第64話 ドリームの魔の手! 悪夢?それとも… 志穂:「何かを感じて避難したら、こんなことになるとはね。」 鈴香:「お姉ちゃんたち、捕まっちゃったね。」 悠也:「哲也たちも人質を取られたからな。俺たちもここにずっといるわけにも行かないぞ。」 セキエイ高原に近い小さな水車小屋に、あたしと鈴香ちゃんと悠也はいた。 あの日、朝から監視されているような気がして部屋を出たら、偶然スペース団の作戦を話す声を聞き取った鈴香ちゃんが、 悠也と一緒にセキエイを離れようとしているところだった。 話を聞いて、あたしも一緒に行くと、数分後にはリーグ会場の方で爆発音が聞こえ、スペース団の飛行艇が多数飛んでいるのが見えた。 そして、鈴香ちゃんの能力で音を聞き取ったところ、蓮華ちゃんや哲也たちが捕まった事が分かった。 鈴香:「あの時ヤマブキシティを中心に起きたカントウ乗っ取り事件の際に所属していたスペース団員のほとんどがまだ所属し続けて いたみたい。しかもレベルが上がってるよ。後、幹部は3人。それにボスらしき人物がいるみたいなことを話してる。 聞き取れるのはこれくらいよ。あ、トキワ、マサラ、グレン以外の町はスペース団の来襲を乗り越えたみたい。」 悠也:「鈴香、力使いすぎてないか?休めよ。」 鈴香:「うん。」 鈴香ちゃんは音属性の能力者。 遠くの音も聞き逃さずにそれぞれの音を聞き分けて情報を知る力でリーグ会場の状況を聞き取ってもらった。 そして分かったのが今のこと。 志穂:「今あたしたちがここにいることは知られてないでしょ?」 鈴香:「うん。全く気づいてないみたい。…あ、奴らの本拠地は…トキワの森の奥深く…」 志穂:「鈴香ちゃん、もういいわ。あなたが十分休んだら、あたしたちでそこに潜入しましょう。」 悠也:「哲也たちを助けるのか?」 志穂:「それもあるし、今もしジムリーダーや四天王、能力者やポケモンマスターで束になってかかったとして、 普通の団員の力が幹部クラスだとしたら、人数が多いほどバトルは楽になるわ。」 あたしは蓮華ちゃんがやられたことで、彼らのレベルが幹部クラスに近くなっていると言う仮定をしてみた。 可能性がないわけではないから、これくらい思っておいたほうがいい。 悠也:「分かった。」 鈴香:「あたし、休んだらもう一回偵察しましょうか?」 志穂:「いいえ、次はあたしの鬼火ちゃんにやってもらうわ。それに気づかれたら管狐を飛ばすし、ヤタや狛犬も配下にあるから。 だから二人は力を休めておいて。」 あたしが最強の力を出せば、使役できるものたちは数知れないほど。 でも、それを起こすほどの事が起きなきゃいいわね。 その頃。捕まったメンバーは様々な場所に入れられていた。 「あんたなんか、生まれてこなきゃよかったのよ!この疫病神!」 涼治:「違う!それは…!…あれっ、…夢か。ハァ…」 …あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。 ポケモンセンターで薬を嗅がされて、気づいたらこの部屋にいた。 何もない真っ暗な部屋。俺は手足を何十に縦にも横にもロープで縛られ、そのうえ手を後ろ手にして手錠で~められていた。 床に接着されている大きな鉄のベッドに。 嗅がされた薬の影響なのか、俺は力を体に感じない。能力も出ない。しかも上半身をすべて剥ぎ取られてしまったらしい。 多少の眩暈はあるものの、意識は何とかはっきりさせていられる。 けれど、あんな夢を久々に見るとはなぁ…。忘れかけてたことだったというのに。 それにしても…。 スペース団は一体何を考えているのか分からないが、動く事ができない以上、そのうえ能力さえも使えない以上、ここでじっと 誰かが来るのを待ち続けるしかないのかもしれない。 