69.帰還!さらば、ポケモン世界 ついにあたしはスペース団のボスの部屋にやってきた。 扉の前にいた幹部のドリームは、あたしに催眠が効かないうえにスリーパーを一時期に倒されていた事で、あたしに攻撃を 仕掛けてこなかった。 他の幹部はと言えば、ボムはついさっきキレイハナたちが袋叩きにしたし、ブレイクと言う幹部は見た事がないけど、 外にいる誰かが倒したのかもしれない。団員の姿もほとんど見かけなかったのだ。 それと、この建物の中は空間を歪められているらしいけど、外と思える場所から、そして中のどこかから、強大な能力の塊を 感じていた。多分、みんなは固まりつつ、結集しつつあるんだろうな。 あたしもそこに行くべきかもしれないけど、既にここにあたしは来てしまった。 単独行動はよくないかもしれないけど、でも、あたしは行く。 先に行って、後から来るみんながやりやすいように、バトルしやすいように頑張る。 ドアを開けると、そこにはどこかの宮殿の王の間にやってきたような雰囲気に飲み込まれかけた。 まさにそういう感じに部屋が出来上がっていたのだ。 そして、あたしの前にはルークとは違い、凛々しく、いい年していい味が出た感じのする渋い男性が座っていた。 彼の左右には冷たい視線をあたしに投げてくる銀髪の青年(?)と、忍者装束の男性がいた。 銀髪の青年は大会社の秘書みたいな感じで、スーツ姿に眼鏡の美青年だった。 蓮華:「あなたがスペース団の首領?」 ブラスト:「お前が草使いの少女か。ここまでよく来れたな。多数の団員、幹部、幹部候補生をお前の仲間に倒されてしまったが、 今ここで、時空転送装置が完成した。その全貌をお前に見せてやろう。」 いろんな人から聞いた、ブライトという首領は重々しい、王様っていう感じの口調であたしに言った。 蓮華:「時空転送装置?そもそも、あなたたちスペース団の目的は何?」 ブライト:「私の私的な目的は過去に戻り、過去を修正する事だ。それがどれだけ小さな事であっても、私には唯一の心残りだった。 それと同時に、多くの団員が思っていることがある。シルバス、その全貌を教えてやれ。」 シルバス:「はっ、スペース団全体においての目的は世界征服と一族の繁栄にある。ブライト様と私の一族を希少価値ではなくし、 世界中に繁栄を導かせる。そして、我らを汚した無能な者達を使い、スペース団による本当の平和を導く事です。」 シルバスと名乗る青年(?)が言った。 世界征服…、ルークもそれを目指していたわね。でも、一族の繁栄って…。 ちょっと待てよ、希少価値のある生き物、人間はたくさんいるよね。希少価値って、ほとんどいないのよね。 滅多にいない…、もしかして。 でも、キレイハナは言ってた。話せるのは8人だって。 蓮華:「あなたたち…ポケモンね。」 哲兄のピジョット、あたしのキレイハナ、そしてルーク、リースイ、ダークを含めた現実世界で最初に生まれた8匹のポケモンは 喋る事ができるらしい。 残っているのはブースター、エーフィ、そしてイーブイ。 元々イーブイは野生でもほとんどいない、希少価値の高いポケモンらしい。 初心者トレーナーがポケモンとしてイーブイを貰ったりするらしいけど、それを除いて実際に野生として存在している イーブイの一族は少ない。 蓮華:「イーブイの一族を繁栄させる事。それがあなたたちの目的でしょ?ポケモンが栄えて、人間が使われる、そして滅ぶ世界を 作ろうとしているんでしょ?」 あたしが投げかけてくる冷たい視線に突き返して言うと、ブライトがふっと笑った。 ブライト:「流石に分かるようだな、草使いの少女。」 ブライトとシルバスは立ち上がり、姿を変えていた。ブライトもシルバスも、エーフィの姿に。 (すぐに人間の姿に戻ったけど) ブライト:「私はお前の世界で生まれたイーブイ。そしてこのシルバスは私の遺伝子を使って作られたエーフィなのだ。 我らはあの事故によってこの世界に飛ばされた。あの爆破によってお前たちがこの世界に飛ばされたように。 そしてその時、我らは今から50年も前に飛ばされていた。」 イーブイ、エーフィ、ブースターが飛ばされたのは同時期だったという。 そしてとあるトレーナーに拾われたが、そのトレーナーには散々苛められ、散々使われ捨てられたらしい。 しかし、♀だったブースターがずっと二人を励まし続け、3人は10年、生き延びてきたらしい。 そんな時、ブースターが喋っている姿をトレーナーの集団に見つかり、珍しい、希少価値という理由で捕まえられそうになった。 そして駆けつけたイーブイとエーフィも同じ目に遭った。 追いかけられ、攻撃された挙句、ブースターは捕まり、見世物にされてしまったらしい。 イーブイとエーフィはブースターを助けるために都会に向かうが、そこに着くまで気が休まる事はなかった。 そのうえ、優しくしてくれたトレーナーも、実は自分たちをゲットするために優しくしてくれていた事を知り、 人間を信じてはいけないと、その時二人は思ったらしい。 さらに、ようやく二人が都会に到着し、ブースターを見つけたとき、ブースターは喋る事をしなかったために、 話が違うと言う理由でトレーナーたちに攻撃され、すでに力尽きていた。 その怒りがきっかけで、二人は人間になる力を身につけた。 それからは人間としても生活し、ロケット団にも入った。 しかし、それは今までの恨みを果たすために、そして復讐するために自分たちの帝国を完成させるために行っていたのだった。 ブライト:「そしてようやくというときに、お前たちが邪魔をしてきた。だが、我らの私的な願いだけでも叶える事が今できる。」 シルバス:「無残に殺された姉上を蘇らせるために、この時空転送装置で過去に戻り、姉上を助けるのです。 そのために、私たちを苛めたトレーナーに似た、典型的なトレーナーのエネルギーと、そしてそのトレーナーたちが尊敬していた 四天王のリーダーのエネルギーを頂きました。」 蓮華:「エネルギーを?それって…」 シルバス:「もはや、彼らは死ぬのを待つだけの廃人同然でしょう。しかし、それは仕方のないこと。」 蓮華:「仕方ないって、そんなのないよ。人の命を弄ばないで!」 あたしはムカッとした。 命を大事にしない人が許せなかった。でも、ボールに手をかけた途端、背後に忍者装束の男が立ち、あたしに刃を突きつけていた。 ブライト:「邪魔は困るな。我らの大事な願いを叶えるためなのだ。それと、これに見覚えがあるだろう?」 ブライトはあたしに何かを見せた。 それは、あたしが優勝してゲットしたGSボールだった。 蓮華:「それ…あたしの…」 シルバス:「この時空転送装置を発動させるためのもう一つのキーです。これはセレビィを呼び出すためのボール。 その力を利用し、誘い出されたセレビィからエネルギーを吸い取り、そして過去に向かおうということです。 それでは、セットさせていただきます。」 シルバスは、奥の扉の向こうに入っていった。 ブライト:「GSボールと引き換えになるが、これをお前に返そう。この廃人のゴミを。キョウ、お前は今ここに向かってくる 邪魔者を始末してくるのだ。」 キョウ:「はっ、直ちに。」 キョウと呼ばれた忍者が姿を消した。 氷雨:「この向こうから邪悪な心を感じるわ。」 ナツメ:「あたしも。」 サカキ:「どうやら、この奥にいるようだな。」 ??:「待たれよ。」 