夜のクチバ銀行の地下一階、金庫室。 深夜0時。 金庫の前に一人の青年が舞い降りた時だった。 ナナ:「そこまでよ、クールナイト!」 金庫室内に明かりが灯り、青年、怪盗クールナイトはサーチライトに照らされていた。 ナナ:「今日で4件目ね。大好きクラブ会長がこの金庫に入れている金のステッキは、既に他の場所に保管したわよ。 あなたはわざわざ捕まるために、ここに来たの。おとなしく捕まりなさい!」 ポケモン警察とナナは、クールナイトに徐々に近づいていった。 警察犬ガーディも怪盗に近づきつつある。 だが。 クールナイト:「やはりそうだったのか。わざわざ来ただけのことはあったようだな。お嬢さん、教えてくれてどうもありがとう。」 彼は怯む様子がなかった。 ナナ:「怪盗にお礼を言われるほど、落ちぶれてないわ。これであなたも終わりよ!」 クールナイト:「いや、それは違うね。クールマジック!」 そして。 彼が指を鳴らすと、突如スプリンクラーが作動し、それと共に冷たい風が吹き荒れていた。 ナナ:「きゃあっ!」 スプリンクラーの水がガーディたちを弱らせていく。 クールナイト:「さて、今日はこのくらいにしておくよ。また会おうね、お嬢さん。ターゲットは貰っていくからね。」 ナナとポケモン警察が水と涼風によって起きた吹雪にやられている隙に、クールナイトはまたしても、姿を消すのだった。 数時間後、このようなメモが大好きクラブの入り口に張られているのだった。 『大好きクラブ会長様、クチバ銀行ロッカールームに保管されていた、あなたのゴールドステッキは、約束の時間を少し遅れましたが、 先ほど頂いて参りました。アディオス 怪盗クールナイト』 怪盗編 2.怪盗の理由と決意!セキエイ高原の決戦 蓮華:「嘘、それじゃまたなの!」 律子:「そうなのよ。またやられちゃって、これで4件目。会長さん、がっかりしてたよ。」 部活が休みの日、偶然哲兄と久美ちゃんも休みが重なり、一緒にゆっくり朝食を取っていたら、律子がドアを通って 駆けつけたのだった。 哲也:「何の話なんだ?」 久美:「そういえば、前に夜遅くに向こうに行ったわよね?何があったの?」 蓮華:「あ、それはね…」 実はあの怪盗の話は、まだ舞さんにしか話してなかったのだ。 哲兄に言えば危ない事はするなって言うだろうし、久美ちゃんも舞さんを心配させるなって言いそうだったから。 そして、その予想は当たったのでした。 哲也:「どうしてそんな危ないことをしたんだ!」 久美:「あたしたちに言ってくれたらよかったのに…。舞さんが心配してるかもしれないじゃない。」 蓮華:「ごめんなさい…。」 予想通り、哲兄はかなり怒っていた。 が。 哲也:「それで、そいつは風使いなのか?」 律子の話を聞き、興味を示してもいた。 ただ…、律子の話にはとんでもない爆弾が含まれていた。 律子:「ええ、ナナが言ってたから確かよ。涼風の能…」 蓮華&哲也:「涼風!?」 涼風といったら、あたしの彼氏であり、哲兄の後輩でもある涼治の能力である。 律子:「やっぱり驚いたか…」 爆弾を落としたのはわざとだったようだ。 蓮華:「それじゃ犯人って…」 哲也:「あいつ、全く、何やってんだ!」 久美:「ちょっと待って、涼治君が犯人とは限らないじゃない。向こうの世界にも能力者はいるのよ。」 律子:「でも、実際に能力者であることを隠してる人もいるから微妙なのよね。」 あたしたちは何も言えず、無言になっていた。 でも、あたしが会ったあの人は、涼治とは違う気がする。 何となくだけど、涼治よりも少し年上な感じだったし、涼治が怪盗になる理由なんてないはずだよ…。 しかし。 哲也:「ここでこうしていてもしょうがないよな。」 哲兄は朝食もそこそこにして飛び出して行ってしまった。 律子:「あ〜、修羅場が起こるねぇ〜」 しみじみ言う律子だけど、わざとらしさが滲み出ていた。 哲也:「ちょっといいか?」 部活中の出来事だった。 練習としてミニゲームを始めた時、間違ってボールが体育館の外に転がってしまった。 