アビリティーガールズ 第3章 1.新たな旅の幕開け 今から何十年も、何百年も昔…。明治の半ばと思われる頃、人々が惨殺され続ける事件が続いていた。 しかもそれは、人が行ったとは思えないほどの惨殺さ、残忍さで知られ、人々は恐れおののくようになっていた。 そして同時に、街や村を何者かが破壊し続ける事件も起き、毎晩それは続いていた。 そんなある日、それを起こしていたものが捕縛されたと街から街へ知らせが飛んだ。。 しかし、そのような事実も、歴史でさえも、全くどこにも記されず、政府や民衆の知らぬところで隠密に処理されていた。 当たり前である。 その惨殺事件の犯人は人外の引き起こしていたものだったからだ。 そして、政府も民衆も知らないところで動いていたものたちと、多くの人外のものによってそれは捕縛され、 永久に姿が現せぬように封印された。 それから何十、何百年後のある日のことだった。 ある山中を走るバスがあった。 それは「当選!山中紅葉狩りツアーご一行様」と書かれたバスであり、バスは紅葉や銀杏の並木道を通っていた。 そしてそのバスの中では様々な年齢の老若男女に混ざり、小さな子供が二人いた。 そして父親らしき人物のそばを女の子が走り回り、その女の子より少し小さな男の子が、母親に抱きかかえられていた。 どこにでもいそうな幸せの絶頂にいる家族の風景だった。 他にも、妊娠中なのか、大きなお腹を抱えた女性と、それを心配そうに見つめる男性の姿があった。 女性は男性に心配されながら、すでにもう一人産んでいるのか、他の子供と元気に走り回る少年を眺めていた。 そしてその近くには気難しそうな男性がいて、その男性の連れと思われる女性は、少し離れたところに座っている夫婦と 仲良さそうに話していた。 さらに女の子と思われる赤ん坊を連れた年配の男女の姿もあった。 誰の目から見ても、平和の象徴、家族の象徴を描いた姿ばかりであった。 そんな幸せの風景を描いたバスは、紅葉の木々を通り抜け、トンネルに入っていった。 そして、数分後のことだった…。 突如爆発音が山々に響き渡り、そしてトンネルからは見るも無残に大破し、燃えたままスピードを落としながら走るバスが姿を現した。 先ほどまで中にいたと思われる人々は即死と思われるほど、炎は赤く、大きく燃え盛っていた。 しかし、そのトンネルの外には、幼い少女の姿があった。 彼らに何があったかは知ることもなく、そして数時間後、誰かが駆けつけたときにはその少女も冷たくなって横たわっていた。 それから10数年の月日が流れた。 どこかの山奥のひっそりとした里にある、どこかの建物の地下の奥の部屋の真っ暗な中で、このような会話がされていた。 ??:「あの血筋は生きていただと!?」 ??:「はい、彼女の存在は前々から確認されておりましたが、その彼女こそ、あの血筋の者だったそうです。」 ??:「あの血筋が…」 ??:「死んだはずではなかったのか…」 ??:「奴は何をしていたんだ…」 ??:「何ということだ…」 そこにいるものはすべて黒い装束に包まれ、頭を大きくフードのようなものが覆っていた。 そしてその中で最もリーダー格と思われるものが言った。 ??:「こうなってしまった場合、事が伝わる前にあれを始末することを命じる!」 ??:「しかし、どのような説明を配下のものたちにするのですか。あのことを言ってしまっては…」 ??:「言うはずがなかろう。あれが目覚め、世界が滅ぶのを防ぐために抹殺しなければならないものと言っておけばよい。 事実、あの血筋はそれに匹敵するものだ。直ちにあの血筋を滅ぼして来い!」 ??:「しかし、あの者が住む街は厄介な連中が多く住み着いておりますが…」 ??:「それを気にする事はない。あの街にいたわれらの計画を邪魔する愚弄者は消滅したと聞いている。もはや、流石に巫女であっても 我々の計画を止めることは出来ぬであろう。」 ??:「それではあの街に送り込んだ者に…」 ??:「いかん、そやつはこれまでにも連絡を怠り、しかもそやつ自身も血筋と知りつつ黙認していた事が分かった。あやつも 裏切り者同然だ。邪魔するものはすべて排除することを許す。さらに里中に警戒線を張れ!この里にもぐりこみ、計画を邪魔する愚弄物が 出ないとも限らん!」 ??:「はっ!」 ??:「直ちに。」 リーダー格らしきものの声と共に、幾人かの者達が動き出していた。 そんな事が山奥で行われる数日前のこと。 龍水市立龍水高等学校では、試験も終了し、後数日もすれば夏休みになるというところまで来ていた。 蓮華:「旅?」 突然あたしは同じクラスの律子に旅をしないかと持ちかけられたのだ。 律子:「そうよ。ナナちゃんがホウエン地方を旅しないかって誘ってくれたんだけど、あたしはもう行ったことあるし。 これから夏休みでしょ?蓮華ならどうかなぁ?と思って。まっ、あたしも行くんだけどね。バトルフロンティアにはまだ行った事がないからさ。」 律子がナナに誘われているらしい。 蓮華:「そうだね。旅するのもいいかなぁ。」 去年の夏休み、アクアカップ以来、ポケモン世界に行く機会は少なくなった。 まぁ、何かのイベントがあればナナや律子に誘われて遊びに行ったりしてたけど、この高校に入るための受験勉強とかもあって、 長い間向こうにいるっていう機会はなかったのだ。 律子:「こっちでもポケモンバトルはあるけどさ、まだ小規模だし…、大きな大会とかは存在してないでしょ? 本当のポケモン世界に行って、旅を楽しむ方がいいんじゃない?夏休みが始まるわけだし、部活に所属してないあたしたちには長〜い時間があるのよ。 それに、去年はジョウトのアクアカップに参加したけどさ、今回はそういうのじゃなくて、旅よ、旅。大会のために数日だけいるというのとは違うのよ。」 去年の夏休みは、ナナシマの事件や、涼治の怪盗事件、それに夏休み終わりのアクアカップなどで忙しかったりした。 楽しかったり、つらかったり、色々な事を経験した夏であり、あたしが一回り成長できたのも去年の出来事のおかげだった。 そして、今年はどうしようかって考えた矢先の事だったので、あたしはすぐにその話に乗っていた。 一応ホウエン地方に行こうとは考えていたので、この際、ナナの誘いに乗る方がいいかもしれない。 蓮華:「それじゃ、行こうかな。」 律子:「OK!これで8人目だ!」 そう思って誘いに乗ってみれば、いきなり8人目だった。 蓮華:「8人目?他は誰なの?」 あたしの他にも誘いに乗った人がいるらしい。 律子:「美香と翼先輩、鈴香ちゃんに悠也先輩、綾香に海ちゃん、そして涼治君と晃正君よ。」 ふぅ〜ん…、…あれっ? 蓮華:「えっ?…涼治、そんなこと言ってなかったよ。」 律子:「言わないのが当たり前。あたしが口止めしたからよ。蓮華にはまだ言ってないし、あたしが言うまでは内緒よ!って。」 多分、美香と翼先輩はデート、涼治はポケモンドクターの修行、晃正君はトキワジムでトレーナー修行をするつもりだろう。 綾香や海ちゃんの理由はよく分からないけど、鈴香と悠兄もきっとデートなんだろうなぁ。 蓮華:「あれっ?そういえば、今日美香いなかったよね?もしかして…」 律子:「ご名答、今日から授業サボって出かけたわよ。翼先輩の高校はとっくに夏休みだったし。鈴香ちゃんも悠也先輩と一緒に 昨日のうちに出かけてたし。そういうわけだからね。蓮華、宿題さっさと終わらせたら日程決めなさいよね。」 そう言うと、律子は他のみんなにも声をかけに行ったようだった。 他のみんなとはいえ、行けるメンバーは限られるだろう。 悠兄は大学生だからヒマなんだろうけど、大学受験を控えた哲兄たちは無理だろうし。 …翼先輩は高校卒業してすぐに親の会社に就職するって決まってるから、最後の夏休みを楽しもうということらしい。 