輝治:「渚は俺に一途だったから、俺の分までしっかり生きてくれよ。3度も俺と、俺の死に目と会って悲しんだ分、 強く生きてくれよ。俺は、お前と最後まで一緒にいられて本当によかったからな。」 今でも忘れてない、輝治があたしを助けるために自分を犠牲にしたときに言った言葉。 一部分、双葉さんと大河によって失わされていたけれど、あたしはこの言葉があったから、今までコーディネーターとして 頑張る事ができた。そんな時にかかってきた電話によって、あたしは思い出した。 そして今、ここにいる。 あたしは美香ちゃん達、能力者の人たちとは違って普通の人間だけど、でも、輝治を元に戻したい気持ちは人一倍強いよ。 だって、あたしは輝治が好きだから。 人を好きな気持ちは、きっと人を救う事ができるって聞いたから、あたしはこの気持ちを貫いてみせる! ナナシマ編 15.愛の力!恋人を想う気持ち、そして別れ… そんなあたしと一緒にいるのは、ストールっていう銀髪のトレーナーだった。 ていうか、あたしが同行を頼んだんだけど…。 実はこういう理由があった。 氷雨:「それじゃストールは誰と組む?」 雪女の氷雨さんが一人か二人に分けていたときだった。 ストールの名前を聞いたほかの人たちは何故か避けるように後ずさったのだ。 ストール:「氷雨さん、いいよ。俺は一人でいい。嫌われてるのは知ってるからさ。」 彼の能力は「盗」という、人の能力を盗む事のできる力らしく、それが関係してるのか、彼と交流のある蓮華ちゃんたちも 今回は避けたいらしかった。 ストール:「別にいいんだ。」 彼は開き直っていたけど、あたしは何となく、この空気が嫌だった。 だから。 渚:「あたしと一緒に来て。」 あたしは言い放ったのだった。 ストール:「大丈夫か?疲れたら言えよ。」 あたしが木の根っこに足を取られかけたら、ストールはすぐに助けてくれた。 何だか雰囲気が輝治と似てる気がした。 渚:「大丈夫よ、ありがとう。」 ストール:「それは俺が言いたいな。俺に同行を頼んでくれただろ?俺、ナナやプラウマ以外に認められたこと少ないからさ。 さっきみたいに言ってくれて嬉しかったんだ。」 渚:「そうなの…。あたしは何か、あの空気が嫌だったんだ。」 ストール:「そうか。」 その時だった。 ストール:「来たぞ。」 あたしが顔を見上げると、そこにはカイリュウに乗った団員がいた。 ??:「侵入者はそこにいたのか。今からカイリュウで倒してやるからな。動くなよ。」 仮面をつけているし、衣装は団員のコスチュームだけど、声ですぐに分かった。 渚:「輝治だ…」 ストール:「あいつがか。」 渚:「うん。何とかしなきゃ…」 その直後だった。 カイリュウの破壊光線が問答無用に降り注いできたのだった。 ストール:「くそっ、こうなったらやるしかないな。ゴローニャ、硬くなる攻撃だ!」 破壊光線の乱射に対抗できる場所はここにはない。 そのためか、ストールは防御力の高いゴローニャで壁を作り、一時避難場所にしたみたいだった。 リューク:「ゴローニャの壁か…、それならカイリュウ、水の波動だ!」 でも、リュークは一応輝治なのだ。 輝治は元ポケモンリーグの優勝者だから、ゴローニャの壁はあまり意味がなかった。 ストール:「やばい、ゴローニャもどれ!」 寸でのところでゴローニャは戻されたけど、相手は空にいるカイリュウで、あたしの持ってるポケモンたちでは地上にいないと 対抗はできない。 渚:「カイリュウが飛べなかったら、何とかできるかもしれないけど…」 ついありえないことを言ってしまった。 でも。 ストール:「…それならいいんだよな?」 ストールは何かを思いついたらしかった。 渚:「う、うん…。あたしの持ってるポケモンは6匹いるけど、全員進化前と進化後の同じポケモンたちよ。 でも、陸上戦でならこの子達でも戦えるから。」 ストール:「そうか。…だったら、ここで待っていてくれよ。絶対に出てくるなよ。」 渚:「分かったわ。」 ストールは何かをするつもりだ。 それが彼の能力に関係しているのはすぐに予想できるけど、何をしようというのかは分からない。 と、彼はポケギアを出した。 ストール:「…、よぉ、終わったか?…そっか。それじゃちょっと待ってくれよ。…分かってるよ、一回使ったらすぐに解放する。 