研究所の外に飛び出したナナたちが見たのは、黒装束や白装束の団体がトレーナーやそうじゃない人を襲う姿だった。 野生のポケモンたちも攻撃を加えられている。 黒装束や白装束はポケモンを使わずに、風を起こして攻撃しているため、彼らがポケモン世界にやってきた風使い一族であることは 確実だろう。 しかし、彼らがいい気になれるのも一時的だった。 ここには彼らを一網打尽に出来る能力者が一人いたからだ。 ナナ:「なんて奴らよ!」 最初に飛び出したナナが何かをつぶやくと、黒装束や白装束の者たちの足元に次々と魔法陣が生まれ、彼らを飲み込んでいく。 結界を操る能力を持つナナが、ポケモン世界から現実世界へ追い返す『追放の結界』を使ったのだ。 志穂:「ナナちゃん、やるじゃない」 ナナ:「当たり前よ ポケモン世界で能力者の力で好き勝手しようなんて、そんなことさせるもんですか」 だが、追い返されなかったものがいた。 葛葉:「こんな力の主がいるとはね」 竹巳:「油断したが、こちらに人質がいることをお忘れかな?」 唯一2人だけ、海の転移ゲートを破壊した方法を使って魔方陣を破壊したらしい。 しかも、葛葉と竹巳がユウキの母親のスズカを人質にとり、彼らの前に現れたのだ。 ナナ:「人質を取るとは卑怯ね」 葛葉:「何とでも言えばいいわ でも、言えるだけで手は出せないでしょ?」 竹巳:「蓮華の方は融合が順調に進んでいるが、もう一人はあと一歩のところで進めなくてね」 葛葉:「この人を攫い、彼の前で痛い目に遭えばカイオーガの融合もはかどるはずなのよ」 志穂:「…っ、やられたわ」 ナナの周囲には哲也、玲奈、律子もいて、葛葉と竹巳に対抗できる戦力が揃っているというのに、誰一人として対抗できないでいた。 ミシロタウンに住む者たちも、ネオアース団員に対抗したい気持ちはあるようだが、スズカが人質に取られているために 手も足も出ない。 さらに、スズカさえもユウキのことを今聞かされ、驚きとショックで動けずにいた。 葛葉:「流石に人数が多くても、人質がある以上、あなたたちも動けないみたいね」 竹巳:「俺たちはミシロタウンをつぶすように言われている 今から竜巻を起こし、お前らごとこの街を消滅させてやるからな」 葛葉:「ゆっくりと、自分の死を受け入れるのね」 第3章 15.対面 ミシロタウンの中を徐々に風が吹き始めていた。 既に東西南北、気候などは関係なく、至る場所から風が吹き荒れ始めている。 葛葉と竹巳は勝ったも同然の表情をしていたが、そんな2人に近づくものがいた。 葛葉:「くっ…」 竹巳:「何っ…!」 突如、葛葉と竹巳の背後に現れたカゲボウズが怪しい光を放出して2人の目をくらませ、同時に伸びてきた蔓の鞭がスズカを 奪還していた。さらに2人にはカマイタチと思われる攻撃も放たれている。 葛葉:「何者だ!」 葛葉たちが振り返ると、そこには人間体のミューズとソルルがカゲボウズと一緒に立っていた。 このカゲボウズはユウキのポケモンのカロロ。 研究所から出なかった2人は、元気になったポケモンたちと協力してスズカを奪還するために2人に攻撃を仕掛けたのだ。 ミューズ:「これで人質はもういないわよ」 葛葉:「…っ、こんなはずじゃ…」 竹巳:「こうなればこうだ!」 竹巳の手から放たれた一撃は、ミューズたちのそばにある研究所に向けられた。 そして、一撃によって研究所の一部が破壊され、瓦礫がミューズたちに向かって落ちてきていた。 ソルルの足の怪我はまだ治っていなく、スズカもユウキのことをさっき聞いたためにショックで動けないままだった。 律子:「危ない、セレビィ!」 志穂:「ブラッキー!」 志穂と律子がポケモンを放つが間に合いそうになく、瓦礫によってつぶされるのを見ているしかないのかと思われていた。 だが、瓦礫が彼女たちを押しつぶそうとした瞬間、とてつもない光が瓦礫を塵に変えていた。 ミューズの力である。 ミューズ:「これ以上、誰かが傷つくのを見ていたくないし、そんなこと、私がさせないんだから!」 ミューズの怒りの形相が葛葉と竹巳を圧倒していた。 だが、その直後、葛葉と竹巳は光の球体によって大きく跳ね飛ばされていた。 