番外編 肝試し アクアカップも終わり、明後日からは2学期が始まる。 そんな日の深夜、中学校の中をうろつく集団がいた。 綾香:「う〜ん、確かこのくらいの時間に起きるらしいのに…」 美香:「何にも起きないわよね。」 蓮華たちだった。 香玖夜:「綾香のことだから、またデマを教えられたんじゃない?」 律子:「でも、深夜2時って丑三つ時よ。お化けが活性化してもおかしくない時なのに、何も起きないのかしら?」 蓮華:「何かつまらないね、帰らない?」 なずな:「そうだね、帰ろ!」 何故彼女たちがこんなところにいるかと言えば、ことの起こりは綾香が発端だった。 アクアカップが終わったすぐ次の日のこと、綾香はクラスメイトから、自分の学校で最近、何かが起きていると教えられたのだ。 蓮華:「それでうちに来たの?」 あたしが事情を話すと、蓮華はあきれた顔をしていた。 綾香:「そうよ、蓮華のとこに来れば、誰かいると思ったの。ちょうど律子もいたし。」 律子:「それで、何の用なの?」 律子もまたあきれた顔をしている。そろそろ話したほうがいいわね。 綾香:「実はね、あたしたちが夏休みで学校通わなくなったうちに、学校のお化けが動き出したらしいのよ。」 律子:「お化け?」 蓮華:「あぁ、昔は結構いたらしいのよね?」 実はいたらしい。 でも、来美先輩が入学したときくらいから姿を隠し始めたという。 理由は、あたしたちの能力が無意識に放出し、お化けが居にくい環境を作ったという。 そして今、学校には蓮華や律子を含め、能力者が多数いる状況。放出される能力の量は半端じゃないだろう。 そういう状況が夏休みという時期と重なり、しかも今年はあたしたちがポケモン世界に行くことも多かったために、 居にくい環境の空間が少しずつ元に戻っていたらしい。 綾香:「それで、七不思議って言うのが最近噂になってるらしいの。確かめに行ってみない?」 というわけで、あたしは蓮華、律子、なずな、香玖夜、美香を誘って学校に忍び込んだのだが、潜在的能力者の蓮華と律子を 連れて来たためなのか、全く何も起こらなかったのです。 そして次の日。 蓮華:「結局何も起きなかったわけだけど、綾香、うちの学校の7不思議って、どういうものなの?」 浅香:「あたしも教えてほしいです。」 昨日結局何も起きず、帰ったあたしを迎えたのは、出張から早く帰った舞さんで、夜更かしをしたあたしはものすごく怒られたのだけど。 実は、7不思議のすべてを知らずに学校に忍び込んでいたのだ。 だって、綾香が「何か起きてからのほうがリアルで面白いでしょ?」と言ったから。 でも、何も起きなかったために、何も知らずに終わったのだ。 だから聞いたんだけど…。 綾香:「でも、あたしは志穂ちゃんから厄除けのお守りをもらったから、7不思議全部話しても災いはかぶらないけど、 蓮華たちはかぶっちゃうよ。」 綾香はのほほんと語り、あたしたちは逆にあきれた。 綾香らしいといえば、綾香らしいわね。 綾香:「まぁ、いいよ。6つまで話すわね。」 そんな時だった。 涼治:「何話してんだ?」 ヤツデ:「綾香、俺にも教えてくれよ。」 涼治とヤツデ君、そして晃正君もいた。いつから話を聞いてたんだか…。 蓮華:「でも何で?」 涼治:「ちょっとな、今日の夜、バスケ部恒例の肝試し大会があるんだ。」 晃正:「それで怖い話を探してたんです。そしたらちょうど哲也先輩が来て、蓮華先輩が怖い話を知ってると聞いたので…」 ヤツデ:「俺は綾香が面白い話を知ってるって聞いたから…。」 そんなわけで、綾香が話し始めた。 綾香:「1つ目は涼治君がいるクラスに伝わるものなの。」 涼治:「えっ、俺のクラスに?」 綾香:「そうよ、風竜中学7不思議の一つ目は『冷たい椅子』、涼治君の教室ではランダムにどこかの席が幽霊の席になって、 座った人を病気がちにさせ、死に追い込むと言われてるの。昔何人もの健康な生徒が偶然自分の席で幽霊と同席して、 重病になったと言うわ。」 涼治:「マジかよ…」 綾香:「2つ目は、ここ。」 蓮華:「へ?」 