パチッパチッという音が聞こえて、あたしは目を覚ました。 魔法陣の中で爆発を受けて、そのまま気を失って…、あたしが辺りを見回すと、洞窟みたいなところにいることが分かった。 そして近くには秀治先輩がいて、焚き火とテントがあった。 誰かがキャンプをしているみたいだ。 腕に痛みを感じたけど、治療してくれた形跡もあるし、あたしたちを助けてくれた人がやってくれたのかな? でも、誰が…? そう思っていると、その人は洞窟の中に戻ってきた。 洞窟の周囲は海なのか湖なのか分からないけど水辺みたいで、その人はポケモンに乗って戻ってきていた。 ??:「起きたんだね、いきなり空から降ってきたから何かと思ったよ。ラチア、その人に果物をあげなよ。おなかも空いてるだろうしさ。」 ラチア:「むきゅ〜!」 そのポケモン、ラチアと呼ばれたオオタチは、あたしにリンゴやモモンの実を持ってきてくれた。 綾香:「ありがとうございます。あたしは綾香。…あなたは?」 ??:「俺か?俺はヒロ。オオタチ使いのヒロだ。君たちの事はつい先ほどナナにポケギアで聞いてきた。詳しくは分からないが、大変な状況のようだね。 まずはここで、しっかり体を休めてくれよ。」 どうやら、あたしの目の前に現れた青年は、ナナの知り合いらしかった。 っていうか、何か、聞いたことあるな、この人のこと。 綾香:「あの…、もしかして…、ナナの彼氏のヒロさんですか?」 ヒロ:「えっ…、あ…、あぁ、…そうだけど。」 あたしが言い放つと、流石にヒロさんは動揺していた。ちょっと直球過ぎたかもしれない。 第3章 7.マスターの実力 綾香:「それじゃ、ヒロさんはこの世界に飛ばされたときに記憶を全部失ってるんですか?」 ヒロ:「ああ、ちょうどオオタチ、このラチアなんだけどな、こいつがいて、何か思い出せる気がしたからずっと一緒にいるんだ。 だけど俺の外見、3年位前から全く変わらなくなってさ、ナナが言うには能力者じゃないってことらしいけど、俺の記憶が戻れば 分かる事だから、気長に待ってるんだ。」 綾香:「へぇ〜、何だかすごい人ですね。でも、記憶はないことに何か後悔とか恐怖とかはなかったですか?」 ヒロ:「いや、なかったね。全く何も覚えてない形で自分の知り合いがいるわけがない場所に来たからさ、ここが新しい俺の 世界だって思ったし。」 何だか偉大性のある人だと思った。 こういう人だからナナも安心して遠距離恋愛をしてるのかもしれない。 ヒロ:「ところで、君はこれからどうするんだ?君の言う風使いと戦うのか?それとも狙われていると言う君の知り合いを探すのか?」 綾香:「えっと…、う〜ん…、探したいですよ、親友だから。」 ヒロ:「それなら探せばいいんじゃないか?それとも風使いと戦う方を選ぶのか?」 綾香:「みんなの意見から行くと、蓮華に内緒でこっそり守るべきらしいんですけど、そうすると戦う事になるんですけどね。 あたしの能力やポケモンたちじゃ勝ち目がないし、こっちの世界に来る術式が軽々と破壊されたのを間近で見てるから、 迷っちゃうんです。やらなきゃいけないって分かってるのに。」 ヒロ:「そうか…。だが、人間一人一人、いつか動かないといけないって言う時が必ず来るからな。逃げる事は出来ないんだ。 多分、今動かないと始まらないんじゃないか?」 あたしはすごく迷っていた。 でも、ヒロさんと話していて、やっぱり動かないと始まらないし、動こうかと考え始めていた。 ヒロ:「ところでそっちの彼はどうするんだ?」 綾香:「えっ?」 振り返ってみると、秀治先輩が起きだしていた。 巻かれた包帯をむしり取っている。 綾香:「秀治先輩、傷口が開きますよ!」 秀治:「いいんだよ、もう治ってるから。」 