トウカシティを出たあたしたちが次にやってきたのは、虫ポケモンや草ポケモンが多く生息しているトウカの森だった。 ユウキ:「抜けようと思えば一日で抜けれるけどさ、今日はここでキャンプをしようか。」 蓮華:「それはいい考えよね。」 こんな会話をあたしたちはしているんだけど、実際はミューズからの強い希望によるものだった。 ミューズ:「こんないい森を普通に通り過ぎちゃうのはおかしいよ。あたし、もうちょっと自然を満喫したいから、今日はここに泊まらない?」 と、あたしやユウキに散々言い続けた結果だった。 というわけで、寝袋とか今日の夕食の準備を始めるあたしたち。 薪を拾いに行ったり、水を汲んだりしなきゃいけないんだ。 でも、あたしは料理は一切駄目だから、そっちはユウキに頼んだ。 今までは自信満々で作ってたんだけど、哲兄と涼治も涙を流して食べてくれてたんだけど、秀兄と神兄に言われて味見をしたとき、 あたしは一週間入院をしたのでした。ようするに、あたしがバレンタインデーのときに毎年作っていたものは、哲兄と涼治を 地獄に送るものだったって言う事にようやく気づいたわけで、舞さんや来美ちゃん、久美ちゃんからも料理は習ってるけど、 まだまだまともなものは一つも作れない状況だった。 野菜を切ったりすることは上手らしいんだけど、味付けが壊滅的らしいのよね。 そんなわけで、あたしはソルルやミューズたちと一緒に水辺を捜しに行く事にした。 蓮華:「一人で大丈夫?」 ユウキ:「おいおい、俺はそんなに子供じゃないって。蓮華こそ、迷子になるなよ。こっちの準備はこっちで進めておくからさ。」 蓮華:「そうだよね、それじゃ、みんなと水辺を探してくるね。」 ユウキ:「おう、待ってるからな。」 ユウキはニビジムのナンパ男さんから料理を習ったらしく、それなりにまともなものを作れるらしいし、お父さんがアレだから お父さんの手伝いをするお母さんの代わりに料理をする事もあるらしい。 そういうわけで頼んだから、きっとあたしは夕食で地獄を見ることはないはずだ。でも、ユウキはあたしの料理が下手って事を軽くしか とらえてないだろうな。あたしが目玉焼きで入院したとは予想だにもしてないはず…。 第3章 6.ネオアース団襲来! タケシさんに料理を習っといてよかった。 まさか旅に出てすぐにする事になるとは思わなかったけど、蓮華が料理が下手ならしょうがないか。 ナナさんは壊滅的らしいけど、蓮華はそこまでひどくないよな。 野菜の切り方とかは俺よりうまかったし。 それにしても…、ハルカや母さんはともかく、俺の知り合いの女性って料理が下手な人が多いなぁ。 サトシさんとカスミさんが訪ねてきたときも、カスミさんがくれたサンドイッチで危うく三途の川を渡るところだったし…。 さてと、後は集めた薪に火をつけて、水を入れて固形調味料と野菜を入れてシチューを煮込むくらいか。 喜んでくれるよな、みんな。 あれっ…? そういえば、何人かで食事をするのって2,3週間ぶりだな。 このところ、父さんはフィールドワークに出かけてて、母さんは父さんが不在の間の研究を助手の人たちとするのが忙しくて、 夕食っていっても俺一人で食べてただけだったし。 蓮華やミューズたちと賑やかに食べるのは楽しいだろうな。 昨日もトウカジムでの夕食は楽しかったし。 こんな風に一緒に夕食が食べれるだけでも幸せかもしれないな。 だけど、この旅が終わったら、また俺って、一人で淋しく夕食を食べる事になるのかな。 