瑞希:「あれ…っ? ここはどこだろう…?」 私が目を覚ました時、周囲の景色は異様な場所だった。 ちょっと妖怪として目覚め始めた幽霊の私が来ると、化けて出たんじゃないかって思われそうな、微妙な場所。 霊場だからだった。 確か、風使いの人たちに拷問を受けていた御2人を助けて、ポケモン世界に行くためのゲートを使って…。 瑞希:「そうだ! 確か、爆発が起きちゃって、ずっと眠ってたんだっけ…」 ようやくそのことに気づいて周囲を見回すんだけど、さっきから気づいてるようにここは墓地。 だから、それ以外に分かる事は何にもなかった。 そんな時、私はスカートを引っ張られた。 瑞希:「誰?」 振り返ってみると、そこにいたのは頭全体を骨で覆っているポケモン…確か、ガラガラだったかな? そのガラガラがいて、私を呼んでいるみたいでした。 だから着いて行ってみると、山の上の方を向かっているように飛んでました。 どうやら、私のスカートを引っ張ったガラガラも幽霊みたいです。 その横には、リングマの幽霊も一緒にいました。 そして、私を先導して、着いた場所は、山の頂上でした。 瑞希:「ここに私を案内したかったの?」 だけど、そう聞こうとした時には、既にガラガラとリングマは姿を消していました。 その代わりに、蓮華ちゃんのミューズみたいに、頭を花で飾っている女の人が、私の前に立っていました。 ??:「あなたが瑞希ちゃんね 待っていたわ」 瑞希:「は、はい?」 よ〜く見ると、いつも寝てるはずの神楽さんが、ニコニコと私に手を振っているのが見えたのでした。 第3章 10.伝説を防ぐために… ??:「私はフヨウ あなたに頼みたいことがあってね、ここで待っていたの」 瑞希:「私に頼みたい事、ですか?」 フヨウ:「ええ」 そう言いながら、フヨウさんは祭壇のような物体に手をかけた。 そこには、何かが置かれていたと思える跡があり、その何かはどこにも見当たらない。 フヨウ:「普段はね、ここは霧に包まれているの」 瑞希:「霧?」 フヨウ:「そうよ でも、今は霧が出ていなくて、山の外の様子さえもよく見えるでしょ?」 瑞希:「はい…」 幽霊の漂う霊場であるはずなんですけど、さっきから気になっているくらい、全然晴れているんです。 何か、幽霊が存在している事自体が不釣合いなくらいに…。 その理由は、フヨウさんが教えてくれた。 フヨウ:「本来なら、ここには2つの珠が保管され、祀られているはずなの そのおかげで、この『送り火山』は霧による結界という名の 神秘の力で守られていた だけど、2つの珠が何者かの手によって盗まれてしまった だから、その珠を見つけてほしいの」 瑞希:「何故、私に頼むんですか?」 フヨウ:「あの珠を見つけることが出来る人は大勢いるけれど、とある伝説に準(なぞらえ)えるとしたら、異世界の幽霊にしかできない ことなのよ」 異世界の幽霊、つまり、私のことだ。 フヨウ:「あの珠を早く見つけないと、伝説どおりのことが起きてしまう だから、力を貸してくれないかしら?」 瑞希:「伝説どおりといいますと? それに、2つの珠って、どういうものなんですか?」 フヨウ:「それは…」 フヨウさんは口をつぐんでいた。 私がバカ正直だったり、初対面の人に対しては敬語を使っておとなしくしていたとしても、全てを聞かなきゃ動くわけには行かない。 私だってただのバカじゃないんだもん。 七不思議の伝説を防ぐために、デマを流したくらいなんだから。 瑞希:「どうなんですか?」 じっと私が見つめていると、最初に口を割ったのは神楽さんだった。 神楽:「フヨウ、これ以上頼んでもさ、喋らない限り、瑞希は動かないよ」 フヨウ:「そのようね」 どうやら、神楽さんは知っているみたいだった。 そして、話してくれた。 2つの珠、紅色の珠と藍色の珠、そしてグラードンとカイオーガのことを。 一度はアクア団とマグマ団の手によって奪われたらしいんだけど、2体の力がすさまじかったから、おとなしく団の解散と共に珠を返したらしいんだけど…、 どうやら、風使いの一団と一緒に暗躍して、再び珠を奪って行ったらしいんです。 