??:「あ〜あ、あたしも行ってみたいなぁ〜」 不意にこんな声が聞こえた。 その声は体育館の横に新しく隣接された体操部の部室から聞こえた。 覗いてみれば、そこには俺の一つ上の先輩でもある彼女がいた。 体操部の彼女は休みでも毎日練習に来ているくらいの努力家だ。 そんな彼女はいつもと違い、さっきの言葉を繰り返し言っていた。 俺は水橋八手(みずばし やつで)。水泳部所属の中学2年であり、一応水関係の能力者でもある。 午前の練習が終わって、故障中を理由に体育館横にある更衣室のシャワーを借りた直後のことだった。 水泳部の試合は、俺は地区予選で敗れてるからないものの、スキルアップをして夏休み中旬に控えてる試合 を目指そうと思っている。 ??:「どこに行きたいんだ?」 窓越しから聞いてみた。 ??:「えっ?…あら、ヤツデじゃん。練習は?」 すると返ってきたのはこんな言葉だった。 彼女の声はすごく大きくてよく通るだけあり、「聞こえてたの?」とは言わなかった。 ヤツデ:「休憩時間中だ。もう昼過ぎだからな。」 ??:「あっそう、そういえばそうよね。」 ヤツデ:「それで、どこに行きたいんだ?」 休みが合い次第、デートに行けるはずだから、どこでも好きな場所に行こうと思っている。 しかし、今回はその予想は大きく外れる事になった。 ??:「ポケモン世界。」 ヤツデ:「えっ?」 ??:「だからポケモンの世界よ。蓮華ちゃんも美香たちも行ってるんだよ。能力者組の中で行ってないのは あたしたちだけじゃん。だから行きたいなぁって思って。いつの間にか雪美先輩もゲート潜ったらしいし。」 ヤツデ:「そうか。…でも、別に行かなくてもいいんじゃないか?」 ??:「そんなことないよ。あたしは能力者の力試しも、トレーナーの腕試しも兼ねて行きたいの!」 予想外だった。 俺は別にどうでもいいけど、彼女はそうじゃなかったんだな。 全く考えてもいなかった。 だが…。 ヤツデ:「…綾香、俺たちはまだ能力者って普通に言えるだけの力はないだろ?」 綾香:「そうだけど、でもポケモントレーナーでもあるんだよ。」 あたしは香西綾香(こうざい あやか)。中学3年で体操部に所属してる。 一応炎の能力者でもあるけど、それはまだ未熟。部活の先輩でもある清香先輩に特訓を受けてはいるけど、 なかなか花開く事はない。 でも、逆に、幼い頃から好きだった体操の方は順調にレベルを上げている。 このまま優勝を目指そうかとも思ってる。 ポケモン世界には行きたいと思ってるけど、年下彼氏のヤツデは全くそういう気がないせいで、考えてなかったみたい。 綾香:「一応ポケモン持ってるし、レベルも清香先輩のおかげで上がってるから、ポケモンバトルをしに向こうに 行ってみたいのよ。ヤツデも海斗先輩が付き合ってくれてるからポケモン強いでしょ?」 ヤツデ:「強いって…先輩たちの中では俺たち最下位だろ。」 それに俺も綾香もポケモンは1匹しか持ってない。 そのポケモンが強いからといっても、弱点を突かれれば負けてしまう。まだその弱点に対抗する方法を考えてないから、 俺としてはまだバトルに踏み切れる余裕はなかった。 綾香:「でも行きたい!いいじゃん、ヤツデは見てるだけでいいよ!ねえ、行こうよ。」 いつものとおりだな、執念深さは。 ヤツデ:「分かった、分かった。今日はそろそろ練習あるからいいだろ?じゃあな。」 綾香は粘り強いと言うより、後に下がらない、執念深いと言う悪い癖がある。 だから適当に切り上げないとあいつはズルズルと言い続けている。 それで適当に切り上げてやり、そのまま昼食も取ってプールに戻った。 まだ昼休みはだいぶある。 せっかくだからこいつも泳がせてやったほうがいいだろうな。 俺はプールにポケモンを出した。 俺の相棒、水・氷タイプのラプラスだ。 普段は海斗先輩の家の近くにある海に放して遊んでやったり、特訓したりしている。 学校のプールには昼休みだけはポケモンを放してよくて、今日に限ってはまだ他の部員たちは戻ってきていないらしい。 だからラプラスと泳ぐかなっと思った。 ヤツデ:「さてと、…気持ちいいか?」 ラプラス:「キュ〜ウ〜!」 