そこに、誰かが入ってきた。 涼治:「誰だ。」 ??:「その様子だと目が覚めたようだね。」 部屋に入ってきた奴は部屋の電気をつけず、外の明かりを背後に取っているため、全く誰か分からない。 でも、これだけは分かる。感じるこの気は、明らかに敵だと。 涼治:「何者だ?」 ??:「おやおや、誰か分からなくても私がスペース団であることは分かるようですね。」 涼治:「当たり前だ。俺をどうする気だ!」 ??:「威勢がよろしいようで。まぁ、落ち着いて私の眼を見なさい。」 俺はそう言われて反射的に目を瞑った。 涼治:「お前、ドリームだな。上草から聞いた。俺を催眠術で操るつもりか?」 ドリーム:「図星ですよ。その通りです。しかし、あなたは捕まっているのですから、私の言うことを聞いてもらいませんと 困ります。それでも嫌ですか?」 涼治:「ああ。俺は一度悪に心を操られた。そして蓮華や先輩やみんなをすごく傷つけ、人の心を弄び続けていた。 もうあんなことは、あんなこ…ぐはっ!…な、何をした…。」 突然首筋に何かを押し当てられた。すると、体中に強烈な電撃が流れた。 無防備な体に対する容赦のない攻撃には、流石の俺も耐え続けるのがつらい! ドリーム:「これですか?捕まえた化石使いの少女が持っていたスタンガンですよ。少し改良してピカチュウ10匹分の 電気を流せるようにしました。それでも、やはり常人ではないからですかね?あなたが意識を持っているのは。」 スタンガンか。 清香先輩はよく痴漢に会う電車で学校に通っているから、それをこっちにまで持ってきてたんだな。 先輩らしいや。でも、それが原因で俺がこんな目に遭うとはな。 ドリーム:「調べたところ、風を扱う能力者は飛行ポケモンと同様に電気系の攻撃に弱いようですし。 もう一つ、お見舞いしておきましょうか。」 涼治:「なっ、やめ…ぐはっ!…や、めろ…」 力が使えないけど、意識があるためか、眠っていないからなのか、自己防衛機能が働き、電撃に何とか耐えれたようだ。 でも、次に食らったらおしまいだな。 ドリーム:「どうしましたか?どうやらもう終わりのようですね。能力者と入っても名前だけのようですね。 とっても弱いのでガッカリです。」 涼治:「そん…な、こ、とは…ない。お、れは…まだ…」 ドリーム:「仕方ありません。スリーパー、この少年の目を開けなさい!」 俺は体に痛みを感じ始めた。スリーパーの念力が、無理やり顔の、体の筋肉を動かしているのだ。 そして俺は、自分の意識とは別で、目を開けさせられた。 その瞬間、真っ暗で見えない奴の目だけが光ったように見えた。 涼治:「な、んだ?」 光を見た途端、俺は意識がなくなり始めるのを感じた。 そして目の前には誰かがいるのが見える。 涼治:「あ、あなたは…」 「…あたしの前に姿を見せるなんて!またあたしに不幸を与えに来たわけ?あんたなんか産まなきゃよかったわよ! この疫病神が!」 涼治:「それはちが…」 「ちがわないわ!あなたは疫病神よ!他人を不幸にし続ける奴なんて、ここにいてほしくないわ! あのときみたいに捨てられたくなかったら…」 涼治:「やめろ!それだけはやめてくれ…」 俺は、それを乗り越えてここまで来たのに…。もうあのことは思い出したくない! ドリーム:「くっくっく…、どうやらこの少年の最も思い出したくないものを永遠の夢を見る催眠で引き出せたようですね。」 ドリームの足元では顔を引きつらせた状態で唸り続け、震え続けている涼治がいた。 ドリーム:「さて、他の能力者もこの調子でやるとしましょうかね。 彼らが廃人になれば、あとは殺すも操るも楽ですからね。