(注意) これは怪盗編と渦巻き編の間の出来事です 番外編  龍宮神社の夏祭り!恋に境界線はあらず 今年も始まった。 夏が来た時からこの日が来るのは待ち遠しい出来事だった。 あたしの神社は普段は静か。 何かの行事がない限り、ここに人が集まる事はない。 来る人と言っても、あたしの仲間でもある友達のみ。 でも、今日は違う。 今日と明日は、龍宮神社で夏祭りが行われる日。 神社の中が華やかになり、提灯や灯篭が灯り、屋台が並び、子供のにぎやかな声が聞こえ、 神社に祭られている龍たちがその賑やかさを楽しみ、今年の平和な空気を味わう。 そして同時に、豊作を願い、霊たちを鎮め、祀り、商業の安泰を祈る。 この街に住む、多くの人々が幸せでありますように、今年が終わるまで、平和でありますように、と。 そのためのお祭りが、行われる。 海:「志穂ちゃん、手伝いに来たわよ。」 志穂:「ありがとう、助かるわ。」 海:「いいのよ、あたしたちは同じ力を持つものだから。」 志穂:「そうね。」 神社の巫女であり、この神社の主であるあたしの右腕として、夏祭りや初詣の日に手伝ってくれるのが海ちゃん。 あたしと同じで、式神を操り、この神社で祀り崇めている龍たちを使役できる陰陽道の力を持った能力者。 このお祭りの中で、盆踊りや花火などを行う傍ら、あたしたちはこのお祭り内で怒る様々な出来事を見守り、 同時に龍たちを安らげる使命がある。 今年はどのような事が、起きるのかしら…? 蓮華:「どこにいったんだろう…、あたしの浴衣…」 今日の夏祭りに絶対着ていこうと決めていたのに、あたしの浴衣が、どこにも見当たらないのだ。 昨日の夕方、涼治から電話があって、 涼治:「明日の夏祭り、一緒に回らないか?」 と言われた。あたしは嬉しかったし、この日は哲兄も来美ちゃんも久美ちゃんもデートなので、あたしが哲兄に デートを断らせられることもないので、「OK」だと言った。 その時に、浴衣を着ていくって言ったのに、全然浴衣が見つからない。 あたしの部屋にはないのかな? ないと思うけど、哲兄や来美ちゃんの部屋も探してみようかな。 ミューズ:「夏祭りかぁ、行きたいなぁ…」 パル:「行きたいですわね、去年のポケモン世界でのお祭りは。とても楽しかったですわ。」 蓮華が浴衣を探している頃、あたしたちはボール越しで会話をしていた。 あたしたちは蓮華たちと再会するまで、ナナちゃんの家にいたんだけど、よくいろいろなイベントに参加していた。 その中に、夏祭りというイベントもあった。 サマヨールのよまやヘラクロスのヘラクロがポケモン用の甘酒で酔っ払ったり、ピクシーのぴぴや、あたしや、 カクレオンのぺろんがポケモン音頭を踊ったり、パールルだったパルや、ミロカロスのアクアが水鉄砲射撃をしたり、 トドクラーのたまちゃんや、ロコンのきっぴーがとうもろこしや綿菓子を食べたり…。 とってもとっても楽しかった。 でも、ソルルやたねねたちは、全然参加しなかったのよね。 クールな表情で留守番とか言って。 確か、たねねとなっぴの破局理由ってそれじゃなかった?ねえ、なっぴ? なっぴ:「それは出さないでよ…」 サゴッピ:「でも、やっぱり楽しかった事には変わりないんじゃない?お祭り、今年も行きたいよね〜?」 ゴン:「だけど…、俺やリュウは行けるか?」 リュウ:「行けないわよね…」 確かにゴンたちは大きいから無理かもね。 パル:「それ以前に、あたしたちが行くべきじゃないと思いますけど?違いませんか?」 あ…。 パルの一言で、あたしたちは無言になった。 行くべきじゃないのは当たり前だ。 蓮華と涼治君のデートにあたしたちがついていったら、邪魔になることはなくても、デートにはならないと思う。 