ラプラスはすごく気持ち良さそうな声を出していた。 ヤツデ:「そうか。」 そんな時だった。 突然プールの中央にゲートが開いたのは。 ヤツデ:「いきなり何なんだよ!ラプラス、大丈夫だからな!」 俺とラプラスは、プールの水ごと開いたゲートに吸引され、プールサイドに戻ろうとしたがそれもできず、気づけば 一緒に吸い込まれてしまった。 俺はラプラスに抱きつき、こいつを安心させてやる事くらいしかできず、そのまま気を失っていた。 ヤツデ:「分かった、分かった。今日はそろそろ練習あるからいいだろ?じゃあな。」 あたしが熱意を語ろうとする間もなく、ヤツデはそのまま行ってしまった。 いつもそう、あたしが語り始めると、すぐに切り上げてどこかに行ったり、話題を無理やり変えたりしてしまう。 あたしより年下なのに、どういうわけか主導権は向こうが握っている。 幼い訳じゃないのに…、どうしてあたしのことを聞いてくれないのかな? あたしが強引で真っ直ぐ過ぎるからなのかな? 今度、清香先輩に相談してみよう。 綾香:「しょうがないか。もう少しやろうっと!」 あたしはリボン演技をもう少し続けた後、タオルを取りに更衣室に戻った。 そんな時だった。 プールの方で誰かの叫び声が聞こえた。 ヤツデのことを呼ぶ声もある。もしかして、ヤツデに何かあったの? あたしはユニフォームのまま、あたしのバッグを持ってプールに向かおうと思った。 でも、外に出た途端、あたしは何か自分が落下するような感覚を覚えた。 綾香:「あれっ?」 声を上げたときには既に、あたしはゲートに落ちていた。 多分、ポケモン世界に行きたかった想いが、ゲートを開いちゃったのかもしれない。 もしかしたら、ヤツデもゲートを潜ったんじゃないかな。 ナナシマ編 8.意外な珍客!3の島の接戦? その頃。 現実世界でヤツデと綾香に話題に上げられていた海斗と清香はと言えば、離れ離れの状態にいた。 いや、一緒に3の島に向かった晃正と浅香も同じ状況にいた。 3の島にいることは変わらないのだが、4人は動くに動けない状況に陥ってしまっていたのだ。 今から何時間も前。 海斗:「ここが、3の島だよな?」 晃正:「ここのはずっすよ。」 浅香:「でも…何も変わった様子がないですよ。」 清香:「う〜ん、…平和だよね。」 俺たちが3の島に割り振られて来た訳だが、俺も、晃正も、浅香も、清香も困惑していた。 3の島は襲撃を受けたと聞いていたが、全然全くそんな空気ではなく、平和そのものだったのだ。 しかも、俺たちを迎え入れたのはジュンサーさんだった。 ジュンサー:「4の島からいらした方々ですね、3の島を襲撃したスペース団は私たちポケモン警察が鎮圧しましたので ご安心ください。ご足労をおかけしました。お詫びに3の島でごゆっくりしていらしてください。」 俺たちは今まで現実世界で厄介な敵と戦ったりしていたので、もしこれが演技だったら騙される事はないだろう。 しかし、ジュンサーさんも、後ろに控えているポケモン警察の方々も、明らかに演技ではなく、心優しい表情だったので、 俺たちは歓迎されるがまま、ポケモンセンターに落ち着いた。 清香:「これって平和なのかな?」 海斗:「う〜ん、そう考えるべきなのかもな。」 俺たちはその後、街の各所を回ったが、どこにも破壊の後はなく、人々や観光客もみんな笑顔だった。 そのうえ、ポケモン警察の留置所にはスペース団員が放り込まれていて、疲れ切ったりがっくりした、抵抗力のない表情を していた。そして3時間もするうちに、俺たちも平和な空気に感化され、ここはもう大丈夫だと思っていた。 そしてその夜の事。 ナナへの報告も済ませ、ポケモンも返してもらった頃の事。 そろそろ4の島に戻ろうかと言う話をしている時の事だった。 ジョーイ:「あなたたち、これから帰るの?」 清香:「はい、ここは平和なのでもうあたしたちがいなくても大丈夫だと分かったので。」 ジョーイ:「そう、それじゃご餞別にこれでも飲んでいきなさい。」 ジョーイさんは俺たちにトロピカルジュースを振舞ってくれた。 晃正:「あ、どうも…」 浅香:「晃正?どうしたの?」 