それに、もうすでに彼で3人目。 元スペース団の炎の少女や、あの頑固な闘志の青年よりは楽ですね。まぁ、彼らも悪夢にうなされ始めてる頃でしょうし。 どうやら能力者というものは私の想像をはるかに超える不幸を味わったようですね。 ゴースト、夢くいで彼らの夢をさらに歪めてあげなさい。」 ゴーストが涼治を覆うと、さらに涼治は震え始めていた。 それをドリームはおもちゃを扱うように見ていた。 体が…動かない。 あの変な銃弾を受けてから、俺の体はほとんど動かなくなった。力も出ないし、姿を変えても翼を具現化させても、 コスチュームは中途半端な長さ(短すぎるタンクトップとか)になるし、翼は力を失って羽が今にも抜けそうな状態。 いや、少しずつ抜け落ちてる。動くごとに抜けているんだ。だから何とか頑張って普段の状態に戻した。 能力を封印されているようなものだし、体の自由は全くなし。 意識があるにしても、顔の筋肉も全く動かず、さっきからため息をつくことがやっとだ。 目を瞑ることだって長くやっていられない。 そこに足音が聞こえ、誰かが入ってくるのを感じた。 入ってきたのはドリームだった。俺はここの部屋に入れられた時、後で用があるといわれたのだ。 ドリーム:「これはこれは、また異様な姿になったようですね。羽が抜け落ちて残ってますよ。 これはいい記念だ。貰っておくとしましょうか。」 ドリームは俺から抜け落ちた羽を全て拾い集め、その後俺を持ち上げ、適当に台に叩きつけるように置いた。 痛みも感じないのか、叩きつけられても全く痛みが感じない。 ドリーム:「ほほぉ、君のその姿、うん、いいですね。この繊細そうでスベスベとした白い肌。 ボムのストレス発散にちょうど良さそうだ。あいつは欲求不満だからな、君はもうすぐで廃人と化し、ボムの遊び道具になりますね。」 遊び道具!?欲求不満だとか、ストレス発散とかって、…まさか…マジかよ。 ドリーム:「あははは、どうやら困っているようですね。まぁ、廃人になるのですからそんなことを考えなくてもよろしいですよ。」 ドリームは俺の首を掴み、自分の顔と俺の顔をぐいっと近づけた。 その瞬間、目が光ったのが見えた。 そして、俺は意識が遠ざかっていくのを感じた。 次に見えたのは、誰だろうか。知らない奴、じゃない!こいつはあいつ!? 「また俺に会いに来てくれたのか?またいろいろと遊ぼうな。」 「私たちの子供を傷つけるなんて!この化け物が!」 やめろ!来るな!俺は…俺は…!? …玲奈! 玲奈:「哲也?………ん?…、ここは?」 あたしが徹夜に呼ばれた気がして目を覚ますと、あたしは手と足を少しは伸ばせる状態にした感じでゴムでつながれた状態で、ベッドに横になっていた。 周りには翼、清香、海斗の姿がある。ここは病院の一室のような部屋だった。 部屋にはあたしたち4人しかいない。哲也も健人も、美咲ちゃんの姿も見えない。 あの時、あたしたちは瓦礫の中で能力でバリアを作って耐えていた。 でも、突然バリアを突き破って地震攻撃の圧力を受け、そのまま気を失っていた。 でも、バリアが完全に破壊されなかったから、あたしたちは無傷でいられたみたい。 だけど、何が起きたのかしら? ??:「あ、目を覚まされたようですね。」 と、誰かが入ってきた。が、その姿ですぐに気づかされた。 玲奈:「スペース団!?」 ??:「あ、そうか。知らないんですよね。あの、あなた方はスペース団で処分が決定された能力者の方々です。 しかし、簡単に処分したくないと言うボスの意見によって、あなた方はここで療養を許されました。 あなた方は私が責任を持って介護しますから、心配しないでくださいね。」 そして説明をした女性はあたしや他の3人の色々な検査を済ませ、出て行った。 