一体何がどうしてこんな事になったんだろう…。 俺は自分のこの状況を見て、そう思わざるを得ずにはいられなかった。 それに、自分が相手に攻撃できない事にも不思議さを感じていた。 ベッドの上で手足を拘束されて、ボロボロの服とシーツを纏っている状態の俺が、部屋に放置されているという状況を。 涼治:「これから俺はどうすればいいんだろうな。」 背中の翼を平げて外に出たりも、冷気を放って手足を拘束する鎖を凍らせて割る事もできる。 本当なら、逃げ出してみんなに加勢することだって、一人でも多くのスペース団員を倒すことだって、やろうと思えば できるはずなのに、なのにどうして、俺はこの状態のまま、時間を過ごしているのだろうか…。 涼治:「何で動こうと思わないのかな…。」 香玖夜:「動こうと思わないじゃなくて、思ってないんじゃないの?」 涼治:「うわっ!矢川!?何でここに?」 突然クラスメイトの顔が自分を覗き込み、俺はびっくりして心臓が止まるかと思った。 香玖夜:「あら、いちゃいけない?あたしは元スペース団員だし、綾香と浅香ちゃんに頼まれたのよ。人質がいたら助けてきてって。 それでこっそり探しに来てみれば、あなたがいたってわけ。でも…」 涼治:「でも?」 香玖夜:「その格好は見たくなかったわね、学校内の美男子ランキング上位者のその姿は。」 涼治:「あ…、///」 今になってよくよく考えれば、大事なところは隠れてるけど、蓮華にも、ていうか女性には見られたくない姿の俺だった。 ナナシマ編 20.突入! 香玖夜:「さてと、これでいいわね。」 矢川は俺に別のシーツをかけた。 涼治:「悪いな。」 香玖夜:「別に。それに、当分は誰もここには入れないから。あたしの結界を張ったから。入れるのはドリームくらいね。」 涼治:「おいおい。」 香玖夜:「しょうがないわよ、あいつは属性は念だけど、どう考えても無属性に近いから。…それでさ、涼治君、どうしてあなたが ここから脱出しないかなんだけど…。」 涼治:「ああ。」 香玖夜:「あなた、ヒータスに心を許しすぎてるのよ。心開きすぎ。」 涼治:「…」 絶句するしかなかった。そんなつもりはないのに…。 香玖夜:「多分、一度別の人格になった時にヒータスに心を開いたのね。それが原因、はい終わり。」 涼治:「それじゃ無理ってことか?」 香玖夜:「う〜ん、あたしが助けて連れ出すこともできるけど…、多分、涼治君に罪悪感が残るんじゃない?」 確かにそうかもしれないって感じがした。 香玖夜:「だから、あたしたちが助けに来るまでここにいなさいね。」 矢川はそう言うと、部屋を闇に包み、明るくなった時にはいなくなっていた。 と、同時に。 ヒータスが入ってきた。 ヒータス:「ドルク、今ここに誰かがいたんじゃないか?」 涼治:「いたぞ。」 隠すのは無理だと思い、はっきり白状する俺。 ヒータス:「やっぱりな、ドアを開けられなかった。火炎放射でドアを焼くのも無理だった。それに、このシーツだ。 誰がいたんだ?」 俺は無言で通す事にした。 ヒータス:「なぁ、教えてくれよ。俺とお前の熱い仲だろ?熱々カップルには秘密はいけないぞ。」 突っ込みたかったが、突っ込むとまた何か言いそうな気がしたので視線を避けた。 ていうか、カップルじゃないし。 ヒータス:「ドルク、それならいいさ。俺にも考えがある。」 と、ヒータスは突然真顔になり、部屋を後にした。 何だか逆に嫌な予感が俺を襲うのだった。 その数分後、俺は原因不明の頭痛で意識を失った。 綾香:「じゃ、結局連れてこなかったわけ?」 香玖夜:「うん…、あの状況は無理だよ。」 