そんなわけで、あたしたちはこっちでの夏祭りは行かない事に決めた。 そんな中、ここに一人だけいないポケモンがいた。 それは、アブソルのソルル。 今彼は、庭で日光浴の真っ最中である。 日光浴はソルルの日課。この時に邪魔したら、たとえあたしであろうとも、カマイタチ攻撃を食らう羽目になる。 すでにダネッチとパルが受けてるから。 夏祭り、か…。 俺はソルル。 今は日課の日光浴の最中だ。この時ほど気持ちがいいことはない。 体全体が日差しを浴びて心地よい気分となる。 この世界は平和だから、災害を予知する事もなく、周囲に敵意を向けることもない。 そのおかげで、俺は日光浴を満喫していた。 ただ一つ、その平和な気分を邪魔しているが、怒るに怒れないものが一つあった。 俺の主人の蓮華だ。 先ほどから何かを探しているようだが、少々声のボリュームを落としてほしいものだな。 それにしても、夏祭りか。 あれ以来、全く行かなくなったな。 俺が蓮華に心を開く前に開いた人間の元で過ごしていたとき、俺は夏祭りというものを味わった。 一人はカゲツとかいうおっさんの元で、もう一人はナギとかいう女の元で。 そして、2度告白を受けた。 カゲツのおっさんのアブソルのソリューと、ナギのアメモースに。 しかし、俺がカゲツの元に残った時、ソリューの居場所が消える。 居場所の大切さをよく知っている俺にとって、ソリューの居場所が消える事は何としても避けたかった。 そのため、ソリューの言葉を断り、数日後、カゲツのおっさんのところから去った。 ナギのアメモースの告白は、周囲の状況を知っていたから断ったまでだ。 アメモースはアゲハント♂に好意を持たれ、多少いい雰囲気だったのを知っている。 俺が現れ、心が揺らいでいる事も、色違いのオオスバメとチルタリスから知らされていた。 それに、俺は一つの場所にとどまる気は全くなかった。 だから、アゲハントのために、アメモースの言葉を断った。 夏祭りというものは、恋というものを生み出す。 俺には縁があったが、自分で突っぱねてきた。 これからも夏祭りに行けば、俺に恋が生まれるのではないか。 そう思うと、2度告白を断っている以上、俺は恋をしてはいけないと思う。 だから、あれ以来、夏祭りには参加しなくなった。 だが…、今回の祭りは参加してみようか、と。 俺はそんな事を思い始めていた。 ただ、この姿で行ったとしても、この世界では楽しめないだろうから、無理だろうな。 蓮華:「あ、…あった。」 浴衣がようやく見つかった。 探し始めて一時間。 約束の時間まで、まだまだ時間はあるとしても、準備の時間に十分だとしても、あたしはこの時、時間の事は 全く考えてなかった。 探し出せた場所が場所で、あたしはある意味唖然としてしまっていたのだ。 そこは、哲兄の部屋だった。 哲兄の小さくなった甚平と一緒に入っていたのだ。 蓮華:「どうしてこんなところに…?」 そう思うあたしの脳裏を何かがよぎった。 そして思い出した。 それは去年の事…。 美香やなずなと一緒に行った夏祭りで、あたしは甘酒とチューハイを間違えて飲んでしまい、ベロンベロンに酔っ払って しまい、居合わせた哲兄に背負われて帰ったのだ。 本来なら涼治たちもいたんだけど、あたしが酔った挙句にソーラー弾を涼治に直撃させて倒してしまい、涼治は涼治で 運ばれたのだから。 だから、あたしを背負っていくのは、哲兄になった。 そして、あたしは家で哲兄に絡み…、あっ…。 蓮華:「あたし…、思い出しちゃった…。」 記憶に残っていなかったのは、酔いが最高潮だったからだと思う。 でも、思い出すべきじゃなかった。 あたし、哲兄にキスしちゃったんだ…。 思い出すと、哲兄はあたしのお兄ちゃんなのに、何だか一人の男性にも思えてくる。 