全く、どうして最近のカントウは事件が多発しているんだ? せっかく戻ってきたはずの弟子がまたカントウに舞い戻ってしまうし、ホウエンジムリーダー共通の弟子の特訓にならないでは ないか。ナナも少しは事件を収められると思っていたが、スペース団の強さというものが恐るべきものだとも考えられるな。 ただ、一応舞い戻るのだから、言ってみたらすでに終わっていて何も出来なかったとは、あいつには言わせないぞ。 終わっていたのならば、ナナやカントウのジムリーダーと一戦交えてくるべきだと思うな。 そんな時、同じホウエンジムリーダーの一人から連絡が入ってきた。 ツツジ:「ナギさん、彼は今どちらにいらっしゃいますか?」 ナギ:「ああ、ツツジか。あいつならカントウに向かったが、今日はお前のジムでの特訓の日だったか?」 ツツジ:「いえ、私に岩ポケモンを鍛える術をお聞きになりましたの。??さんの飛行ポケモンを一発で倒せたら、ナギさんの 鼻を明かせるなどと言っていましたから。」 ナギ:「そうか、それなら帰ってきたら伝えておく。」 ツツジ:「お願いいたしますわ。」 あいつ…、最近甘くしてやったと思えば、すぐにいい気になって…。 帰ってきたらあいつの岩タイプを私の飛行ポケモンで倒して実力の差を教えてやらないといけないな。 こりゃあ…、ひどい状況だな。 前に来たときはこのハナダシティも結構復旧してたけど、一気に壊れたな。 俺の目の前には無人の建物が並び、知り合いのナナたちが倒れている光景があった。 起こそうにも、全然目覚める様子がないし…。 しょうがないな。 ??ー?:「ナナ、ちょっと失礼するぜ。」 今なら怒られることも、問い詰められる事もないよな? 怪盗編 9.戦いの終結&友情の復活 蓮華:「ついに来たね。」 涼治:「ああ、ここにいるんだよな?」 あたしたちの目の前には、元々はシルフカンパニービルだったと思われる建物があった。 今は周囲のビルを巻き込み、暗雲立ち込める古いお城のような姿に変わった建物が。 蓮華:「ここにいるのよ、なずなが。」 涼治:「全ての原因になってるナイトメアもここにいるよな。」 蓮華:「ええ。」 ミューズ:「でもさ、入り口がないよ。」 あたしと涼治が冷静に城を見つめていると、それをミューズが呆気らかんに言った。 この雰囲気を唯一冷静に見てないんだよね、ミューズは。 ミューズ:「どうせならさ、入り口くらい作ってほしいよね。これじゃあ入れないよ。」 蓮華:「うふふ、ミューズ、何か忘れてない?」 ミューズ:「えっ?」 涼治:「俺たちは怪盗だぜ。」 蓮華:「これくらい、簡単に入ってみせるわよ。」 涼治が冷気で作った大きな氷の釘を放ち、あたしが蔓の鞭を飛ばして釘に巻きつけた。 釘は城の壁に突き刺さったので、あたしは蔓の鞭を手繰り寄せるようにして、涼治と一緒に中に入った。 ミューズ:「あぁ!ちょっと待ってよ、あたしを忘れてる!(でも、二人とも息があってるわね。)」 あたしたちが飛び込んだ窓はシルフのビルの窓だと思ってた。 でも、城の中は本当に城の中と同じで、あたしと涼治とミューズは、回廊の中を進んでいた。 涼治:「てっきりビルの中に飛び込んだって思ってたけどな。」 蓮華:「これもなずなの力なのかしら…」 ミューズ:「そうなのかな?…あっ、何かドアが見えるよ。」 ミューズが示した場所には、この内装に不釣合いなドアがあった。 このドアを開けなければ先には進めないけど、明らかに罠じゃないかって感じもする。 蓮華:「それじゃ、開けちゃお。」 涼治:「おい、待てよ。罠だって分かってて開けるのか?」 蓮華:「うん、開ける。」 