志穂:「やっぱり全てを知るためには彼らのいる場所に行かないと駄目ね。」 律子:「ええ、でもどうやって?」 志穂:「向こうが行動を起こさない限り何が起きるかは分からないわ。」 律子:「ええ。…里が騒がしくない?」 志穂:「そうね、外には式神たちを放っておいたはずだけど…、何があったのかしら?」 二人が神社の倉庫でこんな会話をしていた時、復旧したばかりの神社で、風使い一族との第1戦が行われていた。 それはこのようなことから始まっていた。 今から数時間前のこと… なずな:「海ちゃん、お願い、目を覚まして!…駄目だ、起きないや。」 力を送っても一向に目を覚ます気配がなく、ずっと眠り続けている。 力を放出しすぎたことにより、体全体が精神を共にして睡眠状態に入っているからだと言われても、それなら力を送れば 目を覚ますんじゃないかって思ってしまう。それくらい、海ちゃんが目を覚めるのを祈っているのが、このところのあたしの日課。 毎年だったら家族旅行のシーズンだけど、今年はあたしは行けなかった。 こんな戦いが始まってしまった以上、みんなにすべてを任せるわけには行かない。 あたしだって能力者の一人。 力は弱くて、移動手段としてしか役に立たないとしても、あたしはやることをやりたいから。 だからこうして海ちゃんの目覚めを祈っていた。 そこに看護婦さんがやってきた。 看護婦:「なずなちゃん、いつも大変ね。」 なずな:「えっ、はい…」 あたし、この看護婦さんと会うのは初めてなんだけどな…。あたしの名前、誰かから聞いたのかな? そう思ったとき、ガラスの向こうの海ちゃんの病室で爆発が起きていた…。 第3章 8.風使いの里へ そして暴かれた秘密 なずな:「海ちゃん!」 爆発によってあたしの力が無意識に発動し、さっきいた場所から少し離れた、ガラスの飛んでこない場所に移っていたあたしは、 何が起きたのかを知るのに時間がかかっていた。 戻ってみると病室は破壊され、海ちゃんの姿は消えていた。 そしてガラスが破られていて、何かがどこかに飛んでいくのが見える。 多分、風使いが海ちゃんを狙った可能性が高い。 でも、どうして…? 哲也:「何があったんだ!」 そこに他の病室で休んでいるはずの哲也先輩たちが走ってきた。 なずな:「海ちゃんが、風使いに攫われました…。」 玲奈:「嘘っ…」 清香:「なずなちゃんは大丈夫だったの?」 なずな「はい…、…相手は看護婦さんに変装してました。あたし、気づけませんでした。だから、あたしが後を追います。」 あたしは意識的に海ちゃんのことを考えてテレポートをした。 哲也:「おい、草壁!」 玲奈:「あ…」 清香:「行っちゃったわね…」 あたしたちは唖然としてそれを眺めていた。 なずなちゃんは闇にとらわれる事が多かったからか、責任感のある仕事や係についてみんなをサポートする役目に回る事が多くなった。 それだけ、海ちゃんが攫われてしまったことに責任を感じたのだろう。 清香:「行くしかないよ、二人とも。なずなちゃんだけじゃ、彼らには適わないもの。」 玲奈:「でも、どうやって?」 哲也:「草壁のテレポートなら、海の居場所に確実についているはずだ。しかし俺たちはわからないんだぞ。」 清香:「でも、向かうしかないよ。あたしは行く。」 そう言った時だった。 あたしたちの目の前には、志穂ちゃんの鬼火が現れたのだ。 清香:「ついてこいってことなのかしら?」 玲奈:「それじゃ、行きましょ。」 哲也:「そうだな。」 あたしたちは鬼火の後を追った。 ??:「先輩たちが向かった…。あたしも…行かなきゃ…。」 テレポートをして着いた場所は、志穂ちゃんの直したばかりの神社だった。 そしてあたしの目の前には、海ちゃんを連れた竹巳っていう少年(先輩)がいた。 なずな:「海ちゃんを、返して!」 