来美:「ラブカス、天使のキッスよ!そして水の波動!」 ラブカスの攻撃でラブカスよりも3倍くらい大きなドククラゲが軽く吹っ飛ばされていった。 審判:「ドククラゲ戦闘不能!ラブカスの勝利!」 アクアカップの予選が始まって早2時間。 あたしはラブカスの力だけで、予選2戦目を終わらせた。 1戦目はトドゼルガ、2戦目はドククラゲ。 でも、甘えて攻撃力を落とさせたところを天使のキッスで混乱させ、水の波動を急所に当てる攻撃は、大きさなんて全く 感じさせていなかった。逆に周囲が驚いてるのよね。 さっきのトレーナーは常連の一人だったらしくて、前回は決勝戦で敗れた人らしい。 でも、弱かった。 多分、甘える攻撃が通じたのは特性が「ヘドロ液」だったからだろう。 次の相手は誰なのかな?ラブカスもいいけど、あたしのパートナー、ジュゴンにも戦わせてあげなきゃね。 渦巻き編 3.波乱ありのアクアカップ予選 律子:「今のところ、予選落ちはゼロか。このまま予選通過してほしいくらいね。」 それにしても昨日は大変だった。 船から下りてすぐ、セレビィのテレポートでポケモンセンターと神官マヤさんの家に向かった。 理由は、トレーナー潰しがいた事が発覚したから。 涼治君たち3人以外にもポケパソで調べたところ、船から消えていたトレーナーは10人に及んでいたのだ。 16会場の予選を勝ち抜いたトレーナーがアクアカップに出場できるから、今人数を少なくしたからといって自分が有利になるとは限らない。 でも、このまま無視したままだったら、アクアカップはトレーナー潰しによって滅茶苦茶にされてしまうとも考えられる。 だから、渦巻きアクアカップを主催する一族のマヤさんと、大会のサポートをするジョーイさんに内密な警戒と、周囲のサポート及び報告を行うためだった。 マヤさんの家には、ポケモン協会特別委員の会員証を見せたことで、すんなり入れた。 特別委員に入ってるのは、ナナとあたし、そしてナナのような数人のポケモンマスターかつマスタージムリーダーであるトレーナーくらいだけど。 そして、報告を聞いたマヤさんとジョーイさんは驚きを隠せなかった。 ジョーイ:「トレーナー潰しですって!?」 マヤ:「前回アクアカップの予選を勝ち抜いた方が行方不明になられていたことも、それによることでしたのね?」 律子:「ええ、だから出場者や観光客の皆さんに気づかれないような処置をお願いしたいんです。あたしと、事情を知ってる数名も このことは内密にしていますから。」 ジョーイ:「分かったわ、今からジュンサーさんにも応援を要請して見回りの方を大目にしてもらうことにするわ。」 律子:「お願いします。」 その後、あたしはすぐにポケモンセンターや古代コロシアムの周囲を見回ることにした。 トレーナー潰しを行っている人が、もしかしたら罠を張っていたりしているかもしれないと思ったのだ。 涼治君たち3人を助けた事で、トレーナー潰しの犯人にこちらの動きが読まれているかもしれないけど、だからといって恐れていては 後々になって後悔してしまうかもしれない。 そんな中、ポケモンセンターの裏手でこそこそと話している集団を上空で見かけ、そこに行ってみた。 もしかしたら犯人じゃないかって思いながら。 そしてこっそりと物陰から覗いていた。 すると、そこには2人の青年と、あたしと同い年くらいの少女がいた。 ??:「いるのは間違いないのか?」 ??:「ああ、確実にいる。それは間違いない。」 ??:「そうか。」 ??:「ねえ、大丈夫なの?」 ??:「大丈夫じゃなくてもやるしかないさ。トレーナー潰しの犯人を捕まえないと、昔俺がやられたことを、多くのトレーナーが 受ける羽目になるんだ。」 トレーナー潰しの犯人を捕まえる? 昔ってことは、前回か、前々回に起きたそれによって被害を受けたトレーナーってことか。 もう少し話が聞こえたらなぁ。 あたしは耳を近づけるように、気づかれないように壁際から頭を少し出し、落ちていた木の枝を踏んづけた。 ??:「誰だ!」 そして見つかった。 あたしはここで逃げる理由もなく、普通に3人の前に出て行った。 ??:「お前、俺たちの話を聞いていたようだが、ここで何をしてたんだ?」 ??:「もしかして、この子が犯人?」 ??:「そうだとしても、そうじゃないとしても、ここに俺たちがいたことを他の奴に話されては困るな。」 律子:「あたしが話さなければいいんじゃないの?それに、あたしもその犯人を探してるの。」 ??:「あなた、潰しの経験者なの?」 律子:「いいえ、それにあたしはアクアカップの参加者じゃないもん。友達の応援に来て、事件の事を聞いて…」 ??:「野次馬根性を出してきたってことか?悪いけど、帰ってくれよ。邪魔なんだ。」 律子:「そんなことを言われても帰る気はないわ。」 ??:「くっ、邪魔って言ったら邪魔なんだ!ニョロボン、そいつを追い返せ!」 ??:「そうだな、サニーゴ、お前を行ってこい!」 あたしが意地でも動かないような気迫で返したら、男二人がポケモンを放ってきていた。 ??:「ニョロボン、爆裂パンチだ!」 ??:「サニーゴ、バブル光線で行け!」 何か、脅しにしてはやりすぎのような攻撃で、一緒にいる女の子は唖然としていた。 でも、あたしは逃げないと決めていた。 そして。 律子:「ハピナスはニョロボンにサイコキネシスよ、ロゼリア、サニーゴにマジカルリーフ!」 あたしはやんわりと二人のポケモンに逆に攻撃をして押しとどめた。 律子:「あたしも友達がやられたの。それに、ポケモン協会の特別役員である以上、この事件を無視していられるわけでもないわ。 詳しいことを教えてくれない?」 あたしがそう言うと、男2人の表情は少し青くなった気がした。 そんな中。 ??:「もしかしてあなた、セレビィを持ってない?」 初対面の女の子に突然セレビィを持っていないかと尋ねられ、流石のあたしも動転してしまっていた。 律子:「持ってるけど…、どうして知ってるの?」 ??:「やっぱり、あたしはミサト、カイナシティでコーディネーターをしてて、あたしの彼氏が教えてくれたんだ。」 律子:「彼氏?」 ミサト:「そう、この二人とあたしの彼氏は数週間前に知り合って、そしてあたしが紹介されて、一応水タイプトレーナー同士だから 名前は聞いた事があってね、すぐ親しくなったの。あたしの彼氏、ストールっていうの。」 律子:「…、えっ?」 目の前の子はさりげなく、とんでもない爆弾をあたしに浴びせかけたような気がした。 律子:「そ、そうなの…。」 ミサト:「ええ、それでアクアカップに来たんだけど、コウキが昔トレーナー潰しに遭ったらしくてね、その犯人がつけてた香水の匂いを 再び感じたから、犯人を捜したいって言ってて。」 3人は、流石に普通にその話をするのはよくないと思ったらしく、ここにやってきたらしい。 すると、男二人も話に入ってきた。 ミサトがあたしと親しくなった事で、敵視するような事はなくなっていた。 ??:「さっきは悪かったな。俺はセイジ、ミナモシティでポケモンブリーダーをしてるんだ。」 ??:「俺はコウキ、ミナモで深海の宝を探すコレクターをしてる。」 セイジはニョロボンのトレーナー、コウキはサニーゴのトレーナーで、潰しに遭った事があるのはコウキらしい。 律子:「それじゃあたしも自己紹介するわ。あたしは律子、ストールと知り合いなら話しても分かると思うんだけど、 あたしも現実世界から来た能力者なの。」 ミサト:「やっぱりそうなのね。」 律子:「ええ、この大会であたしの友達が10数人出ることを決めたから、ナナの代わりに応援に来たのよ。そして、仲間のうち3人が その被害を受けたみたい。能力者の力を封じる腕章をつけられ、記憶を混乱させる薬を飲まされてたみたいなのよ。」 セイジ:「能力者でも結局はやられるんだな。」 律子:「当たり前よ、あたしたちだって人間だもの。それに、3人は騙された可能性があるわ。人が良過ぎるから。 