涼治:「双葉さん、もう予告状は出しちゃったか?」 双葉:「あたしがいるってことは、もう既に出されたってことよ。それも分からないの?」 涼治:「…で、予告状は本気にされてるのか?」 双葉:「みたいね。物が物だから。」 今回のターゲットは、ターゲットの持ち主が持ち歩き、同時にそれが流行を作るきっかけになったバンダナと指輪だった。 それは、持ち主が持ち主の彼氏から貰った大切なものである事も知っている。 そして今、どこでどういう情報を聞いたのか、テレビではこんな事が放送されていた。 『謎の怪盗出現!未確認情報によると被害は数千億に上る?!』 内容は、クールナイトと呼ばれる怪盗が、これまでに政治家や財閥の隠し財産である宝石や絵画を盗み去っているというもの。 そして被害は数千億とも言われているらしく、同時に警備員や強豪な用心棒、様々なトラップを優雅にかわし、翻弄し、 どんな場所にでも軽々と出現してどこかに消えていくという。 ありえないって、俺がそんなことをした覚えはないのに…。 ふと横を見ると、ニヤニヤした双葉さんがいた。 涼治:「まさか…」 この情報を流す事くらい簡単だろうな、双葉さんたちには。 でも、まさかとは思ってたけど、本当にそうとは思わなかった。 双葉:「ごめんね、悪いけど、せっかくの怪盗業よ。涼治君が真面目にやりたくて、同時にイタズラと思われていたほうが やりやすいって思ってたかもしれないけど、妨害がない状態での行動は涼治君自身を甘やかすと同時に、この次の任務の際に 油断しかねない可能性があるからよ。分かった?」 どういう心遣いなんだよ。 涼治:「はいはい…」 ちょっとやり過ぎなんじゃないのか? 双葉:「はいは一回!」 そう思ったけど、笑ってるようで笑ってない双葉さんには、流石の俺でも言い返せなかった。 涼治:「…はい。」 怪盗編 5.狙われたアイドル!W怪盗出現? 美香:「蓮華、ニュース見た?」 蓮華:「えっ?う、うん…」 なずな:「まさか、菜々美に予告状が来るとは思わなかったわね。しかも、こっちでもこれほど色々な事をやってたなんて、 すごい奴とは思ってたけど、ここまですごいなんてね。」 今、学校でもテレビでも、至る所で話題なのが、人気アイドルとして活躍中の菜々美の元に、怪盗からの予告状が届いたのだ。 『人気アイドル、星川菜々美さま、2日後、あなたが肌身離さず持ち歩いている大切なバンダナと指輪を頂きに参ります。  怪盗クールナイト』 (菜々美は芸名では、苗字を星川にしてます。天の川でハープを響かせる妖精を意味しているそうです) どういうことか涼治に聞きたいけど、クラスが違うから聞く事はできない。 けど、あの情報は嘘だとは思う。 でも、これで正体がバレたらマジでヤバイところに涼治はいると思う。 哲兄と同じくらい喧嘩を売ってはいけない相手、健人先輩に喧嘩を売ったようなものだから。 健人先輩は優しくて穏やかで、あまり怒ったり切れたりする事はない(ポケモン世界では違ってたけど)。 でも、菜々美が傷つけられたらかなり怒るのだ。 哲兄が教えてくれた情報だから、確かな事である。 律子:「でも、今回はあたしたちは妨害できないのよね?」 綾香:「そうなんだよね〜、でもさ、あたしたちもやっちゃはない?菜々美にメールすれば、テレビ局でも入れてくれると思うけど?」 香玖夜:「駄目だって、部外者のあたしたちだよ。行ったら絶対に怪しまれるよ。怪盗は誰に化けてるか分からないし。」 蓮華:「そうだね、それじゃ、遠くから見ない?警察を巻いた後に、あたしたちがやるの。」 なずな:「あ、それいいかも!みんな、そうしよう!」 あたしはつい口が滑っていた。 別にそうしたいわけじゃなかったけど、この場であたしが反対するわけには行かないし、あたしはデンを取られているのだ。 涼治を倒された事になってるのだ。 だから、怪盗クールナイトには攻撃できなければいけない。 だからこの発言をしたわけなんだけど、ふと視線を感じ、廊下の方を見ると、涼治が通り過ぎていくのが見えた。 聞かれちゃったかな?今の。 あたしが動揺しているうちに、涼治は行ってしまい、同時に、あたしの提案は可決されてしまったのでした。 あたしはすぐにメールを送った。 『涼治、昼休みに会えない?』 すると、こういう内容が返って来た。 『菜々美のことか?』 そしてこんな感じで続いた。 