浅香:「ここって…体操部の部室ですか?」 綾香:「ええ、『舞い上がるリボン』よ。誰もいないのに、競技用のリボンが宙を舞い、部室内を飛び回るの。 それを目撃した相手はリボンによって首を絞められるんだけど、明かりがつくと、リボンは自分の手にあり、自分が自分の首を 絞めようとしたことになるわ。」 蓮華:「うわぁ…」 浅香:「悪どいですね…」 綾香:「3つ目、4つ目は王道よ。『音楽室の鳴り響くピアノ』と『理科室でダンスする骸骨と人体模型』。」 浅香:「あったんですね、やっぱりそういうの。」 綾香:「ええ、でも…、人体模型は数年前に心臓がなくなったでしょ?ピアノも今修理中だし。だから、この話が どこで聞くような話だとしても、学校でささやかれなくなった訳よ。」 綾香:「5つ目はトイレ。でも、ここは中学だから花子さんじゃないよ。花子さんは小学校の怪談なんだから。 トイレの怪談は『逆流する水』。トイレの便器や水道の排水溝から水が逆流してくるんだって。」 ヤツデ:「なぁ、綾香。お前、一応女だろ?便器とかは控えろよ。」 綾香:「それじゃ、ヤツデは何て言ってほしいの?」 ヤツデ:「えっ、それは…」 数分後。 浅香:「ヤツデ君、帰っちゃったね…」 綾香:「全く、ちょっとしたジョークだったのに…。あっ、トイレって言うのは、美術室の前にあるトイレよ。 あそこ、一日中日が当たらないでしょ?だから昼間でも電気点けないと不気味じゃない。 そういう場所だから、こういう怪談ができたんじゃないかな。」 蓮華:「ふぅ〜ん、…次、行かない?」 綾香:「そだね、それじゃ、最後の6つ目。『深夜だけ成長する木』。ほらっ、中庭のビニールハウスにさ、枯れてるのに ずっと花壇に植えられてる木があるでしょ?ぜんぜん育ってない、枝が刺さってるだけで何もない花壇。 あれがね、深夜にだけ花を咲かせるんだって。でも、朝になって見に行くと、深夜には見えたはずの花がなくなってるの。 これで全部よ。7つ目は、知ってるけど言わないからね。」 蓮華:「結構あるものなのね。」 涼治:「ああ、ただ、バスケ部恒例の肝試しコースにある場所ばかりだった。どうやら、肝試しコースがその7不思議にちなんで 作られていたようだな。」 浅香:「そして、7不思議が噂されなくなってからもそのコースは伝統として続いてたってわけね。」 晃正:「そうみたいだな。」 知らないところで意外と伝統の話は続くようだ。 綾香:「この際だ、あたしたちも肝試しに参加していい?」 と、昨日の反省を生かしたのか、綾香が主張した。 蓮華:「あ、あたしも!」 浅香:「あたしも参加します。いいですか?」 涼治:「う〜ん…、学校には男子部員の参加しか認められてないしなぁ…」 涼治がうなってるときだった。 律子:「大丈夫よ、アーチェリー部が同じ日に肝試しの企画して、学校の許可してるから。」 美香:「でも、許可だけもらったのに、結局参加人数が少ないの。蓮華たちも幽霊部員として参加してね。」 いつからいたのか、いつの間にか背後には律子と美香の姿があった。 そんなわけで、あたしたちはバスケ部との合同肝試し大会を始めることを決めたのです。 ただし、時間は深夜ではなく、夜の10〜12時までと決まっていた。 このとき、あたしたちは、この肝試しがこの夏最後の強烈な思い出になるとは思ってもみなかった。 そして、あたしが一人の親友を教室に置き忘れたままにしていることも、あたしは全く気づいていなかった。 夜9時。 蓮華の教室で、誰もいないはずなのに、一人の大欠伸が響き渡った。 正確には一匹の、だが。 ミューズ:「ウワァ〜〜〜〜ア〜〜〜…よく寝た〜」 蓮華の親友であり、蓮華のポケモンであるキレイハナのミューズだった。 今蓮華のポケモンたちは、ナナの家で日ごろの疲れを取っているのだが、ミューズだけは一緒に現実世界に戻っていた。 そして昨日も、蓮華たちと肝試しに来たのだが、途中で眠くなったためにボールの中に入り、そのまま蓮華たちも忘れて 帰ってしまっていたのだ。 