瑞希:「でも、その珠を持っている限り、再び邪悪な心で大暴れして、全てを破壊するに至るだけなんじゃないんですか?」 フヨウ:「それもそうなんだけどね、今回は違うのよ…」 神楽:「新たなる闇の力を上手く翻訳するとな、今回の伝説どおりのことが起きた場合、両方の珠の力を押さえつけることが出来るらしい それによって、グラードンとカイオーガの力がパワーアップし、この世は世界の最初、陸と海に真っ二つに分かれ、そして滅ぶらしいんだ」 瑞希:「そんな…」 神楽:「風使いの奴らはこの世界のネオアース団と手を組んで世界征服をしようとしてるだろ? そのために、この世界を自分たちのものに作りかえるためにも 世界を最初の状態に戻そうとしてるってわけさ」 そういうことだったんだ…。 フヨウさんがこのホウエン地方の四天王らしいから、ナナさんにはこの知らせは届いてるはず。 でも、早くみんなに知らせないといけないし、珠を見つけないといけない…。 だから…、 瑞希:「分かりました 私、力を貸します!」 私は神楽さん(今は纏さんらしい)とフヨウさんと共に動き出した。 モコナ:「えっ? それじゃ、ずっと約束つぶされちゃってるわけなの?」 ミサト:「うん…」 カイナシティのカフェに、少女2人の姿があった。 2人はそれぞれポケモントレーナーとポケモンウォッチャーの肩書きを持っていて、数年くらい前からこの街で過ごしていた。 というより、ミサトの恋愛を後押しするために、モコナがこの街に留まっているだけなのだが…。 モコナ:「それにしても、最近なぁんか、忙しいよね ミサトの彼」 ミサト:「うん…、何かあったんじゃないかなって思ったんだけど、何にも話してくれないの」 モコナ:「ずっと黙秘?」 ミサト:「ええ」 そんなときだった。 突然、沖のほうの空が妙な色で光り始め、変わった紋様の円が姿を現したのだから。 モコナ:「なんだろう…?」 ミサト:「ゲート?」 モコナ:「えっ? ゲートって?」 ミサト:「…前に彼から聞いたことがあるの アクアカップで出会った彼の友人がこの世界に来る時に通るものらしいんだけど、 突然現れて、突然消える、変わった模様の円って言ってた」 モコナ:「それじゃ、そのゲートを通って誰かが来たってこと?」 ミサト:「うん、ちょっと待ってね」 ミサトはバッグから双眼鏡を取り出し、レンズを付け替えて眺め始めた。 モコナ:「流石はポケモンウォッチャーだね 私も見せて!」 ミサト:「ちょっと待って …えっと、あっ!!」 双眼鏡をのぞきながら驚くミサト。 続いて覗いたモコナも驚いた。 ゲートから落ちてきたのは2人が見たことのある人物だったのだから。 〜数時間後〜 久美:「ん…っ、ここは?」 モコナ:「あ、目、覚めたんだ!」 数時間後、カイナシティにある病院の病室に、久美は横たわっていた。 彼女が目を覚ました事で、モコナとミサトは駆け寄っていく。 久美:「あなた、確か…」 モコナ:「久しぶりですね」 ミサト:「大丈夫ですか?」 久美にとっては数年前に、2人にとってはその2倍の数年前に当るのだが、アクアカップで出会った彼女たちは、今になって対面を果たした。 久美:「ここは…?」 モコナ:「ホウエン地方のカイナシティです」 ミサト:「突然ゲートが現れて、皆さんが海に落下してきたので、急いでお助けしました」 すると、久美はハッとして周囲を見回す。 周囲には他の3人、健人、海斗、菜々美の姿があった。 久美と同様、体中を包帯で巻かれ、眠っている。 ミサト:「ヒワマキにいる彼に伝えてはあるんですが、やっぱりヒーリングが出来る人を呼んだほうがいいですか?」 久美:「…どうしてそんなことを知ってるの?」 ミサト:「私の彼氏、能力者ですからね」 ミサトの言葉に久美は驚いて目を見開いていた。 モコナ:「それで、何があったの?」 ミサト:「話してくれれば、協力しますよ 能力者じゃないけど、ポケモンバトルと偵察は、私たちの得意分野ですからね」 何気にポケモントレーナーやウォッチャーではないのだ。 