よく晴れた朝だった。毎日のように暴走族トレーナーが坂道を走っているとき、一瞬白い物体が彼らをすり抜けていった。 その直後、彼らは後方から、何かによる攻撃を受け、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられていた。 意識を失いかける彼らが見たのは、猛スピードで回転しながら行ってしまう回転物体の姿だった。 32.VS回転物体 タマムシのコンテストも終わり、ようやくあたしはセキチクに向けて出発することにした。 タマムシの西にあるサイクリングロードを通れば、あそこは下り坂が多いからすぐだと思う。それに、 あの辺りにはかなりの暴走族系のトレーナーが多いらしいから、経験地稼ぎにもちょうどいいかもしれない。 そう考えながら、レンタサイクルを借りてキレイハナといっしょにゲートを抜けたわけだけど…。 キレイハナ:「何これ…」 蓮華:「酷いよね、これは。」 あたしたちがゲートを通ってすぐに見たのは、ボロボロになって倒れているトレーナーたちと、それを看病するジョーイさんや ラッキー、ハピナスたちの姿だった。自転車やオートバイはみんな壊されているし、道路などにも多数のスリップ跡や、傷、皹が 残っていた。 ジョーイ:「あら?あなた、このサイクリングロードを通るつもりなの?」 ジョーイさんがふと顔を上げてあたしに気づいた。あたしがそれを肯定すると、 ジョーイ:「やめなさい、別の遠回りのルートがあると思うから、それを使うといいわ。」 と言ってきた。 蓮華:「どうしてですか?」 ジョーイ:「このトレーナーたちは暴走族トレーナーもいるけど、みんないい人たちばかりなの。 私はサイクリングロードの途中にある休憩所でポケモンセンターの代わりをしているから、よく彼らのことが分かるの。 彼らも他のトレーナーたちも、謎の物体によって攻撃を受けて、オートバイや自転車から転落し、その上攻撃を受けたから、 みんなここで治療しているのよ。あなたもそうならないために、他の道を勧めているのよ。」 ジョーイさんは最終的にポケモンを苛めたり悪さに使ったりする人でも看病するくらいの優しい人なので、そんな人の言葉を 聞かないのは悪い気がした。でも。 蓮華:「謎の物体はポケモンよね。」 キレイハナ:「多分、あたしもそう思う。この坂道を利用して、転がる攻撃を使用している可能性が高いわね。」 あたしとキレイハナは、危険があったとしてもここを通るつもりでいた。理由は何となく何だけど。 そしてあたしたちは、ジョーイさんの止める声を背に、そのまま坂を下り始め、途中で止まった。すると。 水色の回転物体があたしたちにむかってくるのが見えた。 蓮華:「アレがその問題の物体なのね。」 キレイハナ:「こうも早くから出会えるとは思ってもいなかったわ。」 キレイハナは体を動かすと、自転車のかごから飛び出した。 キレイハナ:「あたしに任せて!高速スピンよ!」 キレイハナがあたしの前に立って高速スピンを始めた。あたしはキレイハナの高速スピンが、あの転がる攻撃をどれだけ 受け流せるか分からなかったので、ヘラクロス、ロコン、サンドも出すことにした。 蓮華:「ヘラクロスはメガホーン、ロコンは火炎車、サンドは転がる攻撃よ!」 一つの物体に対しての4つの攻撃は向こうに悪いような気がしたけど、今はそれしかなかった。が。 キレイハナ:「きゃあ!」 ヘラクロス:「ヘラクロ!?」 ロコン:「コ〜ン!」 サンド:「サン!?」 キレイハナが吹っ飛ばされ、他のみんなも一気に跳ね飛ばされてしまった。 ??:「パオパオ!」 そしてその回転物体は正体を見せた。あたしたちから50メートルくらい離れたところで止まったのだ。 蓮華:「あれは…ゴマゾウね。」 正体は水色の体をした小柄な長鼻ポケモンのゴマゾウだった。 キレイハナ:「いたたた…、ゴマゾウだったのね。ってことは、アレはゴマゾウの転がる攻撃かぁ。 でも、上り坂であの威力は半端じゃないよ。」 確かにそうだ。あたしたちは上にいたのだ。と、ゴマゾウはあたしを見て、そして再び転がる攻撃をしてきた。 蓮華:「ここは…カビゴン!お願い!」 あたしはとっさに、まだ寝てるはずのカビゴンを出した。