部活が終わった後、俺は双葉さんの家を訪れた。 すると、双葉さんはちょうど予告状を出し終えてきたところだったのだが…。 涼治:「次のターゲットって…本当にこれなのか?」 双葉:「何の因果か分からないけど、確かにこれかもしれないの。外れの確率は高いけどね。」 涼治:「ていうか、どう見たって外れだろ…」 俺が双葉さんに作ってもらった、黒い種の含まれている可能性が高いターゲットが25記されたリストを見て言った。 これまでに、このリストのうち、7件を終えた。7件までは当たりだった。 残りの18品のうち、当たりが6品、外れが7品あるのだが、高価なものと思われるのは4品あり、それを除いた9品の中に 当たりが2品あることになる。ただ、外れも含めた18件はすでに泉さんと雪美さんの手で、黒い種が大きくなりそうな順番に 並べられていたわけで、 今回は8番目に当たる品物に予告状が渡っていた。 双葉:「涼治君が真面目にやろうとしてるのは分かるわよ。あんな事件を起こしちゃったんだもの…」 涼治:「…分かってます。忘れることはないですよ。」 双葉:「そうでしょ?でもね、外れかもしれない物でも、それらのほとんどが、もし当たりだったらあの事件再来の可能性が高くなるの。 だから、絶対外れだとは思わないで。」 双葉さんの言葉は強く胸に突き刺さっていた。 怪盗編 3.外れor当たり?思い出を盗む怪盗 蓮華:「律子、予告状の状況は?」 これで3度目だし、そろそろあたしの日常になるんじゃないかな? あたしも捕まえ損ねてるし、捕まえたいって思いは強くなっていた。 律子:「来てるよ、一通。こっちと向こうをつなぐことができる特殊なポケギアを前に作ってもらったんだけどね、 そこにナナからメールが来てたの。読むよ。」 律子はナナとセレビィの力を借りて、シルフカンパニーの人にわざわざ作ってもらったのだ。 そして読み上げた内容は、偶然聞いていた浅香ちゃんさえも絶句させる(?)内容だった。 『犬山財閥副社長、犬山コジロウ様、今宵深夜0時、あなたとあなたの奥様、犬山ムサシさんのエンゲージリングを頂きに参ります。 怪盗クールナイト』 蓮華:「…マジ?」 絶句する内容である。 よりによって、あの二人の結婚指輪とは…。 ナナと律子が絶句するわけでもある。この二人にとってはムサシ&コジロウの家に怪盗が行く事自体がありえないらしいけど。 律子:「だからね、ナナも迷ってるみたいよ。」 浅香:「話は聞いてましたけど…、意外性のある場所がターゲットになりましたね…。…あたしも行っていいですか?」 律子:「い、いいけど?人は多い方がよさそうだから。」 蓮華:「ただ、いてもあたしたちが役に立った事はないわよ。」 浅香:「分かってますよ、でも、一度は経験してみないと分からないですよ。晃正や鈴香ちゃんにも伝えておきますね。」 蓮華:「ええ、お願い。」 この際だ、他の能力者メンバーたちにも連絡しておこうかな。 あたしは今思った。 今になって、思った。 浅香:「でも、そんなにかっこいい人なんですか?」 律子:「かっこいい事は事実よね?」 蓮華:「うん…。」 浅香:「そうですかぁ…、晃正と比べられないほどなんですか?」 蓮華&律子:「ええ。」 あたしたちはつい即答してしまった。 浅香:「あの…仮にもあたしの彼氏なんですけど…」 蓮華:「あ…」 律子:「ゴメン、ゴメン。…でも、綾香も香玖夜も怪盗ってことを除くと彼氏にしたいらしいわよ。彼氏、いるのに。」 律子はそう言いながら、また後でねって言っていた。 でも、こののろけ話で切れたらしく、中身入りのペットボトルを握りつぶしていた…。 律子、彼氏、いないもんね…。 あたしはそれから、涼治の家に行った。 でも・・・。 蓮華:「涼治、今日も駄目なの?」 