涼治:「しかし、俺は…」 蓮華:「あたしのことを心配してくれてるんでしょ?でも、開けるの。」 涼治:「…分かった、一緒に開けるぞ。」 蓮華:「うん。」 ミューズ:”ハァ、あたしのこと忘れてるよ…。” そしてあたしたちは扉を開けた。 開けた瞬間、あたしたちは光に包まれて、眩しさに目を覆った瞬間、あたしは涼治やミューズと離れ離れになっていた。 ナイトメア:「ふふふ、いらっしゃい、迷いの世界に。この中で人格を崩壊し、あたしに辿りつく前に負けるがいいわ。」 ここは…どこだ? どこかの住宅街みたいだけど…。 何か、見覚えがある…。 ??:「こらっ!外には出るなってあれほど言ったじゃないの!この疫病神!」 この声…。 俺の全身は硬直していた。 過去は振り返らないって決めたのに…。決別できてたはずなのに…。 今の俺は、恐怖で体が震えていた。 でも、体は勝手に動いて、俺を家の近くまで運んでいった。 途中で人とぶつかりそうになったけど、何故か俺の体をすり抜けていった。 もしかしたら、俺はこの世界では見えていない存在なのかもしれない。 そう思うと少しホッとできて、何とか震えを止める事ができた。 だけど、家の近くに来た時に、俺はあの人とご対面していた。 あの人は、俺の姿を見て驚いていた。 誰にも見えていない。 そう思ってたけど、この人には見えてるのかもしれない。 あの人:「な、な、何であんたがいるのよ…。とっくに捨てたはずなのに…」 俺の知らないうちにこの世界の時間が進んでいたのか、この世界の時間は現代になっていたらしい。 あの人は俺を恐怖の目で見ていた。 あの人:「あたしに復讐しに来たの?そうなんでしょ?」 あの人は俺を睨みながら、強く言い切っていた。 俺は首を横に振って否定を示したが、 あの人:「嘘!あたしを殺しに来たって言いなさいよ!化け物の癖に!」 多分、俺を動揺させたいんだろうな。 そのために作った世界なんだろうな。 涼治:「化け物って言われようと、復讐に来たって言われようと、俺はもう気にしない。俺はあんたを親だとも思ってないし、 とっくの昔に赤の他人になったんだ。それに、俺には大事な奴がいる。仲間がいて親友がいて恋人がいる。だから復讐したいなんて思ってない。 復讐したって無駄なだけだ。じゃあな。」 俺はあの人に対してそう言い、別れた。 すると、周囲の景色が薄れ始めていて…。 …ん? ここは…、薬品の中…? あたし…、どうしてこんなところにいるの…? 懐かしい場所だって思った。 それと同時に、再びこの場所に来たくなかったって思う。 あたしはキレイハナの姿で、薬品の入ったガラスケースの中にいた。 そしてあたしが見ていたのは、昔のあたし。 ナゾノクサの姿のあたしがいて、哲也さんのピジョットになるポッポがいて、ルークやリースイたちになるイーブイが6匹いるのが見える。 あの時、なんだ…。 ??:「どうかね?昔の自分を見るのは。」 えっ? あたしは気づいたら人間の姿で立っていた。 さっきまで、さっきまでガラスケースの中にいたのに…。 そして、目の前にはあたしを作った科学者がいた。 科学者たちがいた。 科学者:「今の君はなかなかよくできている。このまま私たちの研究に十分に使える実験材料といえるだろう。」 ミューズ:「実験…材料…?」 科学者:「ああ、そうだよ。君は私たちの物なんだ。勝手に自分のパートナーなどを作りおって、あの子にはかわいそうだが罰を受けてもらったよ。 多分、今頃は、東京湾に沈んでいるだろう。あの子もいなくなったんだ。お前は私たちの元に戻ってくるのが常識であろう?」 科学者たちは冷たく笑いながら、あたしに言い放っていた。 ミューズ:「罰…、蓮華を…?嘘ね。」 