ユウキ:「おっかしいなぁ…、いつもならここにいるはずなんだけど…」 ミューズ:「ここ、誰かいるの?」 ユウキ:「ん、ああ」 ユウキとミューズ一行がいるのは石の洞窟の奥だった。 周囲ではズバットたちが飛び交い、クチートやココドラの姿も見られる。 岩の奥で一瞬見かける姿はイシツブテやノズパスだろうか…? 暗闇で光る目は多分ヤミラミだろう。 洞窟の中を生きるポケモンたちの姿に、ミューズは感動し、ルナとぴぴはお月見山の懐かしさを感じていた。 そんな3人をユウキが案内した場所が、この色々な結晶が岩の中から見え隠れしている洞窟の奥だったのだが、ユウキは誰かを探しているようだった。 ミューズ:「一体、誰を探しているわけ?」 ユウキ:「カナズミシティにさ、大きな会社があっただろ?」 ミューズ:「デボンコーポレーション?」 ユウキ:「そう、そこの会社の社長の息子で、元は四天王を束ねてたほどの実力者のダイゴさんがここにいるはずなんだ」 ミューズ:「えっ…?」 ユウキがさらっと言うのだが、ミューズにはそんなすごい人がどうしてココにいるのかが理解できない様子。 それにはユウキも気づいたようで、慌てて言葉を続けた。 ユウキ:「あのさ、ダイゴさんは珍しい石を探すのが趣味なんだ 石のコレクターってくらいに」 ミューズ:「ああ、なるほどね それで普段はここにいるはずなのね?」 ユウキ:「そうなんだけどさ…、今日に限ってどうしていないかなぁ…?」 ユウキはダイゴに用があったようだが、肝心の本人がいないためにガッカリしているようだった。 だが、そんなことは尻目にルナとぴぴは洞窟の周囲を見渡して喜んでいる様子だった。 ミューズもそれに習い、洞窟から聞こえる様々な音を聞いて楽しんでいたのだが、 ミューズ:「…あれっ?」 突如洞窟の中を小さな音ではあるが、響き始めた音があった。 それと共に、ポケモンたちの悲鳴も聞こえ、ミューズに続いてルナやぴぴもハッと顔を上げた。 ユウキ:「どうしたんだ?」 ミューズ:「…なんか、洞窟の中で何かが起きてるみたいなの…」 ユウキ:「何か?」 ミューズ:「うん 人間の耳には聞こえないけど、ポケモンには分かるの …行ってみない?」 ユウキ:「そうだな」 ユウキはミューズたちに案内されて、音がするほうに向かいだした。 その音がする方に近づくにつれて、徐々にユウキにも分かるくらいの音がし始める。 それはどうやら機械音のようだった。 そして4人(1人と3匹)が見たのは、洞窟の中を掘り漁って、ポケモンや珍しい石や結晶を根こそぎ盗んでいこうとする多数のロボットと、 見覚えのある制服の集団だった…。 第3章 12.目覚め ミューズ:「ひどい…」 ユウキ:「何て奴らだよ…」 岩の中で眠っていたと思われるクチートやノズパスの乱獲、石の結晶を破壊して割って持っていこうとするロボット達。 ドリルで岩を砕き、更に何かを掘り出そうとしている姿もある。 やっているのはミューズもユウキも見覚えのある制服を来た集団だった。 ミューズ:「ネオアース団…、一体、何のつもりなのよ」 ミューズは『許せない』と思う気持ちでその言葉を吐いたのだが、その直後、聞き覚えのある曲が流れ出し、集団たちは4人に気づいた。 ユウキ:「気づかれた…」 ミューズ:「てゆか、反応早っ!」 そして現れた2人組はユウキにとっては会いたくない2人だった。 チカゲ:「誰に聞かれても教えない教えたくない♪」 ハヤテ:「けれども教えてやろう」 チカゲ:「世界をハッピーにさせるために♪」 ハヤテ:「世界の悲しみ消し去るため」 チカゲ:「愛と夢と希望を抱く♪」 ハヤテ:「孤独でクールな2人組」 チカゲ:「チカゲ♪」 ハヤテ:「ハヤテ」 チカゲ:「宇宙のなかの小さなホシに生きるアース団の2人には♪」 ハヤテ:「いつかは明るい希望が待っている」 チカゲ:「えへへv」 ミューズ:「あんたたちが蓮華の言ってたネオアース団ね!」 ハヤテ:「いかにも 俺たちの大事な仕事を見られてしまった限り、この場で帰す訳には行かないな」 チカゲ:「しかもあの時のゴミがノコノコとやってくるなんてね♪ もう一度、あんたの苦しむ顔を見せてもらうわ!」 