涼治:「ちょっとさ、明日までに返す約束なんだ、この医学書。ジョーイさんは遅れてもいいって言ってくれてるけどさ、 それでも約束した日に返した方がいいだろ?ゴメン、また今度、な?」 蓮華:「う、うん…」 あたしはこの際だから涼治を誘おうと思ったけど、涼治が律儀な性格であるが故に、理由が理由だけに断りを了承してしまった。 双葉:「断ってよかったの?」 蓮華と別れて部屋に戻ると、出窓にある植木が話しかけてきた。 双葉さんだ。俺が向こうに行くために、俺の部屋に毎晩来るのだが、母さんたちが部屋に来るかもしれない。 だから、カモフラージュのためだった。 涼治:「しょうがないだろ、任務は任務だ。黒い種が発芽しないとも限らない。俺が怪盗としての使命を怠って、幸せがまた消えるのは、 俺には耐えられないんだ。」 双葉:「律儀ね…。蓮華ちゃんが断ったのを怒らなくて了承したのも、涼治君の性格を分かってるが故なのよね…。」 涼治:「…、そろそろ行きますよ。」 今出かけても、向こうが夜とは限らないが、双葉さんの作るゲートは決まった時間にいける、タイムマシン的な要素があった。 そのため、こっちに戻ってくる時は部屋に10分くらいいなかったことにしかならない。 それで十分に使命をまっとうできたのだ。 ただ、能力をかなり使うので、はたから見れば寝不足気味に疲れて見えることもあり、最近はそう見られないように注意していた。 双葉:「分かってるわよ。…あ、顔が赤いよ〜。少しは反応したのね。」 涼治:「双葉さん!」 双葉:「怒らないで。分かってるから。」 俺は双葉さんのゲートを潜り、向こうの世界に向かった。 今日は一段とマスコミが多い。 狙われたのが美術館や博物館ではなく、最近経済界での勢力を挙げてきた犬山財閥の副社長夫妻の結婚指輪だからだと思うけど、 そして野次馬も多い。 今までの5件の事も毎日テレビで放送されていて、怪盗の今後を予想する番組までできているくらいらしく、ポケモン警察も 罠やライトを色々と仕掛けていた。そのうえ、この屋敷にはトラップも仕掛けてあるらしい。 そして問題の結婚指輪は、屋敷の中の大広間に赤外線スコープが大量に集中したガラスケース10重ねの中に入っていた。 ムサシ:「コジロウとの大切な思い出よ。それに元ロケット団のあたしの屋敷に入ろうだなんて、絶対させやしないんだから。」 コジロウ:「そうだな、この指輪は高価な宝石だからじゃなくて、俺たちの思い出がたくさん詰まってるからな。」 ニャース:「そうだにゃ〜、ロケット団解散後、叙情酌量をジャリボーイたちの証言で得て社会復帰した後に、互いの稼ぎ分でようやく 買えた、とんでもなく大変な思いをして買った指輪だにゃ。」 今回の事を聞きつけて、この屋敷には、ニャースも駆けつけていた。 今日ここにいるのはあたしと浅香、ナナ、そして律子のほかには、コーディネーターの渚、美香と、浅香の彼氏の晃正君がいた。 綾香と香玖夜は都合がつかなくて今回は来れなかったのだ。 菜々美も来たがっていたけど、今日は大切なドラマの記者会見と被っていた。 渚:「野次馬…コンテストで見かける人ばかりだね。」 美香:「本当だ、コーディネーターがたくさんいるよ。」 蓮華:「ライバルの敵情視察をかねてるのかなぁ?」 美香:「多分、それもあるけどさ、心配なんだよ。同じコーディネーター仲間のことが。」 渚:「そうそう、どれだけ手強いライバルでも、怪盗に狙われたんだし、心配になってくるんだよ。」 コーディネーター同士、互いに思いあってるんだなぁ。 そう思いかけたあたしだったが…、 蓮華:「ねえ、あれでも?」 アレを見たためについ二人に聞き返していた。 渚:「えっ?…う、うん。」 