カントウから南方に進んだ場所にある、主に7つの島から成る列島、「ナナシマ」。 今そこに、徐々に黒と白、黄色を含んだコスチュームを纏った影が集まりだした。 彼らは数年前までは犯罪集団「スペース団」となり、全国各地で恐れられていた。 しかし、複数のトレーナーやカントウに名を連ねるジムリーダーや四天王たちの手により、組織は解散した。 そしてそのまま、人々の記憶からも忘れ去られようとしていた。 だが、スペース団員の多くは違っていた。 それは、とあるスペース団内の極秘事項を知ったからだった。 スペース団を指揮し、中心となっていた人物たち。 彼らは実は現実世界で研究によって誕生し、人の姿になる力を得たポケモンのイーブイ一族(ただしブースターを除く)だった。 そのことを唯一知っていた幹部から、それは団員たちの間に伝わり、多くの者が怒り、そして、本格的な人間による世界征服を 企もうとしていた。 そして、ナナシマのある場所で、幹部とボスと思われる人物たちは、計画を実行しようとしていた。 ??:「…というわけだ。いいな。」 ??:「はっ。」 ??:「今まではこちらに迷い込んだ妖怪に色々と吹き込み続けていたが、それもそろそろ限界のようだ。早くしなければ、 あのとてつもなく厄介なポケモンマスターが気づいてしまう。」 ??:「それでは、まずは1の島にいると思われる研究員を捕獲し、カントウとの通信を遮断します。」 ??:「そうしてくれ。私はお前たち4人にここを任せる。私にはやらなければならないことがあるからな。」 ナナシマで、何かが起ころうとしていた。 ナナシマ編 1.再び冒険の始まり そんなスペース団の行動をいち早くキャッチした者がいた。 その者は4の島にいた。 ??:「ふぅ〜、ようやくラプラスをゲットしたし、ナナに連絡とらないとなぁ〜。」 彼女は、氷タイプのポケモンが多く生息するいてだきの洞窟で、ラプラスをゲットしたばかりだった。 その時、滝の近くで物音が聞こえ、彼女は岩陰に身を隠し、気配を消していた。 ??:「(まさかこんなところであいつらと対面するなんてね。何をする気かしら…。)」 彼女が見たのはスペース団のコスチュームに身を包んだ団員たちだった。 団員:「見つけたか?」 団員:「いや、しかしこの島にあるはずだ。早く探し、ミトアス様に渡さなければ!」 団員のリーダー:「おい、これじゃないか?」 一人の団員が何かを見つけたようだった。 ??:「(あれは…溶けない氷?でも、どうして彼らがアレを必要なのかしら…。もう少し見れたら…)」 彼女は少し身を乗り出そうとした。 しかし、岩陰の小石を水に落としてしまっていた。 リーダー:「誰だ!そこで隠れている奴、出て来い!」 しょうがない、出て行くか。 そう思った彼女はその場から出た。 ??:「スペース団がここで何をしているの?」 リーダー:「ふん、お前のようなトレーナーに言うわけがないだろうが。しかし、見られたからにはここで息の根を止めなければならないな。 マタドガス、ゴルバット、あのトレーナーを攻撃するんだ!」 リーダー格の団員がポケモンを繰り出してきた。 他の二人の団員もラッタとワンリキーを放っていた。 ??:「団員があたしに対してポケモンで敵うと思ってる、わけ?」 彼女はボールを取り出した。 直後、砂嵐と白い霧が辺りを包んだ。 ??:「フライゴン、破壊光線よ!」 砂嵐と白い霧の中から飛んだ破壊光線はポケモンたちを一蹴していた。 リーダー:「何!?ナナシマにこんなトレーナーがいるとは聞いてないぞ!」 ??:「知らないのが当たり前よ。あたしがこの島で本気を出した事はないもの。あたしのこと、忘れたの?」 リーダー:「何だと!?…まさかお前…飛行部隊の!?」 ??:「そうよ。あたしは元スペース団飛行部隊長のヒカリ。あなたたちが動き始めたとしたら大事ね。 フライゴン、もう一度破壊光線よ!」 ヒカリのフライゴンは破壊光線を水面に放ち、水飛沫が消えた頃、彼らは氷漬になって水に浮かび、ヒカリの姿は影も形も残っていなかった。 ??:「くそっ、おい、早くミトアス様に知らせろ!」 そして。 ??:「ヒカリがナナシマにいただと?」 ミトアス:「はい。私の配下の者たちが戦ったそうですが、軽くあしらわれてしまったそうです。」 ??:「下っ端では仕方ないだろうな。