俺は二つ以上の能力を体に入れられないんだ。…ああ、それじゃ。」 そしてどこかにかけ、かけ終わった直後、ストールはカイリュウとリュークの前に出て行った。 リューク:「死にに来たのか?」 ストール:「いいや、ちょっとな。」 リューク:「何かをする気だな!カイリュウ、破壊光線だ!」 ストールに向かって破壊光線が発射された。 渚:「危ない!」 あたしはつい叫び、駆け寄りかけたけど、目の前の光景を見て足が止まった。 ストールの片手から放出された突風が破壊光線の軌道を大きく変えたのだ。 そして同時に突風を受けてカイリュウも墜落を始めていた。 リューク:「カイリュウ、墜落するな!体勢を整えろ!」 リュークが叫ぶけど、カイリュウはなかなか体勢を整えられずにいた。 ストール:「さてと、フシギソウ、出て来い!カイリュウに蔓の鞭だ!」 そこをストールのフシギソウが蔓で絡めとり、カイリュウの墜落を防ぐと同時に動きを封じていた。 すると、ストールは、カイリュウにおもいっきり抱きついたのだった。 リューク:「おい、何をしてるんだ!」 ストール:「別に。フシギソウ、戻れよ。」 ストールはフシギソウをボールに戻し、戻ってきてから言った。 ストール:「これで直接戦えるな。」 リューク:「何を言っているんだ?しかも自分でカイリュウの墜落を招き、それを防ぐなど、お前が自殺行為をしているようにしか 思えないぞ。」 あたしもそう思った。 でも、カイリュウの様子がおかしかった。 羽を動かしてジャンプをして、飛ぼうとしているのに全く飛べずにいたのだ。 リューク:「カイリュウ、どうしたんだ!」 ストール:「残念だけど、こういうことさ。俺はカイリュウに抱きついた時、そいつから飛行の属性を盗んだからな。 俺が戻そうと思わない限り、そいつの羽は飾り同然なのさ。飛ぶ事も無理ってわけだ。」 ストールの言葉にリュークは唖然としていた。 あたしもだった。 これが彼の力…。 確かに、あたしが能力者だったら避けちゃうかも…。 渚:「それじゃ、あたしもやろうかな。」 あたしはストールの横に立った。 すると。 リューク:「お前は能力者ではないクチバのトレーナーだな。」 いきなり言われた。 渚:「そうだけど?何か用?」 あたしが聞き返したら、リュークはとんでもないことを言った。 リューク:「俺はお前が憎い。お前を憎く感じる。だからここでお前を殺す。」 と。 渚:「嘘…」 ストール:「渚ちゃん、気にするな。洗脳を受けると自分の中で最も大切にしている人や親友をその逆で、一番嫌いな人だと 思わせられるらしいからな。」 渚:「うん、でも…」 やっぱり彼氏に言われるとへこむ気がした。 ストール:「気にするな。言わされてるあいつの方が心のそこでは傷ついてんだぞ。それを助けられるのはお前だけなんだ!」 渚:「えっ…」 ストール:「伝えたくてもお前に自分のことを伝えられずに悪事に手を染めてしまったあいつを助けられるのはお前だけなんだ! お前がへこんでたら何もできないぞ!」 あたしは突然の、ストールの怒りの言葉に目が覚めた気がした。 へこんでいた気持ちが吹っ切れた気がした。 渚:「分かった、あたしが行く!リューク、勝負よ!」 リューク:「ふっ、自分から消されに来るとは愚かな奴だな。」 渚:「消されないわ!みんな、あたしに力を貸して!」 あたしは正々堂々と言う言葉は既に頭から削除していた。 スペース団と戦うのに、正々堂々は必要ないと。 渚:「ぷっくん、ぷっちゃん、プーラン、プールン、ププリ、ププル!みんな、行くよ!」 あたしのボールから出てきたのは、プクリン、プリン、ププリンの♂♀たちだった。 リューク:「そんなポケモンでカイリュウが倒せるのか?馬鹿な奴だ。」 渚:「倒せるわ!あたしの通り名は風船使いの渚よ!ぷっくん、ぷっちゃん、吹雪よ!」 プクリンのぷっくんとぷっちゃんが吹雪を放ち、 渚:「プーラン、プールン、ハイパーボイス!」 プリンのプーランとプールンがハイパーボイスで吹雪をさらに拡散させ、 渚:「ププリ、ププル、天使のキッスよ!」 ププリンのププリとププルがそれらに天使のキッスを放った。 ハートの飛び交う吹雪の嵐、これはいつもならプクリンのぷっちゃんと一緒にコンテストでやる技だった。 