氷雨:「…というわけなんです。お願いです、力を貸してくれませんか?」 あたしがここに来たのは本当に久しぶりだった。 ??:「いいじゃろう。わしらも暇だった所じゃ。」 あたしが設立してから、ぬら爺にここを任せて、蓮華ちゃんたちのサポートに回って…。 もう10年にもなるのね。 いつかここに戻らないといけないとは思ってたけど、こんな事で戻るとは思わなかった。 ??:「氷雨も結構綺麗になったな。」 ??:「くすくす…、そうね。あたしの若い頃みたい。」 ??:「でも、けら姉さんみたいな笑顔とは違うよね。雪女らしい笑顔と人情味溢れる笑顔ができるようになってるし。」 ??:「そろそろ重い腰を据えたらどうだ?」 ??:「そうだよ、氷雨がサポートしてるあの子達だってそろそろサポート無しでよくなるんじゃないか?」 双葉:「言えてる。氷雨に求愛してる子だっているんだし、氷雨の後はあたしが代わるよ。」 あたしが来たことで、この場はあたしの話題を中心に盛り上がり始めた。 最も、あたしを誰かとくっつけたいようだったけど…。 ??:「まぁ、それはよしとしましてな、せっかくの暇つぶしじゃ。楽しんでこようではないか。」 そんな話題の中、ぬら爺が突然立ち上がって言った。 するとやる気を出す面々。 あたしはどういうことになるのかが妙に楽しみになった。 ナナシマ編 6.ナナシマ妖怪軍団!信頼と怒り ナナシマにスペース団が一斉攻撃を行うようになった。 4の島で蓮華たちが罠にはまったが、それは救援として駆けつけた仲間によって救出されたものの、スペース団が 彼らはいつまでも隠密行動をしているわけがなく、ついにナナシマを征服し、デオキシスを復活させるために動き出したのだ。 そして、長く平和が続き、悪夢から忘れ去られたナナシマの人々を恐怖に導き、それらをカントウやジョウトに伝え、 再びスペース団の支配を広げようと考えていた。 ともし火山の温泉が売りとなり、今だ多くの観光客をその場に残した状態の1の島にもスペース団の攻撃が行われた。 特殊部隊は氷ポケモンを組織してともし火山を雪山に変え、その山の守護し、1の島の守り神と呼ばれたファイアーでさえも、 氷に閉じ込めてしまい、温泉は真水に変えられてしまっていた。 南国だった1の島は氷と雪に支配された島になっていたのだ。 そんな場所で唯一ポケモンセンターがレジスタンスとなり、その場にいた数人のトレーナー、ジョーイ、ジュンサーと ナナシマのポケモン研究家、ニシキが立ち向かっていた。 ジョーイ:「ポケモンたちの治療はあと少しで終わるわ。スペース団の攻撃で犠牲となったポケモンたちも少しずつ回復しているから。」 ジュンサー:「しかしここまでスペース団員が多くては、我々の対処もしようがないわね。」 1の島で初めに奇襲されたのはポケモン警察ナナシマ本部だったのだ。 突然地中から沸いて出たハガネールと無数のフォレトスが大爆発を起こし、署員を巻き込んでポケモン警察を崩し、 多数のけが人を人質として、捕虜として捕らえたのだ。 その姿を見たナナシマの住民や観光客の多くが、立ち向かう事を恐れて降伏してしまっていた。 ニシキ:「しかたがありません。昨日宝の浜に流れ着いたと知らされたポケモン密漁船の中にあったという様々な能力アップアイテムを スペース団が使っている可能性も少なくはなく、それを考えると状況は不利に近いところです。」 ジョーイ:「でも、わたしはここを守ります。先代から、両親から引き継いだここを簡単には渡せませんし、 どのような理由であれ、ポケモンたちを傷つける彼らのもとに行けば、傷ついた彼らを放置してしまう事になります。 私にはそれができません!」 しかし、ジョーイさんの熱意に水をさす声がした。 ??:「いい心がけだこと。」 と。 ニシキたちは気づいていなかった。 既にポケモンセンターの地下からスペース団員が侵入を果たし、残っていた数人のトレーナーを倒していた事に。 そしてロビーにいたジョーイ、ジュンサー、ニシキと、数人のトレーナーは瞬く間に囲まれてしまった。 診療所からは何かが壊れる音が響き続ける。 ジョーイ:「やめなさい!私にはポケモンたちの治療をしなくてはならない使命があります!まだ傷ついたポケモンたちが多く 残っているのです!」 ジョーイさんが叫ぶが、目の前にいた大柄な男の幹部、ガントスはその怪我をしたポケモンたちを目の前で攻撃していた。 ガントス:「残念ながら、俺たちスペース団に、弱いポケモンを助けたいと思う心はありませんし、それに価値もないこんな 雑魚を救う気はない。降伏するんだな。」 スペース団員たちはそのようにしてポケモンセンターも、ついに占拠してしまった。 