蓮華:「ただいまぁ…、まだ誰も帰ってないんだ。」 あたしが学校から帰宅すると、今日は珍しく誰も帰っていなかった。 いつもなら舞さんか来美ちゃんがいるのに…、今日に限って…。 蓮華:「まぁ、いいか。あれっ?手紙が着てる…、誰かな?…あ、あたし宛だ…。」 珍しかった。 滅多にあたしたちに手紙が来る事はない。 携帯メールで済まされてる事が多いし、手紙のほとんどは舞さん宛、またはどうでもいい広告メールばっかりだから。 だからあたし宛に来るのも珍しくて嬉しかった。 でも、差出人の名前がないのよね。それが気になるなぁ。 蓮華:「イタズラじゃなきゃいいんだけど…、…嘘でしょ。」 あたしは中に入っていた一輪の蓮華草と、一枚の名刺を見て、言葉を失った。 そして、すぐに読んだ手紙には、こう記されていた。 『親愛なる草使いのお嬢さん、今宵、あなたのデンリュウのモンスターボールを頂きに参ります。できれば今宵、深夜0時ごろに 森の山公園にいらしてください。来てくださらないのなら、僕があなたの元を訪れます。 怪盗クールナイト』 ちなみに名刺には… 『あなたのハートを風と共に僕の手に 涼風の怪盗、クールナイト』 と記されていた。しかしその名刺は、蓮華が驚いた拍子に手から落ち、風でどこかに飛ばされていたのだった。 怪盗編 4.運命のイタズラ?ターゲットは蓮華 キレイハナ:「これでクールナイトがポケモン世界の人間じゃない事は明らかね。」 ピジョット:「まさか蓮華殿の元に手紙が訪れるとは思っていなかったが、蓮華殿はどうしたのだ?」 キレイハナ:「手紙を見てからどこかに出かけちゃったのよ。流石に驚いたみたいよ。」 蓮華がかばんも何もかも落としてそのまま走り去ったから、しょうがなくあたしが留守番をするしかなく、ソルルやぴぴたちと一緒に かばんとか他の手紙を持って中に入った。 そして、哲也さんの部屋にピジョットがいたから、あたしは話し相手として連れてきたのだった。 ソルル:「(多分、恋人のところじゃないか?)」 パル:「(相談できる相手があたしたちだけじゃ、心細いもんね。恋人がそばにいると、結構ホッとするし。)」 キレイハナ:「そうかも、あたしたち以外に今って相談相手がいないもんね。」 あたしたちはその後すぐに手紙を隠す事にした。 蓮華が哲也さんたちに言う前にばれたら、これ以上に厄介な事になるんじゃないかと踏んだのだ。 だって、舞さん以外の3人とも、クールナイトには惨敗してて、絶対に次こそは捕まえたいって怒ってたから。 キレイハナ:「今以上にこの場が混乱したら嫌でしょ?」 ソルル:「(確かにな)」 ピジョット:「哲也は絶対に怒り狂うだろうな。」 でもあたしたちは知らなかった。 ここまで偽造工作をしても、最後にはバレてしまう事を。 何故なら…。 パル:「(ねえ、ところでデンってどこにいるの?)」 キレイハナ:「あ、そうだ、忘れてた。あのね、涼治君のところ。」 今思い出した、結局恋人のところにいるんじゃないの。 キレイハナ:「デン、最近元気がないから、涼治君が様子を診てたのよ。」 蓮華:「どうしよう…、あたしのデン、取られちゃうのかもしれないよ…」 蓮華が訪れてきて、流石に俺は動揺してしまった。 予告状が届いたばかりのはずだし、俺が取るはずのデンリュウは、その怪盗自身が今所持しているのだ。 出す前までそれを忘れてた事も失敗だけど…、出してからではもう遅い。 一度蓮華に返す以外に方法はないけど…。 涼治:「蓮華、お前が強気でいれば大丈夫さ。取られちゃうとか、弱気でいれば失敗するかもしれないじゃないのか? お前はお前らしく、お前のままでいればいいんだ。」 