それが今回はパワーアップして、飛べないカイリュウに襲い掛かったのだった。 リューク:「くっ、カイリュウをよくも!」 流石にこの攻撃をカイリュウは避けられず、まともに受けてその場に倒れた。 そしてリュークは、あたしに飛びかかってきた。 大事なポケモンを倒されたから怒ったのだ。 でも、あたしは逃げなかった。 リューク:「よくも俺のポケモンを倒したな!俺の相棒を!」 リュークはあたしを押し倒し、上に乗って、手を首にかけた。 でも、あたしは抵抗しなかった。 だって、リュークが、輝治があたしを本当に殺せないと思ったから。 リューク:「お前、何故逃げないんだ!」 渚:「逃げるわけないわ。あたしは絶対あなたに殺されないって分かってるから。」 リューク:「そんなことはない!今からこの手で…」 リュークは手に力をかけようとしていた。 でも、あたしのまっすぐな眼を見てから、なかなか行動に移す事ができずにいた。 そればかりか、あたしの顔を見て、そして今度はあたしから離れ、頭を抱えだしていた。 リューク:「何故だ!何故俺はお前を殺せないんだ!」 渚:「殺せないわよ、あなたはあたしを心から憎んでないから。」 リューク:「そんなことはない!お前が憎くてしょうがないんだ!」 渚:「そう?あたしは、あなたの事が大好きだよ。」 あたしはリュークに飛びついた。 リューク:「なっ、…よせ!」 そして仮面を外し、じっとリュークの、輝治の顔を見た。 輝治は何故か、あの時別れた時から全く成長していなかった。 でも、嬉しかった。 輝治が本当に生きていた事を、本当に実感できたから。 だから…、嬉しくてあたしは泣き出していた。 リューク:「何で…泣いてるんだよ…何…」 渚:「輝治、あたしはずっと忘れなかったよ。あなたのことをずっとずっと忘れなかったよ。会えてよかったよ、輝治!」 リューク:「違う…俺は…リュー…」 渚:「あなたは輝治だよ、思い出して。あたしの恋人で、優しくて頼もしくて、思いやりのある人だよ。」 リューク:「俺は…」 この時あたしは知らなかった。見ていなかった。 輝治の体から、黒いモヤのようなものが抜けていく様子を。 ずっと輝治の顔をまっすぐに見ていた。 少しも目をそらさず、じっと輝治の目を見ていた。 そして黒いモヤが抜け切った時、輝治は倒れ、気を失った。 輝治:「渚…ありがとう…」 という言葉を言ってから…。 渚:「輝治…よかった…」 終わったようだ、輝治って奴に戻ったようだな。 愛の力は最強だってことだ。 ここには蓮華や他の能力者がいない。 俺の能力では奴を戻す事ができないが、渚は能力者でもないのに、あの彼を元に戻していた。 ストール:「愛の力か…、あの人が言ってたことは本当だったな。」 それは数日前だった。 俺がホウエンから一時、カントウに戻ろうとしていた時だった。 トウカジムのジム戦を終えた日だった。 ポケモンセンターで俺は、俺のことをじっと見ている人に出会った。 ストール:「どうして俺のことを見てるんだ?」 気になって聞いてみた。 すると。 ??:「君は、愛の力を信じるか?」 と言われたのだ。 俺にはよく分からなかった。 ストール:「どういうことだ?」 ??:「いや、別に。君の様子が気になってね、ちょっと尋ねてみたんだ。君は、普通の人間じゃないね。」 俺は目を見張った。 そしてすぐに行動に移していた。 ストール:「お前、何者だ?」 他の人から見たら、ただじゃれてるようにしか見えないが、俺は笑顔とは裏腹に低い声を出していたし、 手も人間の急所とされるつぼにかかっていた。 ??:「僕か?僕はヒロ。オオタチ使いのヒロって呼ばれてるよ。君、能力者だね。ナナから聞いてるからね。」 ナナ…。 俺は手を戻した。 ストール:「あんた、ナナの知り合いかよ。ってことは、俺のことも知ってるんだな?」 ヒロ:「ああ、僕は全てナナから聞いているよ。ストール君、愛の力が実際にあると信じるかな?」 ストール:「いや。」 俺はまだそれを見た事がなかったから、それを否定した。 ヒロ:「それは残念だな。しかし、これだけは教えておくよ。愛の力は能力者の力ではなく、大切な人を護りたい心から 生まれる力なんだ。その力には、どんな力も勝てないよ。それを君は覚えておいたらいいよ。」 