あたしは一瞬戸惑いかけたけど、すぐに言い返した。 すると、科学者たちは驚いたような表情をしていた。 科学者:「う、嘘なわけないだろ。」 ミューズ:「その動揺が嘘だって言ってるのよ。それに、蓮華があたしを捨てるのを目の前でやったり、蓮華が目の前で心臓貫かれて殺されるのを見ないと、 あたしは一人になったって思えないし、さらに言えば、能力者の蓮華が簡単に死ぬなんて思えないもん。 あたしを動揺させて、あんたたちの元に戻そうだなんて馬鹿げてるわよ。あたしを誰だと思ってるの?これくらいの嘘、見破れなかったら蓮華のパートナー なんてやってられなかったわよ。」 あたしは科学者たちが喋る暇を与えないように、一気に言い放ってやった。 まっ、科学者たちはあたしの口から普通考えないような残虐な言葉が出てきたから、 そっちを逆に驚いて何も言えないのかもしれないけど。 ミューズ:「あたしをこの世に生み出してくれた事は感謝してるわよ。でもね、あたしは物じゃなくて、ポケモンとしての命をもってる生き物なの。 あたしは、意思を持った生き物なの。あなたたちが好き勝手に出来る存在じゃないんだからね。それに、あたしの主人は蓮華だけよ。」 すると、周囲の景色が一瞬で変わっていった。 ナイトメア:「何故だ…。私の作った迷いの空間を打ち消したなんて…」 ナイトメアは、涼治とミューズが自分の空間を打ち破ったことに動揺していた。 涼治とミューズにとって、思い出したくないはずの過去の映像を見せたのだというのにもかかわらず、二人はその過去の映像を元に作られた空間を破った。 それは、少なからず、ナイトメアに驚きの大打撃を与えたようなものだった。 だが。 ナイトメア:「ふっ、まぁ、いい。最後にはあの草使いも涼風使いも、そしてこの体の女も、嘆き悲しんで私の手に落ちるのだから。」 ナイトメアはまだ、何かを企んでいるようだった。 その頃。 蓮華は闇の中にいた。 でも、一度も恐怖を感じたり、心細さを感じたりしていなかった。 持っていたはずのモンスターボールが全てなくなっていても、蓮華は恐怖や寂しさに屈する事はなかったのだ。 蓮華:「全く、何度も同じ手には引っかかりませんよ〜だ。」 今までにもこの状況にされたこと、少なくないんだから。 絶対に大丈夫だって、あたしは分かってる。 どうなっても諦めない。 あたしはみんなを信じてるからね。 そんな時、うっすらと何かの映像が見えてきた。 蓮華:「あれっ?これって…」 周囲の景色が現われ始めて、あたしはこの世界では存在していないものなのか、幽霊みたいな存在になっていたのがすぐに理解できた。 そして、今あたしが見ているそれは、あたしがかつて見たことあるのと同じもので、2度目だった。 あの時、ポケモン世界から現実世界に帰る前にドリームに見せられた、謎の夢だった。 あたしがいるのは紅葉が綺麗な山の中。そこの道を、「当選!山中紅葉狩りツアーご一行様」と書かれたバスが通り過ぎていった。 バスは紅葉や銀杏の並木道を通っていた。そしてそのバスの中では様々な年齢の老若男女に混ざり、小さな子供が二人いた。 小さい子供の片方はあたし。 そしてもう一人の男の子は哲兄だ。 そして記憶にも少しある、優しいお父さん(正体は鬼の半妖)のそばをあたしがが走り、あたしよりも少し小さな男の子が、 お母さんに抱きかかえられていた。この白っぽい髪の男の子、弟なのかな? 今でもよく分からないし、氷雨さんがいない今、それは全く分からない。 そしてこれは、どこにでもいそうな幸せの絶頂にいる家族の風景だった。 それを少しずらすと、妊娠中なのか、大きなお腹を抱えた女性と、それを心配そうに見つめる男性の姿があった。 