??:「男はあたしの美しさを保つためにあるの。それもいい男の命ではないといけない。いい男の命を雪の結晶に変えて、 その雪の結晶を削って作る命の粉を薬として呑まなければ、あたしの美貌は保てないし、あたしはこれ以上綺麗になれないわ。 だから、もっと村を、町を襲いなさい。そして男を連れてくるのよ。」 ??:「ああ、いいぜ。ただし、氷雨、その中にお前の好みに合わない奴がいたらどうするんだ?」 氷雨:「う〜んと、その時は、八つ裂きにして繁華街にでも捨ててきなさいよ。騒ぎが起きたらあたしも駆けつけるから。 久々に繁華街つぶしでもしたい気分ね。今回は、町一つを氷漬けにしてやろうかしら。」 ??:「お前って奴は、日本で最大の雪女も伊達じゃないな。」 氷雨:「そうでしょ?あ、そうだ。奴隷の女が少なくなったし、捕まえないとね。あんたの配下の奴ら使って、使えそうな女も 見繕ってきなさい。綺麗な、何も仕事の出来なさそうな奴よ。そういう奴を苛めるのが一番楽しいんだから。」 番外編 壊れた絆、氷雨の過去 氷雨:「…夢か。」 ずっと前の話だった。 あたしが生まれたのは今から500年前。 他のみんなには300年前ってちょっとサバ読んでるけど。 あたしは昔はとっても残虐な妖怪だった。 雪国で猛威を振るい続けた妖怪たちの邪悪な妖力を集めて器とし、雪と氷によってさらに器を形作り、そして自然の力を 集めて作り上げられて生まれたのが、あたしだった。 あたしはその妖怪の中で棟梁だった雪鬼の教育を受け、日本最強の、炎妖怪さえも倒せ、気温30度にも耐えられるような 普通の人間として暮らす事だって可能な、雪女に育てられた。 そして生まれてから5年経って。 あたしは雪国妖怪の女王となり、そして日本でも最強の妖怪になって、人間たちを襲い続けていた。 歯向かう奴は全て八つ裂きにしてきた。 だけど、そんな暮らしに終止符を打ったのは一匹の鬼だった。 いや、半分は人間だった。 人と鬼の間にできた、草の力を持つ半妖怪の手によってあたしは敗れた。 そして、彼の力によって10年と言う年月はかかったけど、あたしは改心した。 あたしはその時に、善の妖怪仲間に入る事ができ、友達もたくさん作った。 それからあたしは、罪滅ぼしとこれまでの悪事の清算を兼ねて、自分から能力者たちを導く命運に志願した。 あたしはあの時に行った事を忘れてはいない。 この体やこの美貌を手にできた理由が、たくさんの人間たちの命をかけたものでもある事だって。 だから、あたしは自分自身も大切にしているし、それ以上に人間たちの命を守ることに心がけている。 涼治君や健人君みたいに、親に捨てられたり、親を目の前で亡くしたような過去のある子をサポートする事も大切だ。 命を粗末にしてはいけないって、あたしが導くためにも。 それにしても、あの時にあたしが足に使ってた妖怪、雪狼のキバはどうしてるかな? 蓮華ちゃんのお爺さんに当たる草鬼によってあいつらは倒されたけど、妖怪は倒されたら、死んだら妖怪の世界に旅立ち、 長い時間をかけて復活するまでの時間を妖怪の世界で過ごすだけなのだ。 どんな世界なのかは行った事がないから分からない。 でも、あれからちょうど500年経つのよね。 嫌な事が起きなきゃいいけど。 その頃、とある雪国の洞窟で、雪狼は復活していた。 キバ:「ようやく500年経ったか。俺が最初だな、雪狼一族の中で。あの鬼による封印が説けたわけだ。」 しかも現代の様子を他の妖怪から聞き、現代世界に浸透した姿として、蘇っていたのだった。 キバ:「それにしても、氷雨はどうしたのだろうか。氷雨のために再び、俺は彼女の好みに会う男を捜し、 そして俺の術で、氷雨の美貌をより美しくしなければ。」 