綾香:「えっ?…あ、ホントだ…。」 秀治先輩は地面属性なんだけど、自己治癒能力は人一倍あるらしくて、あたしの腕の傷がまだ半分も治ってないのに、秀治先輩の方は完治していた。 秀治:「で、これからどうするかって?もちろん、風使いを倒しに行くだけさ。」 綾香:「で、でも…、秀治先輩と哲也先輩が一撃で倒されたのに、ですか?」 秀治:「ああ。だが、それぞれの能力が活躍できる場所があり、俺は家を壊すわけには行かないから力がまともに発動できなかったようなもの。 本来の力を使えば同等の力で相打ちも可能だ。」 ヒロ:「相打ちと言うと、君は彼らと死を共にしてもいいということか?」 秀治:「ああ。あいつらは俺の家族を奪った敵だ。復讐が何も生み出さない事は分かってるし、母さんや父さんが喜ばない事も知っている。 でも俺は、あいつらを倒したい。殺すまでは考えてないけど、あいつらに死の恐怖を思い知らせてやりたいんだ。」 ヒロ:「すべてを分かった上で復讐を自分自身の中に受け入れたってことか?」 秀治:「ああ。」 ヒロ:「そうか。なら、決まりだな。俺が二人と共に行動するよ。」 突然ヒロさんはあたしと秀治先輩の仲間宣言をした。 もちろん、あたしも秀治先輩も反対した。 能力者じゃない一般人が加わったら足手まといになるかもしれないし、恩人だけど、守りきれるかも分からない。 でも、ヒロさんはあたしたちと行動すると言い切った。 ヒロ:「だが、その前にやることがある。」 綾香:「やること?」 秀治:「何だ?」 ヒロ:「ここは日照りの岩戸という小さな洞窟でね、この近くにはヒワマキシティという街がある。そこのジムリーダーに会い、 君らをテストしたい。本当に修羅場をくぐる気があるのなら、彼女に打ち勝ってほしいからな。」 綾香:「ジム戦、ですか?」 秀治:「そんなことか。」 ヒロ:「軽く考えているようだな。だが、彼女には能力は通用しないぞ。彼女は能力者の能力をすべて四散させる力を持った特殊な人間だ。 数年前から彼女の元で修行をしている能力者も、これには参ってるようだしな。」 この言葉に秀治先輩は口をつぐんでいた。 何かやる気だったのかな? そう思ったときだった。 ヒロ:「危ない!」 突然入り口の方で光が見えたかと思うと、あたしと秀治先輩は、ヒロさんに突き飛ばされた。 その直後、大爆発がして、砂や石が頭に降ってきた。 顔を上げてみると、キャンプしていた場所は真っ黒に焦げ、跡形もなくなっている。 ??:「あらら、惜しかったわ。もう少しで2人分、いえ、部外者も入れて3人分を焼却処分できると思ってたのに。」 ヒロ:「何者だ?先ほどから外の方で気配を感じていたが。」 ??:「ふぅ〜ん、能力者じゃない人が能力者の気配に気づけるとは、さすがね。」 誰かは入り口からあたしたちの方に近づいてきた。 そこにいたのは、赤い長髪をした色白のアメリカ系出身っていう感じの人でした。 ??:「あたしはリース=イクシーズ。風使いの一人として、ネオアース団としてあなたたちを探し、処分するために来たのよ。 知らないだろうし、ここで消えるんだから教えてあげるわ。今、ネオアース団は、現実世界の二つの組織、風使い一族と手を組んでいるの。」 綾香:「…な、何が目的なのよ!」 リース:「元々世界は征服されるためにあるもの。能力者が上に立ち、力がないものを奴隷として扱うためにある。だが、ほとんどの能力者はそれを望まない。 だからあたしたちがやるのさ。あたしたち能力者が世界を征服するために。そのためには邪魔な平和主義の能力者が邪魔だ。 だからあたしたちはネオアース団と手を組んだ。すでに現実世界の世界中の能力者に風使い一族の手が及んでいる。