あたしたちが蓮華ちゃんのいると思える方向に向かっていると、目の前には忍者装束の男が現れた。 アンズ:「父上!?」 サカキ:「キョウ!生きていたか。」 キョウ:「誰だ。俺はブライト様の忠実な僕なり。ここは通さぬ。」 あたしたちの目の前に現れた忍者は、アンズちゃんの父上で、行方不明になっていたジムリーダーのキョウさんらしかった。 美香:「氷雨さん!」 振り返ると、美香ちゃんや、カスミちゃん達が走ってくるのが見えた。 これで蓮華ちゃん以外の全員が合流した。 志穂:「大変なの。悠也が囚われちゃったの。」 仲間が一人攫われた状態と言う事に、流石にあたしたちも驚いていた。 キョウ:「あの風使いの事か?あれはもう長くは生きられぬぞ。」 哲也:「どういうことだ!」 キョウ:「あの少年とドラゴン使いは既に生命エネルギーを抜き取られ、廃人と化した。もう虫の息であろう。 あそこまで痛めつけやすいと…」 キョウは長く喋れなかった。 浅香:「これでよかったですか?」 浅香ちゃんが光の矢をもろに放っていたのだ。それを指示したのはアンズちゃんのようだ。 それと同時に光が通路を包み、気づくとあたしたちは森の中にいた。 目の前には硬そうな壁が見える。 そしてそこには一人の青年がいた。 氷雨:「あなたは?」 ??:「どうやら、この空間が消滅したようですね。私はドリームです。」 ナツメ:「何ですって!」 氷雨:「やる気?」 ドリーム:「いえ、あなた方と戦っても勝負は見えています。もうスペース団の目的も果たされないと分かっています。 だから私は、スペース団を脱退しようと思っています。では。」 ケーシィが現れ、ドリームの姿が消えた。 鈴香:「向こうからお姉ちゃんの力を感じるよ。この向こうにいる!」 氷雨:「分かったわ。みんな、能力とポケモンで、一斉に攻撃するわよ!壁を破るのよ!」 ブライトは念力で布にくるまれた二人を運んできた。 そして目の前に落とした。 あたしが駆け寄ると、それは悠兄だった。 もう一人は、前にあたしがリーグ会場ですれ違った男の人だった。 でも、二人とも見る影がなく、やつれにやつれ細っていた。老けてないだけマシだけど、これだと本当に死にかけてる。 蓮華:「二人を死なせない。」 ブライト:「ふっ、そんなゴミを助けるというのか。しかし、お前にそれはさせない。お前をここにわざと呼んだのは、 第3のキーとしてお前が必要だからなのだ。」 蓮華:「あたしが必要?」 ブライト:「さよう、お前の草の力もなければ、セレビィを確実に呼び出すことはできないのだ。そして、確実に時空を飛ぶためにも、 能力者の中で最大と言われているお前には、あの機械の動力になってもらわなければならない。」 蓮華:「あたしは嫌よ。そんなこと。」 ブライト:「これでも、嫌と言えるのか?」 ブライトが右手を上げると、突然悠兄の体がありえない方向に曲がり始めた。 蓮華:「やめて!」 ブライト:「私は人間一人を殺す事くらい、全く苦にも思わない。しかし、目の前で人間が、しかも知り合いが殺されるのは、 お前は嫌であろう?嫌ならば、奥の部屋に来るのだ。」 あたしは、二人のためにも行くしかなかった。 ブライトに連れられて着いた部屋には、とても大きな、そして変わった形をした機械があった。 そこには小さな、キレイハナくらいしか入れないような穴が空いていた。 ブライト:「別の姿にもなれるのであろう?」 鬼草の姿の事だ。 全てを知られてるのね。しかも、いつもなら出てくるはずのキレイハナたちが出てこない。 ボールは揺れてるけど、出てくる事ができないみたいだった。 多分、この空間の歪みも何もかも、この二人の力によるものだと思う。 だから、ボールからポケモンが飛び出せないようにするのは簡単なんだと思う。 