浅香:「どうして蓮華先輩って人がいるのに、男に心を許しちゃうんでしょうかねぇ〜?」 綾香:「う〜ん…。」 途中で清香先輩たちや哲也先輩たちと合流したあたしは、ヤツデを先輩たちに任せて勝手に単独行動をしていた。 というか、一志先輩と香玖夜を引き合わせるために、香玖夜を探しに出たんだけど…。 そして香玖夜と浅香ちゃんと合流した。 だけど、道に迷ってしまい、先輩たちと合流するのは無理となっていた。 ただ、あたしたちがいたのが偶然、みんなが行こうとしているスペース団本部の近くだったのだ。 だからあたしは、相談の結果、内部事情を知っている香玖夜に、殴り込みをかける前に人質がいたら救出してきてほしいと頼んだ。 その結果が…、これだった。 香玖夜:「あたしたちじゃ分かんない問題なのよね。涼治君が、ヒータスに対して友情としての気持ちを持っているのか、 または本当にあっち系の愛としての感情を持っているのかで違うわけだし。多分、ヒータスも涼治君も勘違いしてると思うけど、 あれは友情みたいな信頼関係だと思うんだよね。」 浅香:「どうしてそう思うんですか?」 香玖夜:「ヒータスはホモだけど…」 浅香&綾香:「ぶっ!!!」 香玖夜:「だからさっきから言ってるじゃん。あいつはホモよ。でも、美男子ランキング3位の涼治君を抱いたり、キスしたりをまだ、 一回もしてないんだもん。やってるのは愛の告白みたいな事だけ。でも、アレは告白じゃなくて、詩を作って語ってるみたいな感じ。 本当の告白じゃないわよ。」 綾香:「えっ?でも、涼治君にはやったことあるとか言ってるんでしょ?」 香玖夜:「あれ?嘘よ、あれは。他の団員に聞いたんだけど、美男子に手が早いくせに涼治君には手を出した事ないって、他のヒータスの 同期が教えてくれた。涼治君がドルクっていう人にされてた時も、ヒータスが口説いた事はあったけど、抱き合ったり、キスしあったりした ことは、一度もないんだって。」 浅香:「え…、それじゃ…」 香玖夜:「うん、何ていうか、あの二人は親友みたいな感じらしいんだ。ただ、涼治君がヒータスの事を忘れちゃった事とかも関連して、 信頼ある友情関係を、変な方向にヒータスが考えすぎちゃって、涼治君がそれに同調しちゃったのよ。」 綾香:「うわぁ…、厄介ね、ある意味。」 浅香:「でもそれより、その状況を知りすぎてる香玖夜先輩のほうがすごいです。」 香玖夜:「あたしはそういうのに通じてるだけ。情報収集は得意だし、それを知ってるからイタズラに凝る事ができるのよ。」 綾香:「香玖夜は凝ったイタズラ好きだもんね。」 多分、男子が聞いたらぎょっとするような会話をしてるんじゃないかな? ふとそんなことを思いながらも、あたしたち3人は、この団員に見つかって捕まってもおかしくない場所で喋っていた。 まぁ、見つかっても返り討ちにしてやろうとは思ってたけど。 そして、会話が途切れた時にようやくだった。 ??:「おい!そんな変なことを喋ってんじゃねえぞ!」 ??:「聞いてるほうの身にもなってください!」 あたしたち3人に向かってこんな声が響いてきたのでした。 どこから聞いていたのか知らないけど…。 浅香:「誰だろう…?」 綾香:「さぁ?」 香玖夜:「多分、ガキだよ。」 香玖夜はこういう事をさらっと言う。 例えそれが大人に対してであっても。 ??:「こらぁ!俺はお前よりも年上だ!ガキ扱いするな!」 ??:「そうですよ、それに中学生がそんなことで盛り上がっちゃいけないですよ!」 香玖夜:「うるさい!早く口上でも言ったらどうなの?カエデにコタロウ!一体、何なのよ!」 そして挑発に乗ったスペース団員は、口上を始めるのだった。 