それはよく晴れた日のことだった。 拙者が父上と共に朝の鍛錬を行っていた時の事。 拙者のポケモンも父上のポケモンもいつもと変わらず鍛錬に励み続けていた。 拙者はセキチクシティジムリーダー兼セキチク忍者隊首領のアンズ。 2年前のスペース団とのバトルにおいて、行方不明だった父上が見つかり、 今は父上はジョウトの四天王を掛け持ちながら、セキチクのトレーナーたちの稽古などを行っている。 拙者も行方不明であった父上が見つかり、こうして暮らせている事には感謝しているほどでござる。 しかし、今朝は何かがおかしかったのでござる。 拙者も一度は見間違いを考えたほどでござったが、よく見てもやはり姿がない。 アンズ:「父上!」 拙者は父上のポケモンも確認するため、父上の名を呼んだ。しかし声が返ってこない。 流石におかしいと気づき、父上の気を辿ってみると、父上は真っ青な顔をして地面に横たえていた。 アンズ:「父上!しっかりするでござる。一体何があったのでござる?」 キョウ:「アンズ…ぬかるな…奴はまだ辺りにい…」 父上が意識を失った。拙者は信号弾を撃ち、ジムのトレーナーであるセキチク忍者達に知らせようとした。 が、撃った直後、真っ白な塊が信号弾を飲み込み、そして拙者と父上のポケモンを絡め取ったまま姿を消していった。 拙者と父上のドガースとマタドガスを絡め取って…。 第2章 2.ポケモン妖怪伝 ナナ:「セキチクシティのキョウさんが意識不明の重体ってどういうことよ!」 あたしはグロウタウンのゲンジジムリーダー、ナナ。 マスターランクのジムであり、カントウやジョウト、ホウエンの事件を解決したりもしたことで全国のジムリーダーとも親しい間柄にいる。 そんなあたしのところに早朝、キョウさんが何者かに襲われて重体になったと聞いた。 知らせてくれたのは忍者トレーナーの稔(みのる)君。 アンズさんは気配も感じ取れず、父親を倒され、ポケモンを目の前で攫われたにも拘らず何もできなかった事でひどく落ち込んでしまったらしい。 忍者集団の首領といってもまだまだ若いだけあって、父親の存在は大きかったのだろう。 ナナ:「それで、攫われたのはドガースとマタドガスだけなのね?」 稔:「はい。他のポケモンたちも確認しましたが、結局のところ、攫われていたのはその2体のみでした。 今現在、セキチクの森中を我々が偵察しておりますが、アンズ様が見た真っ白な塊と言うのは確認できておりません。」 ナナ:「分かったわ。あたしはポケモン協会に言って、全国のジムとポケモンセンターに事態を知らせるわ。」 稔:「はい。よろしくお願いします。」 通信を終えると、あたしはすぐにポケモン協会にこの事を知らせ、早急に対処に出るよう言った。 けれど、事態は既にやばい状況だった。 それはナツメからの通信で分かった。 ナナ:「えぇ〜!?各地でドガースやマタドガスのような煙幕やスモッグを吐けるポケモンたちが攫われてるの?」 ナツメ:「そうなの。ヤマブキでも何人かがマグマラシやヒノアラシ、コータスを何者かによって連れ出されてしまったと聞いたわ。 カツラさんやエリカのジムも被害に遭っているみたい。」 ナナ:「そう、それで誘拐の犯人は?」 ナツメ:「それが、目撃証言が少ないばかりか、あたしやジョウトのマツバさんの千里眼も全く効き目がないのよ。 唯一の証言は一つ、アンズの言った真っ白な塊と言う事だけよ。」 あたしは心底驚いた。 なくし物を探すのさえも可能なエスパートレーナー、ゴーストトレーナーのナツメやマツバさんでも感知できないほどの相手が存在したと言う事。 そして、目撃証言が全くないということに。 これだけの事件になっているのに、どうしてなの? ナナ:「ナツメ、あたしはもう少し情報を集めてみるわ。そっちでも色々と確かめてみて。」 ナツメ:「ええ、こちらも分かり次第連絡を入れるから。」 ナツメとの通信をきった後、あたしのドガースたちも探してみた。 でも、案の定。 あたしのところもやられたらしい。 全国で起きている、煙幕やスモッグなどのガス攻撃を可能とするポケモンたちが全て誘拐されているというのに、 これだと全く何も進展がないし…。罠を張ろうにも、そういう技を持つポケモンは全て誘拐されているし。 白い霧を出せるラプラス達もやられているほど、何者かはガスが好きみたいだけど。 捜査は進展もなく、3日、4日と続いた。 ガス状ポケモンのゴースたちも姿を消し、匂いさえも分からない状況で、警察への不信感を向ける市民も増え始めていた。 あたしは各地のジムリーダーに、暴動が起きないように呼びかけながら推理していたけど、全くのところ、肝心の手がかりがない。 そんな時、驚きのニュースがナツメから届いた。 ナナ:「ポケモンたちが見つかった?」 ナツメ:「ええ、イワヤマトンネルの奥の方で、大量のポケモンたちが戦闘不能状態で発見されたわ。」 ナナ:「そう、それで手がかりの方は?」 ナツメ:「それがないのよ。あ、それと、ドガースたちは長期の入院が必要みたいよ。」 ナナ:「どういうことなの?」 ナツメ:「どうやら体の体内のガスをほとんど失ってしまったみたいなの。この状態だと元気になるのも時間がかかると思うわ。」 ナナ:「分かったわ。あたしもそっちに行くから、詳しくはその時にね。」 ドガースたちの体内の煙が失われたりしていて、ポケモンたちが戦闘不能になっている、か。 何者かが必要だったのは、彼らの煙と言う事になるのかしら? でも、何のために? あたしはふいに蓮華ちゃんたちの力を借りてみようかと思った。 あたしたちがいくら考えても分からない現象だけど、もしかしたら何かを知っているかもしれないような気がした。 この直感を信じてみよう。 あたしは蓮華ちゃんたちを呼びに向かった。 その頃。 蓮華:「妖怪がいない?」 氷雨:「ええ、この町に救っていた妖怪の何割かが姿を消したのよ。」 あたしたち能力者の一部は、氷雨さんのいるスケートリンク場の会議室に集められていた。 といっても、あたしと海ちゃん、志穂ちゃんしかいないけど。 みんな色々と忙しく、突然の召集に答えれたのはこれだけだった。 海:「確かに最近何人かの姿を町でも見かけなくなったわ。」 志穂:「あたしの神社のそばにいた小妖怪たちも同じく。どこに行ったのかは分からないけど、妖怪が安心して暮らせるような場所は この町を出たら少なくなるわ。自然が多く残っていて、妖怪と人間が正体を知りつつ共存できているのはこの街くらいじゃない?」 氷雨:「ええ、日本には何箇所かでそういう街があるけど、かなり少ないものね。」 蓮華:「それで、あたしたちを呼んだのは、その妖怪たちがどこに行ったのかを探るためですか?」 