決勝戦前夜、部屋には蓮華の姿がなく、探し回っていると、コロシアムを見下ろす崖に、とある集団を見つけた。 蓮華と蓮華のポケモンたちだ。 美香:「蓮華、探したよ。」 蓮華:「美香…」 美香:「美香、じゃないよ。どうしたの?」 蓮華:「うん、何かね、明日決勝だなって思うと、待ち遠しいし、何か体が震えてきて…」 ミューズ:「それで、みんなでここに来て、一緒にリラックスしてたの。」 確かにここは、街のトレーナーや観光客による喧騒から離れた、とっても静かな場所だった。 風の音、波の音が聞こえ、星空が見え、海が穏やかに波立ち、心地よい風が吹いている。 美香:「自然の中に入り、自然と一体となってたのね。」 蓮華:「ええ。」 蓮華にとっては、初めは力試しと、面白そうだからというイベント気分で参加した大会。 でも、決勝に来るまでにたくさんのトレーナーと戦い、彼らの意思を引き継いでここまで勝ちあがってきた。 それだけ、決勝に挑む思いを違ってくるわけで、蓮華は水ポケモンを極めるアクアマスターになろうとしている シルバーさんやレイスさんたちの意思も決勝に持ってくる。 だから生半可な気持ちにはなれず、真剣なまっすぐな気持ちになっていたのだ。 そうなると、リラックスしなきゃ落ち着かないし、気持ちを引き締める事も必要。 それを行うために、植物使いの蓮華は自然と一体化になって落ち着こうとしているようだ。 美香:「それじゃ、あたしは行くね。蓮華、風邪引かないようにしてよね。」 蓮華:「分かってるよ、美香、ありがとう。」 美香:「どういたしまして。」 渦巻き編 15.信頼と愛情の大バトル!アクアカップ決勝戦 哲也:「決勝戦だな。」 玲奈:「そうだね。」 清香:「あたしたち、かなりのメンバーが参加してると思ってたけど、気づいてみれば一人減り、二人減り、最後は身内は 蓮華ちゃんだけになっちゃったわね。」 海斗:「それだけ強豪揃いだったというわけだな。俺たちの何倍も強いトレーナーが多かったわけだ。」 来美:「そうね、そして、この大会が終われば夏も終わるのね。」 久美:「結局今年も彼氏と一緒にはなれなかったなぁ…」 希:「いいじゃん、久美の彼氏はいないわけじゃないんだし。」 久美:「でも…、能力者勢は妙にカップルが多いから…」 志穂:「確かにそうね。でも、あたしは別にいらないから。」 蓮華と同じ現実世界出身メンバーや、この大会で出会ったトレーナーたちは様々なグループに分かれて決勝前夜を楽しんでいた。 なずな:「美香、蓮華は?」 美香:「大丈夫よ。ポケモンたちとリラックスムードだった。気持ちを引き締めるために、心を落ち着かせてるわ。」 なずな:「そう、なら安心ね。…ところで、シルバーとモコナちゃんは大会の後はどうするの?」 シルバー:「そうねぇ…、一度グレンに戻るわ。なずな、暇があったら遊びに来てよね。あたしはグレン島か双子島にいるから。」 モコナ:「あたしもハナダに戻るつもり。ジムトレーナーになって、もうちょっと腕を磨かないと、姫乃さんやシルバーさんには 勝てそうにないもの。」 モコナとシルバーは4位ということになったのだが、一応4位と5位を決めたくて、二人でバトルをした結果、シルバーが4位になったのだ。 シルバー:「だとしたら、あたしも負けられないわね。双子島で特訓しなくちゃ。」 涼治:「お前らは明日のバトルが終わったらすぐに帰るんだよな?」 エイク:「ああ、アクアカップ終了までの約束だからな。」 アリサ:「それ以降も遊んでたら皿数えのお姉さまがあたしたちにペナルティを貸すのよ。」 ルリ:「だから終わったらすぐに帰らなきゃいけないわけ。涼治、あんたも来る?」 アヤネ:「無理だよ、涼治兄ちゃんは蓮華っていう彼女がいるんだよ。」 ルリ:「だから、アヤネと蓮華のどっちを選ぶんだってことだよ?やっぱり彼女か?」 アリサ:「ちょっとルリ!