淋しくないっていったら嘘になるけど、寂しくて泣いたりとかはないけど、父さんや母さんと一緒にいたいって思う事はよくある。 蓮華やミューズのおかげで、父さんたちと血がつながってないことや、記憶がないことは何とか乗り切れそうだけど、やっぱり その事を考えると、不安だな。 俺はだんだん家族の事に不安を感じ始めていた。 そして不注意に熱くなった鍋に触れてしまい…。 俺も馬鹿だな、考え事しすぎて不注意だった。 今考えても仕方ないし、今の楽しさには今触れておかないといけない。 楽しい時に暗くなっていたら、周りも暗くなってしまうだろうし。 よし、今度父さんと母さんに電話で打ち明けてみようかな。 俺は全部知ってるって。 そのうえで、父さんたちと話したい。 旅がちょっと中断するかもしれないけど、蓮華なら許してくれるだろうし。 そんな時、傍らで眠っていたブースターのメウロが突然目を覚まし、辺りをきょろきょろと見回し始めた。 ユウキ:「メウロ?どうしたんだ?」 だが、メウロは俺の言葉も聞こえていないのか、いきなり走り出してしまった。 ユウキ:「おい、メウロ!」 仕方がなく、火を消してそのままメウロの後を追うことにした。 すぐに戻ってくれば蓮華も心配しないよな。 荷物もそこに置いておいたし。 走り出した俺は、勢いよく走っていくメウロを見失いかけたが、何とか追いつくことが出来た。 ユウキ:「メウロ、メウロってば、しっかりしろよ。どうしたんだ?一体。」 だが、メウロは俺から離れたいのか、もがいてばかりだった。 今まではこんな事、一度もなかったのに。 その時だった。 突然煙玉を投げつけられ、 ユウキ:「誰だ!」 と叫ぶと、何だか聞き覚えのある曲が流れ出した。 これは確か、スペース団が現れていたときの音楽…。 誰だって叫ばなきゃよかったかな? って、そんなことより、スペース団が再び復活したのか? しかし、俺の目の前に現れたのは、初めて出会う、スペース団とは全く違うものだった。 ???:「誰に聞かれても教えない教えたくない♪」 ???:「けれども教えてやろう。」 ???:「世界をハッピーにさせるために♪」 ???:「世界の悲しみ消し去るため」 ???:「愛と夢と希望を抱く♪」 ???:「孤独でクールな2人組み」 ???:「チカゲ♪」 ???:「ハヤテ」 チカゲ:「宇宙のなかの小さなホシに生きるネオアース団の2人には♪」 ハヤテ:「いつかは明るい希望が待っている」 チカゲ:「えへへv」 俺の目の前に現れたのは、俺と同じくらいの年だと思える、赤毛三つ編みに大きめのメガネをかけた女性と、結構年上そうな紺色の髪の男性だった。 しかも女性はフランス人形のような人形を、男性はノートパソコンのようなものを持っていた。 それにしても、ネオアース団だって? ユウキ:「お前ら、ネオアース団って何だよ!メウロに何をしたんだ!」 チカゲ:「そのブースターちゃんのことぉ〜?ちょっとねぇ〜、炎タイプがとりこになっちゃうポロックの匂いを風に飛ばしてみたんだぁ〜。 うまぁ〜く、引っかかってくれてよかったよぉ。だって、私、そんなにポケモンちゃんを傷つけたくないんだも〜ん。」 何だか調子の狂う女性だと思った。 メウロはそのポロックのにおいを感じて走り出したんだろう。 気づけば、メウロは、その女性、チカゲの元でポロックを熱心に食べている。 ユウキ:「メウ…」 ハヤテ:「動くな。」 俺が近づこうとすると、ハヤテとか言った男性が俺を一蹴するかのように言った。 ハヤテ:「このブースターがどうなってもいいのなら、動いてもいいぞ。」 