あたしは恥ずかしくて、浴衣を持ったまま、哲兄の部屋を飛び出した。 この時、もうちょっとしっかりしていればよかったんだって、後々になってすごく後悔する事になるんだけど…。 哲也:「ただいま!」 部活が早く終わり、早々と帰宅したわけだけど、舞さんが仕事で出張中のこの家から、「おかえり」の声が聞こえる事は なかった。まぁ、いつものことだからな。 来美姉や久美は多分、とっくの昔に出かけている事だし、蓮華の声が聞こえねえってことは家にいないか、あるいは…。 多分、「あるいは」の方だろうな。 ここは、出会う前に部屋に行くかな。 あいつを女と見ないためにも。 今日、翼や一志に聞かれたのだ。 一応この家は俺の家でもあり、実家であるが、ここは孤児のための施設でもある。 そして蓮華、久美という妹が、来美という姉がいるが、3人とも、俺とは血がつながっているわけではない。 他人だと言われれば他人であるが、そう考えた事はない。 あいつらは俺の大事な妹たちであり、尊敬すべき姉である。 そう答えたものの、風呂上りの3人の誰かに出くわした時は、女性の色気を感じた時は、3人を一人の女として感じてしまう。 そして運が悪い事に、俺の部屋に続く廊下を通る直前、風呂のドアが開き、蓮華が出てきた。 蓮華:「あっ、哲兄…、おかえり…」 哲也:「あ、ああ、ただいま…」 蓮華は何故か、俺の顔を見たとたん、赤面していた。 そして、俺を避けるように部屋に行ってしまった。 どうしたんだ?あいつ…。 何か、俺に隠してる事でもあったのか…? 俺は、蓮華にドキッとしかけたが、蓮華の慌てぶりを見ていると、逆に冷静になっていた。 やっぱりあいつは妹にしか見えないな。 女としては、まだまだ…かもな。 そんな事を考えながら部屋に入り…、 哲也:「…」 俺は言葉を失った。 部屋が散らかっていたのだ。 いや、散らかっていたのは一部だったけど、俺の机に山積みになっていた本が崩れ、さらに俺の服が辺りに散らばっていた。 甚平が落ちてたから、多分蓮華だろうな。 あいつの浴衣、舞さんが俺の甚平と一緒に入れたって言ってたから、蓮華が探しに来たんだろう。 さてと、落ちた本の山を片付けないといけないな。 一冊一冊、いつか倒れるだろうなって、片付けねえとって思ってた。 でも、片付けながら、その本を取り除いた時、本当の意味で、俺は言葉を失った。 本の下で、小さな小瓶が割れていた。 中に入っていた砂は散らばり、床の隙間に入り込み、貝は割れ、液体は床にしみこみ、小さな小瓶は跡形もない状態になっていた。 そして、小瓶と一緒に、写真たても落ちていた。 紙でできた写真たては、本の重みで簡単に壊れたらしく、写真ともども、くしゃくしゃになっていた。 紙でできた写真たては、俺が子供の頃に両親にあげたもの、写真は、俺と両親を写した唯一の写真。 小さな小瓶は、俺と両親が一度だけ旅行した海岸で拾った砂を、海水を入れたものだった。 大切なものは、本の山が崩れた事で、すべてを破壊していた。 これは、自分が本を山積みにしていたのが悪いからかもしれない。 でも、怒りを誰かにぶつけない時がすまなかった。 そして、俺は部屋を出た。 部屋を強く、乱暴にノックする音が聞こえた。 今家にはあたしと哲兄しかいないから、間違いなく哲兄だろうけど、どうしたのかな? 蓮華:「開いてるよ!」 あたしが言うと、哲兄が部屋に入ってきた。 ただ、ものすごく怒ってた。 蓮華:「どうかしたの?」 軽い気持ちで聞いたあたしは、哲兄の簡単な説明で事態を知った。 そして、思い至った。 部屋を出る直前、あたしは、哲兄の部屋の何かとぶつかった気がする。 それに、探していて、哲兄の机とかも探して、本棚とか、いろいろ揺らしたかもしれない。 