蓮華:「うん、分かった。ありがとう。」 怪盗であっても恋人でもある。 蓮華を悲しませたくないと思いつつも、最後には悲しませてしまう事になる。 でも、それをどこまで阻止できるか。 それは今にかかってるような気がするからだ。 蓮華:「涼治、デンの様子は?」 涼治:「それが…デンリュウは心が病んでる、ストレスか何かじゃないかな?異常はどこにも見当たらなかったんだ。 だから、ゴメン。俺も…これが限界なんだ。せっかく力になれると思ったのに、何もできなくてごめんな。」 多分、ドリームの放った黒い種は、始めから蓮華のポケモンの誰かに取り付くつもりだったと思う。 それがデンに取り付いてるんだ。 ただ、俺の手元にすぐ移ったことや、種が俺をクールナイトだと気づいてる可能性もあることで未だに俺が取り出そうとしても、 デンリュウの中から出てこようとしていなかった。 俺のせいだな、蓮華に何かあったら。 でも、一度蓮華の手元に渡ったのを再び俺の手元に戻せば、何かチャンスがあるかもしれない。 だから俺は不安が残るけど、蓮華に返すことにした。 蓮華:「涼治、いいよ。涼治はまだ一人前じゃないし、分からなくてもしょうがないよね?診てくれただけでも嬉しいから。」 蓮華はそんな俺の思いを知らずに帰っていった。 天国か地獄だな。 さて、準備を始めるか。 今日は、蓮華のポケモン軍団と戦う事にもなりそうだし、双葉さんたちがサポートしてくれるにしても、あいつらは強敵中の強敵だ。 使命を果たすまでは、蓮華相手でも心を鬼にするかな。 俺の力は涼風。冷気も操れるようになっただけに、カイリュウやトロピウスは倒せるだろう。 キレイハナ:「蓮華、落ち着いたみたいだね。」 蓮華:「うん、涼治のおかげよ。…キレイハナ、あの手紙は?」 キレイハナ:「蓮華の部屋に隠したよ。流石に哲也さんたちにばれたらまずいでしょ?」 あたしが家に帰ると、舞さんたちは既に帰っていたけど、手紙の事は知らなかったようなのだ。 キレイハナ:「前回、みんな惨敗してるし。」 蓮華:「あ、確かに…」 哲兄は罠にはめられたし、来美ちゃんも久美ちゃんもバトルで負けたらしく、絶対に次は勝ってやるって息巻いてたもんね。 そのうえ、今回はあたしたちのよく知ってる場所に現われるから、怪盗よりもあたし達の方が動ける。 これを知ったら、哲兄たちは絶対に派手に動くだろうな。 蓮華:「キレイハナ、ありがとね。さて、今日はみんなで動くわよ。みんなの準備は?」 キレイハナ:「万全万端よ。みんな、もう戦う気マンマンだから。」 その時、デンの種が黒い波動を放出していた事を蓮華は気づいていなかった。 すでにデンの中の種が成長を進めていた事を涼治が気づけなかったこともあったが、その波動は階下に流れていくのだった。 そして、階下から派手な音が聞こえてきた。 蓮華:「何だろう?」 キレイハナ:「行ってみようよ。」 あたしたちが駆けつけると、そこには煮物を煮込んでいた鍋が派手にぶちまけられ、舞さんと来美ちゃんが青い顔で倒れていたのだ。 蓮華:「舞さん!来美ちゃん!」 舞:「蓮華ちゃん…、大丈…だから。」 蓮華:「舞さん!しっかりしてよ!」 キレイハナ:「蓮華、救急車、救急車!」 あたしはそれから数時間の事をよく覚えていない。 あたしが呆然としている間に、キレイハナがピジョットに哲兄たちを呼びに行ってもらったり、救急車を呼んだり、 近所の顔見知りのオバサンたちを呼びに行ったりしてくれたらしい。 運ばれた舞さんと来美ちゃんは、海ちゃんの家の病院で見てもらった結果、原因不明だと言われた。 