でも、行けるメンバーで行って、向こうでバトルとかデートとかも出来たらいいし、あたしはホウエン地方のジム戦がやりたかったし。 ミューズたちも楽しみにしてるんじゃないかな? そんなわけで、あたしの新たな旅が決まったのでした。 でも、すでに旅を始めてるのが美香と翼先輩、鈴香と悠兄。 何してるのかなぁ? あ、それよりも早く、ミューズたちに教えなきゃね。 今、みんなはナナの家で久々に体を伸ばしてるはずだから、ナナから聞いてるかもしれないけど。 そしてその頃。 あたしの予想は当たり、この話はナナからミューズに伝えられていた。 ミューズ:「ホウエンの旅?」 ナナ:「ええ、もう蓮華ちゃんたちには律子から話をつけてもらったから。行くでしょ?」 あたしの家には一週間前から蓮華のポケモン43匹が暮らしている。 何故かっていったら、夏休みの宿題を一気に仕上げるために、蓮華があたしに大事なポケモンの世話を押し付けたのだ。 まぁ、別にいいんだけどね。 蓮華は宿題のスピードが遅いらしいから、途中で蓮華に話しかける存在がこっちにいたほうがはかどるだろうし。 それに、グロウタウンはあたしの家(ジム)とポケモンセンター以外はなく、自然がいっぱいだから、キレイハナたちにとっては 最高の場所なんじゃないかな? あたしのポケモンたちも暮らしているけど、全然いいところだもの。 それに、ここはポケモン禁猟区。 まぁ、黙って入る奴もいるけど、あたしと蓮華のポケモンたちは全員、ここがそういう禁猟区と知ってるから、 理解してくれてるから、そういう奴らが来たら、一斉にみんなに伝わるようにしてあった。 だから、誰も攫われることはないのだ。 そう思っていると、ミューズが喜び(?)の声を上げ始めていた。 ミューズ:「いいねぇ〜。それで美香ちゃんと翼君、鈴香ちゃんと悠也さんが一昨日、こっちの世界に来たわけね。」 ちょうど一昨日、美香ちゃんが翼君とバカップルのような感じでここに来て、あたしたちも呆れたのだ。 数年でああなるとは思わなかったなぁ。 でもま、美香ちゃんと翼君は将来結婚が決まってるような、両親の同意もとっくに取れてるような仲だから、なっても仕方ないかな。 けど…、将来の大会社の社長があの二人って聞くと、何だか微妙な気分になるわね。 まっ、あたしの世界とは関係ないからいいけど。 あと、鈴香ちゃんと悠也さんも来たけど、二人は年齢差があるからか、そこまでバカップルではなかった。 ナナ:「そうなの。数日くらいしたら、夏休みの勉強を終えた蓮華が来るんじゃないかな?それまでに、みんなに知らせておいてくれない?」 律子が言うには、宿題は結構あるから一週間はかかるらしい。 キレイハナ:「いいよぉ。」 キレイハナもそれを察したのか、再び日向ぼっこを始めていた。 今日は天気がいいから、キレイハナだけじゃなく、草ポケモンはみんなここにいるから、ワタワタやなっぴたちも 話を聞いているとは思ったけど。 さてと、そろそろジムの時間ね。それに、明後日はホウエン地方のオダマキ博士のところに行かなきゃいけないし。 でも、終わってるのかな…? 頼んでおいたバルビートとイルミーゼの生態系の調査。 多分…忘れてるだろうな。 でも…、久々なのよね、あそこに行くのも。 ユウキ君、大きくなったのかしら? キレイハナたちがそんなことをしていたとき、あたしは涼治の所を訪れようとしていた。 すると、途中で先生に隠れた喫煙してる秀兄と、木の影で昼寝をしてる神兄に会った。 秀治:「蓮華、どうしたんだ?」 蓮華:「律子から聞いてるでしょ?」 秀治:「ああ、あれか。それであそこか?」 蓮華:「うん、そういうこと。」 秀治:「それならちょうどランニングを終えて、練習始めてるはずだぞ。」 蓮華:「秀兄、ありがとう。」 秀兄は不良っぽいイメージと悪い噂は少なくないしあまり消えてないけど、女子には結構隠れファンが多かったりして、 それほどここの居心地が悪いわけではないらしい。 