哲也:「蓮華の奴、ポケギアの電源切りやがったな。」 美香:「全然つながらないよ…」 海:「大丈夫よ、蓮華の事だから。」 美香:「でも…」 海:「だって、ポケギアの電源はないはずよ。」 美香:「あ…」 現在、あたしや美香、哲也先輩を含めた何人かでクチバシティに来ていた。 ついさっき何人か、他にもいたんだけど、避難活動などで今はいない。 そして哲也先輩が蓮華にポケギアで電話したんだけど、蓮華は途中で電話を切ってしまった。 ただ、切るきっかけを作ったのはあたしだけど、どうしてポケギアが通じないのかは予想がついていた。 美香:「もしかして蓮華…」 海:「美香も分かる?」 美香:「分かるよ。多分、ポケギア握りつぶしたんだよ。」 海:「それしかないよね。」 あたしたちは普通に話してたけど、真横で驚愕の表情を示している先輩が一人いた。 志穂:「それはともかく、あたしも蓮華ちゃんは無事だと思うわ。」 哲也:「どういう根拠で言ってるんだ?」 志穂:「お守りを渡してあるから。肉親が両方ともこの世にいない人を竜の力で守ってくれるお守りよ。元々は龍宮神社の巫女が 持ってなきゃいけないんだけどね、嫌な予感がしたから蓮華に渡してあるの。アレがあれば、邪悪な力を蓮華は少しもよせつけないわよ。 それに、この世界はあたしたちのいた現実世界とは次元が違うから、アレを海ちゃんや美香ちゃんが持っていても効力は発せられるわ。」 哲也:「そうか、それなら安心だ。」 しかし、彼らは知らなかった。 すでに蓮華は黒い種に操られたエリカに襲われていたことを。 志穂のお守りが、蓮華に対して効力を示さなかった事を。 海:「律子達が戻ってきたら、早く水の城に向かいましょ。」 哲也:「そうだな。泉さんを元に戻さないといけないな。」 本当なら、なずながいると思われるヤマブキシティに入ろうとしたのだが、ヤマブキシティはタマムシ、ハナダ、クチバに出現した城が 放つ力によって結界で守られているために入る事ができなかったのだ。 だからまずは、クチバとハナダの城を何とかしようということになったのだ。 美香:「死闘だね。」 志穂:「そうね、城の周囲を操られて凶悪した水ポケモンや飛行ポケモンがうろついてるようだし、あたしが昨日わざと言った事が 実際に起きなきゃいいけどね。」 美香:「うん。でも、誰も死なないのが一番よ。」 怪盗編 8.蓮華VS涼治!ミューズの叫び 植物の城の中は巨大な森の中に入ったように感じられた。 でも、険しくも感じられるこの森の中であたしは、風に案内されているように感じられた。 何も風が吹かなかったらあたしは道に迷ってたと思うけど、背後から、誰もいないのに風が吹いていて、あたしを前へ前へと押していた。 そして1時間くらい歩いた時だった。 あたしの目の前には、怪盗クールナイトの姿をした涼治が立っていた。 ただ、いつもと違うのは、涼治の目の焦点があってなくて、死んだように暗い色をしていたことだ。 そして、あたしと涼治が5,6メートルほどの位置に立ったとき、今まで背後から吹き付けていた風が、ぱったりと止んでいた。 蓮華:「あたしをここまで案内したのはあなたなの?」 涼治:「ああ。ここでお前を倒し、この植物の城の力を高め、女王がこの世界を征服するための糧にするためにな。」 蓮華:「あたしはそんなに簡単にはやられないわよ。」 涼治:「だろうな。しかし、俺の配下たちが先にお前を痛めつける。やれ!」 涼治がモンスターボールをあたしに向かって放つと、中からはライボルトやガラガラたち、涼治の6匹のポケモンが現れていた。 6匹とも操られたかのように普段の性格を見失い、殺気立ってあたしを睨みつけていた。 