そして2人は、久美たちから何があったのかを知ることになった…。 〜そして数時間後〜 モコナ:「彼氏と連絡はついたの?」 ミサト:「うん、でも、『勝手なことはするな!』ってさ」 モコナ:「うっわぁ、せっかく心配してるのに、ひどいね」 ミサト:「うん、でも、私たちのことが心配なんだと思うよ」 モコナ:「そうだけど…」 久美たち4人は、怪我の治療と疲労によって、もう少し病院で入院する事になった。 ミサトは彼氏にこのことを連絡したわけなのだが、危ない事をさせたくないらしく、色々と言われたようだった。 そのことにはモコナは憤慨しているようで、少々お怒り気味の御様子。 モコナ:「…で、ミサト自身はどうするの?」 ミサト:「私? 久美たちが元気になるまでは、ちょっとお見舞いとか行こうかなって思ってるんだけど…」 モコナ:「それだけ?」 ミサト:「それだけ…って、モコナ、まさか…」 モコナ:「当たり前じゃん! 私たちが出来る事は、私たちでやらなきゃね!」 モコナはどうやら、久美たちの代わりに戦う気満々のようだ。 その時、海水浴客で賑わっているはずの海岸が騒がしくなっていた。 モコナ:「何?」 ミサト:「何かあったみたい…」 2人が走っていくと、そこではシザリガーの形をしたロボットが、海岸の土(砂)を掘っては屋台や客にぶつけて暴れていたのだ。 モコナ:「…遊んでるのかな?」 ミサト:「…あれじゃ、暴れてるようには見えないよね」 流石に呆れる二人。 だが、この場合、どうすればあのロボットが反応するのかといえば、一つしかない。 だから、叫ぶ事にした。 2人とも、ミサトの彼氏とナナから話は聞いてるために、行くしかないと諦めているようだ。 モコナ&ミサト:「一体、何なのよ!!」 すると、ロボットが止まり、毎度おなじみの音楽が流れ始めていた。 ただ、向上は微妙に違っていた。 マユミ:「何なのよ!と、声がする」 エイジ:「天かける虹の向こうから」 マユミ:「銀河を回る太陽の奥から」 エイジ:「我らを呼んでる声がする」 マユミ:「健気に佇む一輪の華」 エイジ:「クールでラヴァーな敵役」 マユミ:「ラブリーファイター、マユミ!」 エイジ:「クールファイター、エイジ!」 マユミ:「ネオアース団の在るところ」 エイジ:「世界は…」 マユミ:「宇宙は…」 マユミ&エイジ:「君を待ち続けている!!」 モコナ:「なんか、変わったね」 ミサト:「う、うん…話とは違うよね」 口上が変わっていたことで、モコナとミサトは微妙に変な気分だった。 モコナ:「みんなの海水浴場で何をやってるのよ!」 マユミ:「あら、威勢のいいコギャルが2匹ね」 エイジ:「そのようだな 悪いが、このカイナシティに能力者とかいうガキが4匹転がり込んでいるはずだ そいつらをボスにささげるために 迎えに来たのさ それが上手くいけば、このカイナは俺たちが好きに使っていいと言ってくれてるからな、先にここで暴れて、 この街の威勢のいい連中を片付けようと思ったのさ」 ミサト:「威勢のいい連中…?」 モコナ:「なんか、私たちみたいな人のことだね〜♪」 ぽけぽけというモコナに、自分のことかとただ思うだけのミサト。 その様子に、気が短いのか、マユミは怒り始めていた。 マユミ:「あんたたち、私の話を聞いてるわけ? 私はあんたたちみたいな正義面の女は嫌いなのよ!」 エイジ:「確かお前ら、アクアカップに出ていたな データは十分に揃っている」 マユミ:「今のうちに逃げ帰った方がいいんじゃないの? じゃないと、あんたたち、この土の藻屑と化すわよ!!」 マユミはそう言いながら、メカを操作してシザリガーの鋏を2人に振り下ろしていた。 モコナ:「ここは…」 ミサト:「やっぱり…」 そんな声が聞こえたかもしれなかった。 だが、振り下ろされた鋏によって高く砂埃が立ち、2人の姿は隠れてしまっていた。 遠くから様子を見守っている群集たちは、2人がやられてしまったのかと思っていたほど…。 