注:本小説は血や死体などが割と頻繁に出てきます。 苦手な方はお手数ですがブラウザの戻るボタンを押してください。 Chapter.1/会うは別れの初め:会った人とはいつか必ず別れなければならない。無常のたとえ。 唐突だけど僕は死んだ 何故僕が死ななければならなかったのかは良くわからない けれど僕はどうやら死んでしまったらしい 何故なら、死んだ僕の姿が目の前に在るからだ 体中ズタボロに切り刻まれて 最期は首筋を切られて死んでしまった 死んだらこんな風になるなんて、御伽噺の中だけだと思っていたのだけれど どうやらこうなってしまうらしい そういうようなことを考える程度の余裕があるところを見ると、 僕は僕が死んだという事実に対して大してどうも思っていないようだ ようだ、と言い切らなかったのはまだなんとも言えないからだ でも、こうして地面にボロ雑巾の様に転がっている僕を見ても やっぱり何も浮かばないところを見ると、何か思うことはなさそうだと思った こんな森の中 僕は何故死んだのか 周りには木と草と土ぐらいしかない 僕の死体が転がって 真っ赤な血溜まりはもう地面にしみこんで 緑の草に赤い印を残していた 僕にはまだ何かやりたかったことが有ったかもしれない それは例えば、 いや、もう思い出せないようだった それどころか、僕が誰かも 僕がなんだったのかも 僕が ぼくが ああ、これがしぬってことなのか ふしぎとなにもかんじない Chapter.2/平穏無事:何事もなく穏やかである・こと(さま)。 ふと もう一度僕の死体を見てみた 変わりなく其処に居るままだった けれどその横に 薄紫の姿したイキモノが一匹 座って僕のことを見下ろしていた アレは そう それだけは僕も忘れなかった 僕の相棒 ヤシオ エーフィ 彼は、いつもどおり何の表情を浮かべる事無く 目を開けずに 転がっている僕を見下ろしていた 彼の身体は、所々細かい切り傷が付いていた 僕が今この世界に未練があることといえば 彼のことぐらいだった 彼は、屈んで僕の顔に鼻先を近づける そして、口を開いて ほんの少し、赤い舌を覗かせて 何時も寝起きの悪い僕を起こそうとするのと同じように ぺろ と僕の頬を舐めていた 青白く、硬そうな僕の頬は何も感じることはなかった ヤシオは、もう一度だけ僕の頬を舐めた やっぱり、僕は起きなかった ヤシオは、身を起こしてもう一度僕を見下ろした その赤い瞳が、少しばかり細められ そして、閉じられた 僕はそこで始めて死にたくなかった、と思った Chapter.0/一寸先は闇:未来のことは全く予測することができないことをいう。 僕は── 僕の名前は、カザミ。 カザミ ユウヤ。 14歳。男。 僕は、"ライエンシア"という街で探索者という仕事をしている 探索者、というのはその名の表す通り、この世界の未知なる場所を探索する人のことだ 僕の生まれるずっと前 この世界は、一度森に飲み込まれてしまったらしい 何故かはよく解らない とにかく、森は総てを飲み込んで 人の住む場所を森の底に沈めてしまった 僕たちが今住む世界は、ほんの狭い フラスコのような世界なのだ だから、そのフラスコのガラスを割って 世界を広げるために、僕たちがいる …と、言っても僕はまだ見習いだ 森の深部の、未開の場所には行かせてもらえないし そもそも僕の実力ではまだ行けるはずも無い それをヤシオには──このエーフィには、不満足なようだったが 森には危険が沢山有る。 まず、下手に迷えば戻っては来れないような広さだ。 それに、森のポケモンたちはとても凶暴で 人を見れば直ぐに襲い掛かってくる。 そのために僕たちはパートナー、という形でポケモンを一匹持っている。 世界が森で覆われる前は、一人で何匹もポケモンを持って それを戦わせて競うというようなことをやっていたという話を 歴史で習ったけれど、僕は羨ましいなと思った。 人に懐くポケモンというのはそう多くなくて 街の育て屋で繁殖されるポケモンしかいなかった そして、ポケモンを持てる人というのは "ギルド"からポケモンを貰える、僕たちのような探索者か 育て屋から高いお金を出して買う金持ちに限られていた でも、僕とヤシオとの馴れ初めは少し変わっていた ヤシオは、僕が小さい頃町のはずれで、怪我をしているところを助けたのだ 最初は、野生のポケモンなんて早く森に返さなければダメだと、周りの人には言われた 僕はそんな言葉を聞かずに一緒に居たいと思ったし 何より、ヤシオも僕の傍を離れようとしなかった 周りは、僕とヤシオに惹かれあうものがあったんだろうと言った それはどうか解らなかったが、それでも僕とヤシオの仲は良かった ヤシオは、プライドが高くて僕のことをすぐバカにするけれど いつも僕とヤシオは一緒に居た 僕はヤシオが好きだったし、多分ヤシオも僕のことを嫌いではないと思う そんなヤシオと、探索者になろうと決めたのが三年前。 