しかも、転送装置も無残に破壊され、エネルギーとなる二つの石、ルビーとサファイアも奪われてしまった。 抵抗していたニシキは利用価値があるとして捕らえられ、ジュンサーとジョーイは他の人々と同じ場所に捕虜として 捕らえられていた。 こうして1の島が完全に占拠されてしまった。 しかし、スペース団はそんな時に、とある民家が妙に賑やかなことに、この場で最も不釣合いな事に気づいていた。 全ての島民を人質にしたはずなのにもかかわらず、その家だけは探したはずなのに人の気配があったのだ。 彼らはガントスを筆頭に、様子を見るためにその家に向かっていった。 それが、彼らの1の島撤退を意味する事になるとは知らずに。 その頃。 4の島からは次々に他の島に向けて船が出ていた。 菜々美:「久々のポケモン世界がこんな決戦とは思わなかったなぁ。」 健人:「CD売れてるようだな。オリコン3位だとか。」 菜々美:「当たり前じゃん。今が旬だよ。あたしは。」 健人:「でもお前は俺にとっては永遠に旬だ。」 そのうちの一つ、1の島に向かう船にはあたしと健人君と、仕事オフの菜々美ちゃんがいた。 あまり会う機会がない上に、携帯のメールもチェックが入ってあまりできず、っていうとんでもない隠密遠距離恋愛の、 高校生とアイドルのカップルである二人がラブってるのは妙に虫が好かない。 でも、我慢するしかないんだけど…。 氷雨:「ゴホン!」 あたしが咳払いをすると、二人はようやくあたしの存在に気づいたかのように離れた。 氷雨:「別にいいわよ。あなたたちの事情は仲間内で全員が暗黙の了解にしてる事だから。」 菜々美:「ごめんなさい。でも、本当に久々なんですよ。」 あたしが気配を消してこの二人が二人っきりという状況になれば、その状況になるのは確かに久々の事だ。 コンサートツアーCDイベントなどで飛び交い、なかなか時間が合わなかったのを聞いているから。 会えたとしても、二人っきりの雰囲気の場所では会えなかったらしいし。 氷雨:「でも、スペース団とのバトルのことは忘れないでよ。」 健人:「ああ。俺はそれは分かってる。ただ、さっきから気になってることだが…」 氷雨:「えっ?」 健人:「あんた、何か企んでないか?」 菜々美:「あ、あたしも思ったよ。」 ふぅ〜、どうやらあたしは甘く見ていたようだ。 この二人も勘が鋭い。 確かにあたしは企んでいる事があった。 既にそれは1の島で実行されているだろう。 氷雨:「分かるんだね。」 菜々美:「分かりますよ。でも、何を企んでるんですか?」 健人:「場合によっては問答無用で敵とみなす。」 氷雨:「悪いけど、あたしは味方よ。それは忘れないで。」 あたしがこの二人に、昔極悪妖怪だった過去を偶然知られちゃったのが最近の事で、それを知ってからこの二人は警戒を繰り返している。 あたしは極悪妖怪とは縁を切ったけど、その時代に付き合ってた馬鹿がたまにあたしを求愛に来て、あの時は健人君が 人質になったのよね。菜々美ちゃんも仕事を無断で休んで週刊誌に叩かれたほどだったし、健人君には命の危険さえ生じた。 だから事情を詳しく知ってるこの二人はあたしがよからぬことを企んでいると読んだらしい。 この二人の反応が普通だと思う。 何故かこのことを双葉から聞いてる蓮華ちゃん、海ちゃん、志穂ちゃんは、それを聞いて逆にあたしをすごいと尊敬してるから。 あたしはバレたと知った時、蓮華ちゃんたちの前から消えようと考えていただけに、面食らった事を覚えてる。 氷雨:「1の島だけど、すでに仲間がたくさん行ってるの。」 菜々美:「仲間?」 氷雨:「ええ、あたしが極悪妖怪をやめて、正義を目指した時に作ったグループね。」 健人:「それで、そのグループが1の島に侵入してるのか?」 氷雨:「そういうこと。みんなヒマだから、久しぶりに悪い奴を脅かしまくるって息巻いてたよ。」 あたしは彼らを侵入させるためにナナシマに向かう前、動き回ったりしていたのだ。 氷雨:「だから、あたし達が到着する前には1の島は解放されてるはずよ、多分。」 菜々美:「そういうことなら安心です。」 健人:「俺もだ。しかし、全部が全部、あんたを信じれるわけじゃない。」 菜々美ちゃんは理解してくれたけど、健人君はあたしと距離を置いて信用を一時したらしかった。 あんなことがあったもの。 しょうがないけど…。 いつかあたしの敵に近い存在になるんじゃないか、健人君は。 前みたいに信用されてるわけじゃなくて、距離を置いた存在になってる。 それに、あたしのことを「あんた」とか「お前」って呼ぶようになったし、あたしと口論する数も増えていた。 そんな時だった。 突然あたしたちのいる船は攻撃を受けていた。 