ていうか、多分香玖夜がそう仕向けたんだろう。 カエデ:「何?この曲は!と聞かれたら…。」 コタロウ:「正直言って答えてやろう…。」 カエデ:「星の破壊を防ぐため…。」 コタロウ:「星の平和を守るため…。」 カエデ:「愛と希望の悪を貫く…。」 コタロウ:「クール&チャーミングな敵役…。」 カエデ:「カエデ!」 コタロウ:「コタロウ!」 カエデ:「太陽系を光速に飛ぶスペース団の二人には…。」 コタロウ:「シャイニングゴールド、金色に輝く明日が待ってるぜ!」 カエデ:「なぁ〜んちゃって☆」 浅香:「何しに来たんですか?」 コタロウ:「もちろん捕獲するためさ。」 カエデ:「先ほど捕虜が4人に増えました。ヒータスが捕まえた少年に続いて一人の少年と二人の少女があたしたちスペース団の 捕虜になってます。痛い目を見たくなければ、捕まった方がいいですよ。」 綾香:「嫌よ。」 浅香:「あたしも嫌です。」 香玖夜:「あたしも。それに、裏切り者は制裁があるんでしょ?」 コタロウ:「グロウ、お前、分かってるようだな。そのとおりさ。制裁は受けてもらうぞ。」 カエデとコタロウは、あたしたちの前に立ちはだかった。 背後にはいつの間にかスペース団員たちの姿がある。 浅香:「ここは戦わなきゃいけないみたいですね。」 香玖夜:「そうね。」 浅香:「それじゃ、雑魚はあたしが引き受けます。ハガネール、出てきて!」 浅香ちゃんはハガネールを出し、そのままスペース団員たちに突っ込んでいた。 綾香:「ってことは…」 香玖夜:「あの二人の相手はあたしたちね。」 あたしと香玖夜はボールに手がかかった。 すると、向こうもボールに手をかけていた。 カエデ:「少々痛い目は見てもらいますよ、チルタリス、ユンゲラー、出てきて!」 コタロウ:「少々じゃないぜ、バクフーン、バリヤード、出て来い!」 綾香:「それじゃ、マグカルゴ、そしてミロカロス!」 香玖夜:「あたしは…バンギラス、それにブラッキー!」 ポケモンが出た時にすぐ、あたしも香玖夜も、勝ったって思っていた。 カエデ:「…コタロウ、どうしよう…」 それはカエデも同じだったらしい。 コタロウ:「カエデ、びびってんじゃねえぞ!俺たちの方が強いんだ!バクフーン、先手必勝の大文字だ!バリヤードは マジカルリーフで決めろ!」 でも、コタロウは腰が引けてたけど攻撃を指示し、 カエデ:「う、うん!チルタリスは竜の息吹、ユンゲラーはサイケ光線よ!」 カエデもそれに習っていた。 でも。 綾香:「マグカルゴ、竜の息吹を火炎放射で相殺して欠伸よ!ミロカロスは大文字に竜巻!」 香玖夜:「ブラッキー、スピードスターでマジカルリーフを撃ち落して!バリヤードに騙まし討ちよ!バンギラスはユンゲラーに突進!」 あたしたちの方が強かった。 マグカルゴは火炎放射で竜の息吹を相殺し、続けて放った欠伸でチルタリスを眠らせていた。 ミロカロスの竜巻は大文字を包み、炎の竜巻になったままバクフーンを包み込んでいた。炎のポケモンに対して炎の攻撃だけど、 バクフーンがどこまであの炎の竜巻に耐えられるか…。 香玖夜のブラッキーとバンギラスは逆に勝負を有利に進めていた。 ブラッキーの騙まし討ちはすぐに成功し、一撃でバリヤードを倒し、ユンゲラーも悪タイプのバンギラスにはサイケ光線が効かず、 何もできないまま突進を受けて倒れるのだった。 コタロウ:「くそぉ!バクフーン、火炎放射だ!」 コタロウは炎の竜巻に向かって怒鳴った。 が、中で火炎放射を出しているのは、竜巻のブレで分かるものの、なかなか竜巻を貫けないらしく、一向にバクフーンから 攻撃は来る事がなかった。 