そして、他の部員が取りに行こうとしていた時、そのボールが狭く開いていたドアから誰かに投げられたらしくて入ってきて、 ゴールにうまくシュートされていたのだ。 こんな事が容易にできるのは一人しかいない、多分先輩が来たんだろうな、と思っていた。 すると、予想通り、入ってきたのは哲也先輩だった。 突然の訪問に驚く俺たちだったけど、その哲也先輩は俺に用があってきたみたいだった。 涼治:「博也、ちょっと後を頼むな。」 博也:「ああ。…涼治、お前、桜笠に何かしたんじゃないか?」 涼治:「そんなわけないだろ、それじゃ、頼むからな!」 俺は博也と俊義に後を任せて哲也先輩の後をついていった。 すると、後者の裏庭まで来ていた。 哲也先輩はどこか怒っている様な感じだった。 涼治:「先輩?どうかしたんですか?」 哲也:「いや、ちょっとな。昨日の夜、お前はどこにいたのか。ここ最近の事も話せ。」 涼治:「えっ?」 哲也:「いいから話せ。」 ヤバイって思った。 哲也先輩が命令口調の時は口答えするとヤバイ。 しょうがなく、話すことにした。 昨日は勉強をしていたし、その前はポケモン医学の医学書を読んでいた、と。 哲也:「本当にそうか?嘘じゃないな?」 涼治:「どうして俺が先輩に嘘をつかなきゃいけないんですか?」 哲也:「確かにそうだよな。」 すると、哲也先輩は怒るのを突然やめていた。 哲也:「悪いな、疑ったりして。」 涼治:「あの、一体何なんですか?」 哲也:「実はな、最近向こうの世界で怪盗が現われてるらしくてさ、そいつ、涼風の能力者なのさ。」 涼治:「え…」 哲也:「でも、お前じゃなかったんだよな。悪かったな。」 哲也先輩は謝罪してすぐに帰っていった。 でも。 先輩が帰ってからも、俺は少し落ち着かなかった。 何故なら…。 ??:「よかったわね、ばれてなくて。」 突然背後から声をかけられて驚いた。 涼治:「うわぁ!……なんだよ、フラウ、おどかすなよ。」 そこには木の幹から顔を出した女性が、こっちを見て笑っていた。 フラウ:「ちょっと、何度も言ってるじゃない、その名前はここでは言わないでって。あたしは双葉。」 涼治:「悪い悪い、双葉さん。」 彼女は妖怪の古椿の双葉さん。 でも、最近はフラウっていうコードネームも持っている。 双葉:「それで、どうするの?これから。あなたがクールナイトって事がばれかけたのよ。続ける?」 涼治:「当たり前だろ、先輩たちを騙すのは気が向かないけど、俺は使命を果たすまでは続けるって決めたんだ。」 先輩に言われて動揺した理由、それは、俺が怪盗クールナイトだからだった。 こんなことになったのには、このような理由があった。 一週間前のことだ。 ヤミラミについて調べるために、俺はポケモン世界に行き、偶然イワヤマトンネルでヤミラミを発見し、ゲットした時だった。 ジョーイさんに預けていたヤミラミが帰ってきたけど、ジョーイさんが言うには、ヤミラミは元気がないらしくて、ポケモン 医学でも、その理由は分からないと言ったのだ。 でも、俺がヤミラミのボールを貰い、出してみた時にはヤミラミは元気に俺に飛びついてきたのだ。 ジョーイ:「おかしいわね、機械の異常かしら?さっきまですごく元気がなかったのよ…。」 涼治:「でも、今は元気なので大丈夫だと思います。ジョーイさん、この本、また借りていいですか?」 ジョーイ:「ええ、いくらでもどうぞ。読みたい医学書があったらまた言ってね。」 ジョーイさんが機械の点検に向かうと、俺もヤミラミの様子を確かめていた。 でも、どこも悪い場所は見当たらず、フレンドボールでゲットしたせいか、俺にすごく懐いていた。 涼治:「おいおい、そんなに動くなよ。…あれっ?それ、何だ?」 俺はヤミラミが黒っぽい種みたいなものを持っているのに気づき、手に取ってみた。 すると、それは蒸発するように消滅して消えていた。 涼治:「あれっ?何だったんだ?」 全くわけが分からずにいた。 でも、一応ヤミラミが元気だったからボールに戻し、ポケモンセンターを後にしようとしていた。 そんな時、俺の目の前に現れたのが、この3人だった。 双葉:「涼治君、なのよね。」 泉:「どうする?頼む?」 