氷雨:「何者だ!」 あたしは攻撃が向かってきた場所に氷の刃を放った。 すると、それはすぐに叩き落されていた。 ??:「分かるようだな。」 あたしたちが見上げる状態になる上空には、幹部服らしき衣装を纏い、半分の仮面をつけた青年が立っていた。 その青年と共にいたのは、ヨガのポーズで浮いた状態のチャーレムと、彼の下に、海面に顔を出すようにして パルシェンがいた。 氷雨:「あなたは何者?」 ??:「俺は4幹部ミアトス様の配下であり、1の島に向かおうとするお前たちを捕らえるために参った。 氷と念のエキスパート、ヒュンレイと言う者だ。おとなしくすればお前たちを傷付ける事はない。どうするか、答えろ!」 氷雨:「…」 菜々美:「…」 あたしはNOだけど、ここは二人の意見も聞かなきゃいけない。 あたしが菜々美ちゃんに目を向けると、菜々美ちゃんはその視線を健人君に送った。 健人:「答えは…」 健人君は一瞬迷っていたが、不意にあたしにしょうがなくっぽく目を向けた後、答えた。 健人:「NOだ。」 直後、船には猛攻撃が開始されていた…。 1の島の一つの民家から賑やかな声がする。 そう知らされたガントスがドアをけり破った。 すると、そこにはお笑いのビデオを見ているおじいさんが一人いるだけだったのだ。 ガントス:「おい、お前はどうしてここにいる!さっさと人質になれ!死にたいのか?」 ガントスが脅すが、目の前にいる老人はそんな事をお構い無しに近くにあった雑誌を読みながら、目の前の寿司を食べ、 ビデオの音量を上げたりと、飄々として、ガントスを無視していた。 流石のガントスもこのおじいさんには唖然としたが、すぐに怒鳴りだし、寿司の乗ったテーブルを蹴り上げた。 ガントス:「てめえ、この爺!いい加減にしろよ!イシツブテ、そこの爺に爆裂パンチだ!」 かなり血が上がったのか、ガントスは近くにある家具を壊したり、壁を蹴り上げたりしながらイシツブテを3体も出し、 お爺さんに攻撃をしようとした。 しかし。 ??:「遅いのう。」 ガントスは驚きのまま固まっていた。 3体のイシツブテの爆裂パンチは振り上げた拳が叩きつけられる瞬間、おじいさんのすぐに折れそうな杖によって 止められていたのだ。 ガントス:「何!?俺は夢を見…ありゃっ?」 いつの間にか、目の前からおじいさんの姿が消えていた。イシツブテも囲んでいたというのに、姿がない。 ??:「誰を探してるのじゃ?」 はっとして振り向くガントスの背後には、ゴースを連れたおじいさんが立っていた。 ??:「わしを捕まえられるわけがないぞ、若造が。」 ガントス:「おい、俺をおちょくってるのか?イシツブテ、その爺を倒せ!」 イシツブテはお爺さんに向かっていくと、ゴースが立ちはだかった。 ??:「ゴース、ナイトヘッドじゃ。」 イシツブテがパンチを繰り出そうとするが、ゴースはそれを受け止めるかのように広がり、そして四散して元の姿に戻っていた。 何度繰り返しても、ノーマルタイプの攻撃は効かない。 逆にパンチして四散させたすぐに、ゴースから放たれる黒い霧のような波動がイシツブテをドンドン撃墜していた。 ??:「さて、どうするんじゃ?」 彼はたかが老人、たかが島民と高をくくり、1の島に仮設した本部から自分のポケモンはイシツブテ3体とコイル一体、 ヨーギラス2体しか持って来ていなかった。 ガントス:「それならこいつらでどうだ!」 ガントスはこのおじいさんとゴースに笑われているようで悔しくなり、残りのポケモンも出した。 が。 コイルは電磁波を放つが、それはゴースの神秘の守りが弾き返し、ヨーギラスの騙まし討ちも守る攻撃が受け止めてしまった。 そして3体とも怪しい光で混乱し、コイルはナイトヘッドで、ヨーギラスはシャドーボールで倒されていた。 ガントス:「何だと!?おい、爺、お前は…どこだ!」 再びあの老人の姿が消えていた。 気づくと背後にいたり、遠くに立っていたり、そこに行くと近くを歩いていたりと、老人を捕まえる事ができずにいた。 ガントス:「てめえ、逃げるな!」 ??:「ほほう、頭に血が上ったようじゃな。その様子ではわしを捕まえる事は不可能じゃろう。 もうちっと、骨のある奴かと思ったが、脳のカケラもない奴じゃな。」 ガントスには、一体どういうことか分からなくなっていた。 体力自慢の自分が、この老人一人を簡単に捕まえられない事に。 しかし、今この島ではガントス以外の団員たちも何が起きたのか分からない状況に陥っていた。 ガントスが民家に入った直後、さっきまで暗かった家が次々に明かりを灯していたのだ。 団員たちはすぐに分かれて民家に入っていった。 