女性は男性に心配されながら、走り回る哲兄をじっと眺めていた。 この二人は哲兄のお父さんとお母さん。 でも、今でもよく分からないけど、あたしと哲兄は昔から知っていたの? そしてその近くには気難しそうな男性がいて、その男性の連れと思われる女性は、少し離れたところに座っている夫婦と 仲良さそうに話していた。この二人は女性の方が二人とも久美ちゃんと来美ちゃんに似てるから、来美ちゃんと久美ちゃんの両親だと思う。 そしてそのバスはトンネルに入った。 今回も、あたしは追いかけようとした。 でもその直前、突如爆発音が山々に響き渡り、トンネルの奥の方で、何かが燃えているのが見えた。 バスが爆発したんだ。 あたしは急いで向こう側に回った。 その時、風の塊がバスから飛び出て行ったのを感じた。温かい二つの風に包まれた何かが。 あれが哲兄で、両親が力で哲兄を外に逃がしたのだろう。 そしてトンネルからは見るも無残に大破し、燃えたままスピードを落としながら走るバスが姿を現した。 あたしは炎の中に入った。 でも、既に中にいた人たちは消滅という形を取ったのか?すでに人間の形でとどめている人はいなかった。 お父さんは鬼の姿でお母さんを守る形で炭になっていた。 でも、この時にあたしが感じたのは、お母さんは消滅したってあの時は思ってたけど、お母さんの生命の残像が途切れていたという事だ。 はっきり言えば、お母さんは、そしてお母さんと一緒にいた弟は、このバスから姿を消したという事。 それにしても、さっきまでの幸せな空間が、どうして一瞬で壊されてしまったのかしら? 何のためか知らないけど、テロリストによるのかも分からないけど、誰かが放った炎が何かに引火したのか、爆発が起きたらしい。 そんな時、外に誰かがいるのが見えた。 それがあたし。あたしは、冷たくなって横たわっていた。 そしてその後、怪しい集団がやってきてバスとあたしを調べた後、そのままバスの火も消さずに姿を消した。 彼らが何者かは分からない。 でも、あたしが死んでいる(?)のを確認すると、喜んだように帰っていったし。 その後であたしはいきなり目を覚まし、誰もいない場所に置き去りにされた感じで泣き叫んでいた。 今回はさらにその後も見る事ができた。 泣いているあたしに駆け寄ってきた人がいた。 氷雨さんだった。 氷雨さんは、双葉さんや泉さん、他に知らない男の人や女の人(多分全員妖怪)と一緒にバスの火を消し、あたしを保護して去っていった。 多分、あたしはこの後、保護された状態で舞さんに出会ったのだと思う。 ここで夢が終わり、あたしのもとに光が舞い降りてきた。 その眩しさに目を瞑り、次に目を開けたとき、あたしの目の前には涼治とミューズがいた。 蓮華:「う〜ん、よく寝た。涼治、ミューズ、どうしてそんな心配そうな顔してんのよ。」 涼治:「…馬鹿野郎!もう目を覚まさないのかって心配したんだぞ!」 ミューズ:「ホントだよ、もう!全くね、心配かけすぎなんだからね!」 蓮華:「ごめん、ごめん。でも、あたし、大丈夫だったよ。だから心配し、な、い、で!」 どうやら、二人よりも目を覚ますのが、あたしはかなり遅かったらしい。 時間にして1時間くらい違っていた。 でも、あたしが悪夢を見なかったといったら、逆に慰めてくれた。 本当はもっと怖い夢を見て強がってるだけだろうって。 違うんだけどな…。 そしてあたしたちは、ナイトメアのいる場所までやってきた。 ナイトメア:「あらあら、遅かったわね。でも、あたしの悪夢を破ってくるなんて思わなかったわ。」 蓮華:「悪いけど、あたしは悪夢なんて見てないから。それより、あたしとの勝負、やってくれないの?」 