雪美:「頼む以外にないですね。」 俺たち能力者を導く使命を持った妖怪3人官女だった。 古椿の双葉さんに、人魚の泉さん、そして日本中の妖怪を数時間で牛耳った成り立て雪女の雪美さん…。 涼治:「あの、俺に用っすか?」 双葉:「ええ、ちょっといいかな?」 泉:「涼治君にしか頼めない事みたいなの。」 俺は話を聞いた。 すると、とんでもなく厄介な話だった。 ナナシマ事件の時、封印される直前にドリームは無数の黒い物体を外に放ったらしい。 それらを双葉さんたちは外で待ちうけて消滅させたらしいのだが、それでもいくつかを消せずに終わってしまったらしい。 そしてそれらを探し、調査した結果、それらは一見すると黒い種のようだが、実は周囲のマイナスエネルギーを吸収して大きくなり、 ドリームの分身を作りかねないものに変化するらしい。 どうやら試しに行って、現実世界で妖怪たちの力で何とか消滅させたらしい。 それがポケモン世界の至る所に散らばってしまっているという。 それを探していて、ついさっき俺のところに来たらしいのだが、どうやら、ヤミラミが元気じゃなかったのは、あの種を持っていたかららしかった。 泉:「あの種を消滅させるには、あたしの水の力や、双葉のソーラービームみたいな力じゃ無理なのよ。雪美の起こした吹雪でも 消えなかった。力が衰えただけだったの。でも、涼治君が触れたら消滅したの。だから、手伝ってくれない?」 双葉:「あたしたちがサポートしてあげるから、やってくれないかな?」 雪美:「ゲートなら、あたしたちが作れるから。」 断ろうと思っていた。 でも、断る前にヤミラミが、3人に握手して、俺を頷かせたのだった。 ポケモンはボールの中では寝ているとは限らず、ちゃんと周囲の声を聞いたりしているのだ。 そして元気で活発なヤミラミはずっと俺たちの話を聞いていたわけで、俺が断ろうとするのを止めて、俺の代わりにやると主張していたのだった。 ヤミラミは黒い種の犠牲になりかけたのだから、今後の被害を防ぎたいと思うのは当たり前だった。 そのため、俺は断るわけには行かず、結局俺が回収する事になったのだった。 でも、あまり乗り気じゃなかった。毎日を忙しく続けている俺に、そんなことがやれるかよって思っていた。 そしてさらに、3人が見つけてきたリストの回収品を見たとき、明らかな無理さ加減を感じたのだった。 涼治:「あの…これって…」 双葉:「そうなのよね〜。」 泉:「まさかこんなにも博物館や美術館の展示品に可能性があるなんて思ってもみなかったの。でも、これらを無視しておくわけには いかないでしょ?ドリームが再来する事を防ぐためにも、涼治君、やるしかないのよ。」 だけど、それでも展示品を普通に手に取るわけには行かないし…。 だったらどうやって回収するべきなのか…。 そう思っていたら、双葉さんがひらめいた。 双葉:「こんなのはどう?どうせなんだし、怪盗になっちゃったら?あたしたちの力をあげるから、やってみなよ。」 そして、俺は流されるまま、やることになったのだった。 でも、それでも乗り気なんか、なるはずがない。 しょうがないかっていう、渋々感が強く残っていた。 やる気なんて、一欠けらさえもなかったのだ。 俺以外のヒマな奴に頼めばいいんじゃないのかって思ってた。 でも…。 双葉:「決まった時は、渋々感が強かったけど、2件目からは妙にやる気になったのよね。それってどうしてなの?」 俺が部活に戻ろうとすると、双葉さんが聞いてきた。 双葉:「あたしも泉も雪美ちゃんも、敢えて聞いてないけどさ、一応教えてくれないかな?あの時、怪盗を始めた日に起きた 事件と関係あるんでしょ?」 涼治:「ええ、実は…」 ハナダの美術館で「水晶の雫」を取り、そして双葉さんたちが作ったゲートまで戻ろうとした時だった。 すぐに処理した方が楽かなって安易な気持ちで黒い種を出そうとした俺は、上空で突風に煽られ、バランスを失ってしまった。 そのため、黒い種は俺の手から転がり出てしまい、地上の方に落ちてしまったのだ。 涼治:「やべっ!」 俺が慌てて取りに行った。 