既に病院には哲兄と久美ちゃんも駆けつけ、知らせを聞いた双葉さんたちや鈴香、悠兄も来てくれた。 哲也:「どうして…舞さんが…」 久美:「いきなり倒れたんでしょ?」 蓮華:「うん…いきなりで、あたしもよく分からないの…。」 鈴香:「お姉ちゃん、一度帰ったら?舞さんのものとか、取りに行かなきゃ行けないんでしょ?」 悠也:「ここは俺たちがいるよ。哲也も久美ちゃんも行ってきたらいい。俺たちじゃ、あの家の勝手は分からないんだ。」 久美:「う、うん、そうするわ。ありがとう。」 あたしたちは家に戻る事にした。 双葉:「舞と来美ちゃんのアレ、多分種が原因ね。」 泉:「まさか、涼治君の2度目のミス?」 双葉:「いいえ、あの種はあたしたちや涼治君の力でも取り出せなかったのよ。意思が既にあって、こうなるまで待っていたのよ。 涼治君は知ってるの?」 泉:「ついさっき…電話で…。結構きてたみたいだよ。」 双葉:「だよね。あたしたちもショックだもの。…でも、どうする?これから。」 泉:「涼治君は動くって言ってたよ。こうなった以上、今なら種も隠れられないから、手元に収めて種を消滅させるって。」 双葉:「そう。」 あたしが久美ちゃんや哲兄と家に帰ってくると、時間は午後11時を指していた。 舞さんと来美ちゃんが倒れてから、5時間も経っていた。 あたしたちは舞さんと来美ちゃんの身の回りのものを鞄に詰め、部屋を掃除して、再び病院に出かけることにした。 そんな時、あたしの携帯から非通知で電話がかかってきた。 迷った挙句に取ると、 ??:「不幸が起きた後だが、デンリュウは渡してもらうよ。」 クールナイトからだった。 蓮華:「あたしたちがこの状況で、それでも来るわけ?怪盗の風上にもおけないわ。」 クールナイト:「しかし、僕は君の元に行こうと思う。公園で待っているよ。」 そこで電話は切れた。 でも、どうしてクールナイトはあたしの番号を知ってたのかな? 久美:「蓮華ちゃん、行くよ。」 蓮華:「あ、うん。」 あたしは二人と一緒にタクシーに乗って、病院に向かった。 この時あたしは気づいていなかった。 哲兄と久美ちゃんが、あたしの落としたあの名刺を持っていたことに…。 あたしはその後、さりげなくトイレに行く振りをして、公園に向かった。 哲也:「蓮華の奴、出かけたのか…」 久美:「哲也、みんなには連絡したよ。どうする?」 哲也:「行くだろう?もしかしたら、この舞さんと来美姉のことが、怪盗と関わってるのかもしれないし。 それを知るにも、怪盗を俺たちの手で捕まえるんだ。」 公園に向かうと、何故か海のプータルや、なずながいるのが見えた。 美香や綾香、香玖夜の姿も見える。晃正や浅香、健人先輩たちも木々の間から姿が見えた。 どうやら、あの手紙を蓮華が喋ったのかもしれないな。 黒い種が発動した後だ。 俺が関係していると思われても仕方がない。 でも、この状況でも、俺は動く。 涼治:「我を司る冷気よ、能力者たちを凍えさせよ。」 俺は誰にも気配を悟られないように動き、冷気でみんなの動きを鈍らせていった。 そろそろ深夜0時。 蓮華が来る頃だな。 この怪我がまだ治りきっていない状況で、どこまでこの多人数に対抗できるか分からないけど、正体がばれないように動くかな。 俺は冷気を纏い、クールナイトの姿に変わった。 クールナイト:「フラウ、アクエリ、スノウ、始めるぞ。」 あたしが公園に駆けつけたとき、それは既に始まっていた。 美香:「蓮華!もう始めてるよ!」 海:「あの病気がクールナイトかもしれない疑惑がある以上、あたしたちは本気だから!」 