「・・・何というか・・・まあ・・・久しぶりと言うべきなのかそうでないのか・・・」 とても小さい、駅員さん1人しかいない木製の駅を出て僕は思わず呟いた。 「しっかし・・・全然変わらないんだなあ・・・」 〜なつやすみの雪〜 とってもまぶしく照りつけてきやがる太陽。ひっきりなしに聞こえてくるテッカニンの大合唱。その辺で日光浴をしているキマワリの群れ。飛び交うアゲハントやスピアー・・・ 何の変哲もない、田舎の夏休み。いつも車とビルしかない都会では見ることのできない。 ここは「影守村」。僕は小学校六年生の夏休みが終わるまでこの村に住んでいた。ま、父親の「ご栄転」というやつで都会に転勤したのだ。 と、いうことは、ひいふう・・・五年ぶりのはずである。 「でも、全く変わらないんだなあ。というか僕がいたころより過疎化進んでない?」 変わったのは自分なのか、とか思いながら僕は旅行鞄を手にとり、宿を目指す。ペンキの剥げた郵便ポスト、何年経ってんのか不明な飲み物の入った自動販売機、剥がれかけた貼り紙のついた電柱。 この村は、よく覚えてないけど不思議な言い伝えがあるとかで、ガイドブックなどでお馴染みのそこそこ有名な村である。だったらもうちょい開発すりゃあいいのに・・・ま、このいかにもな田舎感がいいんだけど。 さて、僕が何のためにこの村にやってきたのか説明しなくてはならない。僕の通う高校は主に「ポケモンの研究をよりスムーズに進めるため」の勉強をしているのである。「ポケモンのタイプとその生態、生息地のかかわりについての自主調査」。そのためかどうなのか、まあ多分そのためなんだろうけど、こんな課題がでた。 まったく、夏休みなんだから休ませろー、なんて叫びたくなるのだが、そんなことしたら留年する確立がいたずらにあがるだけである。 と、いうわけで。 「この村でポケモン研究in夏休み、一週間の郊外学習!!さあ行きますか!!」 歩きながら駅前、というか駅と連なる商店街に目をむける。半分閉まったシャッターの時計屋、人影のない八百屋、かんっぜんに日焼けした本を置く本屋。 ふと駅の時計に目を向けた。 針は無かった。 仕方が無いので自分のポケッチに目を向ける。午後一時十分前。ふむ。 はじめからこうすりゃ良かったと思いながら。 「あっら〜!!ソウちゃん大きくなって!!」 宿のおかみさんの第一声がこれである。小さいころは僕もお世話になったものだ。 「ははは、お久しぶりです」 「向こうの暮らしにはもう慣れた?七日間?もうちょっと長くいればいいのに!!でも課題だししかたないのか〜。私が子供の頃はそんな忙しくなかったのにね〜」 一番忙しいのはあなたの口ではないでしょうか、と心で呟きながら、僕は言った。 「僕の部屋はどこですか?」 「えっとね、二階の一番右の部屋。眺めがいいわよ、運がよければムウマージが見れるかも。研究に使うといいわよ。でもラッキーね、ゴーストポケモンの担当になれて。だってこの村ゴーストポケモンが配り歩くほどいるじゃない、昼間にカゲボウズが遊んでるのが見れるなんて世界中さがしてもここだけよ〜。」 「そうですね。ありがとうございます、ではこのあたりで」 「入浴は七時から、夕食は八時よ、じゃ、がんばって」 会話を終え、僕は部屋に向かった。木製の階段からは何ともいえない匂いが漂い、風情をかもしだしている。 部屋の窓からは海が見える。ついでに隣の民家の家の屋根で昼寝しているニャースにちょっかいを出すヤミラミも。 荷物を軽く整理して、探索のため外に出た。 「すいませーん」 僕が来たのは雑貨屋だ。まあ都会でいうフレンドリィショップである。 「このモンスターボール一つください」 はい、二百円ね、という店主からモンスターボールを受け取り店を出る。研究中にいいポケモンが見つかったら捕まえようと思ったのだ。 さて、特にやることがない。と言いたいところだが、さっきから鳴りっぱなしの腹の虫を放っておくわけにもいかず、僕は神社を目指した。 