氷雨:「そうなの。力を貸して。」 こんな事を氷雨さんが言うのは珍しかった。あたしが小6の頃まではまだ、けっこう悪どい妖怪もいて、戦ったりはしてたけど、 そういうことはなくなって落ち着いてきたばかりの今日この頃。 まさか氷雨さんからこんなお願いを聞くとは思わなかった。 志穂:「でも、どうしてそんなに必死なんですか?」 海:「そうよね、氷雨さんの場合、いなくなっても放置しそうなんだけど。」 氷雨:「普通はそうよ。でも、いなくなったのが厄介な知り合いばかりだもの。どこかで迷惑かけてたらヤバイじゃない。」 氷雨さんが言う意味はよく分かる。 氷雨さんだって、昔はとっても妖艶で極悪の雪女だったらしいのだ。古椿の双葉さんが教えてくれた事がある。 ハンサムな男を見つけたらすぐに攫って魂を抜き、美を保ち続け、男たちを家の柱に使い、飽きたら賑やかな繁華街に投げ捨て、そこを吹雪の地獄に 変えていたらしい。もう何百年も前らしいけど、そんな氷雨さんが変わったのは、あたしの先祖に当たる草鬼に出会ったことらしい。 詳しい事は知らないけど、それから色々あって氷雨さんは変わったらしい。 そんな過去を持っているためか、氷雨さんの知り合いには結構厄介な力を持った妖怪が多いのだ。 その妖怪たちがいなくなったとなれば、探さないわけには行かない。 志穂:「それじゃ、心当たりのある場所を探すとしますか。」 蓮華:「そうだね。」 あたしたちは立ち上がろうとした。 そこへ。 ナナ:「あ、いたいた!」 何とナナが訪ねてきた。 蓮華:「ナナ!どうしたの?」 ナナ:「ちょっとポケモン世界で事件が起きて、蓮華たちの力を借りに来たら、舞さんがみんなはここにいるって教えてくれたのよ。」 あたしの家とナナの家がつながってから、ナナもちょくちょくこっちの世界に来ている。 氷雨さんのところにもよく行くため、この場所が分かったようだ。 氷雨:「悪いんだけど、こっちも事件なのよ。」 ナナ:「事件?どんなのですか?」 志穂:「氷雨さんの知り合いの妖怪が何人かいなくなったから、騒ぎが起きる前に探さなきゃいけないの。」 ナナ:「妖怪がいない?…あれっ、まさか…」 事件の事を聞くと、突然ナナは考え込み始めた。 蓮華:「ナナ?」 ナナ:「あのさ、もしかしたらあたしの方の事件と、関係してるかも。」 あたしたちは驚いて、事件のあらましを聞いたのだった。 数分後。 氷雨:「…間違いないわね。それ、あたしの知り合いよ。」 どうやらつながったらしい。 ナナ:「それじゃ、ポケモンの誘拐事件は妖怪によるものってことなんですか?」 氷雨:「多分ね。多分、ポケモンがやってきたゲートを辿って、何人かが向こうに行ったのよ。何で気づかなかったのかしら。」 氷雨さんは頭を抱えていた。 でも、あたしは分かる気がする。 だって、ポケモン世界のほうが緑が多いから暮らしやすそうだもの。 志穂:「それで氷雨さん、その妖怪はどういうものなの?」 氷雨:「ああ、あなたたちも知ってるでしょ?煙妖怪煙々(えんらえんら)よ。あの子くらいしかいないわ。 煙を集めるような妖怪は。」 というわけで、あたしたちはポケモン世界に向かった。 氷雨:「あの子はおとなしい性格だけど、食欲が沸けばやる事は半端じゃなく滅茶苦茶だから、ポケモンたちの技である煙や霧を出させて、 それを食料にしているのよ。」 海:「どうやっておびき寄せる?」 志穂:「あたしたちのポケモンを使うしかないでしょ。」 ナナ:「でも、どうしてキョウさんはやられたんだろう…?」 氷雨:「あの子はね、食事の邪魔をされるのが嫌いだから、多分マタドガスを襲った時に攻撃されたんでしょ。 海ちゃん、式神を使って治療してあげて。あの子の煙を浄化する式神を前に作ってたでしょ?」 実は、あたしたち、前にその妖怪と戦っていたのです。 あの時はあいつの煙を吸い込んで能力者のほとんどが倒されてしまい、あたしも死ぬ寸前だったけど、海ちゃんの創った式神の力で助かったのだ。 それからおとなしくなったはずだったけど、こんなところでもう一度戦う事になるとはね。 海ちゃんがナナと病院に向かい、あたしと氷雨さんと志穂ちゃんは罠を張る事にした。 蓮華:「ひがめ、出てきて!」 志穂:「ガーネル、お願い!」 氷雨:「ジュペッタ、あなたの力を借りるわ!」 志穂ちゃんのハガネールに頼んで、深く大きな穴を作り、そこにひがめの煙幕と氷雨さんのジュペッタの鬼火を放った。 それによって黒い煙が空に上るようにした。 そして。 あたし達が隠れて数分後。 彼女はやってきた。 ??:「うわぁ!こんなところにおいしそうな煙が出てる!いただきま〜す!」 穴の中に向かって真っ白な煙の塊が入っていくのが見えた。 一見ただの煙にしか見えないけど、よ〜く見ると煙の中には結構綺麗な女性の顔が浮かんでいるのだ。 それが煙妖怪「煙々」の実体だった。 蓮華:「今よ、リュウ、竜巻よ!」 あたしは飛び出してハクリュウのリュウを出した。 キレイハナたち絆たちもボールの中でこれまでの事を見ているので、何をすればいいのかしっかり分かっているのだ。 煙々:「きゃぁ!何?何が起きてるの?」 リュウの起こした竜巻が黒煙を吹き飛ばし、煙々を閉じ込めた状態になった。 氷雨:「見つけたわよ、煙々!」 煙々:「あ、氷雨じゃん!火雷の巫女に蓮華ちゃんまで…、あっ!そっかぁ、…あたしのやってる事がばれちゃったのか。」 氷雨さんの姿を見ると、煙々は何か吹っ切れたような声を出した。 色も少しずつ灰色っぽくなっている。 これは彼女が善の妖怪ではない証拠だった。 煙々:「悪いけど、あたしはもう以前のあたしじゃないから。こっちの世界で人間と共にポケモンを道具にして過ごす生活がしたいのよ。 でも、あなたたちがいると邪魔みたいね。ていうか、その様子だとあたしを捕まえに来たみたいだし。」 氷雨:「ええ、あたしたちはポケモン世界に来た妖怪たちがトラブルを起こしてるから来たの。 あなたのやってる事も正さなきゃいけないけど、その前に、あなたの背後にいるのは誰?」 煙々:「あなたたちに言う気はないわ。あたしを崇めてくれたあの人のためにも、邪魔になりそうなあなたたちはここで消してあげる!」 煙々は竜巻を自力で破り、襲い掛かってきた。 蓮華:「リュウ、戻って!やるしかないようだね、ソルル!力を貸して!」 志穂:「ブラッキー、行って!」 氷雨:「ジュペッタ、出てきなさい!」 実体がない相手に対してあたし達が相手として出したのは悪タイプのソルルとブラッキー、そしてゴーストタイプのジュペッタだった。 蓮華:「ソルル、カマイタチよ!」 志穂:「ブラッキー、シャドーボール!」 