蓮華と涼治君の間に何かあったのかな? そう思ってしまったのはあたしだけなのかな? 菜々美のところに怪盗が来る日、妙にそう思えてしまった。 蓮華と涼治君の間に溝があるように見えた。 喧嘩でもしたのかな?でも、どうして喧嘩したのかな? ずっと疑問に思わずにはいられなかった。 だって蓮華は親友だし、涼治君は、初恋の人だから。 でも、結局想いは伝わらなかった。その想いが、残酷な事を生み出したから。 あたしは涼治君が好きで、それで蓮華に嫉妬してた事があって、その想いをダークに突かれて、あたしは蓮華を傷つけた事があるから。 だから、涼治君には一度も告白をしていない。 再び、蓮華を傷つけたくないし、もう、あたしが涼治君に断られることは分かってるから。 怪盗編 6.寂しさの代償!黒い種の脅威 ナナ:「ふぅ〜ん、それで告白をしてないのね?」 なずな:「そう、だからどうしようって思ってて…」 律子:「その相談相手があたしたちなの?」 なずな:「うん…。」 律子と一緒にナナの元を訪れたあたし。 蓮華や美香、綾香たちには相談できず、海ちゃんは恋愛に興味がないから無理。 だから、律子とナナにこのことを相談に来たあたし。 でも、律子は半分怒った顔をしていた。 律子:「あのさ、あたしも彼氏、いないんだけど。」 なずな:「うん…、そうだけど…。この悩みを聞いてくれる相手は律子たちくらいしかいないもの。恋人がいる人に話しても、 いない人の悩みは分からないから…。」 蓮華たちを信じてないわけじゃないけどね…。 ナナ:「…それじゃ、あたしを訪ねるのは意味がないと思うよ。」 なずな&律子:「えっ?」 そんな時に突然のナナの一言は、あたしたちを唖然とさせた。 なずな:「ナナ、いるの?」 律子:「あたしも初耳だけど…」 ナナ:「実はいるの。遠距離恋愛だけどね。」 あたしたちはちょっと興味があって、ナナに彼氏について聞いた。 ナナ:「あたしの彼氏は、突然この世界に現われて、どこから来たのかが全く記憶にないらしいの。それに、能力者でもない、普通の人間だった。 唯一覚えていたのは、オオタチっていう名前と、自分がヒロっていう名前かも知れないってことだけ。 だから、一ヶ月くらいあたしの家で一緒に暮らして、記憶が戻らないかを待っていたの。でも、結局何も思い出さなくて、その代わりに生まれたのが あたしと彼との両思いの心だったのよ…。」 なずな:「ふぅ〜ん、で、その人は現実世界にいるの?」 ナナ:「いいえ、その人はこっちで暮らす事を決めたわ。そして、今は旅に出てるの。ポケモンウォッチャーとして、結構有名よ。」 律子:「あ、もしかしてさ、ずっと前に同じ雑誌を束にして買ってきてたよね?その雑誌に写ってた男の人なの?」 ナナ:「…律子、どうしてそんなこと覚えてるのよ。そうよ、その人。たまに連絡があるの。一時期、全然連絡がつかなかったけど、 最近またよく連絡が来るようになったし。」 どうしてるのかなって、ナナは物思いにふけっていた。 あたしと律子はそれから適当に喋って、騒いでから、現実世界に戻ってきた。 現実世界は夕暮れが収まって、少し暗かった。 律子:「なずな、これからどうする?うちに来る?」 なずな:「えっと…、いい。あたし、今日は家に帰るから。」 律子:「そう、でも、寂しかったらあたしの家に来ていいからね。大歓迎だから。」 なずな:「ありがとう。」 律子と別れた後、あたしはまっすぐ家に帰った。 なずな:「ただいま!」 入って必ず言ってる言葉。 でも、帰ってくる言葉は、「おかえり」という言葉はない。 まだ、お父さんもお母さんも帰ってきてないんだなぁ…。 あたしは冷蔵庫の中をチェックして、夕食を準備したり、洗濯物を家の中に入れたり、お風呂を掃除したりした。 あたしの日課だからだった。 