カントウに生息するカビゴンには、体がクッションのように柔らかく、 そして大柄な割にすばやく動ける性質があるらしい。オレンジ諸島のカビゴンからの遺伝ではないかという説もあるほど。 それであたしがやるのは、カビゴンのお腹なら、ゴマゾウの力を跳ね返せるだろうとよんだのだ。でも。 ゴマゾウ:「パオ〜!」 カビゴンの体は一瞬、ゴマゾウを突っ込ませ、弾こうとしたが、いきなりあたし達の方にカビゴンのほうが移動した。 いや、動かされたのだった。ゴマゾウが転がる攻撃の威力で、カビゴンを動かしてしまったというわけだった。 蓮華:「カビゴン戻って!」 さすがにあの威力をカビゴンでは止められなかったので、連続では眠っていてすぐに回復できるカビゴンでも不利だった。 キレイハナ:「蓮華、カビゴンで止められないなら、ヒメちゃんたちでも無理だよ。どうするの?」 ヒメちゃんとはキレイハナがつけたヒメグマの愛称だった。ヒメグマも結構な力の持ち主だけど、ヘラクロスがやられたのだから、 出すわけには行かない。 蓮華:「ルナトーン、ゴマゾウを止めて!サイコキネシスよ!」 エスパータイプならエーフィでもいいけど、ゴマゾウを止められなかったら、エーフィの方が無防備で危ない。 だから特性が浮遊であり、陸上攻撃からの効果がないルナトーンを出した。 ルナトーン:「ルルルゥ…ナ〜!」 ルナトーンはサイコキネシスでゴマゾウの回転を止めさせた。すると懸命にゴマゾウは動こうとしている。そして。 ゴマゾウ:「パ、パ、パ、パオ〜!」 いきなり鼻から何かを噴出した。 蓮華:「えぇ!?」 キレイハナ:「嘘…」 ルナトーン:「ルナ!?」 ゴマゾウが噴出したのは水鉄砲だった。 ルナトーンは至近距離からの水鉄砲を浴びてしまい、倒れてしまった上、ゴマゾウを自由にしてしまった。 キレイハナ:「蓮華、これってもしかして…」 蓮華:「うん、そうだよ、きっと。」 普通水鉄砲を覚えることはないし、卵からの遺伝で覚えることもない。 だとしたら考えられるのは、あたしたちと、特にキレイハナたちと一緒であるということだ。 ゴマゾウ:「パオパオ!パオ!」 あたしたちがはっとしたのを見ると、なにやらゴマゾウは叫んだ。 キレイハナ:「やっぱり…、蓮華、あのゴマゾウはあたしたちの同類らしいよ。今そう言ってた。」 蓮華:「そうなの。でも、どうして関係ないトレーナーたちを攻撃していたのよ。」 すると、キレイハナの通訳でゴマゾウは話し出した。 キレイハナ:「すごく馬鹿らしいんだけど、自転車やバイクと自分がどっちが早いかを競争するために近づいたら 逃げ出したから、追いかけていって、ついぶつかってしまったんだって。この子、自分と競争してほしかったみたい。」 蓮華:「確かに…、でもさ、それだとかなり危ないわよね。キレイハナ、行ってきて。」 あたしは決めた。 キレイハナ:「ゲットするの?」 蓮華:「ええ。ここであたしたちが見逃すわけには行かないし、このまま他のトレーナーがあのゴマゾウの純真な競争したい気持ちだけで 怪我していくのを無視するわけにはいかないでしょ?」 キレイハナ:「だよね。了解!ゴマゾウ、あたしたちと勝負よ!」 するとゴマゾウは前足を上げ、地面に思い切り下ろした。 蓮華:「キレイハナ、ジャンプして葉っぱカッターよ!」 あたしは地震攻撃が来ると直感して、すぐにキレイハナに指示を出した。直後、地震攻撃の後のちょっとした間の隙をキレイハナが突き、 ゴマゾウに葉っぱカッターが炸裂した。が、すぐに鼻で防ぎ、ゴマゾウは水鉄砲を発射してきた。相手が草タイプだと分かっているためなのか、 あまり近づいて攻撃してこようとしない。間合いを詰めているからかもしれないけど。 蓮華:「キレイハナ、日本晴れですばやさを上げるのよ!そして高速移動!」 キレイハナは特性の葉緑素を利用して自分の素早さを高めた。そして高速移動でキレイハナはゴマゾウに近づいていた。 ゴマゾウもそれに気づき、すぐに転がって逃げようとするけど、それをキレイハナは追いかけ続ける。 蓮華:「キレイハナ、追いかけながら痺れ粉を撒き散らし続けて!」 キレイハナ:「やってみる!蓮華、気をつけてよ!」 