氷雨:「ジュペッタ、鬼火よ!」 しかし、攻撃は全てかわされてしまった。 煙々:「ポケモンの攻撃であたしを倒せるって思ってるの?風使いもいないあなたたちには負けないわ! 必殺、ガス地獄!」 煙々は体から強力なガスを噴出し始めた。 あのガスで前回はやられたのだ。 蓮華:「風使いはいなくても、風を出せる子ならいるわ!ポポ、アゲハ、風起こしよ!」 ポッポのポポとアゲハントのアゲハがガスを逆に吹き飛ばす。 煙々:「何ですって!?くそっ、それならそのこたちもあの男と同じ目にあわせてやる!」 ??:「させるか!ゴルバット、カマイタチだ!」 突然、飛んできたゴルバットが、煙々を真っ二つに切り裂いた。 すると、けたたましい悲鳴と共に煙々は落下した。 あたし達が駆け寄ると、そこにいたのはアンズさんだった。ナナと海ちゃんもいる。 ナナ:「よかったわ、間に合って。」 海:「煙々は実体がないから蓮華ちゃんたちが苦戦してると思ったの。でも、攻撃が効かないわけじゃないわ。 風を起こして彼女を実体だけにしてから斬れば、彼女は倒せるの。」 蓮華:「ってことは、今まで見てたわけ?」 ナナ:「ゴメン、なかなかチャンスがなかったのよ。でも、アンズが悲しみを乗り越えてくれて助かったわ。」 アンズ:「…拙者は父の敵を討ったまでのことでござる。」 と、真っ二つに切られた煙々が体を元に戻し始めていた。 煙々:「せっかくの楽しみをつぶされて、なるものですか!」 しかし、すでに勝負は終わっていた。 志穂:「させないわよ。炎よ、雷よ、我に力を与えたまえ、邪悪の力に魅せられし妖怪をここに封印せよ!」 志穂ちゃんがお札を投げると、そこに煙々は吸収され、封印されたのだった。 ナナ:「封印したのはいいけど、彼女を操っていたのは一体誰だったのかしら?」 蓮華:「そうよね。妖怪と人間の世界、ポケモンが道具になる世界なんて許されないわよ。」 結局裏にいる奴のことは分からなかったけど、煙々を封印した事でポケモンたちは元気になったらしい。 ただ気になるのは、氷雨さんが言うにはまだ数体の妖怪が確認できていないらしい。 ついさっき氷雨さんの妖気探査で調べたところ、害を出している者はなく、この世界にいても大丈夫だと確認したらしい。 が、見つけられなかったものがいたのだ。 ナナ:「何かあったらあたしが連絡するよ。氷雨さんたちの力を借りる事もまだまだ有りそうだし。」 氷雨:「そのようね。」 あたしたちはそれから家路に着いた。 それから数日後の事だった。 ナナとアンズが経験した妖怪の話は、各地のジムリーダーの元に内密の形で情報として送られた。 それは、過去に起きた能力者を迫害する行為がまた起きないとも考えられないためだった。 しかし、氷雨をよく知るカントウのジムリーダーたちは妖怪が全て悪い者ばかりと言うわけでもないと分かっているだけあり、 今後のトラブルが起きた際でも、何とかやっていこうと考えていた。 そんなある日。 私、タマムシジムリーダー、エリカが経営しているフラワーショップに珍しいお客が来たのです。 エリカ:「あら?フジ老人じゃないですか。どうなさったのですか?」 それはシオンタウンに住むご老人のフジ老人でした。 一週間ほど前にお見かけした時よりもお疲れのご様子でしたので、心配になって声をかけたのですわ。 フジ:「いや実はな、どうやらポケモンタワーの亡霊が再び騒ぎ出したらしいのだよ。」 エリカ:「再びですの?」 数年前にロケット団によってガラガラが、スペース団によってリングマが殺され、その亡霊が出没する事件が起きましたけど、 それはサトシさんや蓮華さんが解決したはずですわ。 その出没事件が再び起こるということには、私も耳を疑いました。 けれど、フジ老人のおっしゃられる所によりますと、何でもポケモンタワーから夜な夜な不気味であり、けたたましいと言われるほどの 絶叫が聞こえるそうですわ。 エリカ:「祈祷師の方々の手は借りられました?」 フジ:「ああ、しかし今回ばかりは彼らでも駄目のようなのだ。」 フジ老人はそうおっしゃられますが、私の覚えが正しければ、シオンの祈祷師の方々は一度も役に立っていないと思われますけど。 けれど、フジ老人はそんな彼らも優しく接しておられますので、そのようなことを言うわけには行きませんわ。 エリカ:「そうですか。…ナツメには相談されました?」 フジ:「それもすでに行ったのだが…」 これには流石に驚きましたわ。ナツメの千里眼が全く役に立たなかったそうでしたの。 しかも、さらに詳しく聞くところによりますと、どうやらポケモンタワーには全くポケモンの気配がないそうなのです。 フジ:「ポケモンの気配がなくとも、ポケモンの亡霊かもしれないからな。菊の花で優しく弔ってやるのが一番だろう?」 エリカ:「そうですわね。それではこれとこれでこのように致しますわ。」 フジ:「すまんのう、エリカ殿。」 エリカ:「いいえ、花で亡霊の心が救われるのでしたらこの位結構な事ですわ。」 私はそう言ってご老人に花束をお渡ししました。 この事件が解決しましたら、タマムシジムで総力を挙げて、全てのお墓に菊の花を無料で献上するのが一番だと思われますわ。 全ての霊に弔いの心を、ということで。 しかし、その考えは簡単に打ち砕かれました。 それはお昼の弓道の鍛錬の時でした。 私の母であり、先代のジムリーダーでもあった彼女の遺志を継ぎ、私は毎日、お花のお手入れと弓道の腕磨きをしているのです。 が、この日に限りましては、私のその日課が破られる事になってしまわれました。 ジムトレーナーとして一からやり直し、シオンに配達に出かけていた麗華さんが、シオンのポケモンセンターのジョーイさんから、 とんでもないニュースを聞き、駆けつけたのですわ。 エリカ:「どうなさったのですか?おしとやかなあなたがドタバタと走るなんて、あなたらしくありませんわよ。」 麗華:「それが、エリカ様、大変なんです!」 エリカ:「どうかいたしましたの?」 この時はまだ普通に弓を弾いてました。でも…。 麗華:「フジ老人がポケモンタワーで大怪我をし、重症の状態で運ばれたんです!」 エリカ:「…」 私は驚きのあまり、何も言えませんでした。 そればかりでなく、引いていた弓矢は見当外れの方向に飛んでしまったほどですわ。 ただ、その飛んだ弓矢が覗き見の常習犯に命中したそうですけど…。 弓道の時に来ていた胴着のまま、ヤマブキの総合病院に駆けつけた時には、すでにナナさんや、私と旅に出ているカスミさん以外の カントウジムリーダーが集結していらっしゃいました。 ナナ:「エリカ、来たんだね。」 エリカ:「遅くなって申し訳ありませんでしたわ。」 