変なことばっかりやってて  探偵なんて名ばかりな 私たちの探偵社  貴方だったら こんな変な探偵社に入りたいと思いますか?        ――私たちの協奏曲(前)   夏休みが始まって一週間。家に変な広告がきていた。  薄いピンクの上に、丸文字体の、明らかに手書きと判るモノをコピーしただけのモノ。  明らかに異常だった。勿論、内容もである。   -アルバイト募集中─―─────―-  │急募 死にたい人のアルバイト  │  │日給 20,000円。年齢問わず。  │  │能力給有り。その他相談にて決定 │  │次の番号までお電話下さい。   │  │    090-####-****      │  │        死神探偵社   │   -───────────────―- 「……何コレ。」  暫く見つめていた後、私は呟いた。  私はクシャクシャと丸めるとそのままゴミ箱直行にしようとして、腕を持ち上げた。  そして放り投げようとして、途中でやめた。 「……っていうか日給、超イイじゃん!……前のバイトは止めちゃったし、やってみようかなぁ ……。」  それに私なら、これの言う「死にたい人」っていう条件にも合うしね……。  心の中で呟いて、私はいつも常備しているメタルシルバー色の、最新式で折り畳みの携帯電話 を取り出す。  そしてそれを開くと、広告を見ながら数字を押した。 (090-####-****、ね。……誰が出るんだろう?) 『お電話ありがとうございます。死神探偵社のお電話担当の萩原(ハギワラ)です。』  意外にも、携帯に出たのは声からすると若い男のようだった。 「あ、広告を見たんですが。」 『?……あぁ、もしかして死にたい人のアルバイト募集中っていう広告ですか??』 「はい。」  萩原は苦笑するような声音で成る程、と言った。そしてしみじみという感じのの声で「けど」 と続ける。 『あんなアホみたいな広告見て、良くバイトする気になりましたねぇ……。』  呆然とした。それなら貴方は何なんだと言い返しそうになったが何とか堪える。 「……。バイトしたいんですけど」 『……本気ですか?うちは脱隊不可ですから、後で止めたなんて言い出しても知りませんよ?』  隊って何なんだよ……と思ったが、気にしないことにした。もう何があっても驚かないように しようと心に決めておく。 「はい。」 『解かりました。では、何日が……』  そうやって着々と日時場所を決めていく萩原。意外にあっけなく電話は終わった。  日時は明日の13:30。場所は美味しいチーズケーキで有名な某ホテル。  なんでも、某豪華ホテルの一室を裏金で買い取り、事務所にしているらしい。……なんて奴等 だ。    ***  次の日、私が指定された時間に指定されたホテルへ行くと、にこやかにホテルの従業員が出迎 えた。  豪華ホテルと自称するだけあって、ホテルは立派なものだった。  外観は、同じ通りに並ぶ建物の雰囲気を壊さぬように質素なものとなっているが、内観は唖然 するような凄さだ。  言葉で言い表せない程の豪華さ。金を掛けまくっているようだが、ごてごてしさを感じさせず 反対に優雅さを感じさせるような雰囲気。設計した者のセンスが良かったことが伺われる。  ひとまず、ホテルの事は置いておいて。私はその女性――先程の従業員に目的の部屋番号を伝 えた。 「失礼ですがお客さま、444号室は当ホテルには存在しておりませんが……。」  怪訝な顔と共に返ってきたのは、この答えだった。  私は騙されたか、と思い仕方なしにホテルのロビーにおいてあるソファに座った。何もせずに 帰る気がしなかったのだ。  私にも一般常識はある。ホテルに不吉な番号の付いた号室は無いということも勿論。  だが、信じてみたかったのだ。変な広告を出した彼等を……。  ため息をついて、チーズケーキでも買って帰るかと思っていると声がかかった。 「ねぇ、お姉さん!」  見上げると一人の少年がいた。白いシャツに紺ジーンズ、今時の茶色い髪に、黒い瞳の少年は 私と瞳が合うとニコニコと手を振った。 「もしかして444号室に用有りな人??」  驚いて見上げた私をやっぱり、と言う風に見る少年。 「じゃあ案内してあげるよ。