キレイハナはあたしが草属性能力を持っているけど、一応の注意を叫びながら、痺れ粉を撒き散らし始め、そしてゴマゾウを追いかけた。 と、ようやくゴマゾウはふらつき始めていた。 どんなポケモンでも転がる攻撃をずっと続けているわけではない。いつかはスピードが一瞬でも緩むはずだし、呼吸だってするはずだ。 呼吸しなきゃ死んでしまうから。だから痺れ粉をまき続けさせた。少しずつ少しずつ、痺れ粉がゴマゾウに効き目を与えていたのだ。 蓮華:「今よ、キレイハナ、至近距離で種マシンガン!」 キレイハナ:「了解!」 種マシンガンがふらふらのゴマゾウに当たり、ついにゴマゾウが倒れた。 蓮華:「今ね、行くのよ、スピードボール!」 あたしはスピードボールを投げた。ゴマゾウのようにすぐに逃げてしまい、捕らえるのが難しいポケモンを捕まえるための モンスターボールだ。そして何回か点滅を繰り返したボールが、ようやく止まった。 キレイハナ:「ふぅ、蓮華、やったね。」 蓮華:「ええ、ゴマゾウ、ゲットだぜ!」 あたしがゴマゾウをゲットしてからは、何事もなく普通に下り坂を下っていく状態だった。 途中、オニドリルやマグマッグに襲われることもあったけど、まだ元気なモココやサニーゴの力を借りることで切り抜けていた。 蓮華:「あ。」 キレイハナ:「ん?蓮華、どうかしたの?」 蓮華:「うん、最近色んな子をゲットしたじゃない?」 キレイハナ:「そうだね。これからもゲットするんでしょ?」 蓮華:「でも…ゲットしすぎて使わない子もいたらいけないし、一応全員あたしは使うけどね。でも、ボールって高いじゃない。 それよりは薬や食料の方が必要だし。」 キレイハナ:「ふ〜ん、分かったわ。そういうことね、ボールが残っているだけのポケモンをゲットして、そこで蓮華のゲットは 終わりってことでしょ?」 蓮華:「そう。それに、他のみんなはベストメンバーがいるじゃん。あたしは今のメンバーからベストは選べないから、みんなあたしのベストだから。 だから、今所持してるボールの数だけでやめようと思って。」 そしてあたしは残りのボールを確認することにした。 蓮華:「大好きクラブとフジ老人に色々貰ったのよね。ええっと、サファリ3つ(どうしてこんなものが?)、ネスト1つ、ダイブ1つ、ネット1つ、 ラブラブ1つ、プレミア2つ、ヘビー1つよ。」 キレイハナ:「ってことは10匹かぁ。すごいことね、それでも。」 確かにそうかもしれない。でも、あたしはその10匹をどんな形でゲットできるのかなっと思って楽しみになってきた。 そしてあたしは数時間後、ようやくセキチクシティに到着し、ポケモンセンターに落ち着いた。 キレイハナ:「サファリボールが3つ…これって、どうして外に持ち出せたのかなぁ?」 蓮華:「う〜ん、くれたのが大好きクラブの会長さんだから…意味不明ね。」 あたしたちは一応、このボールがあるのでサファリに行くことには決めていた。 蓮華:「ガイドブックによると、サファリゾーンはホウエン地方のサファリゾーンとの交流により、多くのホウエンポケモンをカントウに運び入れたって。 だから、かなりマニアックなポケモンが捕まるかもしれないらしいよ。」 キレイハナ:「そういうのを蓮華がゲットするかもね。」 あたしたちはこんな話をしていた。 そんな時、ちょうど近くをアブソルが走り去っていた。あたしたちがそれに気づいていれば、何かが起きるのを直感して、すぐに動けていたのかもしれない。 そして同じ頃。 シオン郊外で。 なずな:「どういうつもりなの?」 ??:「別にどうするつもりでもない。この街のものに危害が加えられたくなければ、黙ってついてくればいい。 それだけのことだ。」 タマムシ市内某所で。 玲奈:「あたしに何の用よ。」 ??:「ちょっと力が借りたいというわけだ。まぁ、無理やり連れて行かせてもらうけどな。」 ディグダの穴のそばで。 希:「あたしのポケモンが一瞬で倒されたなんて…」 ??:「弱いな、お前のポケモンは。」 各地で確実に何かが起き始めていた。 が、それはアブソルでさえも気づかなかったほど大きく、そして強大なものだった。 それが一体何なのかは、今だ分からずじまいだったが。