でも、すぐに見つかるだろうって気楽な気持ちでいた。 下でとんでもないことが起きていたなんて知らずに。 ひび割れて穴の開いた壁、割れた窓ガラス、壊されたり傷付けられたりして滅茶苦茶になっている室内。 花が咲き乱れていただろう荒れ果てて燃え尽きた花々、柵が引き抜かれ、辺りに散らばっている。 ドアは蹴破られ、地面に横たわっている。 そして、割れて散乱している食器の数々、元は綺麗に盛られていただろう料理の数々。 子供が描いたと思われる絵がビリビリに破かれ、玩具や服が壊され破られた状態で落ちている。 多分、日常の暖かい家族の夕食の図、のような感じだったのだろう。 しかし、俺が見たのは、子供や奥さんらしき女性を殴り、暴れまくっている男が、部屋を荒らしているところだった。 椅子などの物を振り回し、壁や家具にあて、家具を持ち上げて床に叩きつけている。 子供は呆然としていたり、泣き出したりしているし、奥さんらしき女性も「どうして優しいあなたがこんな事を…」と言っていた。 子供:「お父さん、やめてよ…何で…」 父親:「うるせえ!俺に指図するな!」 子供が父親らしき男に殴られるのを目の当たりにした。 父親らしき男は、自分の子供が相手だというのに、容赦なく暴力を加え、守ろうとした奥さんらしき女性にも殴りかかっていた。 すぐに分かった。 幸せな家庭が、黒い種によって破壊されたのだった。 俺が安易な気持ちで処理しようとして落っことしたという、俺のミスのために。 駆けつけたポケモン警察にその人が逮捕されていくのを、俺は黙って見ているしかできなかった。 怪盗の姿ではなく、野次馬として、その様子を見ていることしか…。 飛び出すことも、守ろうとすることも、しようとすればできたのに…、なのに…。 俺は…何もできなかった。 種は何とか回収した。 ヤミラミが野次馬も警察も、その家族も全員を催眠術で眠らせたからだ。 その間に種を回収する事は容易にできた。 でも。 種を今回収して何になるって言うんだよ。 俺が一つの家庭を破壊した事に他ならないんだ。 俺が昔受けた行為を、母親に受けた虐待と同じ行為を、自分とは関係ない、しかも幼い子供に受けさせ、心に傷を作ってしまった。 俺は何もできずにいて、種を回収したまま、ずっとその家を眺めていて、そして様子を見に来た双葉さんたちと合流した。 双葉さんたちは呆然としながら泣きはらした俺の様子を見て驚いていたが、何も聞かなかった。 聞いてこなかった。 それだけでも、俺はつらかった。 責められた方が、気が楽だったと思う。 そして、結局双葉さんたちには何も話さず、ただ、あの家の事件を収めて、彼らが再び幸せな生活をできるようにしてほしいと、俺は頼んだ。 そのおかげで、あの家は元に戻っている。 ポケモン警察も知らない。 周囲の家も、あの家族も、何が起きたのかは覚えていない。 子供が父親に問答無用で殴られた事も。 あのときの事件に関する記憶を、泉さんたちが他の妖怪たちと一緒に書き換えたのだから。 でも、その時から俺は決めていた。 黒い種がどれだけ小さくても、人に触れただけで幸せを破壊してしまう事は変わらない。 俺が起こしたミスだって、誰も知らなくても、俺の中には残る。 忘れようとしても、忘れる事はできない。 俺が渋々と作業をしたために、こんな事が起きてしまったのだから。 だから、俺は、怪盗クールナイトとして使命を果たすまでの間は、怪盗になりきり、失敗を起こさず、使命を果たし続けようと決めたのだ。 たとえ、ポケモン警察や、同じ能力者たちが、蓮華が相手になったとしても、他人として接して、使命を果たすと。 これ以上、人の幸せが消えないためにも、悪い結果にならないためにも。 俺は、怪盗クールナイトをやめない。 双葉:「ふぅ〜ん、あの時あたしたちに泣きついてきたのは、そういうことだったのね。それなら話も分かるわ。 あの時以来、あなたは2件目からの3件を、別の自分として、あたしたちが驚くくらいに使命を全うしているもの。 でも、こういうことはあたしたちにちゃんと言いなさいよ。あたしたちは涼治君のサポーターなんだから。」 涼治:「はい…、すいませんでした。」 