健人:「今日は久々のオフだな。」 菜々美:「うん、でもね、昼から仕事が入っちゃったの。ゴメンね。」 健人:「しょうがないさ、菜々美はようやく夢が叶っただろ?俺はずっと応援してやるからな。」 部活が滅多にない休みとなった今日、久々に菜々美のオフと重なり、俺は菜々美とデートをしていた。 いつもそれは夢のまた夢になる事が多いが、俺は菜々美が夢を叶えたと知っている以上、応援してやろうと思っていた。 菜々美:「ありがとう、健人。今日はさ、ここに行かない?」 健人:「占いか、いいな。」 菜々美:「よく当たるんだって。あたしたちの運勢を占ってもらおうよ。ずっと一緒にいられるはずだけどね。」 健人:「ああ。」 菜々美が雑誌で見つけたその占い師は、裏通りの一角にいた。 菜々美:「すいません、あたしたちの運勢占ってください!」 占い師:「はいはい…」 その占い師に菜々美は元気よくかけていき、俺はその様子を見守りながら、占い師の話を聞いていた。 だが。 占い師の言った言葉におれたちは嫌な予感を覚えた。 占い師:「あなたたちの相性は抜群だと出ています。でも、あなた方、特に彼氏さんの方に悪い気が出ています。」 健人:「えっ?どういうことですか?」 普段は占いをあまり信じない俺だけど、今日に限っては気になった。 占い師:「もう少し詳しく見てみましょうか、そうですね。あなたたちは今日という日を無事に過ごし終えれば、 その相性は今後もよいまま続くと出ています。 そして、彼氏さんの方には、今日この日、トラブルに会う確率が高いですが、それを乗り越えれば大丈夫だと出ています。」 菜々美:「トラブル?」 占い師:「ええ、でもどのようなものかは分かりません。キーワードと思われるものが出ているだけですが、 言った方がよろしいですか?」 健人:「お願いします。」 占い師:「分かりました。詳しくお伝えしましょう。あなたは氷に関するトラブルに遭い、信頼と絆を破壊される出来事に 遭遇するでしょう。しかし、信じる気持ちを忘れなければそのトラブルは回避されるはずです。」 俺たちは、来た時とは逆の気持ちでそこを後にした。 菜々美:「健人、気にしない方がいいよ。占いだって色々あるじゃん。」 健人:「ああ、そうだよな。」 菜々美には明るく言えるけど、実際は結構気になっていた。 氷と信頼で思い当たるのは一人しかいないけど、その人との絆が壊れるって一体…。 それに菜々美には黙っていたことがあった。 昨日買った雑誌の占いが気になっていたのだ。 さっきも言ったが、俺は元々占いを信じない質だ。 だけど、さっきといい、あの雑誌といい、今回だけは妙に気になった。 あの雑誌に書いてあったこと…「信頼している人との縁がなくなります」…って、どんなことなのだろうか。 菜々美:「健人?」 健人:「あ、ああ、ゴメン。菜々美、何だ?」 菜々美:「もう、しっかりしてよね。カラオケで気分を晴らさないかって言ったの。行かない?」 健人:「そうだな。」 菜々美:「じゃあ、決ま…あっ、氷雨さんだ!」 健人:「えっ?」 菜々美が言った方をみると、そこには氷雨さんがいた。 誰か連れがいるようだった。ワイルドな感じの氷雨さんと親しそうな表情の男の人だった。 菜々美:「ねえ、追いかけてみない?」 健人:「よせよ、菜々美、氷雨さんにだって見られたくないことの一つや二つあるだろ。」 菜々美:「いいじゃん、それにあたしたち、氷雨さんの私生活とかあまり知らないんだよ。」 菜々美は、あの占いのことをすっかり忘れた様子で氷雨さんたちを尾行始めた。 ハァ…。 健人:「しょうがないな。」 俺はしょうがなく後をついていった。 