次の日。あたしが目を覚ましたときには既に、野生のポケモンたちは元の生活に戻っていた。 そしてポケナビに連絡が入っていた。ナナちゃんからで、トレーナーが旅で所持することができるのは6体までであるという内容だった。 7.迷子と野武士 ナゾノクサ:「それで、誰をナナちゃんの家に送るの?」 話を聞いたナゾちゃんが聞いてきた。他のみんなも自然に耳や顔が上がる。 蓮華:「それなのよ。誰か2体を送るんだけど、迷っちゃって。」 ナゾノクサ:「そりゃそうよね。初めから初心者なのにフルで持ってるトレーナーなんて普通いないし。」 ナゾちゃんが言うことは最もだった。 蓮華:「あ、そういえばニビシティにはジムがあった。」 ナゾノクサ:「そうだよ。そこで決めればいいんじゃないの?」 蓮華:「うん。そうする。」 あたしはようやくそこで一時的な結論をつけることができた。ただ、奥地に来てしまったあたしたちは、無事に出られるかが問題だったけど。 そして歩き出してから3時間。 蓮華:「あ、そこはさっきも通ったね。」 ナゾノクサ:「ねえ、あそこって一時間前にあたしが通った場所じゃない?」 なんてことが口から出るくらい、あたしたちは同じ場所をぐるぐる回っていた。 ナゾノクサ:「ジョーイさんがトキワの森は迷路みたいって言ってた意味が分かった気がする。」 蓮華:「森を知らないトレーナーは森の奥地に踏み入るなってことだったのね。」 あたしたちは多分、再び出発してもまた迷い続けるのかもしれない。だとしても、ここを出ないと。目印があれば…。 蓮華:「そうだ!出てきて、キャタピー。」 キャタピー:「きゅ〜?」 ナゾノクサ:「蓮華、キャタピーでどうするの?」 蓮華:「キャタピー、糸を吐いてそこの木に巻きつけて。」 キャタピー:「きゅー。」 あたしは考えたのだ。ただ木に傷をつけるだけじゃ、またそこに来た時にしか気づかない。 蓮華:「だから、糸をつけてその糸のない木の場所を通っていけばいいと思うの。」 ナゾノクサ:「なるほどね。」 キャタピー:「きゅきゅ。」 あたしはナゾちゃんを左肩に、キャタピーを右肩に乗せて歩き出した。糸を木に巻きつけながら一歩一歩進み、糸のない木のそばを歩いていく。 それから2時間。ようやくはじめにいた、トキワの森でマニアさんと戦った場所まで来ることができた。 蓮華:「キャタピー、どうもありがとう。」 キャタピー:「きゅ!」 あたしはキャタピーをボールに戻した。 ナゾノクサ:「それにしてもすごいよね、あれ。」 蓮華:「うん。」 ナゾちゃんに言われるままなく、あたしはさっきから気になっていたことがあった。 キャタピーの糸を絡ませ続けたせいで、あたしの通った場所は糸がかなり巻きついていて、通行止めのようになっていたのだ。 ナゾノクサ:「蓮華、ほぼ蜘蛛の巣だよ。」 蓮華:「うん…多分大丈夫だよ。」 あたしはそう言って歩き出した。が、実際あたしの糸で結構なことが起こっていたのは出口に行く間にも虫取り少年たちからよく聞いた。 蓮華:「ねえ、キャタピーの糸って長持ちするの?」 あたしはすごく気になって聞いた。が。 虫取り少年A:「実はね、あの糸だけはそうじゃないみたいなんだ。」 虫取り少年B:「多分、あの珍しいキャタピーを捕獲した奴がいるんだろうな。あのキャタピーの糸、一日くらいで消滅しちゃうんだよ。」 虫取り少年C:「でも、罰当たりな奴もいたんだなぁ。」 結構な言われようだった。でも、実際キャタピーをゲットしたのはあたしだし、妖精に化けたのもあたしだし、気にしなくてもいいかと思った。 内心はすごくホッとしていた。それにしても、あたしとすれ違う人しかいない。みんな、出口から引き返してきてるように見えるんだけど、 気のせいかな? でも、それは気のせいじゃなかった。 それが理解できたのは、出口に差し掛かった辺りのことだった。 ??:「そこのナゾノクサを連れたトレーナー、俺とバトルしろ!」 あたしたちの目の前には五月人形を着たトレーナーがやってきた。 蓮華:「あなたも虫取り少年なの?それとも…」 ナゾノクサ:「虫取りオタクか、危ない人?」 ??:「危なくなどない!俺は野武士少年。このトキワの森の出口付近は俺の縄張りだ。ここを通るトレーナーには必ずバトルを挑む。 お主もバトルに応じるな?」 野武士少年と自称した少年はボールを出していた。明らかに無視できないタイプだった。 蓮華:「分かったわ。やる。」 野武士:「ならば、行け!