腹の虫はキャタピーとビードル、はたまたケムッソかと考えながら。 何故神社かと言うと、だれもいないので昼食を食べるのにはもってこいだからである。リュックから潰れかけたハムパンとサンドイッチを取り出して、口に入れる。 緑に茂った葉の間から、木漏れ日となって光が降り注ぐ。綺麗で、美しくて、少し奇妙だ。まるでゴーストポケモンのような。 そういえばここは、ゴーストポケモンの神様を祭ってるとかいうんだよな。この村の守り神、確か・・・「ハンコツさま」だっけか? 「ん?」 僕は何かの気配を感じて辺りを見回した。ポケモンではない、人間のような気配。 「・・・え?」 間抜けな声が口から漏れる。さっきまで誰もいなかったはずの木の後ろに。 女の子がいた。 女の子は青い袖をもつ白いワンピースを着て、おろした髪に二つの水色の透き通った髪飾りをつけている。腹部にまいた赤いリボンがかわいらしい。 「えっと・・・・」 女の子は、僕の目線に気がついたのか困ったような顔をしてこちらをうかがっている。 「えっと・・・どうしたの・・・かな・・・?」 とりあえず尋ねてみた。すると女の子は僕に近づき、 「・・・人探し」 と、答えた。 「人探し、か。」 「うん」 「君一人だけで?」 僕の推測では、どう見てもこの子は五、六歳だ。いくら昼とはいえこんなに小さいこを一人で行動させるのは危険すぎる。 「うん」 「おうちの人は?」 「いいって」 「そうか」 「うん」 なんか某小説の一般人と情報統合・・・何だっけ・・・の会話っぽくなってきた。というわけで話題を変える。 「僕さ、今この村にポケモンの研究に来てるんだ。だから、その」 「・・・」 「君の人探し、研究をしながら手伝ってあげられるけ「ほんと!?」・・・」 いきなり女の子がにっこり笑ってこう言った、というか叫んだ。 「じゃあ、お願いして・・・いい?」 「ああ、いいとも。」 「ありがとう、ソウ・・・お兄ちゃん!!」 お兄ちゃんかあ、その言葉の響きのよさにしばし悦に入って、僕はこう言った。 「いつまでもお兄ちゃんじゃなんだしさ、名前を教えるよ。僕は爽太。爽太って呼んでよ。」 「じゃあ爽太くん。私は雪奈、っていうの。雪奈、って呼んで」 「じゃあ雪奈ちゃん。雪奈ちゃんは誰を探してるの?その人の名前とか特徴とかしらない?」 「・・・名前は確か、『スノウ』だったような・・・」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 当たり前だが。そんな名前の奴に覚えはない。というかスノウなんてあきらかにHNじゃん!! 「うーんと・・・他に心当たりは?」 「えっと・・・紫がかった髪にTシャツ短パン。そしてこのお腹のリボンをくれたの。あ、あと雪が好きなの!」 紫がかった髪なら僕もそうだが、他の手がかりはあてにならない。雪に関しては・・・まあ、夏嫌いの僕も雪好きですが。 「ま、いいか。じゃ、探しにいこうか?」 「うん!」 会話を終えた僕たちは、聳え立つ赤い鳥居をくぐり神社を後にした。 「ねえ、爽太くんはポケモン持ってるの?」 「うん、ポワワ!」 腰のボールを投げて、球体からポワルンを出す。 「うわー!!ポワルンだ!!」 ユキナちゃんはポワワに飛びつき、きゃらきゃらと笑っている。(当のポワワはぼーっとしている) 「・・・私、ポケモン抱きしめるの初めてなんだよなあ・・・こんな感じだったんだ・・・」 「え?初めて?」 普通、このくらいの子なら親のポケモンを触ったことがあるだろう。野放しにしてるけど実は厳しいご家庭なのか!? 「・・・ううん、違う!だってほら、ええと、この辺ってゴーストポケモンしかいないから、ほら、抱きしめられないじゃん!!」 何故かあわてた様子で雪奈ちゃんが答えた。なるほど、そういうことか。 ・・・この日、僕がしたことといえば神社で昼食を食べ、女の子に出会い、ポケモンを見せて、そのあとに人探しをしながら僕の研究をして(カゲボウズが喧嘩しているのを写真にとり)、雑談を繰り広げただけであった。 