…僕とピカチュウは…いつも一緒だった… …大切な友達として…大切な仲間として… …大切な相棒として…大切な家族として… ………だけど……… ……………とうとうこの時がやって来てしまった…………… ……………あいつと別れる時が…………… …さよなら、僕のベストフレンド… …僕の名前は『サトシ』、カントー地方マサラタウンから来たポケモントレーナーだ。  この世界で一番のポケモンマスターを目指すために、旅をしている。 そんな僕の旅には 仲間がいた。 それはニビシティジムリーダーの『タケシ』、ハナダシティジムリーダーの 『カスミ』、ホウエン地方ミシロタウン出身のポケモントレーナー『ハルカ』とその弟 『マサト』…そして…僕といつも一緒にいたポケモン………『ピカチュウ』 …僕とピカチュウは、いつも一緒だった。 初めて出会った時は仲が悪かったけど…今は そうでもない。 今は大切な友達として生きている。 力を合わせて戦ったり、 助け合ったり、話し合ったり、色々楽しい事をした。 そんなピカチュウは、僕にとって 掛け替えのない友達だった… …けど…そんなある日………ある街で事件が起きた…。 それは…ピカチュウに関しての 事件……… ある日の事、サトシ達はある街でポケモンバトルを行っていた。 相手はライダーで あり、彼のジグザグマでサトシのピカチュウと戦っていた。 ライダー「ジグザグマ、「体当たり」攻撃!!」 ジグザグマ「ジグザァ!!!」 サトシ「ピカチュウ、避けろ!!」 ピカチュウ「ピッカァ!!!」 ジグザグマが「体当たり」を仕掛けると、ピカチュウは素早く攻撃を回避した。 サトシ「よぉし!! そこで「10万ボルト」だ!!」 ピカチュウ「ピィカァチュウ〜〜〜〜!!!!」 ビリリリリリリリリリリィッ!!!!!! ピカチュウは「10万ボルト」でジグザグマに 直撃した。 ジグザグマ「グマァ〜〜〜〜〜〜!!!!」 ドサッ!! そしてジグザグマは倒れた。 ジグザグマ「グマァ〜〜〜………。」 ライダー「あぁ!! お、俺のジグザグマがぁ!?」 サトシ「よっしゃ〜!! 一発勝利!!」 タケシ「今日も楽勝だな。」 カスミ「相手が弱すぎるだけよ。」 ハルカ「でも勝ってよかったね!」 マサト「さすがサトシ兄ちゃんだね!」 サトシ「ヘッへ、今日も良くやったな、ピカ………?」 サトシはピカチュウに振り向くと、ピカチュウは何故か顔色が悪くなり、フラフラと 立っていた。 ピカチュウ「…ピ…ピカァ………。」 サトシ「…!? お、おい…ど、どうしたんだ、ピカ…!?」 ドサッ!! するとピカチュウは突然倒れ落ちた。 サトシ「!? ピ、ピカチュウ!?」 …僕は一瞬に驚いた。 ポケモンバトルに勝った後、ピカチュウは突然倒れてしまった。  原因は分からなかったけど…僕は仲間と一緒に、急いでポケモンセンターへ連れて 行った… …そしてサトシ達は、ポケモンセンターでピカチュウの治療を行っていた。 現在の ピカチュウは治療室に送られ、サトシ達はただ治療室の門前に待つしかなかった。 サトシ「……………。」 ヴィン! しばらく時間が経つと、治療中の赤いランプが消え、扉が自動的に開き、 部屋の中からセンター看護婦の『ジョーイ』が出て来た。 彼女が出て来た後、 サトシ達は急いで彼女に駆け付けた。 サトシ「ジョーイさん! どうですか、俺のピカチュウの様子は!?」 ジョーイ「それが………。」 ジョーイが部屋に振り向くと、サトシ達は部屋の様子を見た。 部屋の中には、 酸素ボンベの付いた四角形のガラスの中にあるベッドに休んでいるピカチュウがいた。  サトシ達はそれを見て、不安に思い始めた。 サトシ「…ピカチュウ…?」 タケシ「ジョーイさん、これは一体…?」 ジョーイ「…説明は私のオフィスで話しましょう。 さぁ、こちらへ。」 彼女はそう言いながら、サトシ達をジョーイのオフィスに連れて行った。 …そしてここはジョーイのオフィス。 サトシ達はその部屋にいて、ジョーイの説明を 聞いていた。 するとサトシ達は、ジョーイが発したある言葉に対して、驚愕に反応した。 サトシ達「『ポケルス.』!?」 ジョーイ「そう、貴方のピカチュウは現在、ポケルスに掛かってるの。」 サトシ「あの…ポケルスって…?」 タケシ「ポケモンがよく受ける病気の事だよ。 『ポケモンウイルス』の略称で、     ポケモンに嫌な印象を起こす症状の事だよ。 まぁ、例に言えば人間の蕁麻疹、     水疱瘡、喘息と似たような病気の事だな。」 ハルカ「ポケモンにそう言う病気があるの!?」 マサト「僕は聞いた事があるよ? 今でもかなり流行ってるようで、塾帰りの間では結構     噂になってるらしいんだ。」 カスミ「そう言えばニュースとかでよくそう言うのあったわ。 医学の間では大変だけど、     低くても約25%はポケルスに感染するポケモンがいるって言ってたわ。      だとしたら、ピカチュウはその確率に受けてしまって訳ね…。」 サトシ「じゃあ、治療方法はねぇって言うのか!?」 タケシ「いや、大丈夫だよ。 軽くても薬を投与すれば直ぐに治…。」 ジョーイ「合い難いけど、それは難しいわ。」 サトシ達「…え?」 ジョーイ「実は今回貴方のピカチュウに感染しているポケルスは、非常に危険な物なの。       何故なら、ポケルスにとてつもない病魔が入っているの。 その名こそ…      『P.E.D.(ペッド)』。」 サトシ達「P.E.D.!?」 サトシ「………って、何?」 サトシはタケシに振り向いてそう問うた。 タケシ「…いや、聞いた事がない…。」 次にサトシはマサトに振り向いた。 その同様ハルカもマサトに振り向いた。 マサト「!? ぼ、僕知らないよ!? そこまで僕を見ないでよ!!」 最後にサトシはカスミに振り向いた。 カスミ「あ、あたし知らないわよ!? 聞いた事もないし…!!」 誰も知らない様子なので、サトシはジョーイに振り向いて問うた。 サトシ「…あの、P.E.D.って…?」 ジョーイ「…そうね、貴方達にはまだ知らない症状だものね。 現在のポケモン医学では      天敵として認識してるから。」 カスミ「て、天敵って…!?」 ジョーイ「…P.E.D.…略称、『Pokemon Experience Disease(ポケモン・エクスペリエンス・      ディジーズ)』。 数少なくてもポケルスに必ず入ってるウイルスで、現在      医学では発見したばかりの新種なの。 最近発見されては、普通のポケルス      よりもレベルが最大級で、治療するにもとても難しいの。 各地のポケモン      センターにもその被害が起き、仕方なく専門病院にも送り込み、治療を      行わせたけど…新種のせいか、治療中止になったの。 そのためこの      ウイルスは、最低でも36%の確率でポケモンに感染する恐れもあり、これに      関して病死してしまったポケモンは今年で24匹も達してるの。 例で言えば、      人間に感染されているAIDSや白血病、癌や脳梗塞と似たような物ね…。」 タケシ「似たような物って…一体どう言う病気なんですか!?」 ジョーイ「…P.E.D.は、日本語に通訳すると『経験値病床』。 つまり、ポケモンの      経験値に症状が起きてるの。」 サトシ「経験値?」 ジョーイ「そう。 経験値とは、相手に勝つために上がり、決めた数によってレベルが      上昇するでしょ? この新種のポケルスは、血液となる経験値に感染し、      ポケモンの細胞破壊、或いは脳に血管が働かなくなってしまうの。 まぁ、      簡単で例えるとすると、庭に水をあげるために、ホースと水が必要でしょ?       そのためにそのホースから水が噴出し、庭の植物に水を与える。 