おい、4の島にいた理由は知られてないだろうな?」 ミトアス:「ご心配なく。それに関しましては誰にも知られておりません。」 ??:「そうか。ならばミトアス、お前の軍を4の島付近に集め、いつでも出撃できるようにしておくのだ。」 ミトアス:「はっ!」 ヒカリ:「あれっ?カントウに通信できない!?…あ、そうか。通信手段が遮断されたのね。」 それにしても…。 スペース団が動き出していたなんて…。 あたし、ヒカリはスペース団解散後、同士討ちで倒れていたところをナナに助けられ、そのままレイクとユウと共に脱退した。 レイクはヤマブキシティのポケモン医療大学で働いてるって聞く。 ユウはあたしと一緒にこのナナシマに来て、途中で別れている。 ユウも自分の居場所の近くにスペース団がいれば気づくはず。ただ、連絡の取りようだけはない。 ここは4の島であたしが暴れた以上、4の島に攻撃が集中する可能性もある。 今はカンナさんも留守だし…。 そうだ! あたしはポケギアを取り出し、ある人に連絡を取った。 ヒカリ:「あ、もしもし?…うん、ヒカリだよ。…というわけなの、あたし、ちょっとナナに知らせに行くから…。 そう、お願いね。4の島を守ってね。4の島では、あなたがあたしの次に強いでしょ?…違うって?…もう、お願いね。 分かってるよ。用事が終わればすぐに戻るから。」 全くもう、寂しがり屋の癖に強がりは人一倍なんだから…。 さてと。 ヒカリ:「フライゴン、急いでカントウに行って!そしてナナの家に向かって!」 ナナ:「スペース団がナナシマで何かをしてる?」 律子:「それって本当なの?」 サクラ:「ええ、マサキさんのお知り合いが1の島にいるそうで、ジムリーダーにも連絡を入れなければならないそうです。 でも、このことはナナさんにお話したほうがよろしいかと思いましたから。」 ナナ:「サクラさん、ありがとう。分かったわ。あたしはナナシマに行くってマサキに知らせておいて。」 サクラ:「ええ。分かったわ。」 あたしと律子は久々にポケモンバトルをしようと思っていた。 そんな矢先にかかってきた電話は、ハナダジムのジムリーダー、サクラさんからだった。 内容は、ナナシマにスペース団の影が見え始めている、ということだった。 サカキさんからも話は聞いている。 でも、本当にまだ潜伏していたとはね。 不滅って言うか、ゴキブリ並みに厄介な連中ね。 律子:「あたし、蓮華にも知らせてくるよ。」 ナナ:「そうね。あたしたちだけじゃ厄介かもしれない。お願…あれっ?誰か来たみたい。」 あたしたちが外に飛び出すと、一匹のフライゴンが降下して来た。 ナナ:「あれっ?今連絡しようと思ってたんだけど…」 律子:「何かあったの?」 やってきたのは元スペース団のヒカリちゃんだった。 あたしのナナシマ関連の知り合いって言ったら、ヒカリちゃんか、カンナさんくらいだろう。 ヒカリ:「連絡って事は、ナナも知ったのね。スペース団のこと。」 ナナ:「ええ、今ジムリーダーたちに連絡が回ってるところよ。」 ヒカリ:「何だ…でもね、もうナナシマには通信はできないよ。カントウへの通信手段が遮断されちゃったみたいなの。 だからここに来るしかなかったのよ。」 ナナ:「そう。ヒカリちゃん、分かったわ。ここで休んだら先にクチバに行ってて。」 ヒカリ:「クチバ?」 ナナ:「うん。美咲ちゃんと拓也にも教えてほしいのよ。それに、ナナシマへの通信が遮断してるなら、船も破壊されている可能性が高いわ。 ナナシマに行くための船を確保しておいてくれない?」 ヒカリ:「分かったわ。…久しぶりに懐かしい人に会えそうね。」 ナナ:「ええ、律子が呼びに行ったから。」 ヒカリ:「了解。フライゴン、クチバに飛んで!」 ヒカリはフライゴンで飛び去った。 それにしても、泣き虫だったあの子が成長したなぁ。 泣き虫だけど、努力する気持ちは強くて、フライゴンはあたしのバルビーと互角にバトルできるほどだし。 あの分だと、脱退してよかったのかもしれないな。 あ、あたしも準備をしないとね。 バルビー、イルミー以外に4匹、誰を持っていこうかな? 蓮華たちにはポケモンはゲットしたメンバーは全部もって行くように言わないとね。 通信が遮断されたとなれば、ポケモンセンター同士の通信も遮断されている可能性が高いもの。 蓮華:「スペース団が復活したの?」 