ミューズは蓮華よりもしっかりしているので、起きて周囲を見回し、教室のテレビをつけたことで事態を察していた。 ミューズ:「全く、人を置き去りにするなんて…」 それにしても、夜の学校って結構不気味だなぁ…。 あたし、あんまり怖い話とか、お化けって好きじゃないんだよね。 昨日のは、半分騙されて連れ出されたようなもんだし。 あ〜あ、さっさと帰ろうかな。 あたしが教室を出た直後だった。 隣の教室のドアが開いて、女の子があたしの前に姿を現したのだ。 髪が肩下まであるくらい長くて、学校の制服を着ていた。 でも、他の学校の制服(夏服のセーラー服、灰色にピンクのスカーフ)だった。 ミューズ:「誰?」 彼女は、あたしを見てきょとんとしていた。 ??:「…あなたこそ、どうしてここに?」 あたしを見て驚かないところを見ると、どうやらあたしのことは知ってるらしい。 ということは、涼治君のクラスメイトかな。 ミューズ:「あたし、ずっと寝てて、今起きたから、帰ろうかなって思ったところなの。あなたは?」 すると、彼女は答えた。 ??:「あたしは…クラスでずっと一人だったの。さびしくて、友達もいなくて、でも、明日から遠くに行くことになったの。 だから、この教室にお別れに来たの。」 ミューズ:「そうなの…」 他の学校の制服を着ていたのは、転校する為のようだ。 はやくから制服に慣れてたほうがいいもんね。 でも、ひどいなぁ、こんな可愛い子を誰も無視してるなんて。 友達になってあげればいいのに。 ミューズ:「涼治君とか、やさしい子がいっぱいいるよ。話しかければよかったじゃない。」 ??:「でも、あたし、しゃべりかけても誰にも気づいてもらえなくて…」 ははぁ〜、多分クラス内いじめだわ。 この子をみんなで無視…ってことは、涼治君もね。 ひどいなぁ。 ミューズ:「ねえ、あたし、こんなんだけど、友達になろうよ。」 ??:「えっ?いいの?」 ミューズ:「いいよ。あたしでよければ友達になってもいい!」 ??:「本当?…ありがとう。あたしは川平瑞希。よろしくね。」 ミューズ:「こちらこそ。」 そんな時、外のほうが騒がしくなった。 ミューズ:「何かにぎやかだね。何か始まるのかな?」 瑞希:「あのね、今日、合同肝試し大会があるんだって。だからじゃないかな?」 ミューズ:「肝試し大会かぁ…あれっ?」 あたしはその集団がバスケ部の集団であることと、蓮華たちがいることに気づいた。 ちょうど涼治君や、隣のクラスで見かけた男子の姿も数人いる。 だからあたしは決めた。 ミューズ:「ねえ、ちょっと脅かしてあげようよ。」 瑞希:「えっ?脅かす?」 あたしの突然の発言に、彼女は驚いていた。 ミューズ:「あたしたちがお化けの振りをして、肝試しに参加してる生徒を脅かすのよ。面白そうじゃない?」 瑞希:「うん…、面白いかもね。…でも、…脅かしたら怒られない?」 ミューズ:「大丈夫だよ、肝試しなんだもん。」 説得にはなっていないが、ミューズの言葉に押されてしまった彼女は、脅かすことにした。 瑞希:「それじゃ、ミューズちゃん、この学校の7不思議、6つ教えてあげるね。多分、コースはその6つに関係してる 場所を通るはずだから。」 ミューズ:「あ、お願い!」 ミューズは数分後、教室を飛び出した。 6つの場所に隠れたり、仕掛けたりするために。 そして、教室には瑞希一人が残ったのだが…。 瑞希:「久しぶりだ…、あたしを見つけてくれた人…」 彼女の姿は次第に薄れだし、彼女の2本の足は、すぅっと透明な何もない人魂のようなものに変わっていた。 瑞希:「でも、あたし、脅かせるかな?ずっと、教室にいたのに、誰にも気づいてもらえなかったのに…」 彼女はそう言いながらも、自分のいた教室に入った。 これでもう分かると思うが、彼女は幽霊である。 そして、7不思議の一つ目に値する幽霊は、彼女のことだった。 瑞希:「あたしを見つけてくれたのは、二人しかいない…ミューズちゃんで二人目だ…」 瑞希はせっかくだからと思いながら、いくつかの椅子に吐息を噴きかけていった。 そこに、一人のバスケ部員が入ってきた。 