竹巳:「俺に追いついてきたのか、空気使い。だが、この娘は渡さない。風使いの里で力をすべて吸い取り、我々の力を強くするために 利用する。誰にも邪魔はさせない。」 あたしにたくさんの風の斬撃が向かってきた。 でも、あたしはそれらをテレポート能力でかわし、空気の波動を投げ返していた。 あたしには無意識的な自分を守る力が働くから、彼の攻撃から避ける事は出来た。 ただ、攻撃を無意識的に反応しちゃうから、海ちゃんに近づく事が出来ない。 なずな:「こうなったら、攻撃は最大の防御、必殺、気孔水流波!」 空気中の水分を纏った空気の波動を打ち出した。 それによって風の力を逆流して攻撃を彼にぶつけ、その隙に海ちゃんを救出した。 なずな:「よし、成功!」 あたしはテレポートをしようとした。 でも、そこでいきなり意識を失った。 竹巳:「やはり普通の能力者は甘いな、この周囲の酸素の量を減らし、意識を失いやすくしていたとは流石に気づかなかったようだ。 この娘、確か闇にとらわれたと言う報告もある。ちょうどいい、こいつも連れて行くとしようかな。」 哲也:「竹巳!」 竹巳がなずなと海を担ぎ上げた時だった。 ようやく哲也、玲奈、清香が駆けつけたのだ。 玲奈:「二人は連れて行かせないわ。」 清香:「あなたを捕まえて、風使いの目的を全てはいてもらうんだから。」 哲也:「…竹巳、今まで俺たちのことをずっと監視していたんだな。」 竹巳:「ああ、どっかの馬鹿な風使いがあの草鬼の娘を隠していたからな。俺と葛葉が監視役になったんだ。もちろん、あの馬鹿は知らないけどな。 あいつの代わりに草鬼の娘の生存を教えてやったわけだ。まっ、あの馬鹿はもう生きてないけどな。」 玲奈:「どういうこと?」 清香:「悠也と翼君は一緒にポケモン世界に行ったわ。あの二人に何があったのか、知ってるんじゃない?」 竹巳:「知ってるかもな。だが、お前らに教える義理はない。俺はお前たちとの偽りの絆を描いていたに過ぎない。 ここでその偽りの絆も消滅させる方がよろしいだろうな。」 竹巳が黒い上着を脱ぎ捨てると、上着の下には多数のモンスターボールがついていた。 竹巳:「悪いが、俺はこいつらを連れて行かなければならない。だからお前たちと遊んでいる暇はなくてね。 ここは俺のしもべにやってもらうことにするよ。じゃあな、あの世で幸せに暮らせよ!」 竹巳が投げたボールからは、3匹のニューラ、9匹のオニスズメ、2匹のストライク、4匹のポリゴンが姿を現していた。 そして同時に竹巳は背中の翼で飛び立ち、ポケモンたちは哲也たちに襲い掛かっていた。 だが、途中で竹巳は何かにぶつかったらしく、飛び上がることも進む事も出来ずにいた。 同時にポケモンたちが3人に近づく事も出来ずにいた。 竹巳:「これは…一体なんだ!」 彼が起こした色つきの風が、彼やポケモンたちを阻んでいる壁の姿を現した。 それは、大きな貝の姿をしていた。 竹巳:「貝の結界…、玲奈だな。」 玲奈:「ええ、ここにきたときにあたしの結界を発動したの。あたしが嫌いな人だけを出入りさせない結界よ。」 竹巳:「ならば、お前を先に倒すま…」 玲奈に竹巳が襲い掛かろうとしたときだった。 竹巳の翼が片方、突如吹き飛ばされていた。 竹巳:「何っ!」 同時に、彼のいた場所から海となずなの姿が消えた。 なずな:「彼の風の力の源を壊してきました。」 竹巳の翼を吹き飛ばしたのはなずなだった。 なずな:「後はこのポケモンたちを倒すしかないですね。」 と、その時、玲奈の結界が消滅した。 玲奈:「嘘…」 清香:「何が起きたの?」 竹巳:「残念ながら、葛葉の武器を一つ借りてるものでね、これで結界も消えた。もう、こうなればお前らを倒すほかない。 しもべたち、そこにいる奴を全て立ち上がれなくしてやれ!」 と、その時だった。 