清香:「海斗、頑張ってね。ここで応援してるから。」 海斗:「ああ、2回戦も突破してくるから待ってろよ。」 渦巻き編 8.水のダブルバトル!壮絶なる2回戦 中編 アナウンス:「さて、波が少々出てまいりましたがバトルは続きます。次のバトルは海斗選手対コウキ選手です。 龍の怒りを覚えた類稀なるコイキングを使うコウキ選手に対し、アメタマを使って相手を翻弄していた海斗選手はどのような バトルを挑むのでしょうか?」 志穂が簡単にやられるとは思っても見なかったから、ちょっと手強いとは思うけど、やってみるかな。 俺は海の能力者。 言うなれば水のエキスパートの一人だ。 属性の違う志穂よりも、あいつの相手にはなれるはずさ。 海斗:「今度はお前たちが行ってくれよ、オーダイルにジュゴン!」 俺のポケモンは4体しかいないが、4体ともとても強い力を持っている。 何度こいつらに助けられたか分からないくらいだ。 ワニノコから進化したオーダイルと、パウワウから進化したジュゴン。 この二人なら何とかしてくれるはずだ。 そんな俺の前に現われたコウキは妙に自信満々だった。 コウキ:「オーダイルとジュゴンか。…でも、ついに進化したこいつらには勝てないな。」 海斗:「どういう意味だ?」 コウキ:「こういうことさ!ギャラドス、ドククラゲ、行って来い!」 コウキが自信に満ちていた理由は、彼のポケモンが進化したからだった。 コイキングがギャラドスに、メノクラゲがドククラゲに進化したことで、さらに力は上回っている。 しかもギャラドスの特性は「威嚇」であるため、ジュゴンとオーダイルの攻撃力は、無意識的に下がってしまっていた。 審判:「それでは、試合開始!」 コウキ:「先手必勝だ!ドククラゲ、雨乞いだ!そしてギャラドス、雷をお見舞いしてやれ!」 ドククラゲの触手があがり、青い光が空に放たれると、空は一瞬で雲に覆われ、フィールド中に雨が降り始めた。 そしてさらに、ギャラドスが吠えた瞬間、多数の光が雲の切れ目から見えていた。 雨乞いの状態での雷は当たる確率が上がっているうえに、オーダイルとジュゴンは水ポケモンである以上、一撃で倒されてもおかしくない。 だけど、雷を放たせはしない! 海斗:「ジュゴン、ギャラドスに猫騙しだ!オーダイルはドククラゲとギャラドスの周囲に冷凍ビームを放て!」 これによってギャラドスは怯み、雷を1ターン目で出す事はなかった。 でも、先ほど吠えたのが雷を雨雲の中に作るためだったので、次に出てくる可能性も高い。 だから、それを何とか防がないといけない。 そのために、ジュゴンの冷凍ビームを相手のポケモンの周囲に放ち、移動できる範囲を狭めたのだ。 一時しのぎだな、こりゃ。 コウキ:「猫騙し、か。でも、次からは雷の発動は可能だ。それに、ジュゴンの冷凍ビームで周囲を固めたって、そんな氷を割るくらい 簡単な事だ。ギャラドスは電磁波、ドククラゲは超音波で攻めろ!そっちがこちらの動きを封じるなら、こっちも封じてやる!」 どうやら一時しのぎは気づかれたようだ。 当たり前だな、それに冷凍ビームの氷も少々薄いようで、奴らが動けばすぐに割れてしまうだろう。 だが、周囲を固める方法に出たことで、コウキも同じ方法に出ていた。 それなら…。 海斗:「オーダイル、目覚めるパワー、ジュゴンは鳴き声で相殺しろ!そしてオーダイルは地震で水面を打て!ジュゴンは 空中の広範囲にオーロラビームを放つんだ!」 電磁波は目覚めるパワーによって拡散され散り、超音波は同じ音の攻撃の鳴き声によって掻き消えた。 そしてオーダイルの拳が水面に打ち付けられ、強い衝撃が水面を波立たせ、地震の波動としてドククラゲを攻撃していた。 だが、水面に対する攻撃は、柱の上にいるオーダイルとジュゴンには効果がなかったので助かった。 