チカゲ:「この子はねぇ、一応人質ちゃん何だよ〜ん。あなたが動いちゃったらね、この子が死んじゃうかもしれないよ〜ん。」 ユウキ:「なっ…、メウロを返せ!それに、ネオアース団って何なんだ!」 チカゲ:「イヤ〜ン、そんな目で見ないで〜、怖いよぉ〜。」 ハヤテ:「熱くなりすぎると、自分自身を見失うぞ。オダマキ博士のご子息の将来有望なポケモン研究家の道を持つ少年。その様子では、 父親のようにはなれないぞ。」 ユウキ:「う、うるさい!」 俺はメウロを取られ、言われたくない事をそのまま言われた事で熱くなりすぎて、周囲をまともに見れなくなっていることに、全く気づいていなかった。 ハヤテ:「冥土の土産に教えてやるよ。ネオアース団とはマグマ団、アクア団、そしてスペース団とロケット団の残党を集め、グラードンとカイオーガをこの手に宿し、 我々の真の世界を築くために、この世界を終焉に導くための組織さ。お前が前に倒したと思っているアオギリ様、マツブサ様も健在だ。お前も一応、我々のブラックリストに 光栄にも名前を残しているぞ。」 ユウキ:「世界を終焉に導く…?しかもアオギリやマツブサが組織にいるだって?話が分かったはずじゃなかったのかよ…。これからはよりよいポケモンとの世界を 築くって約束したはずなのに…」 ハヤテ:「お前とマツブサ様、アオギリ様の考えは鼻から違っていたに過ぎない。それも分からぬようでは、父親のようにはなれないぞ。」 ユウキ:「父親、父親って、俺は俺の道を行くんだ!お前らには関係ない!」 ハヤテ:「そうか、せっかくの有望路線を捨てるってことか。そんなことをすれば、お前は父親に見放される事になるぞ。」 ユウキ:「なっ…、そんなことがあるか!」 ハヤテ:「分からないのか?お前がこうして旅をしているのは、お前の父親が、お前にポケモンの暮らしを見せ、さらにいい研究者になってほしいからなんだぞ。 そんな父親の想いにも気づかないとは、情けない奴だ。」 ユウキ:「そんな…」 チカゲ:「ユウキ君ってさぁ、お父さんとは血がつながってないから〜、本当の家族に思えなくて悩んでるんでしょぉ〜?」 ユウキ:「それは…」 チカゲ:「せっかく家族がいるのにさぁ〜、なぁんにも言えないなんてかわいそう〜。本当は、せっかくの家族をいらないと思ってるんじゃないの?」 ユウキ:「そんなことない!俺と血がつながってなくても、母さんも父さんも俺の大事な母さんと父さんだ!俺は十分愛されて育ってきた!お前らに言われる筋合いなんてない! それに、お前らの方が家族が悲しむんじゃないのか?」 俺が言った途端、いきなり周囲の温度が下がったような気がした。 目の前にいる女性の雰囲気が変わっている。 チカゲ:「愛されて…?それに、家族が悲しむ?…そんな事、言うの?…そう、それなら…、その幸せ、壊してあげるわ。」 さっきとは全く口調が違い、冷たい視線を俺に浴びせてくるチカゲ。 言葉にも怒りを含んでいた。 チカゲ:「ハヤテ、手は出さないでよ。」 ハヤテ:「ああ、あいつは分かってないからな。血がつながってなくても家族がいるというのに、家族に何も打ち明けない事を悪いと感じていない。 そんな奴に、家族は必要ない。俺は人やポケモンを傷つけることは望まないが、こいつに関しては許す。好きにやれよ。」 チカゲ:「ええ、それにしても、普段は私の本性をとめるのに、今日はとめないのね。それだけ、彼が許せないようね。 分かったわ、はじめは人質にするつもりだったけど、気が変わった。ジュペッタ、行きなさい。」 