それで、ポケモンセンターとポケモン警察、主催者のマヤさんたちには話を伝えてあるわ。出場者や観光客に気づかれないように 処置をとってもらえるようにお願いしてあるの。」 ミサト:「でも、それで大丈夫なの?」 律子:「それが不安だからこうして見回りに来たのよ。そしてあなたたちと会ったの。コウキ、あなたがやられたときの経緯は どうだったの?」 コウキ:「ああ、実は…」 コウキがやられたのは3年前の大会の時らしい。 予選を終え、アクアカップ出場が決まった直後、歩いていて曲がり角で誰かにぶつかってしまったらしい。 そしてその人が捻挫をしたらしく、部屋に送り届けた直後、意識を失ったらしい。 次に気づいた時は病院で、体を包帯だらけにして眠っていたという。 コウキ:「俺、嵐の海を彷徨ってたらしいんだ。でも、全く何も覚えてないんだ。起きてみたら病院にいて、アクアカップも とっくに終了しててさ、俺のポケモンたちがいないから聞いてみたら、俺は初めからポケモンを持ってなかったって言うんだ。」 そして必死に探したら、捨てられたポケモンと思われていたらしく、既に全員、様々な孤児施設やポケモン保護団体にもらわれていたらしい。 コウキ:「俺が起きた時、アクアカップが終わって2週間も経ってたんだ。退院したのがその一ヵ月後でさ、ポケモンを全員俺のところに 戻したかったんだけど、誰も何も信じてくれなかったんだ。俺の大会出場を取りやめる手紙まで来ていたとか、手が込んでてさ。」 ようやく手元に戻せたのが今の3匹だけらしい。 コウキ:「本当ならさ、ギャラドスとかカメックスとか、ニョロトノとかホエルコとかシザリガーもいたのに、ポケモン保護団体が 証拠がないの一点張り。ラプラスやミロカロスは孤児施設の子供たちがすごく懐いてたから、返してもらうのが可哀想でさ、 実際に託してきちゃったんだ。」 セイジ:「あの時はかなり荒れてたよな、コウキは。」 コウキ:「まあな、セイジやミナモのみんなくらいしか信じてくれなかったんだ。」 律子:「そう、…実は今回、船の中で既に10人のトレーナーの行方が分からなくなっているの。あたしの友達がゴムボートに 寝かされていた事を考えると、多分彼らは海にいるわ。ジュンサーさんが探してくれてるけどね。」 コウキ:「あのときの奴か?」 律子:「多分ね、犯人は女性トレーナーだと思う。狙われたトレーナーは大体が13〜15歳くらいの少年みたいで、女の子や、 コウキたちくらいの年齢のトレーナーは狙わないみたい。」 ミサト:「それじゃ、次に狙われるのも…」 律子:「ええ。多分、その年齢くらいのトレーナーよ。」 この後、あたしたちは再び辺りを偵察し、ポケモンセンターに戻った。 結局その日は、何も起きなかった。 でも、不安は隠せなかったので、迷った結果、蓮華に事情を話したのだ。 蓮華:「そんなことが…?涼治もやられたの?」 律子:「ゴメンね、蓮華がマジ切れを起こすとややこしくなる気がしたから話せなかったのよ。」 蓮華:「それは…」 流石に何も言えない蓮華。 律子:「でも、何か起きるかもしれないとすると、蓮華のポケモンの力が必要なの。アサギのBOXに預けてきたあの子達を 手元においてくれない?」 蓮華:「ソルルのことね?了解したわ。」 蓮華はソルルに加え、フィル、リュウ、ぺろん、アゲハ、ポーを手元に加えていた。 直後。 ソルル:「ソル!ソルルル!」 あたしと蓮華の目の前で、ソルルはおもいっきり飛び出し、通訳としてミューズが飛び出してきた。 ミューズ:「誰かが攫われたって!近いよ!」 でも、ソルルはミューズの言葉が終わらないうちに飛び出していた。 律子:「追いかけなきゃ!チルタリス、お願い!」 あたしは6匹目のポケモン、チルタリス(特性は自然回復)を出し、蓮華とミューズも飛び乗ってソルルを追いかけた。 すると、ソルルが女性の前を足止めしていた。 女性は揺れ動く袋を担ぎ、ソルルを睨みつけていた。 ??:「ちょっと、邪魔よ!せっかくの作業を邪魔しないで!」 律子:「作業って何よ?」 