律子:「そうなの、だから力を貸してくれない?」 蓮華:「私はいいけどさ…」 美香:「だけどね…」 涼治:「しかしなぁ…」 あたしと美香と涼治での勉強会中に、突然2階から降りてきたのは律子だった。 いるはずもない律子が慌ててると言う事は、ポケモン世界から直通できたとしか思えない。 そして律子はスペース団が現れたからナナシマを救うために協力してほしいと言ったのだ。 あたしたちは突然の事に驚いた。 でも、厄介だと思った。 夏休みが始まったばかりの今。 あたしたち受験生は遊んでばっかりもいられない。 しかも、高校生組は夏期講習があり、あたしと涼治は部活の主将やリーダーでもある。 今のところ、チアは浅香ちゃんや後輩の新リーダーがあたしの代わりを勤めてくれるから、あたしは籍だけを置いた状態でも 可能(ただし一週間後の野球部とサッカー部の試合の応援には参加しなきゃいけない)だけど、涼治は2週間後の試合のための練習が、 明日から毎日続くのだ。 相手は哲兄曰く、かなりの強豪らしいし、涼治にとっては中学最後の夏の試合に等しいのだ。 律子:「分かってるよ。でもさぁ、行けるメンバーを探さないといけないけど、今行けるメンバーって言ったら、 ここにいる3人だけじゃない?」 海ちゃんは海外旅行、なずなは家族旅行、氷雨さんは育った雪山に里帰り中なのだ。 鈴香や悠兄も忙しそうだったし、部活のある晃正君や浅香に頼むのはもっての他。 菜々美ちゃんは所属事務所のアイドル歌手と全国ツアーをしているし、志穂ちゃんは京都へ修行に出かけていた。 蓮華:「でも…涼治が…」 美香:「部活の練習、明日から毎日だったよね?」 律子も知ってるはずだ。 うちのクラスにはバスケ部のレギュラーが4人もいるくらいなのだから。 律子:「そりゃそうだけどさ…あたしも明日のバレー部の試合のチアに参加しなきゃいけないけど…」 あたしと違って、律子は受験生になっても所属し続けていた。 だから、隊列にも入っちゃってるのだ。 あたしたちはどうしようか迷っていた。 本当なら行かなきゃいけないこと位、ポケモン世界を旅したあたしたちには分かりきった事。 だけど、現実世界と平衡するようになってからは、現実世界の出来事を優先しなきゃいけなくなっている。 と、涼治が立ち上がった。 妙に真剣かつ、何かに吹っ切れたか、諦めた表情をしている。 涼治:「…分かったよ。あっちでは一日が、こっちの半日だよな?」 律子:「うん。」 蓮華:「部活、いいの?」 美香:「無理なら別にいいんだよ。」 涼治:「心配ない。あっちに一週間くらいなら約3日だ。今すぐ話をつけてくる。準備しとけよ。」 涼治はあたしたち3人の視線を受け、少し怒りめの口調で言い放ち、出て行った。 どうしてあんな表情をしていたのか、この時はあたしたちは全く検討がつかなかった。 でも、涼治が戻る前に準備をしていなかったら、その時はマジ切れを起こされるだろう。 美香:「怒らせちゃヤバイし、あたしも準備してくるね。」 蓮華:「ええ。それと、律子は先にポケモン世界に行ってて。」 律子:「了解。」 みんなが行ってしまい、ようやくあたしも準備をすることにした。 キレイハナたちポケモンはみんな、あっちの世界にいる。 だから、多分ナナが話をしているだろう。あたしの37の絆たちに。 あっ、そういえば、学校から支給されてたボール、4つ余ってたのよね。一応持っていこうっと。 あたしが準備を終えた頃、美香が戻ってきた。 美香:「あれっ?涼治は?」 蓮華:「まだ。」 多分、直談判がうまく行ってないのかもしれない。 美香:「突然だもの、しょうがないじゃ済まないよね?」 蓮華:「美香…、アーチェリー部の幽霊部員がそれは言えないよ。本当なら美香だって明後日試合だったじゃない。」 美香:「あはははは…。でも、あたしサボってたからレギュラーじゃないもの。」 蓮華:「個人戦は出れるんじゃない?」 美香:「もう、いいじゃん。」 美香は能力が炎の矢ということを知られていて、強引に入部させられた。 しかし、それを好きでやっていたと思えば、今年の春くらいに飽きたらしい。 本当は飽きたわけじゃなくて、先生が代わり、新しい先生にセクハラ行為を受けたらしいのだ。 聞くところによると、事故で手が胸を掠めたらしいが…。 