さっきとは二人の様子が、表情が、纏っていると思われるオーラが大きく変わり、俺を睨むように冷たい視線を投げかけていた。 ユウキ:「ジュペッタが相手なら…、しまった!ポケモンがいない!」 メウロを追いかければいいだけだと思い、他のポケモンを持ってきていない事が災いした。 ジュペッタが相手にいるのに対し、俺はポケモンでバトルが出来ない。 チカゲ:「ポケモンを持たずにこの子を追いかけたことが失敗だったわね。ジュペッタ、鬼火よ。」 ジュペッタが鬼火を俺に打ち出してくる。 その姿に迷いがないってことは、人にも普通に攻撃できるってことらしい。 だが、鬼火の速さは遅いから、3,4個でも、俺は楽に避ける事が出来た。 チカゲ:「それじゃ、ジュペッタ、シャドーボールよ。」 今度はシャドーボールが飛んでくる。 ヤバイ!と思い、後ろに飛び避けた時、足を何かに掴まれ、尻餅をついた。 両足を黒い手が掴み、離そうとしない。 チカゲ:「うふふ…、ようやくお前は罠にかかったわね、これで、お前は…、うふふふふ…」 ハヤテ:「わははははははは…、チカゲを怒らせたこと、お前は今になって後悔する事になるだろうな。だが、その後悔はもう遅いぞ、わ〜っはははは…痛てっ!」 大笑いを始めたハヤテは、チカゲのキックを受けて呻いていた。 そして再び俺に向き直るチカゲ。 チカゲ:「お前は今から私の奴隷よ。」 ユウキ:「誰が奴隷だ!俺はそんなものになる気はない!」 チカゲ:「あらっ?この状態でまだ減らず口が叩けるのね。そう、それならいいわ。ジュペッタ、この坊やに金縛り、そして嫌な音よ。さらに、ナイトヘッド。」 金縛りで体が動かなくなった俺は否応なしに嫌な音で攻撃された。 頭が割れるように痛い、体がどうかなってしまいそうなほどに…、やめてくれと言いたくても、何も言えない…。 そして黒い波動が俺を包んだ時、俺の意識が遠ざかり始めた。 チカゲ:「あら、もう終わりなの?もっと苦しんでよ、もっと私を楽しませてよ、もっともっとね・・・・アッハッハッハッハ…」 ハヤテ:「それくらいにしておけよ、チカゲ。そろそろやれ。」 チカゲ:「分かってるわよ、指図しないで。ゲンガー、催眠術よ。」 あたしが水汲みから戻った時、キャンプ地には誰もいなかった。 蓮華:「あれっ?ユウキがいない…」 ミューズ:「メウロもいないね、料理は出来てるみたいだけど…、離れて時間が経ってるみたいよ、冷めてるもん。」 蓮華:「何か、あったのかな?」 あたしはきっぴーに火をおこしてもらって、シチューを暖めながら待っていた。 すると、茂みががさっと音を立て、ユウキとメウロが戻ってきた。 メウロは眠っているようだ。 蓮華:「どこ行ってたの?いないから心配したよ。」 ユウキ:「悪い、メウロが寝ぼけて走り出してさ、捕まえるのに手間取った。シチューの味付け、もう少しで終えるから待っていてくれよ。」 蓮華:「ええ。」 ユウキはいそいそとシチューを作っていた。 あたしは安心して任せ、数時間後、シチューが出来上がった。 とってもいい匂いがして、すごく食べたいって思った。 でも、ミューズやソルルは何か様子がおかしい。 ユウキの方をチラチラ見ながら話している。 蓮華:「ミューズ?ソルル?どうかした?」 ミューズ:「えっ?う〜ん、何でもないと思う。何か…微妙な気分だから。」 蓮華:「ふぅ〜ん。」 あたしは二人を尻目に、ユウキに話しかけた。 蓮華:「やっぱり料理が上手なのっていいね。」 ユウキ:「そんなことないって。」 蓮華:「そんなことあるよ、ユウキが料理が上手だから、オダマキ博士もスズカさんも安心よね。」 