あなたの誕生日に贈りものを イエローちゃんはマサラタウンのブルーさんと仲良しです。 だからよくお茶をしながらお話もします。 そして今日も今日とてブルーさんの家でお喋りをしていたのですが…… 「…そーいえば明後日はグリーンの誕生日よね」 「ええっ!!?」 何気なくさらりと言われた言葉にイエローちゃんは飛びあがって驚きました。 イエローちゃんほどではないのですが、ブルーさんはイエローちゃんの反応に驚きます。 「「ええっ!?」って…知らなかったの!?」 「はい…」 「なんで…あんたら付き合ってるんじゃなかったの?」 しゅんとしてしまったイエローちゃんにブルーさんがそう尋ねると、 イエローちゃんは 「……一応…」 真っ赤になりながら辛うじてそう言います。 「じゃあなんでグリーンの誕生日を知らないわけ?」 「……グリーンさん、あまり自分の事を話してくれませんから」 「まあ…確かにね」 俯き加減で話すイエローちゃんを見てブルーさんの中にふつふつと怒りが込み上げてきます。 「まったくグリーンったら!イエローの事をなんだと思ってるのよ!!」 「……妹、でしょうか?」 「!!?」 その言葉にはっとしてブルーさんはイエローちゃんを見ます。 イエローちゃんは笑っていました。 けれどその笑顔は切なく、哀しい笑顔。 「でも…僕妹でもいいんです。ひょっとしたら、いつか本当に恋人になれるかもしれませんから」 「っ!!」 イエローちゃんの言葉にやりきれなくなり、ブルーさんはたちあがって受話器に向かいます。 「ブルーさん?」 「シメてやるわ…」 「えっ!?」 「グリーンのやつをシメてやるのよ!!イエローにこんな思いさせたりして…許せない!!」 「!?」 「っていってもあたしじゃ無理だからもちろんレッドにやらせるけどね!!……あ、もしもし、レッド?」 「ブルーさん!!」 イエローちゃんは慌てて電話に飛びつき切ってしまいます。 「あっ!」 「ブルーさん、お願いですから止めてください!僕は今の関係で満足しているんです!」 「だ、だって…」 何事か言い返そうとしたブルーさんでしたがイエローちゃんの真剣な表情を見て 何も言えなくなってしまいます。 そのかわりに分かった事が一つありました。 イエローちゃんが、ほんと、ほんとーにグリーンの事が好きだということ。 ブルーさんはため息をつきます。 「…わかったわ。グリーンをシメるのは止めにするわ」 「ありがとうございます」 にっこりと、満面の笑みを浮かべるイエローちゃんを見て、ブルーさんの胸が痛みます。 何とか力になってあげたいと、心の底からそう思いました。 「…ねえ」 「はい?なんですか?」 「イエローはグリーンに何かプレゼントするの?」 「あ、はい…何がいいでしょうね?」 「それは自分で考えないと」 「そうですね」 ふわっと、見る者の心を暖かくしてくれる笑顔を浮かべるイエローちゃんを見て、 ブルーさんは決心しました。 「ねえイエロー、あたし思いついたんだけどね…」 多少のリスクを負ってでも、イエローちゃんの力になる、と。 二日後、グリーンの誕生日。 グリーンは不機嫌だった。 何故か? その原因はただ一つ……女の子達。 朝も早くからグリーンに誕生日プレゼントを渡すなどと言って家の周りを取り囲んでいるのだ。 おかげで表に出るどころかカーテンを明ける事すらままならない。 それは昼食を食べ終わった今も変わらない。 「はぁ〜……」 本日いくどめかのため息をつく。 「かなり参ってるみたいね」 「…まあな」 声をかけてきた姉に短く返答する。 「まあ、無理もないわね……プレゼントを受け取る気ないの?」 「ない。見知らぬ人間から受け取る理由がない」 「あらあら……まあ、今日1日だけ我慢なさい」 「……」 不意にピンポーンと、呼び鈴がなる。 「またか…」 「みたいね」 二人そろって顔をしかめる。 これも朝早くから行われている事。 だか…今回は少しばかり違った。 呼び鈴の音に混じり、玄関の方から声が聞こえる。 「グリーン!グリーン!!開けてくれぇ!!頼む!