綾香:「今だね。」 香玖夜:「今みたいね。」 あたしたちは目配せをして、すぐに攻撃に移った。 綾香:「ミロカロス、竜巻のブレの中心にハイドロポンプよ!マグカルゴはスモッグを同じ場所に放って!」 香玖夜:「ブラッキーは電磁砲、バンギラスは破壊光線をブレに放つのよ!」 強力な水流が、圧縮された電気の塊が、猛烈な光線が一点に集中し、同時に毒の煙が炎に引火して、大爆発が起きた。 そして竜巻が消えた場所にはバクフーンが倒れていた。 コタロウ:「バクフーン!?」 コタロウが駆け寄ろうとしたその時だった。 浅香:「ハガネール、アイアンテールよ!」 浅香ちゃんの声と共に、カエデとコタロウの上にはたくさんの団員たちが落下していた。 どうやらアイアンテールで団員をなぎ払ったらしかった。 浅香:「終わったみたいですね。」 綾香:「ええ、楽だったわよ。」 香玖夜:「あたし達の方が、レベルは上だもの。当然よ。」 あたしたちはそのままカエデたちに止めを刺そうとしていた。 でも。 ??:「破壊光線!」 誰かの声と共に、無数の破壊光線があたしたちとポケモンたちを襲い、ポケモンたちが倒されていた。 岩タイプのバンギラスやマグカルゴ、鋼タイプのハガネールまでが。 香玖夜:「何者!」 香玖夜が叫ぶと、指示したトレーナーが出てきて…、香玖夜が絶句していた。 綾香:「あなたは?」 ??:「あたしはマルトス、4幹部の一人よ。これ以上、あなたたちに勝手なことはさせないわ。」 マルトスのそばにはたくさんのノーマルタイプポケモンがいた。 グランブル、ケンタロス、カビゴン、ケッキング、ザングース、エネコロロ、オニドリル、ピジョット…。 マルトス:「先ほど電撃ガールズとか言う奴らを捕まえた。背中に羽をヒレみたいな羽を生やした少年も、セクトスが捕らえた。 お前たちがここで逃げるのならば、彼らが危害を受けることになるぞ。このまま降参した方がいい。それとも…。」 マルトスとポケモンたちは歩み寄ってきた。 マルトス:「ここにいるポケモンたちからの破壊光線を体に受けるほうがいいか?」 …あたしたちは降参するしかなかった。 降参する事に決めた直後、あたしたちの意識は途絶え、気がついたとき、あたしたちは壁に鎖でつながれていた。 そして、気を失ってる涼治君、翼先輩、久美先輩、希先輩の姿を見るのでした。 同時刻。 美咲:「コータス、オーバーヒートよ!」 拓也:「ライボルト、電撃波だ!」 美咲と拓也のポケモンの攻撃は、スパイルのヤドランとトドゼルガを一撃で倒していた。 スパイル:「そんな…お、俺のオーロラの風が…」 美咲:「どうする?このまま…うっ!」 拓也:「美咲、どうしたんだ?みさ…」 美咲と拓也はスパイルを倒した直後に突然気を失っていた。 スパイル:「ふっ、この俺をただの団員としか見ていない君たちが悪いのさ。」 気を失った二人は、スパイルが軽々と持ち上げて連れ去っていた。 数時間後。 捕まった9人と氷雨、雪美を除いたメンバーが一同に集結した。 ナナ:「氷雨さんが倒されたのは痛かったけど、ほとんどみんなが無事なのはよかったわ。」 律子:「怪我したメンバーやポケモンも、持ち合わせの薬とヒーリングで回復したのがホッとするところね。 哲也先輩の怪我もたいした事がないようだし。」 健人:「それで、これからどうするんだ?」 ストール:「殴り込みをかけるのは分かってるけど…」 蓮華:「涼治たちが捕まったのよね?」 ヤツデ:「…俺のせいだ。」 清香:「ヤツデ君だけのせいじゃないよ。ここにいる半分以上は一度捕まったり戦ったりしてるから、手の内が知られていたのも事実よ。」 