しかし、      そのホースが何かに塞がり、例えば水を出さないようにホースを踏んで      いるのか、或いはホースの中に何かが詰まっているのかのようになると、水が      出て来なくなってしまう。 そうすると、庭の植物に水を与えなくなって      しまう。 つまり、この例題を感染された血管にすると…。」 サトシ「…ちょ、ちょっと待てよ…。 そ、それって…まかさ…?」 ジョーイ「そう、P.E.D.に感染された血液は、一瞬氷のように硬くなってしまい、血管を      塞ぎ込み、血流を封じてしまうのよ。 その瞬間になると、体の部分に血液が      流れなくなってしまい、恐らく、腐ってしまう可能性があるの。 主にこれは      脳に発生する病気だけど、時には心臓、胃、或いは全体に発生する事があるの。」 ハルカ「って、ちょっと待ってください!? 血管が詰まるって事は、それって麻痺     状態になってしまうって事ですか!?」 ジョーイ「いいえ、麻痺よりも命に別状を持つ物よ。 でもそれだけじゃないわ。       血液の進出不可能の状態を長時間に放置してしまうと、血管が破裂してしまい、      やがて体内に流血されてしまう事があるの。 その原因でポケモンも吐血して      しまい、死に落ちる事もあるの。」 サトシ「じゃあ、それって何ですか!? ピカチュウはもうこれ以上戦う事も     出来ないんですか!? 動いたりする事出来ないんですか!? もちろん声や     表情も…!?」 ジョーイ「そうとなるでしょう。 P.E.D.は通常のポケルスよりも強力で、ポケモンに      対しては毒物と同じなの。 悪化速度も速いため、体は完全に不自由となる      可能性もあるの。 安静しても変わりようもないわ。 逆に戦闘に出して動き      回ると、ウイルスは更に悪化して、やがて視覚も失い、もちろん声も出せなく      なってしまうの。 その上技も出す気力も失い、やがて体の自由もなくして      しまうの。 そう、この病気は、ポケモンに取っての絶望的の物なの。」 サトシ「…じゃあ、もしもこのまま放って置くと…ピカチュウは…し…し…。」 ジョーイ「死ぬ? そうねぇ…このまま放置すれば、やがて息を引き取ってしまうかもね。       貴方のピカチュウの寿命は三時間しか残ってない…。 三時間…それは日が      沈み始める時間になるわね…。 それを達すれば、何れ貴方のピカチュウは      永眠となるわ。」 カスミ「そんな…!? 何とかなる方法はないんですか!?」 マサト「薬とかどうにもならないんですか!?」 ジョーイ「言ったはずですけど、P.E.D.は医学に対して天敵なの。 そのため現在対処      出来る薬(ワクチン)は開発されていないの。 …でも、薬(ワクチン)      なしでも、治せる方法はあるわ。」 サトシ「ホントですか!?」 ジョーイ「ただし、それはあくまでもあのピカチュウを助けられるような物ではないわ。       なぜなら医学の間では、成功した者は一人もいないの。 いたかも知れない      けど、それほどの情報はとても少な目。 でも、覚悟があるのなら、      どちらかを決めなさい。 第一の治療方法は、貴方のピカチュウを進化させる      事。」 サトシ「進化させる…?」 ジョーイ「そう。 経験値は時に進化を行うためにある事もあるの。 だから一度      進化させれば、経験値はリセットされ、回線の活動しやすくなるわ。 でも、      レベルを上げなくても、石や通信などで進化すれば、経験値をリセットし、      回線の働きを楽にさせる事が出来るわ。」 ハルカ「じゃあ、『雷の石』をピカチュウに与えれば、助かるかも知れないね!?」 サトシ「そうか、その手が…!!」 ジョーイ「…ただし、それはあくまで通常のポケルスの効果です。 P.E.D.