『そうよ、今日の夜の事なんだけど。』 『俺は怪盗である間はお前とも普通に敵となる。それは昨日話したはずだ。蓮華が本気でかかってきても、俺はお前と戦うからな。』 それ以降、メールを送っても、涼治からはメールは返ってこなかった。 そして屋上で待っていたけど、涼治は来なかったのでした。 『屋上に来れないの?』 そう送ったけど、 『行っても意味がない。昨日、俺のことは全部知ったはずだ。それくらい分かれよな。』 って返って来ただけで、涼治は来なかった。 本気だってことは、あたしも昨日のアレで十分理解していた。 でも、理解してたけど、現実的に考えると、あたしはできないと思った。 だけど、あたしは涼治と戦わなきゃいけないんだ。 だったら、戦わなくていい方向に転がるしかない。 蓮華:「キレイハナ、あたし、やるよ。」 キレイハナ:「昨日言ってたこと?まともにマジで本気に決めたの?」 蓮華:「うん。遊び半分じゃなくて、絶対にやる。」 キレイハナ:「そう、それならいいよ。あたしもソルルも、みんな了承してくれた。蓮華が一緒に行くパーティを決めてね。」 蓮華:「分かったわ。」 キレイハナ:「あ、ゴンたちは俺を選ぶなって言ってたからね。大きすぎて怪盗業の邪魔になるといけないからって。」 全く、それくらい分かってるわよ。 蓮華:「ええ!」 その夜。 あたしの家には哲兄や美香たちが呼び集めた、小麦ちゃんたちまでがいる現実世界の能力者一同が揃っていた。 涼治は怪我があるってことで外れている。 哲兄と健人先輩自身が外しているから、疑われる事はない。 哲也:「ここにいる全員が分かっているとおり、俺たちの仲間の菜々美が怪盗に狙われている。」 健人:「今までの怪盗との決戦上で考えれば、テレビ局の連中では怪盗は止められないだろう。しかし、俺たちなら怪盗が奪った 菜々美の大事なものを取り返す事ができるはずだ。」 来美:「だから、みんなでテレビ局の周囲に立つのよ。すぐ近くだと気づかれる可能性があるから、警察が取り囲んだ包囲網よりも 大きく取り囲むの。そして怪盗を見つけたらすぐに攻撃よ。いい?」 哲兄と健人先輩に、来美ちゃんが加わって指揮を取る事に決まった。 律子:「小麦ちゃんたちはまだ会ってないけど、すごくかっこいいのよ、怪盗は。」 浅香:「でも、侮れないのよね。」 玲奈:「涼風の能力者って聞いてたけど、話に聞くと、涼風より刹那ちゃんみたいなのよね?」 刹那:「えっ?そうなのか?」 美香:「うん、冷気と涼風は能力の中では別物よ。それにあれは吹雪に近いから、氷と風の能力者って感じだもの。 この中では刹那ちゃんの力に近いわね。」 綾香:「そうね。それに、あの日にあたしたちが会った怪盗は、…蓮華、つらくなるけどゴメンね。デンリュウの時の。」 蓮華:「ううん、別に。」 綾香:「じゃ、言うね。デンリュウをとられた時の怪盗は、あたしたちに気配を知られないようにしてポケモンを使ってたわ。 美香ちゃんたちが雷や吹雪で撃ち落されたくらいだし。」 香玖夜:「だけど、あの戦いで怪盗の持ってるポケモンは分かったわ。エアームドやヤミラミ、エーフィ、カメール、ガラガラ、 そしてライボルトよ。初めはこれで涼治君を疑ったけど、あの時、涼治君は一緒にいたし、怪盗が涼治君をかついでいた。 あの担がれた方が本物である事は蓮華ちゃんが証明してくれてる。だから、仲間だと思って攻撃をためらうのは駄目よ。」 久美:「それと、怪盗のポケモンはかなりの強敵よ。あたしのメガニウムや、希のヌオーでさえ、ガラガラ一匹に倒されたから。」 希:「あれは峰打ちって言う技よ。」 晃正:「でも、相手はどうなっても能力者であっても人間だから、人間の弱点を突けば撃ち落す事は可能だと思うな。」 海:「そうね、ただ、怪盗に気を取られすぎて闇にまぎれたヤミラミから攻撃を受ける可能性もあるわ。」 来美:「だから、全てにおいて、あたしたちは慎重にことを進めるのよ。」 哲也:「それじゃ、行くぞ!」 蓮華以外の仲間:「おう!」 この時、あたしはあまり会話に入ってなかった。 一応、涼治=怪盗ということが証明されないように手は打ったけど、でも、これだけの20人以上の能力者の集中攻撃を受ければ、 あたしの嘘も見抜かれてしまう。 だったら、あたしが涼治のサポートをするしかない。 もう決めた事だけど、あたしは再び決心した。 そしてあたしは、テレビ局の南側に位置するビルの屋上に立った。 