ニューラとオニスズメ、ストライクとポリゴンが光りだしたのは。 清香:「考えたくないけど、主人が攻撃を受けてやられたから、ポケモンたちが進化し始めたんじゃない?怒りによって…。」 玲奈:「こんな時に言わないでよ。…あたしも思ったけど。」 哲也:「しかし、ニューラも進化系があったとはな。」 ニューラはマニューラに、オニスズメはオニドリルに、ストライクはハッサムに、ポリゴンは、ポリゴン2に進化していた。 本来ならメタルコートやアップグレードが必要なポケモンもいたのだが、しもべと呼ばれていようと、ポケモンが主人を思う気持ちが 強かったと言うわけだ。 玲奈:「やるしかないわね、パルシェン、アゲハント!」 清香:「プテラ、トゲチック!」 哲也:「カメックス、ピジョット!」 なずな:「ジュペッタ、ヤミカラス!」 4人はポケモンを出し、目の前から向かってくるポケモンたちに迎え撃つべく行動に出た。 玲奈:「パルシェン、冷凍ビームよ!アゲハントは銀色の風!」 マニューラが銀色の風を受けて飛ばされ、オニドリルが冷凍ビームで凍りつき、墜落を始めていた。 清香:「プテラ、高速移動で翼で打つ攻撃!トゲチック、天使のキッスよ!」 プテラの翼で打つ攻撃がオニドリルやマニューラをなぎ払い、ポリゴン2を混乱させるトゲチック。 哲也:「カメックス、ハイドロポンプだ!ピジョットはゴッドバード!」 ピジョットのゴッドバードがハッサムたちを弾き飛ばし、更にハイドロポンプが押し流していく。 なずな:「ジュペッタ、ヤミカラス、ナイトヘッドよ!」 ハッサムには飛行タイプも水タイプも効果がないため、なずなのポケモンはナイトヘッドでハッサムだけを狙って攻撃した。 8体のポケモンたちは、自分たちの2倍もいる16体のポケモンたちに立ち向かい、哲也たちも竹巳を迎え撃っていた。 だが、進化したマニューラの力はニューラ以上のものであり、飛行タイプのポケモンが次々と倒されていった。 さらにハッサムのメタルクロー、オニドリルのドリルくちばしがカメックスを倒し、ポリゴン2の破壊光線がパルシェンを倒してしまい、 後にはジュペッタ以外は残っていなかった。 竹巳:「残念だけど、ここで終わりだな。もう少し楽しめるかと思ったが、お前たちは所詮そんなものだったわけだ。 最後の俺の風の波動を受けるがいい。」 彼がそう言った時、周囲の空気が変わるのを4人は感じた。 空気が殺気立ち、4人に敵意を示すかのごとく、風となり、空気となりて、4人を狙っているように感じさせていた。 竹巳:「食らうがいい、我が風使い暗殺奥義、風の…」 竹巳が技の名を言いながら、技を放とうとした時だった。 突然彼は動かなくなった。 彼自身も焦っている。中途半端な状態で、喋る事も、手足を動かす事もできずに固まっていた。 玲奈:「一体何が…」 清香:「あ…、香玖夜…」 玲奈:「えっ…?」 気づいたのは清香だった。 神社の入り口にいた香玖夜が、竹巳の伸びた影を握っていたのだ。 香玖夜:「遅くなってゴメン。…3人が病院からいなくなって、なずなや海ちゃんもいなくなったから、出てくるのが大変だったけど…。 でも、何とか出てこれたから来たよ。」 香玖夜は闇の能力者。闇や陰を自在に操れるために、竹巳の影を掴んで動きを止める事も出来たのだ。 だが、徐々にその影が動き出し始めていた。 玲奈:「まだ香玖夜は回復しきってないから…」 哲也:「能力を使いこなせてないってことか。」 それに気づき、竹巳のポケモンたちが動き出した。 香玖夜に襲い掛かろうとしていたのだ。 主人が動きを取り戻すためには、香玖夜を倒すのが優先と考えたらしい。 哲也たちは危ないと思ったが、先ほど竹巳に見せられた恐怖心が体をその場に引きとめ、動き出せなくなっていたのだ。 だが、誰も知らなかった。 前の爆発によって地面には多数の亀裂が入っていたために。 