光の球体は蓮華がよく放つ『ソーラー弾』に似ていたが、放ったのは蓮華でもミューズでもない。 葛葉:「ここまで強い力とは…」 竹巳:「予想外の相手がいたもんだな…」 ナナ:「あの蓮華ちゃんの親なだけはあるわね…」 なんと、放ったのはスズカだったのだ。 しかも、先ほどまでショックでうなだれていただけの表情ではなく、鋭い視線を放つような怒りの表情そのものだった。 スズカ:「ようやく全て思い出せたわ あの人を殺すだけじゃなく、子供たちにまで危害を及ぼすなんて許せるような問題じゃないわ!!」 どうやら、先ほどのミューズの力によって記憶が戻ったらしい。 同じ植物の力を持つだけあり、ミューズの力がスズカの力と共鳴を起こし、記憶を蘇らせたのだろう。 彼女の力にはナナたちでさえも圧倒されるほどだった。 多分、能力者一の力といわれている蓮華以上の力の持ち主だと言えよう。 そしてスズカは、近くにいたソルルの足に手を当てて、簡単に怪我さえも治してしまっていたのだった。 志穂:「本当に形勢逆転ね」 律子:「ここまであって、ミシロタウンをつぶせるのかしら?」 スズカ:「風使いの好きなようにはさせないわよ」 こうなってくると、葛葉も竹巳も劣勢でしかない。 だが、彼らはまだ諦めていなかった。 葛葉:「だからってここで逃げ帰ったりなんかしないんだから!」 竹巳:「俺たちがただの風使いの一族なだけだなんて思ったら困るな」 葛葉:「クロバット、カブトプス、フォレトス、行くのよ!」 竹巳:「マニューラ、ハッサム、やってやれ!」 前回は大量に出してきたポケモンを、今回は5匹放ってきていた。 だが、前回よりもレベルが上がっているような様子である。 葛葉:「私たちが持っているポケモンの中で一番強い子達よ」 竹巳:「弱点を突く考えで来ても無駄だぜ」 そういって、ルール無用のように飛びかかってくるポケモンたち。 既に相手にポケモンを出させる時間は無視しているようだ。 しかし、電光石火で向かってきたマニューラが軽く薙ぎ払われた。 スズカ:「ここは私が相手よ」 スズカのザングースがマニューラをブレイククローで弾いたのだ。 更に彼女の横にはポワルンの姿もある。 ナナ曰く、どうやら彼女のバトルの腕はジムリーダー並みらしい。 志穂:「私もやるわ」 律子:「私も」 続けてポケモンを出したのは志穂と律子だった。 志穂は既に出しているブラッキーに続きムウマを出し、律子はハピナスを繰り出した。 葛葉:「さっきは突然だったけど、次は負けないわ クロバットはエアカッター、カブトプスは切り裂く攻撃、フォレトスは電磁砲よ!」 竹巳:「マニューラ、ザングースに乱れ引っかきだ! ハッサムはメタルクローで攻めろ!」 マニューラ、ハッサム、カブトプスが走りこんできて至近距離からの攻撃を放とうとし、クロバットとフォレトスはその場から 攻撃を放つ。 しかし、 スズカ:「遅いわね ザングース、連続切りで乱れ引っ掻きを受け止めるのよ! そして切り裂きなさい! ポワルンは日本晴れから ウェザーボールよ!」 志穂:「ブラッキー、電光石火で避けながらカブトプスにアイアンテールよ! ムウマ、クロバットを恨み、サイケ光線よ!」 律子:「ハピナス、ハッサムの攻撃を守る攻撃で受け流して! そして地球投げよ!」 マニューラはザングースの連続切りで攻撃を受け止められ、切り裂く攻撃をアッパーのように食らって投げ飛ばされ、 ポワルンの炎のウェザーボールがフォレトスを焼き尽くす。 そしてブラッキーのアイアンテールがカブトプスの頭を叩き、ムウマの恨む攻撃でクロバットはエアカッターのPPを失い、 さらにサイケ光線で打ち落とされていた。 だが、ハピナスだけは違った。 守る攻撃が不発に終わってしまい、メタルクローで弾かれてしまったのだ。 竹巳:「ハッサム、続けて破壊光線だ!」 ハッサムの破壊光線が、倒れているハピナスに向かう。 そしてハピナスは破壊光線を受けて吹っ飛ばされるのだが、落ちてきたのはハピナスの形をしたぬいぐるみのようなものだった。 竹巳:「身代わりだと!?」 律子:「そうよ! ハピナス、火炎放射よ!」 