涼治:「俺はこの奥で待っているとしよう。お前が倒れるのをな。」 そして涼治は姿を消し、直後、ポケモンたちはあたしに襲い掛かってきた。 全部が黒い種によって操られたために起きているのだとしても、今は戦わなきゃいけないんだ。 でも、あたしはそう思っていても、涼治のポケモンに攻撃が出来ずにいた。 ライボルトの雷やカメールの水鉄砲を避け、エーフィのサイケ光線やヤミラミのシャドーボールをソーラー弾で相殺し、 ガラガラの骨ブーメランをロッドで叩き落し、エアームドのドリルくちばしを蔓の鞭で封じるくらいしか出来ない。 何故かって言ったら、涼治に一発食らわしてやりたいとは思っていても、自分の意志とは違うことをしなきゃいけない状態のポケモンたちを 攻撃するのはあたしにはできなかったのだ。 涼治:「何もできないようだな。雑魚はそこで死ぬがいい。」 あたしを傷つけるような、涼治の声が聞こえてくる。 とっても暗く、とっても残酷な声が。 涼治がそんなことを言うわけがないって分かっていても、つらさが増してくる。 でも、何とかしたい! そう思ったときだった。 突進してくる6匹に対し、あたしのポケモンたちが次々に飛び出してきたのだ。 蓮華:「みんな…」 キレイハナ:「蓮華、あたしたちは敢えて、蓮華があたしたちを呼んでくれるまで待ってみたよ。でも、呼ばないから出てきたの。 この戦いを終わらせたいのは蓮華だけじゃないんだから。涼治君のポケモンが無理やり戦わせられてるのは、あたしたちだって分かるよ。 ここは、あたしたちに任せて。蓮華は先に行ってて!」 アクアとダネッチ、なっぴがガラガラを、メノノとアゲハ、はりがカメールを、ひがめとぴぴ、ぺろんがエアームドを、 クピーとなっくん、ヒメがライボルトを、ソルルとたねね、よまがエーフィを、てんてんとヘラクロ、ゴマがヤミラミを押さえ込もうとしていた。 みんな、必死な表情だった。 そしてあたしのボールの中に何人かが残った状態で、キレイハナはあたしの背中を押していた。 キレイハナ:「蓮華、少しボールに待機させてあるから。一人じゃないんだから、言葉が通じなくても、みんなに頼るんだよ!」 蓮華:「うん!みんな、ありがとう!」 あたしは涼治がいるはずの方に向かって走り出した。 キレイハナ:「よぉし、あたしも頑張るぞ!アクア、あたしも参戦するよ!」 アクア:「助かるわ!この子結構手強いから。」 骨ブーメランの連打攻撃に流石のアクアたちも参っていたようだった。 ガラガラ:「ふん、雑魚がいくつ集まっても変わらないだろう。」 ガラガラは骨ブーメランを再びあたしたちに投げつけてきた。 でも、あたしのリーフブレードが骨を切り捨てた。 キレイハナ:「あたしを舐めちゃ困るよ。」 アクア:「そうね、さっきのお返しの竜巻よ!」 骨ブーメランが封じられたところを、アクアの水竜巻となっぴの種マシンガン、ダネッチのソーラービームが放たれていた。 カメールはメノノのスパークを受け、アゲハの銀色の風とはりの毒針の餌食になっていたし、エアームドはくちばしをぺろんの長い舌で封じられ、 ぴぴのコメットパンチとひがめの火炎放射に攻撃を受け、ライボルトはヒメに投げ飛ばされ、クピーとなっくんに噛み付かれていた。 そしてエーフィはソルルとたねねの騙まし討ちに翻弄され、よまのナイトヘッドを受けていて、ヤミラミはヘラクロに見破られたところを てんてんとゴマに攻撃されるのだった。 このままだったら早く蓮華に追いつけるんじゃないかな? あたしたちの絆の力には、ドリームの力も押さえ込まれるのよ。 でも、蓮華、大丈夫かな? キレイハナたちのおかげでここまで来れた。 