夕涼みがしたくて
ニホンの夏は暑い！！しかも湿気がすごい！！
突然に失礼しました。私はミキと言います。カントウ地方のヤマブキシシティーに住んでいる中学生です。こっちは相棒でガーディーのタロウ。私が住んでいるヤマブキシティーはコンクリートとアスファルトによってできた街。夜になっても気温が下がらない訳です。いわゆる熱帯夜ってヤツですよ。ですから朝から晩まで、そして寝ている間もクーラーを付けっ放しにしてます。非常に身体に悪いのはわかっています。が、……暑いんだからショウガナイだろー！！（！？）…取り乱してすみません。だって最近親がうるさくて…家に帰ってきて自分の部屋に入った瞬間、むわっとするのが嫌だから、クーラー付けっぱにしてたら怒られちゃった。…当たり前か。
暑い日が続いていたある日、私は突然夕涼みがしたくなった。夕方のニュースの天気予報のコーナーで、「お金を使わない暑さ対策〜！！」みたいなことをやっていたのだ。「どうせ気休めにしかならないだろう」と馬鹿にしながら観ていたが、ふと、あるシーンに目がとまった。
それは昔ながらのニホン家屋の縁側で女性が夕涼みをしているシーン。朝顔の柄の浴衣を着た女性は、水を張った金だらいの中に足を入れ、うちわでパタパタと扇いでいる。そのとなりには…スイカが！！いやいや、スイカが食べたいだけじゃないですよ（汗）食べたいけど…
そして何よりも私の心を引き付けたもの。それは……
…チリーーン…
風鈴〜♪テレビのスピーカーから聴いた音でも、こう…なんていうか…そうそう。心安らぐ音、みたいな？それを実際に聴いてみたくなってしまった訳です。
早速自分の家でやってみることにした。タロウが興味深そうに私の作業を観ている。縁側はウチには無いので、和室の硝子戸を開けてそこで夕涼みをすることにする。浴衣はこの前お祭りの時に着たヤツにしよう。うちわは新聞屋さんからもらった（プロ野球選手の写真がプリントされた）ものを採用。金だらいが無かったので、プラスチックの風呂桶で代用。（スイカは無かった……）
で、肝心の風鈴なのですが……無い。押入を探しても、物置を探しても無かった。タロウに探してもらったが、それでも見つからない。（むしろタロウは風鈴を知っているのか？）仕方なく母に聞いてみたが、
「ウチにそんなもの無いわよ。もしかしたらパパが持っているかもしれないけどね」
って言われちゃった。そんなものとはなんだ！風鈴をなめんなー！！……しかし、パパが持っているかもか……あのガラクタばかりの部屋には確かにありそうだが……無理だ。探す気になれない。
…硝子戸が開け放たれた和室に腰を下ろす。うむむ、どうしたものか。風鈴が無ければ、夕涼みが台無しになってしまう。難しい顔をしている私を見て首を傾げるタロウ。そのうち何処かに行ってしまった。
「この裏切り者め〜」
よし、いっそのこと作ってみるか。いや。小学生の頃、図工が（特に工作が）嫌いだった私に風鈴が作れる訳がない。頭を抱えて悩んでいる私。そこへ、
「わんっ！」
とタロウが私を呼んだ。一瞬頭にきて怒鳴ろうとしたが、タロウの前に落ちている物が気になって怒鳴れなかった。その落ちていた物とは…アルバムだった。タロウは器用にアルバムを捲りだした。そしてあるページでめくるのをやめ、ぽんっと一つの写真を指（？）差した。その写真は父の実家で撮ったものだった。父はホウエン地方という、カントウ地方からかなり離れた場所で生まれ育った。その父の実家は昔ながらのニホン家屋で縁側もあった。ってことは……
「あっ！あった！」
写真の隅っこに風鈴発見！！でかしたぞタロウ！てか、よく見つけたなぁ。
てなわけで、早速婆ちゃんに手紙を書いた。
婆ちゃんへ
夕涼みがしたいので、風鈴を送ってください。
ミキより
単刀直入。シンプルイズベスト。多少の失礼は気にしない気にしない。
次の日、タロウの散歩の時にポストに投函。さぁ、早く風鈴来ないかな〜と期待で胸いっぱいの私。今日も気温が三十度を越えているけど、期待の方が強くて暑さが気になりません。