双葉:「よろしい。…そろそろ戻らなきゃいけないんじゃない?」 涼治:「あ…」 気づけば先輩が帰ってから30分以上経っていた。 帰らないとまたペナルティ地獄だ…。 涼治:「それじゃ、また後で。」 双葉:「ええ。また、夜ね。予告状は既に送ってあるから。」 俺は双葉さんの言葉を背に、体育館に戻るのだった。 でも、結局サボっていたと思われ、博也から罰周グランド20周を言い渡されてしまった。 不平を言いかけたために、筋トレ各種を20回ずつも増えてしまったし…。 蓮華:「涼治じゃなかったんだぁ、よかったぁ〜。」 久美:「あたしも同感。それに、涼治君の力じゃゲートを開けるのは無理だもんね。」 哲也:「そうだよな、そういえば。」 哲兄が帰ってきて、涼治の無実が分かり、あたしは安心していた。 でも、また再び、律子がやってきたのだ。 今度はポケモン世界につながるドアから。 律子:「大変だよ!また予告状が来たの!」 あたしたちは驚き、律子の持っていた予告状を見た。 律子:「ナナにお願いして、コピーしてきたの。」 『セキエイ高原ポケモン四天王、ワタル様、今宵深夜0時にあなたのカイリュウの入ったモンスターボールを、 必ず、頂きに参ります。 怪盗クールナイト』 律子:「今回はセキエイ高原で療養中のワタルさんのポケモンが狙いよ。既に警察とナナは動いてるわ。先輩方や、 蓮華も協力してくれない?もうこれ以上、怪盗に好き勝手に動かれたくないのよ。どう?」 律子は初めからそれを言いに来たのだった。 でも、あたしたちが断る理由は全くない。 蓮華:「もちろん行くよ、ハナダでは捕まえ損ねたし。」 哲也:「今日は俺も行くぞ。翼や健人たちにも声をかけようかな。」 久美:「あたしも行く。来美ちゃんもそろそろ帰ってくる頃だし、希と一緒に電撃ガールズとして行くわよ。」 あたしはもちろん、哲兄や久美ちゃんはやる気だった。 律子:「分かったわ、それじゃ、あたしは先にナナのところに行ってるから。」 そんなわけで、あたしたちは今度こそ、クールナイト捕獲に動こうとしていた。 その話を、外の木々に混じって、双葉が聞いていたとは、誰も気づいていなかった。 涼治:「えっ…?…先輩たちが!?」 双葉:「らしいよ、今日は慎重に行かないとね。」 涼治:「そうだな…、今日のターゲットが元々厄介だ。今日はポケモンたちも総動員で行くべきだろうな。」 双葉:「ええ。…泉と雪美は先に向かってるから、あたしたちも行きましょ。」 涼治:「ああ。」 俺は雪美さんから貰った力で年齢を3つほど上げ、双葉さんに貰った力で一見したところでは俺だと分からないように変装した。 そして、双葉さんの開けたゲートを通り、セキエイ高原に向かった。 相手が蓮華でも、俺は動揺しない。 相手が誰であっても…。 ナナ:「今日は大人数ね。」 カンナ:「4の島からも6人加勢に来てくれたし、ワタルも安心してるわ。」 蓮華:「でも、これだけいたら少し多すぎない?」 ナナ:「これくらいいたほうがいいと思うけど?」 蓮華:「まあ、そうだけどさ…」 あたしたちがセキエイ高原に駆けつけると、そこには先週別れたヒカリ、ユウ、ライ、セイラム、ブラスト、ルイトスがいたのだ。 あたしの方も、香玖夜と綾香、哲兄と翼先輩、久美ちゃんと希ちゃん、そして来美ちゃんがいた。 ナナ:「四天王のうち、シバさんは修行で、キクコさんはオーキド博士ととの久々の旅行でいないから、ちょうどいいのよ。 連絡を入れたけど、今日のうちには帰れないしね。ま、キクコさんはワタルさんが無理を押して出かけないためにはカイリュウが 一時期、手から離れてればいいって、取られる事を見越したことを言ってたけどね。」 カンナ:「そうなのよね、スペース団によって受けた傷の療養が先決なんだもの。でも、盗まれてしまったら、そうなった方が ワタルの容態が悪化する気がするの。だから、できれば取られたくないわね。」 カンナさんは取られたくない、キクコさんは取られてもいいって、何か微妙な気分だった。 でも、あたしたちは取られるわけには行かないのだ。 