チカゲが言い放った直後、ネオアース団の団員達がポケモンを出したりロボットに乗ったりして一斉に襲い掛かってきた。 ミューズ:「ここはやるしかないね」 ユウキ:「そうだな 蓮華たちを呼べばもっと楽かもしれないけど、ムロ島の人たちを巻き込むわけには行かない」 ミューズ:「それに、前回は奇襲だったけど、今回は奇襲じゃないもんね」 ミューズ、ルナ、ぴぴが最初に駆け出した。 ミューズの葉っぱカッターが団員達のポケモンを一気に振り払い、、蔓の鞭がロボットを薙ぎ払っていく。 ルナは地形を生かした岩落としで、ぴぴは鳴き声と歌う攻撃を洞窟の壁で反響させて、それぞれ戦っていた。 ユウキ:「よし、俺も…!」 ユウキがボールに手をかけようとすると、目の前に現れるのはキュウコンとバクフーン。 そしてハヤテの姿もあった。 ハヤテ:「ココから先は生かせない 団員の手ではなく、俺の手で抹殺してやるよ」 ユウキ:「させられっかよ!」 ユウキは足で地面を蹴って、火炎放射を横に避け、そして2つのボールを投げた。 ユウキ:「タク、ソルロン、頼むぞ! ソルロン、炎の渦だ!」 ユウキが出したのはカポエラーのタクと、ソルロックのソルロンだった。 キュウコンとバクフーンが放つ火炎放射を高速回転して放つソルロンの炎の渦が食い止める。 ハヤテ:「くそっ、キュウコン、怪しい光だ! バクフーンはスピードスターで撹乱してやれ!」 炎が炎で防がれたためにハヤテはユウキをいぶりだす作戦から追い詰める方向に変えたようだった。 だが、作戦は既に遅く、キュウコンとバクフーンの背後にはタクの姿があった。 ソルロンとユウキに向かった2つの攻撃は、ソルロンの神秘の守りが食い止めていた。 ユウキ:「ソルロン、悪いけど耐えてくれよ! そしてタク、トリプルキックだ!」 タクのトリプルキックはキュウコンを一撃でノックアウトし、バクフーンも一撃目は踏ん張ったが、次の攻撃で目を回していた。 その拍子に炎が吐かれ、その炎は別の方向に向かっていった。 ハヤテ:「くそっ、俺の辞書に敗北の文字は載った事がないというのに…」 ユウキ:「前回は奇襲だったけど、俺だってポケモンマスターにトレーニングしてもらったりしてるだけの事はあるんだよ このままポケモンの乱獲や石の無茶苦茶な強奪はやめて、さっさと逃げ帰った方がいいぜ」 ユウキが言い放つと、ソルロンとタクも吠える。 だが、不意にハヤテがニヤッと笑った。 ハヤテ:「勝者の気分でいるのはいいが、もう少し回りを見たほうがいいぞ」 その言葉にハッとした時には、周囲の音も静まり返っていた。 そのためミューズたちがいるはずの方向を見ると、ロボットが破壊されつくし、団員達は倒れているものの、その中でミューズたちも 倒されている事が分かる。 ユウキ:「ミューズ!」 チカゲ:「残念だったね、私がまだいるのよ」 駆け寄ろうとするユウキの前に立ちふさがったのはチカゲだった。 様子からして、ぶりっ子モードではなく、本性を見せているようだ。 ハヤテ:「チカゲ、妙に気が立っているようだが?」 チカゲ:「当たり前じゃない 私の大事なドリスちゃんが燃えそうになっちゃったんだから、代わりに燃えてもらわなきゃね」 チカゲの手には不気味な人形の姿がある。 だがその人形、よく見ると、着ている服のあちこちが焦げている様だった。 どうやら、先ほどバクフーンがトリプルキックを受けた時の炎、この人形にぶつかりかけたらしい。 チカゲ:「それに前みたいに自我が壊れたらもっといいかもね…」 冷たい視線をぶつけられ、息が詰まるような想いになるユウキ。 と、その直後、タクとソルロンが苦しいような声を出してその場に崩れ落ちた。 ユウキ:「何っ!」 チカゲ:「残念だったね、私のポケモンの気配、気づかなかったのかな? まだまだ子供ね、十分奴隷になる価値があるわ」 どうやらチカゲのポケモンが周囲にいるらしい。 そのことにようやく気づくユウキだが、ジュペッタとサマヨールは闇に溶け込んでいて姿を見せない。 