哲也:「そこ、喋るなよ。ノルマは済ませろ!おい、動きが遅いぞ!」 向かう途中から哲兄の声が響いてきた。 あたしが覗いたのは、バスケ部専用の体育館。 あたしが通う高校は公立だけど、私立並みにかなり設備が整っていて、そのうえそれなのに学費は安いので、競争率の倍率が高い高校だったりする。 でも、実際能力者仲間がほぼ全員、ここに通っているわけで、あたしたちはそんなに頭が悪いわけじゃない。 あ、でも海ちゃんや小麦ちゃん、刹那、それに翼先輩は別ね。 海ちゃんたち3人の学校はエスカレーター式だし、翼先輩は難関の私立高校に通っている。 翼先輩は去年から転校して、高校を移ったのだ。 そしてあたしが体育館を覗いて見ると、そこには哲兄が受験生なのに部員たちに指示を続けていた。 哲兄はバスケ部の主将で、次期主将は決まり、すでに引退してもいい身分らしいけど、熱心に指導に励んでいるのだ。 入ったばかりの1年をしごいているとも言える。 哲兄のバスケのセンスはレベル高いから、だから全国大会でも準優勝だったりするんだよね。 そして、ファンクラブもあったりする。 もちろん、それは色んな部にもあり、女子にもあり、あたしにもファンクラブがあるらしい。 でも、あたしは普通に涼治との付き合いを続けていた。 涼治はあたしのお手つきだということは入学当時から見せびらかしてきたから、涼治のファンはいても、邪魔立てしてくる輩はいなかった。 いたとしても、あたしの後ろには玲奈先輩たちがいるから大丈夫だった。 そして休憩になったので、あたしはここぞとばかりに涼治を呼んだ。 涼治:「どうしたんだ?」 蓮華:「律子から聞いたでしょ?その話。」 涼治:「ああ、あれか。お前も行くんだな?」 蓮華:「当たり前よ。でも、大丈夫なの?試合近いでしょ?」 涼治:「ああ、でもさ、俺はレギュラーでも補欠でもないからさ、だからいいんだ。」 涼治のレベルは哲兄に近づき、次期副主将にも決まったのだが、足の故障が見つかり、夏の大会には出れなくなったのだ。 故障といっても軽いもので、軽い運動や日常生活に支障があるものでもなく、松葉杖が必要なものでもない。 けれど、夏の大会や地区大会などの量を見る限り、そして練習の量を見る限り、当分は軽い練習をしながら治療をしていくべきだと、 ある意味父親からドクターストップをかけられてしまったのだ。 一時はせっかくの時期に…と、涼治はふさぎこみ、あたしも励ますのが大変だった。 蓮華:「それじゃ、あたしと勉強しない?夏休みの勉強、終わらせちゃおうよ。」 涼治:「ああ、あれなら終わってるぜ。」 蓮華:「え…」 涼治:「えって、あの宿題、1週間前からもらってるだろ?夏休みにやるつもりだったのか?」 蓮華:「うん。」 涼治:「お前って奴は…はぁ、哲也先輩、先輩も大変ですね。妹がこれだと。」 あたし、変なことを言ったかな? あたしが首をかしげると、涼治が哲兄に叫んだ。 哲兄は苦笑いしてるし…、ちょっと!何なのよ!もう。 蓮華:「もう、知らない!」 涼治:「待てよ。俺と行きたいんだろ?一緒にやろうぜ。」 蓮華:「//////…うん。」 実際、あたしは涼治にどうなってもメロメロなんだけど。 が、数日後、涼治は旅立って行った。 律子:「ポケモンドクターの講習会があるんだって。予約するためにも、行くべきじゃない?」 といって、律子がラブラブ状態のところに割って入ってきたのだ。 あたしは涼治の夢を壊す気はないから、残念だったけど、勉強を一緒にやる約束はあきらめた。 涼治:「悪いな。先に行くぜ。」 蓮華:「うん。…向こうで会おうね。」 あたしはそう言って、一時の別れを嘆いた。 その頃、翼先輩と悠兄はフエン火山の近くにいた。 翼:「予想したとおり、フエン火山の中腹近くにいるらしいな。」 