ハピナスの身代わりによって、今度はハッサムの攻撃が不発に終わり、破壊光線の反動で動けないハッサムは、ハピナスの火炎放射によって その場に崩れ落ちた。 竹巳:「マニューラにハッサム…」 葛葉:「でも、まだ終わっちゃいないわよ! フォレトス、大爆発よ!」 ウェザーボールを受けたものの、まだ倒れていなかったフォレトスが光りだす。 しかし、爆発は起きず、くすぶった煙を出しながらフォレトスがその場に倒れた。 スズカ:「これ以上の被害は出させない これがトレーナーの腕の見せ所よ」 スズカのそばにはポワルンの姿がなく、ゴルダックの姿があった。 ポケモンを交代させたようだ。 ゴルダックの特性『湿り気』が大爆発をさせなかったのだ。 葛葉:「ここまでとはね…」 竹巳:「油断したぜ 次こそは勝ってやるからな!」 フォレトスも不発に終わってしまったため、葛葉と竹巳は流石に形勢不利だと感じ、煙玉を使って逃げ帰っていった。 〜数時間後〜 ナナ:「スズカさんのバトルが久々に見れるとは思わなかったけど、それにしても、ネオアース団がここまで動き出すとはね」 律子:「ポケモン協会によると、今のところ制圧された地域はないみたい やっぱり幹部クラスがグラードンとカイオーガの方に 回っているからだと思う」 ミシロタウンがミューズとスズカの力によって元に戻り、避難活動が行われている中で、ナナたちは今後の事を相談していた。 ミューズ:「あの2人の話によると、やっぱり四天王の人がやってるって言う珠の奪還は失敗したみたいだね」 ソルル:「すでにグラードンとカイオーガは捕獲され、出撃を待っているようだしな」 哲也:「グラードンとカイオーガを誘導して、一つの場所に集める以外にないってことか?」 玲奈:「でも…どこに?」 ゲットしたり倒したりしたら蓮華とユウキ自体が消滅してしまうため、倒さないように誘導する以外にないようだ。 だが、ムロやキナギ、ルネなどの島に誘導してしまうとその島の人々への被害も大きくなる。 だからといってホウエンの大陸に留めるわけにも行かなかった。 ナナ:「…どうしよう、考えてなかった」 律子:「でも、考えないとね…」 こうしている間にも、他の街では戦いを続けている者だっているのだ。 そこに、ミシロタウンの避難活動を終えたスズカが戻ってきた。 夫であるオダマキ博士はポケモン協会にいるためにここにはいなく、スズカも研究所のデータをまとめ上げたら避難しようと決めていた。 スズカ:「ミシロタウンにいる人の避難は終わったわ」 ナナ:「ありがとうございます …それで、スズカさんはどうします?」 律子:「一応、現実世界に戻る方法はありますよ」 律子のセレビィは、律子以外にもう一人を連れて時空と空間を飛ぶことが出来るのだ。 しかし、返ってきた答えは「NO」だった。 スズカ:「幼馴染には会いたいけれど、私には新しい夫もいるし、大事な子供もいるから …それに、蓮華とユウキのためにも 今この世界から離れるわけには行かないわ」 律子:「そうですか…」 スズカ:「心遣いは嬉しいけどね …それで、グラードンたちを誘導する場所だけど、いい場所が一つだけあるわ」 ナナ:「どこですか?」 スズカ:「伝説では空の神が見下ろす場所といわれているでしょ? だから、レックウザがいる天空の塔の近くにあるといわれる、 幻島に誘導するのよ」 幻島は珍しいとされるチイラの実があり、ソーナノたちが住むとされる、なかなか存在を掴む事が出来ない島だった。 だが、その島には人は住んでいないし、さらに天空の塔がある島の近くに存在するといわれていた。 グラードンとカイオーガを目覚めさせるにもレックウザの力は必要だと思われ、そこが一番だろうと思われた。 誘導する方法はまた決めるとして、ナナたちはその場に律子と志穂、ミューズたちを残し、他の街に向けて旅立ったのだった。 砂が舞い、風が吹き荒れる砂漠の近くにある一軒家。 そこでは傷を癒す健人と菜々美の姿があった。 カイナを旅立った2人はキンセツシティを通過して、砂漠の近くまでやってきたのだ。 