「ドン、ジャイロボールのキレが悪い!もっと空気抵抗を意識してくれ。」 彼のドータクンは何となくすまなそうな顔をしているように見えた。 「ソル、威張るから自己暗示までの時間が少し早い!相手に感づか れないようにあとちょっとだけ遅くして。」 自分の思い通りに技が出せなくてくやしそうにする彼のアブソル。 「ミロとユノはそれでOK!大会までそのクオリティを維持するように。」 彼のミロカロスとユキノオーは嬉しそうに顔を合わせた。 「トゲ、電磁波はもう良いからエアスラッシュの練習をしろ!」 つまらなそうに彼のトゲキッスは顔を歪めていた。 僕は、彼がポケモンのウォーミングアップをしているのを木陰から見ていた。 木陰から見ているのは、今顔をあわせるとすぐにバトルを申し込 まれるから。 さっきひと眠りすると言ったのは、彼がバトルを仕掛けてきそう だったから。 僕が勝負をしたくないのは、建前上は手の内を知られたくないか ら。 彼、ザクロと僕、シュウヤは今日の大会でぶつかるかもしれないからね。 本当の理由は――――――――― 彼は、強すぎるという事だ。 並大抵の強さではない、彼とのバトルでは、こちらが攻撃しようと したときにはもう遅く、ふと見ると自分のポケモンは倒れている。 そんな状況なのだ。 とにかく、彼にかなう者はそう多くない。確かホウエンチャンピオ ンのダイゴでも一瞬でかたがついたと聞く。 そんな彼を知っているもので、今話しかけるような奴は――――――――― 「あ、あの、ざ、ザクロさん。」 いた。 顔を赤らめながらザクロに話しかける一人の少女が。僕のはとこに当たるアジサイだった。歳はザクロと同じ15歳。彼女はザクロに 好意を持っているが、内気な性格なのでなかなかザクロに思いを伝えられない。 親戚の僕が言うのもなんだけど、なかなか可愛いのに。 ちなみに、そのことに気づいていないのは、 女の子に興味がないためそういうことに鈍いザクロ本人だけだ。 「ん?なんだアジサイ?」 「え、えっと、あの、その・・・・・・・・・・・・私と、その・・・・・・・」 「お前と?」 「・・・・・・・私と、ウォーミングアップのバトルして下さい!」 付き合って下さいって言いたかったんだろうな。う〜ん、甘酸っぱい。 「よし、いいぜ。1対1の真剣勝負な。」 「う〜、わかりました・・・・・・・・・・。」 絶対アジサイは涙目になってると思う。 数分後 「行け、ドン!」 「出てきて下さい、ボルト!」 ザクロはドータクンを、アジサイはライボルトを出す。 「ボルト、雨乞い!」 フィールドに雨が降り始めた。 「ドン、トリックルーム!」 彼らの周りの時空が歪む。これがザクロの狙いだ。 「ドン、ジャイロボール!」 「落ち着いて、ボルト!ゆっくりよけて!」 この手には慣れているようだ。ボルトはトリックルームの効果を 利用し結果的にさっとよける・・・・・・・・・・・ はずだった。 「ドン、今だトリックルームを解除!」 ボルトにジャイロボールが命中する。ジャイロボールは遅ければ遅いほど威力が高いから、 ドンのスピードを考えるとボルトはすでに瀕死・・・・・・・・・・・・・ 「(ムクッ)」 ではなかった。どうやらギリギリのところでかわし、直撃は避けたようだ。 「雷!」 雨が降っていたため先ほどのジャイロボールと違い避けることができない。 「トリックルーム!」 ザクロはそれまでも読んでいたようだ。ドンは動きの遅くなった雷を軽々と避ける。 ボルトは力を使い果たし、倒れてしまった。 「勝負あり、だな。」 「はい、完敗でした。」 がっくりと肩を落とすアジサイ。 「そういうなよ。結構良いバトルだったぜ。さすがに32個のバッジと、25回の殿堂入り経験を持ってるだけある。すごいよ、お前。」 アジサイは顔を真っ赤にして目をそらす。いつ見ても甘酸っぱいなぁ、この二人。 数分後 ザクロが立ち去ったのを確認し、僕はボーっとしているアジサイのもとへそっと近寄り、ポン、と彼女の肩を叩く。 「・・・・・・残念だったねぇ、今回も告白できなくて。」 「はい。でもバトルできただけで満足です・・・・ってシュウヤさん!?どうしていつからここに!?」 アジサイは、ザクロとのバトルを終えたときと同じぐらいに顔を真っ赤にしていた。 途中までまだボーっとしていたようだ。そうか、バトルできただけで満足なのか。 「そりゃここの大会に出るためだよ。君を誘ったのだって僕じゃないか。」 「そうじゃなくて!私とザクロさんのやり取り見てたんですか!?」 「・・・・・・・・・・さあて、もうすぐ開会式が始めるぞぉ☆」 「答えて下さい!!!!!」 後ろで聞こえたアジサイの声を僕が無視したのは、当然の事だ。