奇天烈な事ばっかり起きて  変な人ばっかり揃ってる 私たちの探偵社  貴方だったら こんな変な探偵社に馴染めますか?        ――私たちの協奏曲(中)  オレンジ色のその不思議な生き物は、何もせずに私の真横にいた。  私が呆然としていると、突然近くの草むらからガサゴソという音がした。  現れたのは黒みがかった紫色の巨体を持っていて額にソレと同じ色の鋭そうな角を持ち、長い 尻尾を持つ明らかに凶暴そうな鋭い目つきの生き物。  ソレは私を見ると、グウォォォォォ!!!!と大きく吼えた。  その大きな声によって空気がビリビリと振動する。  化け物かぁ。……って何で私、こんなに冷静なんだろう。……そっか、元々死ぬ気だったから もう何でも良いとか思っちゃってるのかな。  けど、ここ何処なんだろう。知らない生き物ばっかで知らない景色。……恐いかもしれない。  ……何で恐いんだろう。死にたいって思ってるのに……。  私がそんなを矛盾した考えを抱いていると、横にいたオレンジ色の不思議な生き物が前に進み 出た。  そして私を庇うように前に立つと、そのオレンジ色の翼を広げた。  「彼」(もしかして彼女?というより性別あるのかな)は、あの紫の生き物と違って吼えるよ うなことをしなかったけど、あれより威圧感みたいなモノを感じた。  私は、立ち上がると「彼」の後ろに隠れた。  「彼」は私に危害を加えない。安心しても大丈夫だ。死にたいはずだったのに、こんな事考え ている自分がおかしい。  紫の生き物は顔に似合わない素早さで、「彼」に襲いかかった。  爪が伸び、「彼」を切り裂こうとした。  だが「彼」はそれを片手で簡単に押さえると、もう一つの手で思いっきり殴った。  紫の生き物は少し反動で後退したが、また襲いかかった。  「彼」はその攻撃を受け流すと、紫のソレを軽々と腕で羽交い締めにした。  羽交い締めにしたまま、その翼で空へと飛んだ。  バサと力強い音が数回聞こえる。  高いところから、「彼」はそれを大地に叩き付けた。  大きな音、そして微かな地面の震えと共にそれは叩き付けられた。  数秒後にそれはよろよろと立ち上がろうとしたが、また倒れてしまった。  「彼」は得意げに、地面に降り立った。そして私に向かって、その大きな口を微かに歪めてみ せた。  笑ったのだろう。  私は「彼」が助けてくれたことと、「彼」が見た目通りに恐い生き物ではないと判りほっとし た。そして、「彼」に向かって笑いかけた。  ガサガサという音が、また近くの茂みでした。  私と「彼」は、そちらに向かって身構えた。  現れたのは、一つの人影。白いシャツに紺ジーンズ、今時の茶色い髪に、黒い瞳……。ヒダチ だった。 「ミナトさん、起きたの?」 「ヒダチ!……ここは何処?「彼」は誰?あれは何?どうやってここに来たの?!」  マシンガンのように彼に質問を投げかける私。ヒダチは困ったように呟いた。 「あぁ、そっか。ミナトさんは初めてなんだよねー。……説明面倒くさいなぁ……。」  最後にぼそっと呟いた言葉は勿論私に聞こえていた。……やっぱりヒダチもサクトと同類なの か……。少し胃が痛くなった気がした。 「まずは最初。ここはオレ達のいた地球ではない“地球”のマサラタウンと呼ばれる土地の近く にある、秘密の隠れ里。そして彼はリザードンというここに住む不思議な生き物・ポケットモン スターの中の一種に当たる一匹。それで……「あれ」って何?」  順に質問に答えていくヒダチ。私が判ったことは、ここは私たちの住んでいる世界じゃない事 と、「彼」がポケットモンスターで、リザードンという名前だという事。そしてヒダチが彼と呼 んでいると言うことはリザードンは男(オス?)と言う事。 「あれって言うのは、あそこに倒れている紫色の生物のこと。」  ヒダチは私の指した方向にいるあれを見て、驚いた顔をした。 「ニドキング……。……もしかしてミナトさん、あいつに襲われたの?」  頷く私を見てヒダチは、 「そっか。リザードンが助けてやったの?……偉いじゃん!