みんなも色々なところに散らばり、事が始まるのを待っている。 海:「蓮華ちゃん、迷ってるの?」 そんなときにプータルに乗ってやってきたのは海ちゃんだった。 蓮華:「何のこと?」 海:「とぼけても、無駄だよ。蓮華ちゃんの嘘は、あたしには通じないから。怪盗の正体、涼治君なんでしょ?」 蓮華:「そんなわけ…」 刹那:「嘘を言ったら怪我するぞ。」 小麦:「ちゃんと話してくれないかなぁ?あたしたち3人は味方だよ、…多分。」 いつの間にか背後には刹那と小麦ちゃんがいた。 気配を消してたわね…刹那。 でも、味方? 蓮華:「いつから気づいてたの?いつの間に3人で話し合ってたの?」 あたしはこの状況での嘘は不可能だと思った。 だから海ちゃんに真顔で質問していた。 海:「…やっぱりそうなのね。気づいたのは前回よ。あたしがプータルしか式神を出さないとでも思ったの?最近考えて作り出した 偵察用の式神が、涼治君の行動の一部始終をしっかり見ていて、あたしに報告してくれたの。全く、ポケモン世界で怪盗を 行えばよかったのに、こっちでするからあたしみたいなのにバレるのよ。」 う、迂闊だった…。 海:「それであたしは蓮華ちゃんに問いただそうと思ってたの。でも、今日のその様子を見る限り、蓮華ちゃんが何かを決めたけど、 でも、何かに迷いかけてもいる、そんな気がしたから、刹那と小麦に話して、一緒にここまで来たわけ。なずなや美香は知らないから 安心して。」 小麦:「怪盗をすることは、イコール人のものを奪う事だから、許される事ではないわよ。」 刹那:「だが、時と場合によりやらなければならない使命があることもまた事実だ。だからここでおとなしく自白するんだ。」 あたしたちと一緒にたくさんの修羅場を潜ってきた海ちゃん、平和主義で一瞬のほほんとしているけど、本質は見極める事ができる 小麦ちゃん、妖怪としても人間としても生きている、両方の立場を知っている刹那、確かにこの3人なら、話しても良いかな? あたしは、3人を信じて今までのことを明らかにした。 海:「そういうことなの…何で涼治君しかそれができないのは分からないけど…、でも、どうせならあたしたちに言ってほしかったな。」 小麦:「そうすれば、それなりに何かを出来たはずなのよね。」 刹那:「ただ、話を聞いた限りでは奴の気持ちが分からなくもないな。私も使命を果たさねばならぬことはあった。 その時には周囲が敵になることも想定していた。だが、奴の周囲は奴を包み込める仲間ばかりだ。私の時のように、いつ周囲が敵として 現われてもおかしくない状態ではない。」 蓮華:「そうなの、だからあたし…」 キレイハナ:「怪盗になっちゃうので〜す!」 あたしが告白しようとした時、キレイハナが割って入ってきた。 蓮華:「ちょ、ちょっと!」 キレイハナ:「いいじゃん、もう。3人とも、共犯になってくれる?」 海:「あたしはそのつもりよ。」 小麦:「う〜ん、あたしも。」 刹那:「人数は多いほうがよいだろうな。まだ私と小麦は怪盗と一度も対峙していない。だから怪盗に恨みを買った覚えはない。」 結局、大体のことは予想していて、あたしのところに来たらしかった。 蓮華:「それじゃあ、サポートよろしくね。」 小麦:「了解〜!」 蓮華:「それじゃ、すぐに準備しておこうかな。私の中に眠る癒しの力よ、世を忍び、世を駆ける仮の姿を我に与えよ!」 あたしは力を体に放出し、涼治のように、少し年上の、そして怪盗らしい姿に変わるのでした。 蓮華:「怪盗…チェリー…チェリーナイト!光から闇へ、闇から光へ飛び回るぞ!」 菜々美:「あたしのバンダナと指輪が狙われるなんてなぁ〜…」 マネージャー:「菜々美ちゃん、大丈夫だよ。今日はこれから取材だけだし、取材には刑事さんも立ち会ってくれるんだ。 警察もテレビ局の周囲を警護してくれている。だから君は落ち着いて取材に応じればいいよ。」 菜々美:「は、は〜い!」 あたしはマネージャーの言葉は耳から耳へと通すように聞いていた。 マネージャーは健人とは違って、両親と同じ感じの頼れる人だけど、あたしの能力のことは知らないし、怪盗の事だって マスコミ情報でしか知らないから、多分怪盗の本当の内容は知らない。 だから、あまり本気で聞くべきではないって、しっかり分かっていた。 菜々美:「あたしはいつでも大丈夫ですよ。」 