キングラー!」 キングラー:「グラ」 野武士:「勝負は使用ポケモン2体で行うからな。」 出てきたのは虫タイプとばかり思っていた予想をはるかに超え、水タイプの沢蟹ポケモンキングラーだった。 蓮華:「ねえ。」 野武士:「何だ?」 蓮華:「一つ聞いてもいい?」 野武士:「いいぞ。」 蓮華:「何勝中?」 野武士:「ああ。俺はここ最近連続30勝しているな。ここのトレーナーは虫の幼虫が多いから助かる。」 蓮華:「それって弱いトレーナーを倒して喜んでるってことじゃないの?」 野武士:「いや、これはいいバトルをしたことを意味しているのだ!」 少年は威張ってたけど、明らかに弱い、しかも虫ポケモンしかもっていないトレーナーにしか勝負をしていないように見える。 多分、みんながこれを聞いてUターンしているのだと思う。 野武士:「一つ俺も言うぞ。」 蓮華:「いいよ。」 野武士:「俺が勝ったときは、お前のポケモンを一つ貰う。」 蓮華:「えぇ〜!…さっきここを通った人にもやったの?」 野武士:「ああ。いけないか?野武士は人のもので生計を立てるのだ。」 ムカッとした。明らかにみんながここを通りたくないわけだ。 蓮華:「それじゃ、あたしも言うわ。あたしが勝ったらあなたをジュンサーさんに突き出すから。」 野武士:「できればの話だな。さぁ、お前もポケモンを出して来い!」 あたしの持っているポケモンの中で、あいつに勝てるのは…。 蓮華:「お願いね、サニーゴ!」 サニーゴ:「サニ!」 野武士:「キングラー、睨みつけてやれ!」 蓮華:「サニーゴ、硬くなるのよ!」 睨みつける攻撃は相手の防御を下げるから、それをまた元に戻してやればいい。 蓮華:「トゲキャノン!」 野武士:「硬くなれ!そして泡で攻撃だ!」 キングラーは硬くなってトゲキャノンを軽くいなし、泡攻撃を放ってきた。 蓮華:「ジャンプして地震よ!」 野武士:「何!?」 たとえ落下地点に泡がたくさんあったとしても、地震の威力でサニーゴは泡を跳ね飛ばすことができるはずだ。 そう思ったあたしの予感は当たり、サニーゴの地震はキングラーにダメージを与えていた。そのうえ。 キングラー:「グラグラ…グワッシャ!」 キングラーは仰向けに倒れた。地震のショックでバランスが取れなくなったらしい。 蓮華:「今よ、サニーゴ、トゲキャノン!」 サニーゴ:「サ〜ニー!」 トゲキャノンは甲羅のないキングラーの真下の部分に直撃し、キングラーは倒れた。 野武士:「くそ、戻れ、キングラー!次は…テッカニン、お前だ!」 今度は普通に虫ポケモンだった。 蓮華:「サニーゴ、先手必勝のトゲキャノンよ!」 野武士:「させるか!テッカニン、影分身だ!」 テッカニンは影分身で攻撃をかわした。そのうえ、妙にすばやくなってる。 ナゾノクサ:「蓮華、テッカニンの特性よ。」 蓮華:「特性?」 ナゾノクサ:「特性って言うのはポケモンが持ってる特殊な力のことよ。テッカニンはバトル中、1ターン増えるごとにすばやさが一段上がるの!」 ナゾちゃんは実験で一番初めに作られたせいか、他のポケモンよりも慎重に作られ、さまざまなデータが盛り込まれているのだ。 蓮華:「嘘、それってすごく厄介かも。それなら、サニーゴ、水鉄砲よ!」 サニーゴ:「サニ!」 野武士:「テッカニン、高速移動でかわし、嫌な音攻撃だ!」 テッカニン:「テカ!ニ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!」 テッカニンは水鉄砲を避けてあたしたちが悶絶するくらいの嫌な音を出した。 野武士:「最後は切り裂く攻撃で止めだ!」 テッカニン:「テッカ!」 テッカニンは嫌な音で防御力を落としたサニーゴを切り裂いた。あたしが起き上がったときには既に戦闘不能だった。 野武士がよく平気だな、と思えば、彼は耳栓をしていた。 ナゾノクサ:「蓮華、次は誰を出すの?」 蓮華:「う〜ん。」 野武士:「どうだ、俺のテッカニンには手も足も出ないだろう。ここで負けを認め、昨日お前が妙なトリックで捕まえたキャタピーを俺によこせ!」 あたしたちは驚いた。どうやらこいつは、あたしのあの姿を見たらしい。運がいいことに手品か何かだと思っているようだったけど。 蓮華:「はじめから、キャタピーが狙いだったのね?」 野武士:「そういうことさ。さてと、バトルは君の負けって事で…」 蓮華:「まだ負けてないわよ、お願いね、ハネッコ!」 あたしはハネッコを出した。 