また、空中に拡散して放ったオーロラビームは一応氷タイプの技なので、冷気のような光を帯びていたため、雲の中の水分を 凝縮させたらしく、粉雪のようなものが雨に混ざって少々落ちてきていた。それにより、雲も少し薄くなったような気がした。 俺は雲を雪雲に変えれないかと思って放たせたのだが、不発になったようだ。 コウキ:「くっ、地震でドククラゲが結構ダメージを受けちまったか…。ギャラドス、今度こそ雷だ!ドククラゲはバブル光線で攻撃だ!」 海斗:「オーダイル、ジュゴン、ダイビングで水に潜れ!」 ついに雷が発動した。 バブル光線もあり、攻撃を相殺するのは難関だと思い、ダイビングで水に潜る事を指示し、雷は海面によって拡散して消えた。 コウキ:「水の中からの攻撃か?だったらギャラドスとドククラゲも潜るんだ!」 オーダイルとジュゴンが潜った後、ギャラドスとドククラゲも海中に沈んでいった。 直後、水面ではギャラドスの破壊光線とドククラゲのバブル光線が放たれ、オーダイルとジュゴンは海上に吹っ飛ばされてしまっていた。 戦闘不能にはなってないからいいものの、水中に飛び込んだ直後の攻撃で体勢が取れなかったようだ。 ダイビング経験の長いポケモンたちだから、俺のポケモンよりも水中戦は得意なんだろう。 だけど、俺には考えがあった。 海斗:「ジュゴンは絶対零度、オーダイルは吹雪で海を凍らせるんだ!」 さっきの冷凍ビームよりも強い攻撃で海が凍れば、氷から出てくることで攻撃を使い、出てきたところを攻撃する事ができる。 コウキ:「マズイ!ギャラドス、ドククラゲ、水中から出て来い!」 コウキも気づいたらしかったが、既に遅かった。 ドククラゲの頭とギャラドスの体が出た状態で海が凍っていたのだ。 コウキ:「ギャラドス!ドククラゲ!」 この状態なら、俺が攻撃して勝利する事は可能だ。 だが…。 海斗:「コウキ、今からそいつらに攻撃する事は可能だ。絶対零度の対象は海だったから、ポケモンが一撃必殺の攻撃は受けていない。 だから動く事もバトルをすることも可能だが、それ以前にオーダイルとジュゴンが今すぐに攻撃する事は可能だ。どうするんだ?」 俺はコウキに聞いてみた。 奴が勝負を選ぶのか、ポケモンを選ぶのか。 海斗…、これって…。 玲奈:「前にもこういう、似たようなこと、あったわね。」 清香:「玲奈!…試合の準備は?」 玲奈:「もう終わったわ、海斗のバトルが終わるのを待ってるの。…それよりも、こういうこと、前にもなかった?」 清香:「あったわね、哲也と、だっけ?」 玲奈:「ええ。あのときじゃない、あたしたちの出会いも。」 前にも一度だけ、こういうことがあった。 玲奈と哲也が、海斗とあたしに初めて能力者として出会ったときだった。 海で化学物質にまみれて凶暴化した妖怪を助ける時、玲奈とあたしは人質になってしまい、海斗と哲也が助けに来たときだった。 そんな時、妖怪は、怪我をしていた海斗の家のイルカと同化した。 哲也が妖怪を追い詰めたために、妖怪がイルカに目をつけて、イルカを襲ったのだ。 もう妖怪は倒さなければいけない状況だった。 でも、止めを刺せばイルカの命も消えてしまう。 それを知った海斗は、 「その妖怪はもう倒さなければいけない。だが、イルカの命を奪う事は許されない。どうするんだ?」 イルカは怪我をしているため、同化したのはいいけど妖怪も動けない状況。 動けない相手でも、倒さなきゃいけない相手は倒さなきゃいけない。 だけど、イルカの命は別。 海斗は、哲也に選ばせたのだ。 妖怪退治を選ぶのか、イルカを助ける事を選ぶのか。 そして哲也はイルカを助ける事を選び、妖怪は駆けつけた志穂ちゃんの力で分離され、封印された。 あの後、海斗は言っていた。 もし、哲也が妖怪退治を選んでいたらどうしていたのか。 清香:「どうしていたの?」 