ナイトメア:「後悔はしないのね。それじゃ、あたしとあなたとの勝負よ。出てきなさい、蓮華。」 あたしが呼ばれたのかと思っていた。 でも違った。 あたしの目の前に現われて、あたしの目の前に立っていたのは、「あたし」だった。 ナイトメア:「どうかしら?あたしの用意した相手、それは、このなずなが知っているあなたよ。まさか、あたしとの勝負に現われる、 あたしの代わりに相手になってくれるのが、あなた自身だったとは思わなかったでしょ?」 あたしは今まで、結構弱かったと思う。 自信いっぱいに元気で過ごしていたけど、親友や恋人が敵になるとすぐに参ってしまうくらい、精神的には弱かった。 誰かを信じられないあたしも、あたしを信じられない誰かも嫌いだったのかもしれない。 恐怖に負けてて、何かによって全てを崩してしまう、そして同時に、周囲を傷つけてしまうこともあるあたし。 そんなあたしを周囲は心配で見ていて、心のどこかでは嫌っていたのかもしれない。 嫌いだったのかも…。 でも、涼治は言ってくれた。 あたし自身が大切なんだって。 この世界よりも一番大切なのはあたしなんだって。 ミューズは言ってくれた。 あたしだから、みんながあたしを好きになって、一緒についてきてくれたって。 だから、あたしは嫌われてるんじゃないんだよ。 あたしはここにいてもいいんだ。 もう、一人じゃないんだよ。 だから、安心して、泣いてもいいんだよ。 あたしは、どんなあたしも受け入れます。 だから、ずっとあたしとあたしは一緒だよ。 寂しくないからね。 あたしは、目の前のあたしにおもいっきり抱きついた。 蓮華:「もう一人じゃないからね。安心してね。泣いてもいいんだよ。寂しくないんだよ。ねっ!」 すると、目の前のあたしは空気のようにすっと消えていった。 ナイトメア:「…何故だ。何故、私の用意したお前が消えたんだ…」 涼治:「蓮華が自分を受け入れたってことさ。」 ミューズ:「あなたにはもう、勝ち目はないのよ。自分を受け入れ、過去を受け入れ、そして過去との決別を終えたあたしたちには、 もう心理作戦は通じないんだからね。」 ナイトメア:「くっ、私の負けか…。ならば、私はこの体から出よう。しかし、それはお前たちには最悪の展開となるだろうがな。」 蓮華:「どういうこと?」 ナイトメア:「これを見るがいいさ。」 ナイトメアが指を鳴らすと、あたしたちの前にスクリーンが出現し、シオンタウンが写っていた。 そしてシオンタウン全体の真上には…巨大な、島ともいえるほどの大きさの岩が浮いていた。 ナイトメア:「これは私がこの少女の体にいて、この少女の力と私の力を融合させている事で浮いていられている。 しかし、私がこの体から出たら、この少女だけではあの岩を浮かせた状態には出来ないぞ。どうする?この少女と取るか、それともシオンタウンを取るか。 どっちだ?シオンタウンには私の結界を張ったから、町の奴らは誰一人、避難できていないのだぞ。」 あたしたちは言葉が続かなかった。 卑怯な奴だっていうのが、あたしたちの頭に浮かんではいたけど、何も言えなかった。 こんなの、どっちも選べない…。 しかし。 ナイトメア:「でも、私を負かしたんだし、私は素直にこの子の体から出て行ってあげるわ。」 ナイトメアがそう言うと、なずなの姿が少しずつぶれ始め、同時に島ほどの大きさの岩が傾き始め、少しずつ高度を下げていた。 そして。 ナイトメア:「やっぱりさっと出たほうがいいかしら?」 ナイトメアがなずなから飛び出て、黒髪に、悪魔の翼をつけた妖艶な女性が現われると同時に、岩が一気にシオンに落下していた。 なずな:「駄目ぇ〜!!」 