と思えば、すぐに戻ってきた。 ??:「申し送れましたわ。私はレイクと申します。以後、お見知りおきを。」 あたしは、今まで会ったスペース団とは印象が全く違う彼女に違和感を持ったが、今の状況は理解できた。 あたしたちはスペース団に捕まったんだ。 本当なら処刑処分を受けるところを、どうしてか知らないけどここの新しいボスの気まぐれのおかげで助かった。 そして、今怪我の治療をしてもらっていると言うわけだ。 でも、どうしてか分からないけど、起き上がることくらいは可能なのに、歩いて出て行こうとか思って動こうとすると 体が震えだしてしまう。どうしても足が動かない、石のように固まって。 後、能力を使おうとしても、力自体が体に反応を示さなかった。 何が起きているのか分からないけど、あたしは彼女に従うしかないようだ。 そんな中、清香、海斗、翼の順で目を覚まし、あたしの説明を受けて当惑していた。 清香:「かごの中の鳥ね。」 海斗:「奴らの手で行き続けているのも微妙だな。しかし、足を下ろそうと、ゴムを外そうと思うと体が動かなくなる。 これはどうもおかしいぞ。」 翼:「ああ、俺は体が震えて止まらない。一体、どういうことなんだ?」 レイク:「それはドリーム様が催眠をかけたからです。」 いつの間にかドアが開いていて、レイクが入ってきていた。 清香:「催眠?」 レイク:「ええ。ドリーム様はあなた方に話してしまってもよいとおっしゃられましたのでこうして話しています。 あなた方は寝ている間に強力な催眠を体にかけられました。そのために、あなた方が脱走しようとする行為につながることは、 全くできない状態なのですわ。」 翼:「そんなことをされても、いつかは逃げてやる。」 海斗:「ああ。俺たちの能力を甘く見てもらっては困るからな。」 レイク:「そうですか。しかし、それはやめていただきたいですわ。」 いきなり表情を変えて、レイクが言った。 清香:「どういうこと?」 レイク:「今起きていることをあなた方に話すことも許されていますので話しますと、あなた方の仲間の5人は今、 ドリーム様によって処刑処分が実行されています。それを受けるのを免れたあなた方はいいことですわ。」 玲奈:「処刑処分ですって!?哲也が!?」 レイク:「あの大人びた風使いの少年のことですわね。ええ、彼も先ほど処分が行われました。」 清香:「一体何をしているのよ!」 レイク:「簡単ですわ。ドリーム様が5人の記憶の中で、最も思い出したくない過去をさらに歪め、永遠の夢として 彼らに見せているのです。それを見続ければ、彼らは廃人同然ですから。それでは、私は失礼します。 次は夕食の時に参りますので。」 彼女は出て行った。律儀に鍵を5つもかけていった。 玲奈:「哲也が…そんな!」 あたしは心を強く握られたショックを感じた。 清香:「蓮華ちゃんに、涼治に、哲也に健人に、美咲ちゃんか。」 海斗:「能力者は一度は嫌な経験を受けている。あの5人もそれぞれの生い立ち上で何かあったことは事実だ。 それを知る限りでは、あいつらを早く起こさないと大変なことになるな。」 翼:「しかし、俺たちはここを動けない。何とかしないとな。哲也の嫌な記憶としたら、小4の時のアレだ。 アレを思い出したとしたら、哲也はヤバイ!」 清香:「アレ?…そうね。」 玲奈:「何のこと?」 清香:「あ、玲奈は中2の時に転校してきたから知らないのよね。哲也はね、一度変質者に誘拐されてるの。 その時に色々といじめられたらしいわ。哲也の力がはっきりと覚醒したのもその時。 風の力がその男を切り刻んだ時、その男の家族が哲也に言ったの。『化け物』って。」 