ポケモンセンターが突然停電した。すぐに非常電源に切り替えられたけど、涼治もジョーイさんも、ラッキーたちも 慌しい様子。元々この辺りが停電すること自体が珍しいと近所のトレーナーが教えてくれた。 ようやく落ち着きを取り戻すが、それまでに3時間もかかった。 25.発電所のココドラ 涼治:「この辺りはさ、ハナダから岩山トンネルに向かうトレーナーが多いし、この辺りのトレーナーがポケモンバトルを よく行っているんだ。だからポケモンセンターに訪れるトレーナーも結構いる。今も預かっているポケモンが多くてさ、 治療中のポケモンが多かったんだ。だから対応が大変だったんだ。」 蓮華:「そうなの。でも、停電はよくあるの?」 涼治:「いや、停電は初めてらしい。この辺りは発電所があるし、そこは3年前から無人からちゃんと人が入って、 しっかり管理されてるからな。だから停電すること自体おかしいんだ。行ってみるか?」 あたしは涼治の案内で発電所に向かった。すでにジョーイさんの許可も得ていた。 蓮華:「涼治もポケモン持ってる?」 涼治:「ああ、一応な。」 蓮華:「何?」 涼治:「こいつさ。」 涼治が出したのはラクライとカラカラだった。 涼治:「カラカラとは現実世界で知り合ったんだ。そしてここに来た時、近くの草むらでラクライをゲットした。 この辺りはバトルが盛んだからな。俺も2体は必要だと思って、ジョーイさんにボールを貰っておいたんだ。」 涼治はこの分だと、ポケモンドクターの道を進むような気がしてきた。 発電所はポケモンセンターから少し歩いた場所にあった。 が、建物は何かの攻撃を受けたかのように外見が破壊され、壁には皹が入り、窓も割れていた。 涼治:「さっきの停電はやっぱり何かが起きたみたいだな。」 蓮華:「うん。中に入れる?」 涼治:「ああ、ここは自由に中に入れるからな。」 あたしが涼治に連れられて入ってみると、中は復旧作業に悩まされる従業員の姿があった。その中の一人が涼治に気づいた。 従業員:「ああ、涼治君か。ポケモンセンターのほうはどうかな?」 涼治:「予備の非常電源に切り替えたので何とか大丈夫です。何が起きたんですか?」 涼治が聞くと、彼は顔をしかめて部屋の隅を指差した。そこには山積みのモンスターボールがあった。 従業員:「ココドラっていうポケモンの大群がね、さっきここを襲ったのさ。奴らは岩と鋼タイプだから、電気は通じる。 だから、コイルたちの電磁波で何とかゲットしたのさ。しかし、まだ数匹この辺りに潜んでいるらしい。どうしてここを襲ったのか、 その辺は不明なんだよ。」 そう言うと、涼治の顔見知りらしい従業員は作業に戻った。あたしは涼治と一時、外に出た。 蓮華:「涼治はどう思う?」 涼治:「このことか。そうだな、ココドラの大群は何かの意思を持ってここを襲ったか、あるいは操られたか、 このどちらかじゃないかな。」 蓮華:「操られた?」 涼治:「ああ。元々ここは野性ポケモンの住処だっただろ。ここに人が入るとき、喋ることが出来る通訳ができる ポケモンが、ここのポケモンと話して和解してるんだ。だから何かの意思か、操られたかのどっちか以外でポケモンが ここを襲うこと自体、考えられないのさ。」 でも、多分スペース団の仕業じゃない気がする。操ることが出来る奴がスペース団にいるけど、そいつはポケモンセンターが 非常電源を使うから結果的には襲っても不可能だと分かっているはず。だとしたら、考えられるのはただ一つ。意思だ。 あたしは涼治がポケモンセンターに戻ってからもその場に残った。 キレイハナ:「あたしが聞いてみようか?」 蓮華:「ええ。お願い。」 キレイハナは草むらに入っていった。