どうしてこいつは俺を憎んでるんだ? 一志は俺とは親友だったのに。 恨まれるようなことをした覚えはなかったのに…。 学校でだって…。 ??:「哲也、数学の宿題写させてくれないか?」 哲也:「何だよ、やってなかったのか?」 ??:「悪い!昨日ちょっと遅くまで自己練しててさ。」 玲奈:「そっかぁ、サッカー部は今レギュラー争いしてんだっけ。」 ??:「ああ、MF狙いの奴が多くてさ、俺の今の能力じゃ足りないんだ。」 翼:「それに比べると、哲也は全然レベルが高いよな。」 健人:「確かにそうだな。」 哲也:「何だよ、翼だっていい線行ってるぞ。一志、頑張れよ。ほらっ、これ写しておけよ。」 一志:「サンキュー!やっぱりお前って最高だな。親友でよかったよ。」 玲奈:「宿題を写させてもらうための親友でも?」 哲也:「玲奈、いいさ。一志だって俺たちの親友じゃないか。能力者でも、そうでなくても何も変わらないさ。」 清香:「そうかもね、それにしてもさ、一志っていつも笑ってるね。」 一志:「そうか?」 哲也:「そういえばそうだな。お前には悲しい顔は似合わないってことだな。」 一志:「…」 哲也:「えっ、何か俺、悪いこと言ったか?」 一志:「いや、別に…」 健人:「哲也、一志にだって悲しい事くらいあるだろ?一志、哲也はたまに口が滑るんだ。許してくれないか?」 一志:「健人、お前が謝るなよ。俺は別に気にしてないって。」 健人:「そうか…」 哲也:「…どうせ俺は…」 一志:「哲也、お前もすねるなって!」 玲奈:「うふふふ、哲也らしいわね。」 哲也:「何だよ、それ!」 いつも笑ってたよな。 笑顔が消える事がなくて、クラス1のムードメーカーが一志で、俺たちが落ち込んでる時も、いつも励ましてくれた。 そんな一志がどうして俺を恨むんだ? ナナシマ編 17.敵味方の苦悩!心の傷と悩み 哲也:「一志、どうして俺のことを憎むんだ!」 フレイム:「一志だと?俺はそんな奴ではない!風使い、逃げ続けるならば攻撃を続けるぞ。」 炎の弾丸は次々に放たれ、俺は避けるのに精一杯だった。 フレイム:「風使いよ、一つだけ思い出した事がある。それを教えてやろう。」 哲也:「何だ?」 フレイム:「俺は昔、お前の言葉に傷ついているようだ。お前が何気なしに言った言葉にだ。」 哲也:「俺が言った言葉で…?」 フレイム:「分からないようだな。まぁ、俺もそれが何かは分からないが、その復讐が俺の強さの秘密だろうな。 行ってこい、ハガネール!そしてオオスバメ!」 俺の前にはハガネールが、背後にはオオスバメが現われ、俺は行く手も逃げ場もふさがれた。 フレイム:「確か風使いは、羽が焼かれれば力を失うんだよな?オオスバメ、ツバメ返しで攻めてやれ!ハガネールは そいつが逃げられないようにするんだ!」 一瞬気配が消えて、背後を狙ってオオスバメが攻撃をしてきた。 背後を取られないように、そして同時にハガネールからの攻撃を受けないようにするのが大変だった。 気を抜く暇がなく、気を抜いたら最後、攻撃を受けてしまうだろう。 哲也:「一志、思い出すんだ!お前と俺は親友だろ?」 フレイム:「馬鹿な奴だ。親友ならば、何故お前は俺のことを知らないんだ?俺が何故傷ついたのか、それが分からないなら、 お前は親友ではない!ただの最低な野郎だ!」 哲也:「くっ…、そんなことは…」 フレイムの言葉は痛いほど感じた。 何故一志が俺を憎むのかは分からないけど、俺が言った何かが一志を傷つけていたならば、俺は謝らなければいけない。 そのためにも、何とかして一志を元に戻さないと…。 それにしても、どうして風使いの弱点を一志が知ってるんだ? 一志は能力者関係のことは全く知らないはずなのに…。 哲也:「おい、どうしてお前が風使いの弱点を知ってるんだ!」 フレイム:「何故か、だって?簡単な事さ、教えてくれた奴がお前らの仲間にいたのさ。」 哲也:「何だって!?」 フレイム:「そいつはお前らの弱点も色々と教えてくれたぞ。