ユウキ:「・・・」 蓮華:「ユウキ?どうしたの?」 ユウキ:「…えっ?あ、悪い、ぼーっとしてた。」 蓮華:「もう、しっかりしてよ。食べよ。」 何か、みんなおかしいなぁ。 どうしたんだろう…? あたしがシチューを食べようとした時だった。 ソルル:「ソル!ソル!」 突然ソルルが、あたしの手からシチューを跳ね除け、さらに鍋をひっくり返していた。 蓮華:「ソルル?どうしたのよ、いきなり。」 あたしが怒りそうになったときだった。 ミューズ:「蓮華、このシチューから異様な匂いがするわ。人間には分からない微妙な匂いだけど、これ、毒よ。 さっきから何かおかしいと思ってたのよね。」 ミューズが言い放ち、ソルルがユウキを睨んでいる。 蓮華:「ユ、ユウキ…?」 ユウキ:「残念だった。せっかく、お前を殺せると思ったのにな。」 操られてる。 すぐ直感した。 これまでにドリームやリースイに操られた仲間を見てきているせいか、ユウキが操られている事はすぐに分かった。 でも、ユウキはあたしたちが今までに見てきた形とは違う行動を起こしていた。 ユウキ:「俺は失敗した。俺は失敗するしかない駄目な人間だ。駄目な奴に生きていく価値はない。だから俺は、ここで死ぬ。 今の家族に見放され、本当の家族に捨てられた俺は、生きていく価値がないんだ。お前を殺せなかったのは、俺の唯一の心残りだな。」 近くにあった包丁で自殺しようとしていたのだ。 だけど、これはユウキの親友によって遮られた。 ユウキのパートナー、メウロの電光石火がユウキにぶつかり、グロウがフラッシュを立てたので、ユウキは包丁を手放したのだ。 その直後、ユウキはミューズの蔓の鞭で縛られた。 ユウキ:「離せ!俺は死ぬしかないんだ!俺は捨てられて当然なんだ!見放されたんだ!死んだ方がいいんだ!」 ユウキは蔓の鞭から逃れようと暴れに暴れていた。 ミューズも抑えるのが大変のようで、近くで様子を見ていたアゲハやリーフィー、ポーやソルルもミューズに力を貸していた。 流石にメウロも、ボールから飛び出してきたボウスやグロウも唖然としている。 こんな彼の姿、一度も見たことがないのだろう。 それほどまで取り乱しているユウキ。 あたしは、黙って彼を抱きしめた。 頭を強く殴られても、あたしは彼を離さない。 蓮華:「あなたは一人じゃないよ。見捨てられても、見放されてもいない。死ななくてもいいの。あなたは、みんなから愛されているから。だから、安心して。」 あたしは癒しの光を放出した。 蓮華:「ユウキ、淋しかったら泣いてもいいよ。あたしが、全部受け止めるから。ミューズもメロウも、グロウもボウスも、みんな、あなたのこと、大好きだから。 あなたのこと、ずっと見守ってるから。だから、安心して、あたしたちに投げかけていいよ。」 あたしの光が、徐々にユウキの表情を和らげて言った。 そして、ようやくユウキは、安らかな表情で眠りについた。 でも、それと同時に尋常じゃない熱を出していた。 あたしの癒しの光は洗脳や催眠をとく力。 ヒーリング能力はあるけど、これは一時、病院に行ったほうがいいかもしれない。 蓮華:「ボウス、メウロ、グロウ、ミューズ、それに、アゲハ、リーフィー、ポー、ユウキをトウカシティのトウカジムに運んで。 ミューズ、何が会ったのかを話して、ユウキを助けてもらって。あたしも後で行くから。」 ミューズ:「分かったわ。みんな、行くよ!」 ボウスの上にメウロとミューズが乗り、ユウキを乗せて、他の飛行タイプたちと一緒にトウカシティに目指して行った。 