晃正:「いや、別に。」 晃正の様子がどこかおかしかったが、俺たちはそれを飲み干した。 すると。 ジョーイ:「全部飲んだの、毒入りジュース。」 ジョーイさんがとんでもないことを言い、直後、ジョーイさんの姿はスペース団員に早代わりしていた。 いや、ジョーイさんの服装だけがスペース団のものに代わっていたのだ。 海斗:「!?これは…」 ジョーイ:「スペース団の邪魔になるものはここで始末しなければいけないの。あなたたちが飲んだのは筋肉低下剤よ。 スペース団の特性のもので、一時的にあなたたちの筋肉や神経の力を低下させるの。」 そう言われた時、俺は立てなくなるような気分を感じ、その場に崩れ落ちてしまった。 体が動かないし、立ち上がろうにも手に力が入らない。 だけど、そうじゃない奴が一人だけいた。 唯一飲まなかった晃正だ。 ジョーイ:「あなたは飲まなかったのね。」 晃正:「ああ、残念ながら俺は野性の感があったからな。」 ジョーイ:「でも、もうあなたたちは逃げられないわ。」 ジョーイさんが指を鳴らすと、周囲をスペース団の制服に身を包んだ街の人たちやジュンサーさんたちが取り囲んでいた。 もう逃げる事も不可能だと、俺は最後を覚悟しかけた。 しかし、それを可能に変えたのが浅香だった。 浅香:「それはないです。閃光…」 浅香はこの状態で能力を使い、光の力で俺たちの中の薬を浄化してくれた。 だが、代わりに力尽きたのは浅香だった。 清香:「海斗、ここは逃げるしかないよ。」 海斗:「ああ、形勢を立て直すしかないな。晃正、浅香はお前が連れて行けよ。」 晃正:「分かってます、それくらい。」 俺たちは清香のオムナイトが作り出した砂嵐を使い、その場から何とか逃げ出した。 しかし、逃げる途中で浅香の名前を呼ぶ晃正の絶叫を聞いた。 でも、振り向く間もなく俺はその場を逃げるしかできず、みんなと離れ離れになってしまった。 隠れている時に聞こえた民衆の声から、浅香が捕らえられている事だけは分かったが、俺はどうすることもできない。 逃げる途中で受けた腕の傷がさらに悪化していたから…。 ??:「あっちにはいたか?」 ??:「いや、あっちにはいなかったぞ。向こうはどうだ?」 ??:「桟橋の方も探すべきだろうな。」 捜索が続いてる。 油断していたわけじゃないとは言い切れないくらい、あたしたちは油断していた。 3の島がスペース団の幹部か誰かによって、島民全員が操られているうえ、かなりの人数のスペース団員が変装して 隠れていた。それに気づかなくて、3の島はもう大丈夫と言う言葉を信じ、油断していてポケモンセンターにいた。 ナナにも3の島はもう大丈夫だと知らせてしまっていた。 そして、襲撃を受け、あたしたちは離れ離れになってしまったのだ。 あたしが隠れているのは街の中のホテルの一室。 あたしの力で何とか結界を張り、この場所には誰も目が向かないようにしているけど、それもいつまで持つか分からない。 清香:「海斗たち、大丈夫なのかな…?」 そんな事を思いながら海のほうを見ると、何か流れ星のようなものが海と森に落ちていくのが見えた。 赤色の流星と青色の流星が。 清香:「流星…、なのかしら?何か、とんでもなく嫌な予感がするけど…トゲチック、出てきて。」 あたしは神秘(太古)の能力者であり、化石ポケモン系のポケモンを持ってる。 といっても、手持ちは3匹。 プテラとトゲチックとオムナイトだけ。 今は偵察も兼ねて、トゲチックに周囲を見てきてもらおうと思った。 清香:「お願いね。」 トゲチックが出て行くと、あたしは足の怪我をもう一度見てみた。 あの襲撃で、あたしたちは少なからずどこかに怪我を負ってしまっている。 あたしの場合は足に切り傷を負ってしまい、歩いたり走ったりする事は無理だった。 あたしが太古の能力者じゃなかったら、間違いなく捕まっていたといっても過言ではない。 治癒能力のおかげで少しずつ回復しているけど、完治するのはまだ先の事だと思う。 と、トゲチックが大急ぎで戻ってきた。 そして窓ガラスに石が飛んできて、結界にぶつかって落ちたり、ドアの向こうで声が聞こえたりしていた。 これは間違いなく気づかれた。 