが二度と帰ってきませんように」 ー通りかかった旅人がゲンガーの死体を見つけるのは、その日の夜のことであった。