の場合は、一度      進化すると、脳内にパンクが起こされる恐れもあるの。」 サトシ「パンク?」 タケシ「!? それってまさか…記憶を消してしまうと言う事じゃ…!?」 サトシ「!?」 ジョーイ「そう。 P.E.D.は凶悪なウイルスのため、脳内に異常を起こす場合もあるわ。       だからもし無理矢理進化をさせると、ウイルスに反応し、強烈な電波を脳内に      放出してしまうの。 一度放出すると、脳内の回線が働き難くなり、やがて      混乱でパンクしてしまうの。 一度記憶を消してしまえば、技も忘れてしまう      だけでなく、自分の親自体も忘れてしまうの。 まぁ、野生に戻って      しまうのと同じね…。」 サトシ「そ、そんな…。」 カスミ「じゃあ、第二の治療方法はなんですか!?」 ジョーイ「第二の治療方法は、ポケモン専門病院に送って、手術でそのウイルスを      取り除くしかないわ。 けど、これはあくまでも危険な選択。 手術でも      不可能と言う場合もあるの。 なぜなら成功率はほぼ19%しかないため、      失敗する事がとても多いの。 だから先ほど言ったように、これに成功した      者は殆どいないのよ。」 サトシ「そんな…。」 ジョーイ「もしもこの二つのどちらかを選ぶのなら、覚悟をするといいわ。 必ず      失敗する恐れも十分あるけど…。」 サトシ「……………。」 タケシ「サトシ………。」 カスミ「サトシ………。」 ハルカ「サトシ………。」 マサト「サトシ兄ちゃん………。」 サトシは深く悩む間に、タケシ、カスミ、ハルカとマサトはサトシを見詰めながら 心配した。 サトシ「………ジョーイさんが俺だったら…どっちを選びます?」 ジョーイ「それは難しい判断ね。 私の場合は、どっちも選べないけど…。 ポケモンは      人間と同じく、生きる時には死ぬ時もある…。 それはどんな悲惨な物でも、      いつか来るかもしれない…。 認めたくもないけど、それが運命だからね…。」 サトシ「…認めたくもないけど…それが運命…か…。」 そう呟いた後、サトシはしばらく悩みながら沈黙に入った。 サトシ「………ピカチュウは後…三時間しか持たない…んですよね…?」 ジョーイ「…そうだけど…。」 サトシ「………分かりました………このままにしときます………。」 タケシ・カスミ・ハルカ・マサト「え!?」 カスミ「ちょ、ちょっと、サトシ!? あんた本気なの!?」 ハルカ「そう簡単に諦めちゃうわけ!?」 タケシ「このまま見殺しにする気なのか!?」 マサト「どうしてなんだよ!?」 カスミ達がサトシにそう責めると、サトシは怒りの表情でこう叫び出した。 サトシ「バァーロォ!!! 俺だって諦めた訳じゃねぇよぉ!!!」 タケシ・カスミ・ハルカ・マサト「!?」 サトシ「…俺だってあいつを死なせたくはねぇんだ…。 見殺したくもねぇんだよ…。      是非ともあいつを助けたい…この手であいつを助けたいんだ…。 だけど、     そこまで完璧な病魔との相手じゃ、どんなバトルに立ち向かおうとしても歯が     立たないんだよ…。 …進化させる方法なら楽に行けるかも知れねぇけど…     あいつは進化するのが嫌なんだ…。 一度進化しちまったら自分を失ってしまう     ようになっちまう…。 特に進化したら俺の事も完璧に忘れてしまう…。      今まで作ったその思い出をまるで何もなかったかのように消すなんて…俺には     出来ねぇ…。 …もう打つ手がねぇんだよ………治療方法もなけりゃ病魔と戦う     意味がねぇんだ…。」 サトシは頭を下げながらそう言うと、カスミ達は沈黙のまま、彼の言葉を聞いていた。 サトシ「…あいつは…あいつは俺を何度も助けてくれたんだ…。 苦しい時も…     辛い時も…悲しい時も…何度も何度も一生懸命俺を助けてくれたんだ。 