ヒロさんは、そう言うとそのポケモンセンターを去っていった。 その時にフシギダネを俺に預けていった。 『君ならこいつを強く育てられそうだと思うから、こいつを君に託すよ。俺にはやらなければいけない事があるからさ。 そしてもう一つ、ストール、君は自分自身がもう一人いたらどうするか、考えた事があるかな?真に強いトレーナーは、 自分がもう一人いても、自分を敵として見ず、自分を友達として見られるトレーナーを言うんだ。忘れるなよ。 それじゃ、いつかどこかでまた会おう。  ヒロ』 という手紙を残して。 ストール:「あの人はこのことを知っていたのかな?それにしても、愛の力はすごいな。」 さて、俺はこの二人を守ると共に、カイリュウに飛行の属性を返してやろうかな? さっき黒いモヤが消えた時、カイリュウからも黒いモヤが飛び出していったから、多分大丈夫だろうな。 出会いは偶然だった。 あたしが久々に泳ぎに行ったプールに、彼がいたのだ。 彼はかっこよくて、周囲には女の子が一杯いて、遊び人かなって第一印象を持っていた。 でも、あたしが泳ぎ始めて数分後、気づいたら彼はあたしの隣で、あたしに合わせて泳いでいた。 来美:「何か用?」 ??:「いや、泳ぎがうまいなって思ってさ。俺と競争でもしないか?」 プールサイドを振り返ってみると、いつの間にかプールにはあたしと彼しかいなかった。 来美:「かわいそうな子達ね、あたしと泳ぐために帰されるなんて。」 ??:「いや、彼女たちは同意してくれたよ。だからこうして泳いでるのさ。彼女たちには傷つく事は行っていないよ。」 来美:「そうかしら?あたしはそう思えないわね。」 あたしは無視してそのまま泳ぎ続けたけど、気づいたら彼は隣にいた。 だからムキになって泳いでいたら、うっかり足をつってしまった。 来美:「痛い!」 ??:「大丈夫か?足をつったみたいだけど。プールサイドまで俺が連れて行くよ、手を貸し…」 彼はあたしに好意的だったけど、あたしはその時まだムキになっていて、彼の手を跳ね除けていた。 来美:「あたしは知らない男の人に簡単についていったりしないわ。話しかけてこないで!」 その時、つい能力を発動させていた。 普段ならこんな事をしないのに…。 そして、プールの水は大津波となって彼の元に…行くはずだった。 でも。 それは違った。 彼を中心に風が吹き、大津波が一気に蒸発していった。 水が蒸発してしまい、くるぶしくらいにしか水が残っていない状態のプールで、あたしは座り込んでいた。 来美:「風の能力者…」 ??:「ああ。水使いの虹草さん、ムキになるものいいけど、力のコントロールを忘れちゃ駄目だよ。」 彼はあたしを医務室まで送り、帰っていった。 それからあたしは彼にお礼がいいたくて彼を探した。 すると、彼は簡単に見つかり、周囲の人たちの話で彼のことを知った。 彼は海外で生まれ、3年前に日本に帰ってきたらしい。 名前は青柳秋一、あたしの一年先輩というわけだ。そして、再び彼とはプールで出会った。 秋一:「俺のことを調べているようだね、君は俺を敵としてみているのか?」 来美:「いいえ、お礼が言いたかっただけよ。」 秋一:「そうか…。敵じゃないなら、俺と付き合わないか?」 それから交際が始まった。 そんな時に、一度聞いた言葉。 来美:「秋一、どうしてあたしの事が好きなの?」 その答えが、 秋一:「来美は俺の全てを知っても、俺が過去に何をやったのか知っても、全てを包み込んでくれそうな、広大な海のような、 そんな人として感じるんだ。だから、俺はたくさんの女性の中からお前を選んだ。」 これだった。 その意味が分からないまま時が過ぎ、今あたしの前には、敵意をむき出しにして睨みつけている彼がいた。 ウォース:「このまま降伏したら処刑は伸びるがどうする。」 来美:「誰が降伏するですって?」 あたしの知ってる彼ではなくなっていた。 でも、あたしは負けない強い心で戦うって決めた。 彼が過去に何をしたのか知らないけど、あたしは全てを知らなくても、彼を癒すって決めていた。 来美:「あたしは屈しないわ、あなたには。」 ウォース:「そうか?それでは、過去に人々を焼き尽くした俺の力で、お前に地獄の業火を与えてやるとする。」 来美:「どういうこと?」 