雑談の一部にこんな話があった。 「ねえ、、雪奈ちゃんはなんでスノウくんを探してるの?」 「・・・約束」 「へ?」 「お別れするときにね、約束したの。『今度会えたときは雪を見せてあげるね』、って」 「雪、か・・・」 「スノウくんは雪が大好きだったの。夏休みにね、『雪が見たい』って言ってた。だから」 「・・・・・・」 返す言葉が思いつかない。どうやって雪を見せるんだとかそういう疑問をごみに捨て、話題を変える。 「どうして雪奈ちゃんは雪奈って名前なの?」 「・・・私の名前をつけてくれた人がね、雪がすきだから、って。」 「・・・・・それだけの理由で?」 「うん」 こんなことを聞くのはどうかと今になって思えばまさしくそうであるが、 「・・・もしかしてそれつけたのって・・・、スノウ・・・くん?」 「あたり」 雪奈ちゃんはにっこりと笑って頷いた。 「・・・・・・・・・・・・」 いや、そりゃないでしょ、見ず知らずのしかもHNの子のつけた名前を自分の本名にするなんて!! まあ、雪奈ちゃんがいいならそれでいいんだけど・・・ 回想を終えるころには、夕食も終えていた。まだ寝るには早いのでテレビをつける。テレビの中でポケモン同士を戦わせる人々、大空とピジョンを記録するカメラ、ルギアとホウオウとグラエナのでてくるアニメ・・・ とりたてて面白いものはやっていない。 明日も早いし、雪奈ちゃんとの約束もあるので電気を消すことにした。 「おはよう、雪奈ちゃん」 「おはよう!!」 「今日は南方に行ってみようか」 「南方」にたどり着くと、草むらがある。ゴーストが木の実をゴースに食べさせていたり。 「えっと・・・草むらにゴースとゴースト・・・モモンの実、と・・・」 「ゴーストポケモンの研究なの?」 「うん、学校の課題でね。この村にはゴーストポケモンがいっぱいいるし・・・」 「爽太くん、もしかしてこの村出身?」 「よくわかったね!父さんの転勤でさ、小六の夏まで住んでたんだ」 「スノウくん・・・」 「え?」 「えっと、スノウくんと同じ匂いがするなあ、って・・・」 「あ、そういうことか」 その後も僕らは作業を続ける。が、僕の研究が進んだのとは対照的にスノウくんは見つからない。 「いないねえ、スノウくん」 「うん・・・・」 「まあ・・・雪奈ちゃんが今まで探してきたのに僕が加わっただけですぐ見つかるなんてないか」 その時。 僕と雪奈ちゃんのお腹が、音を立てた。 「あははっ」 ひとしきり笑って、近くの蕎麦屋に行くことにした。 「ここは天麩羅蕎麦がおいしいんだよ」 「うーん・・・でも・・・普通の笊蕎麦がいいな」 「え?なんで?」 「えっと・・・熱いもの苦手なの」 「猫舌か。えっと、じゃあ天麩羅蕎麦と笊蕎麦一つずつ!!」 ほどなくして運ばれてきた笊蕎麦を、雪奈ちゃんは本当に嬉しそうに食べていた。 なんか途中で『これが人間の』とか、『お箸ってこんな感じなんだ』とか不可解な言葉を発していたが、気にしないことにした。小さいころはよくあることだろう、僕も幼少期によくあったみたいだし。 と、いうわけで二日目も過ぎた。 翌日。あいにくの雨だった。 でも雪奈ちゃんなら雨の日も来るというやみくもな自信があったため、荷物から折畳み傘を取り出し待ち合わせた神社に向かう。 いた。 境内で、傘を持たずにすわっている雪奈ちゃんが。 「傘は?」 思わず僕は尋ねた。 「ないの」 「・・・・・・」 「持ってないから」 「・・・・・・」 「今日はどこに行く?」 「・・・・・・・ああ、えっと」 我に返り、停止状態だった脳を回転させる。 「今日は雨だから・・・・えっと・・・こんな日はスノウくんもいなそうだし・・・」 「じゃあ、行きたい所があるの」 「え?」 雪奈ちゃんの「行きたい所」とは、図書館だった。雪奈ちゃんを一人にするわけにもいかず、僕は児童書のところでうろうろしていた。 