サカキ:「いや、我々が集結したのはつい先ほどだ。」 ナツメ:「それに、フジ老人のご様態についてはまだ、詳しい説明がなされていないのよ。」 確かに皆さんのご様子ですと、そのようですが、ただ、やはりフジ老人の一大事ですから、タケシさんが看護婦さんに話しかけたり、 マチスさんが気楽に座っていたりと言う事を全くなされていないのが当たり前に感じてしまうのはいいことなのでしょうか? 一番落ち着いているかと思っていましたアンズさんでさえも、普通に椅子に座っていなさるのですから。 カツラ:「しかし、フジ老人には何が起きたのですか?我々には全く何も情報がないのですよ。」 どうやら、シオンの事をナツメはまだお話なさっていないようでした。 私とナツメはシオンの亡霊事件の事を皆さんにお話したのです。 サクラ:「まぁ、また幽霊事件ですか…サトシ君や蓮華さんが解決したそうなのに…」 タケシ:「既にスペース団もロケット団も消滅したはずだけどな…」 アンズ:「…ナナ殿、もしかすると、あの事と関係あるのではないでござらぬか?」 そんな時でしたわ。 今度動かれたのはナナさんとアンズさんでした。 最近情報として送られた、妖怪の事でしたわ。 それは聞いて、私も考えました。 この世界で生まれたものでない場合、ナツメの千里眼は効き目がないそうなのです。 だとしたら、祈祷師の方々の事はともかく、ポケモンの気配もないとすれば、妖怪の仕業なのでしょうか? 蓮華:「誰なんだろうね、煙々の背後にいた奴は。」 なずな:「あたしたちがいないところでそんなことが…っていう場合じゃないよね。」 美香:「肝心の煙々は何て言ってたの?」 妖怪騒ぎから一週間が過ぎ、それぞれ忙しかったテスト期間も終わり、あたしの家にはなずなと美香が遊びに来ていた。 あたしは一学期の期末テストはボロボロで、舞さんの雷は落ちなかったし、補習や赤点からは逃れたけど、涼治からデートの数を減らそうと 言われてしまう始末だった。 あ〜あ、前回の事件の時に勉強理由で休めばよかったかも。みんな、実はテスト理由に休んでたのよね。 ただ、煙々は志保ちゃんがお札から解放した時、どうやら全てを忘れてしまったらしいのだ。 美香:「忘れた?」 なずな:「やっぱりそうなの?」 蓮華:「うん。だからまた一からみたい。」 煙々は物忘れが激しい性格と言うか特徴と言うか、前回も悪い妖怪に騙されて暴れたのに、肝心の黒幕についてはすっかり忘れていて、 思い出したのは事件が終わってからだったのだ。だから志穂ちゃんも海ちゃんも、氷雨さんでさえ気にはしてなかったらしい。 美香:「全く、あの性格はどうにかなんないのかしら?」 なずな:「無理じゃないの?だってあの人だもん。それよりさ、蓮華、ここ最近は事件はなかったの?」 蓮華:「ええ、なかったよ。でもさ、そろそろ何かありそうな気がするのよ。」 テストが終わったけど、あと2週間くらい学校があり、それから夏休みなのだ。 今年の夏はみんなで渦巻き列島のアクアカップに出ようと計画しているところだった。 向こうとつながるドアを潜れるのは能力者だけだから、学校のみんなを連れて行くのは無理だけど、でも、あたしたちだけでも十分だろう。 美香:「ねえねえ、せっかくの休みだしさ、久々に向こうに行ってみない?」 なずな:「そうだね、今日は律子と菜々美は都合悪いらしいから、あたしたちだけで行っちゃおうよ。」 蓮華:「そだね。」 あたしたちはだんだんヒマになってしまったので(これでも一応中学3年生の受験生だけど)、ポケモン世界に行く事にした。 元々美香もなずなもポケモンを持ち歩いているから、向こうに行っても困る事はないのだ。 というわけで、2週間ぶりにあたしは、ポケモン世界に通じるドアを潜った。 久しぶりに来たポケモン世界は平和かなぁと思ったけど、あたしと美香が入るなり、目の前にはナナがいて、どうやら蓮華のところに行こうとしていたようだった。 なずな:「ナナじゃん、どうかしたの?」 美香:「蓮華に用事?」 蓮華:「あれっ?ナナ、どうしたの?」 あたしたちはつい一編に話しかけてしまったが、ナナはすぐに話を理解し、あたしたちに教えてくれた。 ナナ:「うん、事件なのよ。多分、妖怪絡み。」 蓮華:「またなの?」 ナナ:「うん、でも今回は犠牲者が町一つなのよ。」 町一つという言葉は簡単に言えるようで、実際は簡単な事ではなく、あたしたちは絶句してしまった。 蓮華に聞いた話では、前回の事件ではドガースたちを持っている人ばかりだが、実際には数えられるほどの人だったらしい。 だから、今回は数えられないほどってことだけど。 ナナ:「でも、なずなちゃんが来るとは思わなかったわ。」 なずな:「どういうこと?…もしかして、それってシオン?」 ナナ:「そうなの。」 あたしはすぐ、フジ老人の事が心配になった。 あたし、ポケモン世界に来て、かなり長い時間をフジ老人のポケモンハウスで過ごしたのよね。 だからフジ老人にはとってもお世話になってる。シオンタウンの人たちにも。 でも、そのシオンの人たちが犠牲者って…。 ナナ:「はっきり言うよ。…暴走しないでね。」 なずな:「えっ?」 蓮華:「ナナ、なずなは暴走するような子じゃないよ。」 ナナ:「でも、すると思うから念のためよ。」 あたし、話が見えた。嫌な予感は的中しそうだった。 ナナ:「フジ老人が何者かにやられてヤマブキ病院…」 あたしは無意識に能力が働いていた。 蓮華:「あ…」 美香:「なずな、行っちゃったね。」 ナナ:「やっぱり暴走したね。詳しく話すわ。」 あたしと美香(途中からキレイハナも話を聞いて飛び出した)は、ナナから亡霊事件の事を聞いた。 フジ老人の怪我は何者かに背後から切りつけられ、逃げようとして階段から落ちてのことらしい。 命に別状がないものの、しばらくは安静が必要だそうだった。 ナナ:「一時は本当に大変だったのよ。重体で意識が戻るかどうかって所だったし、カントウ中のジムリーダーが集結したくらいだもの。」 キレイハナ:「あ〜、フジ老人ってさ、昔はものすごいレベルのトレーナーだったらしいからね、お世話になってる人が多いんだよね。」 ナナ:「ええ、今のジムリーダーのほとんどは、一度はフジ老人にアドバイスをされてるほどよ。…まぁ、これはちょっと置いときましょか。」 美香:「そうだね。…それで、前回の事件の事も照らし合わせた結果、妖怪の仕業じゃないかってことになったのね?」 ナナ:「そういうこと。今から氷雨さんを呼びに行くのもなんだから、蓮華、美香ちゃん、力を貸して。」 美香:「いいよ。」 蓮華:「もちろん。」 キレイハナ:「あたしももちろんよ、前回はあまり活躍できなかったもの。」 