やめてよ、あたしは修羅場は作りたくないよ。」 ルリ:「分かってるって、ジョークだよ。」 涼治:「全然ジョークに聞こえなかったけどな。」 エイク:「涼治、気にするな。…にしても、いつの間にアヤネにお兄ちゃん呼ばわりされるようになったんだ?」 涼治:「え…、それは別に…」 晃正:「あれっ?先輩、顔赤いっすよ。」 ヤツデ:「もしかして蓮華先輩とアヤネさんと二股じゃ…」 涼治:「うるさい!お前ら、いつからいたんだよ!」 綾香:「あ〜あ、涼治君怒っちゃった。」 香玖夜:「お兄ちゃんって呼び方はあたしたちがアヤネちゃんにしてあげたらって言っただけなのにね。まったく純情少年は…」 浅香:「でも、見ていて飽きないですね。ところで、香玖夜先輩は一志先輩をどうして連れてこなかったんですか?」 香玖夜:「別に、あいつは部活が忙しいだけの事。ところで、カエデ、あんたはこれからどうすんの?」 カエデ:「う〜ん、まだ決めてなかったっけ、そういえば。」 小麦:「コタロウさんの罪は重そうですけど、服役しても1,2年ですみそうですよ。待つんですか?」 カエデ:「うん、多分。あたしの相棒だからね。」 刹那:「だが、仕事はどうする。お前らは裏の世界の人間だろ?」 カエデ:「大丈夫ですよ、何とかなりますから。」 ヒカリ:「ていうか、大丈夫よ。」 綾香:「ヒカリちゃん、どういうこと?」 ヒカリ:「カンナさまに連絡して相談したんだけど、カエデとコタロウの面倒を見てくれる人が見つかったの。」 カエデ:「えっ?誰なの?」 ヒカリ:「キクコおばあちゃん。」 ヒカリが名前を呼んだ直後、一瞬というより、大きな間ができたのは言うまでもなく、カエデとコタロウのことを一同は 心の中で哀れんでいた。 ヒカリとユウも、一時はキクコによってかなり厳しく鍛え上げられて、体重がかなり減ったりしたらしい。 でも、それだけ厳しいので、二人もスペース団から足を洗えるだろうと安心したりもしていた。 だが、当のカエデはそれに気づかず、沈黙の6人を不思議そうに見ていた。 そして、そんなこんなのうちに夜が明け、次の日になった。 アナウンス:「みなさん、ついにアクアカップ決勝戦の時がやってまいりました!」 コロシアム内は今まで以上に人が溢れ、熱狂し、まだ出てきていない蓮華と姫乃を応援していた。 特に姫乃親衛隊は、大会初めよりも人数が倍に増え、今までよりもさらに熱い応援が行われ、それに対抗するかのように 菜々美や美香たちもポケモンを出して蓮華を応援していた。 さらに、赤岩島のカクイシティ内にもいくつかの巨大スクリーンが設置され、たくさんのトレーナーや観光客たちがスクリーンを眺め、熱狂し、 決勝が始まるのを今か今かと待ち望んでいた。 アナウンス:「6日間に渡って行われたアクアカップも残すところ後1試合!この1試合において、バトルを制したトレーナーが、 大会優勝者となり、新しい海の勇者に決定します。では、決勝戦に出場するトレーナーを紹介します!」 まず片方の入り口にライトが照らされた。 アナウンス:「様々な技のコンビネーションを巧みに使い分け、多くの強豪やトレーナーを次々に打ち破ってきた、カントウリーグ優勝経験を 持つトレーナー、蓮華選手です!」 ライトに照らされる中、まずフィールドに姿を現したのは蓮華だった。 この大会では今まで見せなかった、能力者の戦闘での姿になり、植物を司る妖精の姿でフィールドに現れた蓮華。 彼女に対し、ミューズとチリリ、アゲハが紙ふぶきを巻きながら一緒に現れていた。 そして、会場からは「可愛い」などの声援と、蓮華コールが沸き起こっていた。 蓮華がフィールドに降り立ち、ミューズたちがボールに戻ると、次はもう片方の入り口にライトが照らされた。 アナウンス:「アクアカップ委員会でも優勝候補と名高く、すべての戦いをほとんど数ターンで終えてきた、海の女王ではないかと称される 水ポケモントレーナー、姫乃選手です!」 