清香:「もしかして、ポケモンで偵察しようとするって読まれていたの?」 こうなったらここで結界が壊れるまで動かない方がいいだろう。 抵抗せずに捕まっている方が、安全なのかもしれない。 そんな気がした。 失敗だった。 まさか浅香を捕らえられてしまうとは思わなかった。 俺のミスだった。 ケンタウロスの姿に変わり、そのまま浅香を抱えて逃げていたのに、それなのに…。 攻撃を食らって足を一本傷付けられた時、浅香を飛んできたポケモンたちに奪われてしまった。 何とか地面を能力を具現化して出した斧で砕いてその衝撃をポケモンたちに受けさせてその場を逃れ、 今は森の中に身を潜めているけど、それでも浅香を取り返すことはできなかった。 多分、浅香は自分の能力を使ったものの、自分の中の薬は浄化できていないと思う。 まずは先輩たちを助けたいって浅香は動いてる可能性が高いからだ。 あいつを助ける事ができれば、何とか人々を元に戻す事もできるだろうに、俺と清香先輩で3の島は安全だと ナナさんに言ってるから救援はないし…。 そんな時、近くに流星が落ちるのを見た。 赤い流星が、いや、赤いと言うか燃えているようには見えたけど、あれは…人の形をしてたな。 もしかして…仲間!? 俺はその場所に走り出していた。 その頃。 落ちちゃった。 どこだろう、ここ…。 もしかして、本当にポケモンの世界に来ちゃったのかな? あたしはゲートを潜った後、いきなり空からここまでを隕石のように落ちていた。 その割に燃えた感じがなかったのは、あたしが炎の能力者であるからなのかもしれないけど。 綾香:「う〜ん…あ、何かいた。」 あたしは茂みの中に何かがいたのを見た。 そっと覗き込むと、そこにはケムッソの姿を見つけた。 綾香:「うわぁ、かわいい!」 ケムッソは草を食べていた。 あたしはバッグの中を漁り、空のボールを取り出してケムッソに当ててみた。 すると、ケムッソは中に入っていった。 綾香:「これ…ゲットなのかな?」 支給されているボール5つのうち、空は後3つ。 もし本当にここがポケモンの世界なら、3つのボールにもポケモンを捕まえてみたいな。 それにしても、これからどうしようかな? そう思っていたら、突然目の前に人が現れた。 綾香:「誰!」 思わず身構えた。相手が女性だったらテレポート能力を持ってるなずなちゃんを連想して身構えなかっただろうけど、 今目の前にいたのは男の人だった。 あたしよりも3,4歳年上に見える。 しかも、身構えた理由はもう一つあった。清香先輩に前に教えてもらった悪い組織のコスチュームをつけていたのだ。 綾香:「スペース団…」 ??:「おや?よく知ってるね。その通り、俺はスペース団のベイル。君を迎えに来た。」 綾香:「迎え?あなたたちに知り合いなんかいないけど。」 ベイル:「君にいなくても、俺たちは能力者に用があるんだ。来てくれるよね?」 綾香:「嫌。あたしは初めてここに来たけど、でもそれは楽しみたいから、この世界を。だから嫌よ。」 すると、ベイルはあたしに向かってボールを投げてきた。 出てきたのは虫・鋼タイプのハッサムだった。 ベイル:「怪我をさせたくないんだよね、女性には。でも、嫌がるようなら無理にでも連れて行きたいかな。 ハッサム、頼むよ。」 ハッサムはあたしに近づいてきた。 あたしは咄嗟に両手を前に出し、ハッサムの目の前で猫騙しをした。 両手から出たのは大量の火の粉で、虫・鋼タイプということもあり、ハッサムは顔におもいっきり火の粉を受け、その場に悶絶していた。 ベイル:「何!炎使いか…」 綾香:「まあね。でもあたしのは蛍火の能力者だけど。こんな感じかな。」 あたしは両手に鬼火を出し、あたしの周囲を飛びまわらせた。 鬼火は火の粉をばら撒きながらなのですぐに消えてしまったが。 ベイル:「儚いものだな。そのようだと攻撃はできないようだが。」 綾香:「できないよ、あたしの力では。でも、攻撃以外ならいいかな。」 もう準備はできていた。 綾香:「マグマッグ!」 あたしはパートナーのマグマッグを出し、マグマッグはボールから外の様子を見ていたのでやる事が分かっていたのか、 起き上がったハッサムにオーバーヒートを放っていた。 