香玖夜:「能力者メンバーのほとんどに電話が来てるのよ。来てないのは怪我が治ってない涼治君くらいかな。 後、来美さんと秋一さん、菜々美ちゃんも来てないけどね。」 結局悠兄や鈴香、哲兄や久美ちゃんも来てるらしい。 いつの間に…。 哲也:「名刺を落としたのはお前だろ?」 蓮華:「え…、あ…。」 アレか…。 キレイハナ:「隠しておいてもこれじゃ無理だったわね。」 ピジョット:「そうだな。」 久美:「名刺を落とした時点で失敗よ。でも、クールナイトは手強いわね。」 電撃ガールズのポケモンはどこからか飛んできたガラガラの骨ブーメランに倒され、飛行ポケモンや翼先輩、哲兄や美香でさえも 雷や吹雪による攻撃で撃ち落されてしまったのだ。 それに、あたしのポケモンたちもいつの間にか元気がなくなっていて、キレイハナとソルルしか動ける状態じゃなかった。 そして、クールナイトがあたしたちの真上に現われた。 クールナイト:「今日は大勢で僕の相手か。ご苦労様だね。」 哲也:「おい!舞さんたちが倒れたのはお前のせいなのか?」 久美:「もしそうなら、許さないから!」 どうやら、俺のせいにされてるらしいな。 蓮華自身でさえ、癒しの力があるのに、デンのボールが黒い波動に包まれてるとは気づいていないらしい。 クールナイト:「そう思いたいのなら思えばいいさ。」 俺はそう言い、姿を消した。 こうなったら別の方法を使う。 俺は涼治の姿に戻り、別の入り口から蓮華のところに向かった。 蓮華:「涼治!怪我はいいの?」 涼治:「いや、しかしお前が大変な時に家でじっとしてるわけにはいかないだろ?」 哲也:「お前って奴は…。蓮華、涼治に感謝するんだな。」 最近になって、哲也先輩は俺のことを認めてくれていた。 みんなも怪盗が逃げたと思い、ホッとしていたり怒っていたりする。 涼治:「蓮華、お前はこのまま病院にもどれよ。俺がデンの具合をもう少し見ておくからさ。」 蓮華:「えっ?うん…」 蓮華は驚きつつも俺にボールを渡した。 涼治:「俺はもう少しここで怪盗を探しておくよ。」 蓮華:「分かったわ。」 俺はそうしてみんなから離れ、すぐに怪盗の姿に戻り、みんなの前に現われた。 ただし、その前におもいっきり叫んでおいたが。 蓮華:「涼治!?涼治、どこ!どこにいるの?」 クールナイト:「君の探しているのは彼かな?」 俺は雪と氷で作った人形をみんなに見えるように掲げた。 哲也:「お、お前!」 久美:「そこまでしてターゲットを狙うの?」 先輩たちもみんなも、これには驚いたらしい。 俺が同一人物だと知らないから当たり前だろうな。 そして俺は人形から隠しておいたボールを取り、姿を消そうとした。 が。 蓮華:「許せない!必殺、マジカルカッター!」 蓮華がマジ切れを起こしたのだ。 蓮華の攻撃は肩を傷つけ、俺は何とか逃げたが、怪我は前より悪化してしまっていた。 でも、黒い種は何とか消滅させる事ができた。 哲也:「蓮華、大丈夫か?」 哲兄の声が聞こえる…。 でも、あたしは落ち着かなかった。 怪盗が抱えていたのは涼治じゃない…。 涼治の波動は…、生命の波動は…、怪盗から感じてた…。 明日、涼治の肩からあたしの力が感じたら…、どうしよう…。 でも、そうだったら、あたし、騙されてたの? 涼治に、ずっと…。 悩み事を聞いてもらってても、内心はずっと笑われてたのかな? あたしはみんなに声をかけられて、声を返しながらも、内心は落ち着けなかった。 ??:「…怪盗の正体、彼だったのね…」 迂闊ね、彼も。 現実世界にはあたしがいるのに…。 次の日。 