手にはスタンプのようなものとインクがある。 どうやら、チェックカードを作り、各ポイントでそれを押すことになっているらしい。 瑞希:「この人…あたしが見えてないんだ…」 バスケ部員はスタンプを、瑞希がいつも座っている席に置き、部屋を出て行こうとして、瑞希がいる場所を通り過ぎていった。 瑞希:「あ…、大丈夫かなぁ…」 幽霊が人間に触れると生命エネルギーを吸い取るって言われてるから、だから、あたしの席に座った人、みんな病気になっちゃうけど、 でも、数年前にあたしの姿を見つけてくれた人が、あたしと同席になっても大丈夫なように術をかけてくれた。 だけど…、あたしをすり抜けちゃった場合だけ、その術があっても、ちょっと体調が崩れちゃうのよね…。 大丈夫かなぁ? 普段は、あたしがいても、みんなが自動的に避けて通るようになってるから大丈夫なんだけど、志穂ちゃんがかけてくれた術、 強すぎるから、人に気づかれにくくなっちゃったのよね。 でも、それも今日で終わりかもしれない…。 瑞希は知らないことだが、確かにそのバスケ部員は、戻って数分後、悪寒を感じ、早退した。 涼治:「いきなり一人帰るとは、やっぱり今日は何かが起きそうだな。」 晃正:「そうですね、そろそろ始めませんか?」 涼治:「ああ。」 校内でミューズと瑞希が仕掛けを施しているとは知らず、涼治たちは肝試し大会を早々と始めていた。 ルールは、男同士、女同士、あるいは男女のペアをくじ引きで作り出し、簡単な地図をもらい、地図どおりのルートをたどって 6つのポイントのスタンプを集めてくるというものだった。 賞品などはないが、途中で帰ってきたものには罰ゲームやペナルティが加算されるというもので、蓮華たちも罰ゲームを考えたのだが、 遊び半分に変なものを考えてしまい、それをやりたくないので何が何でも集めようと思っていた。 そして、一組目がスタートした。 涼治:「まさか、一番初めから俺とはな。」 律子:「蓮華ちゃんが悔しがってたわね。」 最初の二人は涼治と律子だった。 ちなみに、律子が引いた二人に課せられる罰ゲーム(一応最初に罰ゲームも決めることになっている)とは、 互いにじゃんけんして、じゃんけんで勝ったものが女装、負けたものが下半身を脱ぐというもので、男子ペアにあてた 罰ゲームだったのだが…。 涼治:「ぜってえ集めるぞ。」 律子:「あたしも。…じゃんけん負けたら悲惨じゃないですか。」 律子が勝てば罰ゲームは多少楽なのだが、涼治にとっては両方悲惨だった。 そんな二人が最初にやってきたのは、体育館横の体操部室だった。 だが、開けてもスタンプ以外何もなく、わざと置かれたリボンも変化はなかった。 涼治:「楽勝かもな。」 律子:「そうですね。」 そう思った二人だったが、突然目の前からスタンプが逃げ始めた。 驚く二人を尻目に、スタンプは二人から動くようにして離れ、次の瞬間、リボンも宙を舞い始めた。 涼治:「マジかよ…」 律子:「どうなって…いやぁ!」 そんな時、律子の首にリボンが巻きついてきていた。 必死にリボンが取ろうとする涼治と律子だが、リボンは巻きついたまま取れない。 と、いきなりリボンが動かなくなり、スタンプも落下した。 涼治:「今のは一体…」 呆然とする涼治だったが、律子はここで緊張の糸が切れ、涼治にしがみついて泣き叫ぶはじめるのだった。 その様子を見ているものが、天井裏にいた。 ミューズ:「お疲れ様、チリリ、こんな感じで続けてね。」 チリリ:「チリチリ(いいけど、本当にいいの?こんなことして。)」 ミューズ:「肝試しだよ、少しはやってもおかしくないよ。」 ミューズと、チリーンのチリリだった。 実はミューズ、蓮華のポケモンの数匹を、学校に連れて来たのだ。 一応電光石火と高速移動を覚えてるミューズだから、短時間でできたのだ。 同じ頃、ミューズの誘いに乗ったフィルとアゲハも怪談を盛り上げるように動いているのだが。 そのために、理科室での骸骨(人体模型は修理中だった)onlyのタップダンスや、逆流するトイレの水現象が 生徒たちの目の前で起こることになり、大半の生徒が失神し、罰ゲームやペナルティを負う羽目になっていた。 