その話はまるで絵本のごとく あるところに、はちみつ色の髪をしたとてもかわいらしい女の子がいました。 その女の子は明るく、優しく、そしてとても素敵な笑顔をする女の子でした。 その女の子はポケモンのことが大好きで、ポケモンもその女の子が大好きでした。 けれど、女の子にはポケモンよりも大好きな男の子がいました。 その男の子は女の子と正反対の子でした。 孤独を愛し、自分にも他人にも厳しく、そして…あまり笑いませんでした。 いつもむすっとした顔をしていました。 けれど、女の子はそんな男の子のことが大好きになってしまったのです。 女の子は悩みました。  自分はかわいくないし、スタイルだってよくない。  だからあの人に好きになってもらえるわけない…。 そんなことないんですよ? 女の子はとってもかわいいんですよ? ただ…ちょっと自分に自信が持てなかったんです。 だからそんな悲しいことを考えてしまったんですね。 女の子は思いました。  好きになってくれなくてもいい。  ただあの人のそばにいたい。 女の子は毎日毎日男の子に会いに行きました。 幸いなことに会いに行く口実は会ったのです。 男の子は凄腕のポケモントレーナーで、女の子は駆け出しのポケモントレーナー。 そう。 女の子は強くなりたいから、と男の子に弟子入りを願い、男の子もそれに了承したのです。 その日から……女の子にとって楽しく、辛い毎日が始まったのです。 大好きな男の子と一緒なのにどうして辛いのか不思議ですか? 考えて御覧なさい。 男の子は女の子が強くなりたがっていると思っています。 けれど女の子は(確かに少しは強くなりたいと思っているけれど)男の子といたいんです。 女の子は男の子をだましているんですよ? まあ…だましている、というのは大げさでしょう。 恋する乙女のかわいい嘘、と微笑んでくれる人もいるでしょう。 でもね、その女の子はとっても純粋だったんです。 だから男の子に、大好きな人に嘘をついていることに耐えられなかったんです。 悩んで。 悩んで悩んで。 悩んで悩んで悩んで。 いっぱいいっぱい悩んで。 ついに女の子は決心しました。 何も言わずに男の子の元から去ることにしたのです。 男の子に嘘をついている罪の意識だけではありません。 もし、男の子に好きな人ができてしまったら。 もし、男の子に恋人ができてしまったら。 自分でない誰かにやさしく微笑みかける男の子を女の子は見たくなかったんです。 だから…女の子は旅に出ることにしました。 そんな女の子の元に友達が訪ねてきました。 その友達はとてもきれいな年上のお姉さんで、大変仲がいいお友達です。 旅の準備をしている女の子を見てお友達は驚きました。 なぜなら友達は女の子の男の子への気持ちを知っていたからなのです。 お友達は女の子に理由を訪ねました。 女の子はなかなかその理由を話そうとはしませんでしたが、お友達は女の子が話してくれるのを待ちました。 やがてようやく話してくれた内容を聞いてお友達はそっと微笑んだのです。 そして女の子に言いました。  あなたは大切なことに気づいていない。  男の子もきっとあなたのことが大好きなのに。 その言葉に女の子は大変驚きました。 けれど、お友達にとっては何を今更…というような当たり前のことなんです。 だってそうでしょう? 思い出してください。 孤独を愛し、自分にも他人にも厳しく、あまり笑わない男の子。 そんな男の子なのに……女の子にはやさしい笑顔を見せる。 男の子が女の子のことを好きだというこれ以上の理由があるでしょうか? お友達は女の子の背をそっと押してあげました。 女の子が一歩を踏み出すために。 そして…… 女の子は走っていきました。 どこへ走っていったかは……まあ、言うまでもありませんね。 まして、この不器用な女の子と男の子がどうなったかなんて…ね。 おしまい 少年はゆっくりと絵本を閉じる。 「…どう?」 「どうって……いい話だけど…」 「だけど?」 「話の中に出てきた「とてもきれいな年上のお姉さん」って表現はNGだな」 「…」 「正しくはおせっかいな高飛車おん――」  ゴスッ!! 「はうっ!!」 少女は本のかどで少年のこめかみを強撃! 「か、かどはやめれ…」 「うっさい!あんたがあたしの事をどう思ってるかよーくわかったわ!!」 「お、おちつけ!軽い冗談じゃないか!」 「重いわよ!!」 本で少年をばっしんばっしん叩いていると、  ピンポーン 玄関の呼び鈴が鳴る。 少年と少女は顔を見合わせる。 「来たみたいだな」 「ええ。絵本の中から二人が出てきたわ」 おどけた様子で本を振り、笑顔を浮かべる。 「なら作者が迎えに行かないとな」 「そうね」 笑顔の少年に送られて少女は玄関へと向かい、ドアを開ける。 そこには素敵な笑顔をした女の子と、むすっとした男の子が仲良く、手をつないで立っていました。 おわり