仲間なんて、所詮はこんなものさ。」 哲也:「違う!そんなことはない!仲間がいるから俺たちは信頼して何でもやってこれたんだ!カメックス、ピジョット、 出て来い!」 何とか2体のポケモンの死角を突いて、俺はパートナーと相棒を出した。 ピジョットは飛び出てすぐに風を起こしてフレイムの顔に泥をかけ、オオスバメを翼で撃っていた。 ピジョット:「哲也、オオスバメは俺に任せておけ!お前はハガネールをカメックスと!」 哲也:「ああ!カメックス、行くぞ!」 フレイムは泥が目に入ってもがいていた。 ハガネールを倒すのは今しかない! 哲也:「カメックス、ハガネールの口にハイドロポンプだ!」 カメックスはハガネールのアイアンテールを避けながら、キャノンの照準をハガネールの口辺りに合わせた。 フレイム:「この野郎!ハガネール、竜の息吹で対抗しろ!オオスバメは影分身とツバメ返しだ!」 顔を押さえていても指示はできるらしく、フレイムは何とか指示を出していた。 しかし、ピジョットは明らかにオオスバメの攻撃を遊んでいるように避けていた。 全く…、遊びすぎるなよ。 哲也:「カメックス、ハイドロポンプだ!」 ハガネールが竜の息吹を放ってきたため、俺はすぐにハイドロポンプを放たせた。 互角の力でぶつかり合う竜の息吹とハイドロポンプ。 しかし、これ以上続くとやばいな。 哲也:「カメックス、勝負に出るぞ!ハイドロカノンだ!」 カメックスは水を出すのを一時止め、竜の息吹から身を守るように一旦下がって、再びキャノンをハガネールに合わせた。 そして、ハイドロポンプとは桁違いの水流をキャノンから発射し、ハガネールにぶつけた。 ハガネールは竜の息吹で対抗しようとしたが、竜の息吹を貫く膨大な、かつ強力な水流を纏った水の波動がハガネールの口に 大量に流れ込んでいった。流石に外面が鋼で覆われていても、地面属性でもあるだけに、体の内部は水に弱く、しかも威力の 高い攻撃だったため、ハガネールはこの攻撃を受けてその場に崩れ落ちるようにして倒れたのだった。 同時にカメックスも倒れてしまったが。 哲也:「カメックス、戻れ!」 さてと、ピジョットの方は終わったかな? そう思って振り向こうとした時だった。 ピジョット:「哲也!危ない!」 哲也:「えっ…ぐあっ!」 振り向く間もない時だった。 突然背中に何かが突き刺さるような痛みを感じ、俺はその場に崩れ落ちていた。 哲也:「一体…何が…」 そんな俺の前に、ピジョットの叫び声が聞こえ、顔を上げると、炎に包まれたピジョットが落下してきた。 哲也:「ピジョット!風よ、ピジョットの炎を消せ!」 俺は咄嗟に風を起こしてピジョットの火を消し、彼をボールに戻した。 フレイム:「風使い、油断したな。」 哲也:「フレイム!俺のポケモンによくも!」 フレイム:「お前が油断しているのが悪いのさ。それに、お前もその翼ではほとんど力も出せないだろう?」 フレイムはオオスバメと共に高笑いをしていた。 確かに当たっていた。 フレイムのいうとおり、先ほどのオオスバメの攻撃で翼にダメージがあり、ピジョットの火を消すために出した風だって、 ほとんど威力を持っていなかった。飛翔して逃げる事も、既に不可能だろうな。 フレイム:「さて、これが何か分かるかな?」 フレイムは突然何かを出した。 それは、俺のモンスターボールだった。 気がつけば、ピジョット以外のボールがフレイムに取られている…。 フレイム:「先ほどのツバメ返しのときに泥棒させておいたのさ。ポケモンは戦闘不能の状態で、しかもお前も逃げるほどの 力が既に残っていない。その状態で俺に勝てるかな?」 哲也:「フレイム、そんなことをしてお前の気が晴れるのかよ!」 フレイム:「ああ、お前が傷つくのは見ていて心が晴れるね。オオスバメ、最後の攻撃だ。ツバメ返しだ!」 オオスバメの姿が消えた。 ツバメ返しの体勢に入ったのだ。 どこから来るのだろうか…。 待てよ、奴は風と共に、風を纏って来る。 