か れ ら の  に ち じ ょ う _______________________ ----------------------------------------------  ある朝での、深い森の中。  ポッポが鳴き、木々がざわめく自然の音がする。  最も森の深いところに位置する一つの家があった。  白を基調とした大きな洋風の家の入口で、マスターとマスターの馬鹿兄は話していた。 「兄ちゃんは少し出かけてくるから、心配しないでおくれよ!……本当はクレイ一人を置いていきた くないんだけど……」  本当に残念そうに言うマスターの馬鹿兄。近くに、紅蓮の炎を纏う白馬が主である彼を待って悠々 と控えていた。  ブラコン。私の頭にそんな文字が横切った。  マスターの馬鹿兄は某王国の騎士団長だ。金髪碧眼で王子といっても通じるくらいの風格を持って いて部下には尊敬されているらしい。  だけどマスターの前に立つとそのイメージはあっさり崩れてしまうのだった。  彼の弟であるマスターがどうやら可愛すぎて、仕方がないようだ。  今の所マスターが彼の指揮する騎士団を訪ねた事は無いので、まだ人望は疑われていないようだが 多分ソレは時間の問題だろう。  確かにマスターは惚れ惚れするような素晴らしい人だ。綺麗な金髪碧眼で優雅な風格を持ち、尚且 つ頭も運動神経も良い。  ケチの付け所の無い人だ。顔は綺麗と言うより童顔に近いのだが、それもまたマスターの良い所。  マスターはその顔を生かして、年上に『おねだり』とかそう言うものをするのが得意なのだ。  マスターの本当の性格は冷静で知的で、時と場合によって顔を使い分ける事も可能なのだから。 「国王さまからのお呼び出しだったら仕方ないし……。別に気にしてないから良いよ。……お兄ちゃ ん、お仕事頑張ってきてね。」  目をキラキラさせて、いかにも残念そうに言って見せるマスター。語尾に“はあとマーク”という ものとかも付けてみたようだ。  勿論の事、マスターの馬鹿兄は引っかかった。  ……その可愛さについ、私も引っかかりそうになってしまったが。 「私はなんて悪い兄なんだっ……!!ごめんよ、クレイ!私が悪かったっっっっっ!!」 「お、お兄ちゃん……?」 「……。よし、クレイ。お詫びとして何か買ってきてあげよう……!!」  よっしゃ、かかった!と思ったらしいが演技を続けるマスター。 「いいよ。お兄ちゃんに迷惑かけちゃうし……。」  マスターがそう言うと、馬鹿兄は更に力説した。 「迷惑なんかじゃないぞ!……ほら、お兄ちゃんに欲しい物言ってごらん?」 「別に……、欲しいものは無いよ。……お兄ちゃんが無事に帰ってきてくれればそれでいいよ。」  ちょっと上目使いに言って見るマスター。……か、可愛すぎる!!  私が引っかかる程の、このマスターの可愛さには勿論の事マスターの馬鹿兄も勿論の事引っかかっ た。 「そ、そう言えば、クレイ!!確か、前ライチュウ欲しいって言ってたよな?」 「え?……うん、言ってたけど?」 「今回はそれを捕まえてきてあげようっ!!」 「……いいの??」  目をキラキラさせながらマスターが言うと、馬鹿兄は首を縦に何回も振った。 「じゃあお願い、して良い??」  上目使いに見上げたマスター。馬鹿兄は後ろを向いて、可愛いと呟いた。  ……おい、馬鹿兄。いくらマスターがそんなに可愛いからってそこまで行くと犯罪になってしまう ぞ??  そんな私を気にせず、馬鹿兄の白い炎の馬――ギャロップという種族でホノオという名を持ってい る――が急がすように一度ないた。 「そ、そうだった……。急がなければな。……じゃあクレイ。またな!!」  馬鹿兄はマスターの頭を撫でてから、ホノオに跨った。因みにホノオの纏う火は、主人やその身内 に危害を加えることはない。 「いってらっしゃーい!!気をつけてねー!」  マスターは、去っていく兄の背中に向かって叫んだ。  あ、落馬した……。  馬鹿兄はどうやらマスターの可愛さに“のっくあうと”というものをされたらしい。  それでもなんとか乗りなおして振り向き、手を振って去っていった。  馬鹿兄が完璧に姿を消した後、マスターは大きくため息をついた。 「はあー。……あの馬鹿兄、ブラコンすぎるっつーの!!」  このギャップが恐ろしい。まあ、マスターだから気にしない。 「行くぞ、エスパ!」  私は、羽ばたいてマスターの後についていった。  あ、自己紹介が遅れていた。  ……私はエスパ。マスターの相棒であるネイティだ。 「じゃあエスパ、ここ等辺の奴に片っ端からバトルし始めるぞ!!」  頷くと、マスターはにやりと笑った。  