あたしたちは軽く言った。 ただ、この事件は結構厄介な事件だったから、軽はずみな返事をするんじゃなかったと後々、ものすごく後悔する事に なるんだけど…。 あたしたちが病院に着くと、すでに案の定、なずなはいた。 フジ老人が目を覚ますのを待ち続ける、ポケモンハウスのポケモンや子供たちと一緒のようだ。 なずな:「あ、蓮華に美香、…フジ老人の怪我の犯人、あたしも探す。」 あたしたちに気づいたなずなは、すぐに近寄ってきてこう言った。 ナナは出かけようとしてすぐ、どうやら別の事件が起きたらしく、そっちはいつも起きる事件らしいので、あたしたちとは関係ないみたいで、 あたしたちにこっちを任せて、そっちの事件に行ってしまったのだった。 なずな:「傷を見て分かったの。相手の妖怪の属性は「音」よ。」 キレイハナ:「音?」 なずな:「うん。あたし、見たことあるから。菜々美が音の波動を命中し損ねて大木に大穴を開けた時の傷とそっくりだったって。」 美香:「そういえば、そんなこともあったね。でも、音妖怪も結構いるのよ。」 なずな:「そうだけど…まずはシオンタウンに行ってみない?ていうか、行こう!」 なずなはすぐに行きたいと言うそぶりだった。 なずなからしてみれば、フジ老人に怪我をさせた妖怪に一撃でも入れたいらしい。 ナナ:「それはちょっと待ってくれない?」 と、そこにナナがやってきた なずな:「どうしてよ。」 ナナ:「あのね、あたしが行った事件の方で聞いた声が、シオンで流れている声と同じだったのよ。」 キレイハナ:「それって、もしかしたら犯人を捕まえられるかもしれないってこと?」 なずな:「それならいいよ。で、それはどこ?」 ナナ:「サイクリングロードよ。」 サイクリングロード。 そこはあたしが今は進化してドンファンだけど、ゴマゾウのゴマをゲットした場所だった。 でも、事件が起きているのはその坂道ではなく、坂道を降りてすぐの並木道でだった。 ナナ:「ここで最近、暴走族やスキンヘッドが何者かに襲われ、重傷を負っているの。ポケモンを出してけん制しようとしても、 謎の声がポケモンをボールに戻してしまうらしいのよ。」 と、並木道なのに、一本だけ全く違う木が植えられていた。 蓮華:「あの木は?」 ナナ:「あれのこと?あれはさ、サファリの奥で枯れかけてたからこっちに植え替えたそうなのよ。」 美香:「ふぅ〜ん、…もしかしてさ、あの木の近くじゃない?事件が起きたのは。」 ナナ:「え、何で分かったの?」 あたしと美香、なずなはあの木を見てすぐに分かった。 美香:「多分、あたしたちの考えが違わないとしたらさ、多分原因はあの木よ。」 ナナ:「えっ!」 美香:「教えてあげるね。美優さん、いるんでしょ?」 なずな:「いなかったら美香の一発を使うよ。」 蓮華:「いるんだったら姿を見せてくれませんか?」 すると。 ??:「何だ、気づいてたのね。久しぶりね、3人とも。氷雨が探してなかった?あたしのこと。」 蓮華:「探してたよ。でも、平和にやってるんだったら別に元の世界に戻らなくてもいいけどね。」 この木、柳の木の前にはいつの間にか、髪の長い女の人が立っていた。 彼女はあたしたちの知り合いの、妖怪柳女の美優さん。 あたしと同じで植物を大切に思う心を持った、優しい妖怪さんだ。 柳女:「でも、何しにここへ?」 ナナ:「はじめまして、あたし、ジムリーダーをしてます。蓮華ちゃんの知り合いで、ナナです。 実は、このあたりで暴走族たちが事故を起こすようになったから、原因を調べてほしいって言われたんです。」 すると、美優さんの表情が険しくなった。 柳女:「あいつらのこと?あれ、あたしよ。この木が排気ガスで枯れちゃうって言うのに、気味が悪いからって 枯らさそうとするんだもん。痛い目を見て当然なの。」 植物を大切にするだけあり、植物を大事にしない人には命の保障をしないほどなのだ。 なずな:「あの、ポケモンが戻っちゃうのってどうやったんですか?」 すると今度は悲しそうな表情になった。 そしてあたしたちは知るのだった。 5人:「夫婦喧嘩で家出したけど寂しさを隠しきれないからポケモンに旦那の声を叫ばせてた!?」 柳女:「ちょ、ちょっと、そんなに一斉に言わなくてもいいじゃない。」 説明してみれば、柳女さんは別の妖怪と結婚しているんだけど、どうやらその旦那さんが浮気をしたらしい。 それで夫婦喧嘩の末に家出してきてしまったが、旦那の声を聞きたくて仕方がなかった。 そんな時、一匹のココドラをゲットして、吠え声を旦那の叫ぶ声と同じように仕込んだらしい。 ポケモンが戻ってしまったのは、ココドラが叫んでいたからだった。 美香:「それで、どんな声なんですか?」 柳女:「この声よ、ココドラ、吠えて!」 すると、ココドラは吠えた。 ココドラ:「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」 数分後。 あたしたちは耳鳴りが収まった頃、なずなが気づくといなかった。 蓮華:「なずなは?」 柳女:「ああ、あの子ならこの子の声を聞くなり、テレポートで姿を消しちゃったわよ。…でも、迷惑かけちゃったみたいだし、 あたしもタワーにいる旦那のところに戻ろうかな?」 …えぇ!?今、何て言ったの? あたしも美香もナナも気づき、もう一度聞いてみた。 すると。 柳女:「ああ、あたしと旦那、今ポケモンタワーに住んでるのよ。ただ、旦那がそこのミロカロスの幽霊にベタ惚れでね、 ものすごくあたしにも、もう少し綺麗だと、とか言うのよ。でも、あたしがいなくて淋しがってるはずだし、戻ってあげなきゃね。」 ナナ:「一つ聞いていいですか?」 柳女:「何?」 ナナ:「だんなさんって、どんな妖怪なんですか?」 柳女:「ああ、うわんっていう、音属性の妖怪よ。ただ、あの人は自分のテリトリーに他の幽霊が入っただけでもかなり怒るのよね。 最近はゲンガーが音の波動を受けて真っ二つにされちゃったし。」 蓮華:「…」 美香:「…」 ナナ:「…」 あたしたちはもう、何も言う気がしなかった。 こんなところでしょうもなく、事件が解決する事になりそうだということを。 そしてなずながいなくなった理由も分かった。 そして数分後。 ナナのポケギアが鳴った。 ナナ:「もしもし?…ナツメかぁ、うん、あぁ、やっぱり。…ええ、今分かったの。…好きなようにさせてあげて。 …分かったわ、それじゃ。」 ナナはあたしたちに話すべきか迷いながら、苦笑しながら言った。 ナナ:「何か、ポケモンタワーからものすごい衝撃波が打ち出され続けてるって。」 多分、なずなだろう。 