ウォース:「ふん、簡単な事だ。スペース団に屈しない村に侵入して、俺は熱風を起こし、村を一つ消滅させたのさ。 その時の力で今度は、お前を焼き殺してやるからな。」 違う…そうじゃないんだわ。 あたしは察した。 多分、一部内容が違うけど、この話は秋一の過去なんだと思う。 前に海外に、アメリカにいて、能力者で、力をコントロールできる人…、そして初対面のあたしを知っていた…。 何で気づかなかったんだろう…。 彼は多分、ストールたちがいた組織に居たんだわ。 そして、部署は隠密部隊のようなところだったのかもしれない。 ただ、彼の場合はその過去に苦しめられていたんだと思う。同時に、過去を改めたいんだと。 それであたしにあんなことを言ったのかな? 後で話を聞こうっと。 来美:「あなたの力にあたしは負けないわ!」 強く言い放ち、睨む視線を押し返したあたしに、ウォースは怒りを高めていた。 ウォース:「そうか、それがお前の答えなんだな!ギャロップ、熱風だ!そしてヨルノズクは風起こしだ! 同時に俺の熱風も食らうがいい!」 風によって威力を増した熱風が、あたしに向かってきた。 周囲にある植物を焼き尽くしながら、あたしに向かってきていた。 でも、あたしは逃げなかった。 来美:「ジュゴン、波乗りよ!」 あたしの力で具現化した大津波に乗って、ジュゴンがさらに波乗りで津波を起こし、熱風を包み込んだ。 ウォース:「熱風を相殺したか。しかし、ジュゴンは氷タイプでもある!今の攻撃でジュゴンは倒れたも同然!」 ウォースはそう言うけど、実際は違った。 ジュゴンの特性は厚い脂肪、炎攻撃に簡単に負けるような体じゃなかった。 それにあたしの聖水による津波を纏っていたのだ。 簡単に炎を受けたわけじゃない! 来美:「ジュゴン、そしてイノムー、吹雪よ!」 あたしの持つ2体のポケモンは先ほどの熱風を冷やしつくすくらいの勢いで吹雪を放っていた。 来美:「わが力を受け、吹雪に力を与えよ!聖水スプラッシュ!」 同時にあたしは、聖水の噴射攻撃を吹雪に重ね、聖水の氷による吹雪を作り出した。 ウォース:「それがどうした!ギャロップ、熱風だ!ヨルノズクは再び風起こし!」 ウォースはその攻撃に反撃を出すけど、悪の力がそれを跳ね除けられるわけではなかった。 吹雪は熱風を押し返し、ウォースごと、ポケモンを氷漬けにしていた。 それと同時に、秋一からは黒いモヤが放出されていった。 あれが、洗脳による力…。 来美:「秋一!」 あたしが駆け寄ると、氷が溶け出していた。 秋一の目が覚め、暖風が氷を溶かしたようだ。 秋一:「来美…助けてくれてありがとう…でも、俺…さっき…」 秋一は助かったけれど、顔色が浮かなかった。 来美:「さっき言っていた事、村を焼き尽くしたのは事実なのね?」 秋一:「…ああ、ただし、俺は人は殺していない。俺の力は人を燃やす事だけはできないんだ。」 秋一はあたしの予想通り、あの組織に所属していたらしい。 両親を早く亡くした秋一は、組織に育てられ、隠密や暗殺を受け持つ部署で働いていたらしい。 ちょうどそれは5歳から16歳までずっとだったようだ。 ただ、何故か秋一の暖風が人を殺せないために組織は何かを焼き尽くすために行動させていたらしい。 だけど、秋一はそれが正義のためと疑っていなかった。 そんな時だった。 秋一は任務を終えてすぐに攻撃を受け、捕らえられ、そして自分が今まで何をしていて、それがどういう結果を招いていたのか 知ったらしい。正義として疑っていなかった事が、実は組織のための裏工作もかねていて、同時に人々の未来を焼き尽くしたり、 幸せを焼き尽くしたりもしていて、かなりの人に恨まれていたのだ。 それを知った秋一は暴走し、自分を傷つけた人々を、初めて自分の熱風で傷つけた。 それがショックで何もできなくなり、彼は組織から追い出され、そして日本に帰ってきたらしい。 その時から秋一は変わろうとしていたらしい。 自分の過去は捨てられないが、自分のしてきたことは全て消すのではなく、悔い改めようとした。 そして今に至り、秋一には人望もあり、人気が高い。 でも、やっぱり過去の重圧に押しつぶされそうになるそうだ。 そんな時に出会ったのが、あたしだったというわけだ。 秋一:「俺は例え我慢していても、重圧で押しつぶされかけてしまうんだ。