その一人が入った家には観葉植物がテーブルの上に置かれているだけだった。 団員:「あれっ?誰かがいたようだったが…気のせいか…」 人の気配を感じたのに人の姿はなく、団員は部屋を後にしようとした。 しかし。 ??:「うふふふ、あたしはちゃんといるよ。」 部屋の中を声が響いたのだ。 団員は部屋の中を荒らすようにして探すが人の姿はなかった。 ??:「馬鹿な人ね。目の前にいるじゃない。」 声は観葉植物の中から聞こえた。 団員:「くそっ、島民の奴ら、俺たちに悪戯でも仕掛けやがったな!」 団員が観葉植物を掴み、引っこ抜こうとした瞬間だった。 彼は突然成長するように伸びた植物の茎に拘束され、葉に口や目を覆われるようにして、意識を失わせられていた。 また他の団員が家に入ると、中には女性の姿があり、彼女は鏡に向かって一心に作業をしていた。 団員:「おい、痛い目を見たくなければおとなしくしろ!」 団員が脅すように言うが、女性はシカトを決め込んでいた。 団員:「おい、こっちを向け!」 団員は女性を自分に振り向かせようとして、肩に手をつけ自分側に引っ張った。 女性:「きゃっ!ちょっと、取り込み中なのに何をするのよ!」 女性はそれでも振り向かなかったが、作業を邪魔されたのか怒った口調で言った。 女性:「あたしの口が大きくなっちゃったじゃない!裂けてる状態は嫌なのに!」 団員:「はぁ?」 団員は鏡を向いたままの女性に唖然としていた。 自分が何を言われているかも分からない。 だが、女性はドンドン団員に対してネチネチした嫌味を並べ立てていた。 流石の団員もこれには切れていた。 団員:「おい、訳の分からんことを言うな!こっちに来るんだ!」 団員は問答無用で女性を振り向かせた。 が、逆に団員は絶句して、腰が抜けていた。 目の前には綺麗な女性がいた。 しかし、「綺麗な」がさすのは顔の上半分だけだった。 女性の右顔半分の口が大きく裂けた状態で、左半分は普通だったのだ。 女性:「あたしの顔、どうしてくれるのかしら?それとも、あなたの顔をくれる?」 団員:「待て、おい!こっちに来るな!」 団員は女性のこの不気味な顔を見て逃げようとしたが、足がすくんで逃げられない。 団員:「キバニア、その変な奴に水鉄砲だ!」 団員はキバニアを出して女性を追い払おうとした。 水鉄砲が女性に当たる。 すると。 女性:「あ〜あ、せっかく書いた顔が…。どうしてくれるのよ!」 女性は怒っていた。 しかしもう、団員は見ていなかった。 いや、驚きと恐怖のあまり、団員も、彼のキバニアでさえも、のっぺらぼうの彼女の姿に意識を失っていたのだ。 女性:「あらら…、骨がないわね。」 他にも団員たちは、笑い声が響き渡るだけの家に入った事で笑いを恐怖に感じたり、突然怖い形相の鬼や天狗が目の前に現れたり、 鏡から出た手に顔を撫でられたり、手を引っ張られたりと、怪現象に遭い、次々にそこから逃げ出したりしていた。 が、ほとんどは気を失っていて、逃げれる状態でもなかったが。 また、民家の中でポケモンの攻撃を受ける者も多かった。 ??:「全く骨がないやつらじゃのう。」 ガントスは混乱していた。 彼の配下は下っ端であってもそこそこの強いレベルにいて、その辺のトレーナーに勝てるくらいわけない団員ばかりだった。 それなのに、家々に入って数分後、血相も変えて逃げ出したり、四つんばいで逃げてきたり、全くでてこなかったりと様々な状態なのだ。 そして自分も目の前の老人を捕まえられないばかりか、老人がどこを逃げてもすっと現れていて、逃げれる状態でもない。 ガントス:「一体…何が…」 ??:「この島から離れるのじゃ。おぬしらはこの島では邪魔なものでしかない。」 ガントス:「うるさい!俺は、俺は最高幹部の一人、ガントス様だぞ!お前のような爺一…」 ガントスは言葉を続けようとしたが、老人に意識が向きすぎて、背後から垂れ下がったものに全く気づいていなく、 何かに顔を覆われて意識を失っていた。 ??:「双葉か。」 双葉:「うん、あたしと天ちゃんでやったのよ。」 老人の前には氷雨の親友の双葉が姿を現していた。そしてその横には、枝から垂れ下がる火の玉のような物体が居た。 双葉:「おじいちゃん、そろそろ島民を助けに行かない?氷雨たちも来る頃だし…」 ??:「そうじゃな。では双葉、他のものたちを呼んでくるのじゃ。」 双葉:「合点承知よ。」 氷雨:「ん…」 健人:「あ、気がついたか?」 あたしが目を覚ますと、あたしは洞窟のような場所で眠っていた。 粉々だった腕も、ひび割れていたはずの体も元に戻ってる…。 力はまだほとんど戻ってないけど…。 焚き火のそばには菜々美ちゃんが眠っていて、健人君が一人で火の番をしていたらしい。 