今回の犯人を追い詰めているに違いない。だから柳女さんに言ってあげた。 蓮華:「多分もう、旦那さんは自分のテリトリーを荒らされても怒らないし、浮気もしないと思いますよ。」 柳女:「どうして?」 蓮華:「今、自分がしたことを後悔しなきゃいけない地獄を受けてますから。」 今回のポケモンタワー事件の犯人、それは柳女さんの旦那の「うわん」だった。 多分、柳女さんが家出してから、浮気を後悔して叫び続けていたのだろう。それでシオンの住人が寝不足になってしまったのだが。 そして、「うわん」は亡霊を弔うためにやってきたフジ老人が自分のテリトリーに入った事で攻撃をし、重傷を負わせてしまったに違いない。 あたし達がタワーに駆けつけた時には、ボロボロになった妖怪「うわん」が柳女に抱きつき、二度と絶対浮気はしないと宣言し、 シオンの人々に土下座で泣きながら謝ったのだった。 滅多に切れることのないなずなの怒りは恐ろしいなぁと、あたしも美香もしみじみ思った。 ちなみに、壊れたポケモンタワーを治したのはあたしの力だったんだけどね。 それからまた数日後の事だった。 カントウではけったいな事件が2度も起こったと聞いた。 ジョウトはそれにひきかえ平和やと思うとったけど、それもこの事件によって消えてもうたな。 うちはジョウト地方に位置するコガネシティのジムリーダー、アカネっちゅうもんや。 今うちがおるのはコガネの北に位置する自然公園や。 毎週、火曜、木曜、土曜にはここで、虫取り大会が開かれとるが、先週からそれは全く行われなくなりおった。 それもしゃーないことなんやけどな。 何でも先週の木曜の大会に参加したトレーナーが30人中20人も消えよったさかい。 ジョウトのポケモン警察が総力を挙げて捜したんやけど、警察関係者も多数行方不明になってしもうたんや。 そのうえ、公園の近くにおったトレーナーや近隣の住民も消えよった。 これはけったい過ぎて厄介やけん。 ポケモン協会に問い合わせて自然公園とその周辺を立ち入り禁止区域にしてもろうたんや。 今でも捜索は続けられとって、エリートトレーナーや捜索隊が探しとるが、今日でそれも1週間経ってもうたうえに、 捜索隊も50人強いたはずやったけど、今じゃ4人ほどになってもうたそうや。 そのうえ、自然公園の近くに位置するこのコガネシティにも人は近寄らんようになってもうた。 これではうちの街が寂れてしまう。 だからうちは、遅うなったが、ナナに連絡する事にしたんや。こうなったらナナがたよりや。 ナナはポケモンマスターや。カントウやジョウトの事件も多く解決しとるさかい、多分うちのかかわっとるこの事件も 解決してくれるはずや。 まぁ、それは置いとくとして、あの姉さんも本来の姿になってもいいと思うんやけどなぁ。 ナナ:「…というわけで、夏休みになったばかりのところを悪いんだけど、協力してくれない?」 夏休みが始まって一日目の朝。 あたしたちが朝食を取っているところにナナがやってきた。 そして事件の大まかな事を伝え、協力を要請してきたのだ。 久美:「また妖怪の仕業じゃないかって?」 ナナ:「ええ、人外だとしか思えないのよね、この事件も。」 哲也:「だけどなぁ…今日は俺も久美も来美姉も部活やサークルで忙しいんだ。」 哲兄はバスケ部、久美ちゃんは空手同好会、来美ちゃんは大学の水泳部にそれぞれ所属しているのだ。 あたしも応援部のチアリーダーグループのリーダーだけど、すでに新しいリーダーを下級生の一人に指名して、 その子に教え込んでいるから、何とか大丈夫なのよね。 だからあたしは動けるかな。 蓮華:「哲兄も久美ちゃんもいいよ。あたしが行くからさ。美香たちも今日は空いてるはずだから、協力してもらえるように 頼んでみるし。」 哲也:「でもなぁ、蓮華の身に何かあったらいけないし…って、痛てえな!何すんだよ!」 久美:「全く試合前だから集中しなきゃいけないって昨日言ってたくせに、もう集中するのをやめちゃったわけ? 蓮華ちゃん、あたしも心配だけどさ、危険な事はしないで頑張ってよ。」 蓮華:「う、うん。」 ナナ:「(ねえねえ、いつもこんな感じなの?)」 蓮華:「(うん、こんな感じだよ。)」 哲兄があたしを心配してシスコン魂を出しかけた時、久美ちゃんがエルボーで哲兄の後頭部を叩き、哲兄が久美ちゃんに 言い返し、言い負かされるの図。 似たような事がたまに起こるんだけど、初めて見たナナには驚きものだったようだ。 いつもならここに、今はすでにサークルに行っていていない来美ちゃんが二人を諌めるんだけどなぁ…。 それは笑いながら見ていて、たまに油を注ぐ舞さんは今日は朝早くから探偵の仕事でいないし。 いたらもっとすごかったはずだなぁ。 今日はナナもいるからか、哲兄も久美ちゃんも途中でやめてたけど。 そんなこんながありながら、あたしは哲兄と久美ちゃんを見送った後、何人かに声をかけてみることにした。 でも、了承してくれたのはなずなと律子と晃正君だけだった。 海ちゃんは書道部の大会に行ったらしいし、美香は翼先輩に差し入れに行ったらしい。 高校生メンバーは誘っても多分空いてない事が分かってるので駄目だったし、氷雨さんも今日は忙しいらしく、 携帯が留守電だったのだ。 一応用件を話しておいたけど。 ナナ:「まあ、しょうがないよ。あたしの方も美咲ちゃんに声をかけておいたから。」 なずな:「でも、このメンバーだけで大丈夫かなぁ?」 律子:「う〜ん、微妙だよね。…そういえばさ、今日、バスケ部は試合じゃなかった?」 蓮華:「確かにそうよね。でも、涼治は今回は来るなって言ってたから行かなかったのよ。」 なずな:「それって、破局?」 蓮華:「違う違う、そうじゃなくて、対戦相手の中学が男子校だからよ。前、その男子校にあたしが応援に行ったら、 涼治がすごく焼餅焼いちゃったから。」 晃正:「あれは凄かったですよね。」 涼治も一応クールにポーカーフェイスでいる時があるが、その仮面が粉々に崩れた感じが、あの時はした。 ただ、その試合に行くはずの晃正君がどうしてここにいるんだろう? 晃正:「あ、俺ちょっと昨日の練習で先輩を怒らせちゃいまして、レギュラー外されたんですよ。 当分練習に来るなって。」 初耳だった。 律子:「何かやったの?」 なずな:「あ、あたし知ってるよ。」 なずなの言ったニュースは知ってた。 昨日の夕方、実ははぐれ妖怪ってあたし達が名づけてる、住処を失った妖怪が体育館をねぐらにしようとしたのだ。 その時体育館にいた生徒とトラブルになり、何人かがその時に怪我をしたらしい。 その原因は妖怪が天井に穴を開けた際にできた瓦礫によるものだけど、その妖怪の動作を見て対処しようとした涼治を無視して、 むやみに戦いを挑んだのが晃正君らしい。