だとしたら…、風を読めば…。 俺は目をつぶって意識を集中した。 そして。 哲也:「そこだ!」 俺は背後の斜め30度から来る攻撃に気づき、避けると同時にオオスバメの体に張り付いた。 フレイム:「何!?」 哲也:「残念だったな、これが風使いの底力だ!」 フレイム:「くそぉ、炎を食らえ!」 フレイムは自分のポケモンだというのにオオスバメに向かって炎を放っていた。 俺はオオスバメの体から離れたが、オオスバメは体制を大きく崩し、炎に包まれて落下していった。 哲也:「自分のポケモンにどうして攻撃ができるんだ!」 フレイム:「別に。ポケモンは道具に過ぎないのさ。」 哲也:「フレイム…。いや、一志!お前はそんな奴じゃない!目を覚ますんだ!」 フレイム:「うるさい!」 突然今度は周囲を煙が包んでいた。同時に熱風も襲ってきた。 フレイム:「お前は煙の中で熱風に包まれて死ぬがいい。」 哲也:「一志…。目を覚ませ!」 俺はエネルギーを集中し、強風で熱風も煙も吹き飛ばした。 哲也:「ハァ、ハァ、ハァ…、一志!」 俺は熱風と煙が消えた事に動揺している一志を殴り飛ばした。 哲也:「お前はどうしてそんなに簡単に洗脳にかかるんだよ!お前はそんな奴なのかよ!努力家で、目標を持ってまっすぐ進む奴で、 人一倍の優しさを持っている、俺の親友じゃないのかよ!一志、悩み事があるなら、いつだって話してくれればよかったんだ! 何かあったら、思ったら俺たちにぶつければいいんだ!それくらい、友達なら当然だろ!それがわかんないのかよ!」 俺は一志の胸倉を掴んで怒鳴り続けた。 今まで一志にぶつけた事のなかったことを全部ぶつけ続けた。 哲也:「親友なら何でも言ってくれればいいだろ!俺だって色々悔しい事は経験してんだ!お前が俺たちに言いたくなくても、 悲しかったり悔しかったり思ったら、腹割って言えばよかったんだ!」 言い足りない事なんかないくらい、俺は一志に言ってやった。 哲也:「分かったか?」 その時に気づいた。 いつの間にか、一志の洗脳が解けていることに。 炎のように燃える目で睨むような表情が、いつものムードメーカーの一志の表情に戻っていた。 一志:「哲也…ゴメン…」 哲也:「一志、元に戻ってくれたんだな。」 一志:「ああ。…哲也、俺の秘密を教えてやるよ。」 一志は仮面を捨て、スペース団ユニフォームを脱ぎ捨てて言った。 部活の途中だったのか、サッカーのユニフォーム姿だった。 一志:「あ、俺さ、部活の途中で次元の穴に落っこちたんだ。元の世界に戻った時、説明するの手伝ってくれよ。」 哲也:「ああ。」 一志:「実はさ、俺、兄貴がいたんだ。」 哲也:「いたんだって…。」 一志:「そういうことさ。俺の兄貴は俺なんかよりも頭よくて、成績もいいし、人付き合いもうまいし、俺の親にとっては 俺よりも目に入れても痛くないくらいの息子だったんだ。俺も兄貴をすごく尊敬してたし、兄貴の事が好きだった。 でも、兄貴は交通事故で死んだんだ。それが6年前。兄貴は中学に入学したばかりだった。」 一志の兄は中学に通う途中で酔払い運転のトラックの暴走によってひかれそうになった小学生を助けるために犠牲になったらしい。 一志:「俺の家、すっかり明るさが消えたんだ。父さんも母さんも、火が消えたみたいに暗くなってて、俺も悲しいし悔しいし、 だから思ったんだ。俺が兄貴の代わりになってやるって!何があってもずっと笑顔でいて、笑い続けていて、父さんも母さんも、 兄貴のことは忘れられなくても、元気でいられるように、俺が明るくい続けてやるんだって。」 哲也:「そうだったのか…。それじゃ、あの時俺が言った、悲しい顔は似合わないってこと…」 一志:「哲也たちは知らないもんな。小学校も中学も違うから。でも、結構傷ついた事は傷ついた。俺の過去を知らないお前らに 言わせれば、俺の悲しい時も笑顔でいることは不思議であって、普通じゃないもんな。それに、つらかった…。」 哲也:「一志、もうつらく思うなよ。