蓮華:「なずな、今からテレポートで…」 なずな:「駄目、間に合わないよ。」 涼治:「くそぉ、ナイトメア!」 ナイトメア:「ふふふ、これであなたたちも終わりね。」 ナイトメアが高らかに笑い、 ミューズ:「もう、あったまきた!必殺、爆裂パンチ!」 ミューズがナイトメアを背後から殴りつけ、 なずな:「あたしのせいで…、みんなが、おじいちゃんが…」 なずなが泣き始めた時だった。 奇跡が起きていた。 突然、シオンタウン全体をドーム状のバリアが覆い、バリアに岩が当たると同時に、岩は砕けていった。 ナイトメア:「何っ!?」 同時に、ポケモンタワーから放出された音の波動が、突如成長したシオンタウンの木々が、砕けた岩をさらに砕いたり、受け止めたりしていった。 さらに骨ブーメランや破壊光線が飛ぶ姿もあった。 ポケモンタワーの住人たちが、街を守るために動いたのだろう。 ナイトメア:「くそっ…、せっかくの私の作戦が、再び崩れることになるとは…」 それを見たナイトメアは再び憎悪の炎を燃やし始めていた。 でも、あたしたちの方が、怒りの炎は大きかった。 なずな:「あたしと融合し、蓮華や涼治君、そしてポケモン世界のみんなを苦しめた事、絶対に許さないから!」 なずなは融合された状態でも、全てを見ていたのだ。 ナイトメアが見ていた全てを見ていたことで、なずなが心の奥底で抱えていたあたしへの嫉妬は消え、失恋の思いは残ったものの、 涼治への恋心も吹っ切れていた。 だから、その分、ナイトメアが自分から抜けた事で、自分なりのパワーアップを遂げていた。 なずな:「あたしの全身全霊の力で、あなたに教えてあげるわ。あたしの怒りを。」 でも、ナイトメアは、それでも動じていなかった。 ナイトメア:「そう?できるのかしら?あたしはまだ動けるのよ。これから世界中を飛びまわろうかと思ってるし、この城はあたしの城なの。 あたしが自由に操る事だって出来るの。あなたたちをここから削除する事だって元々可能だったわ。こんな風に…。」 彼女は指を鳴らした。 ナイトメア:「…」 しかし、何も起こらない。 ナイトメア:「どうしてだ…」 彼女は何度も指を鳴らした。 ナイトメア:「くそっ、何故だ!どうしてだ!」 でも、それでも何も起こらず、彼女は焦っていた。 そのうちに、あたしたちの目の前で、ナイトメアの足元には魔方陣が浮かんでいた。 それは、妖怪や邪悪な物体を封じ込め、動けなくする事ができる魔法陣だった。 ナイトメア:「な、なんでなのよ!どうして私の力が発動しない!しかもこれは何よ!」 先ほどまで、なずなの怒りを見ても動じなかった彼女が、かなり焦っていた。 涼治:「やるなら今だな。」 蓮華:「世界を守るために、ナイトメアの浄化をするのよ。」 なずな:「誰が発動しているのか分からないけど、この封印の結界にナイトメアが閉じ込められている間に。」 ミューズ:「あたしたちの絆の力、信頼の想いを教えてあげる。」 あたしたちはナイトメアを取り囲み、それぞれの力を発動した。 ナイトメア:「やっ、やめろぉ〜!!」 涼治:「我を司る冷気と涼風の力よ、邪悪なる者に永遠の眠りを与えよ!ブリザードウィンド!」 極寒の冷気と青く輝く涼風がナイトメアを包み込み、 なずな:「私の体を流れる空気の波動よ、私が学んだ信頼と絆の思いを邪悪なる彼女に伝えよ、必殺、気功拳!」 なずなの体全体から放たれた想いの力が形となってナイトメアの周囲を回り始め、 ミューズ:「必殺、ソーラー弾!」 ミューズが放つソーラービームを圧縮した弾丸がさらに彼女の周囲を回り、なずなの攻撃と共にナイトメアを包み込んだ時、 蓮華:「私の中で眠る癒しの力よ、信頼や絆の力を知らぬ、この世に生まれた可愛そうな命に安らかなる眠りを与え、母なる大地の恵みを 彼女に与えたまえ!