……あいつはニドキングと呼ばれる ポケットモンスターだよ。」 「ニドキング?……ふーん。所で、ポケットモンスターって何なの?」  矢継ぎ早に質問をする私。 「ポケットモンスター、略してポケモン。モンスターボールと言われる特殊なボールを使うこと によって、どんな大きいポケモンでもポケットに入れる事が出来る事からそう呼ばれてるんだ。 ポケモンには、現在確認されてるだけで251の種族がある。まだまだあるって言われているん だけどね。」  と言うことは「彼」はリザードンという種族の一匹という事なのか……。つまりリザードンも ポケットに入れられるサイズになるのかな……? 「一番最初の方の質問に戻すよ。ここにどうやって来たか、って事だけど死神探偵社の一室に入 ったこと覚えてない?」  そういえば、入った。暗闇の部屋にサクトに突き飛ばされて……。  私は心当たりが合ったので頷く。 「そこが、こことあっちの世界の繋ぐ扉なんだ。何処に出るかは、予め決まってるんだ」  なるほど、と私は思った。 「ふーん……。」  なんだか頭がオーバーヒートしてしまいそうだが、何とか堪えた。 「んで、そのリザードンはミナトさんのポケモンだよ。」 「私のポケモン?」 「そう。サクトさんがミナトさんに渡したボールに入っていたポケモン。」  私は、暫らく考え込んだ。4つ渡されたのだから、4匹入っているのだろうか。私がそれを聞 くと、ヒダチは笑った。 「まさか。……サクトさんはそんなに親切じゃないよ!最低でも一個は、捕獲用の空ボール。」  確かにあの顔は親切そうではないなと酷い事を考えながら私は更に聞いた。 「じゃあ、他には何が入ってるの?」 「さあ?全部開けてみれば?……ポンッとちょっと遠くに投げれば開くよ。」  言われる通り、私は傍にあった4つのボールの内の2つを手に取った。 「あ!今、右手で持ってるボールはリザードンのボールだから何も入ってないよ。」 「え?……これって見分けられるの?」 「うん。何かを出している場合は、その入っていたボールのマーカーの色が少し水色がかるんだ よ。」  ボールマーカーって言うのはココの事、とヒダチは赤と白色の境目にあるスイッチのような所 を指差した。  なるほど、良く見ると微妙に水色がかっていた。  私はそれを地面に置いてから、左手で持っていたボールをポンッという感じに投げてみた。  ボールは地面にぶつかってからバウンドすると、空中で一時静止した。  赤と白の部分を区切りにするように、パカっと皮一枚残したかのように割れた。  だが何も起こることなく、またそれは閉まった。 「今のは空ボールみたいだね。」  私は一個一個投げるのが面倒臭くなって、残りの二つを同時に投げた。  開いたボールからは、両方とも赤い光が溢れ出した。  片方のボールからは、水色のイルカのような手(それともヒレと言うのだろうか)がついてい て、背にでこぼこがある岩や貝のような物を背負っている水色の賢そうな目をしたポケモン。  片方のボールからは、頬っぺたに赤い丸の形があって黄色い耳が尖っていて、背に茶色で線が 何本か。そして、黄色いギザギザのような形をした尻尾の可愛いポケモンが現われた。 「ラプラスとピカチュウだ……!!」  ヒダチは目を輝かせて、呟いた。 「ラプラスとピカチュウ?……どっちがどっち?」  私が聞くとヒダチは興奮冷め切らぬかのように水色の方がラプラス、黄色いほうがピカチュウ だよと教えてくれた。 「ラプラスはポケモンの中で最も頭脳が高いポケモン。ピカチュウはその可愛さから人気が凄い ポケモンなんだ!」  確かに私の美斜眼からしても、ピカチュウは可愛く見える。ラプラスも、その知性的な瞳が印 象的だった。    ***  私たちは秘密の隠れ里内部へ入っていた。  隠れ里といっても、家があるわけではなかった。森だった。森が一種の隠れ里なんだ、とヒダ チは教えてくれた。 「ここで何をするの?」 「仕事だよ。今回の依頼内容は[孫の誕生日プレゼントにイーブイをあげたい]と言うものなん だよ」 「……因みに依頼主はこっちの人と、あっちの人のどっちなの?」 