ベイル:「くそっ、ハッサム、剣の舞で跳ね返せ!」 オーバーヒートは剣の舞で跳ね返されたけど、あたしはもうマグマッグと一緒にその場を離れていた。 だけど。 ベイル:「ハッサム、メタルクローだ!…くそっ、どうしてまだ動くんだ!」 ベイルはハッサムと一緒に攻撃を未だに繰り返していた。 あたしがいないのに、近くの大木に向かい、そしてまた悔しがって他の大木に。 綾香:「バ〜カ。あたしはもうとっくに逃げ延びたのよ!」 離れてからあたしはこっそりと毒づいてやった。 あたしの能力は儚い蛍火を操る事。 でも、その力を使う事で明かりを灯したりできるし、最終的に今のところは陽炎を使って幻覚をみせたりできるのだ。 鬼火を何回か出した事もあり、周囲の空気をさらに暖め、少し木々にも炎を燃え移らせていた事で炎がベイルに催眠術を かけていた。 木々についた炎はすぐに操ってベイルの方に熱い空気として集中させたので火事になることはない。 このままあたしは逃げていこうかと思った。 でも。 いきなりあたしは腕をつかまれた。 つい咄嗟に火の粉を放つが、その明かりによってあたしは誰か判別でき、火の粉を消した。 綾香:「どうしてここに?」 あたしが聞いたけど、 ??:「それはこっちが聞きたいですよ。現実世界にいた先輩がどうしてこっちでベイルと戦っていたんですか?」 逆に聞かれてしまった。 綾香:「ゲートが開いたの。突然だったし、だからこの姿のままよ。」 あたしは体操部のコスチューム、華やかなレオタードのままだった。 綾香:「でも、スペース団は解散したはずじゃなかったの?晃正君。」 あたしはケンタウロスの状態の晃正君に尋ねた。 晃正:「それが、何か復活したんですよ。だから能力としてトレーナーとして間もない先輩とヤツデ以外のメンツが こっちに来てるんですよ。」 綾香:「え、みんないるの?」 晃正:「この島には海斗先輩と清香先輩もどっかにいるはずですよ、後、浅香も…」 綾香:「ん?その様子じゃ…」 何かおかしい。 隠してるって感じがした。 綾香:「何が起きてるの?」 あたしは晃正君からこの事態を聞いた。 捕らえられてるのは浅香ちゃんで、あたしが翻弄してやったのが、この島で団員や洗脳された島民を操っている、二人の 幹部クラスの片割れらしい。 綾香:「なるほどね、それでこの森に隠れていたら、あたしが来ちゃったわけか。」 晃正:「この分だと操られた人々も来るかもしれませんよ。気をつけないと。」 綾香:「分かって…あれっ?青い流星が落ちたのよね?」 晃正:「ええ、海の方角に。」 綾香:「それ、ヤツデかも。」 晃正:「えぇっ!?」 綾香:「だって、プールにもゲートが開いたみたいだから…」 あたしは晃正君が走り出したので、それを追いかけることにした。 チラッと後ろを振り返ると、未だにハッサムが何もない場所に攻撃をして、ベイルが叫んでいるのを目撃するのでした。 そのまたその頃。 ヤツデ:「全く、どこに行けばいいんだよ。」 青い流星が落ちた付近には、ラプラスに乗ったヤツデがいた。 気づいたら海の上。 ラプラスも訳の分からない様子だったが、さらによく分からないのが、変な服を着た人たちがポケモンで俺たちに襲い掛かってきたことだ。 俺の力がこういう力だったおかげで争う事もなく追い払えたからいいけど、全くこの世界は何が起きてるんだか…。 島に近づくのはヤバイと感じて海の上を動き回ってるけど、そろそろラプラスが疲れ始めてる頃だった。 そんな時、ふいにホエルコの姿を見つけた。 乗り心地はべつとして、ちょうどいいかな。 俺は海の上で拾った空のボールを、ラプラスと会話して仲良くなったホエルコに投げた。 ヤツデ:「う〜ん、こんなことでゲットできるんだな。」 俺はホエルコを出し、ホエルコに乗ってラプラスを戻した。 ヤツデ:「それよりも…そこにいるのは誰だ?」 さっきから俺の後をつけている奴がいた。 が。 言葉を間違えたのに気づいたのは出てきてからだった。 ??:「お前さ、俺の能力の波動くらい感じろよな。」 出てきたのは海斗先輩だった。 