思えば、幼い頃から、空は憧れだった。遥か高く、どこまでも続く大空・・・ けれど、同時に空を怖がるもう一人の自分がいた・・・ 『空が来てくれればいいのに・・・』そんな事を思っていた時期もあった・・・ そして俺は・・・空が嫌いになった。 ザ・ラブストーリー 一章『風の変奏曲』 俺が初めてその町を訪れたのは、確か去年の夏・・・ ホウエンリーグに出場するつもりで、ひたすらバッジを集め、残りは三つ・・・ そして、俺はその町・・・ヒワマキシティに辿り着いた。 第一声は・・・『気に入りそうに無いな・・・』 ヒワマキ名物、ツリーハウス・・・木の上に建てられたその家は、まるで空にあるようで・・・空の嫌いな俺は、気に入らなかった。さっさとジム戦をやって、この町を離れるつもりだった。 しかし、我ながらあの時までの自分はどうかしていたと思う。 空が嫌い・・・それでも、旅を続けていれば、毎日嫌でも空を見ることになるのだから・・・ それでも、空に近いように見えるこの町は好きになれなかった。 あいつに、会うまでは・・・ ジムに入る。一人目のトレーナーとバトルした瞬間、さっさと終わらせたい、そう思った。 ここのジムは、飛行タイプのジムらしい。空が嫌いな俺にとって、最も嫌なジムだった。 幸い、俺は電気タイプポケモンの使い手。さっさと終わらせるのにこれ以上無い相手だ。 次々と勝ち進み、そして、最後の間に入った瞬間・・・俺の中の何かが変な音を上げた。 そこにいたのは、一人の少女・・・そいつを見たとき、俺はこう思った。 『まるで、空みたいな女の子だな・・・』と・・・ 無論、ジムの最奥・・・そこにいるということは、彼女こそがここのジムリーダーであるということ。 ヒワマキシティ・・・風と空の町のジムリーダー・・・彼女の名前は、『ナギ』。 そして、俺の中の何かを変える戦いが始まった・・・ 戦いは、それまでの中で最も長く、そして速く感じた・・・ 相手の最初のポケモンは、オオスバメ。 影分身をやたらと多用して惑わせようとするそいつを、俺のライチュウは電撃波の一発で撃ち落した。 次はペリッパー。 先手必勝の十万ボルトで、勝負は決した。 そして、3体目はエアームド。 意外にも苦戦を強いられた。いきなりの乱れ突きや鋼の翼による猛攻。結局、ライチュウは倒れ、2体目のランターンのフラッシュに紛れ込ませたスパークでやっと沈めた。 遂に4体目。 相手はチルタリスだ。飛行タイプの他にドラゴンタイプを持つ。電気タイプの有利も、ここまでのようだ。 だが、こんな事もあろうかと、俺はランターンに冷凍ビームを覚えさせていた。これなら楽勝・・・その予想は、すぐに打ち砕かれた。 「何だ・・・何だこれは!?」 何が起こっているのか、俺は一瞬分からなかった。冷凍ビームは、確かに当たったように見えたのだが・・・ 「また影分身・・・しかも、空中か・・・これじゃ見極めようにも目が慣れないな・・・」 俺は直感で感じ取った。このチルタリス、とんでもなく強い。そう言えば、この町のポケモンセンターにいた別のトレーナーが『最後のポケモンにぎりぎりまで追い詰められた』とか言っていた気がする。なるほど、こういうことか・・・ だが、こちらにも手はある。当て辛いのなら、とにかく当てることを考えるのみ! 「ランターン、電撃波だ!」 電撃波なら、どう足掻いても打ち消さない限り必ず命中する。そう、打ち消さない限りは・・・ 「チルタリス、竜の息吹!」 電撃波と竜の息吹がぶつかる。爆音と共に見えたのは、立ち上る砂埃と、その向こうから押し寄せる青い波動だった・・・ そして、10分が経過した・・・ まさか、ここまで持久戦になるとは思わなかった。ランターンはそのまま倒れ、次のマグカルゴも、粘った末に倒れた。 強い。何故、あれ程までに強いのか。もはやレベルがどうとか、そういう問題ではない。