あたしは遠くにうっすらと見える大きなドアを目指して走っていた。 あの向こうに涼治がいる。 絶対に涼治と一対一で話す。 そして、涼治を元に戻すんだから。 蓮華:「涼治!」 あたしがドアを開けて入ると…、そこは海だった。 いつの間にかドアも消えていて、あたしの姿はTシャツに水着だった。 どうしてこんなところに…? そう思っていたら、あたしを呼ぶ声が聞こえた。 蓮華:「誰?」 あたしはついそう言って振り返ると、そこには涼治がいた。 涼治:「誰ってことはないだろ?蓮華、せっかくのドライブ、ずっと寝てたんだぞ。」 蓮華:「えっ?ドライブ?」 涼治:「忘れちゃったのか?ひどいなぁ…」 よく見ると、涼治なのに涼治じゃなかった。 いや、涼治なんだけど、少し年齢が上がっていて、あたしの目の前にいたのは、19くらいの涼治だった。 そして、気づくとあたしもそれくらいの年齢の体だった。 道路脇には車が止めてあった。 涼治:「免許取ったからさ、一緒にドライブにきたんだぞ。お前が誘ったんじゃないか。」 涼治は怒っていた。 あたしはさっきまでのが夢だったと思った。 だから、涼治に抱きついていた。 蓮華:「ゴメンね、夢と現実が一緒になってたみたい。涼治、好きだよ。」 涼治:「俺もだ。」 あたしたちは海で十分楽しんでいた。 あたしはさっきまで見ていた夢のことをみんな忘れて、涼治と遊んでいた。 そして夕日が見える、夕暮れ時だった。 あたしと涼治が二人っきりでいいムードだった時だ。 涼治:「…蓮華、大事な話がある。」 突然、涼治が真剣な顔で言った。 蓮華:「涼治?…何?」 あたしはもう19だし、もしかして…プロポーズなのかな? ついそんなことも思っちゃっていた。 でも。 涼治:「俺さ、なずなと結婚するから。今日でお前と別れたいんだ。」 蓮華:「…えっ…」 涼治:「お前との恋愛も本気だったけどさ、お前といると疲れるんだ。お前より、なずなといたほうがすごく楽しいんだ。 だから、お前とは今後一切顔もあわせないほうがいいんだ。分かるよな?俺、お前のこと、もう好きじゃないんだ。」 涼治はあたしの顔を一度も見ずに、淡々として言った。 あたしは、涼治が何を言ってるのか、よく分からなくて、呆然と突っ立っていた。 嘘だって言ってほしかった。 でも、涼治があたしを見る目は、あたしを好きだという優しい目じゃなくて、あたしを避けたいと感じるような冷たい目だった。 蓮華:「そんな…、あたしのこと、今日も好きだって言ってくれたじゃない!」 あたしは涼治に詰め寄ろうとして肩に手をかけようとした。 涼治:「そんなことを言ったかもしれないな。でも、その方が後味が悪くないからな。わざと楽しい振りをしてやるんだし。」 でも涼治は、あたしがかけた手を跳ね除け、さっさと車に戻っていった。 すると、そこにはいつの間にか、なずなの姿があった。 なずな:「涼治、遅いよ!やっと蓮華と別れてくれたんだね。ありがとう、大好きだよ。」 涼治:「俺もだ。…悪かったな、なずな。長い間つらい思いをさせて。」 なずな:「もういいよ、蓮華なんかと別れてくれたんだもの。全部帳消しだよ!」 なずなと涼治はあたしに見せびらかすようにキスをしていた。 蓮華:「そんな…間違いだって言ってよ!」 なずな:「蓮華、あたしさ、今までずっと言いたい事があったんだ。あたし、あんたのこと、大嫌いだったの。」 涼治:「俺もだ。一人じゃ何も出来ない奴にずっとすがられて、頼られ続けて迷惑だったんだ。じゃあな。」 なずな:「もう会うこともないわね。一人っきりのあんたは、ずっと一人。誰も助けてくれないのよ。」 車は走り去っていった。 その時、周囲の景色が変わり、あたしは、植物の城の中で座り込んでいた。 