悠也:「ああ、俺も調べてみたが、やはりあの辺りが怪しいと聞いた。明日、あそこに行ってみるか。」 翼:「いや、悠也は流星の滝の近くに行ってほしい。あそこも怪しいからな。」 悠也:「分かった。…それにしても、まだ怪しげな組織が存在していたとはな。」 翼:「ああ。」 二人は何かを調べているらしかったが、その数日後、翼先輩はフエン火山の近くで、悠兄は流星の滝近くで消息を絶った。 そのうえ、フエン火山近くと、流星の滝近くで、二人の私物や衣類が、ボロボロの状態で、返り血を浴びた状態で見つかっていた。 でも、あたしがそれを知るのは、ホウエンに向かってから数日後のことでした。 悠兄が消息を絶ったのは街を出てすぐだったし、ガイドもいなかったから詳しい事は分かってない。 でも、翼先輩の場合はこういうことだったらしい。 二人の青年が山道を歩いていた。 一人はポケモンウォッチャー、翼先輩で、もう一人はガイドのようだ。 翼:「あの山の洞窟です。あの洞窟で出没が多く見られるようですよ。…しかし、大丈夫ですか?危険ですよ。」 ガイドの青年が言うと、 翼:「そうですか。それではここからは俺一人で行きます。あなたは危ないのでここから立ち去ってください。」 ガイド:「そんな…私はあなたの事が心配です。彼らは元々世界を破滅に導きかけたものたちだというのに…」 翼:「心配することはないですよ。俺は、彼らの行動の様子を観察したらすぐに戻る予定です。 そんなに心配なら、さっき休んだ麓の村で待っていてください。すぐに戻りますから。」 ウォッチャーの青年、翼先輩はそう言い残し、険しい山道を歩き出していた。 ガイドの青年は心配そうに彼を思い、数日間、ふもとの村に滞在していたが、彼は戻ってくる気配がなかった。 それからまた数日経ったとき、山でがけ崩れが起きたことをガイドの青年は知った。 さすがに不安に思い、村の精鋭たちと様子を見に行ったところ、そこには彼の荷物が切り刻まれたり壊されたりした状態で散乱し、 いくつもの血痕が残っていた。そして、彼がその日に着ていた服の切れ端が、崖の近くで発見された。 しかし彼の行方はそこで途絶え、彼は行方が分からなくなってしまっていた。 その次の日。 ミシロタウンの研究所にはナナの姿があった。 ナナ:「オダマキ博士、あたしの頼んだ調査の結果、出来上がりました?」 オダマキ:「いや…、もう少しかかりそうなんだ。この辺りにエアームドが多く生息するようになったから、そのフィールドワークを しなければならないから…。」 ナナ:「前もそう言ったじゃないですか!ホウエンとカントウ、ジョウト地方に生息するバルビートとイルミーゼの生態の違いについて! それがあると、あたしもこの先のジムリーダー生活に役立つはずなんです。蛍使いのあたしにとっては大切なんです!」 オダマキ博士は、マスターランクリーダーのナナの形相に圧倒されていた。 ナナは8歳でポケモンリーグを優勝し、マスターランククラスのジムリーダーになった少女で、全国のジムリーダーや研究員と親しく、 今回はホウエン地方のオダマキ博士のところにやってきたのだ。しかし、肝心の調査は進んでいないどころか、全く行われていなかったのだ。 そこへ、誰かが部屋に入ってきた。 ??:「あははは、ナナさん、無理だって。父さんからフィールドワーク取ったら何も残らないほど、最近も異様にハマってるから。 今はたとえナナさんの頼みでもフィールドワークを優先にするよ。はい、お茶。」 それは、白っぽい髪(地毛)をバンダナで上げた少年だった。 さっきまで掃除をしていたのか、腕まくりをし、タオルを首にかけ、そして二人を見て笑っている。 ナナ:「そんなこと分かってるわよ。あたしはただ、フィールドワークを優先にして、熱中して、それであたしの頼みをすっかり 忘れたままにしていた事があるから、だからこう言ってるだけだもの。」 ??:「そうだよなぁ、父さんはフィールドワークに夢中になると忘れ癖が酷くなるからなぁ。」 ナナ:「でしょ?それにしても…15歳だっけ?ちょっと会わないうちに成長したわよね。」 ナナは自分の前にいる15歳の少年に向かって、自分は年配の人であるかのような口調で言った。 それもそのはず、ナナは2歳しか離れてないような姿をしている割に、実際は4,5歳も離れているのだから。 ??:「最後に会ったのが4年前だからなぁ。あの時はまだジョウトにいたし、俺の背も結構低かったから。 それじゃ、父さん、俺ちょっと出かけてくるから。約束があるんだ。」 ナナ:「約束?どこに行くの?」 ??:「ポケモンのトレーニングでムロ島まで。トウキさんが稽古つけてくれるらしいからさ。俺のバルキー、もうすぐで進化するんだ。 今までも約束はあったけど、ツツジさんの休みとかでドタキャンされててさ。ようやくなんだ。」 少年は進化するのが楽しみなのか、待ち遠しそうな笑みを浮かべていた。 ナナ:「そう。それじゃ、楽しみよね。行ってらっしゃい。」 ??:「はい、ナナさんもごゆっくり。」 少年は部屋を出て行った。ドアが閉まる直前に鼻歌も聞こえた。 ナナ:「うふふ、ユウキ君もたくましくなったわね。助かってるんじゃない?研究所と家の往復、助手やスズカさんだけでも大変だったから。」 オダマキ博士の生活は一日の半分以上が研究所での缶詰になるか、フィールドワークに向かっているかのどちらかに値する。 そのため、彼の身の回りの世話(?)は、彼の奥さん、スズカさんや数人の助手がやらなければならないのだ。 しかし、掃除などもしなければならないから大変なのだ。 オダマキ:「ああ、助かってるな。あいつも旅をしたり修行をしたりして強くはなってるからな。」 ナナ:「ホウエンリーグ、第5位でしたっけ?蓮華ちゃんと戦わせたら、どっちが強いのかしら?」 オダマキ:「蓮華というと、あのキレイハナを連れたあの子かい?」 ナナ:「ええ。」 オダマキ:「ビデオで見たよ、カントウ大会。あの子はどことなくサトシ君に似た戦い方をするから印象が大きいよ。 多分、ユウキよりも強いだろうな。」 博士は窓の外を猛スピードで飛んでいく、トロピウスと彼の姿を見ながら言った。 ナナ:「やってみないと分からないけどね。蓮華ちゃんは優勝者だから、互角にはならないだろうけど…。」 そんな時、テレビの映像ががらっと変わった。 さっきまでは「クルミお姉さんとオーキド博士のポケモン図鑑」という番組が放送されていたのだが、 ニュース映像に切り替わった。ナナは不意にそのニュースを見ていたのだが…。 オダマキ:「ナナ君?顔が青いがどうしたのかな?」 ナナ:「…嘘、大変…」 そのニュースはちょうど昨日起こった、ポケモンウォッチャー行方不明事件が放送されていた。 同時に、流星の滝近くでもポケモンウォッチャーが消息を絶ったことを放送していた。 そして二人のウォッチャーの顔写真が出た時、ナナはその場に崩れ落ちていた。 オダマキ:「お、おい、ナナ君!しっかりするんだ!お〜い、誰か、誰か来てくれ!」 ユウキ:「トウキさん!」 ユウキはムロ島の上空からジムリーダーのトウキを呼んだ。彼はワンリキーやハリテヤマと共に、サーフィンをして待っていた。 トウキ:「よぉ!」 ユウキはトロピウスから降り、トウキと砂浜で合流した。トレーニングをつけてもらうとあり、ユウキはTシャツに海パンといういでたちだった。 ユウキ:「トレーニングつけてもらいに来ました。お願いします。」 トウキ:「おう、任せとけ。バルキー、出してみろよ。まずは見てやる。」 ユウキはバルキーを出した。ユウキも懸命にバルキーを育てたのだが、なかなかうまくいかず、すぐにトウキの罵声が飛んだ。 トウキはすでに師匠のような顔つきになっていた。彼は普段は温厚で優しいが、ポケモンを育てることを教える時に限っては、 結構怖くもなるのだ。 