それをあのドリームという奴に突かれ、結果として、 俺はお前に攻撃をしたんだ。俺は最低な奴だよな。」 来美:「秋一…」 あたしは秋一の本当の姿、本当は重圧に押し潰されそうなのを、必死で頑張っている、苦しみの姿を見た。 来美:「救えるか分からないけど、あたしは秋一を信じるよ。だから、我の力よ、過去の過ちを悔いる者のために、 一時の癒しを与え、安らぎを与え、彼を救え!セイントアクアサプライズ!」 あたしは力を放出した。 数時間後、自然な笑顔になり、落ち着いた状態で眠っている秋一がいた。 あたしは彼が起きるまで、ここで彼を見守り続けていよう。 菜々美:「マリルリ、バブル光線!バタフリーは上昇して風起こしよ!」 ロック:「エビワラー、マッハパンチで泡を割るんだ!サイホーンはバタフリーに岩なだれだ!」 あたしは洗脳されてロックと名乗っている健人と戦っていた。 あたしと健人だと、あたしのほうが弱い。 相性が有利だとしても、健人はブリーダーであると同時にトラブルバスターでもあるのだ。 今までにたくさんの組織と戦った経験があり、簡単にはポケモンバトルで負けることはない。 それに、健人の座右の銘の一つは「攻撃は最大の防御」なのだ。 攻撃を相手に行うのではなく、相手の攻撃に攻撃をして相殺したり、防いだりして、防御を取り、同時に攻撃をする。 これによって健人は今までのバトルのほとんどを制していた。 今も、マリルリのサイホーンに対する攻撃をエビワラーが、バタフリーのエビワラーに対する攻撃をサイホーンが防ぎ、 同時に攻撃している。 ロック:「隙だらけだな、エビワラー、マリルリに雷パンチだ!サイホーンは再びバタフリーに岩なだれ!」 菜々美:「マリルリ、ハイパーボイスよ!バタフリーは超音波!」 雷パンチを防ぐ攻撃をマリルリは持っていない。 それはバタフリーも同じだけど、防ぐよりも本体を叩いた方がいい。 あたしはマリルリの大きな音波のようなハイパーボイスと、バタフリーの超音波を同時に行う事で、強力な二つの超音波を 奏でさせた。音の力は並ではなく、攻撃しようと向かってきた2体の動きを封じていた。 鈍感そうなサイホーンはともかく、格闘ポケモンのエビワラーは聴力も優れているはずだと思っていたけど、やっぱり当たっていたようだ。 ロック:「くそっ、エビワラーは戻れ!そしてマルマイン、行け!」 ロックはエビワラーにはこれ以上指示しても意味ないと察し、マルマインを出してきた。 属性は電気で、マリルリもバタフリーも相性は不利だ。 でも、ここで戻したところでマルマインには勝てるメンバーはいない。 だったらこのまま押し切るしかない! 菜々美:「マリルリ、バタフリー、もう一度ハイパーボイスと超音波よ!」 再び動きを封じ、その隙に今度は攻撃も行う! そう決めていたけど、それはできなかった。 ロック:「マルマイン、電撃波だ!」 二つの音の攻撃をマルマインは全く受けず、逆に電撃波がバタフリーを倒してしまっていた。 菜々美:「そんな!」 ロック:「マルマインには特性が2種類ある。一つは静電気だが、こいつの特性は防音なのさ。 お前のポケモンの音による攻撃は、こいつは全く受ける事がないのさ。マルマイン、今度はスパークだ!」 マルマインは向かってきた。 ポケモンの中で素早さが高い事で有名なマルマインの攻撃を避けるのは難しい。 だとしたら…そうだ! 菜々美:「マリルリ、影分身よ!」 マリルリは影分身をして、マルマインは突っ込んできたが分身を消しただけだった。 間一髪だった。 ロック:「影分身で避けたか、しかしこれならどうだ?マルマイン、スピードスターだ!そしてサイホーン、本体に 岩石封じだ!」 必ず当たるスピードスターは影分身で逃げ切れたはずのマリルリの姿を暴いてしまった。 そしてマリルリは逃げる間もなく、岩石に周囲を囲まれてしまった。 ロック:「弱いポケモンだな。これでもう終わりだ。」 菜々美:「マリルリ…、だったらもう正々堂々はやめよ!」 健人を元に戻すために正々堂々勝負するのは無理だと感じた。 ここは少数の力じゃ駄目だ。 あたしの力とみんなの力をあわせるんだ! 菜々美:「クロバット、オドシシ、ホエルコ!みんな出てきて!」 ロック:「破れかぶれのようだな、マルマインはスピードスター、サイホーンは岩なだれだ!