夢…、幻覚…、だったのかな? つらかった、悲しかった、世界が終わってしまうかと思った。 そう思いかけていた。 でも、目の前からやってきた人が言った言葉に、あたしは叩きのめされていた。 涼治:「どうだったか?俺となずなの本音をお前の夢の中で見せたんだ。十分に味わってくれたようだな。俺はお前が嫌いだ。 お前の全てが嫌いなんだ。お前の事が好きだったなんて、俺にとっては屈辱と同じことだ。」 蓮華:「涼治…」 あたしは涼治の言葉に呆然としていた。 涼治:「お前は一人じゃ何も出来ない。いつだってお前のそばには誰かがいたもんな。誰かにすがって生きるしか、お前は出来なかったんだ。 お前は一生誰かに支えられなきゃ生きられない、ホントはみんなに忌み嫌われてきた存在だったんだ。」 蓮華:「そんなこと…」 ないって言いたかった。 腰のボールに手がかかりかけていたけど。 涼治:「ないって言いたいのか?それじゃ、どうしてお前の周囲で事件が起きてるんだ?お前が周囲に事件を呼び込んでるからなんだぞ。 お前が周囲を不幸にする存在なんだ。おまえ自身がいるから、周囲は不幸になっていくんだ。そんなことも分からないのか?」 蓮華:「そ、そんな…」 涼治:「お前が周囲を不幸に巻き込んでいく。だからお前のポケモンはもう、お前のそばにいないのさ。ボールをよく見てみなよ。 その中には誰もいないぞ。」 あたしは反射的にボールを見ていた。 そしてボールを投げていた。 でも、誰も出てこない、からっぽのボールが腰についているだけだった。 コイッチも、ゴンも、リーフィーも、リュウも、誰も出てこない…。 涼治:「気づかなかったのか?キレイハナたちは初めからお前を一人にしたかっただけなのさ。お前が嫌いだからな。お前みたいな弱くてどうしようもない奴と、いつまでも一緒にはいたくなかったのさ。」 信じたくないよ、そんなこと。 絶対に、信じたくなかった。 涼治の言ってる言葉、全てを信じたくなかった。 拒絶しようとした。 でも…。 涼治:「俺の言う事が嘘だと思ってるんだろ?今まで必死で信じてた、信頼してた恋人の言葉も信じれないんだな。だからお前からはみんな 離れていくんだ。周囲を信頼できない奴を信頼しろだなんて、無理な事くらい分かるだろ?」 蓮華:「もう嫌!やめて!来ないで!近寄らないで!」 あたしはもう立つことも出来ず、耳を塞いだまま、その場で震えているしかなかった。 涼治:「それがお前の本音か。ようやく聞けてよかったよ。まぁ、前々からそうだとは思ってたけどな。周囲の連中も、お前が本音を言う事を楽しみにしてたんだぜ。本音を言ったところで、お前を拒絶してやるためにな。」 涼治が怖くなった。 周囲が怖くなった。 ここにいることもみんな、みんな怖かった。 もう、何も聞きたくない。 あたしは、ずっと一人…。 何も出来なくて、ずっと、ずっと一人で何も出来ないんだ…。 涼治:「お前は生きてく価値もカケラもないゴミなんだ。ここで死ぬがいい。」 蓮華の姿は、元の怪盗ではない姿に戻っていた。 涼治:「じゃあな、蓮華。ずっと独りぼっちで幸せだな。」 涼治が両手を前に出し、強力なエネルギーを両手に集中させ、そして放っていた。 涼治の手から放たれた、強大な黒い波動が蓮華に向かっていき、強大な爆発を起こしていた。 涼治:「これで奴も終わりだな。ゴミが片付い…何!?」 彼は驚いていた。 黒い爆風と煙の中から光が見え、蓮華と、彼女を守る女性の姿があったのだ。 涼治:「何者だ?」 ??:「分からないの?あたしは、ミューズ。蓮華の大事なパートナーよ。」 