それが終わり次第、現実世界はあたしたちの手に下る。 そのためにも、ここであなたたちには死んでもらわなきゃいけない。」 とんでもない事を聞いたと思った。 どうせなら早くみんなに伝えたい! 特に、現実世界のみんなに。 リース:「さて、質問はおありかしら?」 秀治:「ああ、一つだけ聞く。どうして俺たちがここにいると分かったんだ?」 リース:「うふふ、ちょっと大変だったけど、あたしたちが拘束している能力者の中に、術を使ってゲートを開いた場合の行き先を読める子がいるの。 その子を使ったのよ。散々てこずらせてくれたけどね。さて、もういいわね。あたしの特別製、雷と光の合わさった光弾であなたたちを焼き尽くしてあげるわ。」 リースの両手に光が集まりだした。 さっきの攻撃状況から見ていくと、今アレを受ければ確実に負ける。 そんな時、あたしの背後で秀治先輩とヒロさんが何かをやっていた。 リース:「それじゃ、さようなら。」 そして攻撃が打ち出された。 あたしは怖くて目を瞑ってしまったけど、それと同時期に後ろに引っ張り込まれていた。 そして、爆発が聞こえた。 でも、何も起きていないし、何も感じない。 恐る恐る目を開けてみると、あたしたちの目の前には、巨大な岩の石像が立っていた。 秀治:「大丈夫か?」 綾香:「秀治先輩…、これは?」 秀治:「俺の能力の一つ、岩や土を使って物体を作り上げる力だ。今のうちに逃げるぞ。」 後ろを振り向くと、穴が掘ってあった。 ヒロ:「俺のラチアの『穴を掘る』だ。今のうちに行くぞ。」 ヒロさんが穴から顔を出していった。 あたしは二人に連れられる感じで穴を通り、洞窟から出る事が出来た。 でも…。 リース:「逃さないわよ!」 すでに回り込まれていました。 リース:「逃げようとしても無駄よ。あたしからは逃げられない。」 秀治:「だが、お前がどのような力を放とうとも、お前の能力は俺の能力には勝てない。それでもか?」 リース:「くっ…、よりにもよって大地の能力者と当たってしまうとはな…。だが、それならあたしのしもべたちが 相手になるだろう。行くがいい!」 リースは突然、モンスターボールをたくさん投げ、それらはあたしたちを取り囲むかのようにして出現した。 ヒロ:「フシギバナの♂が5体に♀が4体、スピアーが5体、そしてベトベトンが6体か。」 綾香:「♂♀が分かるんですか?」 ヒロ:「あぁ、俺、これでもマスターウォッチャーだからな。」 秀治:「マジかよ。」 マスターウォッチャーとは、ポケモンマスターであり、ポケモンウォッチャーでもあるという人のことだ。 ヒロ:「さて、君らも適当に相手をしてあげるといいよ。俺は俺で、そこの9匹のフシギバナと戦わせてもらうけどな。 そうだな…、綾香はスピアーを、秀治はベトベトンを相手すればいいよ。無理そうだったら俺が加勢するからさ。」 綾香:「えぇ!」 秀治:「命令かよ…」 ヒロ:「いいからいいから。」 リース:「この野郎どもが…、さっきからごちゃごちゃと何を言っている!あたしの育てに育てたしもべたちを倒すだとでもいうのか?無理は言うな。 おとなしく、ここでやられるといい!」 そしてリースの言葉と共に、ポケモンたちが襲い掛かってきた。 ヒロ:「でかさは一斉攻撃では弱点になることを知らないのかな?」 フシギバナは一斉に葉っぱカッターを放ってきた。 だが、そのスピードは遅いな。 ヒロ:「ラチアを出すまでもない。ここは、パッツル、行ってこい!」 パッツル:「パッチ〜」 俺が出したのはパッチールのパッツル。 フシギバナは目の前に現れた小さなパッツルを見て、呆れながら攻撃をしていた。 