ヤツデ:「すいません、てっきりまた誰かが襲ってきたのかと思って…」 海斗:「いや。それより、どうしてここにいるんだ?青い流星の正体はお前のようだが…。」 ヤツデ:「実は…」 俺は海斗先輩に事情を話した。 すると、先輩も俺に今の状況を話してくれた。 海斗先輩は腕が悪化した状態で俺のところに来たらしい。 ヤツデ:「どうしたんですか?こんな怪我。これひどいっすね。」 海斗:「しょうがないだろ。ヤツデ、頼む。」 ヤツデ:「分かりました。」 俺の力は攻撃には向かないものの、守るという意味ではうってつけの力だ。 能力属性は「水」を意味するけど、出せるのは「泡」だ。 相手を包み込んだり、泡で怪我を治療したりなどの攻撃補助の能力ができる。 俺は海斗先輩の腕を泡を使ってしっかり治療した。 海斗:「サンキュー。ところで、これからどうするつもりなんだ?」 ヤツデ:「いや、赤い流星に心当たりがあるので、俺も一応参戦しますよ。」 海斗:「足手まといになるなよ。」 ヤツデ:「そこまでへまはしません。」 そうして俺と海斗先輩は、森の近くにいる晃正と綾香と合流した。 が。 俺たちは知らなかったけど、スペース団3の島本部には清香先輩までが、浅香と捕らえられていたのだった。 浅香:「ふぅ〜、ようやく復活ですけど…清香先輩まで捕まるとは思いませんでしたよ。」 清香:「街の中でポケモン使って偵察したのが間違いだったみたいね。」 浅香:「でも、これからどうします?」 あたしと先輩がいるのは牢屋という言葉がそのまま似合う牢屋そのものの場所だった。 そしてスペース団本部には操り洗脳兄弟のバイツだけがいる。 今は外にいるらしいけど、ここは結界が張られているようなもので、あたしの能力も、清香先輩の能力も、ほとんど 真の力が発揮できなかった。 ただ、バイツの片割れのベイルがなかなか帰ってこないらしいけど。 浅香:「赤と青の流星、ですか?」 清香:「そうなのよ。何か思い当たるものがあるでしょ?流星といったら、ゲートを潜って落ちてくるっていうことで。」 浅香:「あ…、そうですね。あたしも先輩もそうだったんですよね。」 清香:「でしょ?それで、向こうに残っているのって言ったら…」 浅香:「ヤツデ君と綾香先輩…」 あたしたちは二人の姿が脳裏に浮かんだ。 攻撃としての力を持たない、能力者仲間の中では珍しい二人だ。 今年の春に力が目覚めたらしく、清香先輩と海斗先輩が二人を指導したって聞くけど、能力が能力だけに、こっちに来て 無事でいるとは考えられない。 ひどい言い方だけど、あの二人はかなり弱いのだ。 浅香:「大丈夫かな…」 清香:「…それにしても、静かよね?」 そういえば気になった。 外の様子を小さな窓から見るけれど、操られた団員がかなりうろついていたわりに、今は静かだし、人の姿もバラツキが出ていた。 そんな時に入ってきたのは、コゲコゲで疲れ切った表情のベイルと、これまた疲れ切った表情で、びしょぬれのバイツだった。 清香:「あたしたちに何か用?」 清香先輩が聞くと、二人は怒ったように言った。 バイツ:「ああ、あの泡を何とかしろ!」 ベイル:「それにあの幻覚娘はどこにいる!」 浅香:「泡に幻覚?先輩、やっぱり流星の正体、あの二人みたいですね。」 清香:「そのようね。それにしても意外ね。あたしたちの中で攻撃力を持たないあの二人があなたたちを翻弄するなんて。 意外中の意外よ。」 あたしたちはつい笑ってしまい、それを聞いてバイツたちは怒り出した。 バイツ:「お前の仲間のせいで泡に閉じ込められた奴らが多い。何とかしろ!泡を割ると海水が飛び出してこの様だ!」 ベイル:「それにあの幻覚娘の炎で俺のポケモンは黒こげだ!」 二人がこれほどまで怒るとは…驚きね。 でも、清香先輩が言った言葉は簡単だった。 清香:「無理よ。あの泡はヤツデ君の意思で割らないと悲惨な事になるし、綾香の陽炎はできるようになったばかりだから、 あたしでもどうにもできないの。」 その時だった。 外で大きな音がしたのは。 海斗:「一斉攻撃開始だ!」 海斗さんの声と共に、攻撃は始まった。 ヤツデ:「ホエルコ、潮吹きだ!必殺、バブルスプラッシュ!」 