キバ:「お前が善の妖怪か、会っても想像できないな。」 誰かがたずねてきたと思えば、キバだった。 あたしの姿に驚き、そして無理やり外に連れ出されて一言。 キバ:「昔みたいに人間を襲ってお前の美貌を高めさせてくれよな。」 だった。 だからあたしは今時分は改心していて、どうなっているかを話した。 氷雨:「別に。もうあなたとの縁も切れてるし。」 でも、なかなかキバは同意しようとしなかった。 キバ:「きついこと言うなよ、俺たち仲間だろ?俺はお前のためにやりたいんだ。」 氷雨:「嫌よ。あたしはもう、悪い人間以外は傷つけないって決めたから。昔やってたことからは足を洗ったの。 だから、あなたともここでお別れ。」 あたしはこのまま歩き出そうとした。 でも。 キバ:「氷雨、お前がどう言ってもさ、俺の気持ちは変わらないし、どんなに変わっても、お前は昔行ったことを 償う事は無理だ。俺が元の、昔の極悪雪女に戻してやるよ。」 キバはそう言って、雪狼の姿に変わった。 氷雨:「キバ!やめて!」 キバ:「嫌だね、そこに隠れてる奴、お前だ!」 キバはさっき通り過ぎた看板に体当たりして、そこにいた人を捕まえていた。 氷雨:「健人君!?菜々美ちゃんまで…」 キバ:「何だ、知り合いか。まぁ、いいや。氷雨、俺の考えは変わらない。こいつを助けたければ、俺を探し出すんだな。 まぁ、その前に俺がこいつをお前のためのものに変えてやるよ。」 キバは、健人君を連れたまま吹雪と共に姿を消した。 菜々美:「…健人…、氷雨さん、どういうことなの?氷雨さん!」 氷雨:「…というわけよ。」 場所を変えて、あたしはあたしの過去を知っている海ちゃん、蓮華ちゃん、志穂ちゃん、そして妹分の古椿も呼んで、 菜々美ちゃんに過去を打ち明けた。 菜々美:「氷雨さんが…極悪妖怪だった…あたしたちを導くのは嘘だったわけ?」 氷雨:「いいえ、あたしは改心してるわ。蓮華ちゃんのお爺さんによって10年かけて改心したの。」 菜々美:「それじゃ、どうして健人が?」 志穂:「氷雨さんが昔やっていたことを再び行おうとしているって事でしょ?」 氷雨:「ええ、あいつはあたしを極悪妖怪に戻そうとしているわ。」 蓮華:「それじゃ、探さなきゃいけないですね。アゲハたちの力も借りようかな。」 菜々美:「…氷雨さん、信じていいんだよね?」 氷雨:「ええ。」 蓮華:「菜々美…」 菜々美:「あたし、信じなきゃいけないのは分かってるけど、氷雨さんを信じられない気持ちでもあるの。 健人はあたしが探すわ。氷雨さんは手を出さないで。」 菜々美ちゃんはあたしに言うと、その場を後にした。 古椿:「アレが普通の人の感覚なのよね、この3人は何故か、この過去を知って氷雨を尊敬したけどさ、普通だったらあんな感じに なるもんよね。」 志穂:「それってあたしたちが普通じゃないみたいに聞こえるけど?」 古椿:「だってそうじゃん。…まぁ、あたしもみんなに声をかけてくるね。」 氷雨:「お願いするわ。」 その頃。 雪狼のキバはとあるビルに術をかけ、そこの大きな倉庫らしき部屋に、たくさんの若い男を閉じ込めていた。 だが、そこには健人を入れていなかった。 健人は、別室でキバの術をかけられていたのだ。 キバ:「これでもか?さっさと術にかかれ!」 健人:「誰がかかるか!」 だが、健人の場合、精神力が人一倍強いために、まったくかかりそうになかった。 キバ:「そうか。でも、そんなふうに張り付けになっていれば動くのは無理だろう?」 健人:「どうかな!」 健人は軽々と手足の拘束を引きちぎっていた。 キバ:「何!?…そうか、能力者か。」 健人:「ああ、他の人たちも解放させるぞ。」 キバ:「そうはいくか!氷雨のためにやるんだ、お前には手を出させない!」 