そして何かと戦っている声がして数分…。 キレイハナ:「お待たせ。」 キレイハナは一匹のココドラを引きずってきた。どうやら何かを聞こうとしても無視されまくったらしく、 ついに実力行使に出てきたらしい。 そして聞いた結果。 キレイハナ:「磁場?蓮華、ココドラたち鋼ポケモンの特徴を調べて。それが関係してるみたい。」 あたしは図鑑を開いて見た。すると、鋼ポケモンを逃げられなくする磁力という特性が存在していた。 蓮華:「でも、どうしてこの子達がここにいるの?しかも大群で。」 あたしは気になった。どう考えても、ココドラはこの辺りには全く生息していなかった。すると。 ココドラ:「ドララ!」 キレイハナ:「えっ!無理やりテレポートでこの場所に飛ばされたの!」 どうやら何者かが飛ばしたらしい。この場所は発電所があることで電気の磁場が発生していたので、ココドラは狭い草むらから 出ることが出来なかったのだ。そのため、磁場を破壊するために発電所を襲ったようだ。 キレイハナ:「それって、結果的にはここを破壊しようと思ってのことよね?」 蓮華:「発電所を破壊…結局やったのはもしかして…」 あたしたちは諸悪の根源を察した。あいつら…スペース団だ。 と、再び何かが送られてきた。あたしたちの目の前に光が現れたのだ。 しかし、今度はココドラではなかった。現れたのは小柄な二人組だった。 蓮華:「何者!」 キレイハナ:「…一体何なのよ!」 あたしはともかく、キレイハナは棒読みで叫んだ。するとその言葉に反応してか、いつものあの曲が流れ出した。そして。 カエデ:「何だかんだと聞かれたら…。」 コタロウ:「正直言って答えてやろう…。」 カエデ:「星の破壊を防ぐため…。」 コタロウ:「星の平和を守るため…。」 カエデ:「愛と希望の悪を貫く…。」 コタロウ:「クール&チャーミングな敵役…。」 カエデ:「カエデ!」 コタロウ:「コタロウ!」 カエデ:「太陽系を光速に飛ぶスペース団の二人には…。」 コタロウ:「シャイニングゴールド、金色に輝く明日が待ってるぜ!」 カエデ:「なぁ〜んちゃって☆」 どうやら美香と菜々美から聞いたスペース団員らしい。 カエデ:「ねえ、コタロウ。発電所、再開しちゃってるよ。」 コタロウ:「何!?くそぉ、おい、そこのお前がやったのか?」 カエデ:「ていうか、あのキレイハナ喋ってたよ。リースイ様の言っていた子じゃない?すごく可愛いよ。」 コタロウ:「そうか…、おい、そこのお前が草の能力者だな!」 蓮華:「そうよ、それが何よ。」 あたしは前の漫才みたいなものを聞きながら言い返した。すると。 コタロウ:「悪いが遠慮なく倒させてもらうぜ!行け!バクフーン!カエデ、お前は発電所を攻撃しろ!」 カエデ:「え、一緒に戦わないの?」 コタロウ:「おい、いい加減に覚えろよ。今日は発電所を使えなくしてカントウの町をのっとりやすくするって言う 作戦だったじゃないか!」 キレイハナ:「なるほど、正直な人だ。」 コタロウ:「し、しまった!つい本当のことを言ってしまった。」 カエデ:「コタロウもしっかりしなきゃ駄目だよぉ。それじゃ破壊するね。この建物、可愛かったら破壊しなかったのに。 お願いね、チルタリス!」 カエデはチルタリスを、コタロウはバクフーンを出し、発電所と蓮華の両方を襲ってきた。 蓮華:「こうなったら、サニーゴ、バクフーンをお願い!キレイハナ、ミニリュウと一緒に発電所を守って!」 あたしはサニーゴでバクフーンを倒すことにしえ、キレイハナとミニリュウに発電所を守ることを頼んだ。 発電所からは外の様子を知ったからか、コイルとレアコイルも飛び出てきていた。 コタロウ:「ふん、そんなポケモンで倒されるかって言うの。