そして、香玖夜とポケモンとの距離が近づいた時だった。 浅香:「お待たせしました!」 地面を割って、ハガネールが飛び出したのだ。 同時にデンリュウとレアコイル、ランターンと共に、浅香が姿を現した。 この飛び出し攻撃に、竹巳のポケモンたちは跳ね飛ばされていた。 浅香:「ハガネール、デンリュウ、レアコイル、ランターン、お願い!」 マニューラたちがハガネールのアイアンテールによって跳ね飛ばされ、デンリュウの電撃波がオニドリルを確実に打ち落とし、 レアコイルのスパークがハッサムを一掃し、ランターンの波乗りがポリゴン2を押し流す。 だが、ポリゴン2とハッサムはまだ倒れなかった。 弱点となる炎タイプや格闘タイプがいないためか、ダメージは与えられても微量だったり、効果今一つだったりしたのだ。 しかし、浅香はあきらめていなかった。 ポケモンは倒せなくても、できることはしようとしたのだ。 浅香:「みんなのためにもあなたの動きを封じます。光のロープよ、我らを倒さんとする者の動きを封じよ!」 浅香の手から放たれた光が竹巳に巻きついて体を拘束し、同時に香玖夜が解放された。 そして浅香のハガネールの岩落としが、ランターンのスパークがハッサムとポリゴン2を倒した時、ようやく短いようで長かった竹巳との戦いが終わった。 志穂:「この離れは、あたしの神社の特殊な結界が施されていてね、あたしが認めた人以外は出入りする事が出来ないの。 ここに閉じ込めておけばいいわ。」 律子:「それに、さっきこれを飲ませたでしょ。だから、彼らが何をしようとしているか、や、何を始めようとしているか、 そしてあたしと志穂ちゃんが知りたいことを、そろそろ吐いてくれるはずよ。」 律子が取り出したのは、いつかマサキが作ったとナナが言い、ヒカリとライを凍りつかせた自白剤だった。 なかなか飲まなかったために、律子が自爆して口から流し込んだほどだった。 玲奈:「よかったの?ファーストキス…」 律子:「大丈夫ですよ、あたしのはもう終わってるし。」 清香:「それって、去年のお祭りの時に一緒にいた人?」 浅香:「何かかっこいい人だったよね。」 香玖夜:「最近は会ってないの?」 律子:「え、ええ…。…ちょっとね。」 と、その時だった。 竹巳が喋りだしたのは。 そして、彼らは聞いた。 風使い一族とネオアース団がそれぞれの活動のために、そして世界の征服や、能力者だけの世界を作って一般人を奴隷化することや、邪魔になる妨害者は 全て削除する事など、今までポケモン世界と現実世界でそれぞれ交互に半分も知らなかったことが、彼の口から零れ落ち、そこにいた一同は 凍りつく事になった。 彼らが考えていたことよりも大きなことが起きようとしていたのだから。 志穂:「ここまで大きかったとはね…」 律子:「向こうに向かったメンバーや飛ばされたメンバーも知っているのかな?」 玲奈:「向こうに行かなきゃ何も分からないわよ。」 哲也:「まずは向こうに行く事が最大の目的だな。」 竹巳:「あれっ?そんなことをしていいのかな?そんなことをしたら、人質が死ぬ事になるよ。」 清香:「どういう意味?」 竹巳:「涼風使いと泡使いを捕らえたからね。風の里で拘束してあるんだ。」 香玖夜:「でも、涼治君はポケモン世界にいるはずじゃ…」 竹巳:「向こうに行っているメンバーが捕まえてきたのさ。暴れてくれたからたっぷり痛めつけた。今頃弱りに弱ってるはずだ。」 なずな:「私は先に情報収集をしている来美先輩たちの手伝いに行きます」 竹巳の言葉にぞっとしたなずながまず動き出した。 涼治の名前を聞いたからかもしれないが…。 玲奈:「100年の恋は冷めても…」 律子:「一度好きになった人が何か危ない目にあってたら、ポケモン世界に行く事意外に出来る事でカバーしようってわけだ。