俺が全部聞いてやるよ。健人も、玲奈も、海斗も清香も翼も、みんな、お前の親友だからさ。 俺も健人も、お前と同じくらい、色々と経験してんだ。全部受け止めてやるよ。それに、もう笑顔でい続けなくてもいいぜ。 何でも腹割ればいいんだ。」 一志:「ああ!」 一志が元に戻り、今、一志がようやく俺の、真の親友、かつ、仲間になれた。 そう、強く思った。 同時刻。 浅香:「ハガネール、アイアンテールよ!デンリュウは10万ボルト!」 香玖夜:「バンギラス、爆裂パンチ!ブラッキーはかわしてからシャドーボール!」 光と闇の能力者としての力が互角であったため、ポケモンバトルで競い合っていた香玖夜がふいにポケモンを戻していた。 浅香:「香玖夜先輩?」 香玖夜:「勝負は終わったわ。」 浅香:「えっ?それってどういうことですか?香玖夜先輩の方が勝ってたのに…」 浅香のポケモンのランターンとレアコイルがエネコロロに倒され、エネコロロを倒したものの、デンリュウも今、ブラッキー の攻撃によって倒されていたのだ。それなのに、香玖夜はポケモンを戻し、自分の負けだと言った。 香玖夜:「今、この島のどこかであたしがスペース団にいる意味がなくなったのよ。あたしの彼であり、心に闇を背負っていた人の 闇が、今ようやく晴れたのよ。あたしがスペース団にいたのは、彼の闇が晴れないままだったから、その闇を消してくれたドリームに 感謝の意味を込めて仲間として存在していた。でも、その彼の闇が晴れたのを今感じたの。 だから、あたしはもう、敵になる必要はないって感じたわ。 だから、味方同士で戦う必要はなくなったの。分かったかしら?」 浅香:「ええ。…それじゃ、行きますか?」 香玖夜:「行くって?」 浅香:「もちろん、スペース団本部です。あたしたちがここにいるのは、スペース団を壊滅させるためですよ。」 香玖夜:「…そうね。感謝の分は働いたし、彼とも合流したいし。…あ、いつか、今のバトルを再びやりましょうね。」 浅香:「いいですよ、望むところです。」 一志の闇を共に背負おうとしていた香玖夜は、一志の闇が晴れたのを感じ、浅香との戦いをやめ、スペース団を倒すために、 味方として動き出していた。 そろそろ俺の動きを怪しまれ始めてるかもしれないな。 俺が遺跡に放り込んだ先輩たちも多分、律子先輩が助けてるはずだし…。 綾香の奴、すっげえ心配してるかもしれない。 でも、俺が自分で決めた事だから…。 ヒータス:「あれっ?スパイ君、どうしてここにいるんだ?」 ヤツデ:「ヒータスか、別にいいだろ。」 ヒータス:「まぁ、俺には関係のないことだけど、君は何故、洗脳にかかっていない振りをしてまで味方に攻撃をしているのかな? 不思議でしょうがない。」 ヤツデ:「…何だ、知ってたのか。」 ヒータス:「ああ。まだ気づいたのは俺くらいだがな。」 2の島でドリームに偶然出会った時は、確かに洗脳された。 でも、俺は洗脳にかかりかけたが、結局かからなかった。 だけど、その時にドリームに言われた言葉。 ドリーム:「力のないものとして今後を行き続けるのは自分に力がないことを証明しているからではないのか?」 という言葉が引っかかり、俺は洗脳が半分かかりかけた状態でかかった振りをしていた。 そして考えた。 俺は、確かに能力者の中で最も攻撃力のない部類にいる。 海斗先輩は、俺は防御に撤していればいいとしか言わなかったし、あの氷雨さんも、俺には戦いに出ない方がいいって言っていた。 どうしてみんな、綾香でさえも、俺が前線に立ったりして戦う事を拒むのかが分からなかった。 俺の能力が防御や回復に適しているのは分かったけど、攻撃する側になろうとすると、おもいっきり拒絶されている。 俺の言い分を聞いてくれたことは一度もなかった。 能力者として、俺が未熟だからなのか。 それはよく分からない。 だったら、本心が聞ける側にいればいい。 いきなり仲間だと思っていた奴が敵に変われば、みんなは絶対に本心を言って俺を洗脳から解こうとするに決まってる。 