あ、こら!俺にプレゼントを渡したって 意味ないって!グリーンには渡さないからな!!おーい!グリーン!!開けてくれ―!! うわっ!よせっての!おい、ちょっと!!グ、グリ−ン!助けてくれ―!!」 「……レッド?」 「あらあら…たいへんたいへん」 姉が慌てて玄関へと向かうのを見送りながらグリーンは内心疑問に思う。 「レッドのやつ……何しに来たんだ?」 などと考えている間に、ぼろぼろになったレッドがリビングに入ってきた。 「あ〜怖かった〜…あいつら尋常じゃないぜ、どう考えても。グリーン、表に出るなよ」 「言われるまでもない……で、何しに来た?」 「おいおい、それが苦労して訪ねてきた親友に言う言葉かよ?」 「来てくれと頼んだ覚えはない」 ばっさり切り捨てるグリーンにレッドは苦笑する。 「やれやれ……イエローもこんな奴のどこがいいんだか。ま、いいや。ほい、プレゼント」 「……」 レッドの差し出す封筒をグリーンは無言で受け取る。 「なんだよ、ありがとうもなしかよ?」 「…プレゼントをくれと頼んだ覚えはない」 「けっ!やな奴。まあお前らしいっちゃお前らしいけどな。とりあえず開けろよ、それ」 レッドにうながされ、グリーンは封筒の封を切る。 中から紙切れが二枚出てきた。 両方とも見覚えのある筆跡で短い文が書かれていた。 その内容を理解し、グリーンの顔色がサッと変わる。 レッドは真剣な顔でグリーンに問う。 「……で、どうする?」 「……」 「とりあえず第一の障害は表の女の子達だな」 「……」 「……」 「……」 レッドはグリーンを見つめたまま、グリーンは手の中の紙を見つめたまま一言も発しない。 しばらく静かな時間が流れたのだが…やがて、グリーンが立ちあがり、レッドの肩に両手を置く。 「……やな予感」 「多分当たりだ、その予感」 「…まじっすか?」 「……」 グリーンは何も言わないが、その目が雄弁に語る。 レッドの顔がかつてないほどに引きつった。 それからしばらくして、グリーンの家の裏口から人目を避けるようにして人影が出てきたのだが… 家の周りを取り囲んだ少女達に早々に発見され、追われる事になる。 その5分後、誰もいなくなった玄関からグリーンは悠々と表に出る事ができた。 囮となったレッドの身の上をほんの少し…ほんの少しだけ案じたが…ほんとに少しだけ。 グリーンは手の中の紙切れを握り締め、駆け出した。 その姿を遥か遠方より眺める人影が一つ。 「ふ〜ん…第一関門は突破、か。じゃあこれはどうかしら」 人影は手に持った携帯を操作した。 グリーンはある場所目指して走りつづける。 それほど離れた場所ではないのですぐに着けると思ったのだが… 手に手にプレゼントを持った女子達が行く手に立ちはだかる。 「きゃー!グリーン様ー!!」 「本当におみえになったわぁー!」 「受け取ってくださーい!!」 襲いかかる(?)少女達をまくため、グリーンは180度ターンする。 目的地に彼女達を連れていくわけには行かない。 連れて行きたくない。 グリーンは全力で走り続けた。 余談ではあるが、ちょうどこの頃。 囮としてグリーンの自宅周辺の女の子を引きつれていたレッドは捕まってしまい、 怒り狂った女の子達に袋叩きにされていた…………むごい。 トキワの森の、大きな木の下で………イエローちゃんは…ずっと待っていました。 大好きな人の到着をずっと待っていました。 もう辺りは真っ暗です。 普通ならお家の人が心配しそうですが、その心配はありません。 今日はブルーさんの家にお泊りをしている事になっているんです。 だから…ずーっと待っているんです。 ひょっとしたら来てくれないかもしれない人のことを。 「グリーンさん……」 不安になって大好きな人の名前をポツリとつぶやきます。 「グリーンさん…」 何度も何度もつぶやきます。 「グリーンさん…」 「グリーンさん…」 「グリーンさん…」 「グリーンさん…」 「グリーンさん…」 「グリーンさん…」 けれど。 何度呼んでも、どれだけ思いを込めても、返事は返ってきません。 哀しくて涙が滲みます。 