あたしは抵抗もできず、その機械に入った。 ??:「待ちなさい!」 そんな時、機械の近くの壁が破壊され、誰かが飛び込んできた。 それは志穂ちゃんだった。 志穂:「蓮華ちゃんを放して。」 志穂ちゃんの後ろにはみんなの姿も、ジムリーダーや四天王の姿も、カスミさんや、前にコンテストで会ったハルカさんたちの姿もあった。 みんな、集結したんだね。 志穂:「あなたたちのことはキョウさんから全て聞きました。」 ブライト:「何!?私の洗脳が溶けただと!?」 アンズ:「拙者の父は浅香殿の力で洗脳から目覚めれた出ござる。」 浅香:「人の心を戻すには、光の力しかなかったもの。」 キョウ:「心の臓に多少の痛みはあるが、ようやく目を覚ます事ができたでござる。」 キョウさん、さっきとは目つきも違う。元に戻ったんだね。 翼先輩たちも目覚めたのが分かった。 ナナ:「人間には確かに直さなければいけない事がたくさんあるわ。」 律子:「でも、少しずつ人々の心は変わりつつあるのよ。」 カンナ:「昔はあたしの大事なパウワウも汚染された廃棄物によって殺されかけた。けれど、今はポケモンのために立ち上がる 人々も増えたわ。」 キクコ:「ポケモンと分かり合う人間は今では多いのだ。」 シバ:「昔の恨みがあるだろうが、今はポケモンも人間もそれぞれ近づきつつある。」 ナナ:「だから、あなたのやろうとしていることは間違っているのよ。」 ブライト:「ふん、そのような戯言で私は動かぬ。シルバス、機械を作動させよ!」 シルバス:「はい。」 シルバスがスイッチを押そうとすると、たくさんの氷柱が彼に向かって飛んだ。 それを片手から放つサイコウェーブで粉々にするシルバス。 シルバス:「そのような攻撃、私には効きませんよ。」 氷雨:「そうかしら?」 氷雨さんは既にシルバスのそばにいて、機械のスイッチを押せないように凍らせていた。 氷雨:「この世界はあたしたちのいた世界とも似ているわ。ポケモンが妖怪と同じように人間に追われているし、 能力者や妖怪は人間に迫害を受けた。でも、受け入れようとする人も数多くいるわ。それに、変わろうとしている人もいる。 トキワの人たちは美咲ちゃんや蓮華ちゃんのアブソルに対し、ひどい事を行ったけど、今はそれを恥じ、反省し、 考え直そうとしているのよ。」 サカキ:「トキワの人々は変わろうとすれば変われたのだ。人々の心は誘導されやすいが、流されやすいが、それでも 変わろうとすれば変われるのだ。」 ナツメ:「それに、過去を引きずり、恨みを強く持ち続けたことによる願いは儚いものよ。」 ブライト:「お前たちのような者が、その経験もなく勝手な事を言うな!」 美咲:「経験あるから分かるの。あたしは迫害を受けてロケット団やスペース団にいた。でも、それが間違いだったってことを 今よく分かってる!」 エリカ:「あなたがたの大事な方、ブースターも今の状態を見て喜ぶでしょうか?」 キレイハナ:「まず喜ばないよ。」 ポンという音と共にキレイハナが出てきた。 それと共に、あたしのポケモン全員が飛び出していた。 キレイハナ:「ブースターは一度も人間を恨んだ事はなかったでしょ?人間不信にならなかったんでしょ? 最後にはなったかもしれないけど、それをあなたたちにもなってほしいとは思っていなかったはずよ。 シルバス:「うるさい!」 ブライト:「もうこれ以上、戯言を聞こうとは思わない。シルバス!」 シルバス:「はい。」 何と、スイッチがもう一つあったらしい。 スイッチが押され、機械が作動していた。あたしは力を抜かれるような気がした。 でも、二人のためには使わない。 あたしは、平和のために、癒すために使う。