なずなちゃんらしいな。」 志穂:「それで、あなたたちの里の場所を教えなさい。」 竹巳:「ああ、教えてやるよ。それはな…」 その後も竹巳は喋り続けた。 深い事までは知らなかったようだが、風使い一族の里にある本館の書庫には、今まで風使い一族が行った履歴を書き残したものがあるという。 他にも彼は、ポケモン世界の状況も話していた。 そして彼らは、綾香と秀治、美香と鈴香、晃正がそれぞれジムリーダーやナナ、ポケモンマスターたちに保護され、向こうでも様々なメンバーが動き出している事を 知ったのだった。 志穂:「ひとまず、哲也たちは病院に戻って力を貯めておいて。海ちゃんはさっき神社に伝わる秘伝の薬を飲ませたから、数時間もすれば目を覚ますわ。 その時に飛べるメンバーだけ飛んで。後は海ちゃんを守り続けてて。」 哲也:「分かった。確か草壁と希、来美姉が海外の方をやるって言ってたから、それ以外で何とかやってみるよ。」 志穂:「お願いね。日本以外の能力者については私でも流石によく分からないから」 玲奈:「で、二人はどうするの?」 律子:「風使いの一族の里に行ってきます。」 清香:「危なくないの?それに、場所が分かったといっても、見張られていたら見つかるわよ。2人は少ないと思うし。」 志穂:「大丈夫よ、何かあったら逃げる方法は出来てるから。」 律子:「あたしとセレビィと志穂ちゃんの力で、人質の二人ごと、あっちに、ポケモン世界に飛びます。それに、あたしたちは3人です。 それじゃ!」 そして、志穂と律子が動き出した。 その時哲也たち4人は、志穂と律子の後ろに、影の薄そうな、足がない少女の姿を見た気がした。 だが、すぐに彼女の事を認識し、仲間と直感した。 彼女が、志穂のゲンガーとムウマと手をつないでいたために。 そんな時だった。 海:「…ん?あれっ、あたし…」 海が目を覚ましたのは。 海:「そういうことね。」 これまでのことを知った海は考えた。 そして決めた。 海:「目覚めたばかりで悪いけど、あたしは二人しか飛べそうにないわ。哲也先輩と玲奈先輩、飛んでください。」 哲也:「分かったよ。」 玲奈:「行ってくるわね。」 浅香:「後のことはあたしたちにお任せください。」 香玖夜:「あたしたちで何とかやってみます。」 こうして、哲也と玲奈がポケモン世界に飛び、再び海は眠りに着いた。 だが、病院には更に頼もしい事がおきていた。 小麦:「遅くなりました。」 刹那:「後はわれらが引き受けよう。」 集結していなかった、小麦、刹那、天知、結人、秋一、そして退院した一志がいたのだった。 一志:「香玖夜と浅香ちゃんはゆっくり休んでくれよ。後は俺たちに任せとけって。」 〜その頃〜 チルタリスに乗って、志穂と律子はとある山奥のそばまでやってきていた。 その後を、一人の幽霊、瑞希がついていきながら。 志穂:「竹巳が言っていたのはこの辺りよ。」 律子:「確か、隠れ里のように他人を寄せ付けず、他人がやってきても気づかずに通り過ぎてしまうように結界が張られているんですよね?」 志穂:「ええ、でも、それを知ることが出来る人がいるわ。」 瑞希:「あたし…ですか?」 志穂:「ええ、あなたならできるはずよ。あなたはあたしがかけちゃって融合しちゃった他人に気づかれにくい体質を持っているわ。 それだけ、他人に気づかれないものを感知することは出来るはずよ。そうやって、あたしたちが通っていた中学の7不思議を摩り替えたんでしょ?」 律子:「摩り替えた!?」 瑞希:「バレバレですね、志穂ちゃんには。そうですよ、体操部やトイレの水はあたしがやったことだもん。学校が建て直されたり、 改築されたりするに連れて、本来の怪談の元になるものが消えたから、あたしが摩り替えて、新しい不思議を作ったんだもん。」 