ついてきて」  彼は私の手を引っ張り、エレベーターに乗り込んだ。Rというボタンを押すと、彼は私の手を やっと離した。 「ゴメン、びっくりしたっしょ??……オレは死神探偵社の若菜 日立。ヒダチって呼んで。」  ようやく私にも納得できた。  やっぱり死神探偵社には変な人が多いみたいだな。  そう思いながら私もとりあえず自己紹介。 「私は杉原 湊。ミナトって呼んで。」  エレベーターは話しているうちに屋上に着いた。  屋上に出ると、ヒダチはエレベーターの裏手へ回りこんだ。  そこには関係者以外立ち入り禁止とかかれたプレートが道をふさいでいるドアがあった。  ヒダチはそれを全く気にせず、それを乗り越えるとこっちこっちと合図した。  私はズボンだったのでその点は全く気にせず、少し躊躇っただけで直ぐ飛び越えてヒダチを追 いかけた。  一番最初の角を右に曲がって、真っ直ぐ行く。そしたらカードキーを入れるようなドアにぶち 当たった。  ヒダチはごそごそと財布から一枚のカードを取り出し、そこに入れる。  カードを入れたままドアを引くと、先に私を入れてからカードを取ってドアを閉めた。  私の前に広がっていたのは普通の部屋だった。  部屋の中心に、何かの書類を呼んでいる青年がいた。私たちが入ってきたことに気付いて、顔 を上げた。顔はまあまあ……というか、かなり良い方。男にしてはちょっと長めな黒髪(しかも ストレートだ。くせっ毛な私にとってはかなり羨ましい)に、黒い瞳だった。 「あ、アルバイト挑戦の子ですね?」  私に声が掛かったみたいだった。私はこの声を知っていた。電話担当の萩原だ。 「……はい。萩原さんですか?」 「そうですよ。……ヒダチくんが連れてきてくれたんですね。有難う」 「駄目だよ、サクトさん。女の人を案内しないなんて!」 「あれ?……あ、そうか。彼女は道を知らなかったんですよねー。……そうだった。」  呟くように言った荻原。どうやら下の名前はサクトというらしい。……どうもこういう人間は いけ好かない。心の中では呼び捨てにしてやろう。サクトサクトサクト。ざまーみろ!……ちょ っと虚しいが……。  突然トゥルルルル……、と電話がなった。  サクトは、私たちにちょっと待ってて下さいねというと、電話を取る。 「もしもし。死神探偵社の電話担当萩原ですが。」  サクトは、一言二言話すと電話を直ぐ切ってしまった。 「サクトさん、もしかして依頼??」 「えぇ。けど私も社長もやらなくてはいけない仕事が沢山ありますし……。」  困ったように話していたサクトは、そうだ!と言うように私を見た。  なにか嫌な予感がする。……余談だが私の予感はよく当たる。 「杉原さん、突然で悪いですがお願いします。ヒダチくんもつけてあげますから。」  ……は? 私は、暫し呆然としてしまった。 「じゃあ、今から貴方はミナトとだけ名乗って下さい。名字は名乗らなくて良いです。あっちで は、そんな習慣はありませんから」  呆然としている私を全く気にせず、サクトは着々と話をすすめる。 「じゃあ私のことはサクトと呼んでください。」  そしてサクトは引出しから赤と白の二色のコントラストで作られた小さな球状のモノを4つと ヒダチも持っていたカードを私に渡した。  私は、直ぐそのカードを財布にしまう。 「詳しい事はあっちでヒダチくんに聞いてくださいね。」  サクトはヒダチと私を一つのドアの前に連れていった。そのドアを開けると中は暗闇に包まれ ていた。 「じゃあ、また。」  私は、サクトに突き飛ばされた。そして、ドアの暗闇に包まれてしまった。  包み込むモノ全てを地獄へと連れていってしまいそうな闇。どこかで鎌を持った死神が、私を 手招きしているような錯覚に陥った。  そして、私の頭はブラックアウトした。    ***  目を覚ますと、私は一人だった。もう夕方らしくて、真っ赤な夕焼けがある。  どこだろ、ココと思って辺りを見ようとしたら真横に何かいる事に気付いた。  オレンジ色の巨体にドラゴンみたいな翼があって、炎が燃えてる尻尾があって、視線がキツク って口がデカイ……大きな生き物。  な、なんなんだぁぁぁぁぁ!!!この生き物はぁぁぁぁっ!!!  私は心の中で絶叫した。