その     恩も返さずに逝かせるのは、俺には出来ねぇ…。 だから最後まで…あいつと     一緒にいたいんだ…。 あいつへの恩として…。 見守るだけじゃ無力かも     知れねぇけど…もうダメだとあいつは分かっている…。 最後まで俺と一緒に     いたいと望んでるに違いない…。 だから俺は…。」 カスミ・ハルカ「サトシ………。」 ジョーイ「…それでいいのなら、後悔はしないのね?」 サトシ「………はい。」 ジョーイ「…分かったわ。 なら彼の所へ行きましょう。 きっと待ってるわ。」 自分の椅子から立ち上がった後、ジョーイはドアの方へ向かいながらそう言った。 サトシ「…はい。」 サトシはそう頷いた。 ガチャッ! ピカチュウの病室に着いたサトシ達は、ドアを開き、中へ入った。  部屋の中には、ベッドの中に寝ている、顔色が激しく悪くなっているピカチュウがいた。  恐らくサトシ達がジョーイのオフィスにいる間、ラッキー達がピカチュウをこの部屋に 移したのだろう。 そんなピカチュウは息苦しくなりながら、サトシ達の方へ振り向いた。 ピカチュウ「………ピ…ピカ…ピ…。」 サトシ「…ピカチュウ…。」 サトシは悲しげな顔をしながら、ピカチュウの方へ歩いて行った。 そしてサトシは 近くにある小さな椅子に座りながら、ピカチュウと対面していた。 ピカチュウ「…ピ…カァ…。」 サトシ「………ピカチュウ、ジョーイさんから聞いたよ…。 お前、とても悪い病気に     掛かっちまったんだってさ…。 その名前もP.E.D.だってよ…。 知らない     だろ…? 何だか…ふざけた名前だろ…? …お前…助からないらしいんだ…。      …お前を治してくれる方法、何もないんだ…。 ………情けねぇな…俺って…。      俺の出来る事は、ただここにいてお前を見守るだけだからさぁ………助ける力…     何もねぇんだ…。 ………だから………。」 サトシは頭を片手で抱えながら、悲しそうにそう言った。 ピカチュウ「ピカ…ピ……。」 サトシ「………でも…今俺が出来るのは…最後までお前の側にいる事だ…。 お前の命、     救えねぇかも知れないけど…最後まで、お前の側にいる…。 それで     構わないよな…?」 ピカチュウ「………ピカ………。」 ピカチュウは苦しそうに力を入れようとしながら、笑顔で頷いた。 サトシ「ピカチュウ………。」 そんな空間を見ているタケシ達は、悲しくなり始めた。 カスミ「サトシ………。」 ハルカ「サトシ…かわいそう…。」 タケシ「……………。」 マサト「サトシ兄ちゃん………。」 ジョーイ「………さぁ、みんな。 ここはしばらく、あの二人だけにしましょう。       私達はその間、ロビーに待ってましょう。」 カスミ「…サトシ…。」 バタン! そしてジョーイはタケシ達を部屋から連れ出し、扉を閉めた。 …それからの僕とピカチュウは…長い間色々会話した。 僕らが初めて出会った時… ロケット団に追われた時…セキエイリーグに出場した時…オレンジ諸島に旅をした時… ジョウトに旅をした時…色々懐かしい思い出話をお互い交わしていた。 それが僕が 彼のために出来る力だから…。 それでもピカチュウは満足していた…。 お互い楽しく 会話するのを。 なぜならこれが最後の会話になるかも知れないから…最後まで逃したく ないから… サトシ「…なぁ、ピカチュウ。 覚えてるか? 俺とお前が初めて会った時の事を。      あん時は色々あったよな。 お前俺に全然慣れなくて、よく俺に電撃     食らわそうとしたよな? でも、お前があの時、俺を助けてくれたんだよな?      俺がお前を助けようとした時…。 あの時は忘れなかったよ…。 あの時こそが、     俺とお前が初めて友達になった時だったからな…。」 ピカチュウ「ピ…カ…。」 サトシ「それにしても今まで考えたら…ロケット団もホントしつこい奴らだったよな。      