復讐のきっかけにするためには、絶対に使わない。 あたしは、出せるだけの能力を一気に放出した。 これであたしが力尽きても、あたしは後悔しない。 だって、あたしの力で癒されて、世界が助かるなら、あたしはそれでいいって何となく今思ったから。 あたしの力は植物の力だけど、同時に癒す力だから。 それを悪用されないためには、能力を放出してしまわなきゃ。 機械が破壊できたら、あたしは癒しの光を放つ。そしたら、ホントに命が尽きちゃうかもしれないけど…。 蓮華:「あたし、弟のところに行くのかな?でも、もしまだ、ありえないけど、生きてるなら…会いたかったよ。」 志穂:「蓮華ちゃんが力を放出しているわ。」 来美:「機械も動いているけど、このままじゃ蓮華ちゃんが危ないわね。」 鈴香:「お姉ちゃん…」 美香:「蓮華…」 あたしたちの目の前で機械が作動してしまった。 それと同時に滅茶苦茶に放たれる強力なエネルギーの光線。 能力者全員のシールドを使う事でようやく防げているくらい、蓮華ちゃんは力を放出していた。 ブライト:「くそっ、シルバス、制御しろ!」 シルバス:「無理です。このままでは…爆発します!」 キレイハナ:「させないよ。行くよ!」 突然、キレイハナたち蓮華のポケモンが、機械に飛びかかっていった。 キレイハナ:「蓮華にはここにいるみんなが助けられたの。色々あったけど、あたしたち全員が蓮華の事、好きなの。 だから、ここで蓮華が力尽きたら、あたしたち全員、あんたたちを許せない!」 キレイハナたちは、光線に跳ね飛ばされながら、傷つきながら機械を破壊しようとしていた。 志穂:「こうなったらやるしかないわね。」 あたしはキレイハナたちの姿を見て、心に決めた。 志穂:「ポケモントレーナー全員は機械を止めるために頑張って。あたしはその間に、ブースターを呼ぶ。」 機械を止める以前に、復讐の心をなくすには、会いたいものに会わせる必要があるから。 あたしは巫女装束の姿になり、円陣を呼び、式神を放った。 そして札を巻き、来美ちゃんに聖水を出させた。 志穂:「成仏できぬ過去を残した悲しみの魂よ、最愛なるものの心に導きを示せ!鎮魂の舞! 我の呼びかけに答え、姿を見せよ!若き魂、炎の力を持つ獣、ブースターよ、我に姿を見せよ!」 あたしは叫びながら、ブースターを呼ぶ儀式を行った。 あたしの儀式は1時間続いた。 元々潜在的に強いエネルギーを持っている蓮華ちゃんはまだ力を放出し続けている。 機械は頑丈なのか、なかなか爆発しないし、壊れてもいない。 機械を壊そうとしていたみんなは力尽きても、みんなのポケモンは力尽きても、蓮華ちゃんのポケモンはまだ動いていた。 そしてあたしも、頑張っていた。 そんな時だった。 あたしの目の前に円陣が浮かび、一匹のポケモンが姿を現していた。 志穂:「ブー…スター?」 あたしの小声でみんなが振り向き、そしてブライトたちが驚いていた。 あたしはようやく呼び出せたらしい。 ブースター:「あたしを呼んだのは、あたしを呼び起こしてくれたのはあなた?」 志穂:「ええ。」 ブースターはあたしが瞬きをしたら、人間の姿になっていた。 ブースター:「あたしはずっと漂っていたの。あの時迫害によって殺された後、でも死に切れず、ずっとあの場所を漂い続けているしかできなかった。 あの場を離れる事ができなかった。でも、ようやくできたからここに来たの。」 ブライト:「ブースター…」 シルバス:「姉上…」 ブースター:「二人とも久しぶりね。会えて嬉しいわよ。でも、お願いだから、こんなことはやめて。」 ブライト:「しかし…」 ブースター:「しかしも何も、あたしはこの世界の変わり目をあの場所から見続けていた。