僕はコラッタが嫌いだ。なぜって……弱いからだよ。 コラッタって1番道路によく出てくるだろ?ポッポよりもよく出てくる気がするんだけど。 体当たりか尻尾を振るしかやってこないし。 進化してもラッタになるだけだし。 名前なんか“コ”が無くなっただけじゃん。 でも、たまに育ててる人いるっしょ? 僕もトレーナーになったばかりの頃は育てていたけど、電光石火を覚えたくらいで育てるのやめたんだ。 今は弟が育ててる。弟も喜んでるからいっか? 僕はコラッタが嫌い 一人の少年がある家の玄関の前で立っている。彼の名はヒロシ。十二才。 彼は今自分の家の前に立っている。一年前の春に旅に出て、久しぶりに帰ってきた……訳でもない。 ちょくちょく家に帰っている。一ヵ月前にも帰ってきたが、彼曰く「家族に自分が元気なことを知らせるため」らしい。 実は彼、ただ寂しがり屋なだけなのだが…。 ぴんぽーん ドアに付いたベルを鳴らす。 と、同時に彼は一歩後ろに下がった。周りから見ると不可解な行動なのだが、これには訳がある。 …トテテテテテ…バンッ!!(!?) 人の足音が聞こえて、だんだん大きくなってきたかと思えば、勢いよく玄関のドアが開いた。 そこには彼によく似た――しかしヒロシより少し背が低い男の子が立っていた。 「あっ、兄ちゃん。お帰り〜」 彼はヒロシの弟。名前はマサル。十才。ヒロシとは年子である。 外見はよく似ているが、性格は全く違う。ヒロシは気性が激しいが、マサルはおっとりしている。 ヒロシはにぎやかな方が好きだが、マサルは静かな方が好きだ。 ヒロシはすぐに弱音を吐くが、マサルは我慢強い。全く正反対である。 「…あのさぁ、マサル。前も言ったけど…ドアを開ける時さぁ、もう少し静かに開けられない? じゃないと外に立っている人が危ないじゃん」 これが彼が一歩後ろに下がった理由。マサルはドアを急に、しかも勢いよく開ける癖がある。 「?でも兄ちゃんは平気だよぉ?」 「そりゃあ、三回もドアに顔面をぶつければ身体が勝手に危険を察知してくれるよ…」 ヒロシは鼻を擦りながら言った。鼻血が止まらなくて本気で死ぬと思ったのだ。 「あはは、よかったね♪」 「よくねぇ!笑うな!!」 と、まぁ一連のやりとりを終わらせ、先に話し始めたのはマサルだった。 「そういえばねぇ、お兄ちゃんからもらったファング、すごく強くなったんだよ。」 「ファング?あぁ、おまえにやったコラッタか」 実は以前ヒロシはマサルに手持ちのコラッタをあげたことがあった。 「うん。近くの草むらに行って野性のポケモンと戦ったり、 近くを通りかかったトレーナーの人とバトルしたりしたんだよ。すごく楽しかったよ」 マサルはそのときのことを思い出し、目を輝かせながらヒロシに話した。 しかしヒロシはあまりいい反応をしない。 「ふ〜ん。楽しかった、か。…でもコラッタ弱かっただろ?バトルとか大変じゃなかったか?」 ヒロシがマサルにコラッタをあげた理由はまさにそれ。弱かったのだ。レベル上げも一苦労だった。 対トレーナー戦なんて夢のまた夢…と思っていた。 「む。ファングは弱くないよぉ。すごく強いんだよ。」 マサルは口を尖らせ抗議する。 「はいはい。強いって言ってもどうせコラッタだし。たかが知れてるよ」 ヒロシはマサルのその抗議をさらっと流した……つもりだったが… 「…兄ちゃん勝負しよ?」 「え?」 「バトルしようって言ったの」 「は?マジ?」 「そんなにファングが弱いって言うんなら、僕を……ファングを負かせてからにしてよ」 「おまえ本気で言ってんの?おまえコラッタしか持ってないんだろ?」 「別にいいよ。ファングは強いもん。兄ちゃんはバトルしたくないの?もしかして負けるのが怖いの?」 ヒロシはその一言にムカッときた。 「そこまで言うんならやってやるさ。負けても泣くなよ」 「泣かないよ。それに負けないもん」 「はいはい。じゃあ始めるぞ。いけ、オニドリル!」 「出てきて、ファング!」 両者がそれぞれのポケモンを出した。ヒロシはオニドリルを、マサルはラッタのファングを出した。 「ラッタ!?コラッタじゃないのか?」 「ファングねぇ、この間進化したんだよ。すごく強くなったんだから」 「……ラッタに進化していたのは予想外だった。けど所詮ラッタ。コラッタの進化系。 余裕だって……よしっ。オニドリル、速攻で終わらせるぞ!ドリルくちばし!!」 オニドリルはファングに向かって飛び出した。 「ファング!避けて電光石火!!」 