だが、パッツルは蔓の鞭を優雅にかわし、葉っぱカッターをステップでかわしている。 中には俺に向かって攻撃する奴もいたが、俺にはそんな事は全く通用していなかった。 ヒロ:「パッツル、フラフラダンスからだまし討ちだ。」 パッツル:「パッパッパ、パパッパパ!」 パッツルはフラフラダンスを踊りだした。 すると、フシギバナは一斉に混乱し、お互いを攻撃しあっている。 そしてだまし討ちが彼らの同士討ちを激しくさせた。 ヒロ:「たくさん相手がいようとも、集団でパッツルにかかってくるのは危険だぞ。混乱させるだけだからな。」 徐々にフシギバナの動きは鈍くなっていた。 ヒロ:「さて、そろそろか。パッツル、爆裂パンチだ。」 パッツルは、一番近くのフシギバナを思いっきり殴り、9体すべてを弾き飛ばした。 楽勝だった。 すると、 リース:「私のフシギバナたちをよくも!」 とリースが俺に向かってきた。 手には電撃の塊があるな。 だが、俺は動じる気はなかった。 リースが俺に攻撃する前に、すでに俺がボールからポケモンを出していたから。 ??:「ヌ〜マ〜!」 リース:「何っ!」 ヒロ:「ヌマンジ、そいつと遊んでやってくれよ。俺は二人の援護に行くからな。そしてパッツル、フシギバナの後始末を頼んだぞ。」 リースやフシギバナの相手をしながらうなずく二人。 ヌマンジはヌマクローだ。 リースの両手の電撃を無効化し、リースに組み手を仕掛けて動けなくしている。 パッツルは起きだそうとするフシギバナたちを催眠術で眠らせ、凍える風で体力を奪っていた。 ポケモンを育てているようだが、フシギバナの一つ一つに斑があるからな。 完璧に育てているようだが、実際は完璧ではない。パッツルは俺の持つ6匹の中で一番弱い奴だ。 それだけ、俺には適わないってことだ。 綾香:「ドクケイル、サイケ光線!マグカルゴ、火炎放射よ!」 あたしは簡単にスピアー相手にされて、何とか戦っていた。 でも、スピアーの動きは早くて、なかなか攻撃が命中しない。 逆にすでに、ペリッパーとヌオーが倒されてしまっていた。 攻撃が早くて、素早さがあって、これじゃ、倒すに倒せない。 そして再び、スピアーの破壊光線がドクケイルを倒してしまった。 綾香:「そんな…、マグカルゴ、溶けて防御力をあげ、再びオーバーヒートよ!」 だけど、スピアーは全くそれを受けることなく、あたしに襲い掛かってきた。 でも、突然飛び込んできた何かの波動に、スピアーは弾かれ、マグカルゴに触れて火傷を負っていた。 綾香:「えっ?何?」 ヒロ:「どうやら苦戦しているようだな。」 綾香:「ヒロさん…」 ヒロ:「ここは俺がやる。お前は秀治のサポートをしてきてくれ。ミロカロスとニドクインが残ってるだろ?」 綾香:「はい。…でも、どうしてそれを?ナナから聞きました?」 ヒロ:「ああ、穏やかな炎でポケモンを包む能力者、それが君だろ?」 綾香:「はい!」 あたしはマグカルゴを戻し、ミロカロスたちと一緒に秀治先輩のところに向かった。 ヒロ:「さて、スピアー5体か。まっ、1匹は火傷だけどな。ボルケニー、頼むよ。」 俺の横にいるのは、俺の4番目のポケモン、ピカチュウだ。 先ほどの波動はこいつが放った。 ヒロ:「ボルケニー、電光石火で遊んでやれよ。そして、あの火傷を中心に回れ。最後はスピードスターでいいだろう。」 ボルケニー:「ピッカ!」 スピアーの近くを電光石火で走り回り、スピアーはボルケニーに当てるための攻撃を味方に当てていた。 さらに火傷状態のスピアーの近くにボルケニーが走ったため、まず火傷状態のスピアーが倒れ、続いて1体、2体と倒れていく。 最後にスピードスターが一体を倒し、スピアーは全部落下した。 