あなたたち二人が悪の組織に身を埋めたことも知ってたわ。 悪の組織に身を埋めていたから、根本的に人が変わる姿をあなたたちは見ていないのよ。あたしはしっかり分かってる。いい人間もいると分かってる。 あなたたちのあたしを殺され、ひどい目に遭ったことによる恨みの気持ちが強い事は、あたしもよく分かってるけど、でも、だからといって あなたたちがその恨みを果たすために復讐する事は、あたしは許せないし、凄く嬉しくない! あたしは、あなたたちがあたしの分まで幸せになってくれていたほうが嬉しかった。 あたしにとって、ルークも、リースイも、ダークも、ブライトも、シルバスも、大事な兄弟なの。 みんながみんな、悪の道に進み続けてほしくないの。この世界が好きだし、ポケモンと人間が距離を縮めて平和に暮らそうとしているこの世界が好き。 その思いはずっと変わらないわ。そして、人間のためにポケモンが、ポケモンのために人間が頑張って何かをやり遂げる。やり遂げようとしている姿。 あたしはずっと、それも見ていた。汚い姿も見ているけど、いい姿をたくさん見た。 人間とポケモンは分かち合えるから。あそこで、必死で戦ってるみたいに。助けようとしているみたいに。 だから、あたしは二人に、もうこれ以上、悪事を続けてほしくないの。お願い!」 ブースターの叫びは、ブライトとシルバス、そしてあたしたちの心にも強く響いていた。 ブライト:「分かった。スペース団は今日を持って解散する。」 シルバス:「そうですね。姉上をこれ以上、悲しませるわけには行きませんから。」 その想いは、確実に二人の心に響き、ようやく、長い戦いが終わろうとしていた。 でも、まだ蓮華ちゃんが助かっていない。 あたしが向かおうとすると、突如、ブースターがあたしの前に出た。 ブースター:「あなたがたは動かなくてもいいです。ここは、あたしが行きます。ようやく、心残りだった事ができて、あたしは成仏してしまうから。 二人を更正させる事ができたから。呼んでくれた、呼び寄せてくれたお礼に、あの機械を破壊するわ。」 ブースターは炎の固まりになって機械を貫き、天に上っていった。 すると、機械がようやく止まったのだった。 キレイハナ:「…華!蓮華!起きてよ!しっかりして!」 あたしは…生きてる?生きてるみたいだ。 蓮華:「キレイハナ?それに、みんなも…。」 キレイハナ:「馬鹿!何であんなことをしたのよ!蓮華が死んだら、あたしたち…」 蓮華:「ごめん。」 どうやら全てが終わったみたいだった。 機械も止まり、四天王やジムリーダー、トレーナーたちの姿もない。 ここにいるのはナナと能力者メンバーだけみたいだった。 ナナ:「みんな、戦いが終わったから、スペース団の解散を伝えに、そして町々の復旧のために帰ったわ。」 蓮華:「そう。…悠兄とワタルさんは?」 哲也:「大丈夫だ。お前が気を失う直前に放っていた癒しの光が、二人を元に戻した。悠也はまだ寝てるけど、 ワタルさんは元気に帰っていったぞ。」 蓮華:「よかった。でも、…GSボール、この機械に使われちゃって、もう帰れないね。」 妙にあたしたちはしんみりしていた。 戦いも終わり、旅が終結を迎えたのに、あたしたちは帰れない。 そう思っていた。 すると。 突然機械が爆発し、目の前に、大きなゲートが開いたのだった。 氷雨:「これは…異次元のゲートよ。あたしたちがここに来る時に通ったゲート。」 ナナ:「それに、GSボールでセレビィが呼び出されたときに作った、空間と時空の両方を飛ぶ事のできる、特別なゲート。 みんな、これを使えば帰れるよ。」 ナナは元気に行ったけど、あたしたちの間にはまた、別のムードが流れた。 