彼女は背中に大きな白い翼を持ち、頭に花のブーケを乗せた、黄緑色の長い髪を持ち、黄色と水色のワンピースで身を包んだ姿をしていた。 まるで天使かと思えるような。 ミューズ:「よくも蓮華をひどい目にあわせてくれたわね。」 涼治:「ちっ、外に放り出したはずのキレイハナが人間の姿で舞い戻ってくるとはな。」 ミューズ:「ふふふ、驚いたでしょ?」 いきなり黒い波動に襲われて、涼治君のポケモンごと外に跳ね飛ばされたあたしは、そこに蓮華と一緒だったはずのコイッチたちが倒れているのを見た。 蓮華は一人にされたんだって直感した。 蓮華と涼治だけの二人っきりにさせて、蓮華に何かするつもりなんだって察した。 だから急いで来たの。 他のみんなはアクアたちに任せてきた。 後でみんなも来るから。 でもその前に、蓮華のところに行くんだ。 そう思っていたら、妙に早く動けるようになってて、空を飛ぶように植物の城の中を飛翔していて、そして蓮華が攻撃されるのが見えて、 あたしは咄嗟に蓮華の前に立った。 その時に分かった。 あたしは、人の姿になっていたことを。 リースイやルークたちが人の姿をしていたように、あたしも人の姿になっていたことに気づいたのだ。 ミューズって名乗ったのは自然にあたしがやっていた。 あたしが、昔のあたしも、今のあたしと同じ、あたしとして受け入れたからだった。 涼治:「せっかく、邪魔な奴らを全て外に排除したというのに…。だが、舞い戻ってきてもこいつと同じ目にあわせてやるよ。」 ミューズ:「そうはいかないわ。人と人の絆も、ポケモンとポケモンの絆も、人とポケモンの絆も、みんな切り捨てる事は出来ないのよ。それより、涼治君はどこ?」 涼治:「何を言ってるんだ?俺はここにいるぞ。」 ミューズ:「そんな言葉があたしに通じるとでも思ったの?あなたは涼治君じゃないわ。」 ここに来た時から分かってた。 蓮華を追い詰めて倒そうとしている事が。 この姿になれたから、人間の姿に、天使の姿になったから、そういうことが分かったんだと思う。 そして、目の前の人物が、わざと蓮華の好きな人の姿になって、蓮華を傷つけて、蓮華を内面から崩そうとしていたんだって分かった。 蓮華がどれほど強くても、好きな人に、恋人に残酷な言葉を言われたら、拒絶されたら、どうなっても倒れてしまう。 あたしだってそうだもん。 偽涼治:「ちぇっ、バレたか。そうだ、俺は涼治ではない。しかし、それをその女が知ってももう無駄だ。その女は全てを拒絶するようになった。 お前がどれだけ頑張っても、もうその女は立ち上がれない。」 ミューズ:「そんなことはないわ!蓮華は強いんだから!あんたなんかには負けたりしないもの。蓮華、起きて!立ち上がって! あなたは一人でも何でもやってこれたじゃないの!」 偽涼治:「馬鹿なことをやるものだな、そんな言葉でそいつは助かるわけないだろう。それよりも邪魔なお前はここで死んでもらうぞ。 この女を殺せ!クールナイトよ!」 偽涼治が叫ぶと、クールナイトの姿をした涼治君が現われた。 その目は焦点のあっていない、死んだような真っ暗な色をしていて、今の蓮華と同じ表情をしている。 偽涼治:「偽物の記憶を植えつけて操るくらい簡単な事さ。クールナイト、その女を消せ。」 クールナイト:「わかりました、ごしゅじんさま」 涼治君は棒読みのような喋り方であたしに近づいてきた。 でも、あたしは逃げなかった。 蓮華を目覚めさせるために、叫ばずにはいられなかった。 ミューズ:「蓮華、忘れたの?あなたを信頼してここまで一緒にやってきた絆たちのことを。