トキワシティでとんでもないトラブルに巻き込まれたあたしたちはようやくトキワの森までやってきた。 まさかスペース団の一人が蓮華の知り合いだったとは思わなかったけど、それよりも蓮華がスペース団を倒すなんて宣言するなんて。あたしとしては 一抹以上の不安を持たせてきたし。まあ、蓮華はバトルが一晩で上達するくらい、その天性を持っていたし。多分多少大丈夫かもしれないけど。 6.トキワの森の妖精 そう思いながら、あたしは蓮華と虫取りオタクのバトルを見ていた。珍しがってキョロキョロしているせいか、蓮華はトレーナーと目が合いやすい。 それがきっかけで続いたポケモンバトルはこれで5回目だった。今まで使ってなかったミニリュウたちも出て、それなりに経験を積んでいた。 蓮華:「メリープ、電磁波よ!」 虫取りオタク:「スピアー!くそっ、また麻痺かよ。戻れ!」 所持しているポケモンが麻痺してしまい、もう無理だと負けを認めたらしく、虫取りオタクはポケモンを戻した。 虫取りオタク:「初心者と聞いていたけど、やっぱり強いね。」 蓮華:「えへへ。でも、異様にここはトレーナーが多いですね。」 蓮華はさっきからあたしが感じていた疑問を彼に聞いていた。トキワの森はジョーイさんが言うには、ここはとても静かな所で虫タイプのポケモンが多く生息しているらしい。 あたしとしては苦手系が多いけど、カイロスには勝てたし、それなりに苦手なタイプに対しても勝つ自信は持てている。そんな森が、今日はトレーナーが多く、 がやがやとにぎやかでうるさい。あたしはついさっきこっそりと幹の穴に隠れていくキャタピーや木々の間を縫って逃げていくポッポの姿を見ていた。 みんなうるさすぎるのは嫌いなんだと思う。 虫取りオタク:「あぁ。最近、普通にバトルをしてボールで捕獲しようとしてもボールが反応しないうえ、使えるはずがない技を使うキャタピーが出没してね。 虫取りトレーナーの僕たちにとって、それはどうしてもほしいポケモンなんだ。」 蓮華:「それでこんなにいるんですね。」 虫取りオタク:「そうなんだ。でも、僕は君に負けたし、ポケモンをセンターに預けてこないといけない。まあ、君が目を合わせても、当分君がバトルを挑まれることはないよ。 この辺りでは強い部類の僕が倒されたからね。」 そういい残して彼はいなくなった。 ナゾノクサ:「お疲れ様。」 蓮華:「ありがとう。……ねえナゾちゃんはどう思う?」 ナゾノクサ:「さっきの話?」 蓮華:「うん。」 やっぱり蓮華も気になったみたい。今蓮華の腰のホルダーについているボールは5つは普通のだけど、1つだけはフレンドボールの特注品だった。 それがあたしのボールで、唯一あたしを入れることができたボールだった。実験によって生まれたあたしには初め、ボールが反応しなかったのだ。 ロコンたちは大丈夫だったけど、多分別の世界から来たポケモンのうち、複数にはそういうポケモンもいるはずだ。 ナゾノクサ:「あたしたちの同類かもしれないってことよね。」 蓮華:「やっぱりナゾちゃん、気づいてたんだ。」 ナゾノクサ:「ええ。そうだ!蓮華がゲットしない?」 別の世界から来たもの同士の方がいい、そうあたしは感じ、蓮華に提案してみた。 蓮華:「…だよね。あたしたちと同じ世界から来てるから、あたしたちのほうがゲットしやすいかもしれない。」 というわけで、あたしと蓮華はキャタピーを探し始めた。あたしは野生のポケモンたちに聞き込みをしてみたけど、 そのキャタピーはゲットしたいトレーナーの攻撃に遭い続けているために、なかなかその姿を見せることはないらしい。 ナゾノクサ:「ってわけ。」 蓮華:「そう。そうだよね、確かに欲しいからバトルをするけど、それを珍しいからって行われ続けたら嫌になるものね。」 ナゾノクサ:「うん。だからあたしたちの前にも普通には見せてくれないかも。」 それにこのにぎやかさでは絶対に出てくることはかなり少ない。そんな時だった。 トレーナー:「見つけたぞ!あっちに逃げた!」 トレーナー:「そっちだ!」 トレーナー:「くそぉ、どうしてまだ動くんだ!」 遠くのほうから複数のトレーナーの声が聞こえた。その声につられて近くにいたトレーナーたちも走っていった。 ナゾノクサ:「蓮華、見つかったみたいだよ。」 蓮華:「うん。……ナゾちゃん、あたし、捕まえるのはやめる。」 ナゾノクサ:「えっ?どうして?」 蓮華:「だって、かわいそうだよ。それに無理に捕らえちゃいけないし、多分ポケモンを売ろうとしているトレーナーだっているはずよ。 だから、どうせだったらそれを邪魔したい。……あたし、行ってくる。」 蓮華はスペース団を倒すと宣言したときくらい、決心した表情だった。目がやってやる!みたいなくらい語っていたし。 でも、何をするつもりなのか。あたしは気になって、トレーナーたちの様子を覗きに行った。近くのポケモンたち、ポッポ、コラッタやビードル、ピジョンや 希少価値って言われてるピカチュウさえも見に来てるのに、誰も目に留めようとしない。 ナゾノクサ:「こんにちは。」 あたしはピカチュウに話しかけてみた。 ピカチュウ:「ピカ(喋れるポケモン)!?」 ナゾノクサ:「うん。でもトレーナーのポケモンよ。」 ピカチュウ:「ピ!?