美香:「多分、外のみんなはああいうムサシさんは知らないからさ…」 それは鎖かたびらを肩にかけ、長刀を手に持って振り回しているムサシさんの姿だった。 ニャース:「アレが普段のムサシにゃ。」 キレイハナ:「へぇ〜、あんたも大変だったのね。」 ニャース:「大変なのは当たり前だにゃ。ムサシは怖い顔もメガトンキックも、乱れ引っ掻きも使えるからにゃ。」 キレイハナ:「え…」 ニャース:「全く、年頃の美女になったと思いきや、よくよく見れば全く変わってないにゃ…」 ニャースもしみじみとキレイハナに語っていた。 でも、それほどまでに思い出が詰まってるものらしく、ムサシさんが取られたくない気持ちは分かるなぁ。 あたしだって、あそこまではならなくても、似たようなことはするかもしれないから。 全くすごい人数だな。 ここまでマスコミが多いとは思わなかったし、コーディネーターも多い。 下見はしなかったけど、泉さんは侵入しやすいって言ってたんだけどな…。 これだと侵入は難しいか。 ここからでもサーチライトや暗視カメラが多く置かれているのは分かるし、今日は蓮華はいるようだな。 聞くところによると、晃正もいるらしい。ってことは彼女の浅香もいるな。 俺は人だかりの少ない場所、確かガーディ用の屋敷(のはず)のそばを通った。 すると、数人のカメラマンがセットしているのが見えた。 ここから撮影するつもりかな? だったらちょうどいいな。 涼治:「我が力よ、人々に冷気を振舞え、不気味な世界を味あわせよ。」 俺はガーディ屋敷の裏側から、カメラマンたちに冷気を弱めて放った。 そしてコーディネーターたちの足元にも。 すると、カメラマンたちもコーディネーターたちも動揺し始めていた。 嫌な予感がするとでも思ってるな。 俺は彼らが動揺している隙に、カメラマンの一人として紛れ込んだ。カメラは雪美さんから借りた力でカメラを具現化させておいた。 そして、カメラマンたちのカメラに多少の細工を入れておいた。 さて、そろそろ行くとしようかな。 突然マスコミたちがいる場所から変な音が響き渡り、屋敷の周囲でパニックが起きていた。 コジロウ:「何だ!?何が起きたんだ!?」 ムサシ:「コジロウ、落ち着きなさい!来たのよ、怪盗が。」 望遠鏡を使って見てみると、カメラマンたちの持ってるカメラやビデオカメラから冷気が放出されてるのが見えた。 そして、一人のカメラマンがその場の後にするのを。 陽動作戦だ…。 蓮華:「リュウ、行くよ!」 あたしはカイリュウを出して飛び乗り、そのカメラマンの場所に向かった。 美香:「蓮華、あたしも行く!」 美香が後から追いかけてきた。 でも、怪しいカメラマンが向かった先には誰もいない…。 蓮華:「あれっ?確かにここに来たはずなのに…」 美香:「あたしも見たよ、一人だけこっちに入ってくる人を。」 おかしいな…。 そう思っていたら、背後に気配を感じた。 ??:「おやおや、今日もまた会ってしまったね、お嬢さん。今日は別のお嬢さんもご一緒のようだし。」 あたしたちが振り返ると、そこにはクールナイトが立っていた。 美香:「か、かっこいい…」 蓮華:「美香!…今日こそは捕まえるんだからね。」 クールナイト:「悪いけど、今日は君たちの相手をしている時間はないんだ。それに、君たちに危害を加えようとは思わない。 精々、ここで眠っていてくれたまえ。」 クールナイトが近くの壁に触れると、突然あたしたちの足元には大きな落とし穴が開いたのだった。 美香:「え…」 蓮華:「嘘…」 あたしたちは一緒にその穴に落ちていた。 でも、咄嗟にあたしは、ソルルとキレイハナのボールを投げていた。 キレイハナ:「蓮華と美香ちゃんを足止めしても、あたしたちが通さないから。」 あたしは怪盗の前に、ソルルは後ろに立った。 