ポケモン世界に行って家を空けていたこともあるけど、そうじゃない時は必ずあたしがやっていた。 お父さんやお母さんがいつ帰ってきても、夕食を食べたりお風呂に入ったりできるように。 ムウマ:「ムウ?ムウムウ?」 ムウマやジュペッタたちは、あたしが寂しくないか聞いてくれるけど、あたしは大丈夫って笑顔で返していた。 ホントは寂しいけど、寂しいって言ってたら、みんながブルーになっちゃうもの。 何かをしていた方が、あたしとしては気が楽だから。 でも、ものすごく寂しい時は、ムウマたちに泣きついていた。 だけどね、しょうがないんだ。 お母さんも、お父さんも仕事が大変で、なかなか仕事から家に戻れない事が多いから。 あたしのお父さんはお医者さんで、お母さんは看護婦さんで、いつも忙しいから。 働いてる場所は海ちゃんのお父さんが経営している病院よりも大きな国立病院で、涼治君のお父さんもそこで働いていた。 確か涼治君のお父さんは数年前に独立して、診療所を建てて、そこで医者を続けているのよね。 涼治君が医者を目指しているのは、涼治君のお父さんが診療所を建てるのが夢だったことに関係してるって聞いた事がある。 それはあたしが涼治君に片思いをしていた時だった。 その時に既に付き合っていた蓮華が教えてくれた事だった。 ちなみに、あたしが涼治君に恋をしたのは、まだ顔も何も知らなかったときにお母さんを訪ねて病院を訪れた時だった。 場所が分からなくて迷ってしまった時に、寂しくて怖くて泣き出しそうな時に涼治君に会って、案内してもらったのだ。 それが小3の時。 まだ、蓮華たちとも親しくなくて、苛められる事が多かった時。 小4で蓮華たちと仲良くなって、それからは楽しい毎日になっていたけど。 でも、涼治君と中学で再会した時、涼治君はあたしのことを全く覚えていなかった。 でも、あのときに助けてもらった事のお礼が言いたくて、よく練習を見に行っていた。 それで、あたしは涼治君が好きになった。 けど、そのお礼は言わずに終わってるんだよね…。 そんな時に電話が鳴った。 お母さんからで、今日は二人とも仕事が終わらなくて、帰る事ができないという内容だった。 なずな:「うん、分かった。それじゃ、夕食は冷蔵庫に入れておくね。明日帰ったら食べて!」 今日も一緒に食べれないんだ…。ちょっとショックだった。 でも、まだ電話には続きがあった。 お父さんが今取り掛かっている新医療の研究のレポートの一部を家に置き忘れてたらしく、あたしに持ってきてほしいらしい。 なずな:「うん、いいよ!」 あたしはちょっとでも顔があわせられると思い、病院に向かった。 そして、ちょっとお母さんとお父さんに会った後、家路に着こうとした。 普段はなかなか顔を合わせることは出来ない。 たいてい、朝は寝てる時が多いし、夜だってあたしが寝ている時に帰ってくることもある。 小学校に通っていた頃は、お母さんは家にいる事が多かったけど、それはあたしが中学に入るまで、親として、仕事よりも家庭を優先 してたからだった。 あたしも中学になるときに、今みたいになってしまうことを承知してるから、ホントに寂しくても、お父さんたちには言えないんだ。 子供は親に頼っていいんだけど、親は子供の悩みは聞こうとしてくれてるけど、でも、あたしは、忙しい両親の姿を見ていると、 もっと忙しくさせたくないって思っちゃうんだ。 お父さん:「元気そうだな、悩みとかはないか?」 お母さん:「何かあったらすぐ相談しなさいね。忙しくても、あなたのために何でもしてあげるから。」 そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。 そして病院を出ようとしたとき、不意に一つの病室のプレートに目を向けていた。 