マユミ:「オ〜ッホホホホ…、だから、私たちにたてつかない方がいいのよ!」 エイジ:「いや、マユミ、何かいるぞ」 マユミ:「ん?」 2人がロボットの中から外の様子を見始める。 すると、その直後、ロボットの振り下ろした鋏が、逆に押し返され始めていた。 それと共に、砂埃が消え、ニョロトノとヤドキングの姿が現れていた。 2体はサイコキネシスを使って押し返しているようで、2体とも前に手を合わせて目を瞑っている。 ミサト:「ヤドキング、ニョロトノ、頑張って!」 2体の持ち主はミサトだった。 アクアカップ以降にヤドンとニョロゾが進化を遂げたのだ。 マユミ:「ちょ、ちょっとエイジ! このメカは悪タイプのポケモンと同じ力を発揮するからサイコキネシスは通用しないんじゃなかったの?」 エイジ:「あ、ああ、そのはずだが…どうやらメカ自身はポケモンじゃないから無理みたいだな…」 マユミ:「そんな!? くそっ、こうなったら、ロケットパンチよ!!」 マユミがスイッチを拳で叩く。 すると、シザリガーの2つの鋏がサイコキネシスを振り払って、モコナとミサトに向かって飛んできていた。 モコナ:「そんなことじゃ負けないよ! パルシェン、鉄壁で弾いちゃって!!」 モコナが放ったパルシェンが、鉄壁でシザリガーの鋏を弾き、ロケットパンチ状態の鋏2つは、ロボットに向かっていった。 そして爆発が起こり、ロボットからはマユミとエイジが転がり落ちてきた。 モコナ:「なんか、弱いね」 ミサト:「うん、もうちょっと手応えがあると思ってたんだけど…全然ないね」 モコナ:「なんかさ、アクアカップの時の方がバトルのレベル高くなかった?」 ミサト:「うんうん、ていうかさ、きっと、遠くで見てる人たちのポケモンでも勝てるよ 確実にきっと」 確かに弱かったため、ミサトとモコナは本音を喋っていたのだが、ロボットが吹き飛んで、今度はハガネールとウィンディの姿が現れた。 マユミとエイジが何か言っている様だが、2人は全く聞いちゃいなく、2人が向かってこようとしていた時だった。 ミサト:「私もモコナと一緒にさ、久美たちを守るって決めたよ だから、トドメは私が指すね」 モコナ:「うん!」 ミサト:「それじゃ…、エルオー、潮吹きよ!!」 ミサトが叫ぶと、海岸が突然大きく揺れ始めていた。 そして、マユミとエイジの足元から潮が吹き、ハガネールとウィンディと共に、大きく吹っ飛ばされていた。 一瞬の出来事だったために、最後の一言も聞こえないまま…。 モコナ:「それにしても、ミサトのホエルオー、強いね」 ミサト:「うん、お母さんが残してくれたポケモンだからね、私の隠し玉だもん」 そして2人は、このことを知らせに病院に向かっていくのだった。 ここに、能力者以外の協力者が誕生した。 秀治:「久美姉たちが見つかったのか?」 ストール:「あぁ、カイナシティにいるらしい」 綾香:「よかったぁ…、先輩たちや菜々美ちゃんも無事で…」 カイナでネオアース団の下っ端との戦いが行われていた頃、ヒワマキでは、ミサトから連絡を受けたストールが、秀治と綾香に朗報を知らせていた。 秀治はストールから、綾香はナギからの特訓を受け始めてから早数日。 元々ポケモンバトルの才能はあったために、徐々に秀治も綾香もレベルが上がってきていた。 だが、それでもヒロにはまだ到底及ばないようだ。 ストール:「さて、そろそろ特訓も終わりだぞ」 綾香:「どうしてなんですか?」 秀治:「まだ数日しか経ってないぞ」 ストール:「それがさ、本来ならゆっくりやるはずだったんだが…」 ナギ:「悠長な事を言ってる暇がなくなったのさ」 グライダーや飛行機などに乗るような服装をしている、髪の長い女性、ヒワマキジムのジムリーダー、ナギがやってきた。 その後ろにはヒロの姿もあった。 ナギ:「ネオアース団の動きが徐々に怪しくなってきた」 ヒロ:「ホエルコやジーランスの乱獲が始まっている以上、グラードンとカイオーガの動きを封じる役目を持つはずの3体の石像ポケモンたちが ネオアース団の手に落ちる日も近い」 綾香:「3体の石像?」 