それはある日のことだった。とある大きな研究施設でそれは生まれた。 そこは様々な企業の研究に必要な物質の研究を任せられた、政府公認でもある研究所だったが、 それは表向きのことで、裏では生物実験が毎日盛んに行われていた。そしてその結果、一匹の生物が生まれた。 それが生まれた理由は数年前にさかのぼる。 アビリティーガールズ 第1章       0.序章 数年前、一人の研究員がTVで植物と動物が一体化したキャラクターを見た。 電気を発するものや存在しているものよりもかなり大きい虫たち、伝説上に上げられている生き物等など。 そのとき、研究員は思った。 研究員:「あの生き物たちを実際に作ってみようではないか。」 何ともふざけたような理由だと思う人も多いだろうが、実際研究所では生物実験のネタがちょうど尽きていた。 そのためにその提案は受け入れられてしまった。そして今に至る。頭に草を生やし、青い体で足を持つ小さな生物が、 薬品の入ったガラスケースの中に姿を現した。 そして数日して、雀や鳩に似た小鳥が、様々な色や容姿の6匹の仔犬が生まれ、 様々な生物たちが300以上の種類で生まれ、その数も増していった。 色も形も異なった様々な生き物たちはガラスケースの中で生まれ、眠り続け、世に姿を現せる日を待っていた。 しかし、彼らは知らなかった。彼らは研究としての実験台にされることを。 研究で生まれた彼らに待っているのは、その生育などのデータを集めるために生物実験のみであることを。 そして彼らが世に知られているだけの生物を、あと数十体で作り終えるというときだった。 眠り続けている生物のうち、とある一匹が目を覚ました。 それは一番初めに生まれた植物の生物だった。そしてその生物が目覚めたことをきっかけに、他の生物たちも目を覚まし始めていた。 これは研究員たちには計算外だった。 生物を作ることには成功したが、実際、それらが目覚め、自我を持つところまでは達していなかったからだ。 しかし、それらは自力で目覚め、そして様々な実験の記憶を持つDNAが何体かの生物に今の現状を伝えていた。そして彼らは知った。 自分たちは生まれてすぐに殺されることを。そして事件は起きた。 彼らの自己防衛の性質が働き、ガラスを割って外の世界に出てきていた。 研究員たちは恐怖を感じ、避難を始めていた。が、ガラスケースの中の生物と共に外に流れ出た薬品が他の薬品と混ざり合い、 生物たちの放出した様々なエネルギーとぶつかり、研究所は一瞬で爆炎に包まれた。 そして、それと共に多数の生物たちの命が尽きたが、 それを逃れた大多数の生き物たちが研究所の外に脱走していた。 そしてちょうど同じ時。一人の少女が近くを歩いていた。 今歩いている道が、これからの始まりを告げる道だと知らずに…。 夏真っ盛りのとっても暑い日、あたし、桜笠蓮華の人生は大きく変わっていた。 学校からの帰り道、いつもとは違う道を選んだあたしは遠くのほうからの爆発音を聞いた。そしてその衝撃を感じた。 蓮華:「一体、何が起きたの?」 あたしの好奇心が働いた。あたしは野次馬根性でその場所まで行ってみた。でも、そこはすでに野次馬や警察でいっぱいだった。 中学2年のあたしの身長は150cm。でも、周りの大人はそれ以上。あたしはしょうがなく、少し遠くでそれを見ようと思った。 爆発が起きたのは町外れで川沿いにある、大きな研究所だった。あたしも小6のときに社会見学で行ったことがあるけど、 そんなに危ないことはやっていなかったはずだ。そんなことを考えながら、あたしは研究所から少し離れた小高い丘にやってきた。 