蓮華:「ごめん、…多分それ…、あたしのせいかも…」 哲也:「んあ?」 蓮華:「本当にごめん!分かってるよ、アレが哲兄にとって大切なものだってことくらい。あたしの不注意のせいで 思い出を壊しちゃったのは謝るよ。」 でも、哲兄は許してくれなかった。 あたしに近づき、あたしの頬をひっぱたいていた。 哲也:「言葉ですむんだったらここには来ない。最低だな、涼治との約束の事が頭にいっぱいで、俺の大切なものを 壊して、謝ればすむとでも思ったのか?」 蓮華:「でも、あたしは…」 哲也:「他人だもんな、俺たち。血がつながってないから、大切なものだって違うし、お前が分かるわけないな。」 ちょっとカチンときた。 蓮華:「ひどい!あたしは哲兄の妹だよ!血がつながってなくても、あたしは哲兄の妹だもん!他人じゃないもん! 悪かったって、すごく思ってるよ。だから…」 哲也:「うるせえ!何を言っても思い出を元に戻すのは無理なんだ!お前に俺の気持ちが分かるかよ!」 ムカッとした。 哲兄がその気持ちなら、あたしだって言ってやる! そして見事に同時に言う事になるんだけど…。 哲也:「お前は他人に過ぎないんだ!俺の心に土足で入ってくるな!お前はもう妹なんかじゃねえ!」 蓮華:「あたしの心からの謝罪を受け取れないなんて最低!せっかく謝ってるのに、哲兄なんか大嫌い!もう他人でいいよ!」 と言ってしまい、哲兄は部屋を出て行った。 蓮華:「…」 …言っちゃった。 哲兄が出て行ったとき、哲兄は、怒ってなかった。 逆に、足取りが重く、静かだった。 何で、あんな事を言っちゃったのかな? あたしは髪を結って、浴衣を着て、多少のお化粧もして、巾着を持って…。 準備をし続けてたんだけど、何か、綺麗に着れてるのに、心はここに非ずって言う感じだった。 そして、ドアが閉まる音が聞こえ、哲兄が出かけたのが聞こえた。 蓮華:「謝れなかった…」 涼治:「蓮華、遅くなってゴメンな。浴衣、よく似合ってるぞ。」 待ち合わせの場所で5分待ってると、涼治が来た。 あたしは、まだ哲兄に謝れなかった事を引きずってたけど、涼治の前ではそれに気づかれないように、明るく笑ってた。 蓮華:「ありがとう。涼治、楽しもうね、今日は。」 涼治:「ああ。」 でも、それは1時間もするうちに、駄目だった。 あたしが元気じゃなくて、無理して笑ってる事に、涼治が気づいたのだ。 直後、あたしの草履の鼻緒が切れ、同時に人ごみで、あたしは涼治とはぐれてしまっていた。 そして、それはもう一つのカップルでも起きていた。 玲奈:「哲也、あたしのこと、好きじゃないの?」 哲也:「いや、そんなことはないよ。」 玲奈:「じゃあ何?さっきから女の人が金魚すくいしてるところばっかり見てたじゃない。あたしが何言っても上の空だし。 今日ここに来たのは、別れを言うためなの?」 それは違う。 玲奈は勘違いをしているだけだった。 蓮華に言い放った後、言った事を後悔していた。 でも、それを謝ろうとは思えず、言った事を言い換えようとは思えず、結局それを後悔したまま、玲奈とデートをしていた。 最初から玲奈には気づかれないつもりだったが、女の勘は恐るべきもので、俺の心がここに非ずなことをしっかりと気づいていた。 そして俺は、仲むつまじい兄妹の様子を眺めていたのだが、玲奈は、俺がその兄妹の横にいる、胸のでかい女性を見ていたと 思い込んだらしい。 そして今に至った。 だが、そんな空気は、突然人ごみから出てきた奴によって変わった。 涼治:「哲也先輩に玲奈先輩!蓮華を見ませんでしたか?」 玲奈:「えっ?蓮華ちゃんが、どうかしたの?」 涼治:「すいません、はぐれました。」 