これで帰るので、いいのかな? すると、律子が立ち上がった。 律子:「あたしは、この子で何回も来れるけどね。…みんな、あたしは先に帰るね。みんなと…事情が違うから。 あたしは永遠の別れじゃないから、みんなの思いに同調できないから、だから。 ゴメン!こんな時に自分勝手だけど、先に帰って待ってるね。ナナ、また今度。」 ナナ:「ええ。」 律子は自分のセレビィを出して、姿を消した。 海:「あたしも帰るね。あたしも…何回かまだ来る事はできるから。」 美香:「え〜、海ちゃんまでなの?」 海:「ゴメン、あたしもさ、式神の力結集すれば一人分なら来れるんだ。」 菜々美:「ふ〜ん。」 海:「だから、あたしも帰るね。ここにだって、自分の力で来たから。」 海ちゃんは、式神を全部だし、融合させてゲートを作り、そこに飛び込んで帰っていった。 海:「ナナ、また今度ね。」 美咲:「ねえ、あたしは…残るね。もう、帰っても家はないし、親も葬式上げちゃってるし、それに、17だからさ。 あたし、向こうでは死んでるでしょ?こっちで暮らすね。」 蓮華:「美咲ちゃん…」 美咲:「いつかさ、また会えるよ。蓮華、志穂、いつか、また一緒に遊ぼうね。これじゃ子供だね。」 蓮華:「子供でもいいよ。」 志穂:「そうそう。あたしたち、親友じゃない。美咲、拓也をお願いね。」 美咲:「任せといて!…それじゃ。」 美咲ちゃんは火の鳥になって、クチバに戻っていった。 また会えるよね、美咲ちゃん。 海斗:「これ以上、ここにいてもしょうがないな。」 清香:「そうだね。」 しんみりムードになりかけた時、海斗先輩たちが立った。 海斗:「来美先輩たちを追いかけて飛び込んだだけだし、俺たちは戻るよ。」 清香:「十分、この世界を満喫したっていう言い方も悪いけど、あたしたち、ここであった事は忘れない。」 海斗:「ポケモンも一緒だしな。お前らも早く来いよ。」 清香:「先に行ってるね、ナナちゃん、バイバイ!」 ナナ:「バイバイ!」 二人はゲートを潜った。 鈴香:「お姉ちゃん、あたしも帰るね。」 蓮華:「えっ?」 鈴香:「だってさ、あたしはみんなとは違う経緯で来たけど、今のお父さんたち、心配してるから。」 蓮華:「そうだよね。」 鈴香:「向こうに戻ったら、会いに行くからね。お先に!」 悠也:「あ、おい待てよ!」 哲也:「悠也!」 悠也:「哲也、いつか絶対に、お前には勝つからな。心配してくれてサンキュ!蓮華、またな!」 蓮華:「あ、悠兄!」 鈴香も悠兄も帰っていった。 それに続き、翼先輩が帰り、追いかけるように美香が帰り、健人先輩と菜々美、久美ちゃんと希ちゃん、来美ちゃん、 なずなちゃんがゲートを潜っていった。 翼:「俺、先に行くからさ。」 美香:「先輩、待ってください!」 健人:「名残惜しいが、俺たちは帰るときだからな。」 菜々美:「別れも必要って事だね、ナナ、またね。」 久美:「ナナちゃん、マチスによろしく!」 希:「また電撃ガールズ結成してジムに行くって伝えておいてね。」 来美:「あたしのこと、ハナダジムの人たちによろしくお伝えして。こんな形で帰るのはなんだけど、楽しかったわよ。」 なずな:「フジ老人に、あたしが帰ったこと、伝えてね。」 みんな、ナナに伝言を頼みながら、後ろを振り向きながら帰っていった。 浅香:「先輩、あたしも帰りますね。」 蓮華:「ええ。」 晃正:「俺も帰るよ。お前の事、一人にしておけないからな。」 浅香:「ちょっと晃正!ひどい言い方じゃない、それ。」 晃正:「そうかもな。…サカキ師匠によろしく伝えてください。」 浅香:「あたしも、アンズさんにおねがいします。」 ナナ:「分かったわ。」 浅香:「それじゃ先輩、次に会うときは学校で!」 