海斗:「あいつとはもう関わる気はないし、仲間とは思えない、と思った。それに、一発分殴ってたな。」 海斗は強いのだ。 哲也や健人君よりも、精神的に強いのだ。 今まで、水族館で親しい海の生き物たちの死をたくさん直面していたって言うのに、くじけずに生きてきたから。 そして今、同じ選択をコウキに決めさせようとしていた。 多分、もしコウキがポケモンに指示を出したらその時は…。 海斗:「どうするんだ?」 コウキ:「…戻れ、ギャラドス、ドククラゲ。」 コウキは、ポケモンを戻していた。 ポケモンを戻した場合、どうなるかって言ったら…、 審判:「コウキ選手がポケモンを戻したので、試合途中離脱により、海斗選手の勝利!」 というように、俺の勝利が決まるのだ。 だが、俺は満足していた。 コウキも、自分の水ポケモンを大切にしているという事が分かったのだから。 もし、あいつが指示を出したら、俺がポケモンを戻しただろうな。 ポケモンよりもバトルを選ぶ相手とバトルしたって、俺は楽しいとも思わないし、勝っても嬉しくない。 コウキ:「海斗、いつか再戦を誓うぞ。」 海斗:「あぁ、いつかな。」 控え室に戻る途中、清香と玲奈に会った。 次は玲奈のバトルだったな。 清香:「海斗、かっこよかったよ。」 玲奈:「久しぶりに思い出したわ、あたしたちが初めて会った時のこと。」 海斗:「そうか。清香、ありがとう。玲奈、頑張れよ。」 玲奈:「ええ。」 玲奈はフィールドに出て行った。 清香:「海斗、みんなのところに行きましょ。」 海斗:「ああ。」 アナウンス:「さて、先ほどのバトルでの雨乞いと凍った海が戻りましたので、バトル再決行です!海もようやく波の荒れが収まってきました。 次のバトルは、玲奈選手対カイキ選手です!」 あたしの2回戦での相手は、結構かっこいい感じの青年だった。 哲也という彼氏がいなければ惚れそうだなぁ。 でも、哲也の情けない姿を見ても、哲也を嫌いになったり、哲也から離れないのはあたしくらいだから、彼女という立場はずっと 続くのかもしれない。 ま、それはおいといてっと。 玲奈:「ここはあなたたちに頼むからね、サクラビス!ハンテール!」 菜々美ちゃんや浅香ちゃんに貸してもらったポケモンを使うのは、あたしのポケモンが戦えない状況に陥った時。 だから、それまでは自分のポケモンを信じる、と決めていた。 そして出したのは、共に特性が「スイスイ」である、パールルたちの進化形たちである。 カイキ:「サクラビスとハンテールですか、それなら僕は、ハリーセンとキバニアです!」 相手のポケモンは、特性が毒のトゲである毒タイプを兼ねたハリーセンと、特性がサメハダである悪タイプを兼ねたキバニアだった。 ようするに、直接攻撃を使うとこちらが傷ついてしまう事になる。 これは気をつけないとね。 審判:「それでは、試合開始!」 玲奈:「サクラビス、雨乞いよ!ハンテールは影分身から水の波動よ!」 試合が始まってすぐに、あたしは雨乞いによって2体の特性が発動できる状況にした。 だが、ハンテールは突然混乱し始めて影分身を行わず、その場で泳ぎ続けているだけだった。 玲奈:「ハンテール!?」 カイキ:「雨乞いを発動したのはよかったですよ。でも、僕のキバニアが威張ったから、ハンテールは混乱してしまいましてね。 ハリーセン、毒針でハンテールを攻撃するんだ!」 ハンテールが混乱したのは威張られたからだった。威張られた状態で柱に突進でもしたらハンテールは攻撃力が3倍に上がってる分、 ダメージを多く受けて倒れてしまいかねない。ハンテールが混乱から冷める事を祈りながら、あたしはバトルを早く済ませようと思った。 玲奈:「サクラビス、キバニアを渦潮で閉じ込めるのよ!」 サクラビスはキバニアの周囲を回り、渦潮がキバニアの行く手を遮る事になった。 