なずな:「この棟は確か…昏睡状態の…植物状態の患者さんが多いところなんだよね…」 両親が医療関係である事も関係して、あたしもこの病院のことは多少知っている。 でも、あたしはどうしてこの病室に眼を向けたのか、よく分からなかった。 覗いてみると、18,9歳くらいの青年が眠っているのが見えた。 様々な医療器具が並んでいるけど、それ以外は花も何もない状態で、一人で眠っていた。 その人の名前は…、 なずな:「太田千央?知り合いにはいないけど…どうして気になったのかな?」 すると、そんなあたしに知り合いの看護婦さんが話しかけてきた。 看護婦:「どうしたの?太田さんとお知り合い?」 なずな:「あ、いえ、何となく目に入っただけで…。この人、目が覚めないんですか?」 看護婦:「ええ。本当ならあまり患者さんのことを喋るのはいけないんだけどね…」 この人は噂好きのおしゃべりな看護婦さんだから、このセリフは口癖だと思うけど。 看護婦:「今から6,7年位前かしら。家族揃ってドライブに出かけて、帰ってきたときに居眠り運転のトラックが真正面から突っ込んで…。 結局助かったのは彼だけなの。両親も、妹やお兄さんもみんな亡くなってしまって、親戚もいなくてね。でも、院長先生のおかげで、 患者さんはこうしていられるの。ただ、どうしてか分からないんだけど、点滴やお薬とかしかあげていないのに、何故か成長しているし、 筋肉が衰えていないの。それで、こうして成長した姿で眠っているのよ。」 そう言うと、看護婦さんはあたしと別れた。 何か、可哀想な人だなぁ。 でも、どこかで見た事があるのよね。 気がするだけかもしれないけど…、どこだろう。 次の日。 なずな:「クールナイトからの予告状がポケモン世界に?」 律子:「そうなの、なずなも行かない?」 なずな:「う〜ん…、行く。今日は行くね。」 朝、偶然朝食を共に出来たお母さんが、研修で遠くに行かなきゃ行けないらしく、当分家に帰れないって言っていた。 お父さんも出張らしい。 だから、家にいるよりは、みんなと一緒に入れたほうがいい。 なずな:「で、何がターゲットなの?」 律子:「実はね…」 涼治:「またまた厄介なものがターゲットになってくれたよな。」 双葉:「しょうがないでしょ。これには確かに種が憑いてるんだから。」 今回ターゲットだと教えられたものは、シオンタウンのフジ老人が昔可愛がっていたポケモンのモンスターボールらしい。 シオンタウンで、フジ老人といえば、ターゲットにされて怒りそうな奴が知り合いにいるだけに、厄介だと思いたくなる。 なずなだ。 中学の時に初めて会い、蓮華の知り合いと紹介され、能力者だったと知ってこいつもかって思ったんだよな。 そして、一年前、ポケモン世界でドルクという人物にされた時、同じく洗脳されたなずなと恋人になってた痛い記憶があった。 それがあるからか、なずなは俺に冷たいと言うか、あまり関わらないようにしている雰囲気があった。 双葉:「でも、やるしかないのよ。シオンで種が発芽したら、ポケモンの魂が悪用されてしまうかもしれないし、捨てられたポケモンが、フジ老人が、 不幸な目に遭うかもしれないのよ。それは避けないといけないでしょ?」 涼治:「…そうだな。」 捨てられる悲しみはポケモンも人間も同じだからな。 あたしは家に帰ってすぐにポケモン世界に向かった。 蓮華の家のドアを通り、テレポートでシオンに行き、そしてフジ老人の家に行った。 あたしのことはシオンタウンの人たちが覚えてくれていて、警察が止めようとするのをかばってくれて、中に入る事ができた。 中にいる子供たちやポケモンたちも、あたしの姿を見ると駆け寄ってきていて、一緒に怪盗からおじいちゃんの大切なものを 守ろうって言ってくれた。 なずな:「うん、そうだね。あたしも一緒に守るよ。