ピカピカチュ?(えっ!僕を捕まえるの?)」 ナゾノクサ:「ううん。あたしのトレーナー、いきなりどこかに行っちゃったの。あの人たちがキャタピーを捕まえるのを邪魔するって言ってたし。」 ピカチュウ:「ピカチュピカ?(えっ!珍しいポケモンを捕獲したくない人なんているの?)」 ナゾノクサ:「うん。それがいるみたい。で、あたしは何をするのか気になって、ここに来たの。」 あたしたちが喋っていても、トレーナーたちは目を向けない。そればかりか、キャタピーに必要以上の攻撃を加え続けていた。 キャタピーはどうしてか知らないけど、バリアや嫌な音を使えるようで、それでトレーナーたちに立ち向かっていた。 でも、それも時間の問題に近づいていた。 ポッポ:「ポー!(ひどい奴らだ。)」 コラッタ:「コラタ!(あんなことをしてまで欲しいなんて。)」 周りのポケモンたちの怒りも上がっていた。普段は仲が悪く、縄張り争いの耐えないオニスズメとポッポでさえも、今日に限っては意気投合していた。 そのうえ、スピアーたちは臨戦態勢にさえ入っていたのだ。同じ虫ポケモンが襲われていることに怒りを隠しきれなかったのだろう。 そんな時だった。 「おやめなさい!」 と言う声と共に、空から太陽以上のものすごい光が輝き、あたし達のほうに光臨してきたのだ。 あたしたちも、トレーナーたちもトレーナーたちのポケモンも驚いて上を見上げると、蝶の羽をつけた妖精みたいな綺麗な人が空から降りてくるのが見えた。 妖精:「あなた方にお伝えします。このポケモンを傷つける方は何人たりとも許せません!」 妖精みたいな人は言った。でも、トレーナーたちは黙っていなく、 トレーナー:「何だ?あれは!」 トレーナー:「おい!俺たちはポケモンを捕まえているだけだ!」 トレーナー:「そうだ!勝手なことを言うな!」 口々に文句を言い続けていた。そしてついにポケモンを繰り出そうとしていた。 妖精:「お辞めなさいと言っているのが分からないのですね。それでは、この森の怒りを思い知りなさい!」 その声と同時に、木々がうねりだし、枝や蔓が伸びてトレーナーたちに襲い掛かった。しかも、ポケモンに光を飛ばし、すべてを戦闘不能にしていた。 トレーナーたちはさすがにパニックに陥り、その場を逃げ出していった。 妖精:「哀れなポケモンね。あなたの怪我を治してあげる。」 キャタピー:「キュピ?」 妖精:「怯えなくてもいいわよ。あたしはあなたを傷つける気はないから。それから……この際、あたしと一緒に来ないかしら?」 妖精みたいな人はまた光りだし、キャタピーの怪我を治したとき、 ナゾノクサ:「蓮華!?」 妖精の姿は蓮華に変わっていた。さすがのあたしも驚き、つい声を上げてしまっていた。 蓮華:「えっ?あぁ〜!ナゾちゃん、見てたの?」 ナゾノクサ:「蓮華だったの?…あれが蓮華の本当の力?」 蓮華:「うん。あたしは別の姿になれる。植物を操る妖精の姿に。でも、それは滅多に使わないの。あたしのいる世界は平和だから。」 ナゾノクサ:「そうだったの。蓮華、でもすごいよ。」 あたしは蓮華がますます気に入った。 ナゾノクサ:「ねえ、あなたはあたしたちと来るか決めた?」 キャタピー:「きゅ〜(君たちも別の世界から来たの)?」 ナゾノクサ:「うん。あたしも蓮華も。」 キャタピー:「きゅきゅ(僕、行ってもいいよ)。」 ナゾノクサ:「蓮華、いいって。」 蓮華:「分かったわ。行け!モンスターボール!」 蓮華はキャタピーをゲットした。キャタピーが気を許したからか、キャタピーは普通のボールでゲットできた。 と、そこへさっきのピカチュウがやってきた。 蓮華:「ナゾちゃん、あなたの友達?」 ナゾノクサ:「ちょっとね。さっき話してたの。」 あたしが力を使ってキャタピーを助けている間に知り合ったようだ。ピカチュウはあたしたちについてくるように言っているらしい。 蓮華:「行ってみる?」 ナゾノクサ:「行ってみようよ。今この辺のポケモンに好かれてるトレーナーは蓮華だけだよ。」 多分そうかも。あたしたちがついていくと、大きな滝があり、そこに一匹のハネッコがいた。 蓮華:「ハネッコよね。」 ナゾノクサ:「うん。」 するとピカチュウがナゾちゃんに何かを言った。 蓮華:「ナゾちゃん、どうしたの?」 ナゾノクサ:「あのね、どうやらあの子もそうみたい。」 蓮華:「そうってことは実験でできたハネッコってこと?」 ナゾノクサ:「そう。で、最近ここに住み着いたみたい。」 と、そのハネッコはあたしに近づいてきた。 ハネッコ:「ハネハネ!」 ナゾノクサ:「蓮華、キャタピーを捕まえたトレーナーと一緒に行きたいって。」 蓮華:「本当?」 ハネッコ:「ハネネ。」 ハネッコはうなずいた。だから、あたしはゲットすることにした。 蓮華:「ハネッコ、キャタピー、これからもよろしくね。」 あたしはハネッコも捕まえた。 その後、あたしたちはそこで一晩過ごした。ボールの中のみんなも出して。近くに生息しているポケモンたちも一緒になって。 ナゾノクサ:「蓮華、この近くにいるみんなが言ってたよ。」 蓮華:「なんて?」 ナゾノクサ:「人間も捨てたモンじゃないって。それとこれでようやく安心して生活できるって。」 ちょっと嬉しかった。