渦が消えるまで、キバニアは水中に潜っても渦潮から逃げる事は出来ない。 カイキ:「キバニアが…!それならハリーセン、ミサイル針だ!」 キバニアが封じられ、ハリーセンが2体を攻撃するために水を吸収して大きくなり、ミサイル針を発射していた。 ミサイル針がフィールド中に放たれ、サクラビスとハンテールを攻撃していく。 キバニアは渦潮によってミサイル針から守られていたが、同時に出ることも出来ずにいた。 そして針の発射が終わった時だった。 カイキ:「これでサクラビスもハンテールも…あれっ?」 フィールドにはサクラビスとハンテールの姿はなかった。 あったのは、ぬいぐるみのような細長い物体だった。 カイキ:「サクラビスとハンテールはどこだ…?!」 玲奈:「うふふ、そこにいるわよ。」 カイキ:「…身代わりだな。」 大正解だった。 ハンテールの混乱が収まったかどうかは分からなかったけど、ミサイル針発射の直前に身代わりの指示を出しておいたのだ。 どうやら発動してくれたようで、身代わりが消え、サクラビスとハンテールの姿が海面に現われていた。 渦潮はまだ続いているので、今動けるのはハリーセンだけだ。 ただ、渦潮の中からも攻撃は可能なんだけど、攻撃をしてこないのを見ると、キバニアには直接攻撃以外に水タイプの攻撃は 持っていないのかもしれない。 となると、今はチャンスの時だ。 玲奈:「ハンテール、嫌な音よ!」 嫌な音がフィールドに響き、ハリーセンはもだえるように動いていた。 玲奈:「そしてサクラビス、ハリーセンを念力でキバニアに叩きつけて!」 ハリーセンは念力で持ち上げられ、渦潮の中のキバニアに叩きつけられた。 同時にキバニアの表情が青ざめ、ハリーセンの体に傷がついていた。 キバニアが毒を、ハリーセンがサメハダによるダメージを受けていたようだ。 その代わり、念力による波動で渦潮は消えちゃったけど…。 カイキ:「ハリーセンにキバニア!…こうなったら、キバニア、ハリーセン、突進だ!」 でも、やっぱりポケモン同士が互いの特性で傷つけあってしまったことは、トレーナーにとってはショックだったようだ。 そのため、カイキさんは攻撃に身を置いているようだった。 キバニアは渦潮のダメージも受けている以上、長く持たないだけなのかもしれない。 だったら、ここで二人とも倒してあげちゃおうっと! 玲奈:「サクラビス、サイコキネシスよ!ハンテールは水の波動!」 サクラビスのサイコキネシスがハリーセンを、ハンテールの水の波動がキバニアを弾き飛ばし、再び2体は互いにぶつかりながら 柱に激突し、沈んでいった。 そして浮かんできた時、ハリーセンは体中を傷だらけにしていて、キバニアはさらに青ざめた状態にしていて、二人とも戦闘不能になっていた。 審判:「ハリーセン、キバニア、共に戦闘不能!よってこの勝負、サクラビスとハンテールの勝利!」 カイキ:「あぁ〜…、負けちゃったな。せっかくチアキ君とバトル出来ると思ってたのに…。」 カイキさんは何か誰かとバトルしたかったらしくて、残念そうにしていた。 だけど…。 カイキ:「ハリーセンのマロンちゃん、キバニアのチアキ君、今すぐにポケモンセンターに行こうね。君たちの命は僕が救ってあげるよ。」 という声も聞こえた。 玲奈:「カイキさんって一体…」 あたしは、あまり関わりあいになるべきじゃない人とバトルをしたような気がした。 そんな中、再び優勝候補の一人が、フィールドにやってこようとしていた。 玲奈の次にバトルがあるのは海で、相手は姫乃だった。 海:「美香、マリルリを使うね。」 美香:「うん、マリルリ、海ちゃんの指示を聞いてバトルをしてね。」 マリルリは頷いて海の持つボールに入っていった。 マリルリが、一時的の主人を認めた行動だった。 