ナギ:「ああ レジロック、レジスチル、レジアイス、岩と鋼と氷の属性を持つポケモンだ あいつらを目覚めさせるには、ジーランスとホエルオーを 利用して、封印の鍵を説く必要があるのさ」 ヒロ:「それに、グラードンとカイオーガの眠っている場所も奴らは一度突き止めている 現在、ポケモンGメンが監視を続けてはいるが、 奴らが本格的に動き出すのも時間の問題ってことさ」 秀治:「それで、特訓を終えるのか そのテストかなんかの相手、そこに隠れてる奴とのバトルで決めるのか?」 秀治が建物の影に泥を放った。 すると、放たれた泥の一部は凍り、もう一部は別の何かによって相殺されるように地面に落ちた。 ??:「気配を消していたつもりだが、妙な感覚の持ち主だな 気に入ったぜ」 ??:「私たちの気配に気づけたのなら、相当の力はお持ちのようですわね」 建物の影からは、グラエナとアブソルを引き連れたワイルドそうな男性と、チルタリスに腰掛、ユキワラシとタマザラシを抱きかかえた女性が 姿を現した。 秀治:「こいつら、誰なんだ?」 ヒロ:「お前なぁ、少しは口の聞き方くらい気をつけろよ」 ストール:「そうだぜ、この2人は、ホウエンの四天王、カゲツさんとプリムさんなんだぞ」 秀治が軽口を叩くように言うと、ヒロとストールがすかさず注意するが、相変わらず秀治の口の聞き方は悪い。 敬語を使われている相手はナギだけだったりした。 綾香:「それで、私たちとバトルをするんですか?」 ナギ:「そういうことだ 綾香はプリムさんと、秀治はカゲツさんとやってもらう 使用ポケモンは1体だ」 秀治:「負けたらまた特訓か?」 ナギ:「いや、勝敗は関係ない この特訓の成果が出ているかどうかが分かればいいだけだからな」 そして、この後秀治が更に軽口を叩いたため、更に一悶着があり、それが数時間後に終わり、3時間後、ようやく綾香とプリムのバトルが始まろうとしていた。 バトルフィールドは、ヒワマキジムで使用されている高台にあるフィールドで行われることになった。 プリム:「それでは、自己紹介をいたしますわ 私は氷のエキスパート、プリムといいます 使うポケモンはこのタマザラシですわ」 綾香:「そうですか 私は香西綾香、蛍火の能力者です でも、氷タイプを出すってことは、私が岩タイプを出すかもしれませんよ」 プリム:「だからといって、私は負けません これでも四天王ですからね さぁ、どうぞ 炎タイプでも岩タイプでも、お好きなポケモンを お出しなさい」 プリムはそう煽るが、綾香は知っていた。 タマザラシの特性は厚い脂肪、つまり、炎タイプの技の効果を半減させるのだ。 だからといって岩タイプや格闘タイプを出したとしても、何かしらの手を打ってくる可能性が高いし、それ以前に綾香の手持ちには 格闘タイプは存在していなかった。 綾香:「決めた! ドクケイル、お願い!」 綾香の出したポケモンは、虫・毒タイプのドクケイルだった。 プリム:「虫タイプですか」 綾香:「ええ でも、虫にも五分の魂がありますから 簡単に負けたりはしませんよ」 プリム:「そう」 綾香とプリムはにこやかに笑っていた。 だが、見えない火花が散っているのを、その場の全員が感じていた。 ナギ:「では、試合開始!」 プリム:「先制させていただくわ タマザラシ、粉雪よ!」 綾香:「ドクケイル、風起こしから吹き飛ばしよ!」 タマザラシの粉雪がドクケイルに舞い散ろうとする時、ドクケイルの起こした風がそれらを払い、吹き飛ばしでタマザラシに向かっていく。 特性の「厚い脂肪」によってダメージは半減するものの、粉雪がタマザラシの視界を少しは遮るだろう。 プリム:「粉雪で視界を封じるつもりですの?」 綾香:「やっぱり気づきました?」 プリム:「ええ、ではその粉雪、再び向けさせていただきますわ タマザラシ、凍える風です!」 粉雪が凍える風で再び向きを変え、ドクケイルに向かっていく。 だが、それらはドクケイルの直前で止まってしまっていた。 