ムウマ、ジュペッタ、ヤミカラスも手伝ってね!」 メタモンは今、ポケモンセンターでナナシマ事件での疲れを癒していていない。 いたら、もっと百人力だったのにな。 たとえ離れていても、あたしはこのシオンの人々には好かれているんだ。 同じ町民として、町民と同じように扱ってくれる。 だから、すごく嬉しかった。 なずな:「みんな、怪盗が現われたら、彼の所持品、服を少しでも取っておいて。服とか破ってもいいから。」 子供:「何で?」 なずな:「あたしも能力者の端くれだもん。彼の所持品を手にすれば、彼の元に飛ぶ事ができるから。もしここで逃げられても、 あたしは追いかけて取り返す事ができるよ。絶対にとられたくないし、取られても取り返したいでしょ?」 あたしの言った言葉は、子供たちにしっかり伝わっていた。 この分だと、子供に纏わり突かれ、たかられる怪盗の姿を見ることになるだろう。 そしてその日、あたし以外に来たのはナナと律子だけだった。 どうやら美香たちは、あたしがいるから大丈夫だって言っていたらしい。 どうしてそんな事が言えるのかなって思ったけど、実際、背後にそびえ立つ一部を建て直し中のポケモンタワーを見る限り、 かわいこぶりっこは出来ない。 一ヶ月前にポケモンタワーを半壊にしたのはあたしだもんね。でも、それは妖怪「うわん」を追い詰めるためにしたことだけど。 もうすぐで怪盗が来る時間になったとき、あたしはおじいちゃんのボールを手に取ってみた。 軽いけど、古くて、すごく思い出が詰まっていそうで。 なずな:「いいなぁ、これ。人とポケモンの絆なんだよね。」 その時、何か胸の中でチクッと痛みを感じた。 気のせいだと思うけど。 そして、時間になった。 ポケモン警察と律子、ナナは外で待ち構えていて、あたしと子供たち、そしてフジ老人は中にいた。 でも、時間になっても怪盗は現われない。 子供A:「怪盗、来ないのかな?」 なずな:「来ると思う。その時はみんなで捕まえようね。」 子供たち:「うん!」 だが、その時だった。 ??:「僕を捕まえるって?子供の力じゃ無理だね。」 真っ暗な室内を声が響いた。 あたしは電気のスイッチに触れるけど、電気が点かない。 なずな:「あれっ?電気が点かない!」 ??:「残念だけど、暗闇で襲ってこようとしても無駄だよ。僕にももう分かってるから。おじいさん、これだけは貰っていくよ。」 怪盗らしき声が暗闇の中で響き渡り、フジ老人の抵抗する声が聞こえる。 なずな:「こうなったら、ヤミカラス、ジュペッタ、あなたたちは暗闇でも視界が効くでしょ?フジ老人を守って!」 あたしはポケモンを投入した。 ポケモンを始めから出しておくと大変だからというポケモン警察の言葉で、ポケモンハウスのポケモンたちもボールの中にいたのだ。 それが今回の失敗の一つだろう。 そして、怪盗が痛がる声が聞こえた。 怪盗:「コラッ、頭を突付くな!おい、そこのジュペッタ、俺のバンダナを返せ!」 あたしや子供たちは動くにも動きづらく、物にぶつかってる状態だった。 でも、ヤミカラスとジュペッタは必死で怪盗に攻撃を続けていた。 が。 怪盗:「こうなったらヤミラミ、こいつらに催眠術だ!」 この言葉の後、怪盗が苦戦する声が消えてしまった。 そこへ、警察のサーチライトが部屋を照らしに来て、あたしたちは怪盗がフジ老人の手からボールを引っ手繰るのを見た。 子供たち:「おじいちゃんたちのボールを返せ!」 子供たちは怪盗に突撃をしようとしていた。 でも、怪盗はいきなり姿を消したり、冷気を放って子供たちを蹴散らしていた。 なずな:「ちょっと!あくまでもその子たちは小さな子供なのよ!何するのよ!」 あたしはテレポート能力で怪盗に近づき、ボールを取りかえそうとした。 怪盗:「お嬢さん、悪いけど、僕には僕の使命があるからね。