律子:「それで志穂ちゃんが全部知ってても、本当は5不思議しかないから、不幸な事件が起きなかったのね?」 瑞希:「はい。…もし、あたしだけが知ってる残りの二つを知った人がいたら、その人は、あの中学に埋まってる中学生のストレスの塊を、 自分のストレスとして持つ事になりますから。そうなることを抑えるために、あたしが摩り替えてます。でも、今回、あたしはばらしますよ。 風使いの一族の誰かに。」 志穂:「やっちゃいなさい。」 律子:「許すわよ、喋る事は自由だから。それに、あなた、幽霊じゃないわよね、もう。」 志穂:「強いて言えば、妖怪の一部になり始めてるかもね。」 瑞希:「かもしれないですね、舞さんに体が借りれなくなってきたら、本当に妖怪としてこのままず〜っと存在していたいですもん。 あたし、成仏する気ないですし。」 瑞希は蓮華や志穂たちとであった事で、遣り残した事が1個から10個に増える形で増えていた。 そのために成仏はまだまだ先になったのだった。 志穂:「それで、何かを感じる?」 瑞希:「う〜ん…、あっ…、何かありますよ、結界みたいなものだと思うけど。」 志穂:「どこ?」 瑞希:「…あたしの中に入れますか?」 突然瑞希は泡のような姿に変わった。 瑞希:「やっぱりあたし、学校の妖怪になり始めてますよね。これ、ボールをイメージしたらなれた姿なんです。」 律子:「でも、中に入ったら…」 瑞希:「大丈夫ですよ、友達は中に入っても大丈夫なようにあたし自身、コントロールできるようになり始めてるから。」 そして二人は瑞希の中に入り、風使いの結界を通り越した。 するとそこには、顔を隠した黒装束や白装束の老若男女が歩いている村のような場所があった。 志穂:「ここが風使い一族の里ね。」 律子:「喋っても大丈夫ですか?」 瑞希:「あたしの中にいるから、気づいている人、誰もいませんよ。あたし、気づかれにくいっていう特技がありますから。」 志穂&律子:「(それって特技とはいわないんじゃ…)」 そして瑞希、志穂、律子は、里の中でもっとも大きな建物がある場所にやってきた。 志穂:「何だかどこか昔の時代にやってきたような気がするわね。」 志穂が呆れ、 律子:「歴史の教科書に載ってたような…」 律子が頭を抱え、 瑞希:「テレビや漫画で見る村やふるさとっていう感じの建物よりも古臭そうですね。」 瑞希が人のことを言えない言葉を吐いた。 そしてさ迷い続けて3時間後のことだった。 3人はセキュリティが綿密に使われているような場所を通り抜けたとき、書物室のような場所にたどり着いていた。 志穂:「ここね。」 律子:「そうみたいですね。」 2人は、到着してすぐに、一冊一冊を読み始めていた。 何か、手がかりがないかと…。 だが、このとき2人は気づかなかった。 瑞希がいつの間にかいなくなっていたことを。 しかし、2人は、一心不乱に読書を続けているのだった。 そして、それから数時間ほどの事だった。 志穂:「多分…、これね」 律子:「何か見つかったんですか?」 志穂:「ええ」 志穂ちゃんと一緒に書物庫に来て数時間後、風使いが蓮華を必至になって殺そうとする理由を探していたんだけど、なかなか見つけることができなかった。 でも、そんな時、志穂ちゃんが一冊の本を見つけた。本というより日記のような物だったけど、明らかにそれだというのを志穂ちゃんが感じ取ったらしい。 私と志穂ちゃんはその本を読み始めた。 志穂:「草鬼、それは山に住み、植物から養分を吸い取るだけの、人を襲わない珍しい鬼……、…えっ?」 律子:「風使いによって世界を手にするために草鬼を手にかけ、鬼を操る事に失敗… …これって…」 志穂:「ええ、私たちが知っているはずの事情と食い違ってるわ それに、草鬼が凶暴ではなく、人を襲わない珍しい鬼だってことも 初めて知ったし」 私たちが読み始めてすぐに感じた違和感。 