どうせならあたしも行けばいいんだけど、実はさっきから、あたしたちを見ている人たちがいるから。 だからその人たちの相手をするために、この場に残っていた。 監視にあたしは気づいていない振りをするために、ソルルに目配せて、鍋を片付ける振りをしていた。 たぶん背後にいるのは、ユウキを操った人。 あたしを殺すって言う暗示をかけたとしたら、あたしを狙ってるってこと。 あたしを狙うとしたら、一つしかない。 あたしを狙うのは、あたしが解散、壊滅に追い込んだスペース団の人たちくらい。 また復活したのかな? でも、あたしが言っても出てこないだろうし。 この際だ。 蓮華:「一体何なのかな?後ろの方で隠れてる変な人たちは。」 すると、案の定、これが効いた。 茂みの方から何かが立ち上がる音がしたので、落ちている鍋を茂みに向かって投げつけ、バケツに入っている残飯を続けて投げ放った。 それも適当な調味料を滅茶苦茶に放り込んでおいて…。 ???:「痛〜い!」 ???:「がはっ、何だこれは…。」 その間にあたしは、 蓮華:「ソルル、相手にゴーストタイプがいる可能性は高いわ。力を蓄えていて。それからよま、この辺に広範囲において見破る攻撃を 放っておいて。」 と、ポケモンたちに指示を出しておいた。 相手が誰かを洗脳するとしたらいる可能性が高いポケモンは、ゴースとタイプとエスパータイプ、そして、暗示をかけるとしたら炎タイプ。 だから、アクアとサゴッピ、そしてポチとハッスルにも出てもらっておいた。 すると、ようやくいつもの曲が流れ始め、ああ、やっぱりスペース団かって思いかけたら、これがまた違っていた。 ただ、何だか暗くて怖そうな声。 やっぱりさっきの鍋と残飯に怒ってるかな? 怒らせたほうが、相手に失敗を起こさせやすいと思ってたんだけど。 そして、彼らは現れた。 チカゲ:「あんたなんかに教える義理はないけれど」 ハヤテ:「けれども教えてやろう。」 チカゲ:「世界を闇に包み込んでしまうために」 ハヤテ:「世界の悲しみ消し去るため」 チカゲ:「絶望と孤独と不幸という理不尽を貫く」 ハヤテ:「孤独でクールな2人組み」 チカゲ:「チカゲ」 ハヤテ:「ハヤテ」 チカゲ:「宇宙の暗い星に生きるアース団の2人には」 ハヤテ:「いつかは明るい希望が待っている」 チカゲ:「ということよ」 蓮華:「ネオアース団?新しい組織が出来たのね。」 ハヤテ:「そういうことさ、我々の仲間にはスペース団に所属していたものも多く、お前に復讐を考えるものも少なくない。 だからお前を捕らえるように、ボスからの命令を受けてるのさ。」 チカゲ:「そのために、さっきの坊やを餌にあんたを捕まえようと思ったのよね。あーたのしかった!あいつのあの顔ったら傑作ね!」 二人はユウキのことを思い出して笑っているようだったけど、残飯でどろどろになったネオアース団の制服を着て、かっこよくしている二人の姿は、 思いっきり滑稽で、笑えるものでした。 蓮華:「悪いけど、そんな姿の方が全然笑えるわよ。」 チカゲ:「誰のせいでこんな姿だと思ってるの!あたしのドリスちゃんが汚れちゃったじゃないの!」 蓮華:「あたしで〜す!って、オバサン、その年で人形?変なの。」 チカゲ:「何ですって〜!!ドリスの悪口をよくも言ったわね!」 ハヤテ:「この仕返しは今ここでやらせてもらうぞ。俺たちの辞書に敗北と言う文字は載った事がないからな。」 チカゲ:「さっきの坊やみたいに、あんたを苦しませてあげるわ!ジュペッタ、ゲンガー、行くのよ!」 