本人曰く、追い出そうとしたらしい。 それで妖怪が怒って…、というわけらしく、勝手な行動に出た晃正君を明日の試合に出したらチームとして不備が出るのでは、 と言う危険があるため、レギュラーから外したらしい。 晃正:「俺も反省しなきゃいけないのは分かってるんすけど、最近妙に衝動が出てきちゃうんですよ。」 晃正君は妖怪と人間の子供だ。 そして妖怪の血も多く受け継いでいるだけあり、妖怪としての暴れたい衝動が出てき始めたのだろう。 元々ケンタウロスは戦いを好む妖怪らしいから、晃正君は当分戦いに近い、試合には出ないほうがいいのでは、と、 涼治が思って判断したんじゃないかな? あたしたちが向こうに行くと、既に美咲とナナが待っていた。 あたしたちはそこから、なずなの能力で自然公園に向かったのでした。 その頃。 ??:「ゴソゴソゴソ…おっ、外れたぜ。」 鍵をかけたはずのあたしの家には誰かが侵入してました。 ??:「古臭い鍵だったなぁ、あれだと簡単に外せるぜ。それにしても、ここにゲートがあったとはな。先輩たちが集まってたし、 俺も行ってみよう。」 その誰か(少年)はあたしの家のゲートを見つけ、考えた上で中に入っていった。 ナナ:「ここが自然公園の入り口よ。」 コガネの北に位置する自然公園は、あたしたちの世界にある大きな公園、噴水やベンチがあり、花壇や芝生がある公園と 同じようなところだった。でも、今は事件のために誰一人そこにはいなかった。 ただ、今あたし達がいるのは入り口という事で、実際の自然公園は芝生の向こうに見える広そうな森のことを示すようだった。 森には遊歩道や矢印、標識などもあり、公園の森と自然の森との境界線上にも印がしてあるため、普通なら迷う事はないらしい。 迷っても、道なりに歩けば森から出られるらしいから。 ナナが言うには、自然公園の入り口2箇所が、あたしたちの知っている公園と同じような感じになっているらしい。 入り口から別の入り口へは、森を通らなくてもいけるルートもあり、そう考えるとどうして行方不明者が出たのかがよく分からなかった。 それと、あたしたちの目に付いたのは、公園の美しさとかを見事に破壊するように置かれた岩の数々だった。 芝生の上にもたくさん転がっていた。後、もう一つだけど…。 ナナ:「前はもうちょっと綺麗だったのよ。」 晃正:「う〜ん、先輩たちも感じるよな?」 ナナ:「何が?」 蓮華:「そっか、あのね、あたしたち能力者には今、ものすごい変な妖気を森の中から感じるのよ。」 なずな:「まるで森が森でないような感じの妖気ね。」 律子:「ふぅ〜ん、あたしやナナは分からないけど、そんなにすごいのかぁ。」 ここに志穂ちゃんや氷雨さんがいればもっと詳しく分かっただろう。 ともかく、何か証拠が見つからないかと思い、あたしたちは森の中に入る事にした。 すると。 森に入った直後、キレイハナとソルル、パル、アゲハが飛び出てきたのだ。 蓮華:「4人とも…いきなりどうしたのよ。」 あたしはナナ達に先に行ってもらうことにした。 キレイハナ:「何となくなんだけど、ソルルが何かを感じたらしくて、ソルルが言うにはあたしたちが出ていたほうがいいみたいなの。」 蓮華:「ふぅ〜ん、ソルルが言うのならね。」 ソルルは災害や危険を感知する事ができるのだ。 多分、この森に何かがあることを強く物語っているに違いない。 キレイハナ:「あたしたちも(ボールの)中で話は聞いたよ。この森もかなり変な気配があるよ。」 キレイハナが言うと、アゲハとパルも同意の声を上げていた。 と、突然ソルルが走り出した。 キレイハナ:「何か感じたみたいよ。」 あたしたちもソルルを追った。 すると、そこにはナナがいた。 でも、なずなも律子も、晃正君も美咲でさえもその場にはいなかった。 ナナ:「蓮華…大変なの。」 蓮華:「ナナ?」 ナナ:「みんながいなくなっちゃったの。」 どうやら、何か変な匂いがしたと思うと、イトマルとアリアドスが大量発生したのか大群で襲ってきたらしい。 それらと戦っているうちに、初めになずな、律子が、そして晃正がいなくなり、美咲も気づいたらいなくなっていたらしい。 蓮華:「みんな、どうして…」 キレイハナ:「でも、ナナはどうして大丈夫だったの?」 ナナ:「分からないのよね、それだけは。」 と、その時だった。 今度はあたしたちも感じた。とってもとっても臭い風が森の奥から流れてきた。 でも、ポケモンのやってくる気配はなかったので、あたしたちは匂いの大元に向かうことにした。 蓮華:「あたしの予想、外れたな。」 キレイハナ:「予想?」 蓮華:「うん、あたしはね、初めは隠れ里かと思ったのよ。」 妖怪の隠れ里が自然公園の森の中にできて、トレーナーたちはその中に迷い込んででられなくなったのでは、と。 でも、それならテレポート能力を持ち、どんなところからも出てこれるはずのなずなが姿を見せないから、外れかと思ったのだ。 ナナ:「(…隠れ里か。でも、言った方がいいのかな?あたしが逃れた理由。)」 蓮華:「ナナ?」 ナナ:「ん?」 キレイハナ:「どうかしたの?」 ナナ:「別に。蓮華、キレイハナ、あれじゃないかしら?」 あたしたちはナナに言われて示された方向を見た。 するとそこには、草で覆われた大きな洞窟があり、たくさんの変な形の岩が辺り一面に転がっていた。 そしてそこから変な匂いが流れてきていた。 ナナ:「おかしいわ。ここにはこんな洞窟はなかったわよ。それに、何か嫌な感じがする。」 蓮華:「ナナも?あたしも。やっぱり能力者じゃなくても、この嫌な感じは伝わるのね。」 ナナもポケモンたちも、この周辺が異様な感じであると感じているようだった。 と、ソルルが突然、近くの木にカマイタチを放った。 蓮華:「ソルル?」 キレイハナ:「蓮華、誰かいるよ。」 ??:「ええ、いるわよ。」 キレイハナが言うのと重なるように、女性の声が響き、木陰から誰かが出てきた。 それは髪が長く、目が獣のように鋭い、妖艶な女性だった。 ??:「あ〜あ、あなたたちに感づかれちゃうとはね。あたしの部下のイトマルちゃんやアリアドスちゃんも倒してくれちゃったし。 全く、あの子達は使えないわね。」 蓮華:「あなたは、何者?」 ??:「あたし?別に言う気はないわ。ただ、人間狩りをしてる妖怪ってことくらいでいいかしら?」 キレイハナ:「人間狩り?」 ??:「ええ、あたしは言っちゃうけど、ある人の活動を隠すために、この人間が多く集まる場所に拠点を置き、 人間を狩っているの。あなたたちを狩ったら、また別の場所に行こうかしらね。サファリゾーンやチャンピオンロードならいいかしら。」 