俺の家に蓮華が訪れていた。 いきなり訪ねてきたのだ。 今日の蓮華はどこかおかしい気がした。 俺の肩にも目が行っていた。 どうしたんだ? 蓮華:「涼治、舞さんと来美ちゃんが退院したよ。」 涼治:「そうか、よかったな。」 蓮華:「うん。…おかしいのよ、何かいきなり元気になっちゃって、本当に原因不明よ。」 実は双葉さんと泉さんが一役買ったのだ。 妖力によって黒い波動を吸い尽くしたらしい。 そのために今、隠れ里っていう場所で休養している。 蓮華:「でもね、デンが…。」 蓮華はがっかりしていた。 涼治:「ゴメン、俺、いきなり肩をやられてさ、痛みと一緒に気を失ってたんだ。」 この時、蓮華が悲しい表情を示した事に俺は気づかなかった。 蓮華:「いいよ、涼治が無事だったんだから…涼治、肩の怪我を見せて。あたしが癒してあげる。」 そして、すぐに笑顔に戻していた事にも。 涼治:「あ、ああ。」 俺はその表情に気づかずに、蓮華に怪我を見せた。 すると。 蓮華の手が止まった。 震えていて、動揺していて、俺の顔と傷を交互に見ている。 涼治:「蓮華?」 蓮華:「やっぱり…やっぱり…そうだったんだ…」 蓮華は震えている。 涼治:「蓮華、どうし…」 蓮華:「触らないで!最低!…あたしのこと、ずっと、ず〜っと騙してたんだね。ずっとあたしのこと、笑ってたんでしょ?」 蓮華は怒っていた。 体中が怒りを示していた。 俺は傷を確認して、ハッとした。 草の力による波動を、蓮華が感じ取ったのだ。 蓮華の攻撃による力が、俺の肩から反応するのはありえないのが普通。 しかし、クールナイトの肩に攻撃を当てている以上、俺がクールナイトと考えるのが妥当だろう。 蓮華:「実は昨日からずっと疑ってたの。哲兄たちは気づいてなかったけど、あたしはずっと気づいてた。 クールナイトが抱えていた涼治からは、何も感じなかったの。癒しの力を持っているあたしに、生命の鼓動が感じなかった。 だったら、あの涼治は偽物で、クールナイトが涼治なんじゃないかって。」 蓮華は、怒りながら泣いていた。 蓮華:「絶対に違うと思ってた。思いたかった。でも、涼風の能力者は涼治しかいないし、あたしの携帯は変えたばかりで、 知ってる男性は哲兄と悠兄以外は涼治しかいない。どう考えても涼治しか当てはまらない。 今までだってそう、すべてを知っているような動き、アレはあたしが言ったことで誰がいるかとかも知ってたんでしょ?」 涼治:「蓮華…」 蓮華:「気安く名前を呼ばないで!あたしを、あたしたちみんなを騙して、弄んで、それで嬉しかったの?みんなが、みんなが 悲しい思いをしてるのよ!どうしてこんなことをしたのよ!あたしたちを信頼してなかった証拠じゃないの!」 涼治:「それは…」 蓮華:「涼治だけは…信じられると思ったのに…。こんな風に裏切られるなんて、あたしを騙して弄ぶなんて、思ってもみなかった。」 蓮華は泣きながら、強く俺を睨みつけていた。 先ほど、一瞬だけ笑いながらため息をつき、そして悲しい表情で言った、この言葉には胸をドキッと感じさせられた。 蓮華:「でも、もう、終わりなんだね。こんな感じで終わっちゃうなんて、思わなかった。」 涼治:「蓮華…、俺の話を聞い…」 俺は蓮華を落ち着かせようと思って近づこうとした。 しかし、持っていた荷物を俺に叩きつけてきた。 蓮華:「もう、これ以上あたしに近づいてこないで。あたしに顔を一切見せないで。もう、あたしと涼治は恋人でも何でもない、絶…」 雪美:「落ち着いたら?蓮華ちゃん。」 その時、突然吹雪に包まれた雪美さんが現われた。 