ヤツデの出した泡がホエルコの潮吹きに乗って広がり、操られた島民たちを包み込んでいく。 晃正:「ケンタロス、威張る攻撃だ!」 海斗:「オーダイル、怖い顔だ!」 それでも襲ってくるポケモンたちはケンタロスの威張る攻撃で混乱し、統率が乱れたところにオーダイルが怖い顔をし、 さらに乱れていく。 綾香:「今よ!マグマッグ、オーバーヒート!」 そして属性関係なくあたしのマグマッグのオーバーヒートがポケモンたちをなぎ払っていった。 晃正:「ヤミカラスは騙まし討ち、ダグドリオは蟻地獄だ!」 海斗:「ドククラゲ、毒針!アメタマは水の波動だ!」 ヤツデの泡は限りなくスペース団員を包み、海斗先輩と晃正君のポケモンが泡に包まれたことでトレーナーを失ったポケモンたちを 攻撃していく。 そしてようやく、スペース団本部が見えてきた。 すると、あたしの目の前にはさっき会ったベイルと、顔がそっくりなバイツが現れた。 ベイル:「先ほどはよくも騙してくれたな!」 綾香:「騙されるのが悪いんでしょ?それでも洗脳兄弟なのかしら?」 ベイル:「うるさい!お前の相手は俺だ!」 バイツ:「それじゃ、俺の相手は…そこの泡男だ!」 あたしとヤツデは突然指名され、海斗先輩たちは他の島民たちに囲まれていた。 ここはやるしかないかな。 綾香:「ケムッソ、お願い!」 あたしはマグマッグを出し続けていた事もあり、ケムッソを出すしかなかった。 そんなあたしに対しベイルは、 ベイル:「新しく捕まえたこいつで試すとするか。お前を一撃で倒してやる!ウツボット!」 相手はウツボットだった。 虫タイプに対して草タイプだけど、この状態だと分が悪い。 でもやる! ベイル:「ウツボット、葉っぱカッターだ!」 綾香:「ケムッソ、かわして!」 ケムッソは葉っぱカッターをかわしていた。命中力が高くても、当たらなければ意味がない。 ベイル:「ならばウツボット、蔓の鞭だ!」 ケムッソは蔓の鞭で縛られてしまった。 綾香:「ケムッソ!?…そうだ、ケムッソ、蔓に毒針!」 ウツボットは毒タイプでもあるけど、蔓に毒が含まれてるわけがないと思い、蔓に毒針を放たせたら、 ウツボットは奇声を上げてケムッソを放り出していた。 ベイル:「何!?ウツボットに毒針が効いただって!?」 綾香:「今よ、ケムッソ、ウツボットに糸を吐く攻撃!」 ケムッソの糸はウツボットが蔓の痛みを感じている間に、ウツボットを雁字搦めにし、動けなくしていた。 ベイル:「ウツボット!くそっ、ならばストライク、やってやれ!」 ベイルはウツボットがやられたのでストライク(ちょっと焦げ目あり)を出してきた。 でも、あたしは動じなかった。 ケムッソが糸に包まれて、別の姿になったのを見たから。 綾香:「マユルド、硬くなる攻撃よ!」 ケムッソから進化したマユルドは硬くなってストライクの切り裂く攻撃を体で受け止めていた。 綾香:「そのまま毒針よ!」 さらに純粋な虫タイプのストライクは逆に毒針を体に受け、倒れていた。 綾香:「油断は禁物!って、マユルド?」 普通は進化はどれくらいの速さなのか分からない。 でも、さっきマユルドになったばかりなのに、再び進化が始まり、あたしのケムッソはドクケイルになっていた。 ベイル:「2段進化を終わらせた、だと!?」 綾香:「そうみたいね。ドクケイル、銀色の風よ!」 ベイルは銀色の風を受け、ストライクとウツボットと共に吹き飛ばされていった。 バイツ:「お前のせいでびしょ濡れになったんだからな!許さないぞ!泡男。」 いきなり泡男と連呼されれば俺でもムカついてしまう。 ただ、俺のポケモンはホエルコもラプラスも疲れ切っていてどうしようかと思いかけた。 だけど、まだもう一匹いた。 ついさっき海岸近くでポケモンをゲットしていたのだ。 弱いからという理由で使わないわけじゃない。 ここは使うしかない! ヤツデ:「俺の名前はヤツデだ!泡男なんて呼ぶな!行ってこい、クラブ!」 俺の出したポケモンは水タイプのクラブだった。 バイツ:「ふん、そんなポケモンで俺に対抗できるわけがない!ヘルガー、行け!」 相手は炎・悪タイプのヘルガーだった。 