健人:「徐々に呼んでいる様な声が明白に聞こえてきたな」 菜々美:「うん…、私たちだけに聞こえたし、誰の声かはすぐ分かるよ」 一時は避難活動を始めていた勝ち抜き家族と健康おばあさんの避難を手伝い、そして今に至った。 今2人がいるのは、その避難をした健康おばあさんの家である。 ただ、2人はなぜ避難活動が行われているのかは知らなかったが。 健人:「確か、カイナで誰かを待つはずだったんだよな?」 菜々美:「でも、声が聞こえたから待ってられなくなったんだし、膳は急げよ」 健人:「そうだな 嫌な予感がするし、厄介な事件が起きる前に声の主のいるほうに行くべきだな」 菜々美:「うん」 2人は病院に入院していた時から、謎の声をしばしば聞いたのだ。 その声は女性の声で、2人を呼ぶ声だった。 だが、何故か久美と海斗には聞こえないようで、健人と菜々美にしか聞こえていないらしかった。 そのため、2人は怪我を治すとすぐに旅立ったのだ。 モコナとミサトが引き止めるのも無視してまで。 健人:「それにしても、勝ち抜きさんにこれを貰っておいて助かったな」 菜々美:「うん、なかったらこの砂嵐は大変だったよ…」 ゴーゴーゴーグルのおかげで砂漠の中を歩くのが容易になった2人は、ポケモンたちを休ませるために一時、この家で休んでいるのだ。 だが、数時間後には再び、2人は砂漠の中を歩き始めていた。 すると、徐々に、砂で作られたと思える塔が見えてきていた。 健人:「声はこの中からみたいだな」 菜々美:「うん」 そして入ったとき、2人は見覚えのある2人が倒れているのを発見した。 菜々美:「涼治君にヤツデ君!」 健人:「お前ら、どうしてここにいるんだ?」 2人が見つけたのは、瑞希と共に飛ばされた涼治とヤツデだった。 だが、菜々美と健人が揺す振っても、中々目を覚まさないようだ。 ??:「今はぐっすり眠ってるから、どれだけ起こしても無駄よ」 菜々美:「えっ…」 健人:「やっぱりこの声は…」 そんな時に、今度ははっきりと聞こえた声に、2人は驚きを隠せなかった。 ??:「やっぱり私のこと、忘れられていなかったみたいね」 菜々美:「忘れるはずないわよ」 健人:「ああ、忘れられるわけがないな」 ??:「嬉しいわ、そんなことを言われると」 声の主は、徐々に姿を現し始めていた。 塔の中の空気が集まり、白くなり、白くなった空気が人の形を作り始めていた。 そして、声の主は、はっきりと見える姿となって、2人の前に現れた。 氷雨:「久しぶりね、健人君に菜々美ちゃん」 健人:「氷雨さん!」 菜々美:「会いたかったです!」 二人を呼んだ声の主は、ナナシマで消滅し、妖怪の世界に戻ったはずの雪女の氷雨だった。 だが、菜々美が駆け寄って抱きつこうとしたが、氷雨の身体をすり抜けてしまった。 菜々美:「えっ…?」 健人:「立体映像…?」 氷雨:「ゴメンね、まだ復活できる時期じゃないからさ …だから、こんな形でしか会えないの てゆか、会えたこと自体、 今回が特別なの」 健人:「特別って…」 菜々美:「氷雨さん、今、何が起きているんですか?」 申し訳ないような顔の氷雨は、菜々美と健人に今の状況を説明した。 氷雨:「約束したでしょ? 蓮華ちゃんと涼治君のことは頼むって」 健人:「でもな…」 菜々美:「私たち、自分のことにばっかりで涼治君が怪盗をしてたときも、蓮華ちゃんの今の状況のことも…」 氷雨:「分かってるわ 妖怪の国でみんなの様子、水晶玉を通して見続けてたからね」 菜々美:「それじゃ、どうして…」 氷雨:「涼治君とヤツデ君がここにいることを教えたかったの それともう一つ、妖怪の国の長老と話した結果、約束を破って、 蓮華ちゃんたちや関係ない多くの人たちを手にかけたり、手をかけようとした風使い一族の力を封じると決めたこともね まだ少し時間がかかるけど、数日すれば、哲也君や悠也君、アヤネちゃんたちのような善の心を持つ風の能力者を除く、あの集落の 一族の力は封印されるわ」 そういうと、氷雨の姿は薄くなり始めた。 菜々美:「え、もう?」 健人:「もう少し、姿、見せてもらえないんですか?」 