雪美:「いつか起きるとは思っていた事が起きてしまったのね。」 蓮華:「…雪美ちゃん、…まさか雪美ちゃんが共犯なの?だったら双葉さんたちも?あたしたちを導くはずなのにどうして…」 雪美:「あたしたちがやらなきゃいけない事があって、それを涼治君に頼んでいたの。涼治君、蓮華ちゃんを借りていくから。」 雪美さんは蓮華を連れて消えた。 俺が駆け寄ろうとした。 でも。 蓮華:「近寄らないで、鈴川君。あたしの前に現われな…」 蓮華は拒絶の視線を向けていた。 俺のことを名前じゃなくて、苗字でも呼んでいた…。 傷つけない、つらくさせないようにしたかったのに…、俺は、俺は…、蓮華を結局傷つけたんだ…。 だが。 悲しんでるわけには行かなかった。 ??:「あなたがクールナイトだったなんてね。」 そこに。 ??:「蓮華を傷つけた罪は重いから。」 もう一人厄介な人物が現われた。 キレイハナ:「どういうことなの?怪我したくなかったら、言って。」 蓮華の置いていったボールから、キレイハナが現われたのだ。 しかも、蔓の鞭が俺の体に巻きついた上、怪我の数センチ上にもう一つの蔓があった。 キレイハナ:「説明しないなら、この傷、抉るよ。」 やりかねないと思った。 涼治:「分かったよ。」 俺はすべてを話すことにした。 多分、雪美さんたちも同じことをしてるんだろうな。 双葉:「…というわけなの。」 泉:「理解しがたいかもしれない。でも、あたしたちは穏便に済ませたかったの。それがこういうことになってしまったのなら、 あたしたちが浅はかだったことになるけど、涼治君の気持ちも察してあげて。あたしたちよりも一番つらい立場にいたのは 涼治君だから。」 雪美:「涼治君、結構つらかったと思うのよ。あなたたちが相手だったし、騙したくなかったはずよ。でも、黒い種をミスして 落としてしまったことで幸せを破壊した。それが彼にはつらくのしかかっていたの。そして昨日、再び黒い種によって、 自分が取り出せなかったことによって、舞さんや来美先輩が倒れてしまった。あたしたちも、涼治君も、これはきいたわ。」 あたしは突然雪美さんに連れられ、そして何と共犯者だった双葉さんたちのところに連れてこられた。 そして理由を聞くに連れて、涼治の気持ちが分かってきた。 一人でつらさを耐えていたなんて、知らなかった。 でも、どうしてなのか知らないけど、能力者の中では涼治しか黒い種を見る事ができない。 それで涼治がクールナイトになっていた。 あたしたちが知らない間に、部活が大変だったり、ポケモン医学の勉強や、学校の宿題とかでも大変だったのに、毎晩続けていた。 知らなかったからあんなに涼治を避けたのは当然かもしれない。 でも、あたし、言い過ぎた。 拒絶しすぎた。 涼治に謝りたい。 あたしは癒しの能力者なのに、黒い種を消す事ができなくて、逆に涼治を傷つけたような気がした。 双葉:「涼治君のところに戻る?」 蓮華:「うん。」 双葉:「そう。」 キレイハナ:「そういうことだったのね。」 涼治:「ああ。」 キレイハナ:「それじゃ…その怪我ってソルルのカマイタチ?」 涼治:「そういうことなんだ。」 すると、蔓が外れると同時にソルルが出てきて、俺に頭を下げた。 涼治:「おい、謝らなくていいよ。俺が悪いんだからさ。キレイハナ、ソルル、俺はこれからも怪盗は続ける。 それだけは分かってほしいんだ。みんなを騙した事、蓮華を騙した事は本当に申し訳ないって分かってるけど、 俺は昨日舞さんや来美先輩がなったようなことを2度と起こしたくないし、誰かが黒い種によって不幸になることも避けたい。 