じゃじゃ馬だと、好きな人にも振られますよ。」 なずな:「うるさいわね!」 あたしはかなりムカッとして、怪盗にビンタの一撃を入れていた。 なずな:「あたしはあなたにそんなことを言われる筋合いはない!」 でも、直後、あたしは鳩尾を殴られ、気を失ってしまった。 そして起きた時には、ボールは盗まれてしまっていた。 結局怪盗のものは何も取れず、追いかけることも無理だった。 子供たちもポケモンたちも頑張ったけど駄目で、意気消沈していた。 なずな:「あたしがもっと頑張ってたらよかったのに…あのときにもっと頑張ってたら…」 あたしも何もできなかった自分が嫌で、泣き出していた。 けど、フジ老人があたしを慰めてくれた。 フジ:「なずなちゃん、君が無事でよかったよ。君や子供たちやポケモンたちが怪我をする事がなくてよかったよ。 ボールが手元に残っていても、君たちが怪我をしてしまっていたら、傷ついてしまっていたら、その方がつらかったからね。」 と。 あたしは、フジ老人の言葉に感動して、さらに泣き出してしまうのだった。 家に帰ったとき、不意にジュペッタが、あたしに何かを差し出していた。 なずな:「どうしたの?」 すると、ジュペッタがくれたのは緑色の布だった。 なずな:「これ…バンダナ…?」 それは怪盗のバンダナだって、あたしは気づいた。 あの時ジュペッタが盗み、倒された後も隠し持っていたようだ。 これを使えば、きっと、怪盗の元に行けるんだ。 でも、今は深夜。 怪盗がもしすごいナンパ男や、そういう感じの年上の男だったら、あたしは襲われるのかも…。 そう思い、明日、学校が終わってからテレポートすることに決めた。 その夜。 あたしは夢を見た。 すごく怖い夢だった。 あたしのそばからみんながいなくなってしまう夢だった。 蓮華や涼治君や、ポケモンたちや、子供たちと、お母さんと、お父さんと、みんなが一緒にいるときだった。 いきなり周囲が暗くなったかと思うと、お母さんとお父さんがあたしから離れていってしまう。 あたしが追いかけても、追いかけても、あたしを無視していなくなってしまう。 そして子供たちもあたしの悪口を言って走り去ってしまい、、ムウマやジュペッタ、ヤミカラスもメタモンもボールから飛び出て、 野生に戻っていってしまう。 友達もみんな、クラスメイトも、みんな、あたしから離れていってしまう。 そして蓮華と涼治君とあたしが残った時だった。 なずな:「蓮華、友達だよね?一緒にいてくれるよね?」 あたしが差し伸べた手は、その場で叩き落されてしまった。 蓮華:「悪いけど、あたしと涼治は二人っきりがいいの。なずなは邪魔なの。さよなら。」 涼治:「俺はお前とは一緒にいたくないんだ。じゃあな。」 蓮華も涼治君もあたしから離れて行ってしまった。 真っ暗な闇の中で、あたしだけが独りぼっちにされていた。 どうして、どうして一人なの? なずな:「ずっと友達だったじゃない!どうしてみんな、離れていっちゃうのよ!」 あたしがおもいっきり叫んだ時、涼治君の声が聞こえた。 でも、それはもっとつらい言葉だった。 涼治:「友達?馬鹿じゃないか?友達は裏切られるためにあるんだ。お前が信頼されてたのも遊びだったんだ。俺たちはずっと、 お前をからかって遊んでただけなんだぜ。」 と。 なずな:「そんな…」 あたしは信じられなかった。 その時、足元で声がした。 ”人は勝手なのだ。信じようとするものを傷つけ、自分の事しか考えず、おのれの欲にしか興味を示さず、人を平気で傷つけるものなのだ。 だが、私は違う。私はお前の影だから、お前を影からずっと見ていて、お前をよく知っている。だからお前を信頼できるぞ。 何かあったら、私を呼ぶがいい。私と、お前の影と信頼しようと強く願えば、お前は助かるのだぞ。” そこで目が覚めた。 