それまで、できるだけ敵側にいようと決めていた。 真実を知れば、みんなは怒るかもしれないけど、こういう事がない限り本心も理由も言わないのは仲間とはいえないのかもしれない。 ともかく、もう少しこちら側で動き続けよう。 それにしても、涼治先輩を捕らえるために氷雨さんを悪く言った事は反省しなきゃいけないな。 あの人は俺の力の暴走を止めてくれた人だから。 ヤツデ:「ヒータス、お前は何してたんだ?お前はドリーム様から他の能力者たちを奇襲するようにいわれていただろ?」 ヒータス:「ああ。しかし、その前にドルクの様子を見たかったからね。まだ俺の顔を見るとおびえるよ。だから気分転換に 能力者たちに攻撃をしてこようかな。スパイ君、君がここで何をしていてもかまわないが、グロウのようにスペース団を 裏切るのはやめてほしいな。一度入ったからには、任務を全うするんだ。」 ヤツデ:「ああ。俺の任務は、本当なら仲間であるはずの先輩たちの戦力を遮断する事だ。忘れてはいない。」 ヒータス:「そうか。」 ヒータスが行ってしまうと、俺は涼治先輩のいる部屋に入った。 別に先輩に手を出す気はない。 ただ、少しからかって本心を聞き出そうと思ったのだ。 涼治:「誰だ?」 ヤツデ:「俺だ。」 薄暗い電気をつけると、そこにはベッドに手足を固定された状態で寝かせられている先輩がいた。 服やシーツは所々焦げ目や破れ目があり、ボロボロになっていた。 涼治:「お前、よくも俺たちを裏切りやがったな!」 ヤツデ:「何のことだ?俺は元からスペース団のものだった。弱いお前が聞いた口を叩くな。」 本心は違うけど、わざとこう言ってやると、先輩は絶句していた。 涼治:「お前…海斗先輩が手塩にかけてたのに…」 ヤツデ:「海斗?あの肉体馬鹿か?手塩?馬鹿らしいな。俺はあいつに強く育てられた覚えはない。」 涼治:「そんなことはない!海斗先輩は家の手伝いや勉強や部活や、自分のしたいことや、色々な事がある中でお前を特訓する ために、時間を作ったりして体を壊していたんだ!父さんの病院にもよく来てた。いつも5種類以上の薬を買ったりしてたんだ。 最近になってようやくお前が成長したから、海斗先輩も病院を通わなくてもよくなったんだ!」 先輩が…俺のために…。 一言言ってくれればよかったのに。 そうすれば俺だってもっと頑張ったのに。 ヤツデ:「そんなことをしても、実際に俺が知らなければ意味がないな。その男も馬鹿だな。俺なんかのために時間を割いて。 結局力を使いこなせても、戦いに必要がなくて、戦いに出させないことしか言えない奴が、俺を強く育てたいわけがない!」 涼治:「それは違う!先輩は言ってた。お前の力は防御と回復のためにあって、攻撃には適さないけど、防御と同時に攻撃を 可能にする方法も考えてるし、攻撃できる力が強い力じゃないって、誰かを守る事ができる力が、一番強い力だって言ってたぞ。 どうしてそれが分からないんだ!お前はどうせ戦いから拒まれてるとか思ってるだろ?違うぞ、お前が自分で拒んでるだけだ! お前は誰かのせいにすることで逃げているだけなんだ!」 ヤツデ:「うるさい!黙れ!」 当たっていた。 本当は先輩に言われた事が、ど真ん中に当たっていたけど、俺は認めたくなくて先輩を殴りつけていた。 涼治:「…やっぱりな。お前、洗脳されてないな。」 ヤツデ:「なっ…、何のことだ?」 涼治:「嘘を言うな。しっかり分かったぞ。俺が本当のことを言って怒ってるおまえは一番弱い。そして情けないぞ。 分かってるのか?お前は自分が戦いで出れないこと、自分が拒んでるのに気づいていないこと、それを見つけるために スペース団の仲間になったんだろ?初めから本心を俺たちにぶつければよかったのに。それをしなかったお前は一番最低だ。」 ヤツデ:「…」 何も言えなかった。 確かに全てが的を射ていたし、俺は逃げていたに過ぎないのかもしれなかったから。 