そして待つこと一週間。私がプールから帰って来ると玄関に小包みが置いてあった。送り先の欄をみると…おっ！私じゃん！やっと来たかー。なんか時間がすごくかかってますが、気にしない。なんて言ったって風鈴が着たんですからーー！！
私は小包みを和室まで持って行って腰を下ろした。小包みを置いて眺めてみる。意味はないけど。すると、トテテテ…とタロウが近づいてきた。タロウは小包みの周りをぐるっと回って、匂いを嗅いで…首を傾げる。
「ん？どうしたタロウ。風鈴の匂いが変か？」
「くぅん…」
「もしかして風鈴が臭かったか？」
とか言いながら小包みを開けた。するとそこには…
「……モンスターボール？」
そう。衝撃を和らげるぷちぷちに包まれたモンスターボールが一つ入っていた。最初はモンスターボール型の風鈴かと思ったが、取り出してみると紛れもなくモンスターボール。更に小包みの中に手紙が入っていた。
ミキへ
風鈴が無かったから代わりに送ります。
婆ちゃんより
わぁ…さすが私の婆ちゃん。単刀直入。単純明快。…それより、なぜにポケモン？まぁ、出せばわかるか。
「よし。出てこいや〜」
モンスターボールを投げる。
ぽんっ
「え！？」
「わぅん！？」
私とタロウは驚いた。モンスターボールの中から出てきたのが
「風鈴？」
なんだもん。しかも
「でかっ！！」
なんと縦の長さがが六十センチくらい。
「でも浮いてるし目も口も付いてるし…」
これがポケモンなのか最新型の風鈴なのか考え、普通に考えてポケモンか…と一人で納得していると、
「どうした？」
「あ、パパ」
何を隠そう私の父上が隣の部屋から現れた。
「お？なんでチリーンがウチにいるんだ？ミキのか？」
「チリーン？この子のこと？」
「うん。これは風鈴ポケモン、チリーン。チリーンはね、ホウエン地方に生息するポケモンでカントウ地方にはいないんだよ」
なるほど。カントウ地方に生息していないんだから見たことがない訳だ。しかし、一つ気になることが…
「ねぇ、見た目風鈴だけど、この子鳴かないよ？」
「鳴かない？そんなはずないんだけど……もしかして淋しいんじゃないか？」
「淋しい？」
「住み慣れた土地とか仲間から離れて淋しいんだよ。ほら、ホームシックってヤツ？」
「あ〜なるほど。じゃあ、どうすればいいの？」
「ん〜。そうだなぁ…あ、ちょっと待ってて」
と言ってパパは部屋を飛び出した。たぶん自分の部屋に行ったのだろう。パパは困ったとき自分の部屋からガラクタを持ってくる。これがまた役に立つんだ。（まるで○次元ポケット）さぁ、今回はいったいどんなガラクタがでてくるのか…
パパを待っている間、タロウがチリーンにしきりに話し掛けている。が、チリーンは見向きもしない。相当淋しいのだろう。と、少し経ってからパパが戻ってきた。そして戻ってくるなり、
「チリーンのホームシック解消法はこれだ！」
と言って右手を突き出した。そのパパの右手にあったのは…
…チリーーン…
「風鈴？…ってパパ風鈴持ってたの！？」
「おう」
「おう、じゃない！」
とパパに突っ込みを入れていたら、
…チリーーン？…
と、風鈴が鳴った。ん？なんで疑問符？もしかして…
「チリーンが鳴いた？」
風鈴の音に反応して、チリーンが鳴いたらしい。
…チリーーン…
「…チリーン♪」
「わんわんっ！」
「お、元気になったな」
チリーンもタロウもパパもご機嫌。チリーンは「チリーン♪チリーン♪」と鳴きながら和室の中を飛び回る。それを追っかけ回すタロウ。さっきのローテンションは何処にいったのやら…でも…
「元気になって良かったね、チリーン？」
「チリーーン♪」
…この日から我が家には、風鈴ポケモンのチリーンが仲間入りし、毎年夏の時期には風鈴が下げられることになりました。
…あ、そうそう。あの後、目的だった夕涼みをやったんだよ。すごく楽しかった。パパにねだってスイカも食べられたしね（笑）
…チリーーン…
終