起きてからも一瞬怖くて、ムウマたちを探したけど、枕元で一緒に寝ていて、あたしはすごくホッとしたくらいだった。 みんながあたしから離れていくなんて、蓮華や涼治君が、あたしをからかってるなんて、違うもんね?あたしが遊ばれてるなんてことは ないよね? 自分にそんなことはないって強く言い聞かせながら、その日、あたしは一日を過ごした。 そして、すぐに家に帰り、あたしはバンダナを手に取った。 なずな:「これを使えば…、これを使えば、怪盗の所に行けるんだ。行く。絶対に行く!」 あたしはちょっと恐怖を感じながら、ドキドキしながら、バンダナを胸に当て、必死に願った。 なずな:”あたしの力よお願い!怪盗の所に連れてって!” その時、あたしの体は光り出し、あたしはテレポートをしていた。 なずな:「あれっ?ここは…」 あたしが着いた場所、それは見覚えのある場所だった。 テレポートが発動したんだから、この近くに怪盗がいるんだってことは確かなんだけど、ここは、あたしの学校の体育館に隣接された部室棟の、 どこかの部活のロッカールームだったのだ。 多分、男子の部室だと思う。 そして、シャワー室の方から男子の声がするから、そいつが怪盗なんだと思うけど、でも、少しショックだった。 あたしたちと怪盗は同じ日常生活を送っていたってことだ。 同じ中学生で、しかも能力者で、あたしたちが怪盗のことを騒いでいたのを知っていたってことだ。 今まで、笑われてたんだろうな、陰で。 と、その時シャワー室のほうで、シャワーの音がやんだ。 出てくる。 あたしは近くまで行き…、出てきた人を見て、声を失った…。 まさか…嘘でしょ?こんなの…、こんなのって…、嘘でしょ! なずな:「涼治君…」 あたしは、手にしていたバンダナを落としていた。 ロッカールームで音が聞こえた。 多分、待ち合わせをしてる蓮華が我慢できずに入ってきたんだろうな。 俺はそう思っていた。 それにしても、シャワーを浴びてても感じる痛みは頬の痛みだ。 なずなに強くひっぱたかれた。 今でも痛みだけは残ってる感じがした。 ちょっと言い過ぎたかな? でも、あいつって誰が好きなんだろうな。 それよりも、まずは蓮華だ。 あいつを校門で一人で待たせるわけには行かないな。 俺はシャワーを止め、トランクス姿で、体をタオルで拭きながら、シャワー室を出て…。 そして驚いて、言葉を失った。 なずな:「涼治君…」 目の前にはなずなの姿があった。 そして、なずなが手から落としたものを見て、彼女がここにいる理由を知った。 涼治:「そのバンダナ…、なずなが持っていたのか。」 なずな:「あたしっていうか、ジュペッタが…。」 なずなはそう言いながら、俺に近づいてきた。 こいつで何人目だろうか? 正体がバレたのは。 涼治:「分かってると思うけどさ、俺が怪…」 なずな:「馬鹿っ!!」 俺はなずなに再び、今度は殴られた。 なずな:「どうして怪盗をやってるのよ。あたしたちを騙していたの?あたしたちが怪盗の事で話したりしていたのを、 涼治君は陰で笑ってみたりしてたわけ?あたしたち、ずっと騙されてて、からかわれて、遊ばれていたって言うの?」 なずなは怒ってる。 完璧に昨日のあれもあって怒ってる。 そう思ったから、真実を告白しようと思った。 だが、言い出した言葉が不味かった。 涼治:「あのさ、蓮華を呼んできてくれないか?あいつも一応知ってるし、海や小麦たちも、菜々美も知ってることだからさ、 初めから話…」 なずな:「蓮華ちゃん…知ってるの…?…怪盗の正体が涼治君である事…」 なずなは突然呆然とした。 理由は、蓮華たちが知ってるって話したからだった。 でも、驚き方が半端じゃなく、事態は悪い方向に転がっていた。 なずな:「みんな、知ってたんだ…」 涼治:「あ、あのさ、なずな?」 