俺はこの時、頭よりも体が先に動いていた。 俺は涼治をぶん殴った後、蓮華を探しに走り出していた。 涼治:「痛って〜…」 玲奈:「哲也…、全く、妹思いなんだから…。涼治君、大丈夫?」 涼治:「あ、はい、一応…」 玲奈:「しょうがないから、二人で回らない?この後、健人たちとも合流するのよ。」 涼治:「あ、俺もそうですよ。」 玲奈:「そうなの?それじゃ、一緒にいれば哲也たちとも再会できるかもしれないわね。」 そんな哲也と蓮華の様子を見ていたものがいた。 海:「お祭りの日は何かが起きると思ってたけど…」 志穂:「まさかこんな事が起きるとはね…」 二人は偵察用の式神で、哲也と蓮華、それぞれの場所を知っていた。 海:「ここは、哲也先輩を蓮華の場所に導きませんか?」 志穂:「そうね。」 その後、哲也の前に鬼火が現れ、蓮華を導くのだった。 哲也:「この式神は・・・志穂だな。それにしても蓮華の奴…どうして山道に入ったんだ?」 龍宮神社は30段の階段を登ったところにあるのだが、小高い山の中にあるようなもので、境内や林の中の屋台の道を 外れれば、普通に山道と同じようになってしまう。それは、自然を残すためといって、志穂が道を舗装していないからだった。 そして、蓮華は5メートルほどの崖の下にいた。 草履の鼻緒が切れ、足をくじいたらしい。 それを無理して動き、落下したようだ。 哲也:「蓮華、大丈夫か?」 俺が蓮華の前に行くと、蓮華は泣いていて、俺の姿を見ると抱きついてきた。 浴衣は土で汚れ、結った髪もほどけていた。 蓮華:「哲兄、怖かったよ。来てくれてありがとう。」 蓮華は泣いていたが、俺の姿を見てホッとしたらしく、嬉しそうでもあり、そしてすごく泣いていた。 でも、ここにい続けるわけにも行かず、俺は明るくて、見晴らしのいい場所に蓮華を抱きかかえて連れて行った。 お姫様抱っこだったので、蓮華は赤面していたが。 そこは見晴らしがよく、風が気持ちよく吹きぬける場所だった。 蓮華:「哲兄、…ゴメンね。」 哲也:「蓮華?」 蓮華:「あたし、哲兄が来てくれて、すごくホッとしたもん。哲兄がいたから、あたし、怖くなくなった。 ずっと、あそこで動けないままになっちゃうかと思ってた。すごく、すごく怖かったけど、哲兄が来てくれて、 本当に嬉しかった。ありがとう。」 哲也:「蓮華、もういいよ。俺も、大人気なかった。お前は大切な妹だ。血がつながってなくてもな。俺の妹として、いていいからな。」 蓮華:「哲兄…、うん、あたしも、ずっと哲兄の妹でいたい。…でも、今は、こうしていさせて。」 蓮華は俺の肩に顔を添えて、抱きついていた。 俺には突然の事で、逆に蓮華を抱いたまま、押し倒される形になっていたが。 哲也:「れ、蓮華…?」 蓮華:「哲兄、あたし、哲兄の事が…」 パキッ! ガバッ!とあたしと哲兄は起き上がった。 そこには、涼治や玲奈先輩たち、美香や翼先輩や、菜々美ちゃんや健人先輩たちもいた。 美香:「あっ、蓮華たち、ここにいたんだ!」 涼治:「花火が見える場所に行く話だっただろ?ここに行くって決まってたんだ。哲也先輩も蓮華も無事でよかったよ。」 玲奈:「でも、まさかここにいたとはね。…あらっ?蓮華ちゃん、怪我してるじゃない!」 綾香:「蓮華、大丈夫?」 蓮華:「う、うん…」 翼:「それにしても、二人で何やってたんだ?」 健人:「雰囲気的には恋人って感じだったな。」 哲也:「そ、そんなわけないだろっ!」 綾香:「どうでしょうかねぇ〜、志穂ちゃん曰く、ここで告白すると、それが叶うんですよ。あたしとヤツデが結ばれたのも、 ここであたしとヤツデが互いに告白したからなんですよ。」 ヤツデ:「先輩たちは、何か告白してませんか?意外と叶っちゃうかもしれませんよ。」 