ファングはオニドリルのドリルくちばしをサイドステップでひょいっと避け、目に見えぬ早さで後ろから体当たりした。 ドンッ!!ズザーー オニドリルが吹っ飛ぶ。 「オニドリル!?くっ、起きて高速移動で距離を取れ…」 「させない!電光石火で接近、とどめに必殺前歯!!」 起き上がろうとしたオニドリルにファングが素早く接近して噛み付いた。 ガブッ!! 「!?クェーー!!」 うわぁ…身体に前歯が刺さってすごく痛そう。断末魔の叫びをあげてオニドリルは力尽きた。 「オニドリル!?くそっ…」 ヒロシはオニドリルをボールに戻す。それを見たマサル君ガッツポーズ。 「ファングの勝ちだね」 「…いいや。俺にはまだポケモンがいる」 ヒロシ、弟相手に相手になに向きになってんのさ。 「うるせぇナレーター!」 「えぇー!兄ちゃんずるいよぉ」 「うるさいっ!!いけ、フシギバナ」 マサルとナレーター(?)の抗議も虚しく、ヒロシはフシギバナを繰り出した。 「もう兄ちゃん自分勝手なんだからぁ…ま、今に始まったことじゃないし。いっか?」 マサル、おまえは偉い!ヒロシより大人だ! 「ごちゃごちゃうるせぇぞ!フシギバナ!蔓の鞭!!」 「ファング、電光石火で避けながらフシギバナに近づいて!!」 ビシッ!!ビシッ!! フシギバナの蔓の鞭がファングを捕らえられずに地面を打つ! 一方ファングは着実にフシギバナとの距離を縮めている。 「よし。ファング、怒りの前歯!!」 ザクッ!!フシギバナの身体にファングの前歯が突き刺さる! ザクッ!! 「フッシー!?」 うっ…痛そう。 「フシギバナ!?くっそう…ちょこまかと動きやがって…こうなったら動けなくしてやる…痺れ粉!!」 フシギバナは背中の花から黄色い粉を出した。痺れ粉がファングを襲う!ファングの動きがぎこちなくなった。 「ファング!!……辛いかもしれないけど…お願い、もう一回怒りの前歯!!」 「ふっ、身体が麻痺してるんだ。しかも怒りの前歯は命中率が低い。連続して当たる訳な…」 ザクッ!! …当たっちゃいましたね、ヒロシさん。 「うわぁ!なんで当たるんだよ!?」 まぁ、確率の問題ですから。 「マジついてねぇ……」 頭抱えてます。まぁ、そんなに落ち込むなって。まだ一匹残ってるじゃないか。 「そうだな…そうだ。俺には最後の切り札があるんだ!だから負けねぇ!!」 立ち直り早っ! 「よし。俺の切り札、いけっ!ゴースト!!」 うわっ、えげつねぇ。ゴーストは名前のとおりゴーストタイプ。つまりノーマルタイプの技が効かない。 「どうだ。俺の切り札は」 最低です。 「うるさいなぁ。勝てりゃいいんだよ。 ……相手はノーマルタイプだから舌で舐めるは効かないし…ここは眠らせて夢食いでいくか」 あの〜もしもし? 「あぁ?なんだよ?」 ヒロシさん、何か忘れてない? 「もう!イチイチうるさい!よし、ゴースト!催眠術」 おーい。それ意味無いってば。 ゴーストが両手をファングに向ける。そして何かを念ずるかのように目を閉じた。 …しかしファングの身には何も起きない。 「あれ?おかしいな?もう一回、催眠術!!」 やはりファングの身には何も起きない。 「むむ。なぜだ!?なんで効かないんだ?あれか。また確率の問題か?」 ヒロシは頭を抱えて悶え始めた。と、マサルは堪え切れずヒロシに声をかけた。 「……兄ちゃん、自分のしたこと忘れたの?」 「え?」 「だってさぁ…ファングを見てみなよ。」 「ん?ラッタを?」 ヒロシはラッタに注目する。すると、 「あぁっ!」 やっと気付いたか。 「ラッタが麻痺ってる!?」 そうですよ。 「じゃあ、ゴーストの催眠術が効くわけ無いじゃん!」 だからさっき言ったじゃん。 「言ったっけ?」 うん。しかも催眠術が効かないだけじゃないよ。 「え?マジ?」 「うん」 マサルが語りだす。 「コラッタとラッタの特性は二つあって、一つは逃げ足で、もう一つは根性なんだぁ。 ファングの特性は根性なんだよ。根性は状態異常の時攻撃力があがるんだよ」 「そのくらい知ってる!でもラッタはノーマルタイプ。そしてゴーストはゴーストタイプ。 いくら攻撃力が上がったって攻撃が当たらなければ意味無い!」 「確かにノーマルタイプの技は当たらない……けどね、ファングはノーマルタイプ意外のタイプの技も覚えるもん♪」 「…もしかして…」 「ファング!辛いかもしれないけど…頑張って!!」 ファングの口の中に黒い球体が現れる。