その様子を唯一ずっと眺めていたのは瑞希だけだったが。 ミューズちゃん、いろいろやってるんだぁ…。 でも、あたしの場所はポイント5だから誰もまだ来てない…。 チリリによるリボン、アゲハがサイコキネシスで逆流させる水、フィルの念力によるダンス、ミューズの弱めの種マシンガンによる ピアノ演奏…。 それらだけでも、姿を見せないポケモンたちの仕業であるとは気づかず、さすがの涼治もピアノ演奏で律子が気を失い、 脱落を余儀なくされていた。 能力者になって数週間の律子は、戦いに参加したこともなかったため、刺激が強すぎたのだった。 そんな中、蓮華と晃正の順番が来たのだった。 蓮華:「こんなことが起きるとは思わなかったわね。」 晃正:「そうですね、涼治先輩の女装は綾香先輩たちがいたので気色悪くは見えないですが、誰も成功してないのは 何か起きてるからっすよ。俺たちで何とかしましょう。」 蓮華:「ええ。」 ちなみに、律子が当たった方の罰ゲームは、女子のブーイングで却下された。 そして、蓮華と晃正は夜の学校に入るのだが、さすがの4匹も、蓮華には手が出せず、何もできないまま、何も起こらないまま、 二人は進んでいくことになっていた。 チリリやアゲハ、フィルは、流石に主人を脅かすのは無理で、ミューズも草属性の蓮華には種マシンガンはバレバレなので 使えなかったのだ。 あ…、誰か近づいてくる。 ようやく、あたしの出番が来たみたい。 よかったぁ、これであたしも脅かせる。 ガラッ! ドアが開いた。 入ってきたのは蓮華ちゃんと、確かバスケ部の晃正君だ。 晃正君は妖怪側なのに、あたしの姿が見えない。 蓮華ちゃんも力があるのに気づいてないから寂しかった。 瑞希:「こ〜んば〜んはぁ〜」 あたしはそう言って近づいた。 でも、全く気づかれてなかった。 必死で冷やした椅子も暖かくなってしまい、あたしは気づいてもらえない。 蓮華:「ここも何もないわね。」 晃正:「やっぱりあの7不思議は嘘だったんじゃないですか?このクラス、全く何も起きてないですよ。」 蓮華:「そうよね。」 二人はスタンプを押し、帰ろうとしていた。 でも、違うのに…。 それに、あたしとずっと一緒の席にいても気づかない人が出てる理由は…、じゃなくて、こうなったら! あたしは力を体中に溢れさせた。 幽霊はこれくらいできるんだよ! 蓮華:「ねえ、何か生臭くない?」 晃正:「ゴミでも腐ってるんですかね?」 冷たい冷気を出したはずが、力が弱くて変なにおいを漂わせるだけに終わっていた。 だったら! ガタガタガタガタガタガタ…ゴトゴト…ゴトン…。 蓮華:「今、椅子や机が動いてたわよね?」 晃正:「は、はい…。けど、おさまりましたね。…軽い地震だったんすよ。」 ポルターガイスト現象もあまりできなかった。 結局、二人はそのまま6つ目のポイントまで向かっていった。 そろそろ12時だ…。 ミューズ:「蓮華に晃正君!」 あたしたちがビニールハウスまでやってくると、そこにはミューズ、チリリ、アゲハ、フィルがいた。 蓮華:「どうしたの?」 ミューズ:「えへへ、ちょっとね…。」 晃正:「…まさか、怪談の正体は…」 ミューズ:「そうだよ、あたしたち。でも、蓮華と晃正君でラストっぽかったからここに来たの。」 ミューズたちは笑っていた。 蓮華:「どうしてそんなことをしたの?律子たち、気を失ったんだよ。」 あたしは軽めに怒った。 すると、ミューズはわけの分からないことを話した。 ミューズ:「だって、涼治君たちのクラス、瑞希ちゃんを集団いじめしたんだよ!その仕返しもあったから、いいじゃん。 瑞希ちゃん、転校しちゃうから、あたしが思い出作りって誘ったの。」 蓮華:「瑞希って…誰?」 ミューズ:「えっ?涼治君のクラスの子だよ。」 そこへ、女装をやめた涼治や律子たちがやってきた。 12時を過ぎたから、肝試しを終了するからと呼びにきたのだ。 あたしがミューズの言ったことを喋ったが、涼治たちも不思議そうにしていた。 