ハヤテ:「キュウコン、バクフーン、行け!」 ネオアース団の二人は、予想通りゴーストタイプと炎タイプを出していた。 蓮華:「アクア、サゴッピ、ポチ、ソルル、お願いね。」 ミロカロスのアクアが、サニーゴのサゴッピが、グラエナのポチが、アブソルのソルルが迎え撃つように出てきた。 チカゲ:「ジュペッタ、シャドーボールよ!ゲンガー、シャドーパンチ!」 ハヤテ:「キュウコン、大文字だ!バクフーンはオーバーヒートを食らわせろ!」 それぞれの攻撃が、あたしに向かって打ち出されていた。 どうやら、さっきの攻撃を受けたからか、真面目にバトルをする気がないようだ。 でも、彼らの攻撃はあたしのポケモンたちが阻んでいた。 サゴッピがオーバーヒートをミラーコートで突き返し、アクアがハイドロポンプで大文字を相殺し、ポチの吠える攻撃がジュペッタをおびえさせ、 同時に攻撃を四散させ、ソルルのカマイタチがゲンガーごと攻撃を切り刻んでいた。 チカゲ:「なっ…そんな…」 ハヤテ:「1ターン目ですべてを一蹴だと…!?」 蓮華:「みんな怒ってるもの。大事な旅の仲間を傷つけたことを。そしてあたしも怒ってるわよ。必殺、ソーラー弾!」 あたしの攻撃が飛ぶと同時に、今出ているみんなの攻撃が一気に放出され、二人は爆発と共に吹っ飛ばされていった。 チカゲ:「あ〜ん、楽勝だと思ってたのにぃ〜、ドリス、負けちゃったよ〜!」 ハヤテ:「この次は俺の手を汚さずに無傷で連れて行くぞ、快く待っていろよ!」 やな感じとか、やな気持ちとかは聞こえてこなかった。 やっぱり全部同じなわけはないかな。 あたしはポケモンたちを戻し、ユウキのトロピウス、名前はピースというらしいけど、ピースの先導で、トウカシティに舞い戻る事にした。 蓮華:「ユウキの容態はどう?」 あたしがジムに戻り、ポケモンセンターの一室にいることを教えられて行ってみると、ユウキが寝ているのが見えた。 そこにはスズカさんとオダマキ博士、センリさんやナナの姿もあった。 ミューズ:「説明しておいたよ。…あいつらは?」 蓮華:「倒した。でも、あたしを狙ってた。ネオアース団っていうらしいんだけど、スペース団の残党もいるらしいから、明らかにあたしを狙ってるわ。 このまま旅を続けたら、ユウキが危ない。だから、あたしはユウキとは旅は出来ない。」 ミューズ:「そうだよね、能力者でもないし、道案内って言う理由でこれ以上何かあったら、あたしたち、申し訳が立たないもんね。」 あたしたちが黙って出て行こうとしたときだった。 立ちはだかったのは、というより、あたしたちは結界に阻まれて外に出られなかった。 この中でそんな事が出来るのは…。 蓮華:「ナナ、邪魔しないで。」 ナナ:「駄目、ユウキ君はあなたを必要としてるわ。」 ミューズ:「そうだけど…。あのね、さっきからうわ言で蓮華を呼んでるの。謝りたいみたい。でも…」 ナナ:「これ以上迷惑をかけないためにここを出て行くんなら許さないよ。ミューズから全部聞いた。ユウキ君が心に貯めてた事も。 オダマキ博士もスズカさんも、それを知った上でユウキ君を一緒に旅に連れて行ってほしいって言ってた。ユウキ君が精神的にも、成長するために。」 蓮華:「…」 あたしは考える事にした。 連れて行くか、連れて行かないか。 あたしが病室に入ると、スズカさんとオダマキ博士があたしに頭を下げていた。 あたしに対して怒っていないのがつらかった。 あたしといたからこうなったのに…。 そしてユウキは、魘されながらあたしを呼んでいた。 