野武士:「そんな弱い奴が、このテッカニンを倒せるとでも言うのか?」 蓮華:「ええ。ハネッコ、行くよ。それに、ハネッコは弱くない!」 ハネッコ:「ハネ!」 野武士:「下らん!テッカニン、切り裂いて始末してやれ!」 蓮華:「ハネッコ、甘えて鳴き声よ!」 ハネッコ:「ハ・ネ・ハ・ネ!ハネネ?…ハッネ〜〜〜!!!」 テッカニン:「テッカ!?」 ハネッコは切り裂こうと近づいたテッカニンに思いっきり甘えた。そして怯んだ所で思いっきり鳴き声攻撃をした。さすがに驚くテッカニン。 野武士:「何をやってるんだ!テッカニン、連続切りだ!」 テッカニン:「テカ!」 野武士は怒って指示を出したけど、テッカニンの攻撃はハネッコにはあまり効果が出ていなかった。 蓮華:「ハネッコ、光合成よ。」 ハネッコ:「ハネ♪」 野武士:「くそぉ、どうして連続で出せば効果が上がるこの技が全くきかんのだ!そのうえ光合成だと!?」 蓮華:「残念でした。甘えて鳴き声を聞いたテッカニンは攻撃力がかなり低下してるのよ。たとえ連続切りであっても、 ハネッコにはあまりダメージが出てこないのよ。」 野武士:「それなら、テッカニン、砂かけだ!」 蓮華:「ハネッコ、フラッシュよ!」 これはテッカニンの動きのほうが早かった。でも、彼は気づいてなかった。風は彼のほうに吹いてるから、砂かけ攻撃の砂は、テッカニンに舞い戻った。 テッカニン:「テカ!?テカテ…。」 野武士:「何だと、テッカニンの砂が風で押し返されるなんて…、テッカニン、お前は素早さがかなり上がってるはずだ。なのになぜ、お前の出した風がこんなそよ風に負ける!」 野武士はほとんど切れていた。 蓮華:「もう何を言っても無駄よ。初めからハネッコに近づいたときから、テッカニンは負けに近い状態だったのよ。」 野武士:「何だと!?」 蓮華:「くすっ、野武士さん、草ポケモンの取って置きの技がテッカニンに炸裂してるのよ。気づいてなかった?」 野武士:「何!?あぁ〜!!」 野武士はナゾちゃんに言われてようやく気づいた。ハネッコは甘えたときにテッカニンの腹の辺りに宿り木の種をつけておいたのだ。 蓮華:「だからこれで最後よ、ハネッコ、捨て身タックル!」 ハネッコ:「ハネ〜!」 ハネッコの見事な捨て身タックルが決まり、テッカニンは倒れた。野武士はテッカニンがあたしを向いていることで、種に気づかなかった。 ここがポイントとなり、ハネッコはすぐに回復でき、テッカニンの攻撃を受けても倒れなかったのだ。 蓮華:「さ、約束よ。ここから離れて。」 野武士:「あ?そんな約束したかな?」 あたしが言うと、野武士は開き直っていた。 蓮華:「したわよ!約束破る気?」 野武士:「うるせえ!お前のキャタピー、もう無理やりぶん捕ってやる!」 野武士が襲ってきた。 その時、あたしは蓮華と野武士が光に包まれるのを見た。そして…。 ジュンサー:「はい、それではこの男を引き取らせていただきます。」 蓮華:「ありがとうございます。」 数時間後、あたしの通報を聞いたニビシティのジュンサーさんが無法的な野武士トレーナーを逮捕した。 ジュンサー:「それにしても自分の焚き火に落ちるなんて、ドジな人もいたものね。」 蓮華:「そうですね。」 ジュンサー:「あと、この男が取ったポケモンたちはちゃんと持ち主に返しますから安心してくださいね。」 蓮華:「はい!」 ジュンサーさんは男を乗せて去っていった。 蓮華:「ふぅ〜、疲れた。」 ナゾノクサ:「蓮華、お疲れ様。」 今までボールの中にいたナゾノクサがボールから飛び出してきた。 ナゾノクサ:「蓮華の演技よかったよ。」 蓮華:「うん。あたしもうまく言えてよかった。」 実際は男が焚き火に落ちたわけじゃなかったのだ。 ナゾノクサ:「蓮華、こういう男もいるし、スペース団を甘く見て壊滅させるぞ宣言はやばくない?聞かれたわけじゃないけど。」 蓮華:「そうだけど、あたしは大丈夫だよ。」 ナゾノクサ:「でも、蓮華の能力がいきなりなくなったら?さっきみたいなことはできないんだよ。」 蓮華:「分かってる。でも、大丈夫。あたしはみんなを信じてそれをやり遂げたいから。」 あたしはナゾちゃんに言った。ナゾちゃんは少し考えて、納得してくれた。 ナゾノクサ:「いいよ。蓮華、でも無理はしないでよ。」 蓮華:「うん。分かってる。…それじゃ、行こう。」 あたしたちはニビシティに向かって歩き出した。多分、ジム戦前に練習をするためにここに戻ってくると思うけど。