それでも、呼びつづけます。 大好きな人の名を。 「グリーンさん…」 「なんだ?」 「…」 幻聴だと、イエローちゃんは思いました。 幻だと、あまりに思いが強すぎて、そのせいでこんな声が聞こえてきたのだと。 けれど、ひょっとしたらと思って、もう一度だけ名を呼びます。 「グリーンさん?」 「だからなんだ?」 再び返事が返ってきました。 幻聴ではありません。 そこに大好きな人がいるんです。 「グリーンさん!!!!」 イエローちゃんは目の前の人物に飛びつきました。 グリーンはよろけながらもイエローちゃんを受け止めます。 「すまない…待たせたな」 「そんな!僕が無理に呼び出したんですから…それに、まだグリーンさんの誕生日は終わってませんから」 「…そうか」 グリーンは時計を確認しました。  23:30。 確かに、まだ彼の誕生日です。 「あの…これ、プレゼントです」 イエローちゃんは真っ赤になってグリーンにラッピングされた箱を差し出しました。 「開けていいか?」 「はい、どうぞ」 「…」 不安そうなイエローちゃんを視界の端に捕らえながらグリーンは箱を開けます。 中には靴が入っていました。 「気に入ってもらえるといいんですが…あ、一応サイズは合ってると思います」 「そのようだな」 サイズを確認してからグリーンは靴をはきました。 ぴったりです。 まるでグリーンのために誂(あつらえ)られた物かのように 「イエロー」 「は、はい!?」 「…ありがとう」 滅多に笑顔を見せないグリーン。 そのグリーンに笑顔でお礼を言われ、イエローちゃんは照れてしまいました。 「イエロー」 「はい?」 真っ赤になって俯き、もじもじしていたイエローちゃん。 けれどグリーンに名を呼ばれ、真っ赤なままの顔を上げると目の前すぐそこにグリーンの顔。 しかもそのグリーンの顔がだんだんと近づいて来て……そして。 「!!!?」 「……」 唇と唇が触れ合いました。 イエローちゃんは真っ赤。 グリーンは顔を赤く染めながらも、イエローちゃんをそっと抱きしめました。 「…妹じゃ……ない」 「!!? どうして…?」 ブルーにだけ話した自分の中にある不安。 恋人ではなく、妹として移っているのではないかという不安を否定され、イエローちゃんは驚きました。 「レッドが持ってきた封筒に…手紙が…入ってた…一枚はお前から。もう一枚は…ブルーから…」 「ブルーさんから……」 「すまなかった……俺が何も言わないから、不安だったんだな」 「そんな!グリーンさんは悪くありません!!僕が…僕が勝手に…」 イエローちゃんはグリーンは悪くないと熱弁します。 そんなイエローちゃんの様子を見て、グリーンは嬉しそうに微笑みました。 「イエロー、よく聞け」 「はい」 「お前は…俺の最高のパートナーだ」 「……は…い」 溢れ出した涙のせいで、イエローちゃんの言葉はほとんど言葉になっていませんでした。 けれど、それでよかったんです。 グリーンにはちゃーんと伝わったんですから。 想いを伝えるのに言葉はいりません。 けれど……口は必要みたいですね。 もう一度、二人の唇と唇がそっと合わさりました。 おしまい。 おまけ グリーンとイエローの近くの繁みに潜む人影二つ。 「…グット!うまくいったわ!」 「ひょうか(そうか)……」 「まったくグリーンったら…イエローを悲しませるなんて何考えてるのかしらね」 「ふんふん(うんうん)。まははひつへれはははらは(まああいつ照れ屋だからな)」 「…聞き取りづらいわよ、しっかり喋ってよレッド!」 「ふひゃひふは(無茶言うな)。 はほははんへんひひっひゃっへふんははら(顎が完全にイっちゃってるんだからな)」 レッドは囮をやらされたためグリーンファンの女の子に半殺しの目に会わされて全治2ヶ月の重傷。 む、むごすぎる。 「はっはほふはひはふはふひっははらほひほふるは(まっあの二人がうまく行ったからよしとするか)」 「そーいうこと。ご褒美に怪我が治ったらデートしてあげるわね」 「ほひゃふへひひへぇ(そりゃ嬉しいねぇ)」