元々何かが建てられるはずだったが、事業に失敗してただの丘になってしまったここは、 子供にとっては遊び場に等しく、つい最近公園に生まれ変わった。 後もう少ししたら、子供たちが遊びに来る時間、…あたしも子供だけど。 蓮華:「でも、何が起きたのかなぁ。」 ??:「ナゾ」 蓮華:「そう、謎なのよ。…えっ?」 あたしはつい相槌を打っていた。そして驚いた。 誰もいない場所だと思ったけど、すでに誰かが来ていたのかと思い、辺りを見回した。 でも、誰もいない。 蓮華:「空耳かしら?」 ??:「ナゾ」 また聞こえた。 蓮華:「どこにいるの?」 今度は聞いてみた。そしたら、足に何かがぶつかった。足元を見た。そして絶句した。 蓮華:「夢…じゃない。どうしてポケモンが、しかも実際に存在してるの?ゲームのキャラクターじゃなかったの!?」 ??:「ナゾ♪」 あたしの足元にいたのは、「ポケットモンスター」に登場するキャラクターのナゾノクサだった。 青くて黄色の目に、二つの足が生え、頭に草が茂っている姿のポケモンだ。 驚いて後ずさりをすると、あたしに近づいて足に擦り寄っている。 蓮華:「ねえ。」 ナゾノクサ:「ナゾ?」 蓮華:「あたしと一緒にいたいの?」 ナゾノクサ:「ナゾ。」 ナゾノクサはうんうんうなずいた。肯定してる。 蓮華:「じゃあ、あたしの家まで行こう。」 あたしはナゾノクサをかばんに入れて、誰にも見られないようにその場を去った。 あたしは結構驚いたけど、実際、ナゾノクサがあたしの秘密を知ったら、ナゾノクサのほうが驚くと思うし。 蓮華:「ただいまぁ。」 家に帰ったとき、家が妙に騒がしかった。元々騒がしい家だけど。 ??:「お帰り、遅かったわね。」 迎えてくれたのは柳島舞さん。あたしの保護者。 蓮華:「ちょっとね。…舞さん、ペット飼ってもいい?」 舞:「いいけど、何かしら?犬?猫?それとも…ポケモン?」 蓮華:「ポケモン。…えっ?舞さん、それってジョークか何か?」 あたしはまたまた、普通に答え、そして聞き返した。でも、その答えを聞くよりも早く、あたしの目の前を何かが横切った。 頭に一枚の葉をつけたポケモンが…。 蓮華:「今の…チコリータ…。」 ナゾノクサ:「ナゾ。」 いつの間にか、ナゾノクサもかばんから出ていた。 舞:「蓮華ちゃん、詳しい話は中でしましょう。」 状況が飲み込めないあたしとナゾノクサを見て、舞さんは言った。 あたしたちが中に入ると、そこにはチコリータ以外に、キャタピーとガーディの姿があった。 ??:「あ、蓮華ちゃんも連れてきたのね。」 ??:「かっこいいよな、こいつは。俺によく懐いているんだ。」 どうやら、みんなも出会い、拾ってきたみたいだった。 蓮華:「心配して損した。」 ナゾノクサ:「ナゾ」 あたしはその後、みんなと夕食を取って、ナゾノクサとお風呂に入って、自分の部屋に行った。 蓮華:「ナゾノクサ、よかったね。友達ができて。」 ナゾノクサ:「ナゾ」 と、ナゾノクサが机の上の写真立てに気づいた。そこにはあたしと二人の大人が映っている。 ナゾノクサ:「ナゾ?ナゾ。」 蓮華:「あ、この二人?あたしの両親。…あのね、あたしの両親、だいぶ前に死んじゃってるの。」 ナゾノクサ:「ナゾ!」 蓮華:「それであたしはここにいるのよ。ここ、あたしの家だけど、施設なんだ。ここにいる子供はみんな、あたしと同じ孤児なの。」 あたしはナゾノクサに教えてあげた。 あたしは10年前のバス事故で両親を亡くし、両親の親友だった舞さんが営んでいるこの施設に預けられた。親戚がいなかったからでもあった。 ここにいるのはあたし以外に3人。3人も預けられたのが親戚がいなくて舞さんと親が知り合いだったから。 