トウキ:「おい!これで育てていたとは言わせないぞ!体勢がなってない!それに戦うつもりなのか?へっぴり腰だぞ。 これだとまだまだ進化は程遠いな。」 ユウキ:「そんな…」 ユウキががっかりすると、背後から女性の声がした。 ??:「あんまりユウキさんをからかうのは辞めにしたらいかがですの?少し冗談が過ぎますけど。」 トウキ:「あははは。ちょっとしたジョークさ。」 ??:「それだとせっかく来たユウキさんがかわいそうですわ。デリカシーがないのですから…」 そこにいた少女はカナズミジムのジムリーダーであり、トウキの彼女であるツツジだった。 実は今日もドタキャンになるはずだったが、それをジムトレーナーから聞いて察したツツジがトレーニングをやるように言ったのだった。 トウキ:「おいおい、…ユウキ、今から俺のワンリキーに構えの姿勢をさせる。それをお前もバルキーと一緒に覚えろ。 トレーナーも一緒に覚えることが大事だ。」 ユウキ:「はい!」 トウキ:「ユウキ、足をもっと開け!背筋が曲がってるぞ!それに何だ、そのへっぴり腰は。バルキーのほうが様になってるぞ!」 ユウキ:「はい!すいません!」 ツツジ:「あらあら…、どちらがトレーニングをしに来たのやら…」 ツツジはトウキとユウキの兄弟のようにも、師弟関係にも見えるやり取りを微笑ましく見ていた。が。 ツツジ:「あらっ?あれは何ですの?」 ツツジは海に何かを見つけた。そして流れ着いたそれは、真っ赤なものだった。 ツツジ:「赤いようですわね、…何でしょ………キャァ〜〜〜〜!」 トウキ:「ツツジ、どうした!」 ユウキ:「どうしたんですか?」 海辺の町を、滅多に叫んだりしないクールなイメージの強いツツジの絶叫が響き渡った。 それは真っ赤なものではなく、血でドロドロに染まったモンスターボールケースだった。 そして、それと同時にジムから門弟が走ってきた。 門弟:「ユウキさんにオダマキ博士から連絡が入りました。」 ユウキ:「父さんが?」 門弟:「はい、すぐに帰ってきてほしいそうです。」 ユウキ:「そ、そんなぁ…トウキさん、すいません。俺ちょっと帰らなきゃいけないみたいで。」 トウキ:「あぁ。ユウキ、さっき教えたことを復習しておけよ。」 ユウキはトウキとツツジに別れを告げ、トロピウスでミシロタウンに向かった。 ユウキは何気なくだったが、再び冒険の旅が始まることを予感していた。 蓮華:「それじゃ、行ってくるね。」 そんなことも知らずに、蓮華はポケモン世界に出かけようとしていた。 それを疲れた表情で見送る哲也ら5人。 昨日の深夜まで、蓮華の宿題につき合わされたのだ。 その結果、蓮華は一日で宿題を、ポスターなどの美術作品や感想文を除いて、全て終わらせていた。 哲也:「気をつけていけよ。」 来美:「久しぶりの旅だからって無茶しないでよね。」 久美:「何日かしたら、あたしも神楽と秀治を連れて行くからね。こいつらに案内してあげなきゃ。」 神楽:「え〜、僕は眠いから行きたくないよ…」 秀治:「俺も行く気はないな。疲れるだろ?」 久美:「神楽に秀治、いいじゃん、行くのよ!」 久美ちゃんはいつの間にか、秀兄と神兄の主導権を握りつつあった。 蓮華:「うふふ、それじゃ、行ってくるね。行ってきます!」 あたしは、ポケモン世界と現実世界をつなぐゲートになっているドアを潜った。 ミューズ:「蓮華、早かったね。みんなもあっちで待ってるよ。」 蓮華:「ホント?それじゃ、早く行こう!」 あたしはミューズと一緒に、あたしのポケモンのみんながいる場所に走っていった。 だから、この後、このドアがどうなったのかは知らない。 まさか、ドアが壁側から外に向かって折れ、粉々に壊れているなんて…。 でも、これは、今回の旅の幕開けを示す、とっても些細な出来事だったのです。 あたしが知らないうちに、事件はすでに始まっていました…。