クールナイト:「これはこれは、有名な喋るキレイハナと、ニビで僕の気配を察したというアブソル君か。でも、俺は捕まる気はない。」 あたしとソルルが駆け出したときだった。 クールナイトの姿は消え、あたしたちは正面からぶつかってしまった。 キレイハナ:「うぎゃっ!…どうして!?」 クールナイト:「悪いな、俺にはエーフィのフィートがいる。テレポートは楽なんだ。」 クールナイトは、それじゃ、と言って姿を消そうとしていた。 でも。 キレイハナ:「待ちなさい!逃さないわよ!」 あたしはマジカルリーフを、ソルルはカマイタチを放ち、クールナイトに一撃を入れることに成功していた。 …結局逃げられちゃったけど。 アクエリ:「通信が少し途切れたけど…、大丈夫?」 クールナイト:「悪い、ちょっと攻撃された。蓮華のポケモンが厄介な事、忘れてたよ。」 アクエリ:「攻撃ですって?怪我の具合は?」 クールナイト:「肩と腕に小さな切り傷だ。すぐ治るから心配はない。」 アクエリ:「そう、それならいいけど…。マスコミとコーディネーターたちは雪美と双葉が引き続き、陽動作戦で騒がせるから、 早めに大広間に入って。」 クールナイト:「了解。二人も勘付かれるなよ。」 通信を切り、もう一度肩の傷を見た。 腕の傷は本当に軽い擦り傷のようなものだったけど、肩の傷は深い。 手元の薬でも、自己治癒能力でもすぐに治せるほどの簡単なものじゃない。 怪我に耐えるしかないな。 試合が終わった後でよかったと思う。そうじゃなかったら、俺は出れないばかりか、今後も危うかった。 それにしても、アブソルのカマイタチの切れ味はすさまじいな。 能力で威力を弱めなかったら本当にやばかった。 ヒーリング能力も貰っておけばよかったかな。 今日は左腕があまり動かないけど、やれるだけやるしかないな。 俺は適当に布で肩の辺りを巻き、血止めをして痛み止めを飲んだ。 これでやっていくしかないな。 そして、フィートのテレポートで潜り込む筈だった屋敷の天井裏に飛び、そこで内部の様子を見ていた。 真下がちょうど晃正たちのいる部屋だった。 でも、話によれば俺のターゲットは3階のロビーにある。 ここは屋根裏も含めて7階。 涼治:「だったら…、俺を司る冷気よ、7階を包め。」 俺は隙間から階下に冷気を放出した。 晃正:「寒っ!何だ?ここ、寒くないか?」 ニャース:「にゃ〜、寒くて動けないのにゃ。」 渚:「冷房かけすぎじゃないんですか?」 コジロウ:「いや、エアコンの空調は正常だ。」 ムサシ:「じゃあどうして部屋の温度が3度なのよ!」 ナナ:「寒すぎるわね…」 律子:「どこからか、冷気が放出されてる…?」 浅香:「冷気?能力者…クールナイトね!」 様子を覗いていれば、どうやら浅香が気づいたようだった。 直感が鋭い奴だからな、蓮華の後輩だし。 ブリッコっぽくしてるが、頭が蓮華よりいいし。 さて、ここがばれる前に立ち去るかな。 俺は天井板を凍らせて壊し、下に下りた。 ナナ:「クールナイト!」 律子:「自分から出てくるとはラッキーな事ね。」 ムサシ:「あたしの大事な指輪を!絶対に捕まえてやるんだからね!」 おお、怖っ! 炎のオーラが俺の冷気を蒸発させてるな、あの女。 クールナイト:「それはどうかな?今日も僕が思い出を壊さないように全てをこの手におさめるよ。」 俺はそう言い、ドアから外に出た。 風の情報によれば、建物の内部はトラップだらけだったため、ポケモン警察は3階にしかいない、と。 足を引っ掛けるロープや、赤外線に触れると鞭が飛んでくるもの、刃物の大群に落とし穴。 俺の冷気が全てを凍らせ、スピードを落とし、そして鈍らせ、通らせてくれていた。 でも、凍らせ損ねた罠があった。 