そう言って、用意された衣装を着て、メイクしてもらう。 そして、そうしながらあたしはモンスターボールを確認した。 マリルリ、バタフリー、クロバット、オドシシ。 これがあたしのポケモン。 芸能界にいる星川菜々美が、中学校に通う上草菜々美が持っていると確認され、同時に登録されているポケモン。 でも、今は違うのよね。 新たに2匹加えたのだ。 一匹はホエルコ、ナナシマの事件の時にゲットした。 そしてもう一匹は、健人がくれたポケモン。 この子なら、怪盗に対抗できるはず。 だから、あたしのところにはいつ来てもいいよ。 あたしは、ポケモンバトルをしてでも、衣装の中に含まれる、この二つを守り通すんだから! 涼治:「パトカーの量、結構あるな。マスコミや野次馬の数も半端じゃないし、怪盗の姿を見たいからでもあるかな? 菜々美のファンも結構いるし。」 雪美:「それに、警察の包囲網を能力者の包囲網が囲んでいるわ。蓮華ちゃんもその中にいる。」 涼治:「…分かってる。あいつとは敵として渡り合うこともあるって分かってる。」 雪美:「そう、それじゃ、始める?」 涼治:「ああ。」 既に怪盗として、テレビ局の見えるビルの屋上に俺はいた。 ここに警察がいないわけじゃない。 ただ、全員眠ってるのだ、ヤミラミの催眠術によって。 涼治:「それじゃ、始めるぞ。フラウ、スノウ、アクエリ、頼んでおいたものを頼む。」 3人:「了解、クールナイト人形を飛ばすわね。」 通信が切れると同時に、テレビ局の北側を、白いものが飛ばされるのを見た。 俺と同じコスチュームをつけた氷のマネキンが、姿を消した状態のスノウの力を借りて飛んでいるのだ。 スピードはアドバルーンと同じくらいだが、十分に目をひきつける事になるだろう。 クールナイト:「フィート、ヤミラミとテレポートでテレビ局のの屋上に飛んでくれ。そしてすぐに俺のところに戻ってくるんだ。 ヤミラミは屋上にいる連中、全員に催眠術だ。」 エーフィのフィートとヤミラミがうなずいて姿を消し、すぐにフィートは戻ってきた。 双眼鏡で覗くと、警備員が倒れ続けているのが分かるが、ヤミラミの姿は確認されていない。 どうやらいつものように姿を消してくれているようだ。 クールナイト:「それじゃ俺たちも行くぞ。」 俺とフィートも屋上に移った。 そして警備員の姿に変わり、無線で異常がないと言う。 ビルの屋上は野生ポケモンがたまに来る事もあり、無線できなかったのは野生ポケモンが走り回っていた事で怪盗だと思い、 動いてしまったからだと答えておいた。 スノウ:「クールナイト、今の無線での応答は正しかったわ。今の応答で屋上の通信が途絶えた理由は明らかになり、屋上への不穏は 避けられたから。」 クールナイト:「了解。」 俺はそのすぐ後、警備員からADや清掃員の姿に変わり、確認しておいた菜々美のいる部屋の階まで向かった。 テレビ局は色々な人がいるだけに、ADや清掃員が一人増えたとしても、なかなか怪しまれる事はなかった。 途中でバイトのADや着ぐるみのタヌキの姿にもなったが、全く怪しまれなかったのだ。 だが、その階に来たときだった。 俺の踏んづけたのはテレビ局にいる誰もが踏まなかったスイッチだった。 警官:「お前が怪盗だな!」 その声と共に、俺の上には鉄格子のような檻が落ちてきて、その周囲を警官たちに囲まれていた。 そして警部補らしい奴がやってきた。 怪盗を捕まえて喜んでいるのがよく分かるが、こんなチャチな罠で俺が捕まるとでも思ったのかな? 警部補:「どんな奴かと思えばまだ若造のようだな。だが、簡単に捕まった。まだまだ青いな。」 クールナイト:「そうかな?フィート、テレポートだ。」 俺はすぐにフィートを出し、テレポートでその場を去った。 通信によると、警部補らしき男はかなり悔しがっていたらしい。 菜々美:「怪盗が出たんですか?」 マネージャー:「ああ、だけど逃げたらしいよ。だから安心しなよ。」 菜々美:「はい!」 あたしは取材用の笑顔で答えた。 取材も大半が終わっていて、そろそろ予告された時間。 でも、まだ怪盗がこの部屋のある階に来ただけで、何も起きていない。 このまま何もなく終われば…。 そう思っていた時、マネージャーが倒れた。 菜々美:「…マネージャー?」 でも、そのすぐ後に警官二人が倒れ、取材に来てる方々が倒れたため、あたしは何が起きたのかを察した。 いる。 