玲奈:「それに、ドリームがデオキシスの力と融合した事でその力が幹部クラスの連中にも分け与えられているのよね?」 志穂:「ええ、あたしの式神が敗れたくらいだから。」 来美:「でも、戦わないといけないのよね。」 ナナ:「うん、逃げたとしても、あたしと律子がカケラを持っている以上、そしてあいつがほとんどのカケラを集めた以上、 デオキシスの完全態を封印して、再びカケラを別の場所、みんなのいた世界に封印しない限り、この戦いに終わりはないわ。」 海:「ただその鍵は…」 なずな:「炎、水、草の力…」 小麦:「なんか、ファーストポケモンの属性と同じよね?」 刹那:「だけど、その属性だった理由は分からなかったんだろ?」 律子:「ええ。アンノーンたちもそこまでは知らないらしいわ。知っていたのはこれだけ。遺跡に書かれていたのもこれだけ。 多分、もっと別の場所にその理由が記されているはずだけど、その場所は見つかっていないし…。」 結人:「でも、封印の仕方は分かるのか?」 ナナ:「それなのよね、ホウオウもルギアも忘れてるらしいし。」 ヒカリ:「伝説として伝えられている説にも封印の仕方は載ってないし…」 ユウ:「知ってるのはドリームだけだろうな。」 ライ:「そいつから聞くしかないって事か?」 晃正:「その前にやられる可能性があるな。」 海斗:「だが、捕まった奴らを人質にされたまま黙ってるわけにも行かない。俺たちで殴りこみをかけ、俺たちの力でデオキシスとドリーム を倒す以外にはないんじゃないか?」 志穂:「そうね。封印の方法は分からなくても、その能力者が現実世界のあたしたちが使う事と同じように封印したのかもしれないし、 やれるだけのことはしないと分からないもんね。」 ナナ:「そうね。…それじゃ、みんな、いい?今から殴り込みをかけるわよ。みんな、全員、同意のうえかしら?」 ナナの言葉に、元々は関係なかった渚や平和主義の小麦もうなずいた。 ここまで来たら、最後までみんなでやろう! そういう思いが全員の心にあった。 そして、数時間後。 スペース団本部に全員がポケモンと共に殴り込みをかけるのだった。 セイレーンの鈴香、天狗の結人、氷柱(つらら)女の刹那、雨降り小僧の天知が、正体を現した状態でヤンヤンマ、ヤルキモノ、ニューラ、プテラと共に 先陣を切り、プータルに乗った海と小麦が、半妖ケンタウロスの晃正が、鬼草状態の蓮華が続き、続々とメンバーが雑魚のスペース団員を蹴散らして、 本部の中に入っていくのだった。 海からも来美やヤツデ、秋一、海斗らが、空からは哲也や美香、鈴香が攻撃を開始していた。 綾香:「何か、外が騒がしいわね。」 香玖夜:「どうやら殴り込みが始まったみたいね。」 久美:「でも、大丈夫かしら?」 希:「う〜ん、幹部クラスはかなり強いから…」 美咲:「それに、奴らは何か他にも手を持ってたし…」 拓也:「俺や美咲を捕まえた方法がそれだからな。」 涼治:「何とかしてここから抜け出せればいいんだけど…」 浅香:「祈るしかないのかなぁ?」 翼:「そうかもな…」 外から見たときは小さな建物だと思った。 でも、中はとてつもなく広い。 多分、前のスペース団本部だった建物みたいに、空間が捻じ曲げられているんだと思う。 だから、部屋がたくさんあるんだと思う。 でも、気づいたらあたしは一人になっていた。 いや、あたしにはキレイハナたち41の絆が共にいるけど。 でも、少し寂しいな。 その時だった。 ??:「蓮華。」 突然背後から声をかけられた。 飛びのきながら、警戒しながら、振り向いたあたしが見たのは、涼治の姿だった。 