ポケモン世界にだって、本当は来る気はなかったし、そういうのもひっくるめれば、俺自身がこの戦いの事を聞いていても、 無視していただけだった。 ヤツデ:「…」 俺は無言で先輩を拘束しているロープを外した。 涼治:「ヤツデ?」 ヤツデ:「…俺が馬鹿でした。俺は俺の力で罪滅ぼしをしてきます。氷雨さんが消滅したのだって、俺が弱点を教えたからだから。 みんなの弱点を教えたからだから!」 俺は先輩を押しのけて、ドリームの元に向かった。 そこにはミアトスとドリームの姿があった。 ドリーム:「ヤツデ、どうかしたのか?」 ミアトス:「ちょうどいいところに来た。お前の仲間を葬り去る方法を見つけたのだ。お前も参戦しろ。」 まだ気づいてないらしいな。 ヤツデ:「残念だが、俺はもうスペース団なんかで働く気はない!ドリーム、覚悟!」 俺は泡を放出して、ミアトスを泡に閉じ込め、同時にドリームを閉じ込めようとした。 だが。 ドリーム:「遅いな。」 いつの間にか、ドリームは俺の背後にいて、俺は強力な衝撃波で壁に叩きつけられていた。 ヤツデ:「ぐっ…」 ドリーム:「悪いが、お前が私の洗脳にあまりかかっていないことは知っていた。それを承知でただの捨て駒としてしか使っていなかったのでね。 あの雪女を始末できたのは好都合だが、私に逆らうのなら、ここで死んでもらった方がいいだろうな。 食らうがいい、電磁砲だ!」 ドリームの片手から放たれた電磁砲が俺を包み込み、先ほどの衝撃波と共に俺は海まで飛ばされていた。 そして、起き上がれない俺は、その直後に放たれた電磁砲と衝撃波によって海に叩きつけられ、直後、意識を失った。 ドリーム:「馬鹿な奴だ。弱いくせに私に楯突くとは。」 ドリームはヤツデが海に叩きつけられるのは見た直後、更なる威力の高い衝撃波と電磁砲を打ち出し、それらは海に当たると同時に、 大爆発を起こしていた。 ドリーム:「これでもう、邪魔なスパイの捨て駒は消えたな。」 涼治:「ヤツデ…」 俺が駆けつけるよりも早く、ヤツデのいた場所で大爆発が起きていた。 あいつが水の属性で、逃げられたとしても、それがドリームの攻撃を受けた直後では生命の危険だってある! 涼治:「早くあいつを見つけないと…」 動き出そうとした俺は、突然背後から来た誰かに腕をつかまれた。 涼治:「誰、だ…」 ヒータス:「ドルク、行かせないよ。」 それはヒータスで、気づけば俺は周囲をスペース団員に取り囲まれていた。 ヒータス:「結局スパイ君も自滅したようだ。君は部屋に戻ろうね。それとも、あのスパイ君のような最期を遂げたいかな? 今ならドリーム様が攻撃してくれるよ。」 俺は反論しようとしたが、ヒータスと目が合うと、再び気を失ってしまった。 ヒータス:「全く、世話が焼けるね、ドルク。」 遠くで爆発音が聞こえた。 氷雨さんの消滅も感じ、あたしは悲しかったけど、スペース団を倒さなきゃ、氷雨さんに顔向けできない! それに、蓮華たちだって絶対に頑張ってるはずだもん。 あたしがここで倒れたら意味がないよ。 美香:「こうなったら戦いのみ!マリルリ、行ってきて!」 あたしはようやくポケモンを出した。 実は先ほどまでは能力で戦っていたのだ。 相手は山風財閥のお嬢様の小麦ちゃん。 確か、海と同じ私立の学校に通ってるはずなのよね。 ここではプラントと名乗っていた。 プラント:「ようやく追いついたわ。どうして逃げるのかしら?戦う気のないものは生きている価値がないのに。」 美香:「あたしは踏ん切りが着いてなかっただけ。今になって、ようやくあなたに戦いが挑めるわ。」 いつもだったら戦えるあたしは、氷雨さんの消滅で、悲観にくれていたのだ。 でも、さっきの爆発で目が覚めた。 あたしみたいに、誰かが氷雨さんの死を悲しんで、敵にやられてしまったら、誰が氷雨さんの分まで戦うのかな? あたしは氷雨さんみたいに強くないけど、この戦いには自分から参戦したんだもん。 自分で頑張らなきゃ、何も始まらないよ。 