この部屋に何かがいる。 でも、部屋のドアには鍵がいつの間にかかけられているから出られない。 だったら、この部屋にいる奴を誘い出すしかないわね。 菜々美:「必殺、広範囲超音波!」 あたしはメガホンを具現化し、床に向かって放った。 この部屋はっていうか、テレビ局は部屋ごとに防音機能を作用させているので、あたしの超音波が下の階に向かうことはない。 そして、超音波の波動は床に広がり、そして何かにぶつかるのを感じた。 菜々美:「そこね!出てきて、ワンリキー!」 あたしの6匹目の、健人から貰ったポケモンはワンリキーだった。 菜々美:「ワンリキー、広範囲にわたって見破る攻撃よ!」 ワンリキーの睨むような視界が周囲に広がり、一匹のポケモン、ヤミラミが姿を現した。 菜々美:「先手必勝の空手チョップよ!」 ゴーストタイプのヤミラミには普通なら効かない格闘タイプの技。 でも、あたしだってトレーナー。ポケモンのことは分かってる。 たとえテレビでは天然っぽくしていても、実際にはちゃんと分かってるのだ。 見破られた後のヤミラミには格闘技が通用する事が。 そして、同時に悪タイプでもあるヤミラミに、格闘タイプの技は弱点となることも。 でも。 ヤミラミが倒れると、同時にサイケ光線のようなものがワンリキーを襲っていた。 気づけば、部屋の中にはあたし以外にもう一人の人物がいて、エーフィを連れていたのでした。 菜々美:「あなたね、怪盗クールナイトは。」 クールナイト:「ああ、僕のヤミラミに気づき、倒せたのは君が初めてだよ、お嬢さん。」 だろうなぁ。 ヤミラミの事は聞いてたけど、実際に倒した話は蓮華たちのメールでは聞いた事がなかったもん。 菜々美:「あたしのバンダナと指輪が狙いなの?」 クールナイト:「ああ。悪いけど、それらを貰うよ。」 怪盗は近づいてきた。 その時、あたしは何かを感じた。 声だ。 音の能力者は声だけで誰が誰なのかを判断する事が出来る。 ただし、鈴香ちゃんという例外もいるけど(例外の理由:鈴香ちゃんは歌を属する音の能力者だから)。 あたしが今聞いたこの声、この声は聞き覚えがある。 あたしの身近な知り合いに一人。 でも、まさかと思った。 ホントにそうなの?ホントに…この人が…。 だけど、この声は明らかにそう。 だったら、確かめないとね。 菜々美:「どうして怪盗をしているのか、それを教えてくれたらにしてくれないかな?」 あたしは目の前、数センチまでやってきたところで聞いた。 クールナイト:「何のことかな?僕は君とは初めて会…」 菜々美:「あたしが声で誰かを判別できる音の能力者だってこと、忘れたの?涼治君でしょ?」 すると、目が少し動いていた。 動揺してる、やっぱりそうなんだ…。 菜々美:「どれだけ姿を変えたとしても、あたしには騙せないからね。ここで逃げたら、健人に喋るから。」 すると、クールナイトは顔を覆っている白い布を取った。 多少、学校で見た時よりも大人っぽくなった顔をしてるけど、涼治君だった。 涼治:「…迂闊だったな。」 菜々美:「あたしのこと、本質まで知らなかったのが失敗ね。どうせ、双葉さんたちが裏についてんでしょ?」 涼治:「そこまで分かってるのかよ…」 あたしはちょっと試してみただけだった、今のは。 でも、そうなんだ…。 菜々美:「このこと、蓮華は知ってるの?」 涼治:「前回のでバレた。でも、あいつが知っていても俺はやらなきゃいけないんだ。だからこれは貰っていくぞ。」 あたしは不意を突かれ、涼治君からバンダナを取られていた。 でも、指輪は握り締めていて取られなかった。 菜々美:「返して。」 涼治:「駄目だ。その指輪も…」 菜々美:「健人に言うよ、今すぐに。」 この言葉は効いている様だ。 健人に言えば、哲也先輩に伝わるからだと思う。 すると、涼治君は怪盗になった理由を話してくれた。 菜々美:「ふぅ〜ん、それで、どうしてあたしたちに教えてくれなかったわけ?」 涼治:「それは…その…」 菜々美:「別に話さなくても良いわ。あたしも…自分以外の人が不幸になるのは嫌だからこれは渡すわ。健人にも言わない。 でも、これがきっかけで蓮華と別れたら、その時はみんなに言うからね。分かった?」 そろそろ外も騒がしくなってきたので(予告時間を10分も過ぎた)、あたしは最大通告をしてから指輪を渡した。 涼治:「サンキュー。それじゃ、俺は行く。」 