ふとその辺りの本を何冊か手にとる。「れいかいのぬの」「捨てられた心」「なぞのばしょ で おきたこと」 中を読み、無言で棚に戻す。教育に悪い。 しばらくして、雪奈ちゃんが一冊の本を抱え戻ってきた。『影守村の守り神、ハンコツさまとその伝説』 どう考えても児童書にはなさそうだが、スルーの方向だ。 「私、このお話の中の神話、好きなんだ」 「へえ、どんなお話なの?」 「昔々、一人の少年と一匹のポケモンがいました」 「少年とポケモンは出会い、楽しく過ごしました。」 「しかし、少年は近いうちに遠くにいくことになってしまいました」 少年と別れなければならないと知ったポケモンは、たいへん悲しみました。でも、少年はいいました。 「絶対また会える。だから、次に会う時は、君のことを捕まえにいく。だから、君は僕を待っていて」 ポケモンはその言葉を信じ、待ち続けました。ですけど、なかなか少年はもどってきませんでした。 そして、ポケモンはもう生きる力をなくしてしまいました。 少年との約束を果たせない、その悲しみはいかなるものか、その感情を察知したハンコツ様はポケモンを呼んでこういいました。 「お前を別の姿に変え、幽霊としてもう一度地上に戻そう。ただし期間は少年にあってから一週間。その間に少年がお前のことを思い出さず、捕まえてもらえなければ、お前は二度と地上に戻れない」 「・・・・・・で?」 「この後は、わかっていないんだって」 「そっか・・・・」 なんとも中途半端な神話である。神話だから仕方がないのか。 そんな感じで、三日間も過ぎた。 そして、僕がこの村にいる最後の日―― 「ごめんね、スノウくんみつけられなくて」 「ううん、爽太くんのせいじゃないの。私、爽太くんに会えて嬉しかったよ」 「僕も雪奈ちゃんと会えて嬉しかった」 「私、スノウくんの次に爽太くんのことが好き」 「ははは・・・」 「あのね、それで考えたんだけど、爽太くん、今日で都会に戻っちゃうでしょ?だからね、いい所に連れてってあげる」 雪奈ちゃんの言うままに道を進んでいくと、いつもの神社にたどり着いた。でも、今日は少し違う。お社の後ろの森を抜けて、たどり着いたのは・・・ 「泉・・・・?」 大きな泉だった。 看板がたっていた。 「かくれいずみ」、と。 その時、ふいに視界が暗くなった。 ・・・・・・・・ 夏休み。 ある空き地のようである。一匹のポケモンが倒れていた。 通りがかった一人の少年が、慌てて駆け寄り、抱き上げた。 少年はどこか涼しいところに・・・と思い、村の神社に行った。 応急処置を終えて、少年は鞄から一冊の本をとりだした。 「・・・ユキワラシ」 倒れていたポケモンはユキワラシだった。 こんな暑い村に氷タイプの野生のポケモンはいるはずがない。 トレーナーがいないところを見ると、捨てられたであろうことが予想された。 少年はユキワラシをかわいそうに思い、世話をしてあげることにした。 元気になったユキワラシと、少年は毎日一緒に遊んでいた。 神社は涼しく、ユキワラシも生活できた。 でも。 少年の引越しが決まってしまった。 少年は泣いて抵抗した。でも無駄だった。 次の日、少年はユキワラシにそのことを話した。 そして、その後に、ユキワラシに赤いリボンをむすびながらこう言った。 「絶対また会える。だから、次に会う時は、君のことを捕まえにいく。だから、君は僕を待っていて」 「そして、その時は、僕の大好きな、雪を見せて」 「そうだ、君が僕の未来のポケモンだってわかるように、名前をつけてあげる!!」 「僕の大好きな雪と・・・君は女の子だから・・・『雪奈』でいい?」 「忘れないでね。僕の名前は・・・」 「スノウ」 ・・・・・・・・・・・ 何で忘れていたんだ!! 何ですぐに思い出さなかったんだ!! スノウが僕の子供のころのあだなだったことも 夏休みにユキワラシとであったことも その子と毎日遊んだことも つけてあげた赤いリボンのことも その子につけた名前の「雪奈」のことでさえ― 泉の岸に立つ僕の前に、一匹のユキメノコ、違う、 雪奈が立っていた。 