海斗:「あの時の哲也は気にしていたな。自分は生まれてこなければよかったと。」 翼:「ああ。早く何とかしようぜ。健人も前に話してくれた事がある。あいつは自分の両親が死ぬ瞬間を見てる。 たまに夢で見るらしい。」 清香:「そういえば、涼治君が前に精神科の病院から出てくるところを見た事があるわ。海斗も見たでしょ?」 海斗:「ああ、俺たちに気づいた時、真剣な目で誰にも言うなって言ったよな。」 清香:「今喋っちゃったけどね。やばいわよ。みんな廃人になったら操られかねないメンバーじゃない。」 話しているうちにやばさを感じ、あたしたちは哲也たちのために、何とか出ようと、動こうと頑張ることにした。 みんなのために。 そういえば、蓮華ちゃんはどうなんだろう…。唯一そういうこと、聞いた事がないわね。 …ここは…どこ? あたしは…。 蓮華:「みんな!うっ…」 意識がはっきりして、竜巻のことを思い出し、飛び起きると体中に痛みが走っていた。 体中を包帯で巻かれ、あたしはベッドに寝かされていたらしい。 周囲にはたくさんの大小様々なポケモン用のベッドがあり、みんながそこで傷だらけで寝かされていた。 しかも、表情がきつく、何かに怯えるようにして、震えるように眠っている。 蓮華:「みんな…魘されてる?」 ドリーム:「そのとおりさ。草使いのお嬢さん。」 あたしのいる部屋の入り口には一人の男性の姿があった。 蓮華:「あなたは?」 ドリーム:「私ですか?夢使いのドリームと申します。」 蓮華:「…あなたが!?…よくも親友の菜々美を襲ったわね。あたしたちはここに入れてどうするつもり?」 ドリーム:「いえ、あなたのポケモンたちは実験に使う予定でしたが、馬鹿な配下が全てのボールを開けて炎の中に放ってしまったでしょう? だから実験に使う段階では怪我を治していただかないと、実験には不備が出ますからね。ここで治療をしているのですよ。」 実験で使う!?そんなことさせな…。 蓮華:「痛い!」 ドリーム:「あ、一言言っておきましょう。あなたの体は全治2年の火傷でしたから。ただ、あなたの様子を見ますと、 どうやら自己治癒能力があるようですね。顔にあった火傷の痕が綺麗に消えています。 このまま、あなたはすぐに回復するでしょうね。」 ドリームと言う幹部は、全てをよく知り尽くしているようだ。 厄介な奴だ。 蓮華:「ねえ、あたしをどうするつもり?」 ドリーム:「それはですね。」 ドリームは顔を近づけてきた。その時、彼の目を、光る目を見た気がした。 ドリーム:「こうするのですよ。」 彼の声がうっすらと聞こえた気がした。でも、あたしの意識はそこにはなかった。 蓮華が寝静まり、数分が経過した。しかし、蓮華の様子は全く変わっていなかった。 何にも怯えず、震えることは全くない。 ドリーム:「これで…何!おかしいぞ。」 ドリームは驚き、うろたえた。 蓮華は全く悪夢を見ていないからだった。 そんな様子は全く見受けられていなかった。 逆に、安堵の表情が見受けられ、夢くいを行おうとしたゴーストも弾かれていた。 あたしは気がつくと、透明な体になって宙を浮いていた。 鳥があたしを透けていたってことは、あたしはこの世界では幻なのね。 蓮華:”ここはどこ?” あたしがいるのは紅葉が綺麗な山の中。そこの道を、「当選!山中紅葉狩りツアーご一行様」と書かれたバスが通り過ぎていった。 あたしはそれが何か分かった。よく見る夢、ここは、あたしがよく夢で見る、過去の世界だ。 夢の中でぼんやりとしか見えないけど、見てる夢の中。 でも、今日ははっきりと見えている。 バスは紅葉や銀杏の並木道を通っていた。そしてそのバスの中では様々な年齢の老若男女に混ざり、小さな子供が二人いた。 