『末っ子』 …ここはジョウト地方の北側にある街、『エンジュシティ』。 この街は古風な光景に 覆われていて、日本文化に激しく溢れている。 伝説に残されている二つの塔、『焼けた塔』 と『スズの塔』…舞妓などに有名な『エンジュ舞妓劇場』…ポケモンリーグに出場する ための挑戦場『エンジュシティポケモンジム』…などが建てられていた。 そんな街中に、 一人の少年がいた。 その少年は後ろ向きの黄色と黒の混ざった帽子、前髪が尖っている 黒髪、白いポケットの付いた赤いジャケット、黄色と黒の混ざった短パン、そして白と 赤のスニーカーをはいていた。 その少年の名は『ケンタ』。 彼は『ワカバタウン』と言う小さな町から来た少年で、 ポケモンマスターを目指すために旅をしていた。 各地のジムに勝利を得ながら、仲間に 加えるためのポケモンを捕獲しながら、彼は旅を続けていた。 そんな彼は、手にジム リーダーから貰ったそれぞれのバッジを見ていた。 ケンタ「ウイングにインセクト…レギュラーにファントム…ショックにスチール!      バッジも六個揃ったぜ! 残るは後二個! 後二個さえあれば、憧れのポケモン     リーグに出場だ! 後は目指すはチョウジとフスベ! そのためにはこの街を     通って、『擂鉢山』を通らなきゃならないからな。」 そんな彼はそう呟きながら街中に歩いていた。 ケンタ「…しっかしこの街も久しぶりだなぁ。 相変わらずな古風の光景…いい感じ     だねぇ!」 …しばらく経つと、彼はある一本道に歩いていた。 その隣には坂となっている草原が あり、その下には太陽から奇麗に反射する川があった。 ケンタはその景色を見ていた。 ケンタ「うわぁ〜、奇麗な川だなぁ〜! そう言えばここ通った事なかったんだよなぁ!      この道を通れば擂鉢山なんだ。 次のジムにはとても期待だぜぇ! よっしゃ、     早速ダッシュでぇ〜〜〜………ん?」 ハイテンションで駆けようとするケンタだったが、道の先にはある女性が川を眺めながら 座っていた。 その女性は長い青色の髪で、青い袖なしドレスをしていた。 そんな 女性は悲しそうな表情で川を眺めていた。 一方ケンタはその女性を見覚えがあるように 見詰めていた。 ケンタ「………あの人は確か………。」 ケンタはそう悩みながらその女性に近づいて来た。 ケンタ「………!! あぁっ!!! 『サツキ』さんじゃないッスかぁ!!」 サツキ「!?」 サツキと名乗るその女性は驚きながらケンタの方へ振り向いた。 サツキ「!! ケ、ケンタ君!?」 ケンタ「ヘッヘッヘ、驚かしてすんません! っつ〜かお久しぶりッス♪」 サツキ「び、びっくりしたぁ…。 まさか貴方だったとは思わなかったわ…。」 ケンタ「まあ、俺も貴方だったとは思わなかったですよ! でっ、こんなトコで     何やってんですか?」 ケンタは元気そうにそう言いながらサツキの隣に座った。 サツキ「あ………ええ…ちょっと…川を眺めてたの。」 ケンタ「………そんな悲しそうな顔をして?」 サツキ「え?」 ケンタ「見てましたよ? 何か悲しそうに川を眺めてましたけど…。 何か…悪い事でも     あったんですか?」 サツキ「……………。」 ケンタの質問に聞いたサツキは、思わず落ち込んだ顔をした。 サツキ「…ねぇ、ケンタ君。 私は今、どんな仕事をしてるか、知ってるよね?」 ケンタ「え? ええ、確かエンジュ舞妓劇場では劇団長みたいな活躍をして     いたんですよね? 他にも生花とかお琴、茶道や書道などの和風系の奴をして     いるとか…。」 サツキ「…その劇団のメンバー、誰だか覚えてる?」 ケンタ「は? ええ、まあ、一応覚えてますよ? リーダーがサツキさんでしょ? その     他にも次女の『スモモ』、三女の『タマオ』、そして四女の『コウメ』でしたよね?      確か全員揃って『エンジュ美人四姉妹』とか…。 あっ、そう言えばもう一人     いましたよね? 確かそれの『出がらし』である末っ子の『サクラ』も…! あ     いつも色々と文句言ってましたよねぇ〜、自己紹介中『五姉妹よ!』って言い     返しながらと! なかなか酷く虐められたそうですけど、サツキさん達も彼女に     チャンスとか上げた方がいいですよぉ〜? いくら末っ子だからと言って扱い方     悪いッスからぁ。 