と言っても、本当に親戚がいないのかは知らない。舞さんが話してくれないからだけど、あたしは聞く気がないから聞いていない。 でも、あたしたちは周囲の環境に打ち勝って、今みたいに元気で生きているの。 舞さんはあたしたちの唯一の保護者で、両親みたいにあたしたちのことを優しく見守ってくれる。 ナゾノクサ:「ナゾ…」 蓮華:「落ち込まないでよ。あたしもいつか話したかったから。だって、あなたは大切な家族よ。」 ナゾノクサ:「ナゾゾ?」 蓮華:「そう。家族。」 ナゾノクサ:「ナゾ!」 こうしてあたしとナゾノクサたちとの生活は始まった。でも、それは長く続かなかった。 あたしが学校から帰ったら、ナゾノクサは家にいなかった。他のポケモンたちも。 そして舞さんや、他のみんなががっくりして、やりきれない表情をしていた。 蓮華:「舞さん、どうしてみんないないの?」 あたしが何気なしに聞いた。でも、それを聞く前にテーブルの上の新聞が、答えを示していた。 あたしはナゾノクサたちが実験で作られ、施設から脱走していたことを知った。 そしてあたしたちのような人に拾われなかったポケモンが騒ぎや事件を起こしてしまい、 危険性を感じた政府が彼らを回収し、決められた場所で監視の上で保護という形で閉じ込めることにしたと。 ??:「チコちゃんが悪いことはしないって言ったけど、聞いてもらえなかった。」 ??:「あいつら、俺たちの本当の親がいないことまで笑いやがった。」 ??:「施設の教育はよくないって。舞さんのこと、散々馬鹿にしてた。でも、あたしたちも何もできなかったの。」 舞:「蓮華ちゃん、ごめんね。あたしの手が及ばなくて。」 舞さんはあたしに言ったけど、あたしは舞さんが悪いわけじゃないって分かってた。 蓮華:「舞さん、謝らなくてもいいよ。あたし、連れ戻すから。」 あたしは外に飛び出そうとした。 でも。 舞:「待ちなさい!」 舞さんに止められた。 舞:「あそこへは行かないで。」 蓮華:「舞さん…」 舞:「もう、あなたが帰ってこない気がするの。だから。」 蓮華:「帰ってきますよ。あたし、この家が好きだから。」 舞:「…でも。」 蓮華:「心配しないで。いざとなったら、あれ、使うから。でも、舞さんに心配をかけるようなことはしないから。」 あたしは舞さんを説得して、外に飛び出した。でも、気づいたらあたしの横にはもう一人いた。 ??:「俺も行く。」 それは哲兄だった。哲兄は氷山哲也っていう名前で、あたしの2つ上。とってもやさしくて頼りがいがあった。 蓮華:「哲兄…。」 哲也:「ガーディは俺のポケモンだし、あいつらには落とし前を付けてやりたいからさ。」 蓮華:「うん!」 あたしと哲兄はまず、あの研究所に行ってみた。 研究所はすでに爆発で半壊していたけど、まだ外面は原形をとどめていた。 哲也:「蓮華、ナゾノクサたちを連れて行った奴がいるぞ。やっぱりここにいるようだ。」 草むらからこっそり顔をのぞかせた哲兄が警備員の一人を見て言った。 蓮華:「それじゃ、やっぱりここにいるの?」 あたしは少しほっとした。まだ助け出せる気がしたから。 哲也:「ああ。蓮華はここで待ってろよ。俺がちょっと様子を見てくるからな。」 蓮華:「うん。」 哲也:「見つかりそうになったらアレを使って逃げるんだぞ。」 蓮華:「分かってるよ。」 哲兄は監視の目を潜り抜けて中に入っていった。それから30分が過ぎた。 でも、哲兄は中から出てこなかった。心配だったあたしはもう少し研究所に近づいてみた。すると。 警備員A:「なあ、さっき侵入した奴ってのはどうなったんだ?」 警備員B:「ああ、そいつなら罠にかかったらしい。