蓮華:「トレーナー潰しの犯人はあなたね!」 あたしたちがチルタリスから舞い降りると、女性は突然袋を捨てて走り出した。 ??:「あんたたちは厄介ね、でも、予選で潰してあげるわ!」 そう言い捨てて。 蓮華:「律子、あたしが追いかけるわ。」 律子:「ええ、お願いね。」 でも、謎の女は結局逃げてしまったのでした。 薄暗かったせいで、女性の顔も分からずじまい。 ただ、ソルルのおかげでトレーナー潰しは何とかなりそうな予感がします。 攫われ掛けたトレーナーも助けられたし。 ??:「いきなり襲われてどうしようかと思ってたんだ、助かったよ。」 律子:「今、実はトレーナー潰しが多発しててね、13〜15歳くらいの少年が狙われてたのよ。大丈夫?」 あたしは、あたしより少し背の低い彼にかがんで話しかけた。 すると、彼は機嫌が悪くなっていた。 律子:「どうしたの?」 ??:「あのさ、俺17なんだけど…」 律子:「え…」 ともかく、助かってよかったと思った。 あたしは挨拶そこそこに彼と別れた。 そして次の日になり、アクアカップ予選が始まるのでした。 蓮華:「サゴッピ、トゲキャノンよ!」 今回の渦巻きアクアカップもかなりの人数のトレーナーが出場している。 そして予選は16会場で行われていて、予選を3回勝ち抜いたトレーナー64人が、今年のアクアカップの 出場者として、古代コロシアムでバトルをすることになる。 あたしは今が予選1戦目。 相手のキバニアは素早さが高いけど、キバニアやサメハダーは防御力や特殊防御力はかなり低いポケモンだった。 だから、サゴッピはキバニアの攻撃を避けながら、攻撃し返していた。 トレーナー:「キバニア、影分身、そして水の波動だ!」 キバニアはサゴッピの周囲を囲み、水の波動を放ってきた。 分身が揃って水の波動を放つけど、本物は一つだけ。 でも、誰が本物か分からずに、サゴッピは攻撃を受けてしまった。 トレーナー:「そのまま突進だ!」 キバニアは水の波動を受けてよろけたサゴッピにぶつかっていく。 その時キバニアの鮫肌がサゴッピの体を傷つけていった。 蓮華:「サゴッピ、自己再生よ!」 サゴッピは自己再生で受けたダメージを回復した。 トレーナー:「それならもう一度キバニア、影分身から水の波動だ!」 蓮華:「またなの?…えっと、影分身は本物が分からなきゃ攻撃できないよ。どれが本物なの…?」 この分だと再び水の波動を受けてしまう事になる。 水の波動の副作用「混乱」が作動したら、自己再生をする間もなく負けてしまうかもしれない。 でも、ちょっと待てよ。 そうだ! 蓮華:「サゴッピ、地震よ!」 サゴッピは水面から顔を出した状態で、水面を大きく揺らした。 すると、波がサゴッピを中心に立ち、本物のキバニアだけが波に翻弄されていた。 蓮華:「アレが本物ね!サゴッピ、バブル光線よ!」 サゴッピは波に翻弄されるキバニアにバブル光線を放ち、最後は自分から飛び上がり、鮫肌で傷つくと知りながらも のしかかっていた。 審判:「キバニア、戦闘不能!サニーゴの勝利!」 あたしはまず予選1戦目を終えた。 海:「キングドラ、竜巻よ!」 ミニスカート:「マリルリ、アイアンテールで竜巻を壊して!」 海:「ふ〜ん、そう来るのね。キングドラ、竜巻にバブル光線よ!」 あたしのバトルの相手はマリルリを連れたミニスカート。 キングドラの竜巻で先手必勝のつもりだったが、尻尾のアイアンテールで竜巻を壊そうとしていた。 でも、簡単に壊して終わりにはさせないんだから。 バブル光線が竜巻の中に入ったことで、竜巻が破壊されると、竜巻の中にあったバブル光線は竜巻の壊れた部分から一斉に飛び出していた。 ミニスカート:「嘘ぉ〜、マリルリにバブル光線が当たってるぅ〜」 海:「キングドラ、今よ!竜の息吹!」 キングドラが吹き放った息吹が、バブル光線を受けてよろめいたマリルリを包み、マリルリは麻痺をしたまま倒れていた。 審判:「マリルリ戦闘不能!キングドラの勝利!」 