あたしは、手を握るしか出来なかった。 どれくらい、時間が経ったのだろうか? 気がつくと、部屋にはナナとミューズしかいなかった。 ミューズ:「博士たちはジムよ。」 ナナ:「一応、蓮華ちゃんに全部を任せるそうよ。連れて行ってもいいって言ってた。ユウキ君は落ち着いたわ。あたしのゴースが、ユウキ君の中に取り込まれてた、 ナイトヘッドの闇を吸収してくれた事で安静になった。ポケモンの攻撃を受けた事で、人間にこれほどまで害があるとは思わなかったわ。 でも、もう安心だから。」 ミューズ:「ユウキ、さっき起きて、また寝ちゃったんだけど、蓮華が手をつないでてくれたから、すごく嬉しがってて、そして泣いてた。 申し訳ないって、自分のせいで蓮華がつらい目にあったって。蓮華、自分だけが傷ついてるって思ってるかもしれないけどさ、 蓮華よりも、こういうことが初めてな、ユウキの方がもっと傷ついてると思うよ。 だから、自分ひとりが悪いって背負わなくてもいいよ。 それに、蓮華、言ったじゃん。全部受け止めるって。これからも、あたしたちが一緒に旅をする事で、ユウキ君の弱い部分を受け止めて、ユウキ君を成長させてあげよ。」 蓮華:「うん…でも…」 ユウキ:「俺がいないと、料理はどうするのさ。」 蓮華:「え…」 ミューズ:「ユウキ?」 ナナ:「起きたのね。大丈夫?熱は?」 ユウキ:「もう平気ですよ。…蓮華、ゴメン、俺のせいで…。俺、いろいろと弱かったんだ。そのせいで蓮華がつらい目にあって…。 俺、もっと成長しなきゃいけないんだ。そのために、つらくて、危険で、大変な旅になるかもしれないけどさ、俺は断られてもついてくからな。 いいだろ?」 蓮華:「…本当に、いいの?」 ユウキ:「ああ。…俺、決めたから。」 蓮華:「ありがとう。」 ユウキ:「俺の方こそ、助けてくれてありがとう。…これからもよろしくな。」 蓮華:「うん、よろしくね。」 あたしは再び、ユウキと旅をする事を決めた。 でも、ユウキが元気になるまでに、後二日くらい待たなきゃいけなかったんだけどね。 そして、あたしとユウキ、そしてミューズたちは旅立ちました。 ネオアース団という厄介な敵があたしを狙っている中で、再び、旅を始めました。 でも、あたしも、ユウキも、多分もう、大丈夫だと思う。 危険と知っててはじめる旅だから。 ユウキ:「あ…」 蓮華&ミューズ:「どうしたの?」 ユウキ:「大事な事忘れてた…」 ミューズ:「お父さんたちとのことは終わったんでしょ?」 ユウキ:「ああ、…バルキーの特訓、4日くらいやってないよな。…やべえ、トウキさんに怒られる!」 蓮華:「…頑張ってね。」 あたしは焦る彼を見て、頑張れとしか言えないのでした。 センリ:「よかったのか?あの子にもっと大事な事があったんだろ?」 ナナ:「ええ。…もう、こっちのジムリーダーには知れ渡らされたのよね?現実世界とこっちとで、厄介な事が同時に起きていて、 二つとも蓮華ちゃんにかかわっているってこと。でも、いいの。言わなくて。」 センリ:「本当にそうか?後で後悔しないよな?」 ナナ:「あったとしても、しないわ。能力者全員で決めたことだから。蓮華ちゃんがこれ以上、周囲に敵を感じないためにも。」 センリ:「そうか。…しかし、あの二人、どうも普通の旅仲間には見えないな。」 ナナ:「やっぱりそう思う?…あたしも。二人とも、記憶を失ってるからね。何か、絡んでるかもしれない。」 それが分かるまでは、二人には何も言わない方が絶対にいいでしょうね。 蓮華、ユウキ君、ミューズ、気をつけてね。