蓮華:「涼治!捕まってたんじゃ…」 涼治:「さっき先輩たちに助けられてさ、蓮華を探しに来たんだ。」 蓮華:「よかった…。よかったよ、あたし、涼治に会えてよかった。涼治が無事でよかった。」 あたしは涼治の笑顔を見て、嬉しくて涼治の胸に飛び込んだ。 蓮華:「涼治、すごく心配だったんだよ。」 涼治:「俺もだ。蓮華、俺さ、蓮華の事すごく…」 蓮華:「すごく?」 大好きだって言うと思った。 でも。 蓮華:「すごく?」 涼治:「大嫌いだったんだ!死ね!」 突然涼治の手はあたしの首にかかっていた。 蓮華:「うっ…何…で…」 涼治:「お前がいなければ…お前がいなければ俺は…」 あたしはだんだん涼治の顔が涼治じゃなくなっていくのを見た。 蓮華:「涼治じゃ…ない…」 涼治:「そうさ、これは変装さ。お前をはめるためのな。俺は涼治と結ばれるためにお前を殺す。」 蓮華:「結ばれ……?」 あたしの意識が遠ざかりかけた時だった。 何か低い、ボコッとかのような音がして、手が首から離れ、あたしは助かった。 キレイハナ:「大丈夫?蓮華。」 音の主はキレイハナの爆裂パンチの炸裂音だった。 キレイハナ:「この狭い空間の中でゴンが出ようとしたから代わりに出てきたのよ。」 蓮華:「ありがとう、助かったわ。…あなたは誰なの?」 あたしとキレイハナ、そして危険を感じたのか飛び出してきたソルルとアゲハ、サゴッピを前にして、彼は正体を現した。 ??:「俺はヒータス、君の彼氏とは結構いい関係まで行ってるのさ。君がいるから俺はあいつと結ばれない。 あいつは俺と結ばれるためにいるのさ。俺にとって、あいつはすごく大切な奴だからな。」 蓮華:「それであたしを殺そうとしたわけ?」 キレイハナ:「人の恋愛をどうこう言う気はないけど、あなたの言葉には気持ちがない気がする。本当はまだ付き合ってないんじゃない?」 ヒータス:「いや、あいつとはドルクとは、いい関係さ。さて、キュウコンとバシャーモ、そこのうるさい奴らを倒すのを手伝ってくれよ。」 ヒータスは炎タイプのキュウコンと、炎・格闘タイプのバシャーモを繰り出してきた。 蓮華:「サゴッピ、ソルル、行って!」 あたしは格闘タイプでもあるバシャーモが相手だと分かってたけど、この通路の中で素早い動きの方が必要だとわかってたので、 この場に出てきてくれた二人に頼む事に決めた。 ヒータス:「サニーゴにアブソルか。キュウコン、熱風だ!後ろの奴らごと燃やしてやれ!バシャーモも火炎放射だ!」 蓮華:「ソルル、光の壁よ!サゴッピはミラーコート!アゲハ、キレイハナは神秘の守り!」 ソルルが後方に下がり、光の壁で炎を防ぎ、ミラーコートで大ダメージを狙うサゴッピが前に出ていた。 そして、二人がカヴァーし切れなかった攻撃は、アゲハとキレイハナの神秘の守りが防ぎきった。 サゴッピは岩・水タイプなのでダメージはあまりなかったけど、熱風と火炎放射のダブル攻撃だったので、威力はあり、ミラーコートによる威力は キュウコンとバシャーモにそれなりのダメージを与える結果になった。 ヒータス:「くっ、ならばバシャーモ、サニーゴにスカイアッパーだ!キュウコンはアブソルに怪しい光だ!」 体重の重いポケモンにスカイアッパーやけたぐり攻撃は大きなダメージを与える事ができる。 そのためにバシャーモはサゴッピに向かってきた。 でも、対応しきれないわけでもない。 蓮華:「サゴッピ、岩石封じで迎え撃って!ソルルはマジックコートよ!」 サゴッピの前に段々に並んだ岩の柱がスカイアッパーを繰り出そうとするバシャーモの前に立ちはだかり、キュウコンの怪しい光はソルルのマジックコート で跳ね返されてキュウコンが混乱することになった。 