ヒーリングライト!」 3人の攻撃に包まれたナイトメアを、あたしの放出した癒しの光がナイトメアを包み込んでいった。 初めは苦しがっていた彼女も、だんだん、今までの残忍な笑みとは違う、安らかな微笑みに変わり、浄化されるように消えていった。 そしてあたしたちは、気づいたらヤマブキシティの中にいた。 今まで立っていたはずの城は見当たらず、町並みも全く変化がない。 まるで、何も起きていなかった、ずっと夢を見ていたように。 でも、一つだけ分かったのは、全てが終わったんだってことだけ。 それだけはちゃんと分かってた。 なずな:「終わったんだ…」 ミューズ:「ホ〜ントだね。」 涼治:「俺たちの怪盗業も幕を下ろしたんだよな。」 蓮華:「あっ、うん、そうだね。」 そして、ホッとしたらなずなは泣き出しちゃって、あたしもミューズももらい泣きしていて、3人で泣き出していて、涼治が流石に動揺していたところに、 他のみんなが合流し始めていた。 美香や海ちゃんたちはなずなが助かった事を喜び、涼治は哲兄や健人先輩にどやされ、あたしとミューズは、来美ちゃんに説教を受けていた。 でも、そういうことができるから、平和なんだって感じられるのかもしれない。 そんなあたしたちを見ている人がいた。 あたしたちは一度も気づかなかったけど。 どうやら、終わったようだな。 シオンタウンの被害も防げたし、俺もやるべきことはやったからいいな。 そろそろホウエンに戻らないと、ナギ姉さんにどやされるだろうし。 ナナ:「ストール、その前にあたしの力を返してよね。」 ストール:「あ、わりい、わりい。返すよ。」 ナナ:「どうも。それにしても、これでようやく終わったのね。」 ストール:「ああ、蓮華たちが頑張った結果だよ。でも、まさかポケモンタワーに本物の妖怪が住み着いてるとは思わなかったな。」 ナナ:「うふふ…、でも、そのおかげで助かったんじゃない?」 ストール:「まあな。それじゃ、俺は帰るよ。」 ナナ:「ご苦労様。…さてと、あたしは志穂ちゃんのところに行かないとね。ストールと志穂ちゃんの裏方作業のおかげで、全てがうまくいったようなものだし。」 ナナだけは知っていた。 蓮華たちは知らなかったが、シオンタウンの落石を防いだのはストールだった。 そして、ヤマブキに出現していた城を魔方陣で包み込み、ナイトメアが封印の結界に閉じ込められるようにしたのは志穂だった。 でも、その二人がいても、蓮華たちがいなかったら、全てがようやく終わる、というようなことはなかっただろう。 そして能力者たちはそれぞれの世界に帰っていった。 数日後。 なずな:「大変だったね。」 蓮華:「同感、なずなの行方不明の説明が一番大変だったけどね。」 なずな:「まさか涼治君との駆け落ち説が流れ出してたなんて思わなかったわよ。」 流石にあたしたちは事件が終わってホッとした直後に、なずなの家での惨劇状態を思い出し、なずなもナイトメアが行動した時に見ていただけにぎょっとして、 みんなで言い訳を考えた結果、なずながうっかり悪い妖怪の封印を解いてしまい、居合わせた涼治と共に攫われてしまったということにした。 双葉さんと泉さん(一応警察署長に面識がある)もいたおかげで、この言い訳は通じ、あたしたちがこぞっていなかったのは、助けに行っていたからという 説明でうまく丸め込めた。 実は、なずなの親があたしたちがポケモン世界に向かった数時間後に、あたしたちの行方を聞いてたらしく、なずなが事件に巻き込まれてるんじゃないかとは 考え付いたらしい。 