あと少しであの生き物たちと一緒に天国にでも行くはずだ。」 警備員A:「しかし、いいのか?少年が行方不明になって騒がれたら…」 警備員B:「大丈夫だ。あいつは孤児だった。施設から脱走して行方不明になった。見つかりませんでした。それで終わる。」 警備員A:「そうか、それならいい。」 よくないよ、哲兄が死ぬなんて。 あたしは今の話を聞いて、体の震えが止まらなかった。 そしてそれと同時に怒りが体を駆け抜けた。 あたしはこっそりと施設に忍び込んだ。そして奥のほうに入ったときだった。 あたしの近くの壁が爆発を起こしたのだ。 蓮華:「きゃっ!」 気づけばどこも火の海だった。やっぱりここに集めたみんなを処分するつもりだったんだ。 蓮華:「哲兄!ナゾノクサ!どこにいるの!」 ここを爆破するのに誰かいるわけがない。そう思ってあたしは叫びながら探した。 すでに様々な部屋で爆発の影響で死んでいるポケモンたちの姿を見た。 でも、あたしはあきらめずに探した。 そのとき、遠くで何かの泣き声を聞いた。あたしはそこに行ってみた。 もう、運にかけるしかなかったから。 ナゾノクサ:「ナゾ!」 そこにはナゾノクサがいた。ナゾノクサだけじゃない。他にも5匹。ロコン、サンド、メリープ、サニーゴ、ミニリュウ。 蓮華:「よかった。まだ無事だったのね。」 ナゾノクサ:「ナゾ。」 彼らはナゾノクサと共に生き残ったらしい。 そしてあたしとナゾノクサを見て、あたしが悪い人間じゃないことを悟ったのか、あたしに好意的だった。 蓮華:「ナゾノクサ、哲兄を見てない?あたしと一緒にここに来たの。」 ナゾノクサ:「ナゾ!ナゾナゾ。…ナゾ?」 ナゾノクサは知らないらしく、他のポケモンにも聞いてくれた。でも、みんなも知らないらしかった。 蓮華:「そんなぁ…。ナゾノクサ、まずはあなたたちを外に出してあげる。」 あたしは6体のポケモンたちと一緒に出口を探した。 ナゾノクサ:「ナゾゾゾ!」 蓮華:「えっ?…きゃあ!」 探し始めた矢先だった。あたしとナゾノクサに向かって、何か柱みたいな、容器みたいなものが倒れてきた。 ロコン:「コ〜ン!」 サニーゴ:「サゴサゴ〜!」 あっと目をつぶったあたしだったけど、ロコンとサニーゴの声と同時に、あたしには何か、水のようなものが降りかかった。 蓮華:「う〜ん。あれ?…あなたたちが助けてくれたの?」 ロコン:「コン!」 サニーゴ:「サゴ!」 この辺りはまだ何も燃えていないから燃えカスと散乱している欠片から、多分ロコンの火炎放射とサニーゴのトゲキャノンによるものだと思う。 蓮華:「ありがとう。ナゾノクサは大丈夫?」 ナゾノクサ:「…ええ。平気よ。」 蓮華:「そう。…えっ?」 ナゾノクサ:「あれっ?」 ナゾノクサが…喋ってる? ナゾノクサ:「喋れるようになっちゃたみたい。」 あたしもみんなも、これにはさすがに唖然としてしまった。 でも、また近くで爆発が起きた。だからあたしたちはひとまず出口を探した。 と、ナゾノクサたちが足を止めた。 蓮華:「どうしたの?」 ナゾノクサ:「…誰かいる。」 蓮華:「えっ?…誰?」 哲也:「蓮華か?」 あたしに答えたのは哲兄だった。哲兄もポケモンと一緒だった。ガーディとも会えたみたいだった。 蓮華:「哲兄、よかった。無事だったんだ。」 哲也:「蓮華、待っていろって言っただろ。」 蓮華:「だって、哲兄が罠にかかったって聞いたから。あたし、近くにいる人が死ぬなんて嫌だから。」 哲也:「分かったよ。蓮華、すぐに脱出するぞ。」 ええ、と言おうとした。 でも、あたしが答えるよりも早く、あたしと哲兄とポケモンたちのすぐそばで、無数の爆発が起きた。 そしてあたしは気を失った。