マスターはボールから、あとの残りのイーブイとポニータを呼び出した。 「ノーマ、ホムラ!お前たちも頼むぞ!!」  頼もしそうに頷いた二匹。見かけによらず、私達は十分育てられている。  進化ストップをしてわざと弱そうに見せかけているのだ。 「あ、そうだ。エスパ、ノーマ、ホムラ!……進化したいか??」  私達は一斉に頷いた。進化して強くなれば、更にマスターの力になれるからだ。 「解った。じゃあ今日はノーマを進化させてあげよう!」  マスターは今、変装をしている。馬鹿兄に見咎められないようにするためだ。  馬鹿兄を馬鹿兄にしとく為には必要なことだ。  別にばれても困ることではないが…….  因みにどんな格好かというと帽子を被り白いTシャツ、青のジーンズという至って普通の格好だ。  だが、髪の毛の雰囲気を変えただけで全くの別人のように見えている。  マスターは、一番近いところにいた虫取り少年に近づいた。 「なあなあ、オレとバトルしない??」 「え?別に良いよ!じゃあ、早速やろう!!」  マスターは、先ずノーマを出した。対する相手の出したポケモンは、スピアー。十分育てられてい るようなので、経験地の期待が出来るだろう。 「スッピー、乱れ突きで先制攻撃っ!」  スッピーと呼ばれたスピアーは、それに応えてノーマに踊りかかった。 「電光石火で避けるんだ!!」  ノーマは素早くそれを避ける。 「スッピー、どくばり!!」  スピアーから跳んだ小さな針は、ノーマの体に吸い込まれた。  ノーマの体が揺らいだが、彼女は耐え切った。  マスターはすぐに1ターンを使い、毒消しを使った。  スピアーはその時、乱れ突きでノーマに傷を負わせた。 「……一気に決めるぞ!きあいだめ、そして突進!」  ノーマはぐっと力を体に溜めた後、スピアーに突っ込んだ。  スピアーはその反動で木に叩き付けられた。木に叩きつけられたダメージでスピアーは倒れた。 「……戻れ、スッピー。……良いバトルを有難う。」  その時、経験地を吸収し終わったノーマが体から光を放った。  そして……。  家に帰ると、マスターはすぐ元の服装に着替えた。  着替え終わって一息ついているうちに、マスターはソファーで寝てしまった。  そののどかな寝顔を見ている内に私もつい、うとうととして……。  次に目覚めたとき、まだマスターは寝ていたが先程まで掛かってなかった毛布が掛けられていた。  パサっと止まり木からカーペットに降り立つ。 「おはよう、エスパ。クレイはまだ寝ているようだから起こさないであげてくれよ。」  突然顔を現した金髪碧眼の男――つまり馬鹿兄。頷くと、安心した顔をした。  馬鹿兄の足元から何かが現れた。  オレンジに近い黄色のポケモン……つまり、ライチュウだ。  不思議そうな顔をすると、馬鹿兄は笑った。 「そうだ。こいつがクレイの為のライチュウ。お前の新しい仲間だぞ。」  ライチュウと私は近くによって、クンクンとお互いの匂いを嗅ぎあった。 「ラーイ、チャーア??」  ライチュウが話しかけてきたので、私も応対した。  因みに、彼女(言葉使いからして♀のようだ)が言った今の言葉は『あなた、だーれ??』という 意味だ。  暫く話していると、マスターが身動ぎする音がした。寝返りしようとしたマスターは、そのまま起 きあがる。 「おはよう、クレイ。」  馬鹿兄のその声を聞いて、マスターはどうやら『応対:兄バージョン』に切り替えたようだ。 「おはようー……。……あれ?お兄ちゃん??……おかえりー。」  確信犯マスター。いつもその手際は惚れ惚れする。 「ただいま。」  凄い幸せそうな顔をしていった馬鹿兄。  トコトコトコ、とライチュウがマスターに近づいた。 「ラーイ、ラーっ。」  マスターは突然眼を覚醒させた。 「ライチュウ?!……お兄ちゃん、忘れないでくれたんだね!!」  凄い嬉しそうな顔をして、マスターはライチュウを抱き上げた。 「お兄ちゃんがクレイのお願いを忘れるわけないじゃないか!……名前は何にするんだ??」 「ライチ。……実はもう決めてたんだ!」  本当に嬉しいよっ!と“はあとマーク”なんかをつけて喜んでいる。  馬鹿兄は勿論“のっくあうと”なるものをされたらしい。 「ラ、ライチかぁ……。いい名前だな!」  馬鹿兄よ、何動揺している……。 「うんっっ!!」 「……!!……あ、クレイ。風呂入ってきたらどうだ??」 「うん、入ってくる。じゃあ、おやすみなさい!!」 「おやすみ。」  私達の1日は、いつもこんな感じで幸せいっぱいだ。                        終わり