バシャーモのスカイアッパーは岩の柱を砕く事で威力が弱まり、サゴッピ自身の放ったバブル光線が、逆にバシャーモを攻撃していた。 ヒータス:「キュウコン!バシャーモ!」 蓮華:「このまま一気に行くよ!ソルル、バシャーモに威張る攻撃!サゴッピはバシャーモに水の波動!」 威張られて水の波動を受けたバシャーモは2重に混乱し、キュウコンも混乱していて、自分に攻撃をしていた。 ヒータス:「くそっ、混乱か…一か八かだ、バシャーモ、キュウコン、オーバーヒートだ!」 ヒータスは勝負に出た。 炎の大技オーバーヒートを、バシャーモはキュウコンに向け、キュウコンはバシャーモが放ったものよりもかなりレベルの高いそれを放ってきた。 蓮華:「サゴッピ、水の波動よ!ソルルはカマイタチ!アゲハ、風起こし、キレイハナはハイパーボイスで参戦して!」 キュウコンのもらい火の威力をまざまざと見せ付けられたあたしは、このままだったらソルルとサゴッピがやられるのを感じ、 アゲハとキレイハナにも応援を頼んだ。 でも、その4人でも何とか攻撃を止めるのが精一杯だったらしく、それ以上押し返す事はできずにいた。 ヒータス:「どうやら勝負は逆転したようだな。」 蓮華:「それは違うわ。絶対にあたしたちは勝つわ。」 ヒータス:「それではその希望を打ち砕いてやるよ。ウィンディ、リザードン、キュウコンに火炎放射だ!」 あたしが増員した事で、ヒータスも増員し、炎攻撃は4人と共にあたしを大きく吹き飛ばしていた。 流石のキレイハナやサゴッピも、これには負けてしまい、あたしは4人をボールに戻すしかなかった。 ヒータス:「先に増員したのはお前だからな。これで終わりだ。お前を焼き殺してやるよ。」 あたしはこの時、ヒータスに恐怖を感じた。 怖くて足がすくんでいた。 でも、負けたくないと、ずっと思っていた。 ヒータス:「一斉に火炎放射!」 攻撃が放たれた、時だった。 あたしのボールからは、あたしの思いに反応したリュウ、ゴン、アクア、コイッチが、狭い空間の中に飛び出してきたのだ。 炎はリュウとアクアの水の波動によって消え、コイッチとゴンの破壊光線が炎ポケモンたちを打ち砕くのだった。 蓮華:「みんな、ありがとう。でも、これで終わりじゃないわ。」 あたしは力を集中させ、ヒータスに向かって放った。 攻撃のための光線じゃなく、癒しと安らぎのための光線を。 もし、ヒータスが何かを勘違いしているのならば、ていうか、一度恋人をなくした復讐としてルークに首絞められただけに、 もしかしたらヒータスも何かを抱えているとしたら。 だから、試しにって言う思いも含めて放ってみた。 ヒータス:「これは…?」 ヒータスは光に包まれた。 すると、黒いモヤが放出された。 蓮華:「洗脳されてた…?いや、これは洗脳をといた時のモヤじゃないわね。」 何なのかは分からないけど、ヒータスからモヤが放出し、そして光が収まった。 あたしはポケモンを戻し、ヒータスのポケモンも戻すと、彼を起こしてみた。 これ以上の戦いはないと思ったからだ。 ヒータス:「ん…、!!」 蓮華:「大丈夫?」 ヒータス:「何で俺を起こしたんだ?また殺されるとは思わなかったのか?」 蓮華:「いいえ、もう戦わなくてもいいとおもったからよ。あなたから黒いモヤが出たのはどうしてなの?洗脳されていたの?」 ヒータス:「いや、俺は洗脳された覚えはない。だが一つ言おう。今光に包まれたことで、一つだけはっきりした事がある。」 蓮華:「何?」 ヒータス:「俺はスペース団を辞める。