バクフーン、火炎車だ!」 蓮華:「サニーゴ、水鉄砲よ!」 しかし、バクフーンの火炎車にはサニーゴの水鉄砲も効果なく、続いて出したのトゲキャノンも火炎放射で弾かれてしまった。 カエデ:「可愛いからって手加減はしないよ!チルタリス、破壊光線よ!」 キレイハナ:「必殺、ソーラービーム!」 一方のキレイハナたちはソーラービームと電気ショック、冷凍ビームで破壊光線に対抗するが、徐々に押されている傾向が見られた。 カエデ:「あたしだって頑張るんだもん!チルタリス、竜の舞をしてから再び破壊光線だよ。」 コタロウ:「バクフーン、そのまま火炎放射で押し切ってやれ!」 このままじゃやばかった。そんな時だった。 突如、冷たい冷気が暴風となって吹き荒れ始めていた。そしてチルタリスが落下してきた。 カエデ:「きゃ〜!痛い!」 チルタリスから落下したカエデは悲鳴を上げていた。 そして冷気はバクフーンも凍えさせていた。しかし、蓮華のポケモンやコイルたちには全く寒さが感じられていなかった。 コタロウ:「バ、バクフーン!?くそっ、何が起きたんだよ。」 涼治:「ポケモンを使って発電所を破壊しようとした罪は重いってことさ。」 蓮華:「涼治、やっぱり涼治が助けてくれたのね。」 涼治:「ああ。俺の力は風属性の冷気を操ること。悪い奴らのポケモンに対してだけ聞く冷気を送ってやったのさ。 その状態でもポケモンを使うつもりなのか?そこまでするならトレーナーとしても失格だぞ。」 涼治がそう言うと、カエデはチルタリスをボールにしまった。 コタロウ:「おい、カエデ!勝手なことすんな!」 カエデ:「だってトレーナー失格にはなりたくないもん!」 そしてカエデはコタロウのポケモンを無理やりしまった。 カエデ:「今日は引き上げます。でも、次は絶対に負けません!」 彼女はそう言ってケーシィを出し、テレポートで消えていった。 その夜。ココドラたちはポケモンセンターが引き取ることに決まった。ボールにいれ、彼らが生息していたと思われる場所に 返しに行くのだ。 涼治:「これでよかったのかな?」 蓮華:「どうして?」 涼治:「いや、ただ何となくな。これでポケモンは幸せかってことだ。でもま、俺としてはポケモンセンターのポケモンを犠牲にして 電源を消そうとは思わないからな。明日から行くんだろ?」 蓮華:「うん。また離れちゃうね。」 涼治:「いや、ポケギアで話せるし、電話でも話せるからさ。お前、カモネギに秘伝マシン使えばここにも来れるだろ。」 蓮華:「そうだね。…ねえ、もう少し話さない?」 涼治:「悪い。これから仕事なんだ。」 蓮華:「でも、真夜中だよ。眠くないの?」 涼治:「眠いさ。多少の事が終われば、俺は寝させてくれるからいいよ。それに、今日は停電で看病できなかったポケモンの世話を しなきゃいけないのさ。ようやく停電も復旧したからな。」 あたしは涼治と別れた後、そんな涼治のあの言葉を聞いて、あたしはふと思い、落ち着けなくなっていた。 キレイハナ:「蓮華、どうして落ち着かないの?」 蓮華:「うん…あの子達を住んでいた場所に戻すのはいいと思うよ。でもね、もうその場所は彼らが住める状態じゃないかも しれないんだよ。一時的とはいえ住処から離されたんだよ。他のポケモンが住んでるかもしれない。そんな場所に帰したら、 ポケモン同士が争わなきゃいけないじゃない。」 キレイハナ:「蓮華の気持ちは分かるよ。でもね、発電所を止めないと、あの子達は野生としてあの場を離れることは出来ないの。 でも、電気を止めちゃうと、ここのポケモンが大変なことになるかもしれないんだよ。ここだけじゃなくて、カントウ中が。 それでも?」 蓮華:「うん。