ヒロ:「う〜ん、これでいいだろうが…、ボルケニー、電磁波を放出しておいてくれよ。」 念のために、電磁波で麻痺状態にしてもらうのだった。 綾香:「きゃ〜!」 秀治:「おい、サンドパン、しっかりしてくれよ!」 振り返ってみると、二人は苦戦しているようだった。 ミロカロスとネイティオの姿はあるが、他のポケモンはいない。 どうやら倒されたな。 あの2体も毒を受けているようだし、今にも倒れそうだ。 逆にベトベトンは2体倒せたか。 だが、4体はまだ無傷のようだな。 ヒロ:「二人とも、よくここまで頑張ったな。後は俺がやる。」 俺は二人のポケモンを、勝手にボールに戻した。 綾香:「ちょ、ちょっと!」 秀治:「何すんだよ!」 ヒロ:「ポケモンを休ませろってことだ。あの状態で続けていれば、お前たちの負けは確実だ。これを使って毒だけでも回復させてやれ。」 俺は毒消しを渡すと、ベトベトンに向かった。 普通サイズよりもでかいな。 ベトベトンは俺を見ると、ヘドロ攻撃やヘドロ爆弾で襲ってきた。 だが、それらはパッツルのサイケ光線と、ボルケニーの電気ショックが相殺した。 ヒロ:「二人は下がれ。次はこいつの出番だ。テミア、ルーニャ、出番だよ。」 テミア:「ロゼ!」 ルーニャ:「トッチック!」 テミアはロゼリア、ルーニャはトゲチックだ。 ラチア、ヌマンジ、テミア、ルーニャ、ボルケニー、パッツルが俺のポケモン。 こいつら以外はゲットしていないし、ゲットしてもすぐに逃がしている。 変えた事は一度もなかった。 ヒロ:「テミア、草笛を吹け。ルーニャは天使のキッスだ。」 ヘドロ爆弾を華麗にスピンしながらかわしたテミアは草笛を吹き鳴らし、ルーニャは飛行しながら天使のキッスを投げかけた。 ベトベトンは密集しているので、動くのも遅く、草笛と天使のキッスの効果を受けるのは遅くなかった。 ヒロ:「最後だ。ルーニャ、目覚めるパワー。テミア、ソーラービーム。」 二人の攻撃がベトベトンを一掃した。 これでリースのポケモンは全部倒したな。 俺には朝飯前だった。 ヒロ:「お前のポケモンは全部倒したぞ。」 ヌマンジをボールに戻しながら言うと、リースは敵意をむき出してして、再び俺に襲い掛かってきた。 だが、俺は黙って彼女に道具を投げた。 見事命中すると、彼女はのどを抑えながら咳き込み、何を言っているのか分からない言葉で逃げていった。 綾香:「あの…、何を投げたんですか?」 ヒロ:「ああ、これさ。」 俺が投げたのは力の粉。 テミアの好物だ。 苦い粉で、ポケモンが飲めば、主人を嫌いになってもおかしくないらしいが、テミアはこれが大好きなので、俺はたくさん購入していた。 でも、やっぱり苦いものは苦い。 リースはこれを顔に受けて、いまとてもきつい状態だろうな。 秀治:「えげつねえな。」 ヒロ:「俺がか?」 秀治:「ああ。」 ヒロ:「そうかい?まぁ、いいだろう。これからすぐにヒワマキシティに向かい、今日はそこで休むよ。ジムに行くのは明日だ。 君たちのポケモンは今日は動けないだろうからね。」 俺の言葉に、二人の反論はなかった。 ナナ:「ネオアース団が現実世界の二つの組織とつながってるのね?」 ヒロ:「ああ、リースとか言う奴が、俺たちに冥土の土産と称して教えてくれたよ。このこと、そっちで役に立つよな?」 ナナ:「ええ。助かるわ。律子たちが来たら伝える。…綾香ちゃんと秀治君のようすはどうなの?」 ヒロ:「疲れて寝てるかな、綾香は。秀治は外だ。どうせ喫煙でもしてるんだろう。…ナナ、あの二人は俺に任せてもらえるよな?」 ナナ:「当たり前でしょ。お願いね、あの二人は能力者のルーキー。ポケモンバトルはそれなりに強いけど、まだ初心者に過ぎないところがあるわ。 