トレーナー:「ミズゴロウ、水鉄砲だ!」 希:「残念でした、ヌオーの特性は貯水なのよ!ヌオー、波乗りよ!」 あたしのヌオーが素早くないのを狙って体当たりや突進を仕掛けていたミズゴロウ。 でも、水鉄砲を放ってくれたおかげでヌオーは回復していた。 そしてヌオーの波乗りは、ミズゴロウを飲み込み、ミズゴロウを倒していた。 能力者たちは予選を軽々と乗り越えていた。 偶然にも各地から集まった水のエキスパートたちと当たる事がなく、予選は徐々に終わりを迎えていた。 そんな中、蓮華がモコナのバトルを見に来ると、そこで健人の姿を見つけていた。 蓮華:「嘘、健人先輩とモコナが当たっちゃった…」 モコナ:「だ〜れを出そうかな〜、よし、ジーランス、頑張ってきってね〜!」 モコナは飛び跳ねながら、岩・水タイプのジーランスを出していた。 健人:「岩タイプにはこいつだ!ニョロボン、お前に任せたぞ!」 健人先輩はセオリーどおり、水・格闘タイプのニョロボンを出した。 モコナ:「ニョロボンね、特性は貯水かもしれないし、水タイプの技は使えないなぁ。だったら、う〜ん…」 考えているようで考えていないような、笑ってる表情をしながらのモコナに、健人先輩は妙にいらだっていた。 健人:「緊張感のない奴だな…、ニョロボン、爆裂パンチだ!」 モコナ:「にゃはっ、ひっかかったぁ!ジーランス、欠伸だよ〜ん!」 ニョロボンが爆裂パンチを振りかざして向かってきたその瞬間、ジーランスは口を大きく開けて欠伸をした。 その途端、ニョロボンはそのまま倒れこんで寝てしまっていた。 健人:「ニョロボン!」 モコナ:「残念だったね、ジーランスは欠伸が使えるんだよ!まっ、このバトルはあたしの圧勝だと思ったけどさ。」 蓮華:「モコナ、それってどういうこと?」 モコナ:「おお、蓮華ちゃんじゃん!見に来てくれたんだぁ、あのね、その人ね、さっきのバトルで何かトラブったみたいなんだ。 それでいらだってるまま、この試合に来てるのよ。」 蓮華:「トラブル?」 モコナ:「うん、あ、その前に、そろそろバトルを終わらせないとね。ジーランス、ダイビングだよ!」 予選ステージのプールのそこに潜ったジーランスは、おもいっきり上までのぼり、ニョロボンの巨体を高く打ち上げた。 モコナ:「ジーランス、破壊光線でGO!」 ニョロボンは破壊光線をまともに受け、倒れた。 審判:「ニョロボン、戦闘不能!ジーランスの勝利!」 モコナ:「やったぁ!…蓮華、その人のトラブルって言うのはね、何か因縁を吹っかけられたみたいよ。何か昨日、トレーナーが誘拐 されそうになったらしいじゃん。その時にアリバイがなくってね、数人のトレーナーが罵声を浴びせたりしてたみたい。 前に蓮華と一緒にいた子がジュンサーさんと一緒に来て、トラブルは解消されたんだけど、それであの人、すごく集中できなくてね、 接戦でようやく勝ったんだってさ。それじゃ、あたしは予選3戦目があるから行くね。」 モコナは飛び跳ねながら、人ごみの中に入っていった。 律子:「蓮華、聞いたんだね。」 蓮華:「うん…。健人先輩は?」 律子:「もう、現実世界に帰るってさ。やっぱり傷ついてた。あたしが駆けつけたときは、周囲のトレーナーも健人先輩を犯人だって 思い込んじゃってたんだもの。あたしが犯人は女性だって言うと、何とか収まったんだけどね、でもやっぱり健人先輩、 やっぱり集中できなくて、ヘイガニで勝利したんだけど、ヘイガニも2,3日は安静にしなきゃいけなくなってたのよ。」 蓮華:「それで、犯人の方は見つかった?」 律子:「全然。予選のない時間を使って、このことを知ってるメンバーにも見回りをしてもらってるんだけど、今日はまだ何も 起きてないみたいなの。」 確かに、ソルルが何も感じていない。 それだけ何も起きていないという事だけど、仲間のうち一人が疑われて、惨敗で現実世界に戻っちゃうとは思わなかったな。 律子:「それにね、何か、その噂はいつの間にか流れてて、初めからアリバイのないのは健人先輩だ、みたいな感じで流れてたの。 