しかもクラブを見ておいしそうな表情をしていた。 だが、これがクラブの闘争心に火をつけたことには変わりなかった。 バイツ:「ヘルガー、火炎放射で茹で上げるんだ!」 ヘルガーは待ってましたとばかりに火を吐く。 でも。 ヤツデ:「クラブ、硬くなる攻撃で耐えろ!そして泡攻撃だ!」 ヘルガーの炎を耐えたクラブは泡攻撃で反抗した。 ヤツデ:「そのままマッドショットだ!」 クラブは地面に両鋏を振り下ろし、その振動が伝わるようにして地面が盛り上がり、ヘルガーにぶつかった。 ヘルガーはその攻撃で倒れていた。 バイツ:「何!?そんな攻撃で倒されただって!?それならヤミラミ!」 バイツは今度はヤミラミを出してきた。 悪とゴーストタイプだから、ノーマル攻撃は通じない。 厄介だな。 だが、そうでもなかった。 クラブはヘルガーを倒した事で経験値を大量に受けたのか、キングラーに進化していた。 ヤツデ:「ラッキー!キングラー、クラブハンマーだ!」 勝負は楽に終わった。 最後は水の波動でバイツを吹き飛ばすのもわけなかった。 海斗:「ジュゴン、凍える風だ!」 晃正:「ジーランス、岩石封じ!」 俺たちがようやく最後のポケモンを倒した時だった。 バイツとベイルが吹き飛ばされていくのが見えた。 どうやらヤツデと綾香がやっつけたらしいな。 あいつらも成長したな。 海斗:「晃正、後はあの建物だけだぞ。」 晃正:「そうですね。」 俺と晃正は水と大地の力で建物の壁をぶち破った。 すると。 清香:「あ、ようやく助けが来た。海斗、遅いよ!」 浅香:「待ちくたびれました。…さて、あたしの力を解放しようかな。」 浅香が手首や指をポキポキ鳴らしながら出てきたと思えば、彼女の力が解放された。 この時、本当にようやく、全てが解決したのだった。 ナナ:「ふぅ〜ん、それは大変だったね。」 清香:「そうでしょ?でも、もう大丈夫だから。ただ、お願いがあるのよ。」 ナナ:「えっ?何?」 清香:「あのね、ポケモンセンターの機器が故障しちゃって、涼治君の力を借りたいのよ。」 ナナ:「分かったわ。お願いしてみるね。」 そこで電話が切れた。 ようやく3の島が解放された。 あたしや海斗たちにとっては最悪な一日だったけど、新しい仲間の能力者二人の成長も見えて、あたしとしてはよかったと思う。 でも、これからも気が抜けないわね。 ナナと清香が電話中のようだ。 せっかく今度は本当のトロピカルジュースを飲めると思ったのだが、これでは意味がないな。 それにしても、ヤツデは強くなったな。 哲也と涼治の関係もあれならいいんだけど…兄弟と恋が絡むとあそこまで荒れるんだろうな。 まぁ、俺がそこまで心配する事もないだろうけどな。 それにしても晃正やヤツデはどこに行ったんだ? 晃正:「浅香、ここだよな?」 浅香:「うん、ここだよ。絆橋。あたしと晃正の絆がもっと深まるように、渡ろうね!」 晃正:「ああ。」 浅香:「あ、願い事も忘れずにね。ずっと絆が深まるように。」 あたしと晃正の絆はずっと深まるといいな。 浅香をもう少し守れるようになれたらいいかな。 浅香:「願い事、した?」 晃正:「ああ、したよ。」 浅香:「よかった!」 ヤツデ:「ラプラス、ホエルコ、キングラー、これからもよろしくな!」 全く、先輩たちの空気には入っていけないよ。 俺はポケモン3匹と一緒に海を泳いでいた。 ヤツデ:「それにしても、こっちの海は綺麗だな。」 綾香:「ヤツデ!」 ヤツデ:「おう!」 綾香がマグマッグとドクケイルを連れてやってきた。 綾香:「こっちに来れてよかったよね?」 ヤツデ:「ああ。」 綾香はかなり嬉しそうだった。 そりゃそうだよな、念願のポケモン世界に来れたから。 だが。 綾香:「新しい仲間も増えたし、あたし、もう少し楽しもうかな。こんな感じに!…あぁ!」 綾香は飛び上がった拍子に空のボールをおもいっきり投げてしまった。 でも、その時俺たちはミラクルを見た。 ボールが飛んできたキャモメに、走ってきたニドラン♀に、海から飛び出したヒンバスに当たり、ボールに吸い込まれていった。 ヤツデ:「…」 綾香:「…」 俺たちは流石に何も言えないままだった。