そのため俺は反応し損ね、左肩を木刀に強打されていた。 クールナイト:「うぅ…ハァ、ハァ、ハァ…」 痛みに足をついて座り込んでしまう。 何とか血止めしておいた怪我が再び傷を開いてしまったらしい。 しかも、さっきよりも悪化している。 血止めをしようにも、布が赤く染まり、血止めの仕様がない。 でも、ここは行くしかないな。 だが…。 アクエリ:「クールナイト、やっぱり怪我してるんでしょ?実はね…」 蓮華:「もう、あの落とし穴、水まで入ってたよ。」 美香:「本当よね、びしょびしょだわ。」 キレイハナ:「でもさ、あたしとソルルの攻撃で一撃入れたから、楽に動ける様子じゃないはずよ。ここで待ち伏せしてれば、 あたしたちが捕まえる事は可能よ。」 あたしたちは冷気で倒れちゃったリュウの代わりにトロの力を借りることで外に出る事ができた。 そして3階でクールナイトを待ち伏せていた。 律子:「あれっ?ここには来てないの?」 そこに安全通路を辿ってやってきた浅香ちゃんと律子、渚ちゃんがやってきた。 どうやらクールナイトは、エーフィのテレポートで7階に行っていたようだ。 渚:「てっきりもう3階に来られちゃったかと思ってたけど。」 浅香:「でもさ、ここに来ても無駄なんだよ。」 美香:「どういうこと?」 美香が聞き返した時、大広間内を、あたしたちやポケモン警察がよ〜く聞こえる声が響いていた。 クールナイト:「そこに飾られているのは偽物で、本物の指輪は本人たちがつけているんだろ?」 クールナイトがシャンデリアの上に現れていたのだ。 美香:「さっきはよくも落とし穴に落としてくれたわね!」 蓮華:「でも、もうあなたは終わり。」 律子:「そうね、この部屋からはもう逃げら…」 その時だった。 突然ライトが点滅を始め、3階にセットされていた様々な罠が誤作動を起こし、作動し始めたのだ。 そしてスプリンクラーも動き出し…。 クールナイト:「残念なのは君たちの方だよ。この吹雪の中で、綺麗なお顔が霜焼けになってしまうのだから。」 クールナイトが手を高く掲げ、冷気を大放出した。 それにより、大広間は吹雪の嵐になってしまったのだ。 あたしたちが揃って能力を放出し、吹雪を相殺させた時には既に、クールナイトの姿はなかった。 ただ、クールナイトの肩が赤く染まって見えたのよね…。 ナナ:「下の階が騒がしいわ。」 律子達も向かわせて、ここにいるのはあたしと晃正君とニャースのみ。 でも、ここに本物があるなんて知らないはずだし。 ムサシ:「きっと怪盗を捕まえたのよ。これで安心ね。」 ニャース:「まさかこんにゃところで本人が本物を持ってるにゃんて、知らないだろうにゃ。」 その時、ドアがノックされた。 ここはあたしが対応した。 ナナ:「誰ですか?ここは関係者以外の立ち入りを禁止しています。それはこの屋敷の方もお分かりのはずですが…。」 すると返って来た答えはこうだった。 ??:「ムサシさまのご心配をなされたお父様とお母様が料理を運ぶように思うしつけられましたので、お運びいたしました。 申し訳ありませんが、このドアを開けていただけませんか?」 ムサシ:「そう、良いわ。ナナさん、開けてくださらない?」 ナナ:「は、はい…。」 流石のあたしでもこの家の主人の一人の命令は逆らえなかった。 ナナ:「今開けますね。」 あたしはドアを少し開き、確認しようとした。 そして。 クールナイト:「ありがとうございます、お嬢さん。ヤミラミ、催眠術だ。」 あたしは防御し損ねた。 油断していたわけじゃなかったけど、何故か廊下が暗かったので、あたしが廊下の様子をしっかり確かめるには、じっと見る以外なかったのだ。 そのためにあたしは催眠術で眠ってしまった。 ちょろいな。 