シリーズ・ケンカ ふぉー ケンカする。 そりゃかまわねえさ。 ああ、好きなだけケンカしろってんだ!べらんめぇ!! 問題はその後! どうやって仲直りするかが問題なのさね!! ちなみにこの二人の場合は…… 今日も今日とて旅を続けるサトシ達仲良し三人組み。 そして… 「だからどーしてあんたはそう――」 「うっさいなぁー!!お前こそ――」 「はぁ…」 「ぴーかー…」 今日も今日とてケンカに明け暮れるサトシとカスミ。 まったく…仲がいいのか悪いのか。 「まあケンカするほど仲が良いって言うし、仲良いんじゃないのか?」 そうですかねぇタケシ君。 「ま、ほんとに仲が悪けりゃ一緒に旅なんかしてないって」 ごもっとも。 とはいえ、あなたも毎度毎度大変ですなぁ。 「ま、なれたよ。さて、そろそろ止めるかな。まあすぐに仲直りとはいかないだろうけどな」 ご苦労様です。 タケシの仲裁もあり、とりあえず言い争い状態からは脱した二人。 その後みょーな緊張状態を維持しながらもとりあえず歩き続け、 何とか宿泊予定の小さな町に到着する事ができました。 「まったく…何でサトシってばあ―なのかしら!」 カスミはぶつぶつ言いながら暗くなった町を歩きます。 トゲピーと荷物はポケモンセンターにあり、今のカスミはかなり身軽。 歩く速度もかなり速いです。 「だいたい、サトシには優しさが足りないのよ。いっつもポケモンの事ばっかり考えてて…」 ぷんぷんと怒ります。 なかなか怒りが収まりそうもありません。 けれど…怒りはすぐに収まってしまいました。 「はぁ…なんか怒ってたらお腹すいちゃった。なんか食べよっと!」 おやおやカスミさん、夕食前に間食ですか? なんて作者の突っ込みも無視してカスミはコンビニでも無いかと辺りを見まわしました。 程なくコンビニを発見したのですが… 「…あれ?あの子…」 コンビニの傍に気になる子供を発見しました。 小さい、まだ5、6歳の女の子。 もうあたりは暗くなっています。 それなのに女の子は一人でそこにいました。 カスミはすぐに女の子に駆け寄りました。 「どうしたの?道に迷っちゃった?」 カスミの声にも女の子は反応しません。 女の子は顔を押さえ泣いています。 よく見れば膝小僧と手のひら、それに肘をすりむいています。 「そっか、ころんじゃったんだ」 カスミはハンカチを取り出して汚れてしまった服と傷を丁寧に拭ってあげました。 「大丈夫?まだ他にどこか痛いところある?」 女の子は無言で首を振ります。 「じゃあもう泣かないで?ね?」 けれど女の子は泣きやみません。 どうやら泣いている原因は他にもあるようです。 「……ねえ、お名前言えるかな?」 「…(こくり)」 「じゃあお姉ちゃんに教えてくれるかな?」 「…みーちゃん」 小さな声で答えてくれた女の子にカスミは微笑みます。 「そう、みーちゃんって言うんだ。ねえみーちゃん、まだどこか痛い?」 「ううん…」 「じゃあもう泣かないでもいいよね?」 「うぅ〜〜〜……」 カスミは優しく声をかけるのですが、みーちゃんは再び涙ぐんでしまいます。 「ああ、泣かないでみーちゃん」 「だって……だって……みーちゃん……」 「うん、どうしたの?」 「みーちゃんね…ままにいわれてね……にゅーにゅーかいにきたの…」 「にゅーにゅー?………ああ、牛乳ね」 「けどね……けどね……みーちゃんころんじゃったの………」 「そっか…」 「みーちゃんね、ころんでもなかなかったんだよ!おててすっごくいたかったけどなかなかったんだよ!」 「そっか。みーちゃん強いんだ」 カスミは微笑んでみーちゃんの頭を撫でてやるのだが…みーちゃんの顔に笑顔は戻らない。 「でもね…どっかいっちゃったの」 「え?」 「おかね…ままからもらったにゅーにゅーかうおかね、どっかいっちゃった……」 そこまで話すと、みーちゃんは再び声を上げて泣き出してしまった。 「ああん、泣かないでみーちゃん。探せばきっと見つかるから。ね?お姉ちゃんと一緒にさがそ?」 「おねえちゃんも……ひっく……さがしてくれゆ?」 「うん!いっしょにさがそ」 そんなわけで、みーちゃんと一緒に地面にはいつくばって落としたお金を探す事になったのだが… あたりは薄暗く、街灯もあたりには無い。 どのあたりに落ちているのか、正確な場所もわからない。 つまり、極めて困難な作業。 それでも、諦めるわけにわけにはいかなかった。 「無いなぁ……」 カスミは必死になってお金を探す。 地面に膝をつき、通りすぎる人に奇異の目で見られるが、必死になって探しました。 「ないよぉ……どこぉ…」 みーちゃんの不安そうな声が聞こえてきます。 