そして、トレーナーの一人として、ある奴と…お前の彼氏と友情を誓いたい。」 ヒータスは、あたしの放った光によって間違った想いをしていたことを光の中でみた幻によって知ったらしい。 その幻が教えてくれたらしい。 あたしはそこまでやった覚えはないけど、あたし自身、癒しと安らぎの思いを込めた光の力は、たまに不思議なことを起こすのだ。 だから、未知数のこの力が、ヒータスに何かを示したのだろう。 彼が言うには、今までホモ的なことは他の団員と色々やっていたらしいけど、涼治とは何もしていないらしい。 恋愛とは違う、別の何かの感情を涼治に持っていたという。 それが友情だと気づかず、ヒータスは涼治にアプローチをしたり、愛だと思って攻撃したり、翻弄したりしていたが、 なかなか涼治には深く関係を持とうとは思えず、そして悩みすぎた結果、あたしを殺すって言う結論にいつの間にか考え付いていたらしい。 友情と愛の取り違いによる考え過ぎとそのことに関する悩みが、自分の知らないうちにドリームの力を取り込んでいたのかもしれないけど。 ヒータス:「ソルロック、テレポートだ。」 ヒータスはあたしにそう言い残すと、ソルロックを出して姿を消した。 同時刻。 捕まってる涼治たちのところにヒータスが現れるのだった。 涼治:「お前!」 美咲:「ヒータス!」 拓也:「何しに来たんだ!」 涼治、美咲、拓也が警戒する中、香玖夜は察していた。 そして綾香と浅香も香玖夜の表情を見て察した。 香玖夜:「あたしたちを助けに来たんじゃない?」 綾香:「あなたの本当の感情を見つけたんですよね?」 浅香:「本当は涼治先輩に抱いていた感情は、愛情ではなくて…」 香玖夜:「友情だったんでしょ?」 涼治:「マジかよ…」 香玖夜たちの言葉に涼治が絶句した。 ヒータス:「グロウには知られてたんだな。そういうことだ。」 ヒータスはそう言いながら、9人を拘束している鎖を解いた。 ヒータス:「ドルク、いや、涼治、今まですまなかった。」 涼治:「…」 ヒータスは涼治に深々と頭を下げて謝罪していた。 そして、今度は友情を誓いたいと言った。 でも。 涼治:「悪い、まだお前のことを信用しきれない。」 と、涼治は断るのだった。 ヒータス:「そうか…。」 彼は再びソルロックのテレポートで姿を消した。 久美:「さてと、あたしたちも行動を開始しましょうか。」 希:「そうね、あたしたち全員のポケモンを取り返さないとね。」 翼:「そうだな。…涼治、あれでよかったのか?」 香玖夜:「彼の目はスペース団員のときよりも透き通っていたわよ。」 綾香:「自分では罪悪感を感じてるんじゃないの?」 涼治:「…別に。」 翼たち3人の言葉が正解だと感じている涼治だったが、それでも今は何も言えないのだった。 そして9人も動き出した。 その頃。 スペース団本部がよく見える、海岸近くの岩場に泉はいた。 泉:「時が動き出した、か。」 本部の内部事情は分からないながらも、人魚の泉は全てを察していた。 泉:「そろそろ、あたしも動いた方が良さそうね。…雪美、双葉、いるんでしょ?」 雪美:「泉さんにはバレバレですか…」 双葉:「流石はあたしたちよりも長く生きてるだけあるわね。」 泉の声に、成り立て雪女の雪美と、氷雨の妹分の古椿の双葉が姿を現していた。 泉:「雪美ちゃんが氷雨の代わりに入って、ようやく3人官女が揃ったわね。」 雪美:「あたしたちができること、それは…」 双葉:「みんなを守り、導く事ね。」 泉:「ええ。あたしたちも行くわよ。」 泉、雪美、双葉は吹雪と共に姿を消した。 何かが始まろうとしているかのように、ナナシマ列島を、暗雲が立ち込め始めていた。