そんな時、花火が上がり始めていた。 助かったって思いながら、あたしと哲兄は、仲直りしたので、ようやく本当のデートを楽しみ始めてました。 でも、あたしはこの時、ちょっと残念だったって思いました。 哲兄を、一人の男として好きだって言いかけてたんだけど、それができなかったから。 でも、それを告白する前に、別のことを告白してたんです。 あたしと哲兄は、互いに兄妹でいよう、と。 美香:「そういえば、さっき律子を見かけたよ。」 菜々美:「そうね、何か、すごくかっこいい人と一緒だったよ。あれが律子の彼氏なんじゃないかな?」 蓮華:「へぇ〜、律子、彼氏ができたんだね。お兄さんじゃなくて。」 その名前を挙げられていた律子は、確かに男性と一緒だった。 彼女よりも、2,3歳くらい年が上の青年と。 だが、青年の影はたまに、人間ではない姿に変わっていた。 妖怪かと思うだろうが違う。 彼はポケモンだった。 ただその前に、 律子:「今日はありがとうございます、あたしなんかと一緒にいてくれて…」 律子の方から、さかのぼるとしよう。 あたしは毎年、夏祭りは兄貴、いえ、お兄ちゃんと一緒に行っていた。 お兄ちゃんは、年も4つ離れてるんだけど、実際には6つ離れちゃってる。 …ポケモン世界に行ってたから。 でも、年が離れてても妹思いでとってもやさしい、いいお兄ちゃんなの。 そんなお兄ちゃんも今は大学に通ってて、彼女もできて、もう、あたしとは夏祭りは一緒に行かない。 もう、甘えたり、ねだったりとかなんて、できなくなっちゃった。 だから、夏祭り、どうしようかなって思ってた。 でも、行こうかなって思って、新しい、黄色い浴衣を買った。 髪も結い上げて、かわいい髪留めをつけて…。 だけど、やっぱり一人で行くのは淋しくて、周囲はカップルばかり。 美香たちの姿を見かけては、隠れてばかりだった。 自分に自信がないわけじゃなくて、うらやましくて、一人なのが何か、ちょっと…。 だから帰ろうと思って振り返った時、あたしは誰かにぶつかった。 それが、今一緒にいる男の人。 ちょっとお兄ちゃんに似ていて、つい、 律子:「お兄ちゃん!」 って言っちゃった。でも、違った。 謝って、通り過ぎようとしたんだけど、その人は、流宇斗さんは、あたしが淋しそうにしているのを見て、 大丈夫かって聞いてくれた。 だから訳を話したんだけど、そうしたら、一緒に夏祭りを過ごしてくれるって言ってくれたの。 流宇斗さんは、夏祭りに来たものの、一緒に行く相手がいなかったんだって。 だから一緒にいるの。 だが、その相手、律子は正体を知らないのだが…。 ソルルだった。 いきなりのことだった。 夏祭りに行きたい、と、ふと思ったとき、突然光に包まれ、驚くミューズたちに見守れていた俺は、 ミューズ:「嘘…」 パル:「あらら…」 ソルル:「何が起きたんだ?これは…」 人間の姿になっていた。 ミューズたちと話した結果、多分、俺の血縁一族の中に、現実世界の実験で生まれたものがいたんだろうっていうことに 結論づいた。 そして、 ミューズ:「せっかくだから、夏祭り行ってきたら?」 パル:「そうね、あたしたちの分まで楽しんできたらいかがですの?」 リュウ:「ついでに蓮華と哲也さんが仲直りしたのかも見てきていただきたいですわ。」 と言われ、 ピジョット:「主のものをつけていけばいいだろう。」 ということを言いやがったために、それは決行された。 ミューズ:「ねえ、哲也さんの服いろいろあるし、これとこれなんかどう?」 パル:「ソルル、人間の姿は彫が深いし、クールだから、黒とかそういうのも似合うと思わない?」 リュウ:「いいんじゃないの?それ。」 ピジョット:「それをつけるのはいいだろうな。」 