一人は多分、あたしだ。 今まではどっちかがあたしだと思ってたけど、片方の女の子はどう考えてもあたし。 だってこのちょっと黄緑がかった髪の色。あたしの地毛は普段は黒に、時には茶色に染めるけど、実際は黄緑色だから。 流石にヤバイと感じてと言うか、周りがみんな黒だったから、染めたのよね。 だから、戦闘コスチュームになる時だけ、地毛は黄緑色になる。 もう一人の男の子、あたしよりも少し年上みたいだけど、誰だろう…? そして記憶にも少しある、優しいお父さん(正体は鬼の半妖)のそばをあたしがが走り、あたしよりも少し小さな男の子が、 お母さんに抱きかかえられていた。この白っぽい髪の男の子、弟? でも、あたし、戸籍上にも弟は確認されてないし、氷雨さんも舞さんも言ってないよ。 どういうこと?あたしの弟なの?腹違いであるけど、妹の鈴香以外にあたしにはまだ弟がいたの? つい当惑していた。 でも、よく見ていると、どこにでもいそうな幸せの絶頂にいる家族の風景だった。 それを少しずらすと、妊娠中なのか、大きなお腹を抱えた女性と、それを心配そうに見つめる男性の姿があった。 女性は男性に心配されながら、走り回る少年をじっと眺めていた。どうやら、あの男の子はこの人の子供らしい。 誰かに似てるわ、この二人。 分かった!哲兄だ!この男の子、子供の頃の哲兄だ。この二人はそれじゃ、哲兄のお父さんとお母さんね。 はじめて見たわ。 あれっ? でも、あたしと哲兄は、舞さんのところで初対面だったのに。 そしてその近くには気難しそうな男性がいて、その男性の連れと思われる女性は、少し離れたところに座っている夫婦と 仲良さそうに話していた。この二人は…女性が二人とも久美ちゃんと来美ちゃんに似てる。 この人たちは来美ちゃんと久美ちゃんの両親なのね。 舞さんが前に言っていたこと。 あたしたちの両親は事故で全員一緒に死んだと。 それが、このバスでの事件だったのね。…でも、だとしたら、どうして哲兄がいるの? そしてそのバスはトンネルに入った。あたしも追いかけようとした。 でも、突如爆発音が山々に響き渡り、トンネルの奥の方で、何かが燃えているのが見えた。バスだ! あたしは急いで向こう側に回った。 その時、風の塊がバスから飛び出て行ったのを感じた。温かい二つの風に包まれた何かが。 あれは多分哲兄。 ようやく分かった。哲兄はバスに乗っていなかったことになったのは、両親が力で哲兄を外に逃がしたから。 多分、家にでも送ったのよ。それなら納得がいく。 (実際は哲也が送られたのは二人が哲也を継続争いに巻き込まないために入れようと思っていた施設だったが)。 そしてトンネルからは見るも無残に大破し、燃えたままスピードを落としながら走るバスが姿を現した。 あたしは炎の中に入った。夢なので、あたしが燃えることはない。 でも、既に中にいた人たちは消滅という形を取ったのか?すでに人間の形でとどめている人はいなかった。 お父さんは鬼の姿でお母さんを守る形で炭になっていたし、お母さんは消滅していた。 爆発の熱が人間を一瞬で灰に変えたのかもしれない。 さっきまでの幸せな空間が、どうして一瞬で? その時感じた。ものすごい、炎の力を。誰かが炎を放ったらしい。 何のためか知らないけど、テロリストによるのかも分からないけど、誰かが放った炎が何かに引火したのか、爆発が起きたらしい。 あたしは自分と弟の気配を探した。 でも、弟は灰にではなく、姿や魂から全てがどこにもなくなっていた。まるで、この世界にいなかったかのように。 そんな時、外に誰かがいるのが見えた。 あたしだった。あたしは、少女は、冷たくなって横たわっていた。 