あっ、それよりも、サクラはあれからどうしてるんですか?      今でも元気に………!」 余りにも話に夢中になっていたケンタは、サツキの表情を見た。 『サクラ』の名を 聞いた彼女は、ふと悲しい表情と化していた。 ケンタ「………サツキさん?」 サツキ「………ごめんなさい、ちょっとサクラの名前を聞くと…。」 ケンタ「………サクラと、何かあったんですか?」 ケンタは心配そうにそう言った。 サツキ「……………そうねぇ…何かあったとでも言えるわね。 ………とても悲しい     出来事だったから………。」 ケンタ「え?」 サツキ「ねぇ、私達姉妹とサクラの関係、どう言うのだったか覚えてる?」 ケンタ「え? え、ええ…確かレベルが似合わないように悪かったようですが…。」 サツキ「…貴方がここから離れてから一ヶ月も経ったわよね? あの時から私達は再び     稽古を続けていたの。 そんな私達姉妹はサクラを出がらしや雑用扱いしてた。      そんな彼女はそれでも認めさせようと必死に稽古を続き、ボロボロになっても     頑張り続けた。 それでも私達姉妹は彼女を美人姉妹の一員とは認めなかった     けどね。」 サツキは少々笑顔でそう語るが、再び悲しそうな表情に戻った。 サツキ「…けど、ある日サクラに異変が起きたの。 稽古中にサクラが眩暈をし始めたの。      しかも稽古を続けてる間から何回も…。 様子はおかしいと思い彼女に     話しかけたけど…『大丈夫。 ただの寝不足だから。』と答えたの。 妹達は     だらしないとかやる気あるのとか色々平気に文句付けたけど…どうも気に     加えなかったの。 何か隠し事をしてるに違いないと不安に思ったの。」 ケンタ「……………。」 サツキ「それから経ってから、私達に新しい劇を行う事にしたの。 旅路に疲労している     トレーナー達や観光客達を癒すための劇。 サクラも張り切ってたけど、妹達は     それでも彼女の事を絶対失敗する事でバカにしてね。 でも、そんな喜ぶ     サクラを見て、私は不安に思った。 彼女は何かを隠してることに無茶して     いると…。 そんな稽古の最中、彼女は再び体調を崩すように眩暈をし続けた。      何度も何度も倒れようとしても、彼女は必死にがんばろうとした…。 妹達は     その事も決して気付かずに何度もサクラに怒ったけど、私は不安に抱え続けて     いた。 そんな彼女は息苦しくなるほど疲労し始め、だんだん隊長が完全に     崩されそうになっていた。 けどそんな彼女は、例え妹達に酷くバカにされても、     それでも諦めずに稽古を続けていた…。」 ケンタ「……………。」 サツキ「…それで本番の日がやって来て、遂に私達は舞台に立ち上がろうとしたの。      サクラも張り切っている様子だけど…私はそれでも心配に我慢出来なかったの。      私は彼女に…『貴方は最近様子がおかしいわ。 何か悪い事があるなら引き     上げてもいいわよ。』と言った。 けど彼女はそれを拒否した。 『心配しないで。      あたしはお姉ちゃん達の望みを叶えさせたいから、このまま舞台に立たせて。』と、     サクラはそう言ったの。 そして私達は舞台に立ち上がり、早速本番に入ったの。      劇の最中、私達は心を込めて踊りながら観客達を癒させたわ。 けど驚いたのは     …彼女は完璧に踊っていたわ。 奇麗に…美しく…輝けるほど踊っていたわ。      今まで本番では必ず失敗する彼女は、あの頃から初めて成功を果たしたの。      妹達もそんな彼女を見て驚いたわ。 …結果、劇は無事に成功。 観客達は     大喜びに拍手してくれたわ。」 ケンタ「……………。」 サツキ「…その時だったわ。 悲劇が起こったのを…。 劇が終わり、舞台の裏に     向かった私達の前に…突然サクラが倒れたの。 急に意識を失って、心臓も     激しく動いていて…私が不安していた通りにだったの。」 ケンタ「!?」 サツキ「それから救急車を呼んだ、至急病院に連れて行って、サクラの検査を行ったの。      …検査の結果は、その時の医者から聞いたの…。 サクラは………白血病に     掛かっているって。」 