海:「キングドラとマリルリで、出来る範囲の対抗をしてくるね。」 美香:「分かったわ。頑張ってね、海ちゃん。」 アナウンス:「さて、次のバトルでは、再び優勝候補選手の登場です!1回戦では色違いのミロカロスで相手を圧倒し、数ターンで倒してしまう 実力を見せていました!姫乃選手です!」 アナウンスが響き渡ると、一部の観客席から怒涛の応援コールが響き渡り、会場中を姫乃コールが占めていた。 そして姫乃は、その応援を気にする事もなく、クールにフィールドまでやってきていた。 その目からは真剣さが満ち溢れていた。 アナウンス:「姫乃選手に対するのは、1回戦をキングドラで勝ち進んだ海選手です!」 アナウンス直後、姫乃コールには及ばないが、蓮華たちによる海コールが発生していたが、すぐに姫乃コールにかき消されてしまうのだった。 海:「船の上ではどうも。」 あたしが会釈をすると、彼女も、姫乃も返してくれた。 船のプールで一度会ってるだけに敵意むき出しってことはないみたいだ。 彼女の場合はそんなことはしないと思うけど。 姫乃:「ああ、またフィールドで会うとはな。」 海:「ええ。まさか優勝候補と当たっちゃうなんて…。でも、負けませんから。」 姫乃:「私もそれは同じだ。お互い、いいバトルにしような。」 海:「ええ。それじゃ、キングドラ、マリルリ、行くわよ!」 あたしのポケモンは、あたしのキングドラと、美香のマリルリだ。 キングドラはドラゴンタイプを兼ね、特性はスイスイだ。 美香のマリルリは厚い脂肪という特性のはずだから、相手が氷タイプの技を出してきてもダメージは少ないはず。 姫乃:「キングドラにマリルリか、ならば私は、ジラン、シェン、お前たちに頼もう。」 対する姫乃さんのポケモンは、ジーランスとパルシェンだった。 防御に優れた2体、それに対してあたしは、どこまで対抗が出来るのか…。 審判:「それでは、試合開始!」 姫乃:「シェン、広範囲に冷凍ビーム。ジランはその氷を地震で割るのよ。」 一瞬の出来事だった。 海が凍らされたのは指示が出てすぐの0.5秒くらい。 その間に海が凍り、すぐにジーランスの地震が放たれて氷が割られていった。 ジーランスが何をやろうとしているのかは読めている。 岩タイプだから岩石封じや岩なだれを使おうとしても、岩が存在していない海面上では行う事が出来ない。 でも、柱を壊したカケラや、氷などがある場合、それらを岩の代わりとして使う事は可能である。 多分、岩なだれが来る。 海:「実戦は少なくても、先を読むくらいは出来るわよ。キングドラ、竜巻よ!マリルリは腹太鼓!」 キングドラの起こした竜巻が海面上の氷を竜巻の中に吸引していき、その傍ら、マリルリはお腹を叩き、攻撃力を倍増させた。 それと同時に、マリルリのペンダントが姿を消す。 ペンダントになっていたのはオボンの実、それによって攻撃力の倍増と共に失った体力HPを少し元に戻す事が出来た。 姫乃:「竜巻で海面の氷を一掃しようというのね。でも、それでもいいわ。ジラン、岩タイプを持つあなたの力、 もう少し見せてあげたらどう?原始の力よ。」 竜巻が氷をドンドン吸引し、氷同士がぶつかり合って細かく砕けていくのだが、それでも姫乃の表情は崩れなかった。 逆に、原始の力が発動され、竜巻の中の、大小様々な大きさの氷の塊が、意思を持つようにしてキングドラとマリルリに向かっていった。 姫乃:「さらにシェン、竜巻に冷凍ビームを放ち、氷柱針よ。」 冷凍ビームが再び一瞬のうちに放たれ、それによって作られた氷柱のような形の氷が、氷柱針となってキングドラとマリルリに 向かっていく。 海:「マリルリ、アイアンテールで弾くのよ!キングドラは龍の息吹で氷を押し戻して!」 マリルリが尻尾のアイアンテールで氷を破壊しながら弾き返し、キングドラの息吹が氷のスピードを落とし、氷を海に落としていく。 