そしてその後、怪しい集団がやってきてバスとあたしを調べた後、そのままバスの火も消さずに姿を消した。 彼らが何者かは分からない。 でも、あたしが死んでいる(?)のを確認すると、喜んだように帰っていったし。 その後であたしはいきなり目を覚まし、誰もいない場所に置き去りにされた感じで泣き叫んでいた。 それを見たとき、あたしは意識が戻るのを感じられた。 蓮華:「あれっ?」 あたしはさっきのベッドの上にいた。近くにはドリームがいるけど、あたしがキョトンとしていることに驚いていた。 ドリーム:「なぜだ!どうしてお前は悪夢を見ない!お前の心の中で最も思い出したくないものを思い出させたはずだったのに。 お前の心の中で封印されている部分をスリーパーが開放したというのに。」 封印…? なるほどね。あたしは多分、あの記憶を封印していたのね。それが夢としてみるようになった。 記憶を封印したのは、当時のあたしが親がいなくなったことの寂しさが故の無意識のため。 でも、封印が溶けても今のあたしなら大丈夫だ。 実際、あたしは簡単にへこたれないから、美咲ちゃんたちを傷付けた時の方がつらかったけど、思い出したくないわけじゃないし、 ようするに、あたしには思い出したくないことって言うのはないのよね。 全てを乗り越えてきたから。 あたしには、こいつの攻撃は効かないのだ。 蓮華:「残念だったわね。あなたの得意分野はあたしに通じないようね。」 体はもう元気に動くし、力も体に戻っている。いや、過去をしっかり思い出したからなのか、前よりも力が使えるように感じる。 あたしとトラウマは無縁そのものだった。 ドリーム:「くそっ!」 蓮華:「ついでに一発!母なる大地に生まれ、我らに恵を与える植物よ!あたしの絆たちに力を、癒しを与えたまえ! ヒーリング・フラッシュ!」 あたしは力を解放した。 部屋中を包み込む緑の光に、スリーパーとゴーストは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられ、そのままボールに戻されていた。 ドリームもその光を恐怖に思うほどで、早々と部屋から逃げ出していた。 それとは反対に、一斉に元気になって飛び起きるキレイハナたち。 キレイハナ:「蓮華、ありがとう。あたしたち、嫌な思い出をずっと見せられていたの。 でも、蓮華の力を受けて、あたしたちは前よりも強くなったって感じる。それに、あたしたちは蓮華に癒された。 …それで、今出て行ったのがその夢を見せた奴なのね?」 蓮華:「ええ。みんな、ここで暴れる?」 ??:「それは待て。」 あたしはみんなで本拠地をぶっ潰そうと考えた。 でも、突然天井の板が外れ、誰かが顔を出した。 蓮華:「サカキさん!」 サカキ:「現在、ジムリーダー、能力者、そして四天王がそれぞれこの建物の中に潜入している。 お前もポケモンをしまってこちらに上がって来い。時機を見て彼らに奇襲を仕掛ける。」 蓮華:「分かりました。みんな、戻って!」 この部屋はあたしの力が解放された時に監視カメラや盗聴器がすべて不能品になっているから心配なかった。 そして、あたしは天井に上がった。 これからが、あたしたちの反撃よ。 「ドリームの技が破られただと?」 どこかの部屋で、彼らのボスと思われる人物が秘書と思われる人物から報告を聞いていた。 「ええ、しかも前以上の力を持ったそうでございます。草使いの少女はそのまま天井に消えたそうです。 多分、カントウリーダーたちでしょう。」 「そうか。奴らのことだ。いつか奇襲を仕掛けてくるだろうな。ドリームに伝えろ。 早めに廃人を作り終え、このスペース団のために使える様にしておけとな。」 「分かりました。」