ライトが照らされる中、姫乃が姿を現した。 そして一同は息を飲んでしまった。 衣装は今までと同じで、白い長袖のシャツに、下は茶色の膝より少し上までの丈のスカート、そして白い靴下に茶色の靴という茶色基調の服なのだが、 姫乃は元々背が高く、モデル並みの貫禄と、大人びたクールな表情をもっている。 そのため、クールに歩いてくる貫禄が会場中を一気に引き込んでしまったようだ。 だが、ライトが消え、二人のトレーナーがその場にそろうと、再び二人への応援が始まっていた。 蓮華:「ついにこの時が来たわね。」 姫乃:「ええ、私はこの大会で勝ち、アクアマスターへの道を一歩進めるわ。」 蓮華:「どうかな?勝つのはあたしよ。あなたが水を愛しているように、あたしはポケモンたちを愛してる。 それに、あたしは今まで戦って敗れてきた仲間やトレーナーたちの意思を引き継いで来てる。だからあなたに負けたりはしないわ。」 姫乃:「そう、でも、それは私も同じこと。あなたが私以上に水を愛していなければ、あなたは私に勝つことはできないわよ。 そして私を楽しませることも、焦らせる事も。」 蓮華:「本当にそう思う?」 姫乃:「ええ。」 蓮華:「そうかぁ…、ちょっと傷つくなぁ。でも、あたしは負けない。」 審判:「それでは、これより決勝戦を行います。使用ポケモンは3体のシングルバトル、ポケモンの入れ替えは自由とし、 ポケモンがすべて戦闘不能になったところで試合終了となります。」 蓮華:「それじゃ、行くよ!弱小の波をかきわけて、大きく成長したコイッチ、出てきて!」 あたしの1体目はギャラドスのコイッチだ。 姫乃:「私はこの子よ。ルダ、行きなさい。」 姫乃の1体目はゴルダックだった。すでにギャラドスの威嚇を受けて、攻撃力が下がっている様子だ。 審判:「それでは試合開始!」 蓮華:「コイッチ、雨乞いよ!」 先手を打ったのはあたし。ゴルダックが攻める前に、コイッチに雨雲を呼ばせ、フィールド上空には強大な雨雲が現れてた。 蓮華:「コイッチ、雷を落とすのよ!」 姫乃:「ルダ、光の壁で防ぎなさい。」 雨雲と共に雷が雷鳴し、ゴルダックに向かって稲妻が落ちていく。 だが、その一撃は光の壁によって防がれ、弾かれてしまった。 姫乃:「雨乞いから雷へのコンビネーションは分かっていたから防ぎやすかったわ。ルダ、ギャラドスに乱れ引っ掻きよ!」 ゴルダックは光の壁を止めて、水に飛び込み、コイッチに向かってきた。 蓮華:「だったらこれよ!コイッチ、竜巻よ!」 だからコイッチの竜巻で、ゴルダックを包み込もうとしたんだけど、 姫乃:「ルダ、波乗りを行いながら竜巻に入るのよ。そして竜巻の軌道に乗って。」 あろうことか、ゴルダックは泳ぎながら波乗りへと変わり、波乗りごと水を吸い上げる竜巻に飛び込み、竜巻の中を泳ぎ始めていた。 姫乃:「ルダ、そのままギャラドスの顔に爆裂パンチよ。」 竜巻の回転のスピードを利用して飛び出したゴルダックの一撃は、コイッチの顔にまともにヒットしていた。 そして混乱してしまうコイッチだけど、すぐに首にかかっていたラムの実が働き、コイッチの混乱は治っていた。 蓮華:「コイッチ、今度はこっちから行くわよ!影分身から龍の舞よ!」 コイッチが影分身でゴルダックを囲み、そして龍の舞を行って攻撃力と素早さをあげた。 姫乃:「だったらルダ、自己暗示よ!」 ゴルダックは自己暗示によってコイッチと同じくらい攻撃力と素早さを自分にも持たせている。 だが、自己暗示によってゴルダックには一瞬の隙ができた。 蓮華:「コイッチ、今よ、地震よ!」 コイッチの巨体が海の上で地震を起こすと、大波が出現し、ゴルダックに向かっていった。 蓮華:「さらにコイッチも波乗りよ!」 地震で起きた波と、コイッチの波乗りが左右から来て、ゴルダックを挟み撃ちしようとした。 だが、 姫乃:「だったらルダ、サイコキネシスで波を受け止めるのよ!」 