だけど、この時既に、姫乃の次の手は打たれていた。 突如、マリルリの背後にパルシェンが、キングドラの背後にジーランスが現われていた。 原始の力と氷柱針が発動した後、あたしが攻撃からの防御を進めているうちにポケモンの背後に動かしておいたようだ。 姫乃:「竜巻を使うのはいい手だが、少々の隙を作ってしまったな。シェン、マリルリを殻で挟め。ジランはキングドラに頭突きだ。」 マリルリが背後から体を挟まれ、キングドラは後頭部を頭突きされてしまった。 でも、両者共に今まで攻撃を相殺し続けていただけに、ダメージを受けたのはこれが最初。 まだまだマリルリもキングドラも、倒れるほどのダメージは受けていない。 海:「キングドラは恩返し!マリルリはやつあたりよ!」 「恩返し」、「八つ当たり」は共に、トレーナーに対する懐き度によって威力が違う。 キングドラとは、カポエラーと同じくらい長くやってきたから恩返しの威力は高い。 逆にマリルリを手持ちとして使うのはこれが初めてで、あたしに一応懐いてるとしても、主人が違い、あたしがバッジを持ってない以上、 八つ当たりの威力は増大するのだ。 それによって、マリルリはパルシェンの殻をこじ開けて、脱出を果たしていた。 だが、キングドラの恩返しはジーランスに潜られてしまい、不発に終わっていた。 姫乃:「あなたのマリルリは、友達から借りたものなの?」 海:「ええ、あたしの親友が、あたしのために貸してくれたの。」 姫乃:「そう、いい友人ね。でも、人から借りたポケモンではあなたがいくら強いトレーナーだとしても、あなたが私に敵うことはないわ。 ジラン、ダイビングから捨て身タックル。シェン、あなたはもう一度挟んで高速スピンよ。」 ジーランスの攻撃は、キングドラの真下からやってきた。 どうやらあのジーランスの特性は、攻撃の反動を受けない「石頭」らしい。 捨て身タックルと聞いて分かったけど、キングドラの真下から来た攻撃を避ける事は出来ず、マリルリに助けを求めようにも、マリルリは 尻尾を挟まれた状態で高速スピンを受け、目を回してしまっていた。 そしてキングドラも真下からの攻撃のショックで倒れてしまうのだった。 審判:「マリルリ、戦意喪失!キングドラ、戦闘不能!よってこの勝負、ジーランスとパルシェンの勝利!」 マリルリは目を回した事で戦意喪失とみなされ、キングドラも倒れてしまい、あたしの負けは確定した。 姫乃:「ほら・・・・だから言ったじゃない。やはり、あなたが私に敵うことはなかった。次に戦う時は、あなた自身のポケモンで私に バトルを挑みなさい。私は会えたとき、いつでもバトルに応じるわよ。」 姫乃は最後までクールな表情を貫き通し、ポケモンを戻してフィールドから去っていった。 会場は、さらに姫乃コールで覆われることになった。 海:「姫乃…。分かったわよ、トサキントとパールルが進化して、カポエラーも一緒でいいなら、その時は、その時は、またバトルをしてね。」 希:「海ちゃんは負けちゃったか…。相手が相手だし、まっ、多少対抗できただけいいんじゃないかな?次はあたしね。」 海ちゃんの次のバトルはあたし。 クチバの電撃女神が、水のバトルを披露しに行くわよ。 希:「アヤネちゃん、お互い頑張りましょ。」 アヤネ:「ええ。」 あたしの相手は一緒に控え室にいた。 涼治君やルリちゃんたちは既に観客席に移っている。 あたしとアヤネちゃんだけがこの控え室にいた。他の控え室にはヒカリちゃんたちがいるだろうけど。 希:「負けないからね。」 アヤネ:「こちらこそ。あたしはここを勝ち抜いて、エイクかお兄ちゃんとバトルをするの。そのために、希さんには負けません!」 希:「いい度胸よ。」 アナウンス:「さて次のバトルですが、謎の強豪トレーナー、アクアリウス選手の登場です。