だんだん大きくなり…十五センチくらいの大きさになった。 「シャドーボール!?なんで覚えてるんだ?」 ヒロシさん顔引きつってます。 「この間ママに技マシン買ってもらったんだぁ〜」 マサルくん満面の笑顔。子供に技マシンを買い与える母親ってめずらしいな…どんな母親だよ。 ビシッ!マサルはゴーストを指差すす。 「いけっ!!全力でシャドーボール!!」 その声を合図に黒い固まりはラッタの口の中から勢いよく飛び出した。 そして何をすればよいのか、わからずに困っているゴーストに迫り…シャドーボールが顔面に直撃!! 攻撃力が上がっている+弱点タイプということでゴースト、一発で戦闘不能。 「……戻れ、ゴースト…」 ヒロシはのびたゴーストをボールに戻す。残ったのはマサルのファングだけ。 「…ファング、勝ったよ…僕たち兄ちゃんに勝ったんだ!」 マサルはファングに抱きついて喜んでいる。ファングも満足そうだ。 「マサル」 と、マサルはヒロシに呼ばれた。振り返ると何かが足元に飛んできた。 拾ってみると、それは…麻痺治しだった。 「まずそれで麻痺を治してやれよ。麻痺した身体じゃ、ラッタも辛いだろうから…」 「あ、うん」 受け取った麻痺治しをつけてやる。ファングは一度伸びをして笑顔になった。どうやら身体の痺れがなくなったらしい。 「兄ちゃん、ありがとう」 「気にすんな。麻痺治しぐらい沢山ある。それより…」 と、ヒロシはファングを見つめ、言った。 「弱いとか……馬鹿にしてごめん。 自分が弱いのにそれを君の所為にしてた。ごめん。君は…全然弱くないよ」 ヒロシ君、顔真っ赤。ファングも心成しか頬が紅くなっている。わかりあえた二人、みたいな。 「ファングはね」 とマサルは語りだした。 「兄ちゃんに認められたくて、すごい努力したんだよ。だからまた一緒に旅に…」 「いや」 マサルの言葉を遮るようにヒロシは言った。 「ラッタは…ファングはおまえのパートナーだ。 バトルの最中も息がぴったりだったし。…それにおまえもファングと一緒にがいいんだろ?」 マサルの頭の上に手をポンと置いた。マサルは頬を紅くする。実際そうだった。 ファングはヒロシに認められたくて努力した。マサルはそんなファングをサポートし続けた。 その過程でマサルとファングは良きパートナーになっていた。 そのことにマサルもファングも気付いていなかったらしい。 マサルはファングに抱きつきながら 「これからもよろしくね」と言った。 嬉しさのあまり、涙目になっている。 ファングも嫌がっていないところからして、嬉しいのだろう。感動のシーン。 …そこへ ぱちーん!! 「ヒロシー!!なにマサルを泣かしてるの!」 という言葉と共にヒロシにビンタが… 「べふっ!!痛ってぇな、何すんだよ」 ヒロシは頬を押さえながら抗議する。 この実に微笑ましい状況をすばらしくぶち壊したのは彼らの母、マサコである。 マサルにシャドーボールの技マシンを買い与えた母親だ。 「ママ違うよぉ。兄ちゃんは悪くないよぉ」 必死に弁護するマサル。マサルが今までの一連の出来事を話した。 「あらあら、そうだったの?それは失礼」 「全然悪いと思ってないでしょ…」 ヒロシは悪いと微塵にも思っていないであろうマサコを睨む。しかしマサコは動じない。 「まぁ、いいじゃない。それよりお帰りなさい。今日は家に泊まってくんでしょ?」 ママさん、話しそらしたね。 「うん。そのつもり」 え?いいんですか、ヒロシさん。 「じゃあ早く家に入んなさいな。旅の話も聞きたいし」 「あ、じゃあ兄ちゃんのポケモンもポケモンセンターに連れてこうか?」 「うん、頼む」 と、誤解も解け、いつもの兄弟に戻り、これにて一見落着(? 僕はコラッタがあまり好きじゃない。なぜって……意外と強いからだよ。 コラッタって1番道路によく出てくるじゃん? 体当たりか尻尾を振るしかやってこなかったから弱いイメージがあったんだけど…… レベル上げると怒りの前歯覚えるし、技マシンを使えばシャドーボールも覚えるしね。 進化したらラッタになる。名前なんか“コ”が無くなっただけ。 …だけど名前なんてニックネーム付ければどうにでもなる。 たまに育ててる人いるっしょ? 僕もトレーナーになったばかりの頃は育てていたけど、電光石火を覚えたくらいで育てるのやめたんだ。 今は弟のパートナー。すごく仲がいいし、息が合ってる。羨ましいなぁ。 あぁ…なんで育てるのやめたんだろ。でもまぁ、弟が喜んでるからそれでいっか? 終