なずな:「蓮華、ゴメンね。」 蓮華:「謝らなくてもいいよ。なずなが悪いわけじゃないんだもの。」 なずな:「でも、ゴメンね。それと、ありがとう。」 蓮華:「どう致しまして。」 なずな:「そういえば、蓮華、おじいちゃんのボールとかはどうなった?」 蓮華:「ああ、あれは後数日で邪気が抜けるらしいって。抜けたら、みんなで返しに行こうよ。」 なずな:「うん。あたしはおじいちゃんのところに行くよ。」 蓮華:「はいはい。」 今まで涼治が盗んでいたものから邪気が抜ければ、本当の意味で、この事件が幕を下ろす事になるのよね。 長く感じるようで、短かったなぁ。 あたし、チェリーナイトとして動いたのって、よくよく考えれば一回だけなのよね。 なずな:「そういえば、最近涼治君とはどうしてるの?」 蓮華:「会ってるよ、いつも。だって、絶対にうちに来てるもの。」 なずな:「う〜ん、やっぱり大変だね。あたしは恋愛吹っ切れたけど、怪盗クールナイトとしてあたしたちを騙してた事は吹っ切れてないのよね。」 この最後の事件で涼治の正体がみんなにバレたことは、それなりに周囲に影響を与えてもいた。 まず、晃正君との信頼を失った。 ていうか、晃正君が一方的に無視して涼治を困らせているのだ。 晃正君が言うには、わざと遊んでますってことだけど、涼治の困り具合は結構すごい(おもしろいくらいに)。 次に、哲兄と健人先輩からペナルティを受けているのだ。 夏休み中、涼治は哲兄の目の前で腹筋、腕立て、側近、背筋、スクワットを50回ずつやらなければならないのだ。 もし哲兄が途中でトイレとかに立っていたら、その間にやった分はカウントされなかったりするらしい。 他にも、綾香や香玖夜が使いっぱしりにしようって話してたけど、それはやめさせた。 まぁ、涼治が受けている仕打ちはこの2つかな。 ただ、あたしも加担した事で来美ちゃんに、アクアカップに出てもいいけど夏休み明けのテスト60点以下を取ったら、一ヶ月スパルタで運動も 勉強も特訓させると言っていたから、ペナルティみたいなのを受けた事には変わりないかな。 なずな:「でも、全部が解決した感じだし、よかったよね。」 蓮華:「うん。」 夏休みはまだまだある。 あたしはもっと親友と信頼を高めたり、涼治と愛を育んだりしたいなぁ。 でも、アクアカップにも出なきゃね。 一週間後、アクアカップで優勝してやるぞ!  『オマケ』 ストール:「ナギ姉さん、今帰ったよ。」 ナギ:「ああ、よく帰ってきたよな。というより、よく私の前に現われられたよな?」 ストール:「へ?」 ナギ:「ツツジに言ったらしいな。私のポケモンを簡単に倒したいから岩ポケモンの育て方を教えてほしいって。」 ストール:「あ…」 ナギ:「私の飛行ポケモンを侮辱したとして、今から特訓してやろう。お前は岩ポケモンを使えよ。私が飛行ポケモンを使い、 直々に教えてやるからな。」 ストール:「あ、あの…」 ナギ:「いいな?」 ストール:「はい…」 数分後、ヒワマキジム内を、ストールの悲鳴が木霊した。  『さらにオマケ』 あたしのところに蓮華ちゃんが訪ねてきた。 志穂:「お守りを返したいって?」 蓮華:「うん。あたしには効果ないみたいだから。」 志穂:「えっ?」 蓮華:「だって、このお守り持ってたけど、あたし闇の力を弾けずに 襲われちゃったもの。それじゃ、返したからね!」 志穂:「蓮華ちゃん…」 ありえないよ、そんなことは。 このお守り、親がいない人にはかなり確実に、効果を示すのに…。 志穂:「もしかして…」 蓮華ちゃんの両親って、まだ生きてるのかしら…? しかも…、しかも…、この世界にいるのかもしれない…。