美香:「マリルリ、バブル光線よ!」 マリルリは、プラントのペルシアンに攻撃をした。 美香:「それにサーナイトも出て!ラフレシアにサイコキネシスよ!」 プラント:「それはなりません!ペルシアン、嫌な音よ!ラフレシアは花びらの舞い!」 ペルシアンが岩に爪を立てて不協和音を出し、マリルリとサーナイト、そしてあたしがもがき苦しむように仕向けた。 そしてラフレシアの花びらの舞がマリルリを襲い、マリルリを一撃で倒してしまっていた。 美香:「マリルリ!」 プラント:「うふふふ、戦闘には犠牲は付きものよ。ペルシアン、続いてブレイククローよ!」 美香:「サーナイト、リフレクタ!そしてドンファン、転がる攻撃よ!」 サーナイトのリフレクタがペルシアンの攻撃を防御し、さらにボールから飛び出たドンファンが、ペルシアンを弾き飛ばした。 でも、ラフレシアの花びらの舞はまだ続いていて、今度はドンファンを狙っている。 プラント:「うふふ、油断してますね。ラフレシア、やりなさい!」 美香:「させない!リザード、火炎放射よ!」 ドンファンを戻し、リザードを出して火炎放射でラフレシアを倒した。 ポケモンの入れ替えが勝負を決めるのだ。 交代しなかったら犠牲が増えていただろう。 プラント:「そんな…ペルシアン!乱れ引っ掻きよ!」 美香:「二人とも、行くよ!火炎放射とサイケ光線よ!」 乱れ引っ掻きをするために向かってくるペルシアンは火炎放射を纏ったサイケ光線によって倒されたのだった。 プラント:「そんな!あたしのポケモンが負けたなんて…」 美香:「プラント、負けは負けよ。これを見なさい!」 あたしはリザードの尻尾の炎にあたしの炎の力を融合させて、大きな青い炎に変え、プラントにみせた。 プラント:「うぅ!…その光は…。」 すると、プラントはもがき苦しみ、そしてその場に倒れた。 美香:「やっぱりね。どんな洗脳をしていても、静寂と強さを秘めた青い炎の力は洗脳の力を解くのね。」 プラントの、いえ、小麦ちゃんの表情はさっきまでの厳しさから解放された、安らぎの笑顔になっていた。 こんなに簡単に洗脳が解けるとは思わなかったけど、ちょっと一安心かな。 ソード:「オニドリル、ドリルくちばしだ!ニューラは冷凍パンチ!」 海:「カポエラー、見切ってニューラにトリプルキックよ!」 なずな:「ムウマ、影分身でかわしてオニドリルに電撃波よ!」 あたしとなずなはソードと名乗る妖怪の少女と戦っていた。 彼女は何か守りたい人がいるらしく、彼女のために、スペース団にいるらしい。 でも、氷雨さんの消滅を感じた時は、一緒に黙祷をしてくれた。 礼儀は心得ているようね。 でも、どうやらそれは、彼女の力にあったのだけど。 先ほど言っていたのだ。 ソード:「私は雪女の知り合いの氷柱女の子供だ。だから同じ氷属性の妖怪に対しては黙祷を捧げるのは当然だ。」 と。何だか真面目に真面目を塗り重ねたような人だなぁっていうのが、あたしの感想だった。 そしてバトルが始まって、今に至った。 ムウマがニューラの、カポエラーがオニドリルの攻撃をかわし、カポエラーはトリプルキック、ムウマは電撃波という、 彼女のポケモンの弱点になる技を放ち、ニューラとオニドリルを一撃で倒していた。 ソード:「くっ、私の負けか。ならば次はこれを受けてみろ!私はお前たちを倒さなければいけない!カマイタチだ!そして氷柱針!」 彼女の両手が鎌のような形をした鋭い氷柱に変わり、カマイタチと氷柱攻撃を放っていた。 海:「全く、厄介ね!出でよ、亀甲壁!」 なずな:「確かに。必殺、撃滅真空波!」 あたしが攻撃を結界の式神で防ぎ、なずなの気功能力がソードに攻撃を入れる。 ソード:「ならば、これなら…」 あたしたちのコンビプレーに彼女は更なる手を使おうとしていた。 が。 小麦:「刹那!やめて!」 突然飛び込んできた、クラスメイトの姿に、あたしは驚かされてしまった。 海:「嘘…」 なずな:「ん?海ちゃん、知り合い?」 海:「うん…、あの子、あたしのクラスメイト。」 