涼治君は再び布で顔を覆い、姿を消した。でも、ドアの鍵を開けず、メールをしておいてから、気絶しようかと思った。 そんな時、机の上には一通の手紙が残されていた。 『天の川の天使の持つバンダナと指輪は頂きました アディオス 怪盗クールナイト』 だから、メールにはこう書いておいた。 『健人へ、ポケモンで戦ったけど負けちゃった。健人のポケモンも倒されちゃって、あたしちょっと、今後のトレーナー人生、 すごく自信がなくなりそう…。指輪も取られちゃったよ、あたしに金縛りかけて、手から無理やり抜き取っていったの。 怖かったよ。初めて、男の人に恐怖を感じた。今後、健人に会うときも、恐怖を感じちゃうかも。もう、二人きりにはなれないかもね。 ゴメンね、迷惑かけて。 菜々美より。』 ほとんどが嘘の内容だけど、涼治君の話を聞く限り、蓮華とは溝が出来始めている。 だからあたしは、少しは災難にあうべきだと思ったのだ。 少しは水でも被って反省しろ!!って言う意味。 そしてあたしも、自分の技でわざと気を失った。 数分後、警察がドアをぶち破る事になる。 その頃、菜々美のメールを見た健人が怒りに燃えたのは言うまでもない。 クールナイト:「さてと、翼よ、我が闇夜を駆ける為の翼、ハンググライダーに変われ!」 俺はテレビ局の屋上から再び飛翔した。 警備員は、元気のカケラで復活したヤミラミによって再び眠らせておいた。 眠らなかった警備員もいたが、ライボルトの電磁波によって無線もおかしくしておき、痺れさせたので大丈夫だろう。 テレビ局の周囲の警官たちは俺がハンググライダーで逃げ始めた時、追いかけ始めていた。 サーチライトにもわざと入って目立ったから、十分注目を浴びたし、俺が菜々美の指輪をはめ、菜々美のバンダナを腕に巻いてるために、 結構反響は大きいだろう。 警察は途中で吹雪によって足止めし、撒いた。 これで今日も大丈夫だろうと思っていた。 が、すぐにそれは起きた。 ハンググライダーに火がついたのだ。 クールナイト:「ぐっ、美香だな…」 ハンググライダーは俺の翼が具現化したものなので、炎に燃える事で俺もダメージを受ける。 クールナイト:「冷気よ、炎を消し、俺に纏え!」 俺は火を消した。 しかし、ビルの合間の空き地に俺は墜落してしまうのだった。 翼は冷気を纏わせたおかげで何とか燃え広がり消滅したりするのを免れた。 でも、墜落のスピードは弱めるだけで、死んだり気を失う事はなかったものの、体中を強打してしまい、動こうにも立ち上がる事が できずにいた。 そして。 健人:「よくも俺の彼女を泣かせてくれたな!」 哲也:「今までの仕返しはさせてもらうぞ。」 美香:「ここが年貢の納め時。」 来美:「あなたの正体も見せてもらおうかな?」 俺の周囲は哲也先輩たち5,6人の能力者が取り囲んでいた。 多分、菜々美がメールで健人先輩に嘘の内容でも送りやがったに違いない。 でも、俺は体の痛みによって喋ろうにも喋れずにいた。 その時の視線が健人先輩を睨んでいるように見えたのだろう。 俺は先輩に胸倉を捕まれ、おもいっきり殴りつけられていた。 健人:「これだけじゃ足りないな。」 その後はキックを鳩尾に受け、何とか立ち上がろうとした腕を踏みつけられた。 そして、哲也先輩には疾風の、来美先輩からは水の攻撃を受け、美香からは炎、晃正から大地の、浅香から光の矢の攻撃を受けていた。 雪美さんや双葉さんから貰った力がなければ、致命傷を受けていたと思う。 翼も隠しておいてよかった。 でも、体中を攻撃され、俺はホントに動く事も出来ずにいた。 哲也:「健人、これくらいでいいだろ?バンダナも指輪も取り返したんだ。後はこいつの素顔を拝見しようぜ!」 健人:「そうだな。」 バンダナは腕を攻撃された時に取られ、指輪もその時に指から無理やり引き抜かれたのだった。 その時に一緒に指をおもいっきり引っ張られた。 何故か顔だけは攻撃されずにいたため、まだ素顔はバレていない。 だが、白衣はすでにボロボロの状態で、肌も普通に見え、血も出ているし、タンクトップもパンツも切り裂かれた状態になっていた。 上半身は裸に近い状態だな。 これで、もう駄目だな、ここまでかと思った。 そして蓮華とは別れさせられ、同時に能力者全員に敵視され続けるんだろうな。 そう思った。 でも、俺でさえも驚く事が起きていた。 花びらがビルの上から降ってきたのだ。 