あたしは焚き火からは離れたひんやりした場所に寝かされていた。 氷雨:「ここは?」 健人:「1の島の反対側らしい。俺たちはここに流れ着いた。」 氷雨:「そう…、あれからどれくらい経ったの?」 健人:「半日ほどだな。」 船に猛攻撃を加えられた時のことだった。 ヒュンレイ:「パルシェン、トゲキャノンだ!」 ヒュンレイのパルシェンの猛攻に船のエンジンがやられてしまい、あたしはポワルン(水型)とジュペッタで空中から バトルをすることに決めた。 ジュペッタのシャドーボールはチャーレムを攻撃し、ポワルンも水タイプに水タイプのウェザーボールでけん制していたけど、 なかなか効果は出ない。 健人君はヘルガーを、菜々美ちゃんはバタフリーとクロバットを出してるけど、壊れた船からの戦いは簡単にできるほどではない。 そんな時だった。 健人:「ヘルガー、火炎放射だ!」 火炎放射が海面に顔を出したパルシェンを包み込んだ瞬間、パルシェンは空中に何かを放った。 それがトゲキャノンを5発分圧縮されたものだったと気づいたのは、あたしがそれを諸に受けた直後だった。 氷雨:「きゃあ!」 あたしの弱点は日常生活を可能とし、調理での炎にも耐えられるけど、それでも炎。 だけど、他にも弱点があった。 それは、あたしの核になっている部分への攻撃。 人間の心臓と同じ部分に当たるところを攻撃されると、あたしは粉々に砕け散ってしまう。 イコール、あたしの最後だ。 そしてあたしが受けたのは、無意識でシールドが発動したけどちょうど心臓の部分で、あたしは健人君達のいる場所に落下した。 菜々美:「氷雨さん!…クロバット、嫌な音!バタフリー、超音波よ!ポワルンとジュペッタも霍乱攻撃を出して!」 あたしが覚えているのは菜々美ちゃんがあたしのポワルンたちにも指示を出してチャーレムを撃墜させた事だった。 でも。 ヒュンレイ:「フーディン、スターミー、サイコキネシスでポケモンの自由を奪え。そしてデリバード、プレゼント攻撃で撃ち落すんだ!」 ヒュンレイはあたしがやられたのを見てフーディンとスターミー、デリバードを出して攻撃を開始していた。 船もさらにドンドン沈み始めていたし、あたしや菜々美ちゃんのポケモンも倒されてしまった。 菜々美ちゃんのバタフリーが自分から銀色の風を、あたしのジュペッタがシャドーボールを打ち出したけど、それらは それぞれ自己再生で回復してしまう始末だった。 健人:「これはまずいな。菜々美、ここは逃げるぞ!」 菜々美:「うん、でも氷雨さんを置いていけないよ。」 健人:「しかし…」 健人君は最近の恨みからあたしを真に信用できない状態。過去も知られてるわけだから、あたしを置いて行きたいのが山々だったと思う。 でも、菜々美ちゃんはそれでもあたしを連れて行きたい気持ちで一杯だった。 けれど、攻撃は加えられるばかり。 だからあたしはここで命を尽きてもおかしくないくらいのことをしようと思った。 氷雨:「二人とも…今までありがとう。あたしがここで食い止めるから、ここは逃げて。」 あたしは残ってる妖力で飛翔し、彼らの攻撃を逆に吸収した。 ヒュンレイ:「おや?まだまだ戦える力があったようですね。」 氷雨:「ええ、何百年も生きているあたしを舐めないでくれない?あたしの最大奥義を見せてあげるわ。」 あたしは空気中の水分も、海水も全てに力を注ぎ、吸収した力とあたしの力を融合させて、特大の吹雪と氷の刃を ヒュンレイに送った。 吹雪と氷の刃は普通以上の威力で、流石のヒュンレイも降参したかと思った。 でも、それは甘かった。 あたしが力を出し終え、振り返ると、何故かそこには壊れた船に乗ったままの二人を見つけた。 氷雨:「どうし…」 あたしは尋ねかけようとしたけどできなかった。 海面から飛び出した、鉄の塊に体を打ち付けられ、あたしの意識が消えたからだった。 これで消滅かと思っていたけど、あたしは助けられたようだった。 健人:「奴は変なロボットに乗り、お前を跳ね飛ばした。俺たちはあんたを助けた隙に攻撃を受け、飛ばされてここに来た。 あんたを助けなければ助かったはずだったのに。」 氷雨:「そう…、そんなことを言うならどうしてあたしを助けたの?」 今まであたしのサポートの元、能力をコントロールできるようにして、邪悪な存在に立ち向かったりしてきた健人君だけど、 実はあたしもそうだったという過去、巻き添えになって人質にされ、命さえも消えかけた事への恨み、あたしを信用できない事、 それらがあるのに、健人君は、あたしを助けていた。 あたしは分かるよ、健人君が自分からあたしを助けたって事くらい。 健人:「…菜々美に言われただけだ。あんたを助けるようにな。