俺達が旅立ってる最中からしつこくお前を追ってたからな。 ったく、ホントに     変態って言うかストーカーって言うか何て言うか…もうねぇ、アホかと、     バカかと…。 あいつらはピカチュウ以外他に追う奴がいねぇのかと小一時間     問いたかったなぁ…。」 ピカチュウ「ピカカカカ…!」 ピカチュウは力を入れながら笑おうとした。 サトシ「…でも、お前も相当疲れたんだよな。 今考えたら、お前がいなくなると     あいつらも寂しくなるだろうな…。 …なぁ、ピカチュウ。 どう思う?      やっぱり寂しくなるか?」 ピカチュウ「ピカ…。」 ピカチュウは頷いた。 サトシ「…そうだろうな。 長い付き合いの腐れ縁だもんな…。 でもあいつ悪い     奴らだけど…たまに助けてくれた事もあるからな…。 色々世話に     なったからな…。 …今度会う時は、あいつらにも言わなきゃな…。      悲しむかも知れないけど…。」 ピカチュウ「…ピッカ…。」 その話の後、サトシは真剣な顔で次の話を進めてみた。 サトシ「…なぁ、ピカチュウ…。 …お前がいなくなったら…俺、どうすればいいのか…     分からないんだ…。」 ピカチュウ「ピ…?」 サトシ「…あのさ…俺…旅を止めようと思ってんだ…。」 ピカチュウ「ピ…!?」 サトシ「…弱音を吐く事になっちまうけど…お前がいなくなったら…俺、旅を止めようと     考えてんだ。 俺はお前と一緒にいたから、旅を続ける事が出来たんだ。      だけど、お前と別れると、もう進める気がしなくてさ…。 それに…俺はもう     十分リーグ出場もしたんだし…ここで終わろうと思ってんだ。 まぁ、     ここまでの苦労を台無しにしちまう事になるけど…俺はもう満足したから…。」 パチッパチッ! ピカチュウは力を入れようと必死にサトシの手を叩きながら、頭を 振った。 サトシ「…え?」 ピカチュウ「…ピ…ピカ…ピカチュウ…チュウチュ…ピカ…ピッカ…チュウ…!」 息苦しそうなピカチュウは必死に何かをサトシに伝えようとした。 サトシ「………止めちゃ…ダメ………?」 彼がそう言うと、ピカチュウは頷いた。 ピカチュウ「…ピカ…ピ…ピッカ…ピピッカ…ピッピ…チュウチュピカ…ピッカピ…。」 サトシ「………例え…死んだとしても…いつでも…俺の心の中に…いる…?」 彼がそう言うと、ピカチュウは頷いた。 ピカチュウ「…ピッカ…ピカ…ピ…チュウ…ピカピ…ピカピカ…ピチュウピ…ピッカ…。」 サトシ「………俺の心の中では…いつでも生きている…。 …そうである限り…旅を     止めちゃ…ダメ…?」 彼がそう言うと、ピカチュウは頷いた。 その間のサトシは、何だかとピカチュウの 言葉を理解するようになった。 今まではジェスチャーばかりの会話だったが、 サトシ自信はピカチュウの言葉を分かるようになった様子。 そんなピカチュウの言葉を 聞いたサトシは、悲しそうな笑顔でピカチュウの頭を撫でた。 サトシ「…お前がいなくても、俺の心の中には生きている…か…。 …フッ…     そうだよな…。 お前の言う通りだよ。 例え姿がなくても、俺の心の中には     ずっと一緒だよな…。 そうだよな…ピカチュウ?」 ピカチュウ「…ピ…カ…?」 サトシ「いや、臭くも思わなかったよ。 とてもよかったよ。 俺、その言葉を大事に     するよ。 絶対に捨てやしないから。 そう思いながら、俺も旅を続けるよ。      だから…な…?」 …僕とピカチュウは、時間の流れる間、ずーっと話し合っていた。 最後の友達同士の 会話を… …そしてやがて三時間も経ち…とうとう日が沈み始めた。 そう…そろそろピカチュウは 逝く準備をしていた… ピカチュウ「…!! ゲホゲホッ!!!」 その時ピカチュウは口から血を吐き出し始めた。 サトシはそれに気付くと、一瞬に 驚いた。 