なずな:「みんな、あたしを騙してたんだね。あたしだけが知らなくて、みんな、知っててあたしを馬鹿にして遊んでたんだね。 ずっとあたしは、遊ばれてたんだよね?そうなんでしょ?言ってよ!」 なずなは俺の肩を掴み、顔を近づけ、うるさく言ってきた。 涼治:「ちょっと落ち着け!」 俺は落ち着かせようとして…、つい一発、…ひっぱたいてしまった。 落ち着かせたかったからだった。 落ち着かせたかったから、だけど…。 なずな:「あたし、みんなに馬鹿にされてたんだね。知らないのを笑われてたんだね。あたし、もう誰も信じない! あたしは、あたしの影だけを信じる!」 俺の前で強くそう言い切ったなずなは、突然なずなの陰から現れた黒い波動に包まれていた。 涼治:「何っ!これは…種か!?」 昨日怪盗として盗んだボールには種がなく、黒い波動の残像の一欠けらさえも残って痛かったのだ。 双葉さんたちは絶対にまたどこかで落としてきたんじゃないかって俺に言ったけど、手に取った時から何故か全く感じてなくて、 いつ種が消えたのかもわかんない状態だった。 しかし、今分かった。 でも、まさかと思っていた。 あの種が、まさかなずなに取り付いていたなんて。 そして、黒い波動に包まれ、波動が消えて出てきたなずなは様子がおかしかった。 というか、黒い種によって自我が取り込まれているようだった。 その俺の考えは当たっていた。 なずな:「うふふふ、涼治君、あたしを騙した罪は重いわよ。あなたがあたしの彼氏になってくれたら、そうしたら全てが丸く収まるんだけどなぁ? なってくれない?」 俺に近づき、半分ぬれた俺の体を後ろから抱きしめながら言うなずな。 俺はなずなを体から突き放したが、なずなはわざと近くにあったベンチを蹴り倒し、救急箱や色々な備品をぶちまけながら、 再び俺に近づいていた。 涼治:「お前、なずなに何をしたんだ?何がしたいんだ?」 なずな:「あらら、やっぱり分かったの?そうよ、あたしは黒い種の一人。この子は寂しくても寂しさを人に打ち明けるのを我慢しちゃう子だったから、 取り付くのも容易だったの。そして、内部から揺さぶるために、親友や家族が自分から離れていく夢を見せたけど、まさかこんなにもうまくいくなんてね。 あたしと同化したいって気持ちを強く言ったから、あたしがこの子の表面に出てこれたの。あたしの仲間を消滅してきたあなたは、今からあたしのものに してあげるわ。まぁ、一番復讐したい相手は、あの草使いの子だけどね。」 涼治:「くそっ、なずなから出て行け!それに蓮華にも手は出させないぞ!」 なずな:「嫌よ。あたしの中でこの子が反発しようとしていない以上、この子があなたやあなたの友達に対して強い憎悪を持ってしまってる以上、 わたしはこの子の中にい続けられるんだから。無理に出そうとしたら、この子は廃人になってしまうわよ。 それに、この子ね、あなたが好きだったのよ。分かる?」 涼治:「えっ?なずなが…俺のこ…」 俺は隙を突かれた。 突然の告白に驚いた俺になずなはキスをしていて、俺は…、目の前が見えなくなってきていた。 蓮華:「遅い、絶対に遅い!全く、何してるのよ。」 待ち合わせをしてから一時間。 シャワーに何時間費やしてるんだろう? あたしはずっと待ってたけど、もう待つのにも耐えられなくて、涼治に説教するためにバスケ部の部室に来ていた。 蓮華:「涼治、いつまで待たせ…」 けど、ドアを勢いよく蹴り開けたあたしは、中の様子を見て唖然とした。 なずなちゃんが下着姿になって、トランクス姿の涼治と抱き合って、キスしているのをあたしは見ていた。 なずな:「あらっ?ノックもしないなんて、無神経なのね、蓮華。」 蓮華:「なずな、どういうこと?涼治、校門で待ってろって言ったじゃない!」 あたしはどういうことか分からずに混乱しながらも、なずなと涼治に怒鳴った。 