ケンタ「白血病!?」 サツキ「…私達はその事に酷く驚いたわ…。 けど、微妙だったのは医者の一言だった…。      『妹さんから聞いてなかったのか? 彼女は数日前からここに来て結果を既に     明かしていたはずだ。』って…。 そう、彼女は分かっていたの…。 自分が     白血病になっているって…。 白血病って何なのか分かる?」 ケンタ「え!? あ、はい…何かすげぇ悪い病気で…手術しても治せないって言う…。」 サツキ「そう…しかも寿命の日は、その時の日だったの。 急いで彼女のいる病室に入り、     彼女の無惨な姿を見たわ…。 ベッドの上で倒れて…顔色がすごく悪くなってて     …今でも直ぐに死にそうな表情と体制をしていたわ…。 でもそんな彼女は、     無理にも笑顔で私達を見詰めたわ。 …そこで私と妹達は彼女にこう言った…。      『何で今まで私達に黙っていたの? 白血病に掛かっていたのならなぜ一言も     言わなかったの? なぜそこまで知ってて無理に舞台に立ったの?』って…。      その時彼女はこう言った…。 『言ったらお姉ちゃん達の望みが叶えなくなる     から…。』って…。 私は必死に彼女の手を握り締め…絶対逝かせないように     必死に彼女を守ろうとしていた。 けど、命の炎が燃え尽きるまで後僅か…     彼女は最後に、私達にこう伝えた…。 『…お姉ちゃん達の末っ子になってて…     楽しかった…。 今まで本当に…ありがとう…。』………。 それを伝えた後…     彼女はこの世から去った…。」 ケンタ「……………。」 サツキ「…そして私達は、心が裂けるほど泣き出し、その涙は止まる事さえもなかった…。      そこで私は思ったの…。 彼女が言っていた『望み』の事を…。 もしかして…     これが私達が望んでいた物だったの…? 大切にも思っていないその掛け替えの     ない妹を失うのが…私達の望んでいた物…? もう必要ないと思って…死を     選んだのを…彼女が望んだ物…? 私達は心の中で…何度も責めた。 自分を     殺したいほど、何度も責めた…。 サクラを死なせたのは…私達のせい…。      今まで出がらし扱いにし、ちゃんとした愛情を注げなかったのは私達のせい…。      彼女をそう望ませたのは…私達のせい………。 …もしも…間違った事を     選ばなければ………サクラを…失わずに………。」 語り続ける間にサツキの目から涙が流れ出し、息苦しくなるほど泣き始めた。 ケンタ「……………。」 そんなケンタは、ただ話を聞いて、サツキを見守るしかなかった。 その後彼女は涙に溢れた悲しい表情でケンタに振り向いた。 サツキ「………ねぇ…ケンタ君…。 貴方は…どう思う…? これが………私達が本心に     …サクラが望んでいた物…なの………?」 ケンタ「……………。」 サツキの悲しき発言を耳にしたケンタは、静かに悩み始めた。 ケンタ「………俺には兄弟はいないし…状況を見ていなかったから分からないけど………     多分、それが貴方やサクラが望んだ物じゃないと思います。」 サツキ「え………?」 ケンタ「サクラが望んでいたのは、自分の存在自体に憎い事に死を選んだんじゃなく、     白血病に落ちるこそが運命だからでもない。 もちろん、貴方が望んでいたのは、     必要のない存在を捨てるためでもなく、彼女を死なせたのが運命だからでもない。      多分…サクラが望んだのは、自分とサツキさん達のためだと思うんです。」 サツキ「…サクラと…私達のため…?」 ケンタ「要するに…サクラは自分が白血病に掛かっていた事を、医者から聞いた時に     知っていた。 自分の命は長く続かない事も知っていた。 でも、思い出して     ください。 サクラはサツキさん達と同じ姉妹の中に加えたかったんでしょ?      その時から彼女は決意したんです。 自分を姉妹の中に加え、それを姉妹に     認めさせてみせる…それが彼女の望みだったと思います。」 サツキ「え?」 ケンタ「本当は命が長ければ、それまでに時間がたっぷりあったのかも知れない。 けど     寿命が近づいて来た頃には、タイムリミットに近づいていた。 