それから色々勉強をして晴れて探索者になれたのが一月前。 僕は今、研修の為に森の中を歩いていた 磁石を見ながら、地図と照らし合わせて 辺りに生えている草花の調査をする まぁ、この辺に生えている物なんて殆どが調査され尽くして ただの研修の一環だから、それ自体に大した意味はなかったのだけれど それでも、僕は森を歩くのが楽しかった ヤシオも、気分は良さそうだった ヤシオは、森で生まれたのだからそうなのだろう 僕はふと立ち止まる キレイな赤い花が咲いていたからだ 「…ヤシオ。ゼラニウムが咲いてる」 ヤシオは、何を花ごときで、お前は男だろうという目つきをしていた 僕は記録帳にその見つけた場所を書き込みながら 思い出していた 僕は、この花を探しに行って ヤシオを見つけたからだ それもヤシオは知っているはずだったけど 多分、恥かしいからこんな態度を取るんだろうと思った だから僕はくす、と笑ってその花を暫く眺めると 歩き始めようとした ぴくり、とヤシオの二股の尻尾が動く 僕も、気配を感じていた がさり 音を立てて、草むらがかきわけられる 緑色の姿 鋭いカマ ストライクだ 僕は驚いて一歩後退る ストライクは、本来あまり街の近くには生息していない筈だ そのカマと素早さはとても危険で 見習いの探索者が相手出来るようなポケモンではなかった だから、行動は決まっていた 逃げるしかない 「ヤシオ…!」 言わずとも解っていたのか、ヤシオも小さく首を縦に振る 僕とヤシオと、ストライクは暫く睨み合いを続ける 厭に森が静かに感じられたが その静けさはそう長く続かなかった ストライクが飛び込むようにして、カマを振り上げ突進してくる 僕たちは飛び退いて逃げ、そのまま走り出す 何の示し合わせもあったわけではないけれど、一旦二手に分かれた僕たち ストライクのカマは空を切り僕たちを交互に見る その羽を音立てて低く飛び始めると、僕の方へ追いかけてきた 根が張り、草が覆い尽くす地面を僕はひたすら蹴る こう見えても、逃げ足は速い方だった ヤシオに早く合流しなくちゃ、と思いながら 後ろを振り返る ストライクは居なかった 可笑しい こんなあっさり? そう疑問が浮かびかけた矢先だった 緑色の影が、僕の上を通った そして、僕の前に立ちふさがり そして、そのカマを振り下ろした 痛い、とは感じなかった 熱いような感覚 横腹を思い切り切られる 動きが止まった僕を もう片方のカマが足を狙う 赤い液体がどくどくと流れて行くのが見えた 僕は叫んだ 意味はあまりなかったかもしれない 僕の血に濡れたカマが引かれ 首の辺りに何かが触れたように感じた 地面に倒れこむ 身体の感覚が段々となくなっていく それがありありとわかって 心のどこかに死にたくない そんな気持ちが沸いてきた けれど僕の意識は黒く塗りつぶされて行った Chapter.3/後の祭り:時機を逸してかいのないこと。ておくれ。 ヤシオは、動かない僕をじっと見て 彼もまた、そのまま動くことはなかった 莫迦な奴だな、と思っているのかもしれない けれど、その目からは何も感じ取ることはできなかった 時間の流れもよくわからなかったけれど 大分時間が経ってもヤシオはそのままだった 何故動かないのかなと僕は思った 早くこの場から逃げて、街へ帰って そのあと…── と考えて、僕の思考は止まった。 よく解らないけれど、その先は考えられなかった。 考えたくなかったのかもしれない それでも、ヤシオはこんなところに居て欲しくないと思った ヤシオは動かなかった じっと僕を見下ろして じっとその場に留まっていた 日が落ちて 辺りが暗くなってもそのままだった ヤシオは眠る事無く 僕をずっと見ていた 僕から目を離したのは、僕の血の匂いに引き寄せられてやってきた ヤミカラスやコラッタを追い払った時ぐらいだった 朝が来て ヤシオは、やっと動いた 僕の傍から離れて、どこかへ行ってしまう これでいいと僕は思った このまま僕が一人で誰にも気付かれることなく 森の土になることに何の感慨も浮かぶことはなかった でも ヤシオはまた戻ってきた その口には花が咥えられていた 赤い花 ゼラニウム それを僕の赤茶けた色に染まった腹に落として ヤシオはまたそこに座った やっぱり、その後も動くことはなかった 何度も朝が来て、夜が来て 僕の身体に虫が集り初めても ヤシオはそこに居た ヤシオは、尻尾で虫を払いのけ 時折やってくるポケモンたちを念力で追い返して ずっとそこに居た Chapter.4/一難去ってまた一難:災難や危機が次々と襲ってくること。 