この屋敷のメインコンピュータールームにライボルトとガラガラ、そしてフィートを放っておいて良かった。 好きなように暴れるように言っておき、誰かが来たらテレポートで逃げるように言っておいたから、とっくに逃げているだろうが、 多分派手にやっただろうな。 作動した後の罠なら通るのは楽だったし。 ナナを倒すと、俺は中に入った。 流石に驚く一同。 晃正:「どうして…3階にいたはずじゃ…」 クールナイト:「残念だが、イミテーションを飾っていた事は知っていたぞ。邪魔な奴らを3階におびき出すために一芝居売ったのさ。」 これは嘘だけどな。 でも、嘘も十分に通じた。 すると、二人はポケモンを放ち、ニャースも襲い掛かってきた。 コジロウ:「それなら、チリーン、驚かす攻撃だ!」 ムサシ:「ハブネーク、ポイズンテールよ!」 ニャース:「にゃーの乱れ引っ掻きを受けるのにゃ!怪盗は怪我人、この攻撃を避けれないはずにゃ!」 …ちゃんと見てるんだな、ニャースは。 怪我にひびくから、まともに避けるのは無理だな。 クールナイト:「ヤミラミ、カメール、やれ。」 ヤミラミが驚かす攻撃を無視してシャドーボールでチリーンを倒し、カメールのバブル光線がハブネークとニャースを弾き返す。 さらにヤミラミのナイトヘッドも受け、ハブネークは倒れた。 忘れてた、ニャースはノーマルタイプ。 ヤミラミのゴーストタイプの攻撃は効果がないんだよな。 でもま、それなりにいいかな。 クールナイト:「ハブネークとチリーンは倒れたぞ。諦めるんだな。ヤミラミ、催眠術だ。」 ヤミラミはニャースと二人を眠らせた。 晃正:「待て!この野郎!」 だが、そこで隠れていた晃正が突進してきていた。 クールナイト:「ぐっ…、甘いな。」 俺は肩の傷が痛んだが、晃正の突進をいつものバスケでの練習並の動きで避け、手刀で眠らせた。 クールナイト:「坊やは寝る時間だぞ。」 晃正:「この動き…涼治先輩に似てる…まさか…先輩…?」 やべっ、こいつ、同じ部活だったもんな。 明日、ちょっと厄介な事になりそうだな。 俺は晃正を適当にナナの真横に寝かせ、手をつながせてからムサシさんとコジロウさんの手を取った。 その時、再びアクエリから通信が入った。 アクエリ:「クールナイト、どう?守備は。」 クールナイト:「順調だ。後は本体を…抜き取るのは無理だが、黒い種は消しておくよ。」 アクエリ:「そう、怪盗業、最初の失敗ってことになりそうね。」 クールナイト:「仕方がないだろ、この状態では。」 指にしっかりとはまっていて、抜き取ろうとするのは無理だったのだ。 その代わり、やるべきことはやろうと思い、宝石に触れて取り出そうとした。 が。 クールナイト:「アクエリ、聞こえるか?」 アクエリ:「どうしたの?」 クールナイト:「…外れだ。」 アクエリ:「あらら…、ちょうどいいや。渚ちゃんとナナちゃんがいたでしょ?」 突然アクエリは話題を変えた。 アクエリ:「渚ちゃんのピアスと、ナナちゃんの指輪も確かめておいて。あの二つもリストに入ってたよ。」 そこで通信が切れた。 いい加減な奴だ。 俺は怪我までしたんだぞ。 まぁ、やっておくか。 やらないで本物の当たりだったら、後々もっと厄介だ。 俺はナナの手を取った。 これも外れだった。 反応があるようなそぶりを見せたので、念のために、二人の指輪の代わりにもらっておいた。 流石にムカついたので、さらに晃正とナナの間を詰め、両手を握らせた。 そして、怪我の手当てもしたいけど、渚のところに行くしかなく、3階に再び向かった。 すると、うっかり廊下で出会ってしまった。 渚:「ク、クールナ…」 彼女しかいないようだ。 俺は渚の口を手で塞ぎ、物影に身を潜めた。 クールナイト:「他の奴はいないのか?」 渚:「…単独でバラバラであなたを探してるのよ。