サトシ「!? ピカチュウ!? だ、大丈夫か!?」 ピカチュウ「…はぁ…はぁ…。」 ピカチュウが吐血をした後、だんだん息が激しくなって来た。 サトシ「………おい…まさか………もう時間なのかよ………?」 そう言いながら、サトシは不安に走り始めた。 今まで我慢していた気持ちは、とうとう 解かれてしまい、弱音を吐き始めた。 サトシ「ピカチュウ…ピカチュウ…!!! 頼むピカチュウ、逝かないでくれ!!!      死なないでくれよ!!! まだ話したい事が山ほどあるってのに…!! 俺…     お前がいないと…何も出来ねぇんだ!!! もう進めねぇんだよ!! どんなに     お前との約束を守ろうとしても…俺…お前を死なせたくねぇよ!!! お前は     俺に取っての大切な友達だよ!! 掛け替えのない宝物だよ!!! そんなの     失いたくない!!! 消したくないよぉ!!! だからお願いだ…     死なないでくれぇ!!!」 たくさんの弱音を吐き捲くったサトシは泣き崩れてしまった。 今までやらない事を我慢 していたが、もう限界。 所がそんなサトシが泣き崩れている最中、ピカチュウは必死に 力を入れながら、サトシの手を握った。 サトシ「!」 ピカチュウ「………ピ…カ…ピ………ピ…ピ…カ…チュウ………。」 ピカチュウがそうサトシに呟いた後、ゆっくり目を閉じ、息を絶えて行った。 サトシ「………ピ…ピカチュウ………?」 彼はピカチュウの名前を言うと、ピカチュウは返事もしなかった。 もちろん目を開ける 事もなかった。 サトシ「………おい…うそだろ………? …ピカチュウ…起きてくれよ………     聞こえないのかよ…ピカチュウ………!?」 サトシはピカチュウを揺らすが、ピカチュウは身動きもしなかった。 そこでサトシは ようやく気付いた。 ピカチュウはもう………。 サトシ「………くっ……………ピカチュウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!」 …ピカチュウはとうとう逝ってしまった…僕を置いて…。 あの時の僕は、心に大きな 傷を残すほど強く叫び、その叫びセンター全体に響き出した。 …あの時の僕は、涙を 止む事もなかった…。 悲しみを収める事もなかった…。 僕は大切な物を失って しまった事を、酷く後悔した…。 その日の夜…僕は泣き続き、眠る事もなかった…。  こんな人生…今までなかった…。 生まれて初めてだった…こんな経験… …それから翌日…僕は泣き止み…ある草原で一人立っていた。 僕の前には、小さな墓が あった。 そう、その墓こそ、僕のピカチュウの墓…。 この墓の下に、僕の ピカチュウは安らかに眠っている…。 そんな僕は花束を持ち、最後に僕はこう呟いた… サトシ「………なぁ、ピカチュウ………短い人生だったかも知れないけど………お前、     俺と一緒にいて楽しかったかな………?」 彼はピカチュウの墓にそう呟くと…。 『ピカピ〜〜〜!』 サトシ「!?」 サトシは後ろに振り向くが、そこには何もなかった。 だがかすかに彼はピカチュウの 声が聞こえた…。 そんな彼の周りに爽やかな風に包まれ、彼はゆっくりと眩しい 太陽の方へ見上げた。 …僕は今まで、大切の友達を失ったと思った…。 けど、そうでもなかった… …僕は忘れてはいなかった…。 例え姿がもうなくても…僕の心の中には、ピカチュウが 生きているって事を… …そして僕には聞こえた…。 あの風の中に…あいつの声が… ………『楽しかったよ』…と言う声が……… サトシは目から涙を拭きながら、最後に笑顔でこう呟いた。 サトシ「…お前は俺といて楽しかったか? …俺は楽しかったぜ!」 …でも…忘れてはいけない…あの時ピカチュウが発した最後の言葉を… …みんなにも聞こえたかな…? ……………『ありがとう』と言う言葉を…………… 〜〜〜END〜〜〜