一気に片をつけてやる。」 ロックはあたしのポケモン全員を倒そうと、同時攻撃が可能な技を放ってきた。 でも、このメンバーで絶対にポケモンだけは倒す! 健人を元に戻すには健人のポケモンが壁になってしまうから! 菜々美:「クロバット、エアカッターよ!オドシシはスピードスターの軌道を神通力で変えて!ホエルコは潮吹きよ! そしてマリルリはアイアンテールで岩を打ち砕いて!そして泡よ!」 エアカッターと神通力がスピードスターを、潮吹きに寄る攻撃が岩なだれを相殺し、そのままサイホーンとマルマインに 攻撃していた。 そしてマリルリはアイアンテールによって岩石から抜け出て、2体に泡攻撃を放った。 ロック:「くそっ、これでは埒が明かない!マルマイン、大爆…」 菜々美:「駄目!」 あたしはポケモンたちが健人のポケモンを押さえている間に、ロックに、健人に飛びかかった。 ロック:「こらっ!何をする!離せ!」 菜々美:「いや!健人、思い出して!あなたはそんな簡単に洗脳にかからないはずよ!あたしのことだって、忘れないはずよ!」 あたしは健人に引き剥がされてもすぐに飛びかかり、離さないようにしていた。 菜々美:「前に言ったじゃない!あたしを悲しませる事は絶対にしないって!あれは嘘だったの? 健人、目を覚まして!」 あたしは体中のエネルギーを口に集中させた。 前に言ったよね? あたしに告白した時にも、色々な戦いがあったときも。 あたしに言ったよね? 悟りのオバちゃんがおせっかいで喋らせた事もあったけど、あたしのことが一番好きだって。 あたしを悲しませないって。 自分にどんなつらい事があっても、あたしにはそれは感じさせないって。 そして、あたしにはすべてを話してくれるって。 全部嘘だったの? あたしは、何があっても健人を信じ続けているよ。 たとえ、些細な溝が生まれても、あたしは健人に嫌われかけても、忘れられてもずっと、健人を信じているんだよ! だから、思い出して! 簡単に洗脳に負けてあたしのことを忘れたりなんか、しないで! あたしは、あたしは何があっても健人を信じてるから! あたしはエネルギーの波動を込め、健人への思いを込めて、健人が元に戻るように訴えた。 ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、…もう立っているのがやっとだわ。 健人…。 足がふらついた。 と思えば、あたしは倒れ掛かっていた。 それを助けてくれたのは、健人だった。 菜々美:「健人…」 健人:「悪い、俺、お前のことを傷つけてしまったな。」 菜々美:「そんなこと…」 健人:「ないわけじゃない。俺、最近ずっと自分の事しか考えてなかった気がする。菜々美のことも結構傷つけてたよ。 だからゴメン。」 健人はあたしの想いを聞いて目を覚ましてくれていた。 嬉しかった。 でも、そこに邪魔が入った。 大爆発と共に、あたしと健人のポケモンが飛ばされてきて、そしてガントスが姿を現した。 健人:「ガントス!」 菜々美:「いきなり攻撃なんて…」 ガントス:「どうやらお前への洗脳が解けてしまったらしいな。しかし、もう一度お前を捕らえ、ドリーム様に洗脳を頼むと しようかな。お前は使える奴だ。さっきの雪女のように倒してから、お前を連れて行くぞ。」 ガントスはさらっと言った。 あたしたちは驚いた。 雪女を倒したって…。 菜々美:「ガントス、氷雨さんをどうしたのよ!」 ガントス:「あの雪女か?ポワルンとジュペッタで攻撃してきたが、俺の岩と鋼のポケモンにはかなうはずがなかったのさ。 それに、あいつのボスゴドラも弱かった。あの雪女はハガネールのアイアンテールで粉々に砕けたよ!」 菜々美:「そんな…!」 あたしは絶望していた。 あたしのポケモンはゴローニャの大爆発で戦闘不能だし、それは健人も同じだった。 エビワラーはあたしのポケモンによるダメージが残っていて、ガントスに対抗できるだけのメンバーではない。 健人:「菜々美、大丈夫だ。あいつが駄目でも俺はやるから。」 菜々美:「健人…」 ガントス:「ふっ、それはどうかな?オムスター、トゲキャノン!カブトプス、カマイタチだ!」 突然ガントスとは違う方向にポケモンが現われ、トゲキャノンとカマイタチが向かってきた。 