ポケモンは十分に育ってるから、後は少し揉んでやってね。」 ヒロ:「分かった。…ところで、俺のアレの事、わかったか?」 ナナ:「ええ、分かったわ。でも、ゲートが出来ないと無理よ。それに、あなたの過去が明らかになってもいいのね?」 ヒロ:「ああ。俺は色んな奴らを旅で見てきた。アクア団やマグマ団に潜入して、解散になったときの状況も見てきた。 修羅場もくぐった。どんな過去が俺にあろうと、俺に家族がいて、もし俺だけが生き残っていたとしても、すべてを受け入れるよ。 復讐は考えないと決めたからな。過去がどうであっても、俺は俺だ。」 ナナ:「なら、安心ね。」 ナナはそう言うと電話を切った。 今の言葉は嘘ではない。 俺がこの世界に来て旅を続けて決めたことだ。 さて、秀治のところにでも行くかな。 行ってみれば、やっぱり喫煙をしてた。 ヒロ:「未成年は喫煙は禁止だろ?」 秀治:「んあ?うるせえな、俺の勝手だろ。」 ヒロ:「まっ、俺が言う事でもないな。それより、中に入っていた方がいいぞ。」 秀治:「何でだよ。」 ヒロ:「耳を済ませれば分かる事だ。聞こえないのか?」 秀治:「…………あ、いるな。そこに。」 俺が教えてやると、秀治は泥の塊を投げた。 べちゃ! ??:「ちょっと、ひどいじゃないの。私の服に泥がつきそうになったわよ。」 すると出てきたのは、気配バレバレで隠れていた女性だった。 リースと同じでネオアース団の制服らしき姿(Nのロゴが入ったロケット団の戦闘員服と同じもの)をしていた。 ヒロ:「気配がばれている方が悪い。お前もネオアース団だな。」 ??:「そうよ。私はアミカ。リースとはコンビを組まされてるけど、つい昨日ほどに解消させてもらったわ。私は男をいたぶって楽しむのが 好きだし、能力者は憎悪むき出しで嫌いになるほどなの。アクアカップで私の妨害工作を邪魔した人たちだから。」 秀治:「哲也から聞いたことがある。アクアカップで健人を落としいれ、涼治や晃正を攻撃し、哲也に敗れて去った女だな。」 アミカ:「それらの名前、聞き覚えがあるわ。懐かしい名前ね。そうよ、私はその時に逃げ、アクア団残党に拾われたわ。 それから訓練を重ね、ネオアース団の一員になったの。能力者を倒す事を目的として。すでに人質がいるわよ。」 ヒロ:「人質だと?」 アミカ:「ええ、ジョーイに変装して、あなたの仲間が泊まっている部屋にマタドガスを仕掛けてきたわ。このボタンを押すと、彼が反応して、 毒ガスを放出するわよ。窓はすべて開かなくしたし、ドアも開けられない。彼女も動けなくなってるわ。どう?それでも反抗するの?」 手を回したってことか。 相手は自信満々、俺は動じてないが、秀治は焦りの表情を見せていた。 ヒロ:「仕方ない。秀治、お前も出せ。」 俺は持っているボールをすべて出し、目の前に置いた。 秀治:「だけど、そんなんであいつが助か…」 ヒロ:「置け。」 秀治:「…分かったよ。」 俺が強く睨むと、仕方なく秀治もおいた。 アミカ:「ふ〜ん、そう、降参してくれたの。…あっ、間違ってボタン押しちゃったわ。」 秀治:「何っ!」 アミカ:「それに、マンキーちゃん、そこのボール、壊しなさい!」 そしてマンキーが飛び出し、俺と秀治のボールの開閉スイッチを破壊した。 秀治:「そんな…、…おい、お前がやれって言ったからやったんだぞ!仲間を返せ!」 秀治はアミカではなく、俺に殴りかかってきた。 だが、俺はそれを受け流した。 ヒロ:「分かっていないのか、お前は。お前らも気づいていないな。」 俺が言ってやった時、アミカが異変に気づいた。 綾香がいる部屋には変化が起きていないのだ。 アミカ:「どういうことよ!」 ??:「それは俺が教えてやるよ。」 アミカがうろたえた時、ようやくやってきた。 俺の知り合いが。 ヒロ:「遅いぞ。」 ??:「しょうがないだろ、ナギさんにあの子を任せてたんだから。」 ヒロ:「ナギさんに連絡し損ねてたお前が悪い。綾香は無事だろうな?」 ??:「無事だよ。マタドガスは毒が吐けなくて気を失ったからさ。こんな風にな。」 俺の知り合い、目の前に現れた少年は、アミカたちに向かって何かの煙を放出していた。 ??:「吸わない方がいいよ。マタドガスの毒ガスと同じものだからさ。」 アミカ:「えっ…?…わけの分からない事を言わないで!マンキー、ハリーセン、行きなさい!ギャラドスもサメハダーも行くのよ!」 アミカは??が言っても理解できず、俺たちに襲い掛かっていた。 だが、今度は俺が動いた。 ヒロ:「何匹いても弱いだけだ。ボルケニー、やれ。」 さっき壊されたボールはフェイク。 本当のボールから飛び出したボルケニーのボルテッカーが、4匹のポケモンを弾き返し、アミカ一人が残されていた。 実はこういうことだったのだ。 アミカが隠れていた時、実は俺に会いに、俺の知り合いの能力者が来ていて、アミカのことを察していたのだ。 だから視線を飛ばし、そいつを動かして綾香を助け出したと言うわけだ。 ヒロ:「残念だが、これで終わりだ。ボルケニーの攻撃で吹っ飛ばされたくなければ、ここは立ち去った方がいいぞ。」 アミカ:「そのようね。まさか、こんな厄介な奴が仲間にいたとは思わなかったわ。失礼するわね。」 アミカは去っていった。 秀治が追いかけようとしていたが止めた。 ヒロ:「ポケモンも持っていなくて、気配を消している奴の存在に気づけない奴が追いかけても、2次災害を起こすだけだ。 お前は弱い、明日から数日、特訓した方がいいな。」 秀治:「めんどくせぇな、何でお前の命令を聞かなきゃいけないんだ?」 ヒロ:「お前は承知して復讐したいんだろ?だが、お前の場合、復讐する前にのたれ死ぬだけだ。」 がっくりした秀治と再び眠りについた綾香を部屋に戻し、俺は知り合いと顔をあわせた。 ヒロ:「ストール、明日から頼むぞ。」 ストール:「分かってる。俺のいた研究所もかかわってる。厄介な事には変わりない。ナギさんには頼んであるから大丈夫だ。」 ヒロ:「そうか、地獄の3日間とまでは行かないだろうが、ストールと十分戦えるようになれば、秀治と綾香を連れて旅立っても大丈夫そうだな。」 ストール:「ああ。今回の旅は普通じゃない。気楽な気分でいても、バトルは真剣以上でやらないと負けるもんな。」 あと少しで夜が更けそうなので、ここで話をやめた。 部屋に戻っていくと、二人もぐっすり寝ていた。 いきなり戦いの場に連れてこられたようなものだしな、こいつらのこと、しっかり守ってやらなきゃ駄目だな。 そう思いながら、俺は寝た。 そして。 深夜。 ゴソゴソゴソ…。 そして早朝。 綾香:「18になっておねしょとはね…」 ヒロ:「あきれた奴だな。」 秀治:「俺はしてねえよ…」 ポケモンセンターで大きな地図が干されていた。 全く、俺にイライラをぶつけようとしても無駄なんだよ。 実は、秀治が俺の布団に細工をして、俺がおねしょをしたように見せかけようとしたらしい。 だが、俺は寝る前に気づき、その細工を投げ返した。 落ちたのは秀治の寝ている場所で、次の日、こういうことになったのだった。 ナギ:「ふざけた奴を鍛える事になるとはな。ストール、お前にあの男を任せようと思ったが、お前はヒロと共に綾香を任せる。」 ストール:「はぁ…(ナギさん…久々に燃えてるな。かわいそうな奴だ、あの秀治って奴)」 こうして、綾香と秀治は地獄の特訓の日々を迎えることになった。