何度目かの夜 緑色の影が現れた 奇しくも真円の月に照らされたその鋭いカマには 赤茶けたものがこびりついていた そして、その左方のカマは途中で何故か折れていた ヤシオは、立ち上がって じっとストライクの方を見た ストライクは、笑ったような気がした 葉擦れの音一つしない 異様な程の静けさ 微動だにしない両者 どちらからと無く走り出す ストライクは、低く空を飛んで ヤシオは尾で空を切り地面を蹴って ストライクが、折れていない方のカマを低く突き出す ヤシオはまるで、それが最初から解っていたかのように、上方へ跳躍し そのまま重力に身を任せ、緑の体躯目掛け紫の身体で体当たりする 体重と、重力による加速がついた攻撃は 体格の差を無視してストライクの身体を遠方へと弾き飛ばした すかさず、ヤシオが地面へ着地するのと同時に ふわり と大気が僅かに歪んだ ヤシオの念動力 質量を持った空気が 見えない塊となって空で体制を立て直そうとする 緑の身体を殴りつける 彼の赤い瞳が、大きな音を立てて草むらの影へ消えた影を見つめ、細められる 再び無音 終わった そう思った矢先 口から体液を零しながら 緑の影は地の間際を疾駆する 赤い目が見開かれる 引かれる左腕 もう一度、大気が大きく歪んだ 早かったのは、ストライクの方だった 左腕がヤシオの細い首を目掛けて上から振り下ろされる しかしそれは 届くことは無かった 折れたそれは空を切る音だけを残す 遅れて、引き絞られた大気は軋みながら 緑の身体を押し返し そして硬いものを圧し折っていく音を立てながら 終息した 地へと倒れた緑の塊は その体液を撒き散らし、二度と動くことは無かった Chapter.5/言わぬが花:はっきり言わない方が趣がある。あけすけに言っては実もふたもない。 僕は正直に嬉しいと思った 何故なら、ヤシオがこんなに強くなっているとは思わなかったからだ きっと、彼なら立派な探索者のパートナーとして やっていけるだろうと思った だから僕のことなんか放っておいて 早く行ってほしいと思った やっぱり ヤシオは何も言わず その表情に何も浮かべずに そこで座るばかりだった 僕は自分が死んだことを後悔した お願いだからもう一度 生き返って、ヤシオに 「早く帰れ」 と言ってやりたかった でも、僕は死んだままだった それから更に数日が経っても ヤシオが目に見えて衰弱し始めても 彼はそこから動こうとせず もう変色し始めた僕の身体を見ていた 僕は泣きたかった でも、涙なんて出なかった 泣き方を忘れてしまっていたのだ ある日、雨だった 雨は地面へとしとしとと降り続き ヤシオと僕を濡らしていた ヤシオはふらふらと立ち上がって ゆっくりとした足取りで森の中へ消えていった やっと行ってくれるのかと思った ヤシオは やっぱり帰ってきてしまった 濡れた赤い花を咥えて 良く見れば、何時かに彼が置いた花は枯れていた 彼はそれを咥えたまま僕の隣に来て そして地面へ倒れた うつろになっていくその最中も 彼の目はいつもと変わらない強気のままで 閉じられた 一番馬鹿なのは、お前じゃないか、と僕は思った 僕はどうなってもいいから もう一度ヤシオだけは目を覚まして 生きながらえて欲しかった 事実、その身体は痩せていたけれど表情は 今すぐにでも起きて また僕のことを馬鹿と、見上げてきそうなほどだった それでも、彼はやっぱり僕と同じように動くことは無かった そして僕の意識は 彼が動かなくなってしまったのを見届けたのと同時に 段々と消えてきた だから、僕はこう思うことにした 僕はしあ *あとがき* こんばんは。 世の中というのは時として無意味で無情で無感動です そういうような意味で、書きたいことを書いただけです 伝えたいことがないと言えば嘘になりそうですが 基本的に内容に関して深い意味は見出せないような気は致します 使ってることわざの意図みたいなのは 何をさしてるのか考えてくれるとちょっと嬉しいです 多分、相当あっさり目なので一文一文を読んでくれると ちょっと嬉しいです。 それではまたどこかでお願いします。