だから、今後も、残りのターゲットは狙い続けるつもりだ。」 キレイハナ:「あたしはいいよ。それでこれ以上傷つく人がいないなら。」 ソルル:「(俺もいい。ただし、これ以上蓮華を傷つけるのなら許さないからな。)」 キレイハナ:「ソルルも良いって。でも、これ以上蓮華を傷つけないで。これはあたしもソルルも、蓮華のポケモン全員が 分かってる事だから。」 涼治:「分かってる。それだけは絶対に避ける。」 すると、いきなりキレイハナは俺の部屋を物色始めた。 涼治:「キレイハナ?」 キレイハナ:「あのさ、デンはどこ?」 涼治:「ああ、双葉さんがどこかに保管してる。今まで盗んだものも一緒だ。黒い種が消滅しても、その残りの力は その取り付いていたものに残ってるからな。結界の中に入れて、妖怪たちの力と聖なる力でしっかりと浄化するために。 でも、それが終わればみんな返す事ができる。それを待ってほしい。」 キレイハナ:「いいわ。蓮華がどういうか分からないけど。」 そこに蓮華が戻ってきた。 涼治:「蓮華…、あの…」 蓮華:「涼治、次に隠し事をしたら許さないからね。」 蓮華は俺を許してくれていた。 涼治:「蓮華…、ゴメン。ホントにゴメン!」 すると、蓮華は謝る俺に走ってきて、おもいっきり抱きついてきた。 蓮華:「涼治!あたし、もう一回信じるからね!絶対に裏切らないでよ!」 が、抱きついてきた時は明らかに肩を狙ったらしく、怪我を強く叩かれた。 涼治:「れ、蓮、華…」 痛さで顔が歪むし、涙も出る。 蓮華:「うふふふ、これは仕返し。今までの分よ。…足りないかもしれないけど。…ちょっと待ってね。怪我、治してあげるから。」 そして、肩の傷が温められるように痛みをなくしていっているのが分かった。 蓮華の力を強く感じていた。 そして肩の痛みが引いていくのが分かった。 蓮華:「それじゃ、また来るからね。ソルル、キレイハナ、帰るよ。」 蓮華は帰っていった。 俺はホッとしたが、肩の荷が下りたような気がして、そのまま眠り込んでしまうのだった。 蓮華:「キレイハナ、ソルル、あたしたちもやるよ。」 キレイハナ:「えっ?」 ソルル:「ソル?」 蓮華:「あたしたちも怪盗になるのよ。涼治のサポートのために。」 キレイハナ:「えぇ!?」 二人は驚いていた。 でも、あたしはやるよ。 やりたいもん、涼治のサポート。 これが遊びではない事は知っている。 涼治が真面目にやっていることも知っている。 ナナたちが相手になっても、心を鬼にしなければいけないのも分かってる。 でも、やりたい。 それにしても、怪盗に対してほのかな気持ちをわいてしまったわけね。 それもそのはず、涼治だったから。 でも、涼治って、後数年であんなにかっこよくなるんだなぁ…。 絶対別れないようにしよう。だって、別れちゃったら、復縁しようとしても能力者仲間にライバルが多数出現しそうだもん。 特に律子とナナ。 その頃、あたしの家には手紙が届いていたらしい。 『親愛なる癒しの少女よ、あなたのデンリュウは頂きました。ただし、あなたの心も奪いました アディオス 怪盗クールナイト』 という内容であり、涼治がこう書かなきゃいけないのはしょうがないと察しても、流石に赤面してしまった。 そして逆に、哲兄たちは怒り狂っていた。 蚊帳の外だったのが、舞さんと来美ちゃんだった。 その頃。 再び現実世界に、一通の予告状が届く事になった。 その届け先はあたしよりも厄介な人物であり、涼治も絶句していたらしい。 そして日本の警察が動き出そうとしていた。 なぜかと言えば、予告状のターゲットの持ち主は、菜々美ちゃんなのだから。