対するは、クチバの電撃女神という異名を持つ 希選手、二人はどのようなバトルを見せてくれるのでしょうか?」 あたしとアヤネちゃんは、フィールドで再び顔を合わせた。 でもその時は、互いにさっき控え室にいたときとは違うコスチュームを身に着けていた。 あたしは、クチバジムにいたときの黄色と黒をベースにした迷彩柄のキャミソールとスカートという姿。 アヤネは水色の巫女装束をつけ、顔を白い布で覆っていた。 希:「アクアリウス、女神のバトルオンステージよ!ヌオーにナマズン、出てきなさい!」 あたしのポケモンは地面タイプを兼ねたヌオーとナマズンで、特性は、ヌオーが貯水、ナマズンが鈍感。 ヌオーは太くて低い柱の上に立ち、ナマズンは水面上に現われた。 アヤネ:「あたしも行くよ、あたしのポケモンはね、マンタインとペリッパーだよ!」 アヤネのポケモンは飛行タイプを兼ねた2体だった。 ペリッパーは太くて低い柱の上に降り立ち、マンタインは水に潜っていた。 飛行タイプということは、地面タイプの攻撃は通用しないってことだ。 迂闊だったわけじゃないし、ペリッパーは控え室でも見たから出ることは分かってた。 この状況はあたしの方が不利だけど、でも、それを押さえ込むのがジムトレーナーの務め。 どっちが勝つかは分からないけど、やれるだけの攻撃はやるから。 ヌオー、ナマズン、ついてきてね。 審判:「それでは、試合開始!」 アヤネ:「マンタイン、ペリッパー、空中に飛翔して!空からバブル光線とスピードスターよ!」 先手を打ったのはアヤネだった。 ただ、どうなっても先攻は向こうになるんだけど…(ヌオーとナマズン、素早さ低いから)。 希:「ナマズン、砂嵐を起こしてから水に潜るのよ!ヌオーは目覚めるパワーでスピードスターを相殺して!」 ヌオーの特性が貯水なので、水の攻撃を受けてもヌオーがやられることはない。 だから、スピードスターの相殺だけを任せ、ナマズンは水に潜らせた。 砂嵐は地面タイプにはダメージがないので、マンタインとペリッパーにしかダメージを与えない。 これで隙が出来るわ。 アヤネ:「砂嵐だなんて…、フィールドの様子がよく分からない…。ペリッパー、風起こしよ!」 ペリッパーが風を起こして砂嵐を吹き飛ばす。 だが、砂嵐が晴れた時、柱の上にはマンタインが倒れていた。 砂嵐が吹き荒れた時、水にぬれている体に砂がつき、体が乾いてしまい、落下してしまったのだ。 だが、マンタインは必死で動こうとしているので、戦闘不能とは見受けられていない。 でも、マンタインだけでは、この状況を乗り切るのは難しい状態だった。 アヤネ:「マンタイン!!ペリッパー、マンタインに水鉄砲よ!」 希:「させないから。ヌオー、ペリッパーにヘドロ爆弾よ!」 ヌオーはマンタインから離れた柱の上にいるので、泳いでいたら追いつけないけど、攻撃を放つことは出来る。 そしてヘドロ爆弾が綺麗な弧を描き、マンタインに向かうペリッパーにぶつかっていった。 ペリッパーはそれによって毒を受け、海面上に落下しかかっていた。 希:「ナマズン、出番よ!」 あたしは砂嵐を起こしてから一度も水面に顔を出さなかったナマズンを呼んだ。 顔を出すナマズンの上には、落下しかかっているペリッパーの姿があった。 アヤネ:「ペリッパー、ナマズンに翼で打つ攻撃よ!」 アヤネが叫び、ペリッパーはその態勢を作る。 でも、それは、戦いの終止符を受ける掛け声に過ぎないと思った。 飛行タイプと水タイプの弱点は電気タイプ。 そして、マンタインが動けない今、ペリッパーを助けられるものはいない。 希:「ナマズン、スパークよ。」 ドジョッチのときからナマズンはスパークを使う事が出来たので、大いに役に立った。 スパークを浴びたペリッパーは、翼で打つ攻撃の態勢を崩し、海に落下してきた。 