「ありがとう、思い出してくれて」 君がお礼をいう理由なんてない。 ごめん。 ごめん。 忘れていて。 「あの後にね、私は死んじゃったんだ」 ああそうだとも、そんなこと知っている。 「それで、『雪を見せる』って約束を守れなくなっちゃって」 そんなことはもういい。君がいてくれさえいれば雪なんかどうでもいいんだ。 「悲しんでいた私をみて、ハンコツさま―ギラティナは私に一つの石をくれた」 「それが『めざめいし』」 「私の姿は変わった。『ユキメノコ』になったの」 「この赤い帯・・・ううん、リボンは爽太くんがくれたの」 知っている。そのリボンを巻いたのは僕だ。お別れのプレゼントだ、って。 「そして、スノウくんがこの村に戻ってくるのを待っていた」 「ありがとう、戻ってきてくれて」 僕もありがとう、って言いたかった。 待っててくれてありがとう、って。 頬を温かいものが伝っていく。 声が出せない。 「じゃあ、約束の」 僕と雪奈の上から白い光が落ちてくる。 雪だ。 雪なんだ。 夏の、雪。 夏休みの、雪だ。 「本当はもっと爽太くんと遊びたかった」 そうだ、もっと遊ぼう。色んなところに行こう。色んなポケモンを見よう。 「本当はお別れなんてしたくなかった」 僕だってしたくない。しなきゃいいじゃないか。 「でも・・・もう時間なんだ」 そう言う雪奈の下半身はもう粒子になっている。 「私のこと、忘れないで」 忘れない、忘れないよ。 「思い出してくれて、嬉しかった」 僕も、待っていてくれて、嬉しかったよ。 「じゃあ・・・」 行くな。行かないでくれ、雪奈。 「さようなら・・・・!!!」 雪奈、雪奈!! 僕は無我夢中で、雪奈を抱きしめた。 ガタンゴトン、ガタンゴトン。 気がついたら、帰りの電車だった。 流れていく景色を、ぼんやりと見つめる。 ふと、ポケットに手をあてた。 初日に買った、モンスターボール。 時計を見る。 二十三時十五分。 まだ、四十五分ある。 僕は開いたドアから飛び出した。 今度は、僕が約束を果たす番だ。 雪奈を捕まえる、という、その約束を。 待っていてよ、雪奈。 神社を目指して、僕は走り続けた。 ・・・・・・ 「すごい!!あなた強いわね!!ポケモンとのコンビも抜群!!」 エリートトレーナーが挑戦者に驚いている。 「スノウくん・・・だっけ。あなたとそのユキメノコ、強い信頼関係が築かれてるわ!!これからもがんばって!!」 「ありがとうございます」 挑戦者の青年は、ユキメノコにこう言った。 「雪奈、いつかの神話の続きがわかったよ」 「昔々、一人の少年と一匹のポケモンがいました」 「少年とポケモンは出会い、楽しく過ごしました。」 「しかし、少年は近いうちに遠くにいくことになってしまいました」 少年と別れなければならないと知ったポケモンは、たいへん悲しみました。でも、少年はいいました。 「絶対また会える。だから、次に会う時は、君のことを捕まえにいく。だから、君は僕を待っていて」 ポケモンはその言葉を信じ、待ち続けました。ですけど、なかなか少年はもどってきませんでした。 そして、ポケモンはもう生きる力をなくしてしまいました。 少年との約束を果たせない、その悲しみはいかなるものか、その感情を察知したハンコツ様はポケモンを呼んでこういいました。 「お前を別の姿に変え、幽霊としてもう一度地上に戻そう。ただし期間は少年にあってから一週間。その間に少年がお前のことを思い出さず、捕まえてもらえなければ、お前は二度と地上に戻れない」 そして、ポケモンは成長した少年と出会いました。 少年は多少時間がかかったものの無事にポケモンのことを思い出し、約束を果たしました。 そして、少年とポケモンはいつまでも幸せに暮らしました。 「・・・でしょ?」 雪奈、と呼ばれたユキメノコはにっこり笑った。 ユキメノコの腹部の赤いリボンを、風が優しく揺らした― END