ゴルダックは左右に手を広げ、両手からサイコキネシスを放出して波を止め、 姫乃:「そのままギャラドスにハイドロポンプよ!」 止めた状態からハイドロポンプを放ってコイッチの波を破壊していた。 蓮華:「コイッチ、体勢を立て直して凍える風よ!」 コイッチは波を壊されて海に落下したが、海に潜って体勢を立て直し、顔を出してすぐにゴルダックに冷気を浴びせた。 ゴルダックにはあまり効果がない様子だったが。 しかし、姫乃は負けず、 姫乃:「ルダ、ギャラドスに破壊光線よ!」 ゴルダックは破壊光線を放出した。 蓮華:「コイッチ、こっちも破壊光線よ!」 そして蓮華も負けていない。 両者の破壊光線が相殺し、大爆発を起こし、海は大きく荒れていた。 そして海は爆発で蒸気となり、一時期フィールド上を隠していた。 そして、フィールドが見えたとき、ゴルダックはコイッチの長い体で締め付ける攻撃を受けていた。 姫乃:「ルダ、乱れ引っ掻きで引っかいて逃げるのよ。」 蓮華:「コイッチ、負けないで締め付けて!」 どちらも破壊光線の衝撃波は受けているので、これくらいが限界だろうというのはあたしでも分かる。 でも、ここで力を緩めたら負けを認めることになるのは変わりなかった。 そして、ゴルダックが乱れ引っ掻きを続けた事で、コイッチが体の痛みを感じ、ゴルダックを逃がしてしまった時、 姫乃が勝負をかけてきた。 姫乃:「ルダ、ギャラドスにメガトンキックよ。」 蓮華:「攻撃は最大の防御、コイッチ、10万ボルトよ!」 ゴルダックがジャンプしてからライダーキックのようにメガトンキックを放ってくる。 コイッチはそれに対して体から電気を発してゴルダックを攻撃したが、何とゴルダックは、メガトンキックの体制を維持したまま コイッチに突っ込んできていた。 姫乃:「ルダ!」 蓮華:「コイッチ!」 ゴルダックがコイッチに突っ込んだ直後、再び爆発が起きた。 そして煙が晴れた時、2体がその場に倒れていた。 審判:「ゴルダック、ギャラドス、共に戦闘不能!」 お互いの攻撃で対抗した結果、同士討ちをしたのだった。 体中を引っかかれたコイッチも頑張ったけど、電気を耐えて攻撃を続けたゴルダックもすごいと思う。 姫乃:「やるわね。久しぶりに熱くなってきたわ。」 蓮華:「姫乃こそ、すごく強いよ。負けちゃうかと思った。でも次は、簡単にはいかないからね。」 姫乃:「それは私が言いたいわ。ただ、あなたの攻撃をかわすには少々焦りそう。落ち着かないといけないわ。」 蓮華:「落ち着いてるうちに、あたしが攻撃しちゃうからね。それじゃ、パル、行ってみようか!」 あたしの2番手はサクラビスのパル。 昨日レイスのラブカスと戦った時は自由にやらせたけど、今回はそうはいかない。 あたしと一緒に頑張ってもらうからね。それに、パルは晴れ舞台に立ったのでかなりやる気モードだ。 姫乃:「元気そうなサクラビスね。だったら私は、ジラン、あなたにお願いするわ。」 姫乃の2番手はジーランスだった。岩タイプを兼ねているため、岩、地面タイプの攻撃が来るだろう。 でも、岩タイプを兼ねている事は欠点でもある。水タイプの攻撃を普通に受けてしまう事だ。 それをつけたらいいんだけどな。 審判:「それでは、試合再開!」 姫乃:「ジラン、岩石封じ、そして水の波動から原始の力よ。」 ジーランスの岩石封じがパルの周囲に立ち上り、パルの行く手をさえぎって、更に水の波動が岩石封じで出現した岩の柱を破壊し、 それらが原始の力で意思を持つように動き、パルに襲い掛かってきた。 蓮華:「パル、神秘の守りで防ぎ、サイコキネシスではねのけるのよ!」 あたしが指示すると、分かってるって言ってるかのように動き、まず岩石封じをするりと泳いでかわし、水の波動で降りかかってくる 岩の欠片を神秘の守りで防ぎ、さらにサイコキネシスが原始の力で襲ってくる岩を弾き返していた。 