哲也:「何だ?蓮華か?」 健人:「いや、どうやら違うらしいぞ。」 健人先輩が示した方向には、番傘を開き、前に突き出した状態で向かってくる誰かがいたのだ。 ??:「どのような罪があったとしても、一人を多勢で襲うのは許される事ではない。」 そして、その誰かが傘を閉じると、同時に花びらが舞い、花びらが遠くに飛んでいくと同時に、彼女は姿を現していた。 水色のTシャツとスカートに、黒いハーフパンツ、そして白いマントのような布を背中につけ、金色の髪をポニーテールのような状態にした 髪型の色白の女性が現われたのだ。そして、同時に白い布で顔を覆っている。 美香:「あなた、一体何者なの?」 ??:「私は…そこに沈む青年と同じ、闇夜に眠る一輪の花。その名を、チェリーナイト。今宵、そこの青年が奪いきれなかったものを 頂きます。」 チェリーナイトと言った女性は直後、哲也先輩と健人先輩に飛び蹴りを食らわし、再び花びらを舞わせ、その隙にバンダナと指輪を 手にしていた。先輩たちが蹴りを受けたのは油断していたからだった。 そして女性は俺に駆け寄っていた。手に持っていた番傘を振り回したことで、周囲にいた晃正達も遠ざけていた。 チェリーナイト:「男には攻撃できても、女には攻撃できないのね。甘い方々だこと。チリーン、嫌な音よ。 そして、カクレオン、これをさっき教えた場所に持っていって。ワタッコ、あなたは綿胞子、サマヨールは黒い眼差しよ。」 チェリーナイトは俺を守るように立ち、彼女のポケモンたちが先輩を足止めしたりしていた。 そしてカクレオンが指輪とバンダナを持ち去っていた。 クールナイト:「おい、それは…」 チェリーナイト:「あたしたちも行くわよ、クールナイト、フィートのテレポートよ。」 クールナイト:「あ、ああ。」 俺は何とか立ち上がり、フィートを出した。 すると、彼女はポケモンを戻していたが、気づけば哲也先輩たちが動けずにいるのが分かった。 チェリーナイト:「チリーンの嫌な音が頭痛を引き起こし、綿胞子が足止めをし、さらにサマヨールの黒い眼差しは人間でさえも 足止めするの。ミューズ、花びらの舞よ。」 チェリーナイトがキレイハナを出していた。 そして俺は、彼女に言われるがまま、花びらの舞で彼らの視界から消えたところをテレポートし、彼女のキレイハナと共に そこからだいぶ離れた場所のビルの屋上に飛んだ。すると、そこにカクレオンもいた。 クールナイト:「お前は…何者だ?」 チェリーナイト:「うふふ、誰か分かる?涼治!」 この喋り方でようやく誰か分かった。 クールナイト:「…蓮華、なのか?」 すると、彼女の姿が花びらが舞うと共に、光に包まれて蓮華の姿に変わっていた。 蓮華:「正解よ、涼治、大丈夫?」 楽しそうに言う蓮華。 何だか俺は、蓮華に怒りを感じていた。 涼治:「どうして、どうして勝手なことをしたんだ!俺は真面目に怪盗をしてるんだ。お前が何でこんな事をしたか分からないけど、 遊び半分にやるのは許さない!今すぐ帰れ!」 そして俺は、元の姿に戻り、蓮華におもいっきり怒鳴っていた。 蓮華:「涼治…あの状況だったらポケモン世界ではうまく行ってても、双葉さんたちの力があっても、それでも涼治の正体はバレると思ったの。 だったら、あたしがサポートするべきじゃないかって思って…」 涼治:「でも、これは俺がはじめたことだ。お前には関係…」 海:「スト〜ップ!一人で抱え込むのはやめたら?」 小麦:「あたしたちも味方ですよ〜。」 刹那:「お前の行動で蓮華が傷ついているぞ。少しは正気に返れ。」 俺は蓮華の行為は嬉しかったが、でも納得いかずに言い返していた。 そこに現われたのは海、小麦、刹那だった。 海:「あなたは蓮華ちゃんと敵対しようとしていたのよ。さっき菜々美のメールで知ったの。だから蓮華ちゃんが怪盗になってよかったと あたしは思ってるわ。涼治君、蓮華の気持ちも考えてあげて。あなたは何も分かってないから。」 小麦:「少しでも、今日、二人で話していればよかったんですよ。怪盗をしている理由は分かったけど、でも、昨日一日では 蓮華ちゃんは理解し切れないよ。事実を知っても、あたしだってしっかり理解できないもん。二人で何回か話さないと、溝が出来ちゃうよ。」 涼治:「…」 刹那:「使命の気持ちは私も理解できる。だが、お前には仲間がいるのだ。それを理解できていないお前は、怪盗としても失格だ。 