知っていることと書いてる事の食い違い。 ここに、私たちが知らない真実が書かれていると、私は感じていた。  〜書物の中身〜 その昔、人を襲う妖怪の鬼の中で、唯一人を襲わない鬼がいた。 それが草鬼。 草鬼は山に住み、植物から養分を吸収することによって生き抜くという、珍しい種族の鬼だった。 また、人を襲うこともなく、逆に人に姿を見られずに人を助けるといわれ、人里近くにも姿を現す事はなかった。 だがその代わり、草鬼は数が少なく、生息されている姿を見た人物も少ないほどの希少価値を持っていた。 また、同時に草鬼には他の鬼が持たない強力な神通力を持ち合わせ、平和的な性格とは相反するほどの強力な力の持ち主だと 伝えられてきた。 そのため、その力を利用して世界を征服しようとする者達が現れた。 それが風使いの一族だった。 彼らは草鬼の力を使って世界を自分達のものにしようと、複雑高度な術式を使って草鬼を捕らえ、草鬼に操ろうと考えていた。 しかし、複雑高度な術式はたった一つの初歩的なミスによって大失敗となり、草鬼は凶暴化して人里を襲うという結果となった。 この時風使いの一族達は焦った。 これが妖怪の世界の者達に知られれば、自分達に力を与えてくれた、風を属性とする妖怪たちから力を奪い取られると察したのだ。 しかも、実験で使われたことは、鬼の血が全てを記憶してしまっている。 そのため、無関係な数多くの人々や、数多くの自然が凶暴化した草鬼によって破壊され、殺されてしまった事を理由に、 風使いたちは自分達の行った行為を隠蔽し、草鬼を抹殺しようと狙った。 だが、風使い一族たちの知らないところで草鬼は子孫を残し、そして2人の子供が生まれた。 志穂:「この子供が多分、蓮華ちゃんと、蓮華ちゃんの弟ね」 律子:「でも、こんな秘密があったとは…」 これまでに風使い一族や、様々な能力者たちがこの秘密に気づいた。 だが、風使い一族は、この秘密が公になることを恐れ、事実を知ったもの、風使いの秘密を知ったという可能性を持つものを 次々と抹殺していった。 次にかかれたものたちは全て、その抹殺されていった者である。 志穂:「………」 律子:「し、志穂ちゃん、どうしたのよ、その形相は…」 志穂:「…私の両親の名前があった」 律子:「えっ…」 志穂:「私に親がいない理由は、殺されていたからだったんだ… それに、健人や神楽、秀治の親の名前もあるわ」 律子:「みんな、疑われて殺されてたんだね ずっと事故だと思ってたけど、健人先輩の親の事故も、実はこんな裏があったなんて…」 しかし、草鬼の子孫である子供は、バス旅行と称した集まりを自爆テロに見せかけて殺し、すべてが平和に解決した。 今後、草鬼の血が表れることはないだろう。 そのために、この本をここに残し、ここで終わらせる。  〜書物の中身 終〜 志穂:「多分、この時、蓮華ちゃんは両親の力によって仮死状態になり、死んだと思われていたのね」 律子:「でも、草の能力者がいることで、悠也先輩が監視に来ていて、そして蓮華ちゃんが草鬼の子孫であると見つけられてしまった…」 志穂:「だから今、再び草鬼の血を滅ぼそうとしているのよ ついさっき、管狐を海ちゃんに送ったわ」 律子:「後は、私たちもここを抜け出さないとね」 しかし、志穂と律子が立ち上がろうとした時だった。 周囲にあった壁が姿を消し、律子と志穂の周囲は風使いの一族によって取り囲まれていたのだった。 いつの間にか、気づかれていたらしい。 志穂:「やられたわね」 律子:「やるしかないね」 志穂と律子はボールと札を手にかけて身構えた。 〜その頃〜 瑞希:「あ、アレは確か…」 風使いの里を誰にも見つからずに出歩いていた瑞希は、壁を通り抜けてある一室に入り、驚きの声を上げた。 