周囲に拒絶され続けたのに、あなたが受け入れてくれたから ずっとあなたについてきたソルルの事を、あなたの事が好きだから自分からゲットされに来たニド君のことを、あなたのおかげで復讐する使命から解放 されたネギやアゲハのことを、色々な事情で独りぼっちだったみんなを受け入れたのは、あたしたちを絆として結んでくれたのはあなただったじゃないの! あたしたちは蓮華だからついてきたんだよ!蓮華の事が好きだから、ずっと一緒にいたんだよ!」 蓮華:「でも、あたしは何も…」 ミューズ:「蓮華は一人でも強かったよ!旅が始まってすぐに蓮華とあたしたちが哲也さんに離された状態にされた時、売られていて自分に自信がもてなかった コイッチを買って、一人で強く育てたのは誰?自分が弱い存在でも、どんな存在であっても受け入れていたのは誰なの?蓮華じゃないの!」 偽涼治:「ごちゃごちゃうるさい!クールナイト、やってしまえ!」 クールナイトはあたしに剣を振り下ろそうとしていた。 その時。 壁を突き破ってコイッチが入ってきて、クールナイトを跳ね飛ばしていた。 そしてその穴から涼治君のポケモンたちが涼治君を取り囲み、言葉が通じなくても必死で訴えているのが見えた。 入ってきたのは、涼治君のポケモンだけじゃない。 城に穴が開いた事で、結界のように外を、外界を遮断していた空間が崩れ、テレポートなどによって、または穴から入ることによって、 あたし以外の仲間たちが蓮華の元に駆け寄ってきたのだ。 ミューズ:「蓮華は一人じゃないんだよ。ここにいるみんなが一緒なんだよ。あたしたちは、蓮華が好きだから、ずっと一緒にいるの。 蓮華が嫌いになることはないの。蓮華は一人じゃないし、強くて優しい子なんだよ。命を大切に思う、とっても優しい子なんだよ。」 蓮華:「キレイハナ…、みんな…、あたし…」 蓮華は泣いていた。 悲しい涙じゃなくて、嬉しくて泣いてるのが分かった。 ミューズ:「蓮華、あたしたちだけじゃないよ。蓮華の事を現実世界で見守ってくれてる人がいる、蓮華のことを場所が違っても信じてる仲間がいる、 蓮華を愛している人が、親友だといって慕ってくれる、大切な、絆で結ばれた親友がいる、みんながいるんだよ!」 蓮華:「うん…。」 ミューズ:「ポケモンバトルでは、バトルが終われば戦って勝った相手も負けた相手も友達なんだよ。またいつか対戦を誓ったり、 バトルをしたその日から友情を分かち合うの。蓮華は今までたくさんの人とバトルをしてきて、そのたくさんの人たちと絆を深めているの。 それを忘れないでよ。」 蓮華:「うん!ゴメンね、キレ…ミューズ!あたし、忘れてた。ずっと忘れてた。一人でもやっていけるけど、あたしにはちゃんと仲間がいて、親友がいて、 信頼できる恋人がいて、あたしを支えてくれる人がいて、パートナーがいて、絆で結ばれた仲間がいることを。 あたしは、諦めないで強く頑張れるんだって!」 その時だった。 蓮華が光に包まれていた。 蓮華:「あたしのことを否定し、みんなを否定し、涼治を操ったあなたが許せない!我が力よ、邪悪なる心を浄化し、暗雲たちこめたるこの地を 癒しの光で包み込め!光と闇は一心同体、切っても切れない相手だけれど、闇を支配し世界を混沌に変える力は綺麗に洗い流さなければならない! 人を照らす光があり、人を優しく包む闇がある。それが普通なの。もうこれ以上、人々を苦しめるのはやめなさい!」 蓮華が体全体から放出した光は、タマムシ全体を覆っていた暗雲を一気に消滅させ、タマムシ全体に暖かい光を降り注いでいた。 そして城は姿を消し、破壊された建物は元の姿を取り戻し、そして、蓮華と涼治とポケモンたちの姿が城のあった場所に残っていた。 同じ頃。 クチバの海上で、美香や哲也たちが、黒い種の力で我を見失っていた泉とポケモンたちを。 