そこに雪女、古椿、人魚もいるのだろ?」 すると、双葉さんたちが立っていた。 双葉:「ついにこうなったか…」 泉:「まぁ、ここは二人を残さない?いつかは起きる事だったし、昨日話しただけじゃ、理解してても理解しきれないんだしさ。」 雪美:「涼治君、蓮華ちゃん、これからの事は二人で話してね。」 そして6人はいなくなっていた。 蓮華:「勝手なことしてごめんね。」 涼治:「…謝るなよ。俺が悪いんだ。お前のこと、よく考えてなかったから。」 蓮華:「違うよ、あたしが悪い!涼治、でもね、あたしはチェリーナイトとして動けてよかった。だって、涼治を守れたから。」 涼治:「でも、俺はサポートしてほしいといった覚えはないぞ。」 蓮華:「分かってるよ、分かってるけど、あたしは涼治がつらいままでいるのを黙ってみてるわけには行かなかったの。」 涼治:「何度も騙しておいても、わざとメールでつらく当たって怪盗としての俺に近づかないようにしようとしても、お前は 俺のそばにいたいってことなのか?」 蓮華:「あのメール、そういうことだったの…。…うん。あたしはそばにいたいよ。」 涼治:「蓮華…。これからも、怪盗のサポート、頼んでもいいのか?…お前はいいのか?つらいぞ、傷つくぞ、それでもいいのか? 先輩や親友の前に別人として現われて、傷つくような言葉も言われ続けるぞ。言い返せない言葉を言われて言葉が詰まる事もあるぞ。」 蓮華:「いいよ。あたしは決心したもの。涼治だけにつらさを与えたくない。それに、海ちゃんや小麦ちゃん、刹那や菜々美ちゃんも、 あたしたちの味方だよ。あたしたちだけじゃないんだよ、仲間は。つらかったり、傷ついたりするけどさ、でも、あたしたちだけが 抱え込まなくてもいいんだよ。だから…」 涼治:「本当に、…いいのか?」 蓮華:「いいよ。涼治だけがつらいのはよくないもの。自分一人で全てを背負ってほしくない。」 涼治:「でも…」 蓮華:「もう何も言わないで。あたしは言いたい事は言ったもの。涼治、あたしのこの気持ち、十分に受け止めて。」 涼治:「…」 蓮華:「分かってくれるよね?」 涼治:「蓮華…」 蓮華:「涼治…」 キレイハナ:「はい、スト〜ップ!」 蓮華:「ちょっと、キレイハナ!」 キレイハナ:「再び怪盗の姿になっていても、中3同士で熱いキスはやめなさい!まだ子供でしょ!」 全く、あたしたちがいるのを忘れちゃ困るわよ。 ボールの中にはあたしたち12人のポケモンがいるのよ。 そんなキスシーンを間近で見たいとは思わないって。 だからおもいっきり邪魔してやった。 後ちょっとで唇が触れる瞬間を、あたしが叫んで止めたのだ。 蓮華はともかく、涼治君は心底残念そうだった。 全く、二人の心が通い合ったからって、顔を覆っていない状態の怪盗の姿になるのもどうかと思うわね。 蓮華:「そんなぁ…」 キレイハナ:「やるんだったら、あたしたちがいない場所でやってよね。でも、そろそろ帰らないとヤバくない?」 涼治:「あ、そうだな。」 蓮華:「あ〜あ、帰るしかないか。」 二人はハッとしながら、ちょっと残念そうでした。 蓮華が涼治君の傷を癒してから、二人は別れ、家路に着いたのでした。 ちなみに、今日の結果はスカでした。 だから蓮華がこっそり菜々美ちゃんに返したそうです。 菜々美ちゃんは仕事から戻ったら控え室に落ちてたっていう嘘を言ってました。 でも、問題は一つ。 哲也さんたちは相変わらず怪盗を捕まえたいらしいです。 何故なら、逃げられたから。 蓮華に疑惑の目が向いていないのは、海ちゃんたちが嘘を答えているからだけど、涼治君の正体がこうも立て続けにばれたんだし、 多分後何人かにはバレるんだろうなって、あたし、キレイハナは思います。 さて、次のターゲットは何なのかな? 双葉さんがメールで言うには、ポケモン世界にあるものらしいです。 でも、まだ確認中らしく、あたしはしっかり内容を聞いてません。 これから先、どうなるのかな? 後、実は今日の能力者の集まりに参加しなかったのは、菜々美ちゃんと涼治君以外に、もう一人いた。 志穂ちゃんだ。 実は、帰りにあたしたちは会ったのよね。 その時にこう言っていた。 志穂:「あたしも味方だからね。でも、神社に怪盗として来たら、その時は、どうなっても知らないからね。」 と。 どうやら、式神使いは二人とも正体に気づいちゃっていたようだな。