「……そっちのシルバーのリングを……プレゼント用に包んでくれ」 それは…その一言からはじまった。 どこにでもありそうな風景だった。 町のふつーの雑貨屋で一人の少年が買い物をしている…ただそれだけ。 違ったのは、少年があのオーキド博士の孫であるということ。 淑女の皆様方に絶大な人気を誇っているということ。 彼の買った品物が明らかに女性への贈り物であるということ。 そして、それを目撃した彼の熱烈なファンがいたということ。 「グリーン様が女性へのプレゼントを購入!!!!」 その事実はインターネットのグリーンファンクラブ(当然非公認)ホームページから あっという間にグリーン大好きっ娘の皆様方に広まってしまった。 彼女達の興味の先はただ一つ。 彼――グリーン――のプレゼントの行方は一体どこなのか? その日から…少女達のグリーン観察が始まった。 あなたに贈りものを 〜ってこれってひょっとしてあれですか!!?編〜 「…すごい事になってるわね」 「……そうですね」 そう言ってブルーとイエローは苦笑する。 ここはブルーの家。 リビングのパソコンの前で二人はとあるホームページを見ていた。 ブルーはため息をつく。 「しっかし…人気者も辛いわね。自分の行動を観察されるなんて…」 「そうですね」 「…」 ブルーはにこにこと笑みを浮かべているイエローをジト目で見る。 「なに笑ってるのよ?」 「だって…それだけグリーンさんがかっこいいってことじゃないですか。嬉しいです」 「…なるほど。それが彼女の余裕ってわけ?」 「そんな…僕彼女なんかじゃないですよ…」 そう言って口では否定するイエローだが…にこやかな笑顔。 惚気(のろけ)られているとしか思えない。 「…ま、いいんだけどね」 やれやれと肩をすくめて見せるブルーだが…彼女は独り身。 彼氏いない歴=自分の年齢な女の子。 余裕たっぷり幸せいっぱいのイエローを見てちょっとムカツク。 いや、ムカツクというと語弊(ごへい)がある。 悪戯心が芽生える。 「けど…だったら、グリーンは誰にプレゼント渡すのかしら?」 「えっ!?」 ブルーの言葉にイエローは目を見開く。 「だって彼女じゃないんでしょ?だったら誰に渡すのかしらね?」 「そ、それは…」 「意外にあたし――」 だったりして……ブルーがそう言おうとした瞬間、玄関の呼び鈴がなる。 「?? 誰かしら?」 「レッドさんじゃないですか?」 「あいつ今ジョウトにいるから違うわよ」 首をかしげながらブルーと、何故かイエローが玄関へと向い、戸を開ける。 そこには予想外の人物の姿。 「グリーン!?」 「グリーンさん!!??」 つい先ほどまで話題に上っていた少年の姿。 「どうしたの?イエローになんか用?」 「いや……」 グリーンは首を振り、懐から綺麗にラッピングされた袋を取り出し、ブルーに差し出す。 「え、これ…?」 「お前にだ」 「「!!??」」 そう言い放ったグリーンにイエローもブルーも驚く。 もっとも驚きの種類はまったく違うのだが…。 そして… 「っ!!」 ショックだったのだろうか? イエローは、グリーンの脇をすりぬけて走り去ってしまう。 グリーンは無言でその後ろ姿を見送った後、再び視線をブルーへとむける。 一方のブルーは予想外の出来事に思考が半ば停止していた。 (グリーンが、私にプレゼント?) ブルーの頭の中にいろいろなことが思い浮かんだ。 鮎の友釣り、ルアーフィッシング、メタモンとのバトルで最初に使ったレベル5のマダツボミ… 「……ああっ!!」 グリーンのやりたかった事に気づき、ブルーは声を上げる。 「あんたまさか!!」 「……」 ブルーの問いになにも答えず、グリーンは踵を返し、その場から立ち去る。 グリーンのその行動がブルーの考えが正しい事をなにより物語っていた。 