ハナダの街の中で、鈴香や香玖夜たちが、同じく黒い種の力で我を見失っていた雪美とポケモンたち、そして町の人々を、 信頼の思いと絆、そしてポケモンとの一つにした心の力で黒い種の力を浄化させていた。 しかし、彼らはもう動ける状態ではなかった。 氷雨の後を継ぎ、彼女の力と自分の力で最強の力を持った雪女の雪美と、7つの海を牛知る力を持つ、風や音の属性さえも持つ水の妖怪、人魚の泉。 彼女たちとの戦いにより、そして我を見失ったものたちを元に戻す戦いにより、力を使い果たし、その場に倒れてしまっていたのだから。 誰も死ななかったが、誰もが力尽きて倒れる事はなかったものの、もう、これ以上戦える状態ではなかったのだ。 蓮華:「ミューズ、みんな、ありがとう。これで、タマムシは救われたね。」 ミューズ:「ええ。蓮華の力で涼治君も助かったみたい。でも、まだ残ってるよ。」 蓮華:「そうだよね。」 あたしたちの視線はヤマブキシティの方に向いていた。 ミューズは既にキレイハナの姿に戻っていて、人の姿にはなれないようだった。 ミューズ:「まだあたしの中で力がはっきりまとまっていないんだと思う。蓮華のためにっていう強い想いが、あたしを人間の姿に変えてくれたんだってね。 でも、そのおかげで、蓮華が助かって、あたしはよかったと思う。」 蓮華:「ありがとう、ミューズ。」 涼治:「ん…?」 そんな時、涼治が目を覚ました。 今、あたしと涼治の姿は怪盗の姿ではない。 でも、私服でもなければ、裸でもない。 あたしの力によって怪盗としての姿が消え、あたしは黄緑色を中心とした長袖のTシャツとスカートに、涼治は水色の長袖のTシャツに青いパンツ姿に 変わっていた。 あたしたちを属する力の色に変わっていたのだ。 涼治:「蓮華…、俺…」 ばこぉっ!!!!!!! 涼治:「な、何すんだよ!」 あたしは涼治が目覚めてすぐにやろうと思っていたことを実行した。 涼治は、あたしのアッパーカットを諸に食らって縦に飛び、地面に落下したのだ。 蓮華:「あたしのことを好きなんでしょ?嫌いじゃないでしょ?あたしを信頼するって、あたしを信じるって、あたしのことを考えてくれてたのに どうして簡単に黒い種の力にやられちゃうのよ!あたし、すっごくショックだったんだからね!あたし、涼治が知らない場所に行っちゃうって すごく怖かったんだからね!」 涼治:「蓮華…。ゴメン!謝ってすまないことは分かってる。俺自身が蓮華自身を操られている間に傷つけてることだって、覚えてないけど お前を傷つけたことには変わりないから謝りたい。ゴメン!」 蓮華:「涼治…」 涼治は真っ赤になりながら、何を言ってるのか自分でもあまり理解できてない状態で、必死になりながらあたしに謝っていた。 それが、すごく嬉しかった。 不器用で、思いが伝わっているのがお互いに分かってるのに、なかなか伝えられない、そういう涼治が、いつもみたいで、あたしはすごく嬉しくて、 ようやく、ホッとできた感じがした。 そこに、彼女は来た。 なずな:「恋人たちの復縁かしら?」 蓮華:「なずな、いえ、ドリーム!」 あたしたちの前に現われたのは、なずなの心と体を手に入れ、なずなの心を心の奥底に閉じ込めた黒い種の意思だった。 哲兄やみんなが他の城を壊してるとすれば、残った黒い種4つのうち、3個までは消滅させた事になる。 つまり、残った黒い種は、なずなの中に、なずなと融合した状態で存在しているという事に。 なずな:「せっかくの罠もあなたや他の能力者たちに潰されてしまった。でも、まだヤマブキシティが残ってるわ。ここを中心に、世界を闇に覆ってやるの。 