あたしのワガママだけど、彼らは普通に自分から野生に戻る感じにしたい。」 人間の手が一度も加わらない状態のまま。テレポートでここに運ばれたとはいえ、一度ゲットされるよりはそっちの方がいい。 キレイハナ:「もう、しょうがないなぁ。あたしも手伝ってあげるよ。」 キレイハナは渋々ながら、ようやく引き受けてくれた。 キレイハナ:「でも、普通の姿だとバレルよね、きっと。」 あたしとキレイハナは発電所の屋根にこっそり上がった。中は復旧して、電気のコントロールもされていた。 キレイハナ:「あのレバーを押して機械を一時的に止めれば、この辺りの磁場は元に戻るんだね。」 蓮華:「ええ。」 今のあたしは鬼草の状態になっていた。これじゃないとポケモンセンター自体も抜け出せなかったのだ。 そして二人で屋根から屋根裏に入った。そして一気に甘い香りと眠り粉を噴出した。それによって作業員たちとコイルたちが 眠気と心地よさに襲われた。そのうちに二人でモンスターボールに蔓を伸ばし、葉っぱを放ち、開閉スイッチを開けた。 そして窓から外に放り投げていく。 ココドラたちは何が起きているか分からないものの、自分たちを逃がそうとしているのが分かったのか、妙におとなしかった。 キレイハナ:「最後はあのスイッチを切るだけだね。」 蓮華:「ええ。切ったらバレルだろうけど、あたしがやるから。キレイハナはみんなを誘導してね。」 キレイハナ:「了解。」 こうしてあたしは床に飛び降り、スイッチを限界まで引っ張った。すると、室内は一気に真っ暗になり、そうなるとさすがに彼らも 驚いて、眠気を覚ましていた。あたしはシルエットをわざと見せるようにしてその場を去った。 そしてポケモンセンターに戻ると、涼治が対応に追われているのが見えた。ちょっと悪いような気がした。 今日は深夜まで起きてることになっちゃうね。ゴメン! 部屋の近くまで来ると、キレイハナがやってくるのが見えた。 キレイハナ:「蓮華、みんな岩山トンネルや草むらに向かったよ。もうここには来ないはずだから。」 蓮華:「了解、ありがとう。」 と、キレイハナの後ろにココドラがいるのが分かった。 蓮華:「その子は?」 キレイハナ:「ああ、今朝あたしが捕まえた子。蓮華が仲間を助けてくれたから、仲間になりたいってあたしに言ってきたの。 いいでしょ?」 蓮華:「いいよ。鋼タイプの子、だれもいなかったし。これからもよろしくね、ココドラ…ドラちゃん!」 ココドラ:「ドララ!」 次の日。あたしとキレイハナが朝食を食べていると、研究所の人たちがやってきて、あたしが電気を消した犯人だと 決め付けてきた。あたしはずっとポケモンセンターにいたと白を切ってやった。 でも、彼らは草ポケモンが故意にやったため、事情を知っているあたしたちがやったと感づいたらしい。 彼らが帰った後、ものすごく寝不足な顔をした涼治がやってきた。 涼治:「おはよ。もう旅に出るのか?」 蓮華:「うん。…大丈夫?」 涼治:「ああ。昨日は大変だったからな。」 蓮華:「そうなんだぁ。あたし、因縁つけられちゃった。どうしよう、あたしやってないのに…。」 すると、涼治はあたしをじろっと睨んだ。 涼治:「もう、こういうことは辞めろよ。俺はちゃんと分かってるからな。」 涼治はやっぱり気づいていた。でも、あたしがどうしてやったのかも理解しているらしく、ほとんど怒らなかった。 蓮華:「…ごめんね。」 涼治:「もう、気にしてないからいいよ。蓮華、危ないことはするなよ。」 蓮華:「うん。」 あたしは涼治と一時別れた後、再び旅を開始した。涼治とは終わっていないし、涼治があたしのことを思ってくれている。 それがこれから頑張ろうと思う気持ちになる。そんな気がする。