チカゲ:「まだどこにいるか、分からないみたいだね」 ハヤテ:「チカゲ、いつまで遊ぶつもりだ?」 チカゲ:「ハヤテは黙ってて ここは私がもう一度やるの 手を出さないでよ」 ハヤテ:「あ、ああ…、分かったよ」 チカゲに睨まれて黙るハヤテ。 そしてチカゲはユウキを再び睨みつけ、そしてポケモンに指示を放った。 チカゲ:「ヤミヨミ、その坊やを金縛りで動けなくしてやるのよ そしてドルスは嫌な音、それにゲルグ、ナイトヘッドよ もう一度この坊やを壊し、壊滅した所で奴隷にしてやるんだから!」 チカゲの指示と共に洞窟の中を嫌な音が響き渡り、ユウキは金縛りで動けなくなって嫌な音を無理やり聞かされてしまっていた。 チカゲとハヤテは耳栓をしているが、耳栓をしていないユウキには洞窟の中で反響し続ける嫌な音は苦痛のものでしかない。 そして、徐々にチカゲの影の中から現れたゲンガーが、ナイトヘッドを放とうとしていた。 ユウキ:「(これ以上は…持てない…でも…)」 必死で耐えるユウキだが、限界は近づいていた。 そんな時、ユウキの脳裏で何かが起きていた。 脳裏の中で、何かがフラッシュバックする。 それは一瞬の事だったが、ユウキの脳裏に何かが映っていた。 ユウキ:「(こ、これは…)」 その時だった。 ゲンガーのナイトヘッドが発射されたのは…。 再び激痛をユウキが味わうのも数秒後のはずだった。 だが、発射直後、洞窟は光に包まれていた。 チカゲ:「何よ、この光は!」 ハヤテ:「俺が知るわけないだろ!」 とてつもない閃光に、ユウキを縛り付けていた力も消え、ジュペッタもサマヨールもゲンガーも力を失っていた。 それと同時に、周囲で力尽きていたタクとソルロンは元気を取り戻すように起き上がり、ルナやぴぴも近づいてきた。 ユウキ:「この光は一体…?」 洞窟を照らし、ネオアース団たちを寄せ付けず、自然のポケモンたちやユウキたちを助ける光は、1人の女性から放出されていた。 ??:「させないよ、これ以上、誰かが苦しい思いをし続けるのは嫌だから」 ユウキ:「君は…」 ??:「まさか、こんな事になるとは思わなかった でも、だからって戸惑ってちゃいけないって思ったもん」 ユウキたちの目の前で光を放出し、洞窟を照らしていた女性は、ブーケのような花飾りで長い髪を束ね、黄色いワンピースを着ていた。 そして、その姿にユウキは見覚えがあった。 ユウキ:「まさか…あの時の…」 ??:「やっぱり、気づかれちゃった …ゴメンね、ナナちゃんに口止めして、自分の記憶も消してもらってたけど、もう、無理みたい やっぱり、隠し事はできなかったんだなぁ…」 ユウキに見覚えがあるのは当たり前だった。 彼女はユウキと一度、会ったことがあるのだから。 何故なら、彼女はミューズの人間体なのだから。 ミューズ:「話はまず後よ ネオアース団、これ以上の悪巧みは許さないから!」 ミューズの身体に光が集まり、前に出した両手から光のビーム『ソーラービーム』が発射され、チカゲたちを一瞬で一掃したのだった…。 ネオアース団がミューズによって全て吹っ飛ばされ、この場から姿を消すと、ミューズから放出されていたと思われる光も消えていた。 そして、同時にミューズの姿は人間の姿から、キレイハナとしての姿に戻っていた。 ユウキ:「あの時の人…ミューズだったんだな」 ミューズ:「騙していてゴメンね」 あの日、パーティの空気が好きじゃなかったミューズは、偶然マサキが作った薬を飲んでしまい、人間の姿になってしまっていた。 そんな時に噴水の近くで出会ったのがユウキだった。 ミューズとユウキは、一時のデートを経験していたのだ。 ただ、そのデートは薬の効き目を察したミューズによって、姿を消す形で幕を落としていたのだが…。 ミューズ:「ミシロタウンであなたを見たとき、すぐに思い出した 忘れるわけがなかったもん」 ユウキ:「それで、ナナさんに記憶を消してもらってたのか」 ミューズ:「私は人間の姿になる力があるとしても、ポケモンである事には変わりないから だから、人とポケモンが恋人になるのは出来ない なろうとしてるポケモンはいるけど、私はそこまで考えられない だから…」 ユウキ:「そうか…」 ユウキは残念そうな表情をしていた。 