健人:「くっ、これでは防ぐに防げない!菜々美、お前だけでも…」 菜々美:「駄目!健人!」 健人はあたしの前に立ち、あたしを攻撃から護ろうとしていた。 あたしはそれが嫌だった。 せっかく心が通じても、また離れ離れになってしまうなんて…そんなの嫌だよ! 氷雨:「何やってんのよ!二人ともしっかりしなさい!」 健人&菜々美:「!!」 突然だった。 俺と菜々美の前に現われた、氷雨…さんが俺の前に立ち、攻撃を体で受け止めていた。 菜々美:「氷雨さん!」 ガントス:「お前…まだ生きてたか!」 氷雨:「あたしが簡単に…消滅するわけないでしょ!」 氷雨さんはオムスターとカブトプスを一瞬で氷漬けにしていた。 でも、どこかおかしい。 氷雨さんの動きが、妙に…、…!? 健人:「氷雨さん…心臓が…」 氷雨さんの心臓に当たる部分に、オムスターのトゲキャノンが突き刺さっていた。 氷雨:「あ、…ばれちゃった。ええ、そう…いうことよ。」 氷雨さんは最後の力といわんばかりの吹雪でガントスを凍らせると、その場に崩れ落ちた。 健人:「おい!しっかりしろよ!」 菜々美:「氷雨さん、しっかりして!」 氷雨:「うふふ…、二人とも、仲直りしたのね。心が通じたのね。よかったわ。」 健人:「おい!何言ってんだよ!」 氷雨:「健人君、ゴメンね、あたし…」 健人:「謝るな!俺が悪いだけなんだ。俺はずっと氷雨さんのことを許してたのに…、それなのに俺は…」 その時、俺の体から何か黒いものが飛び出て砕けていった。 氷雨:「キバの呪いが解けたのね…。よかった。健人君、菜々美ちゃん、みんなに…よろしく伝え…て。」 氷雨:「あたしは…幸せだったわ。…みんなが成長してくれた、から…あたし、改心して…よかったし…それに…もう、 あたしがいなくても、大丈夫よね?…健人君、菜々美ちゃん、あたしのこと、忘れないでね…傷つく事をしてごめんね。」 健人:「氷雨さん!もう言うな!今から俺たちの力で…」 氷雨:「男の子は泣いちゃ駄目よ。強い子になってくれてよかったわ。いつまでも、元気にしなさいよ。」 菜々美:「氷雨さん!あたし…あたし…」 氷雨:「アイドルでしょ?元気で明るくしなさいよ。菜々美ちゃん、いつまでも夢を追いかけ続けてね。」 氷雨:「蓮華ちゃんや、涼治君のことも任せるわ。あの二人はまだ、見守っていたかった、だから…あの二人を見守ってあげて。 …もう、あたしは、見守れても…何もできないから…。」 吹雪が7の島を包んでいた。 そして。 氷雨:「みんな…、さようなら。」 氷雨さんの体が砂のように崩れていき、白い煙のように消滅していった 健人:「氷雨さん!行くなよ!」 菜々美:「氷雨さん!」 …後には3つのモンスターボールが残されていた。 同じ頃。 ドリームのゲンガーと戦っていた雪美は何か強力な力が体に流れ込むのを感じた。 雪美:「これは…氷雨さん…?」 吹雪が吹き始めていた。 雪美は察した。 雪美:「やっぱり、あたしは氷雨さんの…だったのね。サイドン、戻って。」 サイドンがボールに戻され、不思議に思うゲンガーだったが、ゲンガーはそのまま意識を失う事になった。 氷漬けのゲンガーがいるそこには、気づけば氷雨と同じ白い浴衣にピンクの帯をつけた19くらいの女性が立っているのだった。 雪美:「氷雨さん…あたしがあなたの後を継ぎます。」 彼女が消えた後もしばらくは、その場所だけ吹雪が吹き荒れ続けていた…。 そして、現実世界では…。 舞:「氷雨から貰った湯飲みが砕けるなんて…氷雨…あなた…」 ぬらりひょん:「氷雨…ついに消えたのか…」 けらけら女:「あの子も帰ったのですね、妖怪の国へ。」 古椿:「次にこの世に戻ってくるのはいつかしら?」 木の葉天狗:「さあな、一度消滅したら…あと500年はあっちにいったっきりだし…」 古椿:「残された能力者たちは、あたしたちが導くのね。」 ぬらりひょん:「そういうことになるだろう、また忙しくなるぞ。氷雨が消滅した時点で、この世界には再び、妖怪の NO.1を決める戦いも始まるじゃろうから。」 氷雨が消滅した事を、舞や、妖怪たちが察し、 ポケモン世界でもナツメがそれに気づいていた。 同時に、他の能力者たちも、氷雨がこの世から姿を消した事を感じ始めるのだった。