氷雨:「これが今の限界かな 会えてよかった …今、蓮華ちゃんとユウキ君、草鬼の血を引く2人は、グラードンとカイオーガに 融合されようとしているわ この世界に伝わり、私が夢としてみた場所で、裂空や涼治君たちと一緒に2人を元に戻して それが、私のお願いだから 唯一の、心残りだから」 菜々美:「分かりました」 健人:「俺たち、できる限りの手を尽くします」 氷雨:「お願いね…」 そして、氷雨の姿は消えた。 同時に、幻影の塔は役目を終えたように崩れ落ち、気づけば2人は、涼治たちと共に砂漠の中で倒れていたのだった。 菜々美:「氷雨さん…」 健人:「ハァ…、泣くなよ」 菜々美:「泣けないよ 氷雨さんがせっかく、私たちのために教えるために、ここに出てきてくれたんだよ 私たちは、氷雨さんが夢で見たって言う場所に行って、そこで蓮華ちゃんたちを元に戻さなきゃね なんか、さっきいきなりだけど、 心の中でその場所が見えた」 健人:「俺も同じだ 海の上にある、高い塔のある島をまず、目指す必要があるな」 こうして、2人は涼治とヤツデが起きるのを待ち、その場所に向かうことを決めたのだった…。 そして、その少し離れたフエンタウンでも、とある再会が行われていた。 美香:「ようやく見つけたよ…」 鈴香:「ここにいたんですね…」 蓮華やユウキ、ナナ、そして菜々美や健人たちが少し離れた場所にいるのにもかかわらず、誰にも気づかれなかったのだが、 美香と鈴香がフエンタウンに来ていたのだ。 美香:「でも、眠ってるわね」 鈴香:「絶対安静って書かれてましたし…」 美香:「でも、きっともうすぐ目を覚ます気がするわ」 鈴香:「だって、怪我はほとんど治ってるし、後は起きるのを待つだけですからね」 2人がいるのはフエンタウンの病院の一室だった。 美香:「でも大変だったよね」 鈴香:「街を一つずつたどって病院行くの、結構疲れましたね」 美香:「大変な事が起きてるのは分かったし、テレビで洞窟が壊されたりとか、ネオアース団がカイナシティに現れたって 聞いたけどさ、アレ、なんだったのかな?」 鈴香:「後でナナちゃんに聞けばいいんじゃないですか?」 実は2人、蓮華が狙われていることと、風使いが動いている事など、簡単なことしか知らなく、今起きている状況は全く知らなかった。 だからなのか、この様子なのだ。 美香:「でも、先輩たち、見つかってよかったね」 鈴香:「そうですね…って、10回目ですよ、その言葉」 美香:「だって、嬉しいんだもん」 鈴香:「確かにそうですけど…」 2人の目の前では、包帯を巻かれ、酸素ボンベをつけた状態で眠り続けている翼と悠也がいた。 探し回ってようやく見つけたのだ。 嬉しいからか、美香は同じ言葉を連発して鈴香を呆れさせている。 まさか蓮華の家庭事情が何人かに明らかにされていたり、蓮華が大変な事になったりしているとは夢にも思わず、 この2人はフエンタウンで行われている避難活動についても全く知らないため、ずっとこの調子だった。 そして疲れたのか、美香は翼の、鈴香は悠也のベッドに顔を埋めて、そのまま眠り込むのだった…。 その時、フエンの地底深くで、ムロの石の洞窟の奥底で、2つの強大な力が目を覚まそうとしていた。 ボム:「ベイル、バイツ、準備は出来たのか?」 ベイル:「ええ、紅色と藍色の珠は我々の力によって間違った情報を鵜呑みにしたあの2人の子供と見事、融合を果たしました」 バイツ:「現在、ダークやブライト様、ドリーム様が発明した装置によって、あの2人の子供をグラードンとカイオーガの核として 融合させる作業が続いています 終わり次第、グラードンとカイオーガの持つ逆鱗を傷つけ、暴れさせる予定であります」 ボム:「分かった 早く作業を進めるのだ」 グラードンやカイオーガにも属性の弱点はあるのだが、それ以外に、ドラゴンの持つ逆鱗と同じような場所があるらしいのだ。 洗脳によって闇の力を心に持ってしまった蓮華とユウキが核となり、その闇の想いによって自我を忘れ、我を忘れたグラードンと カイオーガは暴れまわる事になる。その暴れる威力を大きくするために、ネオアース団はその逆鱗にわざと触れることを決めたのだ。 もうすぐ、2体が目を覚ます…。