これ以上、怪盗の仕事をさせないためにも。 セキエイ高原にあるポケモンリーグの会場としても使われる建物の医療センターで、今ワタルさんは療養していた。 そして、そこにワタルさんのポケモンたちも預けられていた。 でもワタルさんのカイリュウのボールだけは、ワタルさんが持っていた。 あたしたちは盗まれないためにも、医療センターの至る所に立ち、歩き、怪盗が来るのを待っていた。 涼治:「そっか、シバさんとキクコさんはいないのか。」 泉:「らいいわよ、ターゲットはワタルさん自身が持ってるみたい。でも、これ以上持ち続けていたら彼の怪我が悪化する可能性が高いわ。」 雪美:「だから失敗は許されないわよ。」 涼治:「分かった。」 もう誰かが傷つく事は、苦しむ事は起こさせない。 傷ついても、それは俺だけで十分だ…。 哲也:「怪盗ってさ、どんな奴なのかな?」 翼:「さあな。でも、同じ風の能力者だ。捕まえてしっかり教育してやらないとな。」 哲也:「ああ。」 ここにはポケモン警察の警官や、警備員もたくさん配置されていた。 俺たちもいて、至る所に警官や警備員がいて、この状態で本当にやってくるのかな? そう思っていたとき、空中を何かが通り過ぎた。 来たかと思ってみたが、エアームドが通り過ぎただけだった。 哲也:「何だ、エアームドか。」 翼:「こんなところにもポケモンがいるんだな。でも、夜遅くにエアームドとは、珍しいよな。」 哲也:「ああ。」 確かエアームドは夜は飛ばないはず…。 確か、本で読んだ覚えがある。 翼:「哲也、あのエアームドが怪しい気がするんだ。」 哲也:「…お前、ポケモンウォッチャーだしな。追いかけてみるか?」 翼:「ああ。」 俺と哲也はエアームドが飛んでいった方向に向かった。 すると、そこにはユウとブラスト、ルイトスの姿もあった。 ユウ:「二人もエアームドを見てきたのか?」 翼:「ああ。」 哲也:「翼はウォッチャーだからな、エアームドは普通、夜は飛ばないらしいんだ。」 ブラスト:「俺たちもそれで来たんだ。」 ルイトス:「しかし、ここで見失った。」 哲也:「一体、エアームドはどこに行ったんだ?」 ??:「ここだよ。」 声がしたほうを見た。 すると、そこにはエアームドを肩に乗せた青年が立っていた。 顔を布で覆っている、白衣の青年…。 翼:「お前が怪盗クールナイトか?」 クールナイト:「ご名答、俺を捕獲に来たらしいな。ご苦労様とでも言っておこうか。」 青年は、俺たちを笑っているような目をしていた。 哲也:「一つ聞きたい、どうして能力者の力を悪用するんだ!」 クールナイト:「悪用?俺は悪用しているつもりはない。」 翼:「それならどうして怪盗になったんだ!お前は何者だ!」 クールナイト:「俺はクールナイト以外の何者ではない。エアームド、エアカッターだ。」 エアームドがエアカッターを俺たち、ではなく、地面に放った。 すると、地面には罠が仕掛けられていたらしく、地面から現われた網によって、俺たちは全員、木に吊るされてしまった。 ユウ:「おい!何すんだよ!ボーマンダ、網を切れ!」 ルイトス:「ノクタス、怪盗を捕まえるんだ!」 ブラスト:「マグマラシも行け!」 ユウたちがポケモンを出すが、ノクタスはエアカッターですぐに倒されてしまっていた。 ボーマンダやマグマラシも動きが鈍く見える。 クールナイト:「悪いが、俺は忙しいんだ。それに、君たちのポケモンは既に戦えないんだ。悪いな。」 クールナイトが指を鳴らすと、出たばかりのボーマンダとマグマラシは地面に崩れ去るのだった。 そして、クールナイトのそばにはヤミラミが姿を現していた。 ルイトス:「どうやら、姿を隠したヤミラミが攻撃を与えていたようだな。」 クールナイト:「ご名答、それじゃ、僕は急ぐから。その網は特殊加工だからね、どうなっても炎や風の力では切れないよ。 僕の活動が終わるまで、そこにいるんだな。」 哲也:「待て!悪はどうなっても悪だ!分からないのかよ!」 クールナイト:「…残念だけど、あなたには僕の気持ちは分からないだろうな。傷つくのは僕だけで十分な事も…。」 怪盗は行ってしまった。 