まさに標的にされてた感じなのよ。」 蓮華:「何それ、ひどいじゃない。」 律子:「てっきり標的はあの年齢内の人物かと思ってたんだけどさ、さっき調べたら、涼治君の持ち物からみんなで取った写真の入った手帳がなかったのよ。 もしかしたら、涼治君の手帳の写真であたしたちのことを知って、写真を見て標的を見つけたのかもしれない。 だから、蓮華も気をつけてね。」 蓮華:「分かったわ。」 律子:「あと、健人先輩、最近疲れてるらしいし、このまましっかり休んだ方がいいと思うんだ。それじゃ、あたしは行くね。」 蓮華:「うん!」 鈴香:「う〜ん、何も怪しい様子はないなぁ。」 あたしと悠兄は志穂姉に試合を任せてるので、普通に見回りを行っていた。 でも、何も起きていないし、トレーナー潰しの噂はいつの間にか立っていたんだけど、犯人らしき人物の声は全く感じ取って いなかった。かなりの人が溢れるこの予選会場の中で、あたしがいくら音を司る能力者だったとしても、全てを聞き取れる わけでもないので、感じ取れてない部分も多かったけど。 そんな時、人だかりのある予選ステージを見つけた。 鈴香:「どうしたのかな?すごいところなのかな?」 あたしは人をかきわけて中を覗いてみた。 すると、そこにはウェーブのかかった長い髪の、すごく綺麗な人がゴルダックで戦ってる姿があった。 周囲の人はその人を「姫」と呼んでいたので、多分、昨日海ちゃんが教えてくれた姫乃さんが彼女なんだろう。 戦ってる相手のポケモンはオーダイルのようだ。 トレーナー:「オーダイル、切り裂く攻撃だ!」 姫乃:「ルダ、念力で動きを封じなさい。そしてハイドロポンプで押し戻すのよ!」 勢いがあって止められないだろうって思っていたオーダイルの切り裂く攻撃。 でも、それが簡単に止められていて、念力を使ってる状態で、ゴルダックはハイドロポンプも放っていた。 トレーナー:「オーダイル!?」 審判:「オーダイル戦闘不能!ゴルダックの勝利!」 審判の声が上がると共に、周囲は歓喜の渦に包まれていた。 「姫」コールをする応援団やチアガールのコスチュームをつけた人たち。 そして。 姫乃:「ほら・・・・だから言ったじゃない。やっぱり、貴方が私に敵うわけがない。」 この言葉を聞いて、周囲はさらに盛り上がりを増していくのだった。 すごい人がいる、もしお姉ちゃんや、志穂姉が当たったら、どんなことになるのかな? ものすっごいバトルが巻き起こるような気がする…。 志穂:「ランターン、超音波からスパークよ!」 トレーナー:「あぁ!ニョロモが…」 審判:「ニョロモ戦闘不能!ランターンの勝利!」 水タイプの天敵である電気タイプの属性を持つランターンのおかげで、予選は3戦とも楽に勝ち抜ける事が出来た。 相手がニョロモやメノクラゲ、コイキングだったからでもあるかな。 あたしの持ってるメンバーだと、ルンパッパが相手として出てきたら苦戦するかもしれないな。 そんな時、妙な視線を感じた。 志穂:「誰?」 あたしが振り返ると、一人、目をそらして歩いていく人物がいた。 一瞬、潰しの犯人かと思いかけたけど、全然違う。 眼鏡をかけた青年だった。 すごく頭の良さそうな、秀才タイプの人。 あたしは念のため、式神の管狐を放っておこうとして印を切った。 だが、式神はあたしの目の前で、その人によって手で払われてしまっていた。 志穂:「嘘…、何者なのかしら?」 その時、海ちゃんがその人とすれ違っていたのが見えた。 そしてすれ違った瞬間、妙な表情を示したのを見た。 志穂:「海ちゃん、今…」 海:「何か、今の人、あたしのこと、じっと見てた。」 志穂:「そう、あのね、あの人にあたしも見られてた。管狐も手で払われちゃったの…」 海:「嘘…、あの人も出場者みたいだけどさ、今回の大会、潰し以外にも色々と集まってきてるんじゃないかな?」 志穂:「そうね、慎重に動きましょ。」 海:「ええ。」 清香:「あ〜あ、負けちゃったなぁ。」 