激しい焦燥感。 必死になって探します。 と、 「カスミ?」 声をかけられ、地面から視線を上げる。 そこにはつい先ほどまでケンカしていたサトシの姿。 「なにやってんだ?はいつくばって?」 「実は……」 しかし、今はケンカどころではありません。 カスミはサトシにこれまでの経緯(いきさつ)を簡単に話しました。 「なるほど…」 「だからサトシも手伝って」 「ああ」 サトシはみーちゃんに近寄り、みーちゃんを抱き上げ、優しく話しかけました。 「こんにちはみーちゃん。ころんでお金落としちゃったんだって?」 「うん…にゅーにゅーかうおかね…」 「いくら落としたんだい?」 「ごひゃくえん」 「そっか。大変だったね。でももう大丈夫。お兄ちゃんは探し物が得意なんだ」 そう言ってみーちゃんをカスミに預けます。 「大丈夫、すぐに見つけてあげるから。だから泣いちゃだめだよ」 「うん…」 サトシは地面にはいつくばってお金を探し始めます。 「みーちゃんの五百円やーい。でーておーいでー」 「サトシ…」 サトシは素早い動きであたりを動き回ります。 そして、なにかに気づいた様子ですぐそばの路地に入りました。 「あった!」 「え!?ほんと!?」 「ほら!」 サトシが手に五百円を持って路地から出てきました。 「みーちゃんのおかねだぁ!!」 みーちゃんは大喜びでサトシに駆け寄ります。 サトシはみーちゃんの手に五百円をしっかり握らせます。 「ありがとーおにいちゃん!」 「いいんだよ。ほら、牛乳買うんだろ?そこのコンビニかな?」 「うん!」 「じゃあ一緒にいこう?お兄ちゃん達も買いたいものあるから」 「うん!」 サトシとカスミはみーちゃんと一緒にコンビニで買い物をしました。 「よかったわねみーちゃん、牛乳買えて」 「うん!おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとー!」 「いいのよ。それより、もうころんじゃだめよ?」 「うん!!」 みーちゃんは何度も何度も手を振りながら帰っていきました。 サトシとカスミもみーちゃんに手を振り返します。 みーちゃんの姿が見えなくなって、サトシとカスミはなんとなく居心地が悪くなります。 つい先ほどまでケンカしていたわけですから当然の事です。 先に口を開いたのはサトシでした。 「…オレ達も帰ろうぜ」 「…うん」 ポケモンセンターへと歩き出したのですがお互い妙な距離を保って歩いていました。 しばらく歩くとチャリンと、カスミの靴がなにかを蹴飛ばしました。 なにかと思ってカスミは拾い上げました。 「…五百円玉?」 カスミがそういった瞬間、サトシがぷいっと横を向きました。 そして、カスミははっと気づきました。 同時に頭の中にある映像が思い浮かびました。 お母さんから預かった大切な五百円玉を握り締めて歩いていたみーちゃん。 けれど転んでしまい、五百円玉を手放してしまう。 無常にもその五百円玉はコロコロとかなりの距離を転がり、みーちゃんの元から大きく離れる。 その事に気づかないみーちゃんと、そしてカスミは必死に転んだあたりの地面を探す。 そこにやってきたサトシ。 彼は適当にあたりを探し、何かに気づいた風を装い路地へと入りこみ、自分の財布から五百円を取り出す。 そして…………… 後は御存知のとおり。 「サトシ、これって…」 「ラッキーじゃんカスミ。もらっとけよ」 なぜでしょう? カスミは心の中が暖かくなるのを感じました。 それはきっとサトシの優しさに触れたから。 「ふふっ!」 「…なに笑ってんだよ?」 カスミはサトシの腕に抱きつきました。 するとサトシの顔が赤くなりました。 「な、なんだよいきなり!?」 「べ〜つに〜。ただ、サトシってば優しいなーと思って」 「…何の事だよ?」 知らない風を装って顔をそむけますがその耳は真っ赤です。 彼は基本的に嘘がつけない少年なのです。 カスミはにこにこと笑顔です。 「あーあ、あたしお腹すいちゃった。はやくポケモンセンターにもどろ」 「そうだな。タケシ達も腹減らせてるだろうしな」 「そうそう」 カスミはサトシの手に抱きついたまま笑いました。 サトシも笑いました。 それだけでなんだか……とってもうれしい気分になれました。 ケンカの原因は何だったでしょうか? そんな事はもう忘れてしまいました。 ケンカのせいで彼が優しくないと思ってしまいました。 けれど、そんな事はありませんでした。 いえ、彼が優しい事は分かっていた事でした。 分かっていた事だけれど、改めてその優しさを確認すると…とっても嬉しくなりました。   好きな人が優しいと、嬉しいです。 おわり