晃正:「それじゃ、失礼します。」 いつの間にか出来上がっていた一つのカップルが帰っていった。 残ったのは5人だった。 氷雨:「さてと、ナナちゃん、またね。あたしも帰るわ。」 ナナ:「名残惜しいです。」 氷雨:「当たり前よ。…ふぅ〜、何だかね、今まではいつか帰らなきゃいけないって思ってたけど、こうなってみると帰りにくいものだから。 それじゃ、先に行ってるわね。またいつか、あたしの妖力が高まったら、ここに来れるかもしれないけどさ、何だろう。 いつか、また会いに、この世界に来たいって、すごく想うのよね。」 ナナ:「多分、みんな同じことを想ってますよ。」 氷雨:「それもそうね。それじゃ。」 吹雪と共に、氷雨さんは帰っていった。 玲奈:「次はあたしたちかな?」 哲也:「お、おい!」 玲奈:「何?二人を残すのが心配なの?哲也らしいけど、少しはしっかり認めてあげなさいよね。」 哲也:「いや、それは…」 玲奈:「うふふ、ナナちゃん、それじゃ。」 ナナ:「ええ。エリカにもよろしく言っておくわ。」 玲奈:「頼んだわよ。」 哲也:「俺も、オーキド研究所に正式に別れを告げておくべきだったかもな。頼む。」 ナナ:「分かってるわよ。みんなのを全部、あたしがやらなきゃいけないんだから。またいつか!」 玲奈:「じゃ。」 哲也:「さようなら。…お前らも早く来いよ!」 玲奈先輩と哲兄が帰っていった。 涼治:「最後だな。」 蓮華:「そうだね。」 あたしも名残惜しいなって思った。この世界に来て、いつか帰るって想ってたけど、でも、こうなると何か、帰るんだけど、帰りづらい。 あたし、まだこの世界を旅したいって想ってる。 でも、帰らなきゃいけないんだね。 ナナ:「蓮華、帰るときが来たよ。帰らなきゃね。」 蓮華:「う、うん…」 ナナ:「そんな顔しないでよ。また絶対会えるよ!」 涼治:「そうだよ。俺たち絶対に、またここに来れるはずだって。蓮華、行こう。」 蓮華:「涼治…」 ナナ:「蓮華、元気でね。」 蓮華:「うん、ナナもね。」 あたしたちは抱き合って別れを泣いた。 涼治:「それじゃ、俺が先に入るよ。お前は最後がいいんだろ?」 蓮華:「うん。ごめんね。」 涼治:「早く来いよ。」 涼治が先にゲートに入り、あたしはナナともう一度別れを泣いた。 そしてゲートに入ろうとした時だった。 ゲートが狭まって、あたしのショルダーが地面に落ちていた。 ナナ:「蓮華!」 蓮華:「あぁっ!!」 あたしが驚いた時には、既に遅かった。 キレイハナたちが入ってるボールの入ったショルダーが、ポケモン世界にある状態で、あたしはゲートを潜っていた。 キレイハナ:「蓮華!」 蓮華:「キレイハナ!」 ショルダーからはみんなが飛び出しているけど、もうキレイハナでも、チリリでも通れないほど、穴は小さくなっていた。 ナナ:「蓮華!あたし、蓮華が戻ってくるまでみんなを預かるからね!」 キレイハナ:「蓮華、待ってるよ!絶対来てよ!」 みんなの鳴き声がゲートの中を淋しく響いていた。 そんな…そんなのないよ。 みんなと別れることになるなんて…。 でも、今は、みんな、一時的なさようなら。 絶対に、いつか、会いに戻るよ! あたしとみんなは大事な親友だからね。 こうして、あたしたちの長い旅は幕を閉じた。 長かった、ポケモン世界での出来事はこれで終わりです。 あたしたちは、現実世界に帰り、そして普通の生活が始まりました。 でも、何ヶ月経っても、ゲートは開く事はありませんでした。 あの工場跡地にも、あたしの家の周囲にも、どこにも…。 ゲートが開く事はなく、あたしたちがポケモン世界を旅してから、ようやく1年が経とうとしていました。