手を離して。」 クールナイト:「その前に、君のピアスを見せてもらうよ。」 渚:「やめてよ、あたしと輝治の思い出のピアスよ。」 クールナイト:「悪いな、ヤミラミ、眠らせろ。」 俺は渚を眠らせ、ピアスを手に取った。 強引過ぎるかもしれない。 でも、やるしかない。 そして…。 クールナイト:「これが当たりとはな。」 ピアスからは黒い種が出てくるのだった。 両方あわせていつもの大きさになっていた。 クールナイト:「俺を司る涼風よ、種に潜む邪悪な物質を消滅せよ。」 いつものように種を消し、俺は立ち去る事にした。 本当ならば返したいけど、残っている邪悪な波動を全て完全に消すためにも、持ち去らなければならない。 そして窓を開けた。 ライボルトたちも戻ってきたし、ここは出ようかな。 と、窓枠に葉っぱが刺さった。 クールナイト:「草使いのお嬢さんか。」 蓮華:「ええ、クールナイト。ナナの指輪を返して。あれは、ナナが初恋の人から貰った大事な指輪なの。あなたは思い出を盗んで、 人を悲しませたいの?思い出をなくす事が、その人にどれだけ悲しい事なのか、分からないの?」 胸に突き刺さるような言葉だった。 でも、反応があるそぶりを見せただけに、当たりではないにしても、それなりに何か邪悪なものを持っている気がした。 だから、そのまま彼女が持っているわけにはいかない。 クールナイト:「悪いが君の言葉はよく分かる。しかし、俺には使命があるのでね。君には到底理解できないだろう。 俺の胸の悲しみは。また再び会おう。アディオス。」 俺はエアームドに捕まり、空に逃げた。 蓮華…、ごめんな。 ナナ:「そっかぁ、逃げられちゃったの…」 渚:「あたしのピアスも取られちゃったし…」 部屋に戻り、あたしは二人に謝った。 結局、逃げられてしまったのだから。 蓮華:「ゴメン…でも、まさか指輪の代わりに盗まれるなんて…。予告状もなかったんでしょ?」 ナナ:「うん…。あれっ?電話だ。」 渚:「あたしも…」 あたしはこの後、驚く事になるのだった。 蓮華:「ホントにびっくりしたんだよ、いきなりナナの彼氏が久しぶりの連絡を入れたんだもの。渚ちゃんもピアスが欠陥品だったから、 それを謝りたいって輝治さんから連絡があったらしいし。何が起きるか分からないもんだよね。」 次の日、あたしは涼治の元を訪れていた。 今日は涼治が部活を休んだのだ。 トレーニングとして夜にランニングに出かけ、大喧嘩を起こした双葉さんの攻撃を肩に受けてしまったらしい。 全治一週間の肩の怪我だって。 あたしのヒーリングで治そうかと聞いたけど、いいと言われた。 涼治:「そんなことでお前の力を使わせて、お前が疲れるようなことはさせたくないからな。それに、お前と毎日こうして二人きりに なれるんだ。もう少し、痛いけどこのままにしておこうな。」 蓮華:「涼治…」 あたしはなんだか嬉しかった。 蓮華、騙し続けてホントにゴメン。 ただ、黒い種の波動を感じた物体を取り除いた事で、ナナと渚には幸運が持ち出されたんだ。 それは分かってくれるかな? 俺の正体がバレた時でも。 双葉:「今頃…幸せなのかもね。」 泉:「あたしたちが喧嘩した事で憎まれものになっちゃったけどね。で、晃正君は疑ってなかったの?」 双葉:「大丈夫よ。涼治君の怪我を痛み止めで何とかしておいたし、帰った時間もあの部屋を20分いなかっただけだから。」 泉:「そう、それなら安心ね。で、次のターゲットは?後5品よ。」 双葉:「えっとね、雪美ちゃんが再確認したりしたから…、あ…、もっとやばくなった。」 泉:「どうして?」 双葉:「次のターゲット、蓮華ちゃんのデンリュウのボールだ…。」 泉:「え…」 二人はこれから起きるかもしれない嵐の予感を感じていた。