翼:「やられたな。」 哲也:「ああ。」 ユウ:「ナナが捕まえ損ねるわけだ。」 ルイトス:「俺たち5人でかかって駄目だったくらいだからな。」 ブラスト:「だがあいつ、どこかで見た気がするんだよな。」 ユウ:「本当か?」 ブラスト:「いや、そんな気がするだけかもしれない。」 実は涼治がドルクだった時に、涼治とブラストはすれ違った経験が3回あったのだ。 でも、すれ違っただけだから、ブラストが覚えていないのは当たり前なのだ。 哲也:「それにしても、最後にあいつが言った言葉はどういう意味なんだ…?」 ヒカリ:「えっ?ブラストたちとの連絡が途絶えたの?」 ライ:「ああ、セイラムが言ってた。しかも、セイラムもアタイとの通信の途中で途絶えた。」 ヒカリ:「セイラムも…?それはおかしいわね、あいつはいけ好かないけど、カンナさまの頼みを途中で放り出す奴じゃないもの。」 ライ:「ちょっとセイラムのところまで行ってみるか?」 ヒカリ:「ええ。」 あたしはライの案内でセイラムがいるところまで向かった。 すると、セイラムが頭を残して氷漬になっているのを見つけた。 ヒカリ:「…どしたの?」 セイラム:「…言いたくないけど、ちょっとかっこいい男が来て、ポワ〜ンってなってたらこうなってた。」 ヒカリ:「かっこいい男?」 ライ:「ヒカリ、反応する場所が違うだろ。セイラム、その男が怪盗なのか?」 セイラム:「ええ、多分。」 その時、誰かが気配を消して歩いてくるのを感じた。 ヒカリ:「誰!」 セイラム:「あ、あたしがさっき会った奴だ。ちょっと、元に戻しなさいよ!」 そこには顔を布で覆った青年が立っていた。 白衣を肩に担ぎ、黒のタンクトップとパンツを着ている、銀髪の青年…。 セイラムがポワ〜ンってなるわけだ…。 あたしもなりそうだったもん。 ヒカリ:「あなたが怪盗なの?」 クールナイト:「ああ。お嬢さんたち、君たちと戦う気はない。しばらく、そうやって動かないでいてくれれば嬉しいな。」 何のこと?って聞こうと思った。 でも、すぐに気づいた。 あたしとライの足が氷で覆われたのだ。 突然の事で驚いた。 ライ:「い、いつの間に…!?」 ヒカリ:「やってくれるわね。」 モンスターボールも凍らされていたのだから、手の施しようがない。 そう思ったとき、周囲を照らしていたライトが一斉に消えた。 クールナイト:「さて、フィートがうまくやってくれたらしいな。お嬢さん方、いつか再び会いましょうね。アディオス!」 青年の気配が消えた。 行ってしまったようだ。 ヒカリ:「絶対に捕まえよう。」 ライ:「アタイも同感。」 セイラム:「だってかっこいいもんね〜。」 ヒカリ:「それもあるけど…、何か、全部見透かされてるみたいだし。」 ライ:「そうだよな、あいつを負かしてやりたくなった。捕まえてあの顔をしっかり見てやろうぜ。」 その後、久美と希の電撃ガールズが、来美が、クールナイト(涼治)と出会ったのだが、ガラガラに、ライボルトにポケモンを倒され、 足止めを受けてしまったのだった。 蓮華:「ナナ、哲兄や久美ちゃんたちからの通信が途切れたって?」 ナナ:「ええ、外にいる警官、警備員たちからの通信もないのよ。真っ暗になって、予備電源が働いてるおかげで医療センターに 影響はないけど、そうなってからの通信が全く入ってこなくて…」 綾香:「今こうして内部で怪盗を足止めする以外に方法はないのよね。」 そこに通信が入ってきた。 ??:「応答してください!こちらB−12区、怪盗クールナイトを捕獲しました!今そちらに連れて行きたいのですが、 よろしいですか?」 医療センターの入り口のドアは電動式で、今は電気を入れてないので開かないのだ。 ナナ:「良いけど…本当に捕まえたの?」 ??:「はい、警備員一同で押さえ込みました。今連れて行きます。」 通信が切れ、数分後、7,8人の警備員が入ってきた。 そして、あたしが前に会った青年が担がれていた。 そして、警備員の一人が言った。 警備員:「捕まえた時に怪盗が持っていたモンスターボールです。既に盗み終えたと言っていましたので、確認をお願いします。」 