蓮華:「パル、そのままジーランスにメロメロを送って!」 パルは♀、あのジーランスは多分♂だろうから。 そう思うと、やはり当たりらしく、姫乃はジーランスをメロメロから避けさせていた。 蓮華:「やっぱり♂ね。だったらメロメロを当てて攻撃をしにくくさせればいいわね。」 姫乃:「それはできるのかしら?はっきり言っておくわ。ジラン、雨乞いよ。」 直感で察した。 どうやらあのジーランスも特性は「スイスイ」のようだ。 姫乃:「ジラン、サクラビスを追いかけて欠伸よ!」 蓮華:「パル、高速移動でジーランスを振り切ってメロメロよ!さらに影分身!」 雨乞いが始まってから、2体のポケモンの動きは観客席からは肉眼で捉えにくいほどの速さになっていた。 あたしや姫乃でも、追いかけるのがやっとの事だろう。 メロメロと欠伸が発動し、外れているのがよく分かるほど、執拗な追いかけっこが続いていた。 でも、それを優勢な状況にしていたのはパルで、ジーランスはパルの影分身に惑わされ、柱によくぶつかっていた。 姫乃:「それならジラン、泥遊びよ!」 ジーランスが泥をばら撒き始め、パルは優雅に水面を泳ぎ続けにくくなっていた。 泥がパルの動きを鈍らせたりもしているのだ。 姫乃:「ジラン、今よ、サクラビスに突進よ!」 蓮華:「パル、水の波動で押し返して!」 姫乃は泥で動きが鈍くなったパルに攻撃を仕掛けてきたが、パルは水の波動で押し返そうとする。 だけど、水の波動を突き破って、ジーランスはパルに突進攻撃で襲ってきた。 蓮華:「パル!」 姫乃:「ジラン、そのまま捨て身タックルよ!」 跳ね飛ばされたパルに、次は捨て身タックルで挑むジーランス。 蓮華:「パル、サイコキネシスよ!」 パルはサイコキネシスでジーランスを押し返すけど、攻撃を受けた直後のパルの攻撃は少し弱かった。 そのため、ジーランスがパルに突っ込んでいき、あたしの指示なしでパルは何かを放ったらしかった。 咄嗟の正当防衛に近いものだろう。 そして、パルとジーランスは浮かんできたんだけど、共にもう、戦えない状況だった。 審判:「サクラビス、ジーランス、共に戦闘不能!」 姫乃:「どうやらサクラビスは水の波動を至近距離で打ち出したようね。特殊防御力が低く、水タイプの攻撃が普通に効いてしまう ジランにはダメージが大きかったようね。でも、ジランもサクラビスを追いかけたことで柱に体をぶつけてダメージを受けたりしていた。 様々な大小さまざまなダメージが蓄積されたから、ジランも倒れちゃったのね。残念だわ。」 蓮華:「あたしも残念ね。パルなら結構圧倒できると思ってたのに。」 姫乃:「お互いにポケモン同士で圧倒されたようね。…残り1体で、すべてが決まるわよ。」 蓮華:「ええ。この1体が、優勝の鍵を握ってる事になるわね。」 姫乃:「そうよ。…あなたは強いわ。私が水を愛しているのと同じくらい、あなたはポケモンを愛しているわ。 私を焦らせ、そして楽しませてくれるくらい。でも、それでも私は、あなたに負けないわよ。」 蓮華:「あたしもよ。それじゃ、最後に一発頑張ってよね!ドン!」 あたしの最後のポケモンは、ナマズンのドン。 昨日のバトルでは負けちゃったけど、最後の最後、姫乃の持ってるポケモンに十分に対抗できる技を多く持ち合わせているのは彼しかいない。 姫乃:「ナマズンが相手…。でも、私のポケモンは十分に対抗できるわね。グド、あなたで決めるわよ。」 姫乃のポケモンは、キングドラだった。 昨日はモコナのパルシェンを圧倒していた。 龍の息吹や竜巻は厄介な攻撃だから、対抗策に気をつけなきゃいけないわね。 審判:「それでは、試合再開!」 姫乃:「グド、水中に潜って煙幕よ!そして龍の舞よ!」 蓮華:「ドン、砂嵐を起こして!そして未来予知よ!」 初めは互いに水中で、水上で目くらましに出ていた。 