菜々美に言われなかったらあんたなんかこれっぽっちも助けようとは 思わなかった。」 氷雨:「…それだけ?」 本当は違うはずだけど、ただ、何か、言いたくないだけのこと…。 健人:「それだけだ!お前なんかを助ける気もなかったのに。お前みたいな昔極悪なことしてた癖に、今は正義面してるなんて奴に、 俺が信頼を持ってたこと自体がまちがいなのに…。」 氷雨:「あたしは確かに邪悪な事をやってたよ。でも、あたしはその過去を捨ててはいない。忘れてもいない。 昔やってきたことは今になっても償えない。でも、償えないから何もしないわけじゃないの。あたしは、あたしは 自分のこの力で、昔やってきた過去を改めるために動いてるの。それと、蓮華ちゃんの先祖に言われた事を守ってるの。」 健人:「…」 氷雨:「草鬼は言ってたわ。10回頑張って1回ほめられるだけでも嬉しいって。100回頑張って、1回ほめられてもうれしいって。 あたしたち妖怪は、元々は人間を襲うために生まれたのではないわ。その自然の領域を守り、何かを守るため、助けるために 生まれてきた生物の一人だって。 そして言われたの。今までのことを償う事はできないけど、改めるために、あたしに、不完全な能力者のサポートをするように。 あたしも最初は不思議だったけど、あたしだからできるんだって言われて、頑張ったの。 それで、今のみんながあるの。こんなこといっても、信用したくないなら信用も信頼もいらないよ。 でも、あたしがやってるのは昔やってた極悪非道を捨てたり忘れたりするためじゃないってこと。 あなたにも、他のみんなにも、もう、あたしの昔の過去で傷つく事は絶対にさせないし、しないから。」 あたしはあの事件以来、一度も言えなかった事を言った。 この状況で、耳を塞ごうとすればできたはずなのに、健人君は耳を塞がず、 健人:「見回りに行ってくる。」 と言って、出て行った。 分かってる、理解してるって心では思ってると思う。 多分、思ってても言えないだけ。だから、健人君の想いは全部受け止めるよ。 だって、健人君が能力に目覚めたきっかけは…健人君がつらい経験をした直後だったから…。 あの時すぐにあたしは健人君と会って、新しい両親の元で生活してからでも、あたしを慕っていたし、信頼してたけど、 その信頼していた人が昔は悪い人だったと知ったら、傷ついた分、あたしを信頼しなおすのは難しいもんね。 それから数時間が経った。 菜々美:「氷雨さん。」 気づくと菜々美ちゃんが起きていた。 菜々美:「元気になってよかったよ。ほとんど体中がひび割れてて、もう会えないのかと思ったし。」 氷雨:「もう大丈夫よ。ありがとう、助けてくれて。」 あたしがお礼を言うと、菜々美ちゃんは何かを言いたげだった。 何を言おうと思っているのかは、もう分かってるけど。 菜々美:「さっきの話、あたしも聞いてたよ。」 氷雨:「そう。(やっぱり。起きてたのは知ってたよ。)」 菜々美:「あのね、健人はあたしが頼んだからって言ってたよ。でも、実際は…」 氷雨:「健人君が自分からあたしを助けたんでしょ?」 菜々美:「えっ?…うん、知ってたの?」 氷雨:「知ってるよ。わかってたもの。あたしの周囲に残っていた気持ちのカケラ、あれは、闘の力の波動だったから。 健人君は、心では信頼してくれてるのかもしれないけど、あんなことがあったから、あたしにはっきり言えないのよ。」 菜々美:「そうなんだよね。健人、最近のメールはそればっかりだもの。氷雨さんに何を言えばいいのかって。はっきり謝りたい らしいけど、面と向かうと感情が邪魔して逆にひどいことを言ってしまうって。さっきだって、出かける時の顔、マジ泣きだよ。」 やっぱりね。 泣いてると思ってた。 健人君は、そういう人。 自分の考えを素直に言う人で、誰でも受け止めてくれる強い心の持ち主。 女性能力者のリーダーを来美ちゃんがやるのに対し、男性能力者のリーダーを健人君がやっているだけのことはある。 でも、一度言ってしまった事を否定しようとする事がなかなかできない人だった。 だから、あたしにも言えなかった。 分かってるのよ、全部。 でも、さっきは言いたかった。 いつか、向こうも思ってることを全部はいてくれるためにも。 菜々美:「男ってさ、…不器用だね。」 菜々美ちゃんくらいかな。 健人君の本質を理解してるのは。 氷雨:「そうだよね。」 あたしは、健人君がついさっきから洞窟の前にもどってきているのを知りながら、菜々美ちゃんに賛同した。 さっきから、どうやって入ろうか、悩んでる状態なのが諸感じていたし、菜々美ちゃんも指差すほどだから気づいているのよね。 人間って、男って、本当に不器用に作られてるなぁ。 