でも。 涼治:「ああ、なずなと一緒にいたかったからな。お前との遊びは疲れた。こいつと一緒にいたほうが楽しいんだ。」 涼治の言葉は、あたしを冷たく突き刺していた。 涼治:「今までも一緒にいたけどさ、お前より、なずなの方が好きだったんだ。お前とは本気じゃなかったし、こいつと一緒にいたほうが 俺は俺でいられるからさ。邪魔だから、出てってくれないか?」 涼治はなずなのそばにいたあたしを押しやり、部室から追い出していた。 あたしは…信じられなかった。 全く何も、信じられず、呆然とその場に座り込んでいた。 何時間が経っただろうか。 ようやく出てきた二人は、あたしを見て嘲笑っていた。 なずな:「ずっとそこにいたの?あたしたちの声聞いて、楽しかったでしょ?」 涼治:「そこに座ってると邪魔だな。視界から消えてくれよ。」 あたしは悲しくて、悲しくて、その場から走り去っていた。 そして、どれくらい走っただろうか。 何も持たずにずっと走っていたあたしは、偶然清香先輩と玲奈先輩、そして海斗先輩に出会った。 玲奈:「蓮華ちゃん?」 海斗:「どうしたんだ?」 清香:「すごく目が赤いし、泣いてるみたいだけど、何か、あった?」 あたしはすごく、すごく泣いていて、そのまま先輩たちに飛び込んでいた。 海斗:「やっぱりあいつが怪盗だったのか…。」 玲奈:「哲也や健人には知らせる?」 清香:「知らせたほうがいいけどさ、菜々美ちゃんも知ってるってことは破局を招くよ。それに、海ちゃんたちも知ってるんでしょ? どうする?この状況。」 あたしたち3人は今海斗の家にいた。 海斗の家は水族館だけど、小さな民宿を海斗の祖父母がしているから、そこに蓮華ちゃんを預けてきた。 ただし、何があったのかを、これまでの事を含めて全て聞き出してから。 そしてあたしたち3人は、涼治君となずなちゃんのことを知ったんだけど、その時に蓮華ちゃんのこぼした一言で、涼治君=怪盗と言うことも知った。 だからちょっと詳しく聞き出しちゃったけど。 海斗:「一応、涼治と草壁以外の能力者を集めるかな。桜笠の話を聞く限り、清香達も予想ついてるだろ?」 清香:「ええ、涼治君となずなちゃんは、その黒い種っていうものにとりつかれてるわね。」 玲奈:「それで、今みたいな事が起きたんだもの。涼治君と蓮華ちゃんが今まで隠そうとしてきてたみたいだけど、今回で怪盗業は終わらせなきゃね。」 あたしは清香と海斗に蓮華ちゃんを頼み、双葉さんの家に行った。 すると、そこには海ちゃん、小麦ちゃん、刹那ちゃんの姿があった。 玲奈:「あたしが来た理由、分かる?」 海:「ええ、あたしたちもその結論に達したところなんです。」 刹那:「あいつら二人がいろいろと抱えてきたわけだが、これが終わる事で全てが解決しそうだからな。」 小麦:「すでに泉さんが涼治君、雪美さんがなずなさんのところに張り込んでいますから安心ですよ。」 双葉:「ついさっき能力者全員にも集合をかけたわ。怒らない事を前提にね。」 これによって何が起きるか分からないけど、ナナシマ事件はまだ終わっていないことになるし、こうなったら、あたしたちで何とかしちゃわないとね。 能力者たちは動き出していた。 しかし、なずなはさらに上を動いていた。 なずな:「黒い種たちよ、今すぐ我が手に集まれ。」 なずなの足元には、倒されて気を失った泉と雪美の姿があり、彼女らの中にも黒い種が入っていくのだった。 なずな:「うふふふ、誰が何人集まろうとも、もう終わりよ。今からポケモン世界を私の手に収めてあげるから。」 クールナイト:「お手伝いいたします、女王、なずな様。」 彼女はクールナイトの姿になった涼治を従え、同じく操られたムウマたちを使い、泉と雪美を抱えながら、ゲートを潜っていくのだった。