ブルーは天を仰ぎ 「…やられた」 一言つぶやいて大きなため息をついた。 パシャパシャと先ほどから響いているシャッター音を聞きながら。 イエローはトキワの森の中にいた。 常人なら迷い、さまよう事になる深い森の中も彼女にとっては庭も同然。 そして、彼にとっても。 「…やっと見つけた」 グリーン。 イエローがトキワの森にいるだろうと思い探していた彼は彼女を見つけてホッとため息をつくが、 すぐに眉をひそめる。 イエローは座りこみ、立てた膝に顔を埋めている。 「イエロー?」 確認するかのように声をかけるが…反応はない。 あるいは、反応したくないのだろうか? 「…泣いてるのか?………それとも、怒ってるのか?」 グリーンにしては珍しい事に、極めて珍しい事に、恐る恐ると言った様子で声をかける。 「ブルーにプレゼントを渡した事か?あれは…その…本意ではなくてだな。その…」 「……」 「だから…なんて言えばいいのか…」 「……」 何を言っても反応のないイエローにさすがにグリーンも不安を覚える。 彼女の肩にそっと、手を置く。 「…イエロー」 「はい」 「…」 いつも通りの笑顔を彼女に向けられ…グリーンは固まった。 「? 固まったりしてどうしたんですか?グリーンさん?」 「いや…怒ってたんじゃ…」 「怒ってなんかいませんよ。もちろん泣いてもいませんよ」 「じゃあ何で…」 グリーンの疑問にイエローは口を尖らせる。 「グリーンさん何も言ってくれませんでしたから。だから僕もそうしたまでです」 「……」 「ブルーさんにプレゼント渡して…僕ビックリしたんですよ?」 「しかし、あれは…」 「分かってます。ブルーさんを囮にしたんですよね?」 そう。 グリーンとてバカではない。 自分が監視されている事には気づいていた。 だから、もしもイエローにプレゼントを渡した事がばれたら イエローが他の女の子から反感を買わないかと危惧したのだ。 だから…ブルーを囮にした。 ブルーをグリーンの想い人だとファンの女の子達に思い込ませたのだ。 「酷いですよグリーンさん!ブルーさんが迷惑するじゃないですか!」 「お前に迷惑をかけるより千倍マシだ」 ブルーには悪いと思うのだが、グリーンの言葉にイエローは笑みを浮かべてしまう。 他者を犠牲にしてでも自分の事を守ってくれる。 つまり、それだけグリーンに大事にされ、思われているという事実に。 「それに…奴にはレッドがいる」 「そうですね。レッドさんなら何とかしてくれますね」 「ああ…」 グリーンは頷いて、懐に手を入れる。 取り出したのは、ラッピングも何もされていないシルバーのリング。 「手…出せ」 「はい」 差し出すイエローの左手の薬指。 そこにリングをはめる。 「…ぴったりです」 「当たり前だ」 ぶっきらぼうなグリーンの言葉。 けれど…暖かい。 イエローはグリーンの胸に飛び込む。 グリーンは驚いたようではあったけれど、そっと背に手を回してくれた。 「…ありがとうございます。大切にしますね」 「その必要はない」 「え??」 「いつか…もっと豪華な奴を買ってやる」 イエローは大きく目を見開き、 「…はい。楽しみにしてます」 そう言って、再びぎゅっとグリーンに抱きついた。 グリーンの言葉にどんな意味があるのか? どう解釈をしていいのか? それはわからなかったけれど、だからこそ、イエローは願った。 願わくば、自分の望み通りの答えでありますように……と。 おわり おまけ 悲しいというか予想通りというか。 ブルーの家には不幸の手紙やら無言電話、カミソリレターなどが大量に届くようになった。 「…えらいことになったな」 「ええ。えらいことになったわよ」 「…ブルー」 「何レッド?」 「今度グリーンにおごらせよう」 「当然ね」