その声は大きかったが誰にも気づかれることがなく、その部屋で行われていることは続けられていた。 瑞希:「ひどいです、こんなことをするなんて…」 瑞希の目の前には涼治とヤツデの姿があったのだが、2人は上半身裸の状態で、鞭を振るわれていたのだ。 風使い:「そろそろ草使いを裏切り、我々に手を貸す気になったか?」 涼治:「誰がお前らなんかに!」 ヤツデ:「仲間を手にかけようとは思わない 何をされようとな」 瑞希がどんなに抜けていようとも、実は頭がよかったとしても、何が起きているのかはよく理解できた。 2人はここにさらわれてきて、蓮華や自分達を裏切らせようとする風使いたちから拷問を受けていたのだ。 涼治やヤツデの身体には傷や青痣が多く、普通だったら見るにも耐えないだろうが、瑞希は幽霊であり、このような姿の者を お仲間で目撃した経験があるために動じていなかった。 瑞希:「お二人を助けられるのは私だけですね」 瑞希はこの部屋に風使いが一人しかいないのをいいことに、彼に近づき、彼の肉体に入り込んだ。 直後、風使いは苦しみもがいて、その場に崩れ落ちていた。 幽霊が恨みを持ったまま身体に入ってきたのだ。 影響を受けない方がおかしいだろう。 だが、瑞希がいると知らない涼治とヤツデはこの状況に驚いていた。 涼治:「一体、何が起きたんだ?」 ヤツデ:「さあ?」 と、ここで瑞希が実体化した。 瑞希:「大丈夫ですか?」 涼治:「お前は確か…」 ヤツデ:「中学の自縛霊の瑞希だよな?」 瑞希:「はい! お2人の姿を見つけましたので、お助けいたします ちょうどさっき、ポケモン世界に行くためのゲートの ある部屋を見つけましたので、どうせなので一緒に向かいませんか?」 こうして瑞希は涼治とヤツデを救い出した。 だが、この時瑞希は、すっかり忘れていた。 志穂と律子の事を。 気づいたのは、風使いが使用するゲートによってポケモン世界に向かった直後だったが、人間外のものがゲートを使ったためなのか、 ゲートは誤作動を起こし、爆発を起こして涼治、ヤツデ、瑞希はバラバラに飛ばされてしまうのだった…。 ゲートが爆発する少し前、律子と志穂は戦っていた。 律子:「アンノーン、目覚めるパワーよ!」 志穂:「ジュペッタ、鬼火よ!」 目覚めるパワーによって風使いたちをかく乱させ、ジュペッタの鬼火が彼らに火傷を負わせていく。 律子:「今よ、ロゼリア、痺れ粉!」 志穂:「ゲンガー、怪しい光を放つのよ!」 やけどで体制を崩したところで痺れ粉と怪しい光が、更に彼らを追い払おうとするが、さすがに風使いの里なので、簡単に突破口が 開けるわけではなく、徐々に押されていく志穂と律子だった。 だが、2人はあきらめずに戦っていた。 少しでも隙ができたとき、その時に、律子のセレビィによって向こうの世界に飛ぼうと、2人は考えていた。 そして、あの爆発が起きたのだ。 爆発がゲートの方だと知り、風使いたちは志穂と律子から意識が向いていた。 律子:「今だ、セレビィ、時渡りよ!」 2人は何とかこれをきっかけにしてポケモン世界に向かった。 志穂:「何とか助かったわね」 律子:「ええ でも…」 志穂:「このことね… 早くみんなに伝えましょ 全ての情報を今手にして動けるのは私たちだけだから ナナと合流して、 作戦を立てるのよ」 律子:「分かったわ」 同時刻、何とか目覚めた海は、志穂の式神から情報を聞き、事態の深刻さを知った。 海:「まさか…、こんな事が隠されていたとは…」 天知:「妖怪界の長老方にこのことを教えなければいけないね」 結人:「悪いけど、俺たちはこれからちょっと行ってくる」 海:「お願い」 海から情報を聞いた雨降り小僧の天知と、天狗の結人は妖怪の世界に向かい、海は浅香をポケモン世界に飛ばし、眠りについた。 海:「これ以上の犠牲を増やさないためにも、早くことが進むといいんだけど…」