直後、柱の上にいたマンタインは、ヌオーやナマズンが何もしていないのに何かの力によって跳ね飛ばされ、柱に叩きつけられていた。 審判:「マンタイン、ペリッパー、戦闘不能!よってこの勝負、ナマズンとヌオーの勝利!」 マンタインは体が乾燥した事で動けないまま、柱に打ち付けられた衝撃で倒れ、ペリッパーもスパークの威力で倒れていた。 アヤネはこの状況に目を点にして、唖然として見ていた。 アヤネ:「どうして…最後…」 希:「未来予知よ、ナマズンの。…あたしが電撃女神ってこと、忘れてた?」 アヤネ:「いえ、…でも、あたし、ちょっと飛行タイプだから大丈夫だって気になってました。出直してきますね。」 希:「ええ。」 結果として、実戦経験が豊富な希が勝利するのだった。 だが、アヤネは負けても悔しそうなそぶりはしていなかった。 逆に、ジム周りを目指そうと考え、再び希にバトルを挑みたいと考えるのだった。 蓮華:「すごいバトルが続いてるね。」 美香:「うん、すごすぎるよ…。」 志穂:「…見つけたわよ、涼治君を。」 蓮華:「ホント?」 あたしたちは水のコロシアムの壁の上でバトルを見ていた。 さっきいた観客席にも何人かがいて応援をしているんだけど、あたしや美香、志穂ちゃんら数名が、涼治の捜索も行っていた。 そして今、志穂ちゃんの飛ばした式神のうち、一体が涼治を見つけたらしい。 美香:「どこにいたの?」 志穂:「街の中の空き家。…どうやら、後二人いるわ。あれは…、渚ちゃんと輝治君じゃない…。」 美香:「渚?」 蓮華:「どうしているの…?」 志穂:「う〜ん…、あの状況を見る限り、3人とも人質のようね。誰かが裏で操ろうとしてるのかも。多分、あいつらだと思うけど。」 蓮華:「あいつらって?」 誰の事かと聞こうとしたときだった。 街中を偵察に行った鈴香と悠兄、刹那が戻ってきた。 刹那:「確かにあいつらがいたぞ。」 鈴香:「ていうか、あいつら変装してないからバレバレだったよ。」 悠也:「俺たちに気づかれないように動いてるつもりだろうけど、それもバレバレだったよな。」 美香:「誰の話?」 志穂:「懐かしい人たちよ。」 志穂ちゃんがため息をついた。 ものすごく呆れた表情をしている。 志穂:「どうしてあんな4人に涼治君たち3人が捕まるのかしらね?」 鈴香:「涼治さんは、負けたショックもあったから分かるよ。…でも、お姉ちゃんにはショックかもね。あのね、裏で糸を引いてるのは、 とっても懐かしい元スペース団の方たちだよ。」 悠也:「覚えてるだろ?化粧の濃い奴と、パソコンオタク。」 鈴香:「それに子供っぽい女の人と、何でも喋っちゃう人。」 蓮華:「ああ…、あの人たちね…」 美香:「まだ生きてたんだ…、…あれっ?もしかして、あのジュース売り?」 鈴香:「そうだよ、みんな気づいてないんだもん。」 美香:「あの人たちだったんだぁ…。多分、涼治君、怪盗やるふりして、4人の油断をついて戦う気じゃない?」 志穂:「あたしもそう思うわよ。だから、もう少し様子を見ましょ。居場所も分かった事だし。」 何だか、志穂ちゃんは全てを見下ろしているように物事をのほほんと終えていた。 が。 いきなり再び顔をしかめた。 蓮華:「志穂ちゃん?」 志穂:「ハァ…、まだいたわ。」 刹那:「誰がいたんだ?」 志穂:「雑魚よ、雑魚。ラッタを連れた雑魚が、彼らとは別で動いてるのを式神が見つけたみたい。…どうする?」 志穂ちゃんが顔をしかめたのは、雑魚中の雑魚であり、邪魔だからだった。 蓮華:「ほっとこ。」 美香:「同感。」 刹那:「邪魔な奴でも雑魚だろ?」 悠也:「出張ってきたら吹っ飛ばすだけだな。」 鈴香:「そうだね。」 そしてあたしたちは、残りの試合を見るために、観客席に戻っていくのだった。