健人が負けて、精神的に疲れて帰った事は知っている。 でも、あたしが負けたのはそういうのじゃなくて、相手がとっても強かったのだ。 あたしの相手はシルバーって言う人で… 清香:「カブトプス、お願いね!」 シルバー:「ここはダック、お願い!」 あたしのポケモンは水・岩タイプのカブトプス、対するシルバーのポケモンはゴルダックだった。 清香:「カブトプス、原始の力よ!」 シルバー:「ダック、サイコキネシスで岩を受け止めて、カブトプスに返すのよ!」 カブトプスの原始の力で、大量の岩が現われて、ゴルダックに向かっていった。 しかし、ゴルダックのサイコキネシスが全ての岩を受け止めていて、逆に竜巻のように岩を回しながらカブトプスに それらを返してきたため、カブトプスは受け止められず、攻撃をまともに受けてしまった。 清香:「そんな…、それなら切り裂く攻撃よ!」 シルバー:「ダック、水に向かってサイコキネシスよ!水の壁を作って切り裂く攻撃を相殺して!」 切り裂く攻撃をしようと向かうカブトプス。 でも、サイコキネシスによって作られた水の壁が立ちはだかり、切り裂く攻撃はその壁に阻まれてしまった。 壁を壊さない限り、カブトプスはゴルダックを攻撃できない! シルバー:「今よ、ダック、波乗りよ!」 水の壁に手間取っているうちに、ゴルダックの波乗りが、水の壁ごとカブトプスを飲み込み、カブトプスはプールに沈んでしまった。 そして浮き上がってきたところを… シルバー:「ダック、破壊光線よ!」 破壊光線が狙い、カブトプスは倒されてしまった。 攻撃が全て受け止められ、跳ね返される感じで、あたしは攻撃した事が敗因に思えたくらいだった。 シルバー:「ダック、お疲れ様。よく頑張ったね。カブトプス、強かったよ。」 シルバーはそう言って、次の予選に向かうようだった。 とっても強かったなぁ。 次の予選の様子も見に行ったけど、ラブカスがルンパッパを翻弄して勝利していた。 相手には攻撃する暇を全く与えていなかったし。 とってもすごい強豪の一人だと思う。 その頃。 蓮華:「アクア、ハイドロポンプよ!」 涼治:「カメール、ロケット頭突きだ!」 ヒカリ:「ラプラス、のしかかりだよ!」 綾香:「ペリッパー、今まで蓄えた分を吐き出して!」 他のメンバーもドンドン予選を通過していた。 律子:「結局、潰しの犯人は見つからなかったわね。」 蓮華:「健人先輩と清香先輩も負けちゃったし。」 律子:「海ちゃんや志穂ちゃんが言ってた男の人や、コウキたち、清香先輩を破ったシルバーさん、鈴香ちゃんの 言ってた姫乃さんも予選通過。64人の選手が決まったとはいえ、ちょっと大変な大会になりそうよね?」 蓮華:「うん…、ソルルも何かを感じて出てきてるけど…」 ミューズ:「起こる予感はするけど、起こらない予感も強いから、何とも言えない、だってさ。」 律子:「ということは、潰しの犯人も通過してるってことになるよ、もしかしたら。」 蓮華:「64人の中にいて、女性の可能性が高い、か。人を疑うのはよくないし、難しいね、これはさ。」 律子:「ええ。」 そして、次の日。 あたしたちは古代コロシアムが眠る海が見渡せる崖に集まった。 今日、古代コロシアムが海から現われるのだ。 他にも、何人ものトレーナーが、その様子を見に来ていた。 そしてそれは始まった。 海の水が少しずつ引き始め、古代コロシアムが徐々にその真の姿を見せ始めていた。 蓮華:「うわあ…」 綾香:「すごい…」 哲也:「健人や清香の分も、俺たちで頑張ってこような。」 来美:「そうね。」 あたしたちの目の前で、大きく水が引き、古代コロシアムが、水のバトルフィールド姿を現していた。 渦巻きアクアカップは始まったばかり。 だけど、嫌な予感もいっぱい、楽しみだったりする思いもいっぱいの、波乱の幕開け。 どんな事が起きるのか、なんて、その時にならないと分からないけれど、あたしたちはあたしたちのやれる限りのバトルで頑張っていきたい!