プリム:「光の壁ね」 綾香:「はい、それに、ドクケイルの特性は燐粉です 技の追加効果は受けません だから凍える風の追加効果も同じように」 プリム:「では、これだったらどうかしら?」 プリムが手を高々と上げると、タマザラシは弾み始め、大きく飛び上がって地面に強くぶつかった。 すると『地震』が発生し、同時にタマザラシの口からは吹雪が放たれ、大きくひび割れた地面が、氷によって纏われていく。 地震も吹雪も、実際に放たれた場所はドクケイルではないために、綾香はプリムが何をしようとしているのかが分からなかった。 プリム:「あらら、何もしてこないようですね」 綾香:「…」 プリム:「では、今からタマザラシのステージを見せてごらんにいれますわ」 プリムが今度は片手を挙げると、タマザラシは再び跳ね始め、そして勢いよく転がる攻撃をし始めた。 宙に浮いているドクケイルには意味がないと思われたのだが、ひび割れた地面が氷で覆われ、ジャンプ台のような傾斜が出来上がっていた。 プリム:「タマザラシ、転がる攻撃からアイスボールです!」 大きく宙に跳ぶタマザラシは、転がるの状態のまま、いくつかのアイスボールをばら撒き始めた。 大き目の霰のようで、十分にダメージを与える攻撃だった。 しかし、 綾香:「ドクケイル、守る攻撃よ!」 綾香はこんな事では動じなかった。 少しは予想ついていたらしい。 守る攻撃によってアイスボールと転がる攻撃は防ぐ事が出来た。 だが、地面に落ちたアイスボールと転がる攻撃の威力は、いくつかの氷の破片を作り出していた。 プリム:「タマザラシ、そのまま岩なだれよ!」 タマザラシによって意志を持った氷の破片が、一斉にドクケイルに向かう。 しかし、氷の破片がドクケイルを通過していた。 綾香:「残念でした 私がただ見ていただけだとでも思いました?」 プリム:「そのようね」 綾香:「これで終わりです ドクケイル、ツバメ返しからギガドレインよ!」 ドクケイルは影分身で移動し、ツバメ返しをしていたのだ。 瞬発的な速さでタマザラシの背後につき、攻撃すると共にギガドレインがタマザラシを襲った。 それによって体力を吸い取られたタマザラシは、その場で崩れ落ちてしまうのだった。 ナギ:「タマザラシは戦闘不能ということで、試合終了だな」 プリム:「ナギの下で特訓しただけに、素早さの高いバトルがお上手のようね」 綾香は十分に成長していたようだった。 ナギ:「さて、次はお前の番だな」 秀治:「ああ、待ちくたびれたぜ」 カゲツ:「俺も同じだ だが、勝負は早々に決めるが、いいか?」 秀治:「ああ それはこっちのセリフだ」 秀治はグライガーを、カゲツはグラエナを出していた。 グラエナの特性は威嚇だが、グライガーの特性は怪力バサミであるため、特性同士は打ち消されているようだった。 ナギ:「では、試合始め!」 そしてナギが言った直後だった。 グライガーとグラエナが一騎打ちをし、そのままその場で崩れ落ちてしまったのだ。 ナギ:「確かに早かったな」 秀治:「ああ」 カゲツ:「早々に引き分けか 俺のグラエナのアイアンテールをグライガーのアイアンテールが受け止め、破壊光線とハサミギロチンが 相殺してこうなったもんな」 一瞬のバトルだったが、カゲツは全部を見切っていたようだった。 ヒロも同じようで、秀治はまだよく分からない様子だったが、成長したのが見受けられたようで、ナギの特訓はこれで終わるのだった。 〜数日後〜 綾香と秀治は、ヒロと共に旅を開始する事になった。 向かう場所はカイナシティであり、そこにいる久美達と合流する必要があったからだった。 綾香:「それでは、ありがとうございました」 秀治:「もう、会うことはねえよな」 ヒロ:「だから口の聞き方を気をつけろよな」 ナギ:「まあいい 急いだ方がいいだろう、ストールの彼女とその友達だけでは出来る事も限られているからな」 そして、3人は出発した。 だが、その数日後、ホウエンを揺るがす事件が起ころうとは、誰一人、予想もしていなかったのでした…。