ナナ:「ええ。」 ナナとあたしと綾香は、警備員から貰ったボールを開けてみた。 すると、中からはドガースが出て、突然スモッグを放出したのだ。 ナナ:「ゴホッ、ゴホッ!何、これ…」 蓮華:「煙たい!アゲハ、吹き飛ばしで煙を吹き飛ばして!」 綾香:「ドクケイル、あなたもお願い!」 あたしと綾香のポケモンが煙を吹き飛ばすと、さっきの警備員の姿はなく、制服がその場に落ちていた。 そして他の警備員は気を失っている上、あの怪盗が人形だった事も分かった。 綾香:「これってさ、警備員を操って、警備員に変装して、ここに入れるように仕向けたってこと?」 蓮華:「みたいだね。…って、ワタルさんの部屋に急ぐよ!」 ナナ:「ええ。」 あたしたちは病室に急いだ。 しかし、エレベーターの電源が切れている上、エスカレーターは逆流している始末、その上階段は全部凍っていた。 ナナ:「またやられたわ…、香玖夜ちゃんに任せるしかないわね。」 そして、ワタルの部屋の前では、既に香玖夜が気を失っていた。 ちょうど、深夜0時のことだった。 ワタル:「お前がクールナイトだな。」 クールナイト:「そうだ。そのモンスターボールを渡してもらおうか。」 ワタル:「誰がお前に渡すか!」 クールナイト:「そうか、ならば、力づくで渡してもらおう。ヤミラミ、催眠術だ。」 ワタル:「なっ…、やめ…ろ…」 ワタルは突然目の前に現れたヤミラミによって気を失った。 クールナイト:「さて、ボールは頂いていくよ。」 『四天王ワタル様、カイリュウ入りのモンスターボール、頂きました。 アディオス  怪盗クールナイト』 クールナイト:「フラウ、アクエリ、スノウ、任務は終わったよ。」 医療センターの屋上に出ると、俺はインカムで3人に連絡を取った。 クールナイトでいる間は、インカムで通信する時、誰に聞かれているのか分からない。 だから、3人はコードネームを使っていた。これなら、ばれることはないだろう。 それにしても、今日の任務は大変だったと思う。 蓮華たちをドガースのスモッグで足止めできてよかった。 哲也先輩たちには悪い事をしたな。 でも、ああするしかない。 俺が怪盗としての仕事を全うするには、先輩たちは邪魔な存在でしかないから。 このボールを含み、双葉さんたちと一緒に消した種は7つ。 俺が偶然消した種と、双葉さんたちが消した種、そして、5件の怪盗としての任務によるもの。 後残っているのは6つらしい。 何とかして、早く終わらせたいものだな。 クールナイト:「(我が力よ、翼を具現化せよ、翼よ、ハンググライダーに変われ!)」 心の中で強く思い、俺は戻ってきたエーフィのフィートとヤミラミをボールに戻し、ハンググライダーでその場を去った。 追いかけてくる飛行ポケモンたちがいたが、俺の涼風の力で飛翔する力を失い、ドンドン下降していくのだった。 次の日。 蓮華:「…っていうわけなのよ。涼治、あたし、自信なくしちゃったよ。」 バスケ部の練習に行くと、部室の前で蓮華に出会った。 そして、部活が始まる前までずっと愚痴を聞かされたのだった。 内容は昨日の事だ。 涼治:「蓮華、お前は頑張ったんだろ?蓮華が自信なくすと、俺もつらくなるよ。だから、元気出してくれよ。」 蓮華:「う、うん…。ありがと、…涼治、昨日、どこにいた?」 涼治:「お前まで俺を疑うのか?」 蓮華:「そうじゃないけど…」 涼治:「蓮華、俺はお前を信じてるからな。お前も俺を信じろよ。俺はお前を裏切らないからな。」 蓮華:「涼治…///…うん、分かった!それじゃ!」 蓮華はようやく元気になった。 でも…。 ゴメンな、蓮華。 俺はお前をとっくに裏切ってる事にもなるんだよな。 それなのに、信じろっていうのは矛盾してるよな。 ゴメン。 博也:「涼治、始めるぞ!」 涼治:「ああ、今行く。」 いつか、蓮華に教えてやる日が来るかもしれない。 ばれる時が来るかもしれない。 その時は、その時だけど…、蓮華をつらくさせないようにしたい。 いや、つらくさせない! 蓮華はつらくならなくていいんだ。 傷つきつらくい続けるのは、俺だけでいいんだ…。