その時だった。 外で健人君が妙な呻き声を出したのを聞いたのだ。 菜々美:「健人!」 氷雨:「健人君!」 あたしたちが外に出ると、そこには…ヒュンレイが立っていた。 しかも健人君はヒュンレイの横にいるチャーレムの攻撃を受けたらしく、気を失っていた。 ヒュンレイ:「ここにいましたか、探しましたよ。」 氷雨:「健人君に何をしたの?」 ヒュンレイ:「いや、俺はついさっき新しい命令をもらったので、実行したまでです。何故かガントスたちのこの島の 支配状況がうまく行ってないとのことで、俺が代わりにこの島を支配するために来た。そしてその前に、削除し損ねた お前たちの排除に来た。チャーレムのメガトンキックはこの男にうまく効いたようだな。このまま眠り続けてくれるといいが。」 ぷっつん! こんな音をあたしは聞いたような気がした。 菜々美ちゃんが切れた音だった。 菜々美:「許さない…」 ヒュンレイ:「あ、そうか。あんたとこの男、恋人らしいね。今から恋人の元に連れてってやろうか?チャーレム、メガトンキックだ!」 菜々美ちゃんがフラフラとヒュンレイに向かっていく。 あたしはまだ体がしっかり動かなくて駆けつけれないけど、どうなるかは予想ついていた。 チャーレムがメガトンキックを放った直後…。 倒れたのはチャーレムだった。 菜々美ちゃんとチャーレムの間にはマリルリがいて、マリルリはカウンターを放っていたのだ。 ヒュンレイ:「なっ…!ボールを一瞬で出して、指示なしで!?」 菜々美:「あたしを怒らせた恨み、大切な人を殺そうとしたことに対する怒り、もう我慢できない! オドシシ、行くよ!」 菜々美ちゃんはマリルリを戻し、オドシシを出して彼に跨った。 手には特大メガホンがあった。普段の倍ある。 ヒュンレイ:「ふ、ふん!お前なんか怖くない!行くぞ、このパルシェンメカで!」 ヒュンレイも流石に菜々美ちゃんの怒りのオーラを感じたのか、逃げ出すようにメカに入った。 パルシェンメカはそして殻を閉じ、防御を完璧にしていた。 ヒュンレイ:「これでどうだ!」 菜々美:「ばっかみたい。オドシシ、嫌な音よ。」 菜々美ちゃんは持っている特大メガホンをオドシシの角の前に出し、オドシシは角から強力な超音波を出していた。 強力な超音波は、菜々美ちゃんの特大メガホンを通してさらに強力な超音波になり、パルシェンメカを襲った。 どうなるかなんて、見ていてすぐに分かった。 案の定、パルシェンメカの外壁は綺麗に粉々に崩れ去り、内部の本体部分が表に出てしまう状態になっていた。 ヒュンレイ:「何!?超スーパーメタル合金が!?」 菜々美:「あたしを怒らせたからよ。でも、もうあたしが手を出すこともなさそうだし。」 ね?氷雨さん!と振り返る菜々美ちゃん。 そうなのよね。 救援に来たはずのあたしたちのところに、救援が来てくれたんだもの。 そしてそれは、目の前に出てきた。 でっかい亀の体に、人の顔の妖怪が。 ??:「氷雨、ここにいたのか。探したぞ。」 氷雨:「和尚、救援感謝するわよ!それ、何とかしてくれない?」 あたしがパルシェンメカの内部メカを示すと、あたしが和尚と呼んだ妖怪の甲羅に、他の妖怪の、親友の姿が出現した。 双葉:「お安い御用よ!天ちゃん、五徳に木の葉っち!行くよ!」 妖怪「古椿」の双葉は、火の玉のような妖怪「つるべ落とし」の天ちゃん、猫妖怪「五徳猫」の五徳、「木の葉天狗」の 木の葉っちを連れて、内部メカに襲い掛かっていた。 葉っぱの手裏剣が、強力な炎が、鋭い爪が、強い風邪が、一瞬でメカを破壊し、最後には「海和尚」の和尚が首をバットスイングを するかのようにして、そのメカを弾き飛ばしていた。 ヒュンレイ:「くそぉ〜!覚えていろよ!」 ヒュンレイの捨て台詞はとっても古臭かった。 氷雨:「助かったわ。」 菜々美:「ありがとうございます!氷雨さんも一時は消滅しかけてたので今は参戦できなくて。」 双葉:「そうだったの。氷雨、油断したね。」 五徳:「氷雨、さっさと表に戻るぞ。」 木の葉っち:「そうだな、島民にはぬらりの爺さんとけらけらの姉さんが話をつけたから大丈夫だぞ。 あのニシキって奴もナナって奴と連絡取ったら信用したし。」 どうやら、本当にあたしたちが手を出す事もなく、1の島は解放されたようだった。 双葉が言うには、健人君の怪我も島の表側にいるあたしの仲間、妖怪「けらけら女」のけら姉さんが持っている妙薬で 治るらしい。 そんなわけで、あたしたちは1の島に戻った。 ナナ:「そう、そういうことだったのね。」 氷雨:「ええ、ナナちゃん、そっちはどう?みんなの様子は?」 ナナ:「大丈夫よ。それぞれ島を少しずつ解放に向かわせてるわ。