それまでに     彼女は急ぐ必要があったと思います。 最後まで、自分が美人姉妹に加える     ために、命懸けで戦っていたんですよ。 その当時の舞台…俺は見なかったです     けど………多分、あの最後の瞬間…彼女は本物の美人姉妹の一人になったと     思います。」 サツキ「!」 ケンタ「その時まで彼女は最後まで自分とサツキさん達の望みを叶える事が     出来たんですよ。 最後まで望みを叶えただけで、相当満足したと思います。      人間は最後まで夢を追い続き、最後までそれを掴まなければならないんですよ。      だから彼女は、死ぬのを分かっていたのに、最後まで自分の夢を掴めたんですよ。      そして、最後までサツキさん達が望んでいた、彼女が一人前として姉妹の一員に     なる事を、叶えられたんですよ。」 サツキ「……………。」 ケンタ「気付かなかったのは分かります。 悲しみさえしがみ付いていれば、真実を掴む     事が出来なかったからね。 …けど…彼女のために…悲しみ続かない方がいい     ですよ。 それの方が、彼女の方が悲しますから。」 サツキ「!」 ケンタ「確かに大切のはずであるその人を失うのはとても悲しい事です。 もう二度と、     あの頃には戻れないと言う、心を裂けた気持ちになるでしょう…。 でも、そう     思わないでください。 例えその大切な人の姿がこの世から消えたとしても、     その人の姿は永久に心の中に生きていますから。 体はなくても心さえあれば、     いつでもどこでもその人と会える事が出来ます。 サクラは今でも…     サツキさん達の心の中に、必ず生きてると思いますよ。」 サツキ「……………。」 サツキはそう思いながら、自分の手を胸に当てた。 サツキ「………もしもそうだとしたら………あの子………私達を許してくれる     かな………? 今まで酷い目にあわせて………最後まで助けられなかった事を     ………許してくれるかな………?」 ケンタ「………多分、許してくれますよ。 彼女はサツキさん達の大切な末っ子ですから、     決して憎んだりはしません。 彼女もきっと、サツキさん達を許してくれますよ。      心の中に………。」 サツキ「……………。」 彼女は自分の胸をしがみ付きながら、多くの涙を零し続けた。 そして彼女は、そんな 涙に溢れた笑顔でケンタに見上げた。 サツキ「………ありがとう…ケンタ君………。 …貴方のおかげで…色々教えてくれた     ………。 彼女は私の心の中にいる………今でも生きている………。 今でも     ………笑ってくれてるかも知れない………。 私………私………決してサクラの     事を忘れない………。 ………一時は壊れた家族だったけど………サクラは     ………私の大切な末っ子よ………。」 ケンタ「……………。」 安心したケンタは、彼女に微笑んだ。 しばらく経つとサツキは涙を拭き、ケンタは立ち上がった。 ケンタ「っさて、俺もそろそろ行きます。」 サツキ「もう行くの?」 ケンタ「ええ。 次のジム、チョウジタウンに行かなくちゃなりませんから。」 サツキ「…ありがとう、ケンタ君…。」 サツキはそう言いながらケンタに微笑んだ。 そんな優しい笑顔を見たケンタは、思わず 赤面した。 ケンタ「ん………べ、別にいいですよ…。 あっ、そうだ! あの、いつかここに     戻ります! それまでに、サツキさん達のトコに遊びに来てもいいですか?      もちろん、サクラの墓参りもしたいし…。」 サツキ「……………。」 サツキは微笑みながら、ケンタの前に立ち上がり、ケンタの手を掴んだ。 サツキ「…喜んで…。 貴方が来れれば、私やサクラも喜ぶわ。」 ケンタ「…はい!」 そしてケンタは早速旅を続けるために歩き出した。 だが先に進んでいる間、彼は振り 向きながらサツキに手を振った。 ケンタ「さよならぁ〜〜〜!!!」 サツキ「さよなぁぁ〜〜〜!!!」 …家族と言うのは…掛け替えのない存在… …時が流れれば…いつの日か…大切な家族の誰かを失うのかも知れない… …けど…悲しまないでほしい…絶望しないでほしい… …例え…その大切な人が永久に消えたとしても… …その人は…永久に心の中に生きている… …心の中に………永遠に… …終わり…