なずな:「え…。」 そこに美香もやってきた。 美香:「あ、二人ともここにいたんだ。さっきまで、あたし、小麦ちゃんと戦ってたの。洗脳を解いたら、いきなり走り出すんだもの。 ようやく追いついたよ。」 海:「ふぅ〜ん。」 あたしたちが顔を向けると、刹那と呼ばれたソードと、小麦ちゃんは抱き合って泣いていた。 どうやら、ここも元鞘に戻ったのかな? 一応、ここも解決したってことにしておこう。 二人が泣き止んで、あたしたちの疲れが取れたら、あたしたちも動き出さなきゃね。 7の島のいたるところでの戦いは、少しずつ終止符が打たれ始めていた。 その頃。 海斗と綾香は、海岸でヤツデの姿を見つけていた。 綾香:「ヤツデ!」 海斗:「おい、しっかりしろ!」 ヤツデ:「ん…、あ、綾香、先輩…」 ヤツデが見つかった。 洗脳も解けてるみたい。 よかったぁ。 ヤツデ:「綾香…、ゴメン。」 綾香:「ヤツデ、謝らなくてもいいよ。」 あたしは言ったけど、次にヤツデが言った事には、あたしたちは絶句するしかなかった。 ヤツデ:「違うんだ…。俺、洗脳されてなかったんだ。」 綾香:「…」 海斗:「…」 ヤツデ:「俺、ずっと逃げてたんだ。結局は戦いから逃げ続けてただけなんだ。それなのに、力がないのは誰かのせいだって、 ずっと思い続けて楽になろうとしてた。でも、…そのせいで氷雨さんが倒されたし、みんなも…。 だから、ゴメン!」 ヤツデは、泣いていた。 体も怪我がひどいのに、ダメージも大きそうなのに、無理して立ち上がって、あたしと海斗先輩に泣きながら謝っていた。 あたしは、何も言えなかった。 ヤツデの本心に、一度も気づいてあげられなかったから。 ヤツデが敵に回ったのは、自分の力を使いこなしてはいたけど、でも、同時にその力の弱さを実感して、悩んでたんだ。 綾香:「ヤツデ…」 海斗:「ヤツデ…、お前、そこまで悩んでたのか。悪かったな、戦いの前線に出さなかったことをうまく説明してなくて。 それもお前が悩んだ理由の一つだろ?」 でも、ヤツデは海斗先輩に言った。 ヤツデ:「涼治先輩から聞きました。海斗先輩は謝る必要なんかないです。海斗先輩は俺のこと、色々考えてくれたのに、 それなのに俺、海斗先輩のことを攻撃したし、馬鹿にしたし、…俺、もう先輩に謝ってもらうなんてされる人間じゃないです!」 ヤツデはそう言うと、静かに気を失った。 綾香:「ヤツデ!」 海斗:「落ち着け、気を失っただけで生きてる。疲れが出たんだな。ゆっくり休ませてやろうな。」 綾香:「はい!」 海斗:「ヤツデ、お前も謝る必要はないぞ。俺は、お前を追い詰めてた事に気づいてなかったんだ。お前が考えてしたことだ。 氷雨さんだって、お前のことを心配してたはずだ。怒ってはいない。だから、安心しろよ。」 海斗先輩は、ヤツデの怪我をヒーリング(ほとんど効力はないけど)でなおしながら言っていた。 何となくだったけど、ヤツデの顔が安らいでいるような気がした。 綾香:「ヤツデ、元気になってね。」 この時、誰も知らない事が一つだけあった。 誰も気づいてなく、感じてもいないことが一つだけ。 それはセレビィの力を使っても行く事のできない霊界に存在する、妖怪の世界での出来事だったからだ。 その世界にやってきたばかりの一人の女性が、ポケモン世界の様子を鏡に映し、ヤツデを見守っていた。 彼だけではなく、多くの能力者を今でも見守っていた。 そして、祈っていた。 ヤツデ君、あたしも怒っていないから、強くなって!自分に強くなってね。 あたしは、あなたをずっと見守っているから。 見守る事しかできないけど、でも、ずっと祈っているわ。 あたしは消滅してここにやってきた。 もう、みんながいる世界には戻れない。 ここで見守っているしかできない。 でも、あたしはそれで幸せだから。 後は、雪美ちゃんや双葉たちが跡を継いでくれるから。 それに、きっと彼女が目覚める頃だから…。 氷雨:「みんな、頑張って。」