涼治:「俺のクラスに瑞希って奴、いないぞ。」 ミューズ:「そんな…あたし、本当に会ったんだよ。」 そんな時だった。 美香:「ねえ、瑞希って、この子?」 美香のいるほうを振り返ると、そこには枝が刺さった花壇があり、そこに写真が張ってあった。 古い写真だったが、女の子が花壇の手入れをしている写真だった。 ミューズ:「嘘…、瑞希ちゃん…」 律子:「ミューズが会ったのは、幽霊のようね。」 綾香:「この花壇、今日、2学期始まる前日に壊すことが決まったのよ…もう、花が咲いてないし、土も栄養がないから、 壊して作り変えるんだって。」 ミューズ:「それで…遠くに行くって言ってたんだ…。」 そのときだった。 突然、刺さっただけに見えた枝から、つぼみができ始め、花が咲いていた。 すぐにしおれてしまったが、現実世界には咲くはずのない、キレイハナの頭の花と全く同じものが咲いたのだった。 一同は、あっけに取られてその様子を見ていた。 でも、ミューズにだけは聞こえた。 「騙してごめんね。でも、ありがとう。友達になってくれて。」 声はかすかだったが、ミューズにだけ聞こえた。 直後、校庭にいた他の肝試し参加者たちは、涼治の教室から白いものが出て行くのを見たらしい。 志穂:「そう、あの子、成仏したの…」 次の日、あたしは蓮華たちに誘われて、志穂ちゃんのいる神社にいた。 蓮華たちはつい先ほど、残った夏の宿題を終わらせ、ババヌキを始めていた。 ミューズ:「多分ね。でも、あたしはしてないと思うよ。」 志穂:「どうして?」 ミューズ:「あたしの目に見えてないだけで、近くにいるかもしれないじゃん。」 志穂:「そうね。」 蓮華:「ミューズもやらない?あたしと一対一よ、勝ったほうが負けたほうの言うことを一つ聞くの。」 ミューズ:「やる!絶対に勝つからね!」 蓮華:「でも、ミューズは連敗中でしょ?また負けるからやらない方がいいんじゃないの?」 ミューズ:「そんなことないよ、絶対に。やるからには勝つからね!」 志穂:”うふふ、楽しそうね。…それにしても、あなた、いつまでここにいる気なの?” 志穂はふと部屋の隅を見つめた。 そこには、成仏したと思われている、渦中の人物、瑞希の姿があった。 瑞希:”結局、肝試し大会の噂がすごくなったので、あたしの花壇、新しく整備されて残ったんです。 だから、あたし、もう少し成仏しないでいようって思ったんです。今までは、学校に縛られてたんだけど、 いつの間にか、外にも行けるようになったし。” 志穂:”多分、ミューズと友達になったから、ミューズの行動範囲のみ、行けるようになったのね。” この分だとポケモン世界にも瑞希は行くだろう、そう志穂は思った。 そんな中、瑞希はふと蓮華とミューズのそばに歩いていき、カードを覗き込み… 蓮華:「さて、この2枚のどれかがババだよ。どっちを抜くの?」 いつものごとく2枚のどっちかを当てさせようとする蓮華。 ミューズ:「どっちだろう…」 そしていつも外すミューズ。 瑞希:「右よ…右をひいて」 ミューズ:「へ…右引くね。」 ミューズは突然聞こえた声に驚きながら、右を引いた。 すると、それは自分の手元のスペードの3で、直後、蓮華は崩れ落ちるのだった。 志穂:「あらあら…」 いかさまかもしれないけど、これはこれで面白いのかもしれないわね。 それにしても、七不思議の七番目が学校にいなくていいのかしら…? 風竜中学7不思議、7番目は『一人増えている生徒』。 生徒の数は39人なのに、いつの間にか40人に感じられる事があり、順番に番号を言うと40人と数えられる。 しかし、誰もがどこで知らない人がいたかと言われると分からない。 これが、『一人増えている生徒』。 それに、うちの中学の7不思議の大半は、瑞希絡みなのよね。 リボンもピアノも瑞希の仕業だったらしいし。 瑞希いわく、本当の7不思議は、瑞希が学校のお化けたちのためにいくつかを隠し、 自分の行動を犠牲にしたらしいけど。 でも、一体どんなものだったのかしら・・・? ちょっと気になるわね。