ただ、何かが違うのだ。その何かが分からず、俺は4体目・・・即ち、このバトルにおける最後のポケモンを出しあぐねていた・・・ 「何なんだ・・・?何かが違う・・・」 何が違うのか・・・そして、俺は今まで気付かなかったある事に気が付いた・・・ 「天井が・・・開いている・・・?」 バトルの前は、何も関心を示さなかった天井・・・いつの間に開いていたのか。いや、そんな事よりも・・・ 「なるほど・・・空の下か・・・それじゃあ、苦戦するわけだ・・・」 空が嫌い・・・それがこんな所になって影響してくるとは思わなかった。だが、その時、何かが俺の中で目覚めた。 「・・・空・・・か・・・」 不思議と、子供の頃を思い出す。まだ、空が好きだったあの頃・・・そらに憧れていたあの頃を・・・ 「・・・俺は、もう一度空が好きになれるのかな・・・」 ふと、そう思った。そして、確信した。 この戦いの中で、空を好きになる事・・・それが、勝利への必要条件・・・ ならば、もう空を拒絶するのは止めよう。そして、空を受け入れ、尚且つ負けない方法・・・ その時俺は、戦う前には絶対にありえないと思っていた行動に出た・・・ 「行くぞ、ジュカイン!」 向こうも驚いている。当然だ。草タイプは飛行タイプに対して相性は抜群に悪い。 よって、飛行タイプのジムで草タイプを出すのはタブーの筈だ。増して、ドラゴンタイプは草タイプの攻撃に強い。 それなのに、俺は草タイプのジュカインを繰り出した。 「何故・・・?草タイプで、飛行タイプに・・・?」 「分からないさ。でも、こうしなきゃ何をやっても無駄・・・そう思っただけだ。」 それに、まったく勝算が無いわけではない。相手はドラゴンタイプ。ならば、あの技で勝負に持っていける! 「対空砲火じゃ今までのようになるのがオチだ・・・だったら、一か八か、飛び込むまで!ジュカイン、思いっきりジャンプだ!」 大地を蹴り、複数見える相手の高さに一瞬で並ぶ! 「目線が同じなら、見極めるのも下でやるよりかはよっぽど簡単だ!ジュカイン!お前の思うままに、ドラゴンクローだ!」 ドラゴンタイプの弱点の中には、同じドラゴンタイプも含まれている。ならば、そこを突くのみ。 そして、ジュカインのドラゴンクローは、一撃目で本物を捉えた・・・ 「完敗よ。まさか、いきなり見破られるなんてね。」 「いや、それでもあのままだったら負けてたよ・・・そして、これからも勝つことなんて無かったと思う。今までの俺だったら。」 「今までの・・・?」 「・・・俺は今まで、空が嫌いだったんだ。理由は分からない。多分、届かない事が悔しかったんだと思う・・・でも、今は違う。」 「え?」 「・・・子供の頃と同じように、空を好きになれた。嫌いだった理由もはっきりしたし、それも克服できた・・・多分、君のお陰だ。ありがとう。」 「・・・どういたしまして。」 そして、その時から俺の物語は始まったんだと思う・・・ 続く・・・ 筆者のぼやき やっぱり、内容的に一話で終わらせるには無理があったか・・・ ってか、最初書き終えたときに、『主人公の名前が出て無いじゃん!』と思って、焦りましたよ。本当に・・・ 結局、序章との繋がりで分かってくれる事に期待して(&下手に名前を入れる事によって起こるかもしれない文章のバランス崩壊を恐れて)そのままに。 まあ、序章を読めば分かると思いますが、主人公は長男のライマです。 ちなみに、彼の手持ちは今回出した他に、サンダースとチャーレムがいます。電気系が3体入ってるんですね。 実際に、この人には本当に苦戦しました。チルタリスが強すぎ。結局、プラスルのスパークで麻痺させつつ、何とか撃破。ルビサファはこちらのレベルが低めになりがちで苦戦しました。 次はライマ編の後半をお届けします。乞うご期待!・・・やっぱり期待しなくても良いです(おい)。