蓮華ちゃんたちもついさっき4の島を出たところ。」 氷雨:「そうなの、あたしたちはもう少し1の島にいることにしたから。」 ナナ:「了解しました。」 あたしは島の表側に来たとき、通信機でナナに連絡を取った。 1の島はあたしが連れてきた妖怪仲間によって、スペース団の追い出しが成功し、すっかり解放されていた。 それに、スペース団員の何人かも捕まえたし。 どうやら心底怖い思いをしたようだ。 最近は平和だから、脅かしようがあったのね。 まぁ、彼らは悟りのオバサンに白状させてもらおうかな。 ??:「氷雨、具合はいいのか?」 そんなときにやってきたのは、あたしの仲間の妖怪で、ぬらりひょんのお爺さんだった。 あたしはぬら爺って呼んでいるし、みんなもぬらりの爺さんとか、色々と呼んでいる。 自然に群衆の中に入り、他人なのに知り合いのように振る舞い、誰にも気づかれないうちにその家の食事中などに手をつけ、 お酒を飲んだり食事をしたりしていく、自分勝手な振る舞いなのに、誰にも怒られない、そして気配をさっさと消せる、 妖怪の総大将とか言われているくらいのお爺さん妖怪だ。 あたしも信頼していて、あたしが蓮華ちゃんたち能力者のサポートに行く事にしたとき、代わりにグループのリーダーを やってもらうようにお願いしたほどだった。 氷雨:「ええ、けら姉さんの妙薬で、あたしの力も戻ったわ。」 ぬら爺:「そうか、それはよかった。しかし…わしの相手になった若造はトコトン弱いやつじゃったぞ。」 聞くところによると、ぬら爺が戦ったのは何と幹部のガントスらしい。 でも、気配を消せる上に弱そうに見えて杖を使った剣術、しかも相手からの衝撃を無視できる能力は強力なものだ。 ガントスも相手が悪かったのね。 逃げ出すほどだし、おじいちゃんに散々からかわれたわね。 氷雨:「もう少し、この島を任せてもいい?」 ぬら爺:「おお、わしらでよければな。」 おじいちゃんは口もうまいので、説得能力を活用し、島民に妖怪が受け入れられるように話をつけてもらっている。 島を救ったから受け入れられてもいいくらいだけど。 だからこの事件が片付いてしばらくは、あたしの仲間たちはこの島にいついてもらう事にしていた。 そこに菜々美ちゃんがやってきた。 菜々美:「健人が目をさましたよ。」 あたしが部屋に入ると、健人君はゲッの表情をし、すぐに無愛想な表情に変わり、 健人:「何の用だ?」 と言った。 氷雨:「別に。怪我の具合はどうか、聞きに来ただけよ。」 健人:「なら俺はもういい。あんたなんかが来る必要もないぞ。」 健人君はあたしに出て行くように手を振った。 全く、素直じゃないのね。 氷雨:「分かってるわよ。…いつか素直になりなさいよね。」 あたしが言った時、健人君の表情が変わった。 健人:「あのさ…ごめん。」 はぁ…。 あたしはすぐに分かった。全く、おせっかいなんだから。 氷雨:「オバサン、別に言わせなくてもよかったのに。」 あたしが呼ぶと、健人君の体からは靄のようなものが出て、そして一匹の女性の鬼の姿になった。 彼女は妖怪「さとり」のオバサン。 誰かに憑依して心の奥底に隠している事も白状させる能力があるけど、別に言わせなくてもよかったのよね。 悟り:「ごめんごめん、でもさ、これでいいでしょ?」 オバサンはそう言うと姿を消した。 そして。 振り返ると恨みがましい表情の健人君がいるのだった。 氷雨:「ごめんね。」 健人:「…出てけ。」 健人君は顔を真っ赤にして言った。 謝罪の気持ちを無理やり表に出された事で恥ずかしいのが見て取れた。 あたしは了解して部屋を出た。 それにしても、他の島はどうなったのだろうか。 あたしたちはバトルもほとんどなく、あたしの仲間によって島の解放が終わったけど。   『おまけ』 菜々美:「謝ったんだって?」 氷雨さんに事情を聞いて部屋に入ると、思い出したように真っ赤になる健人。 健人:「…別に。」 恥ずかしいのね。 菜々美:「無理やりでも謝ったならいいじゃない。本当は謝りたかったくせに。」 健人:「…うるさい。」 菜々美:「寡黙で信頼できて、優しくて頼りがいのある先輩の本来の姿は口下手だって知ったら、ファンクラブの女子高生は どうなるかしらね?」 あたしが知らないとでも思ったの? そういう表情で言ってやった。 すると、どうして知ってるのか?というような表情で目をむいていた。 あたし、それくらい知ってるよ。 菜々美:「玲奈先輩と清香先輩が教えてくれた。かなりの数らしいじゃないの。ファンレター貰ったって?」 健人:「…」 あ、黙っちゃった。 まぁ、いいかな。 悟りのオバサンと仲良くなったし、当分は破局しない程度に健人に白状させようかな。