この体を使って、この女を使って、私、夢の悪魔ドリームこと、ナイトメアがスペース団復活と同時に世界を闇に変えてやるのよ。」 彼女は腰に手を当てて、高らかに宣言していた。 でも。 蓮華:「…ないわ。」 なずな:「何ですって?」 蓮華:「絶対にさせないわ!この戦いに、あなたたちスペース団も含めた、この長く続いた戦いに、本当の終止符を打ってみせるんだから!」 なずな:「うふふふ、勇ましい事。」 なずなの姿を借りた彼女、ナイトメアはそう言うと、あたしにこう切り出した。 なずな:「それじゃ、勇ましく、一人でこの植物の城を浄化したあなたに免じて、一つだけ、提案してあげるわ。 あなたが勝ったら、おとなしくあたしはこの子から出て行くわ。でも、その代わりあなたが負けたら、私はあなた自身を頂くわ。 あなた自身を頂き、あなた自身を蝕んで、この世界を闇に変えるの。癒しの力を持つ能力者は、その力を闇に変えると、全てを無にする力をもてるから、 ちょうどいいのよね。どうかしら?」 涼治:「やめろ!そいつのいう事なんか聞くな!蓮華!」 涼治はそう言ってたけど、あたしは普通に言い返した。 蓮華:「上等よ!望むところ!馬鹿にしないでよね!」 なずな:「そう、それじゃ、ヤマブキシティのお城で待っているわ。」 ナイトメアは嬉しそうにしながらその場を去っていった。 蓮華:「さてと、頑張らなきゃね。」 あたしは頑張ろうと思っていた。 でも、あたしのこの行動に切れたものが二人いた。 涼治&ミューズ:「馬鹿!」 涼治:「あんなこと、罠に決まってるだろ!」 ミューズ:「蓮華、無謀中の無謀だよ!あんなの向こうがやりやすいようにするに決まってるじゃないの!」 二人は怒っていた。 さっきまで謝っていた涼治と、ホッとしていたミューズの表情ではなく、完璧なるまでに怒っていた。 蓮華:「大丈夫だよ。何とかなるって。あたしを信じてよ!」 ミューズ:「う、うん…」 明るく言うあたしに、ミューズは信じてくれた。 でも、涼治は違った。 涼治:「俺は許さないからな。」 蓮華:「大丈夫だって!そんなに怒らないでよ。」 涼治:「いや、怒る。どうして、本当な事を言わないんだ?本当は怖いんだろ?俺が代わりに戦ってやる。だからお前は手を出すな!」 蓮華:「涼治…。でもね、あたしじゃないと駄目なんだ。あたしとなずなは親友だから、あたしがなずなを元に戻さなきゃいけないの。 あたしじゃなきゃ、この世界を、ナイトメアを浄化できない事くらい、知ってるでしょ?あたしじゃなきゃ駄目なのよ。」 涼治:「蓮華!」 涼治はあたしを民家の壁に押し当てていた。 蓮華:「はい!」 反射して返事してしまうあたしもあたしだけど、顔が近い…。 りょ、涼治…? 涼治:「俺はこの世界なんてどうでもいい。この世界より、お前の体、お前の命、お前の心が大切なんだ!もう傷ついたりしなくてもいいんだよ! 蓮華!俺はお前が大切なんだよ!」 蓮華:「涼治…、ありがとう。でもね、ごめんね。あたし、行ってくる。だから、待っていてくれる?」 涼治:「…」 蓮華:「駄目なの?」 涼治:「ああ、駄目だ。」 蓮華:「涼治!」 涼治:「全部が駄目とは言ってないだろ?」 蓮華:「えっ?」 涼治:「俺も行く。俺がなずなの元までお前を連れて行ってやるよ。お前が傷つかないためにもな。大切なお前を一人で行かせるわけには行かないだろ。」 蓮華:「涼治…、ありがとう。」 あたしと涼治は、ポケモンたちと一緒にヤマブキシティに向かった。 なずなを元に戻すため、この世界を救うため、戦いに終止符をうつために。 予告状 『ヤマブキシティのお城にいるナイトメアさま、なずなを返してもらうために参ります 怪盗チェリーナイト&クールナイト』 なずな、待っててね!