だが、ミューズを責めている様子ではなかった。 ユウキ:「でも、あの時は嬉しかった そして今日も、助けてくれてありがとう」 逆に、ユウキはミューズの事を再び、心のどこかで好きになり始めていたのだった。 ミューズは全く気づいていないのだが、ユウキはポケモンと人間の境界線は関係なしに、ただ、ミューズとは友達以上の関係になりたいと 思いかけていた。 その時、洞窟が揺れ始めた。 ミューズ:「な、何よ!?」 ユウキ:「地震か?」 ユウキとミューズたち(ソルロンとルナ以外)は必死に地震に耐えていた。 しかし、それは地震ではなかった。 洞窟の地面が掘り起こされた事で、何かが噴出して来たのだった。 そして数時間後、彼らの前には地底湖が姿を見せていた。 ミューズ:「こんなものがあったなんて…」 ユウキ:「驚いたな、石の洞窟に湖が出現するとはさ」 その時、ユウキが水に触れたとき、一瞬水が光ったような現象を、ミューズは見たような気がした。 だが、一瞬の出来事に、ユウキや他のポケモンたちが気がついた様子はなかったため、気のせいかと思ったのだった。 トウキ:「なんだって!?ネオアース団がいただと?」 ユウキ:「はい、俺たちで何とか撃退できたんすけど…」 洞窟から戻って数時間後、トウキたちムロ島の人々は、ネオアース団の存在を知って驚いていた。 そして同時に、石の洞窟に地底湖が出現したことにも驚いていた。 蓮華:「大丈夫だったの?」 それとは逆に、ユウキとミューズを心配するのは蓮華だった。 ユウキは一度、チカゲとハヤテにやられているために、蓮華が心配したのは最もだった。 だが、ユウキやミューズも、ルナやぴぴでさえも怪我一つしていないために、蓮華はどことなく不信感も抱いているようだった。 そして次の日はカイナシティを通ってキンセツシティのキンセツジムに行く予定だったのだが、予定は急に変わり始めていた。 ミューズ:「えっ、カイナシティには行かないの?」 蓮華:「しかも、ハジツケタウンって…」 ユウキ:「ゴメン! 悪いんだけどさ、ちょっと手伝ってくれないか?」 早朝、出かける直前に行き先変更を告げられたのだ。 ユウキ:「ネオアース団だと思われる奴らがハジツケタウンの近くにある流星の洞窟ってところに現れたらしくてさ、その近くの フエンタウンにいるジムリーダーのアスナに頼まれたんだよ」 ユウキは、歳が近くて頼りになるお姉さん代わりのようなアスナとは親友と言うくらい親しかった。 そのため、突然のアスナからの頼みごとを断れなかったのだ。 蓮華:「でも、どうしてネオアース団が?」 ミューズ:「その流星の洞窟って、何がある場所なの?」 ユウキ:「隕石だよ」 蓮華:「隕石?」 ユウキ:「あぁ、そこは隕石が落ちたことが多いから流星の洞窟って呼ばれてるんだけどさ、その隕石を使って、前にマグマ団やアクア団が 火山を噴火させたりしようとしてたんだ だから今回も同じような事をやろうとしてるんじゃないかな?」 ミューズ:「なるほどね…」 蓮華とミューズはユウキの説明を聞いて理解していた。 そして、アスナの救援にいくことも受け入れていた。 何故なら、ネオアース団は元ロケット団、元スペース団、元マグマ団、元アクア団などの様々な組織の残党が集まって出来ているのだ。 タイプを理解されているジムリーダー1人で乗り込むよりは、何人かで行ったほうが撃退できる可能性は高くなるし、 女性一人に全てを任せるわけには行かなかったからだ。 蓮華:「それじゃ、待ってるんだし、早く行きましょ」 ユウキ:「でも、いいのか?」 蓮華:「いいって どうせ乗りかかった船だもん」 ミューズ:「そうそう、一緒に旅をしている仲間のためにも、協力できることは協力しないとね!」 こうして、3人はハジツケタウンの近くにある流星の洞窟に向けて旅立った。 まさか、その場所が伝説の始まりとなる場所だとは、誰一人思ってもみないのだった…。 もうすぐ、伝説が幕を開ける…。