水中で煙幕を噴出し、攻撃力と素早さを上げるキングドラに対し、柱の上でどっしりかまえ、水上のフィールド一面を砂嵐で包み込むドン。 さらにドンは未来予知を行った。 姫乃:「どちらも見難い状況だけど、これで焦る事はないわ。グド、雨乞いで砂嵐をかき消すのよ!そしてナマズンに破壊光線!」 キングドラが水中から顔を出し、雨乞いを行った。 すると砂嵐が終わり、雨が降り出してきた。 さらに雨が降るよりも早く、キングドラの破壊光線がドンに向かってきた。 でも、 蓮華:「ドン、守る攻撃で防ぎ、水に潜るのよ!」 ドンの守る攻撃が破壊光線を防ぎ、ドンは水に潜った。 キングドラは破壊光線の反動で動けないから、攻撃のチャンスは今。 だけど、あたしは攻撃はしなかった。 蓮華:「ドン、くすぐる攻撃よ!」 ドンの2本のひげが伸びてキングドラを絡め、くすぐる事によって攻撃力と防御力を下げていた。 姫乃:「キングドラ、逃げるのよ!」 だが、くすぐる攻撃で巻きついたひげは意思を持っているナマズンの一部分に等しく、キングドラを簡単に放すわけがない。 蓮華:「そのままスパークよ!」 ナマズンの体から電気が放出し、ひげから伝わってキングドラを攻撃していた。 さらに、どこからか、光を帯びた球体が飛んできた、キングドラを攻撃していた。 その衝撃でドンはキングドラを手放してしまったけどね。 これが未来予知の攻撃だろう。 姫乃:「グド…、まだ戦えるわね。」 蓮華:「その強気はどこまで続くかな?ドン、もう一度スパ…」 姫乃:「続くわよ、金縛りよ!」 キングドラは卵技で金縛りを覚えるのだ。 そして今、ドンのスパークは金縛りで封じられてしまった。 ドラゴンタイプの攻撃技を持っていないドンが、確実にキングドラにダメージを与えられる方法だと思ってたのに。 姫乃:「今度は私から行くわよ。グド、竜巻を起こし、さらにバブル光線よ!」 キングドラの竜巻が出現し、さらにバブル光線が放たれる。 ドンは竜巻を避けようとしてバブル光線に当たってしまい、動きが更に鈍くなってしまった。 姫乃:「今よ、グド、龍の息吹よ!」 蓮華:「させないわよ、ドン、目覚めるパワーよ!」 龍の息吹と目覚めるパワーが両者から放たれた。 ただ、ドンの方が攻撃するのが遅かったために、龍の息吹と目覚めるパワーがぶつかったのは、ドンからあまり離れてない場所だった。 そのため、相殺したときの衝撃を、ドンはもろに受けてしまった。 姫乃:「素早さが遅くなると大変ね。」 蓮華:「バブル光線は、これを狙った攻撃だったのね!」 姫乃:「ええ。でも、そろそろラストにしようかな。グドが倒れる前に、ナマズンを倒してあげるわ。グド、破壊光線よ!」 キングドラは最後の猛攻として、破壊光線を放っていた。 守っていたら勝ち目はない。 あたしは攻撃を最大の防御しようと思い、今ドンが放てる攻撃で、威力が最大だと思えるものを指示した。 蓮華:「ドン、恩返しよ!」 ドンからオーラが立ち上り、光線のようなものが飛び出した。 そして、破壊光線と恩返しがぶつかりあい、押し押されあいを繰り返し…、大爆発が起きた。 フィールドは爆煙が包み、観客席からはあたしたちの姿は見えなくなっている。 それと同時に、あたしも姫乃も、互いの位置は分からなかった。 でも、まだ戦いは続いている。 ドンとキングドラがまだ倒れていないのが分かるから。 姫乃:「蓮華ちゃん、これが最後よ。」 蓮華:「ええ。」 姫乃:「グド、もう一度破壊光線よ!」 蓮華:「ドン、最大パワーで恩返しよ!」 二つの攻撃は再び放たれた。 そして…。 爆煙が消え、ナマズンとキングドラは、フィールド上で立ち尽くしていた。 蓮華:「ドン…」 姫乃:「グド…」 あたしたちが見つめる中、 最初に倒れたのは… あたしのドン、ナマズンだった。 審判:「ナマズン、戦闘不能!よって優勝者は姫乃選手!」 一斉に観客席からクラッカーが鳴らされ、姫乃コールと、あたしの蓮華コール、そして大歓声が観客席から聞こえてきた。 