でも美香はそれをきっかけに部活の忙しさから解放されたかったらしく、退部したのだ。 退部届けは受理されてないので幽霊部員扱いになったけどね。 そこに、涼治が戻ってきた。 準備も終え、走ってくるのが見えた。 が。 涼治:「準備はいいようだな。それじゃ、行くか。」 美香:「う、うん…」 わざと明るめに言う涼治の言葉に、さすがに美香は言葉が詰まった。 蓮華:「涼治…その痣、何?」 帰って来た涼治は、目の周りと頬に出来立てのような痣を作ってきていたのだ。 涼治:「ああ、ちょっとな。休む事の直談判したら殴られた。」 ムカッ! 蓮華:「…誰がやったの?」 涼治:「おい…復讐はするなよ。お前ならやりかねない。」 当たり前よ。やるに決まってるじゃない。 蓮華:「いいでしょ、別に。…誰がやったの?」 涼治:「俺と同じレギュラーの博也(ひろや)と俊義(しゅんぎ)だよ。ちょうど体育館で自己練習しててさ、理由を話して直談判したら、 許してはくれた。ただし3日分のペナルティが大きいけどな。ペナルティは後から教えられるだろうな。」 レギュラーといわれたので、復讐したら逆に涼治にふられそうな気がした。 だから復讐を考えるのはやめた。 涼治:「実はな、理由がどうあれ、突然部活の日に予定を入れて休んだら、そいつには一発ぶちかまそうって俺たち3年の間で決めてたからさ、 話し終えた途端、一発ずつ不意打ちでやりやがったわけさ。」 決まってたって…涼治達、そこまで考えて、試合に臨もうとしていたのね…。 無言の圧力かけちゃって、悪かったな…。 蓮華:「ゴメンね。」 涼治:「えっ?」 蓮華:「だって、それほどまで試合に集中しようとしてるなら誘わなかったのに…」 涼治:「いいって。それじゃ行くぞ(どうせ帰ったらまた殴られるし)。」 涼治はあたしたちの背を押して行こうとした。 でも、流石にその顔はヤバイだろうと感じ、あたしは癒しの力で涼治の痣を消したのでした。 向こうに着くと、ナナのケーシィが手紙を持って待っていた。 「蓮華たちへ。突然のことでしかも行けるメンバーが3人なのはしょうがないと思うよ。 あたしは美咲ちゃんたちとクチバで待ってるから、その子のテレポートでクチバに来てね。 byナナ」 と言う内容だったので、あたしはキレイハナたちを呼びに言ってからクチバに飛んだ。 キレイハナたちは既にナナから聞いていたらしく、全員ボールの中で待っていた。 37の絆は、数人は子供を産んだり進化したりしてるけど、それでもあたしにはついてきてくれるから嬉しかった。 そしてクチバに飛んだ。 あたしたちの数日間の新たな冒険の始まりだ。   『おまけ』 俊義:「…というわけで、主将は3日くらい練習を休む事になった。」 博也:「せっかくの夏休みを部活のために使ってくれる部員たちには主将もかなり悪いと思っていたらしいが、 ペナルティはペナルティだ。全員一致で決めた事だからな。お前たちも現実の厳しさをあいつに教えてやるんだぞ。」 試合前の練習に参加してみると、どうやら涼治先輩は緊急の用事が入ったと言う事で休む事になったらしい。 その間は副部長の俊義先輩と博也先輩が主将の代わりを勤める事になったらしいけど…。 尊:「絶対休むなって言ってた主将が休むとはな。」 晃正:「ああ、しかし先輩の用事ってなんだろうな?」 尊:「さあな。それにしても、いいのかな?ペナルティがアレで。」 晃正:「しょうがないだろ。博也先輩たちが決めた事だ。」 涼治先輩が課せられることになるペナルティは、試合前の練習に支障がない程度の筋トレをいつもの数倍とか、そういうことは しょうがない。 でも…。 休憩時間は先輩だけ10分のところを5分短縮、またボール磨きや体育館の掃除、休憩中の校門前の自販機への買出しは先輩一人で。 っていうのはつらくないかな? たとえそれが4日間だけでも(それにレギュラーの後二人の先輩が殴る事になってるらしいし)。 涼治先輩、今何してんだろうなぁ…。 蓮華先輩と一緒にデートしていて休んだなら俺も攻撃しよっと。 ブルッ! 涼治:「!?」 蓮華:「涼治、どうしたの?」 涼治:「いや、今ものすごい悪寒を感じたんだ。何か嫌な予感がした。」 蓮華:「え…、大丈夫なの?」 涼治:「分からない。俺、恨まれる事はしてないはずだけどな…」 涼治は空間を越えた状態で、晃正の思念を無意識に感じたのだった。