てなわけで、俺は夏祭りに出かけた。 服も靴も、アクセも、男の化粧品も、整髪料も、哲也さんの物を全部使って。 だけどな…、 フィル:「この際だから、お金も借りたら?」 チリリ:「使っちゃえ、使っちゃえ!」 ピジョット:「どうせばれないだろうから使ってもいいだろう。」 俺に哲也さんの財布から抜いた金を渡すな! そして、偶然見つけたセレビィの主と共に、俺は夏祭りを過ごしていた。 射撃や金魚すくいで律子に金魚やぬいぐるみを送り、二人で焼きそばやたこ焼きを食べる。 カキ氷とかは冷たかったな。 そして花火も見た。 途中、主たちが楽しむ姿を見かけたが、律子は行きたくないと言っていた。 流宇斗:「知り合いではないのか?」 律子:「知り合いだけど…今日はいいの。あたしの彼氏だって、流宇斗さんが思い込まれちゃうといけないし、 彼氏がいないあたしには、羨ましくなっちゃうもん。」 流宇斗:「そうか。」 そんな中、花火が終わる直前、俺は律子に連れられて、深い森を抜け、誰もいない丘にやってきた。 花火がとてもよく見えた。 律子:「ゴメンね、ここまで連れてきて。今日はありがとう。あたしを励ましてくれて、一緒にいてくれて。」 突然口調が変わる律子。 不思議そうに俺が見つめていると、 律子:「正体、さっき気づいちゃったの。ソルル、でしょ?」 正体がばれていた事が発覚した。 律子:「こんなかっこよくて、お兄ちゃんみたいな人、他にいないから残念だよ。でもね、あたし、すごく嬉しかったよ。 流宇斗と一緒に夏祭りを回れて。 さっき影がアブソルの形に戻ってたから分かったの。でもね、はっきり聞いてね。」 彼女の目は真剣だった。 あのような真剣な目を見るのは3回目だったから、すぐに分かった。 流宇斗:「俺に、恋をしたのか?」 律子:「…言わないでよ。そうだよ。あたし、流宇斗のことが好き。ポケモンでもいい。恋には境界線はないから。 あたしは相手が妖怪でも、ポケモンでもかまわないもん。好きって気持ちは変わらないから。」 流宇斗:「律子…俺はお前を騙していたのにか?」 律子:「誘ったのはあたしだもん。それに、言ったでしょ、あたしが好きな人はポケモンでもいいの。付き合うのは無理だって 分かるけど、あたしは、あなたの事が好きです。」 律子は俺をまっすぐ見ていた。 でも…。 流宇斗:「ゴメン…俺、まだ、お前をそういう風には見れない。」 その時、足が元の足に変わり始めていた。 俺の時間が再び動き始めたのか、魔法がとけだしたようだ。 律子:「…いいです。でも、次に人間の姿になったら、その時は、もう一度聞いてもいいですか?」 流宇斗:「…その時、また断るかもしれないぞ。」 律子:「あたしは、ずっと待ってます。いつか、ポケモンと人間でも結ばれられる日が来るって信じてるから。」 律子はそう言いきり、背伸びをして、目を瞑った。 流宇斗:「ありがとう、律子。」 俺は律子に顔を近づけ…。 数分後、丘の上には、律子とアブソルの姿があった。 次の日。 志穂:「これ、あたしの神社の近くに落ちてたの。哲也のでしょ?」 志穂が哲也に届けてきたのは、破れたり汚れたりして布とかした哲也の服や、壊れたアクセ、破れた靴や、 使われた形跡のある財布だった。 哲也:「…」 それを呆然とする哲也が、何が起きたのかを知っているものの言わない志穂が、そして、何も言えないポケモンたちがいた。 その頃、ソルルは一人、いつものように日向ぼっこをしているのだった。 彼の首には、いつの間にか、ロケットがかかっている。 その中身を見たものはいないが、蓮華にさえ見せていないが、そこには、二人のツーショット写真が入っていた。 ソルル:「律子…いつか、お前の気持ち、受け止めてやるよ。」