蓮華:「負けちゃった…。やっぱり、まだ育ててる最中のドンの恩返しは弱かったかも…」 姫乃:「そんなことないわ。私のグドは気合の鉢巻をつけて望んだけど、あなたのナマズンの攻撃を受けて、最初の恩返しの攻撃で 鉢巻が切られていたのよ。ポケモンの攻撃でこの鉢巻が切れることはなかなかない事よ。十分に強かったのがよく分かるわ。」 蓮華:「そんな…。…姫乃、優勝おめでとう。」 姫乃:「ありがとう。楽しかったわ。このバトルで、私も結構焦らされた。あなたはポケモンを十分に愛している事がよく分かったわ。 あたしにとって、最強のライバルよ。」 蓮華:「ライバルか。…そうかもね。」 あたしたちが互いにミロカロスに乗ってフィールドの真ん中に出て、握手をしたとき、あたしたちを称える観客たちの声は、 さらにヒートアップして、あたしたちを包んでいた。 アナウンス:「ただいまより、アクアカップ渦巻き大会、閉会式を開催します。」 バトルが終了し、夕日が海に沈もうとしている時、アクアカップの閉会式が行われた。 今までバトルをしてきた61人のトレーナーたちは再び、船に乗り、バトルフィールドの上に立っていた。 哲兄や、海ちゃんや、モコナやシルバー、涼治や志穂ちゃんの姿もある。 そしてあたしは、優勝台の2位の場所に立っていた。 横目で見ると、レイスが3位の位置に、そして1位の位置には月桂樹であしらった冠を頭に載せた姫乃がいる。 レイスはあたしと目が合い、笑っていた。試合では楽しく笑ってる表情を見せなかったけどね。 そして、あたしたちの前には神官のマヤさんがいる。 マヤさんの後ろには、神官と、神官の礼服を着たナナと律子の姿もあった。 アナウンサー:「6日間に渡って繰り広げられてきたアクアカップ渦巻き大会、その激しいバトルを制した大会優勝者、姫乃選手に、 マヤ様から今、優勝賞金の神秘の雫が、授与されました。新たな海の勇者の誕生です。」 姫乃は神秘のしずくを受け取り、空高く掲げた。 あたしたちはそれを拍手で称える。 姫乃親衛隊の声も聞こえる。 この人たちは相変わらずだったけど、この時のみ、姫乃は親衛隊に、笑って手を振っていた。 流石に親衛隊の人たちは驚いたのか、応援がぴたっと止まっていたけどね。 そして、マヤさんが海の魂を太陽に掲げた。 すると夕日の光を受けて、海の魂は、コロシアム会場中を、赤い神秘的な光で包み込んだ。 マヤ:「海よ、古に、海のポケモンたちと心通わせた勇者たちよ、どうぞ、ポケモンと人をこれからも見守り続けてください。」 光は、夕日が沈むまでの数時間、会場を照らしていた。 それは数分の事だけど、あたしたちは、それがとても長い時間のように感じられた。 そして、長かったアクアカップが、この日、6日間という短い間の祭典の幕を下ろした。 次の日。 ほとんどのトレーナーが帰ってしまった中、あたしと姫乃、シルバー、そしてモコナは、コロシアムが再び海に消えていくのを眺めていた。 蓮華:「終わったね。」 姫乃:「ええ。」 シルバー:「また3年後、その時は優勝を目指すわ。」 モコナ:「あたしも。」 蓮華:「あたしも。」 姫乃:「その時私は、アクアマスターの道を目指すために、あなたたちより先を進んでいるわ。でも、いつでもいいから私に勝負を挑んできなさい。 あなたたちなら、いきなりのバトルでも、お手合わせしてもいいわよ。」 モコナ:「了解、それじゃ、またいつか、会いましょうね。」 シルバー:「自分の腕を磨き上げてね。」 あたしたちは、再び会ってバトルをしようと約束し、その場を離れた。 P.S. ナナちゃんが姫乃、シルバー、モコナの3人に、水ポケモンの卵を上げたみたい。 何の卵かは知らないけど、ナナが言うには、強いトレーナーになってほしいからだってさ。 そんなわけで、あたしは、みんなが待ってるポケモンセンターに向かうのでした。