ナナ:「何ですって!」 あたしたちの目の前にいる女性は、簡単に何でもやるような感じでスラスラと言ってのけていた。 明らかに悪の妖怪みたいだけど、あたしたちじゃ、正体までは分からない。 が、その彼女に対し、敵意を向けたのはナナだった。 ナナ:「絶対にあなたなんかにそんなことはさせないわよ。」 ??:「あらっ?そんなこと言って、次はあなたが餌食になるわよ。出てらっしゃい、あたしの奴隷ちゃん、ストライクにカイロス!」 女性はストライクとカイロスを、奴隷といって呼び出していた。 どうやら虫ポケモンを操っているようだ。 多分、行方不明になったトレーナーたちは虫ポケモンにおびき寄せられたのね。 でも、ナナだけにバトルをさせられないわ。 蓮華:「あたしも参戦するよ、ソルル、カマイタチよ!」 ナナは珍しくガーディで参戦していた。 ??:「ストライク、アブソルを連続切りで倒すのよ!カイロスはガーディの首の付け根を挟む攻撃よ!」 ソルルは虫タイプの攻撃の連続切りに弱い。 でも、そこはあたしの指示で何とかするしかない。 蓮華:「ソルル、影分身で避けてジャンプして!そしてスピードスターよ!」 ナナ:「ガーディ、穴を掘って挟む攻撃から避けて!そして穴の中から熱風よ!」 ソルルはストライクの攻撃は影分身でかわし、その隙にストライクの真上からスピードスターを放った。 そしてガーディは穴に潜り、スピードスターを必死で弾いているストライクと挟む攻撃を避けられ、地面に角が刺さってしまった状態のカイロスに 熱風を放ったのだ。 熱風は的確な位置に放たれたため、ソルルには熱風はかすりもしなかった。そしてストライクとカイロスは黒こげで倒れていた。 ??:「あらら、あの人が言ったとおり、あなたたち二人は厄介ね。」 蓮華:「あの人って誰?」 ??:「言うと思う?言わないわよ。」 と、その時だった。風で熱風が少し、洞窟に入ったのだ。ただそれだけだったけど、その瞬間、洞窟が揺れたのだ。 蓮華:「何?」 キレイハナ:「蓮華、ソルルが言うには、あの洞窟、生きてるって。」 蓮華:「洞窟が生きてる?…妖怪ね。」 ??:「ご名答。でも、どんな妖怪かは分からないでしょ?」 ??:「分かるわよ、そこの蛇女!」 分からないと、あたしが言おうと思ったときだ。 ようやく来たようだった。 吹雪と共に氷雨さんが現れていた。 氷雨:「留守電を見て駆けつけたのよ。蓮華ちゃんにナナちゃんたち、そこにいるのは妖怪蛇女。そしてこの洞窟は、赤舌という妖怪よ。 封印した場所に赤舌がいないし、蛇女も姿をくらましてるって双葉が教えてくれたから探していたら、まさかこんなところにいたとは 思わなかったわ。」 蓮華:「氷雨さん、こいつ、人間狩りをしてるって言ってたけど…」 氷雨:「ええ、かつてこの女は、人間たちを妖術で魅了し、赤舌とつるんで人間たちを狩っていたの。日本中の妖怪が結集してようやく封印したと 聞いているわ。」 蛇女:「何だ、雪女か。でも、もう止められないよ。既に多くの人間たちを狩った。教えてあげるよ。 その辺りに落ちている岩はね、行方不明の人間たちなんだよ。」 あたしたちは驚いた。 この岩が…トレーナーたちだったなんて…。 蛇女:「さっきここにおびき寄せた4人の人間も、赤舌様の中で消化が終わってる頃だわ。」 なずなたちが…。 あたしは怒りを隠しきれなくなっていた。 蓮華:「もう許せない!」 あたしはソーラー弾を放つけど、蛇女はするっと避けてしまう。 彼女には草の能力は通用しそうにないようだ。 蛇女:「うふふ、でももう無駄ね。さっきの熱風が赤舌様の体に入った事で、赤舌様の眠りは覚まされようとしているわ。 でもその前に、この蛇の毒で死ぬといいわ!」 蛇女は口から体液のようなものをあたしたちに放っていた。 氷雨さんが妖術を使うけど、それは届きそうになく、間違いなくあたしたちに向かってきていた。 しかし。 パル:「パルパル(鉄壁&神秘の守りよ)!」 それを防いだのはパルだった。 パルが鉄壁の状態であたしの前に出て、彼女の攻撃を遮断したのだ。 どうやら神秘の守りも使ったらしい。 蛇女:「何!?」 蓮華:「次はこっちから行くわ!アゲハ、キレイハナ、ダブルで痺れ粉よ!」 ポケモン2体による痺れ粉が蛇女にふりかかり、彼女は体を動かそうにも動けない状態になっていた。 ソルルはこれを予知して、パルとアゲハを指名したのだろう、多分。 蛇女:「くっ、でも、もうじき赤舌様は復活す…」 蛇女には痺れが回ったらしく、動かなくなった。 そこを氷雨さんがお札に封印した。 でも、洞窟は大きく動き出し始めていた。 ナナ:「氷雨さん、どうする?」 氷雨:「う〜ん、赤舌をこのまま復活させるわけには行かないわ。でも、こいつの弱点になる炎はポケモンたちの力じゃ少なすぎるわ。 もっと強力な炎じゃなければ駄目よ。」 ??:「だったら俺じゃ駄目?」 再び声がした。 そして上空に、大きな炎の塊が姿を現していた。 蓮華:「あ、影正君…」 あたしは彼に見覚えがあった。 キレイハナ:「知り合いなの?」 蓮華:「うん、晃正君と同じ半妖怪で、サラマンダーのハーフなの。」 サラマンダー、簡単に言えば、ヒトカゲのような妖怪だ。 ただし、彼の場合は妖怪の姿は火柱に等しい姿だけど。 あたしのクラスメイトでもあるんだけど、氷雨さんも知らないのよね、知ってるのはあたしと晃正君だけだし。 氷雨:「あんな子がいたのね。」 蓮華:「ごめんなさい、あたしも最近知ったばかりだったの。」 氷雨:「別にいいわ。これで助かったから。」 影正君は赤舌の上に大量の炎をふりかけ、自分自身もさらに大きな炎の塊になって赤舌に落下した。 すると、この辺りを強大な地震が走り、それと共に氷雨さんの持っていた札に、何かが入っていった。 ナナ:「今のは?」 氷雨:「赤舌が炎から逃れるために永眠を願い、自分からお札に入ったのよ。蓮華ちゃんかナナちゃんのポケモンに、雨乞いができる子はいる?」 ナナ:「ああ、いますよ。」 氷雨:「それじゃ、雨を降らせて。」 この時、あたしたちは意味が分からなかったけど、後になって理解できた。 何でも、岩にされた人たちは赤舌の体内で赤舌の意識とは関係なく、無意識に消化され、水分を失った状態になっていたのだ。 だから雨乞いで雨を降らせる事で、彼らを復活させたのだと言う。 なずなたちも何が起きたのかよく分からなかったらしいけど、行方不明になった人はみんな無事に家路に着いた。 ただ、今回も出てきた、あの人と言う者が気になった。 あの人とは、一体誰の事だろうか? あたしやナナのことを知っていて、何かを企んでいるらしいけど…。