健人:「氷雨さんのため?」 キバ:「そういえば、お前はあいつの知り合いだったな。よし、お前には教えてやるよ。あいつの過去をな。」 健人はキバから彼女の過去を聞いた。 健人:「…」 そして、氷雨に対して持っていた信頼が崩れていった。 健人は両親を目の前で亡くし、失意のどん底にいたところを氷雨に助けられていた。 そして、新しい親と出会う前まで、彼女に優しく育てられてきた。 そんな彼女が実は、極悪だった過去がある事は、健人にはショック以上のものだった。 健人:「氷雨さんが…アレだけ信じていたのに…」 キバ:「今ならかかるな。必殺、雪固め!」 健人:「何!」 健人は不意を突かれていた。 氷雨のことを考えているうちに、雪狼によって健人の時間が凍りついたのだ。 キバ:「さてと仕事にかかるかな。まずはこいつの命を貰おうか。魂は…」 キバは健人の体に空間を開き、魂と思われる物体を引き抜いた。 すると、健人の体は時間が止まった状態だと言うのに倒れていった。 キバ:「そうだ、もしこいつが助けられても、氷雨と敵対するようにしてやれば、さらにおいしくなりそうだ。 妖怪を憎む奴の命の粉が、一番美貌をさらに高めるんだよな。この魂に、俺の邪悪のカケラを刷り込ませて…」 その時だった。 とてつもない音と共にドアが吹っ飛んだのは。 キバ:「うひょっ!」 その拍子にキバは健人に魂を戻し、時間を戻していた。 健人:「ん…、菜々美!」 菜々美:「助けに来たよ、健人!バタフリー、超音波!マリルリ、ハイパーボイスよ!」 菜々美とポケモンの攻撃が雪狼の体を崩していく。 しかし、雪狼は健人を捕まえ、人質に取っていた。 雪狼:「待ちな。こいつの命が愛しくないのか?」 健人:「くっ…菜々美、気にしないでやれ!」 菜々美:「そんな…できないよ。」 菜々美は攻撃を放つ事ができなかった。 だが。 氷雨:「さようなら、キバ。」 突然現われた氷雨の氷柱の攻撃が、キバの頭と、核となっている部分を貫き、キバを消滅させていた。 氷雨の攻撃が数ミリずれていたら、健人を貫いてもおかしくなかったが。 氷雨:「二人とも、大丈夫?」 氷雨は二人に駆け寄ろうとしていた。 すると。 健人:「来るな、化け物。」 氷雨:「えっ…」 健人:「俺は、おまえをもう許さない。俺の前に姿を現すなよ。」 健人は氷雨を睨みつけ、出て行った。 菜々美も氷雨とは視線を合わせないままだった。 そして、氷雨と健人の絆は崩れたのだった。 菜々美:「…っていうわけなのよ。」 ナナ:「ふぅ〜ん、それで今に至るのね。」 菜々美:「ええ。」 あたしは1の島の事件が解決した直後にやってきたナナに、二人の状況を話していた。 あたしはようやく氷雨さんを信頼してもいいと思えてきたけど、健人の姿勢は動かないままだった。 大丈夫かと思っていた。 多少は絆も元に戻りかけたかなと思っていた。 でも、健人は何故か、氷雨さんを避けていた。 そしてすれ違おうとした時も、回り道をしたり、手が触れたら氷雨さんに対してすごく怒りを見せていたりしている。 どうしてなのか、あたしも分からない。 健人、あたし、健人を信じていいのか、分からないよ。 おかしい。 氷雨さんを再び信じてもいい。 そう思いかけていたけど、おせっかいの妖怪や菜々美の言葉にも耳を傾けていたけど、 何故か氷雨さんに遭うと、氷雨さんが憎くなってくる。 俺はやっぱり氷雨さんとは絆を取り戻すべきじゃないのかもしれない。 誰も知らなかった。 まだ妖怪の妖術が消えていない事を。 健人にかけられた、氷雨を憎しむ術が、健人の心の奥底にかけられていることを。 そしてそれは、再び更なる大きな闇を生み出そうとしている事にも。