「こっちの人だよ。あそこの電話は、両方の世界に通じてるんだけどね。」  私はヒダチに促されるまま、森の奥へ奥へと進んでいった。  森の最深部に、一軒の木造の小屋があった。頭から草を数本生やして、紺色の丸い身体に足二 本のアルキメンデスのような小さなポケモンがその小屋の前には数匹いた。  不思議そうに見ていた私に、ヒダチはナゾノクサって言うんだよと教えてくれた。  そしてヒダチはナゾノクサに歩み寄っていった。  つぶらな瞳が、彼を見上げた。 「キーノさんいる?」  ナゾノクサは二回、首(身体だろうか)を縦に振った。 「じゃ、入らせてもらうよ。……ミナトさん、こっちこっち」  木の扉を開けると、意外な事に普通の山小屋のようだった。  真正面にある椅子には、茶色の長髪で茶眼の女性が居た。同性の私から見ても綺麗だ。 「あら、ヒダチ君。……そちらの人は始めましてね。私はキーノ。政府野性ポケモン保護科の一 人よ。」 「……始めまして。私はミナトです。」  私は少し、政府野生ポケモン保護科とは何だろうと考えていたが我に返って挨拶をした。 「キーノさん。貰っても良いイーブイっている?」 「イーブイ、ねぇ……。……いないわ。」  ヒダチは残念そうにため息をついた。だがキーノはあ!と思い出したかのように言う。 「自分のイーブイが子供を産みすぎてしまった、って嘆いていた少年がいたわよ。」    ***  私とヒダチはキ−ノからその少年の住む家を聞き出し、そこを訪ねた  家は森のすぐ近くで、そこにも沢山の自然があった。生い茂る草花、飛び回る蝶や鳥。  都会ではまったく見ることができなくなってしまった美しい景色だった。  私たちはドアの前に立ち、コンコンとその木造の家のドアを叩いた。  はいと言う声とともにドアから顔をあらわしたのは1人の少年だった。  雪色の肌に短い金の髪。目は青く、パッチリしているのでどこか少女のような雰囲気を与える 可愛い少年だった。だが辛うじて、目が鋭さを帯びているので男だとわかる。 「どなたですか?」 「あ、キーノさんにイーブイを大量に飼っている家があると聞いたのですがこちらでしょうか」  すらすらと挨拶をするキーノ。 「はい。……それで何か御用でしょうか?」 「実は、イーブイを一匹譲り受けたいのですが……。」  そう言うと、少年は困った顔をした。 「……確かにうちには沢山イーブイがいますが、物扱いはできません。彼らも大切な家族ですか ら……。」 「そこをなんとか!お願いします!!」  ヒダチは深く頭を下げる。私も慌ててそれに合わせた。 「……。……じゃあ、一つだけ条件があります。力仕事の出来る大きめなポケモンが必要なので それと交換、でどうでしょう?」  私とヒダチは顔をあわせた。つい先ほど、その条件にぴったりなポケモンを捕まえたからだ。 「あの……、ニドキングなんてどうでしょうか?レベルは強めだから扱いにくいかもしれません が……。」  実はあのリザードンが倒したニドキングを、ヒダチがゲットしていたのだった。 「あ、それは平気です。これでも僕はバッチを持ってますから。」  成る程、と私は思った。バッチについては先ほどヒダチにレクチャーしてもらったばかりだっ たのだ。  まだよく分からないが、バッチとは各町にいるジムリーダーに勝負を仕掛け、ポケモンバトル に勝った者のみが得られる特別なバッチらしい。そしてそれには特別な力があり、その一つとし てレベルの高いポケモンも言うことを聞かせられるというものがあるという。  ……よくわからない仕掛けだ。 「じゃあニドキングとイーブイを交換ということで。……じゃあ少し待っててください。」  少年は、パタパタとスリッパの音を響かせながら中へ消えた。すぐ戻ってきたその少年の手に はあのモンスターボールがあった。 「性別はメスです。じゃあ、可愛がってあげてくださいね。」  少年の手からそのボールがヒダチに渡され、ヒダチからあのボールが渡された。  そしてヒダチも可愛がって下さいねと言った。